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三毛猫ホームズの裁きの日 [日本の作家 赤川次郎]


三毛猫ホームズの裁きの日 (カッパ・ノベルス)

三毛猫ホームズの裁きの日 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: 新書


<カバー裏あらすじ>
凶悪な詐欺事件の裏にひそむ哀しき秘密とは……?
運命を狂わせる難事件に片山&ホームズが挑戦する!
片山たちは目の前で起きた一家心中から浜中美咲という少女を助け出すも、美咲は姿をくらませてしまう。美咲の父は〈B食品〉に勤めていたが、会社の不正を告発した結果、裏切り者として報復を受けていた。その頃、美咲の父を追い込んだ元上司・室田雄作の不倫相手が死体となって発見され、雄作は逃亡を始める。さらに女優の刈谷京香は記憶を失ったという美咲と出会うのだが…。片山とホームズが辿り着く真実とは!?国民的シリーズ第53弾!


三毛猫ホームズシリーズも53冊目ですか...すごいですねぇ。
と前作「三毛猫ホームズの証言台」 (カッパ・ノベルス)(感想ページへのリンクはこちら
「三毛猫ホームズの復活祭」 (カッパノベルス)(感想ページへのリンクはこちら
と同じ書き出しで始めました。
これだけの長大シリーズですから、今後もずっとこの書き出しにしようかな。

今回取り上げられたのは〈偽装事件〉と「内部告発」。
これまた義憤にぴったりのテーマです。

前作「三毛猫ホームズの復活祭」 (カッパノベルス)もそうでしたが、プロットがかなり荒いです。
荒いというか、現実味が薄く感じられてしまいます。

あらすじにもある通り、「美咲の父は〈B食品〉に勤めていたが、会社の不正を告発した結果、裏切り者として報復を受けていた」という内部通報者が社内で虐げられるという事態が扱われています。
実際の世の中で内部告発者が不当な扱いを受ける例は、残念ながらあるのだろうと思います。
しかし、この作品で書かれているような扱いは、あり得ないのでは、と思ってしまいます。

B食品が上場企業なのかどうかは定かではありませんが、大企業のようです。
内部通報者である浜中は干され、子会社のH運送に社長として移されます。
ところがB食品は仕事をH運送に託すのをやめてしまう。浜中は必死に仕事をとってきて持ちこたえてきたが、B食品が仕掛けた罠で、H運送は脱税容疑で取り調べ。帳簿も改ざんされていた。
なんとか浜中は否認を続けたが一か月も留置され、釈放されたときには会社は倒産。
自宅も銀行からの借金の担保になったいたので、自宅も預金も差し押さえられた。(24~25ページ)

冒頭のこの部分だけで首をかしげざるを得ないところ満載です。
大企業が子会社を意図的に倒産させることはないとは言えませんが、内部告発者に復讐するためだけに倒産させるでしょうか? 
また、脱税を仕組むというのは考えられません。子会社の不祥事は、親会社の不祥事でもあるのですから。
B食品の配送を請け負っていたということですから、相当の仕事量が想定され、従業員数も相当数だったはずです(運送業ですから、かなり人手がいる業種です)。浜中に復讐するためだけに、数多くの従業員も巻き添えですか?
さらに、浜中は社長として自宅も銀行借り入れの担保に差し出していた、ということらしいですが、オーナー社長でもない、単なるサラリーマン社長の自宅を担保に取る銀行があるのでしょうか? 
H運送はB食品の仕事しかしていなかった、という設定なので、銀行だって、大企業であるB食品の子会社であるから取引するのであって、単なる被雇用者(社長といえどもこのケースでは被雇用者です)の資産をあてにすることはあり得ないでしょう。
過去の取引経緯もあるでしょうし、H運送から仕事を取り上げてしまったB食品の姿勢そのものを、銀行は問題にしていくはずです。
B食品には、株主責任もあります。
今後のB食品自体の取引関係にも支障が出かねませんので、子会社の倒産は事前に慎重に検討すべきことが多すぎます。
B食品が復讐としてとる選択肢としてあまりにも非現実すぎて白けてしまいます。

殺人事件も発生するのですが、ここも個人的には疑問なんですよね。
経済に端を発する事件で、人、殺しますか?
『××(ここに犯人の名前が入ります。伏字にしておきます)のように「会社の命令なら、人殺しもする」という人間はそう多くないだろう。しかし、××が、日本的な企業風土が生み出したものであるのは確かだ。
 平凡なサラリーマンで一生を終える者が幸せなのかもしれない。誰でも「会社が危くなる」と言われたら、不正に手を染めることはあり得る。
 その不正が、「領収書の偽造」か「殺人」かの違いだけだ。』(267ページ)
いやいや、その違いが大きいのですよ、実際には。
会社のために、人を殺しますか? 殺せますか?
犯人あてゲームのような作風のミステリであれば、ある程度現実味の薄い動機でも気になりませんが、この作風でこれでは困ると思うのです。

これらの部分に目をつぶると(あまりにも大きな部分に目をつぶるので、ほとんど何も見えないに等しいかもしれませんが)いつもながらの赤川次郎節です。
(もっとも指摘した問題点も含めて、最近の赤川次郎らしいといえば赤川次郎らしいのですが)

シリーズ的には、片山刑事の設定が、シリーズから逸脱しているように思えて、疑問を感じました。
女性を見て「可愛い」という感想を抱きます(44ページ)。
たしか、死体恐怖症で、女性恐怖症ではなかったですか、片山は。
女性恐怖症なのに、本人は望んでいないのに、女性に追いかけられてしまう、というのが定番だったと思うのですが。
だから最後に二人の女性に追いかけられるところで、晴美がホームズに
「珍しい光景ね、ホームズ」(269ページ)
と語りかえるシーンも、??? でした。
これこそが、このシリーズの ”常識” ではなかったか、と。(もっとも一人は保険屋さんですけれど)
今後に注目ですね。



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