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ダークルーム [日本の作家 近藤史恵]

ダークルーム (角川文庫)

ダークルーム (角川文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/01/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
シェフの内山が勤める高級フレンチレストランに毎晩ひとりで来店する謎の美女。黙々とコース料理を口に運ぶ姿に、不審に思った内山が問いかけると、女は意外な事実を語り出して…(「マリアージュ」)。立ちはだかる現実に絶望し、窮地に立たされた人間たちが取った異常な行動とは。日常に潜む狂気と、明かされる驚愕の真相。ベストセラー『サクリファイス』の著者が厳選して贈る、謎めく8つのミステリ集。書き下ろし短編収録。


近藤史恵のシリーズ物でない短編集はこれが最初なのかもしれません。
「マリアージュ」
「コワス」
「SWEET BOYS」
「過去の絵」
「水仙の季節」
「窓の下には」
「ダークルーム」
「北緯六十度の恋」
の8編収録で、2012年1月に文庫オリジナルとして刊行されました。
粒ぞろい、と呼んで差し支えない出来の作品が並んでいます!

「マリアージュ」は、高いフレンチ・レストランに通い続ける美女の謎。
ミステリ的に解かれるわけではないのが個人的には少し残念ですが、びっくりしました。
びっくりすると同時に、納得できる話になっているところがすごいですね。

「コワス」は、ジャンル的にはホラーですね。
これ映画化したらものすごーく怖いと思います。

個人的に、「SWEET BOYS」にノックアウトされました。
こんな傑作が読めるとは。
途中まではなんとなく(物語の先行きが)わかったような気がして読んでいたんです。そしてその通りに進んではいくのですが、いやいや、近藤史恵はもっともっと突き抜けていました。
個人的に傑作アンソロジーを編むとすれば、絶対に「SWEET BOYS」は入れます。

「過去の絵」は芸大生を扱っています。
「芸大や美大は、夢を持った若者が集まるところではなく、若者がそこで夢を失うところだ。」(148ページ)という厳しさを味わえます。
ミステリとして見ると仕掛け(?) はわかりやすいのですが、そしてそれが極めて破滅的ではあるのですが、最後に救いが感じられるところがステキです。

「水仙の季節」は、もっともミステリらしい作品になっており、ミステリ的にはありふれた双子という設定を使ってタイトに仕上がっていますが、本書中ではもっとも平凡な仕上がりかもしれません。
でも、読者の想定の範囲内に完全に収まっていたとしても、それが「ぼく」の性格に寄り添っている点ポイント高いと思いました。
出てくる「ハッセルブラッド」(179ページ)というのはカメラメーカーで、ここではその製品をさしているようです。知りませんでした。

「窓の下には」 は女性が子供の頃を回想する話ですが、なるほどねー、と思いました。
これはかなり難しい状況を扱った作品だったということが最後でわかる仕組みになっています。
最後の述懐が印象深いです。

「ダークルーム」はデザイン系の学校に通っていたころの思い出(?) を3年後に振り返っています。
タイトルのダークルームは写真などの暗室を指しており、冒頭の「暗闇でしか明らかにならないこともある」(239ページ)と響きあっています。
突然消えてしまった彼女の心情を考える話になっているのですが、ラストは希望を現しているということで、いいんですよね!?

「北緯六十度の恋」は、主要登場人物は2人プラスαくらいなのですが、複雑な人間関係を扱っています。
極寒のフィンランド・ヘルシンキで、溶けていく心、という構図でしょうか。

充実した読書体験でした!


<蛇足>
最後の「北緯六十度の恋」に
「あからさまに冷たい目を向けられたり、差別されることはなさそうだ」(275ページ)
とあって、あらら...と少し残念に思いました。
無駄な抵抗だとわかってはいるのですが。


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ホテル・ピーベリー [日本の作家 近藤史恵]

ホテル・ピーベリー (双葉文庫)

ホテル・ピーベリー (双葉文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/11/13
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
職を失った木崎淳平は、鬱屈した心を抱えてハワイ島にやってきた。長期滞在型のホテル・ピーベリーは小さいけれど居心地が良く、他に四人の日本人旅行者がいた。だが、ある夜、客の一人が淳平に告げる。「楽しみにしてろよ。今におもしろいものが見られる」不吉な予感の通り、客の一人が溺死し、やがてもう一人――。様々な気候を併せ持つハワイ島の大自然と、人生の夏休みに絡め取られた人々の心の闇。巧緻な筆致で衝撃の真相へと導かれる。一気読み必至の傑作ミステリー。


近藤史恵のこの作品の舞台はハワイ。ハワイ、行ったことありません...
ワイキキのあるオアフ島ではなく、ハワイ島。
ハワイ島には、地球上の十三の気候帯のうち、氷雪気候とツンドラ気候を除く十一の気候帯すべてがあるらしいです(53ページ)。
四国よりずっと小さい島なのにすごいですね。作中でも「寒い」シーンがあちこちにあり、びっくり。
ハワイ島にある、ハワイで二番目に大きい町ヒロから車で20分くらいのところにあるホテル・ピーベリーが主舞台。
ホテル名のピーベリーというのは、コーヒー豆の品種のようです。
普通のコーヒーは、楕円形で内側に黒い線が入っていて、ふたつ一緒に莢に入っているところ、ピーベリーはころりと丸い形をしていて、莢の中に一つしか入っていない(以上113ページから115ページにある説明の要約)。

主人公である木崎の抱える葛藤(?) が、なかなか明かされないのですが(明かされるのは物語も半分過ぎたところ)、わかってみれば個人的にこれはないなぁ、と思える内容で共感できず。ではあったものの、ホテルの女主人(?) と関係を持ってしまってからの成り行きは、うじうじするけれども引き込まれましたし(殊に熱で休んでいる最中に関係を持った後、本当にセックスをしたのかどうか頭を抱えるあたり、身勝手な論理が目に付くのは気になりましたが、妙にリアル感ありました)、そのことも主人公の葛藤に結びついている(ように思われる)ところもさすが近藤史恵、という気がしました。

ミステリ的には、そんなにうまくいくかな、という犯行ですが、舞台設定には合っていると思いましたし、深夜に一人でプールで泳ぎ、「楽しみにしてろよ。きっとおもしろいものが見られる」(42ページ)なんて主人公に言う怪しげな宿泊客(青柳くん)もいい感じ。
ホテル・ピーベリーの変なルール(このホテルに客が泊まれるのは一度だけ。リピーターなし)も、しっかり謎解きに結びついていましたし(若干ネタバレかもしれませんが、ミステリでこういう変な設定をする場合には、謎解きにからめるのは当然のお作法なので、明かしてもよいと思います)、人間関係がそのまま謎解きに結びつく仕上がりはきれいだな、と思いました。

しかし、ホテル・ピーベリーみたいなところがあったとしたら、泊ってみたいか? と訊かれたら、どうでしょうねぇ???

<蛇足1>
「一歩譲って蒲生は事故かもしれない」(168ページ)
と語り手が書いていて、安直に百歩ではなく一歩となっていて日本語きちんとしているなぁ。元小学校教師という設定だからかなぁ、と感心していたら、続けて
「バイクになにか細工したり、彼に催眠薬を飲ませることができれば、事故を装うことは不可能ではない」(同)
とあって、がっかり...
「このカフェは自分の店だから愛着があって、一生懸命接客するが」(186ページ)
なんていうのもありますしね。教育者だったということに幻影を抱いてはいけませんね。

<蛇足2>
文庫カバーの写真、プールに男性が飛び込んでいる瞬間です。
なんで女性じゃないんだよー、と性差別的なことを考えてしまいましたが、たしかに女性が泳ぐシーンもあるものの、印象に残るのは謎めいた宿泊客が夜泳いでるシーンだし、これでいいのですね。
とすると、写真も夜のようですし、写真の男性は青柳くんという設定でしょうか??

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サヴァイヴ [日本の作家 近藤史恵]

サヴァイヴ (新潮文庫)

サヴァイヴ (新潮文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/05/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
団体戦略が勝敗を決する自転車ロードレースにおいて、協調性ゼロの天才ルーキー石尾。ベテラン赤城は彼の才能に嫉妬しながらも、一度は諦めたヨーロッパ進出の夢を彼に託した。その時、石尾が漕ぎ出した前代未聞の戦略とは―(「プロトンの中の孤独」)。エースの孤独、アシストの犠牲、ドーピングと故障への恐怖。『サクリファイス』シリーズに秘められた感涙必至の全六編。


「サクリファイス」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「エデン」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くシリーズで、今回は短編集です。
「老ビプネンの腹の中」
「スピードの果て」
「プロトンの中の孤独」
「レミング」
「ゴールよりももっと遠く」
「トウラーダ」
の6編収録。
ミステリとは言い難いですが、楽しみました!

「老ビプネンの腹の中」の主人公は、白石誓(しらいしちかう)。「エデン」 の主人公でもあります。
ロードレースがチーム競技である認識もない記者から取材を受け、いらいらするところからスタート。
「北の地獄」と呼ばれる過酷なレース、パリ・ルーベが舞台です。
タイトルの老ビプネンというのは、このシリーズに出てくるミッコが披露するフィンランドの神話に出てくる神様。その腹の中に飲み込まれて、そのあと脱出するという話らしいです。
「もちろん、目的はレースで勝つことだ。でもそれは本当の目標じゃない。いちばん大事なのは生き延びることだ。このビプネンの腹の中で。生き延びてそしていつか時がきたらここから脱出する。勝つのはそのための手段だ。」(31ページ)

「スピードの果て」の主人公は伊庭。
チームでのロッカーを探られることが続いたあと、いくつかの出来事が重なりスピードに恐怖感を抱いたエース伊庭。そして迎える世界選手権。
スピードへの恐れをどう克服するか、あるいは克服できないのか、という話ですが、たぶん理解できてはいないものの素人にも雰囲気が伝わってくる臨場感がすごいと思いました。

「プロトンの中の孤独」の主人公は赤城。
スペイン・バスク地方のサン・セバスチャンでアマチュアロード・レースチームで3年過ごし、芽がでないまま、日本へ戻ってきている。
「自分は逃げたことに変わりはなく、そして逃げはじめた人間は逃げ続けなければならないのだ」(105ページ)
と厳しい感慨を抱いています。
そのチームに加わった石尾豪という新人と、チームのエース久米の確執(?) を描いています。この石尾って、「サクリファイス」の石尾ですよね。
チーム内の駆け引き、レースの駆け引きがとても面白い作品です。
「なあ、石尾。俺をツール・ド・フランスへ連れてけ」(135ページ)
という印象的なセリフが登場します。これ、このシリーズでキーとなるセリフですよね。

「レミング」も赤城が主人公で、「プロトンの中の孤独」の後のストーリーです。
石尾がエースになっており、そこへ怪我からエースとしてのレース復帰を目指す安西が絡む。
この作品も、チーム内の駆け引き、レースの駆け引きが結びついています。

「ゴールよりももっと遠く」でも主人公は赤城。
引退した後、指導者(監督補佐)としてチームに戻ってきたという設定。
伊庭と白石が新人としてチームに加わっています。
自転車レース全体をめぐる構図の中でチームが翻弄されます。
「プロトンの中の孤独」で赤城が石尾に言った、「俺をツール・ド・フランスへ連れてけ」というセリフが思い出されるシーンがあります。
「サクリファイス」を読み返さなくちゃ、と思いました。

「トウラーダ」の主人公は白石。
白石はリスボンに移住。同じチーム所属のクレスカスの両親が住む家に居候。
白石は体調を崩し(ポルトガルの闘牛を見たのがきっかけ。タイトルのトウラーダは、ポルトガルの闘牛)、クレスカスがドーピング検査にひっかかる...
白石は復活しますが、苦い後味の作品です。

ミステリではありませんでしたが、シリーズの奥行が広がった作品だなと感じました。
シリーズ次作「キアズマ」 (新潮文庫)にも当然期待します!

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砂漠の悪魔 [日本の作家 近藤史恵]


砂漠の悪魔 (講談社文庫)

砂漠の悪魔 (講談社文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学生の広太は、自らの卑劣な行為が原因で、友人を自殺させてしまう。それをきっかけに、普通の学生生活から一転、悪事に荷担せざるを得なくなる。“バイト”として行かされた中国・北京で、広太は留学生の雅之と出会い、彼と共に中国西部に向かう。おもむいた砂漠で、広太は想像を超える事実に直面する。


近藤史恵のノン・シリーズものですが、とびきりの異色作です。サスペンス的であっても、ミステリではありませんね。
友人・榊原を自殺に追い込んでしまった主人公・広太の転落譚、と簡単に言ってしまえばそういう話ですが、一気読みしました。

主人公は、自分勝手で思い上がっているように設定されていますが、程度の差こそあれ若いころは周りなんて見えていないものだし、思い上がってもおかしくないとも言えますので、ちょっと意地が悪く、ちょっと邪悪なことを思いついただけの普通の青年、とも言えなくもないかな、と思いました。殊に、恋愛をめぐっては残酷になれるもの、とも思います。
(とはいえ、広太が榊原に対してやったことは本当に最低で、その手段となった彼女・桂に対しても最低の行為です)

友人が自殺してしまって、その葬式に行って、そこからの展開が、まさに転がるように悪い方へ、悪い方へ、となります。
ヤクザに目をつけられ、中国への運び屋にされ、抜けようとして脅され、抜けられなくなり...
このヤクザに目をつけられるところの枠組みは無理があるなぁ、普通こういう流れにはならないだろうなぁと思えてなりませんが(だって、自殺に追いやったとはいえ実際に殺したわけではないんですから)、それを過ぎていったん巻き込まれてしまえば、あとは落ちるだけです。
普通のストーリー展開だと、この後はヤクザとどう渡り合っていくか、という話だと予想するところですが(自殺した榊原の父親が暴力団対策課の刑事ということもありますし)、近藤史恵はそういう話にはしません。

帯に
「200ページ目で唖然。300ページ目で呆然、」(←句点、読点、このままです)
とありますが、いや、びっくりの展開です。
キーになるのは、中国で出会った留学生・雅之です。
200ページ目のときは、おっ、そう来たか、と思ったりしたのですが、300ページ目では近藤史恵の胆力に感服しました。
「日本では絶対に見られない景色を見せてやるよ」(290ページ)
と雅之に言われて連れていかれるタクラマカン砂漠。タイトルの砂漠が出てきます。
個人的には最近あれ「砂漠の悪魔」のネタバレになりますので読後にリンク先をご確認ください。あれを後から読む分にはネタバレにはなりません)を読んだところだったので、まさかなぁ、と思いながらちょっと予想してしまっていました。しかし、こうやってストーリーに組み込むとは...

「おまえはそんなことをするべきじゃなかった。だが、そいつだって、そんなことで死ぬべきじゃなかったんだ。大事に思ってくれる家族がいるならなおさらだ」(280ページ)
と広太から経緯を聞いた後に雅之が広太に投げる言葉が印象的でした。



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あなたに贈るX(キス) [日本の作家 近藤史恵]

あなたに贈るX(キス) (PHP文芸文庫)

あなたに贈るX(キス) (PHP文芸文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/03/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
感染から数週間で確実に死に至る病。そのウイルスの感染ルートはただひとつ、唇を合わせること。かつては愛情を示すとされたその行為は、国際的に禁じられ、封印されている。しかし、ある全寮制の学園で一人の女生徒が亡くなり、「彼女の死は、“あの病”によるものらしい」と不穏な噂が駆け巡った。真相を探る後輩の美詩が辿り着いた、あまりに甘く残酷な事実とは。鮮烈な印象を残す青春ミステリー。


ソムノスフォビア(唾液感染性睡眠恐怖症)。
2013年11月にはじめて発見されたという設定の架空の病気が蔓延した後の世界を舞台にした作品です。
発症してから早い者で一週間、遅い患者でも二ヶ月以内に死に至る致死率百パーセントの病気。
で、唾液に潜んだウィルスらしきものが病を引き起こし、ウィルスは強い嫌気性を持っているので、飛沫感染はなく、唯一唾液が直接触れ合う、キスにより感染する、と。
そして、このウィルスにはキャリア(ウィルス保持者)が存在し、キャリアは発症しない。キャリアは母子感染の例も多い。キャリアかどうか判定する検査法は見つかっていない。
おもしろい設定ですね。
この病気のお蔭で、キスが違法行為として禁じられた世界。
全寮制の高等学校リセ・アルビュスを舞台にしています。
こういう舞台、映画や小説で多く見かけますが、なかなかいいですよね。
憧れだった先輩織恵が死に、死因がソムノスフォビアだった、と。せっかく仲良くなれたのに...
織恵が残した謎のメール
「真のSeptember、三十一日に会いましょう」
とはどういうことか?
この段階で、実はひょっとして真相はこういうことじゃないかなぁ、という1つの推理(?) ができました。9月31日の謎も見当がつきました(これはわかりやすいですよね)。
そしてその通りでした。(←自慢です)
病気の設定を前提にあれこれ考えたら、いちばんナチュラルに思えたところへ物語は進んでいきます。
ちょっと斜に構えた砂川少年と数学教師竹内(男)との禁断の恋(!?)のエピソードも、無理なく解決にたどり着くためにちゃんと貢献しているところも素晴らしいですね。

「夕映えの向こうに」という短編が収録されていますが、こちらはボーナストラックとでも呼びたくなるようなスピンオフでして、砂川と竹内の物語になっています。

この作品、舞台化されたんですね。
確かに、舞台映えしそう...


<蛇足>
うわっ、これまるで「ニュー・シネマ・パラダイス」 [DVD]だよね、というシーン(102ページ~)があって、楽しくなりました!


<蛇足2>
ずいぶん下劣な内容、かつネタバレになるので、字の色を変えておきます。
この病気ソムノスフォビアですが、唾液に含まれたウィルスにより感染する。強い嫌気性のため飛沫感染はせずキスのみで感染する。
という設定ですが、「唇をふれただけ」のキスだと唾液の出番はあんまりないと思うので(もちろん注意はしなければいけませんが)、いわゆるディープキスが対象ですね。
とすると、この作品のとても印象的な終盤の205ページのシーンでは感染しない可能性が大のような気がします...

この部分を離れて、病気そのものを考えると...(ここからお下劣炸裂です)
感染させる人と感染させられる人を考えると、感染させる人からウィルスを渡すのは唾液が介在としても、感染させられる人は何を通してウィルスを受け取るのでしょうか?
体内に吸収するシステムとしてキスならば直接口の中へ感染させる人の唾液が侵入してきますから感染する=感染させる人の唾液が外気に触れないで感染させられる人の体内に入れば感染するという仕組みだとすると、感染する可能性があるのはキスだけとは限らないと思います。
いわゆるオーラル・セックスの類はすべて感染する可能性が大なのではなかろうか、とそんなことを考えました。とすると性行為すればかなりの確率で感染してしまうんじゃないかなぁ??
作中ではキス以外で発症したことはなさそうに扱われていますから、とすると唾液が口に入ってきたときだけ感染する、ということになります。
考えられるのは、ウィルスは唾液 to 唾液でしか感染しない!!...かなり限定的な感染ですね。
いくら仮定の病気でもちょっと無理がないかなぁ...この作品にずいぶん都合のよい病気ですね。
もっともこんなことは、この作品の価値を微塵も損ないません。ゲスの勝手推量です...(笑)

<蛇足3>
「一生懸命勉強しなければならないのに」(124ページ)
という記述があって、がっかり。
一生懸命は間違いだ、というのはもはや無駄な抵抗なのでしょうねぇ...






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ヴァン・ショーをあなたに [日本の作家 近藤史恵]

ヴァン・ショーをあなたに (創元推理文庫)

ヴァン・ショーをあなたに (創元推理文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
下町のフレンチレストラン、ビストロ・パ・マル。フランスの田舎で修業した変人シェフの三舟さんは、実は客たちの持ち込む不可解な謎をあざやかに解く名探偵。田上家のスキレットはなぜすぐ錆びる? ブイヤベース・ファンの女性客の正体は? ミリアムおばあちゃんが夢のように美味しいヴァン・ショーを作らなくなったわけは? シェフの修業時代も知ることができる魅惑の一冊。


2017年12月に読んだ8冊目の本です。
「タルト・タタンの夢」 (創元推理文庫)(感想へのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾。

常連さんである田上さんが所有するスキレット(分厚い鋳鉄でできたフライパン)が幾度も錆びてしまうのはなぜ? 「錆びないスキレット」
ベジタリアンの客のリクエストに応えるうちに、最近店を出した三舟シェフとともに働いていた南野氏の心持ちが浮かび上がってくる「憂さばらしのピストゥ」
新規開店するパン職人に協力した三舟シェフだったが、肝心のパン職人が開店前に姿を消してしまう「ブーランジュリーのメロンパン」
三舟シェフが気にしている、必ずブイヤベースを注文する女性客新城さんとの顛末を描く「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」
彼女が自分のもとから去って行ったその理由を、かき氷から解き明かす「氷姫」
修業時代(?)の三舟シェフが南仏の小さな町コルド・シュル・シェルで、相席客の恋人との行き違いの謎を解く「天空の泉」
ストラスブールのマルシェ・ド・ノエル(クリスマス・マーケット)で格別のヴァン・ショーを出していたおばあちゃんミリアムが、赤ワインのヴァン・ショーを作らないと決めた理由を解きほぐす「ヴァン・ショーをあなたに」
の7編収録。

前作「タルト・タタンの夢」 ではどの話にも、大詰めのところで(?) シェフ特製のヴァン・ショーが印象的に出てきましたが、今回はなし。
そのかわり最後の表題作「ヴァン・ショーをあなたに」で、三舟シェフのヴァン・ショーに秘められたストーリーが展開されます。

「錆びないスキレット」で猫にエサを与えてしまって志村さんに叱られるシェフがかわいかったり、「憂さばらしのピストゥ」で「料理人にはなんでもできる。前の客の残り物を使うことも、古い材料を使うことも、安いだけで危険な素材を使うこともできる。多少の腕があれば、それを客にわからせないことなんて、簡単だ。だが、だからこそ、それはしてはいけないことなんじゃないか」(67ページ)
とプロの料理人としての矜持を語ったり、「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」では恋(?)したり、「天空の泉」や「ヴァン・ショーをあなたに」で修業時代の姿を披露したり、まさに「三舟シェフの事件簿」と名付けたくなるような短編集になっています。

料理のシーンが素敵なことに加えて、「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」に
「余談だが、一皿をふたりで分けるという注文は、盛り付けの美しさを考えると必然的に、半分より少し多くなってしまう。つまりは、たくさん食べたい人にもうってつけなのである」(117ページ)
なんてトリビア(?)が出てきたり、いろいろんな楽しみ方ができるのもこのシリーズの魅力です。

次作「マカロンはマカロン」 (創元クライム・クラブ)も楽しみです。

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タルト・タタンの夢 [日本の作家 近藤史恵]

タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)

タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/04/27
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
商店街の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。シェフ三舟の料理は、気取らない、本当のフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな彼が、客たちの巻き込まれた事件や不可解な出来事の謎をあざやかに解く。常連の西田さんが体調を崩したわけは? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか? 絶品料理の数々と極上のミステリをどうぞ。


5月に読んだ11冊目の本です。
近藤史恵の新しいシリーズです。
カウンターが七席、テーブルが五つという小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」の店長=料理長三舟忍が探偵役をつとめる連作。
視点人物は、ギャルソンである、ぼくこと高築智行。レストランの従業員はそのほかに料理人・志村洋二とソムリエ・金子ゆきの2人だけ。合計4人のお店。
店の名前パ・マルの意味は、〈悪くない〉。ぼくが料理長を「変わった人」という理由の一つ。

「クレープシュゼットの青い火が、燃え上がった」
という印象的な一文で幕開けです。
このあとも、数々の料理、デザートが次々と出てきます。どれもこれもおいしそうで、読んでいるとおなかがすきそう。

常連さんが二日も体調を崩したことから意外な事実を導き出す、「タルト・タタンの夢」
凄まじく好き嫌いが激しい客の愛人がたどる顛末を描く「ロニョン・ド・ヴォーの決意」
料理人志村の妻が抱いていた積年の疑問を解く「ガレット・デ・ロワの秘密」
客の奥さんが急に出ていったわけを探る「オッソ・イラティをめぐる不和」
高校生の野球合宿で酒などないはずなのに泥酔した部員の謎を解く「理不尽な酔っ払い」
パリでの恋人との行き違いの原因をつきとめる「ぬけがらのカスレ」
パ・マルのチョコレートがまずいと喝破した客の心持をさぐる「割り切れないチョコレート」
の7編収録。
いずれの話にも、大詰めのところで(?) シェフ特製のヴァン・ショーが印象的に出てきます。

ミステリとして解く、という感じにはなっていないのはミステリ好きとして少し残念ですが、解かれる謎が、単なるいい話、となっていないのがステキです。甘さと苦さがともに味わえる、いい作品だなぁ、と思いました。

「オッソ・イラティをめぐる不和」に出てくるせりふ、「女のお喋りは無駄な話ばかりで」というのは、いろいろな意味で気を付けないといけない言葉ですね。
「割り切れないチョコレート」に出てくる、チョコレート専門店<ノンブル・プルミエ>の詰め合わせのセット数が必ず素数ということに秘められた意図は、なかなかステキですねぇ。商売上それでいいのかわかりませんが...

シリーズはこの後も巻を重ねていますので、読み続けていきたいです。


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三つの名を持つ犬 [日本の作家 近藤史恵]


三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

三つの名を持つ犬 (徳間文庫)

  • 作者: 近藤史恵
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2013/06/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
犬を撫で、その温かさに触れることで、ようやく少し救われる。売れないモデルの草間都は、愛犬エルとの暮らしをブログに綴ることで、心が充たされるだけでなく、生活の糧も得ていた。だが、ある夜エルは死んでしまう。追い込まれた都は、エルそっくりの飼い犬を、思わず家に連れ帰ってしまった。ちいさな罪のはずが、それはやがて思いがけない事件に…切なく胸を打つ傑作ミステリー!


いやあ、1ヶ月以上もブログ更新しませんでした。4月、忙しかったですね。
ゴールデンティーク半ばの出勤した今日、久しぶりに更新します。

上に引用したあらすじにもある通り、犬をめぐるストーリーです。
「思いがけない事件」が起こりますが、するすると展開していって、もう一人の主人公ともいえる江口正道(FX取引で失敗し、詐欺グループに身を落としている)と草間都が交差します。
どんどん逃げ場のなくなっていく状況になり、物語は一つのラストを迎えます。
このラスト、ミステリ的な意外性とは違うのですが、非常に意外なラストだと思えました。ここに着地させるのか~、と。
ガール・ミーツ・ドッグであり、ボーイ・ミーツ・ドッグであり、かつ、ボーイ・ミーツ・ガールとして成立している物語で、苦い結末ではありますが、ある意味救いなのかもしれません。

ただ、気になったことがあります...
あらすじを読んだ印象で、犬好きな人の話なんだと思ったんですよね。
ところが、オープニングからの草間都の物語を通して、犬好きとは思えない。
ペットなんだからそれでいいのかもしれませんが、あくまで自分の都合が最優先で、なんだか犬はいろんな意味での道具みたい。(だからエルを死なせてしまう、と言ったら言い過ぎでしょうか?)
さっと読み返してみると、犬好きとして取材を受けるシーンはありますが、作者は都のことを直接的に犬好きとは書いていません。だから、あらすじから判断したこちらの勝手な思い込みのせい、ではあるのですが、気になりました。
それよりも、正道の方がよほど犬好きのように思えました。
一方で、犬好きならこういう行動はしないんじゃないかな、と思える行動を都はとり、その結果物語が転がっていくので、ストーリー上の必然だったのかも。
犬に比べて自分勝手な人間を描くために都をそういう設定にした?
あるいは、そんな程度の「犬好き」でしかない都すら動かすほど犬には魅力があると言いたかった?
ちょっとここがわかりません。
犬好きの方は、どういった感想を抱かれますでしょうか?


タグ:近藤史恵
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モップの精と二匹のアルマジロ [日本の作家 近藤史恵]


モップの精と二匹のアルマジロ (実業之日本社文庫)

モップの精と二匹のアルマジロ (実業之日本社文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/04/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
妻に内緒の行動を取っていた夫が3年間の記憶を喪失!
最先端ファッションでオフィスの清掃人をつとめ、日常の謎も解くキリコ。彼女は越野真琴という地味な女性から、夫の友也の行動を探ってほしいと頼まれた。美形である友也の退社後には、数時間の空白があった。ところが友也が事故に遭い、3年間の記憶を喪失してしまう。その後、彼の身辺には不審な出来事が。キリコと夫の大介は、夫婦の絆をめぐる謎に迫るが……。


あとがきで、
「これは清掃作業員探偵キリコの四冊目の本で、そしてはじめての長編になる。」
と書かれています。
その長編でキリコと大介が取り組む謎が、夫婦の謎!
夫越野友也の方が超美形というのがミソ(?)。写真を見た大介は
「息を呑む。たしかにかなりの美形である。
 ガードレールのようなところにもたれて笑っているのだが、それだけでスナップ写真というより雑誌のグラビアのようである。切れ長なのに黒めの大きい眸と、彫りの深い顔立ち、まるで絵のようで、これなら俳優にも引けを取らない。
 身体も痩せているのに筋肉質で、タンクトップ姿でも少しも貧相に見えない」(27ページ)
続けて
「負けた、と思った。いや勝とうと思っていたわけではないが」
と続くところが可笑しいですが。
一方で妻越野真琴は地味。
「ぼくは……結婚なんかしていいような人間じゃない」なんて友也の不穏なセリフ。

真相は、意外でした、というよりも、そういうケースがあるってことを知りませんでした。
ネタバレになるので、背景と同じ色で書いておきます。
Aセクシャル。
性欲とか、性的嗜好がまったくない。
女性にも男性にも恋愛感情もないし、性欲もない。
そしてそれを大介たちが知って初めて、タイトルの意味が、286ページで明かされます。
この後の大介とキリコが、やはり素晴らしいと感じました。
友也と真琴との二人のやりとりは、このシリーズの最大の特長ですね。

「正直言うと、わたし、大介への恋愛感情もけっこう薄れてきてる」(304ページ)
なんて衝撃のセリフもキリコの口から出てきたりします。
「えええええっ!」
っていう大介の反応がまたおかしい。

このあとこのシリーズは出ていないみたいです。
続き、いつか書いてくださいね。




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エデン [日本の作家 近藤史恵]


エデン (新潮文庫)

エデン (新潮文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/12/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
あれから三年――。白石誓は唯一の日本人選手として世界最高峰の舞台、ツール・ド・フランスに挑む。しかし、スポンサー獲得を巡る駆け引きで監督と対立。競合チームの若きエースにまつわる黒い噂に動揺を隠せない。そして、友情が新たな惨劇を招く……。目指すゴールは「楽園」なのか?  前作『サクリファイス』を上回る興奮と感動、熱い想いが疾走する3000kmの人間ドラマ!


「サクリファイス」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら)の続編で、舞台はいよいよ(?) ツール・ド・フランス。
上で引用した書影ではきちんとわからないかもしれませんが、凱旋門を背景にしたレース風景の写真が使われています。
白石誓(しらいしちかう)が主人公をつとめます。
まず、前作に引き続き、ロードレース素人にもわかりやすく競技内容が描かれていきます。
このシリーズには、ミステリとしての側面、スポーツものの側面、そして誓の成長物語としての側面があります。
誓のスタンスが、きわめて日本人らしいというか、いくら日本人でも外へ出て勝負している人はもうすこし自分を強く打ち出すんじゃないかな、と思わないでもないですが、その分、こちらからはわかりやすく、ツール・ド・フランスもなんだか身近に感じることができました。
そんななか、プロ集団としてのスポーツへのかかわり方が出てきて、チーム内のごたごたや対立が盛り込まれます。
プロなので、スポンサーがつかないと終り、契約が延長されなければ終り。
「サクリファイス」の苛烈さは影を潜めていますが、それでもロードレースにかかわる人物が抱える闇は大きなもののように見受けられました。
それでも、晴れの舞台で勝負を賭けることの素晴らしさ。
作中ラスト近くで、「呪い」という単語も出てきますが、同時に、タイトルにもある通り「楽園」でもあります。
いわく、
「ここは、この世でいちばん過酷な楽園だ。過酷なことはわかっているのに、自転車選手たちは楽園を目指し続ける」(308ページ)
ミステリ的には、大きな仕掛けがあるわけではありませんが、ネガとポジの反転のように、くるっとひっくり返して見せる手際は鮮やかだったように思います。たとえそれが読者の想定の範囲内であったとしても、それがエデン(楽園)を目指すものの光と影でもあることに、作者のまなざしを感じます。

このあとの、「サヴァイヴ」 (新潮文庫)も読むのが楽しみです。




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