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わたしたちが少女と呼ばれていた頃 [日本の作家 石持浅海]


わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2013/05/16
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
新学期、横浜にある女子高の特進クラスで上杉小春は碓氷優佳という美少女に出会う。おしゃべりな小春とクールな優佳はやがて親友に――。二学期の中間試験で、東海林奈美絵が成績を急上昇させた。どうやら、夏休み中にできた彼氏に理由があるらしい。だが校則では男女交際は停学処分だ。気をもむ小春をよそに平然とする優佳。奈美絵のひと夏の恋の結末を優佳は見切ったようで……(「夏休み」)。教室のどこかで、生まれ続ける秘密。少女と大人の間を揺れ動きながら成長していくきらめきに満ちた3年間を描く青春ミステリー。


新書です。2015年10月に読みました。
「扉は閉ざされたまま」 (祥伝社文庫)
「君の望む死に方」 (祥伝社文庫)
「彼女が追ってくる」 (祥伝社文庫)(ブログの感想へのリンクはこちら
に続く、シリーズ第4弾で、なんと碓氷優佳の高校時代を描いた連作集です。
進学高校を舞台に、碓氷優佳の友人上杉小春の視点で卒業までを描いていく流れになっていまして、ミステリ的には日常の謎、です。
受験を間近にした生徒が、学校近くで赤信号にひっかかると、その子は不合格だという言い伝えの謎を解く「赤信号」
付き合いだしたクラスメイトの成績が落ちない、また近く別れると予想する「夏休み」
冷静沈着、クールビューティとしてイメージが定着している女子がイメージに合わない飲酒をし、二日酔いになるという謎「彼女の朝」
百合とみなされている二人が秘めている謎を解き明かす「握られた手」
マンガ家を目指していた少女がクラスメートのアドバイスに従って志望校を引き上げ、受験勉強を始めたことの裏側は? 「夢に向かって」
怪我をしギブスをすることになったクラスメイトにカンニング疑惑? 「災い転じて」
優佳が惹かれた大学生が優佳を拒んだ理由から、高校時代を上杉小春が振り返る「優佳と、わたしの未来」
の7話を収録しています。

視点人物を碓氷優佳の友達にして、碓氷優佳の高校時代を描いていきます。
相変わらず、石持浅海らしい変な思考回路を持つ人物がわんさか出てきますが(それが友達ってのもなんだか...ではありますが、碓氷優佳にあっている!?)、日常の謎にしているだけあってか、いつもよりは控えめな感じです。
謎自体もミステリとしては小粒で、まあ、碓氷優佳を使っても高校時代だとこれくらいなのかなぁ、と不遜なことを思ったりしていたのですが。
ラストの「優佳と、わたしの未来」にやられてしまいました。ああ、石持浅海はこれがやりたかったんですね、なるほど。
考えてみれば、もっとミステリ色を濃くした作品を連ねても同じことができたとは思いましたが、「優佳と、わたしの未来」でなされる謎解きのトーンと一致させようとしたら、軽めの謎がふさわしいような気もします。
ああ、すべては碓氷優佳のためだけに作り上げられていたのです。
「優佳と、わたしの未来」の、しんとした佇まいが読みどころでしょうか。最終行「優佳。じゃあね」というせりふに込められた深い意味をじっくりと味わいたいですね。
碓氷優佳シリーズにとっては大きな意味を持つ作品かもしれません。

ネタバレとは言えませんが、伏字で引用しておきます。
違う。碓氷優佳は、そんな人間ではない。優佳は、頭は冷静で、心が冷たい人間なのだ。
言われなければ、自分が他人に何の関心も持っていないことにすら気づかない。イノセントに残酷な人間。それが碓氷優佳だ。
なんということだ。友人を見捨て、見捨てていることにすら気づかない人間を、わたしは三年間も親友だと思っていたのか。」(194ページ)
優佳は、いずれ気づくのだろうか。自分が、他人に対して何の関心も持っていないことに。冷静で、冷たい人間であることに。」(197ページ)

新書で読みましたが、すでに文庫化されています。
わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (祥伝社文庫)

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (祥伝社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: 文庫

また次の第5作目が出ています。
「賛美せよ、と成功は言った」 (ノン・ノベル)


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ブック・ジャングル [日本の作家 石持浅海]

ブック・ジャングル (文春文庫)

ブック・ジャングル (文春文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
沖野国明は昆虫学のフィールドワークからの帰国後、思い出の場所、市立図書館が閉鎖されたことを知る。見納めのため友人と深夜の図書館に忍び込み、高校を卒業したての女子三人組に出会う。彼ら不法侵入者達にとって予期せぬ苛酷な一夜が幕を開けた――。恐怖の閉鎖空間で石持ワールドが炸裂する強力長編。


今月(12月)に読んだ2冊目の本です
いやあ、石持浅海、やっぱり変なこと考えるなぁ。
クローズド・サークル大好き作家である石持浅海がこの「ブック・ジャングル」 で選んだ舞台は図書館。
でも、いつもの推理合戦(?) ではなく、今回は冒険小説仕立て(?)。
文庫版あとがきにも「冒険ものを書いてみたい」(342ページ)と書かれています。作者の発想の舞台裏が覗けて、このあとがきがおもしろいですよ。

上であらすじを引用しましたが、解説で円堂都司昭が書いているあらすじが好きです。
「廃館が決定し閉鎖された図書館に、女子三人組と青年コンビが、それぞれ忍び込む。廃棄処分されてしまう懐かしい児童書を頂戴するため。自分が昆虫学者を目指すきっかけとなった昆虫図鑑をもう一度眺めたいから。互いに侵入目的の似通っていた二グループは、館内で鉢合わせする。その直後、彼らは正体不明の敵に攻撃される。偶然知り合った若い男女は協力して防御にあたり、脱出を試みるが、敵の策略に阻まれて事態をなかなか打開できない」

割と早い段階でわかるので書いてしまいますが、ラジコンヘリで襲われるというのがポイントとなっています。
ラジコンヘリに襲われたら怖いか? とも思いますが、毒針がついていたり、仕掛けがあったりしたら、まあ怖い気がします。
あちこち設定に無理がありますが、この攻防(というか主人公たちからみればほぼ一方的な“防”ですが)がなかなかおもしろかったですね。
もっと早く、防だけではなく、攻にも転じていればもっともっとおもしろかったかもしれませんね。反撃の糸口はかなりふんだんにあったように思えましたので。

残念だったのは、犯人の設定。
犯人の動機が変とかは、石持浅海の場合欠点に挙げないことにしているのでその点は置いておくとして、すぐに読者に見当がついてしまう犯人というのは面白みに欠けたなぁ、というところ。
何度か犯人サイドの視点と思しきエピソードが挿入されるのですごくわかりやすくなっています。
こういうエピソードをすべて伏せてラストに持っていっていきなり明かすと、唐突感は否めなかったと思うので、ある程度読者に背景をさらしておく必要はあったのだと思いますが、残念ですね。

ということで、かなりへんてこな作品を読んだなぁという印象です。
へんてこな作品も好きなので、個人的には気に入りましたが、あまり他人にはお勧めしづらい作品でした。


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見えない復讐 [日本の作家 石持浅海]


見えない復讐 (角川文庫)

見えない復讐 (角川文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
エンジェル投資家・小池規彦の前に、同じ大学の後輩にあたる田島祐也が現れた。立ち上げたばかりのベンチャー企業への出資を求めに来たという院生の田島は、熱意と才能に満ち溢れた若者のように見えた。しかし彼の謎めいた行動から、小池は田島が母校の大学に烈しい復讐心を持っていることを見抜く。そして実は小池自身も、同じ復讐心を胸に抱いていたのだった……。「実行者(テロリスト)」と「支援者(スポンサー)」、ふたりの天才が繰り広げる極限の推理劇!


今年読んだ3冊目の本です。
とても石持浅海らしい作品でした。
極めて石持浅海作品らしい登場人物が登場します。
目次をみると第一話から第七話とありますが、序章、最終章で挟んでありますので、長編として読めばよいのだと思われます。

まず、法人への復讐を考える大学院生、というのがおもしろい。
そしてそのためには大きな金額の金が必要で、その金がないから、稼げばよい、とベンチャー企業を設立する、というのが、これまたおもしろい。
こんなこと、普通考えませんよね。
この大学院生田島と、彼に出資することになる投資家の小池が主要人物です。

田島の復讐の対象に対して、小池も恨みを抱いていて、田島の意図を見抜いて小池は出資を決断する...
いやぁ、無茶苦茶です。
でも、無茶苦茶だからいいんです。石持浅海らしい。

小池が田島に会社経営のアドバイスをした、というくだりを読んだところで、ひょっとするとベンチャー経営を扱った新しい小説になるんじゃないかな、という別の期待を抱きました。
事業がうまくいく、ということには、財務面、資金面もうまくいくということが兼ね備わる必要があります。企業が倒産するのは、金が回らなくなるから、です。
ですが、企業小説で事業の苦労そのものを描いたものはあっても、資金面、財務面を扱った小説はあまりないような気がしていて、この「見えない復讐」 (角川文庫)における小池のアドバイスが財務面であったことから、そこを重点的に扱った小説になるんじゃないかな、と期待したわけです。
この期待は裏切られましたが(そりゃあ、まあ、こちらの勝手な期待ですから)、肝心の復讐をめぐる、ロジック遊びは十分楽しめました。

法人に対する復讐の資金獲得のため法人(ベンチャー企業)を設立する、ということから、一つ予想していた展開があったのですが、違った展開を見せてくれました。
石持浅海、周到です。予想をはるかに超えるひねりを見せてくれました。
うーん、そちらへ話を転がしていきますか...なるほどねー。
エンディングはかなり衝撃的です。
異論もあろうかと思いますが、この作品のラストはこれがふさわしいようにも思えました。

ただ、作品全体として、後味が悪いんですよね。
物語の初めから「結果によっては多数の死者が出る」という前提に立っていることが明かされてはいますが(なにしろ、あらすじによれば、テロリスト、ですから)、復讐は、やはり無関係な第三者を巻き込まないようにしないと、(ことエンターテイメントをめざすミステリとしては)まずいですね。
そしてこの点は、この作品において、100パーセント回避とはいかなくても、緩和することはできただろうと思われるだけに、残念なポイントかと思います。
というのも、田島たち、会社がうまくいくにつれて、揺れるんですね。人間だから、状況が、立場が変われば考えも変わりますよね。そして、揺れることはこの作品では大きな意味を持っています(これは上で触れたひねりに関連するので詳しくは書きません)。だから、その揺れを利用して、復讐の後味の悪さを少しでも緩和させることが可能だったんじゃないかなぁ、と思えてなりません。
そうしても、エンディングの衝撃は薄れることは全くないと思われますし。
ちょっともったいない。

とはいえ、石持浅海らしい凝った作品を楽しめました。

<蛇足>
ところで、ストーリー展開でかなり重要な役割を担う弦巻がどうなったのか、書いておいてほしかったです。



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八月の魔法使い [日本の作家 石持浅海]


八月の魔法使い (光文社文庫)

八月の魔法使い (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/07/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
洗剤メーカー・オニセンの役員会議で、報告されていない「工場事故報告書」が提示され、役員同士が熾烈な争いを始めた。同じころ経営管理部員の小林拓真は、総務部の万年係長が部長に同じ報告書を突きつけるのを目撃。たまたま役員会議に出席し騒動に巻き込まれた、恋人の美雪からのSOSも届く。拓真は限られた情報だけで“存在してはいけない文書”の謎に挑む!


まず言っておきたいことは、おもしろかったということです。
読んだのが9月で、なにしろもう半年も経っているので忘れちゃっていることもあり、この感想を書こうと、ぱらぱらと飛ばし飛ばし読み返したんですが、やはりおもしろかった。
なのに、感想を書こうとすると、まず思い浮かぶのはマイナス点ばかり...。困った。

この作品、殺人はおきません。
それを言うなら、殺人どころか、事件らしい事件もおきません。ここは長所といえます。
舞台は、メーカーであるオニセンの役員会議と、そこでの騒動に巻き込まれた恋人を救おう(?)と推理を巡らせる(?) 拓真のいる会議外の場所(総務部だったり、経営管理部だったり)です。
役員会議で提示された、あるはずのない「工場事故報告書」の謎を追うわけですが...

うーん、この会社の役員会議、ひどすぎませんか?
出世争いだか何か知りませんが、こんなに愚かしいことを、役員会議の場でするのでしょうか?
「仮にも東証一部に上場している製造業」(266ページ)なんですよ。
また、副社長が次期社長になる。副社長は社長が決める。もちろん、社長の意向というのは大きいとは思いますが、こんなに社長が独断で決めてしまえるようになっているのでしょうか? 
だから、社長のいる役員会議での発言、立ち居振る舞いは命取り、という設定になっているのですが、そうでしょうか?
たとえ社長がそういう権力を握っていても、一回の会議での失言でだめになるということはないのでは?

作中、自らの担当部門で絶大な権力を握る常務が出てきて、まわりが彼を恐れ、自ら判断できない状況が描かれるのですが、であれば、社長こそ超絶大な権限、権力を持っており、その社長の前での言動は、この作品の役員会議でのようには決してならないと思います。
一方で、社長とは別に、前社長=会長というのがいることも触れられており、会長の懐刀は「社長交代によって」「影響力が衰えたわけではない」(267ページ)とも書かれていて、社長に権力が集中しているわけでもなさそうで、あら、矛盾していますねぇ、というところ。

そして、この「工場事故報告書」には、ミステリである以上仕掛け人がいるわけですが、あまりにもその狙い通りになっている点、???、です。
いくら切れ者でも、こんなに複数の人間の言動を予測できるとは思えません。
しかもそれぞれの人物が、通常想定される行動ではなく、奇矯と読んでもいいくらいのことを言ったり、しでかしたりするのです...
ミステリとして楽しむためには、想定外の発言や行動をされても、バックアッププランが用意されていました、ということが感じ取れるようにしておいてもらう必要があるでしょう。
ここまで読み切っていたら、まさに「魔法使い」。

そもそも主人公である拓真が本件とかかわるのは、役員会議に出席しちゃっている恋人を救うため、というのですが、拓真の行動自身も目的とずいぶんずれちゃっていて、あれれ。

というふうに、マイナス点ばかりあげつらってしまいましたが、実はこういう点は、石持浅海には常につきまとっている点であって、この作品において著しくおかしいというわけではありません。
石持浅海の作品に出てくる人は、どことなく“おかしい”人が多く、奇矯な言動をするのが常です。
だから、これらの点は物語の前提だ、と呑み込んで読んでいくのが吉なのでしょう。
これらの点を前提として読めば、ロジックをもてあそぶ楽しさを満喫できます。
拓真がああでもない、こうでもない、とこねくり回していくのが楽しい。だから、冒頭申し上げたように、おもしろかった、のです。
この「八月の魔法使い」 、実は、石持作品の中でもかなり好きな方に入ります。


<蛇足>
解説で小池啓介さんが
「一般常識で考えれば」、「会社の常識としては」と、相反する“常識”が登場すると述べたうえで、
「サラリーマンの日常とともにある“会社の常識”。それはいっていれば特殊なルールである。その観点から本書は、作品内だけで通用する特殊ルールを設定した謎解きミステリーの系譜に連なる作品ともいえる」
と書いていますが、↑ の感想でも書いたように、扱われているのは会社の常識は会社の常識でも、作品内だけで通用する特殊な“会社の常識”なので、いわゆる「会社の常識」を「作品内だけで通用する特殊ルール」として取り扱った作品とは言えないと思います。

<2016.4.10追記>
上の蛇足の部分、読み返してわかりづらかったので補足します。
小池さんの記載は、まとめると
「ミステリーには、作品内だけで通用する特殊ルールを設定した系譜があるが、本作品は、“会社の常識”をその特殊ルールとして利用したミステリーである(とも考えられる)」
ということだと思っています(1)。
でも、こういうことを言う場合、“会社の常識”は普通の“会社の常識”、一般読者が読んで、「そうだよな。会社って、一般社会じゃ通用しない論理や考え方があって、うちの会社も同じ常識があるよ」と思えるようなものでないと困るのではないでしょうか。
作品で使われる“会社の常識”が、特殊な会社の常識、一般の会社ではちょっと考えづらいものだったら、それは単なる特殊ルールであり、“会社の常識”とは言えないと思います。
と、こう考えて蛇足を書いたのですが、(1)のようなことを小池さんは言いたいのではないのかもしれませんね。「特殊な“会社の常識”を、作品内だけで通用する特殊ルールとして設定したミステリー」ということだけを言いたかったのかも。ただ、だったら、こういうことはミステリーに限らずフィクションでは当たり前のことで、あえて解説でわざわざ書くようなことではないような気もしますが...



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攪乱者 [日本の作家 石持浅海]


攪乱者 (実業之日本社文庫)

攪乱者 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/12/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
コードネーム、久米・宮古・輪島のテロリスト三人。組織の目的は、一般人を装ったメンバーが、流血によらず、政府への不信感を国民に抱かせることだ。彼らの任務は、レモン三個をスーパーに置いてくるなど、一見奇妙なものだった。優秀な遂行ぶりにもかかわらず、引き起こされた思わぬ結果とは。テロ組織の正体は。そして彼らの運命を握る第四のメンバーの正体は――。


連作形式になっていまして、各話のタイトルが名作のタイトルになっています。
「檸檬」
「一握の砂」
「道程」
「小僧の神様」
「駈込み訴え」
「蜘蛛の糸」
「みだれ髪」
「破戒」
「舞姫」

こんなのもテロに入るのかなぁ? というような怪しげなテロ(?) が描かれます。
あらすじにも引用されている冒頭の「檸檬」 なんて、スーパーにレモンを置いてくることですからね。
こんなので、政府への不信感を国民に抱かせる、ことが可能なのかどうか?
だから、帯の惹句が印象的です。いわく、
「昼は一般人、夜はテロリスト。」
テロリストの出勤風景とか、ちょっと笑ってしまいます。

そういうちょっとオフビートな、あるいはシュールと言ってしまってもいいのかな? 活動が徐々に語られていくなかで、テロリスト集団の中のつながりとかが見えてくる、あるいはつながりができてくる。
隔靴掻痒を地で行くストーリーを面白いと思うか、なんだこりゃと思うかで、読後感は大きく変わって来るでしょう。

しかし、最後のページで語られる世界って、いい世界なんですかね?

ともあれ、シリーズ作品として「煽動者」 (実業之日本社文庫)がでているようなので、そちらも楽しみです。


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まっすぐ進め [日本の作家 石持浅海]


まっすぐ進め (河出文庫)

まっすぐ進め (河出文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2014/05/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
僕が書店で一目惚れした美しい女性・高野秋。彼女は左手首にいつもふたつの時計をはめている。そして僕は気づいてしまった。彼女にきざす孤独の影に……。ふたつの時計に隠された、重大な秘密。恋人たちを襲う衝撃の真実とは? 日常の謎から人の心の綾をロジカルに解き明かす、異色の恋愛ミステリー。東川篤哉によるショートショート「鵜飼と朱美のまっすぐ進まない解説」収録。


「ふたつの時計」
「ワイン合戦」
「いるべき場所」
「晴れた日の傘」
「まっすぐ進め」
の5つの話が収録された連作長編です。
タイトル「まっすぐ進め」 というのはどこから来たものかな、と思ったら、主人公のひとり川端直幸の名前が、幸せに向ってまっすぐ進め、ということで付けられた、というエピソードから来ています。
いやあ、石持浅海らしくなくて(笑)いいではないですか。

中身は石持浅海らしいものです。
冒頭の「ふたつの時計」。
もうひとりの主人公高野秋がふたつの腕時計をしている理由を、直幸が推測するというストーリーで、物語の着地はいいんですけれど、肝心のその理由が、石持浅海らしく、普通と違う。
こういう考え方、行動パターンを取る人、たぶんいないんじゃないかな。近いところまではあり得ると思うんですけどね。
それを直幸は当ててしまうんだから、似た者同士、ですね。

ふたつめの「ワイン合戦」も、そうです。居酒屋でおいしくもないワインの飲み残したボトルをひとり一本ずつ持って帰る男女、という謎の回答、あり得ませんよ。直幸が推測するようなこと、こういうことを考えてワインを持ち帰る人、いないと思うなぁ。
みっつめの「いるべき場所」も強烈です。ショッピングモールで迷子(?)になっている女の子をめぐる推理、というか憶測は、常軌を逸している....
娘が結婚するときに相手に渡してやってくれ、と言って母親に渡されていた父親の遺品の黒い傘に込められた思いを推測する「晴れた日の傘」も、どうかなぁ。きっと、ないなぁ。
で、秋の秘密をつきとめるラストの「まっすぐ進め」も、かなり入りくんだ、ひねくれた発想。

と、こう書いていくと、奇矯な論理(?)をこねくり回しただけの変な作品で、つまらないダメな作品なんじゃないかと思われるかもしれませんが、まったく違います。
ラストの「まっすぐ進め」で、直幸は秋から「そんな解釈ができる人は、世界中探しても、あなたしかいないわ」といわれるのですが、これがポイントなのだと思います。
秋自身の謎に迫る、冒頭とラストの「ふたつの時計」と「まっすぐ進め」を除く間の3編は、直幸の考えたことが正解なのかどうか示されません。「晴れた日の傘」はかなり正解に近いのだろうと思わせる着地点ですが、確かなことはわかりません。
つまり、直幸の推理というか推測は、真相をつきとめるためのものではなく、直幸と秋の距離を縮めていくことにこそ主眼があるのです。いっそ、真相かどうかなんてどうでもいい、と言い切ってもいいのかも。
恋愛小説の道具として、推理をつかっているわけです。
直幸の推理は、推測、憶測だろうと、こじつけだろうと、無茶苦茶だろうと構わないのです。直幸の気持ち、心持ちが、秋に届きさえすれば。
だから、無理筋だよなぁ、と各話で思わされても、ラストまで読むと、なんだかすっきりした感じがしてしまうのだと思います。

石持浅海のなかでは、かなり好きな方に入る作品です。




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耳をふさいで夜を走る [日本の作家 石持浅海]


耳をふさいで夜を走る (徳間文庫)

耳をふさいで夜を走る (徳間文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2011/09/02
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
並木直俊は決意した。三人の人間を殺す。完璧な準備を整え、自らには一切の嫌疑がかからないような計画で。標的は、仁美、麻理江、幸。いずれ劣らぬ若き美女たちである。倫理感? 命の尊さ? 違う、そんな問題ではない。「破滅」を避けるためには、彼女たちを殺すしかないのだ!! しかし、事態は思わぬ方向に転がりはじめる……。気鋭が挑む驚愕と緊迫の連続殺人ストーリー。


うわっ、すごい作品読んだなぁ、というのが正直な感想です。
犯人の視点で物語が進められ、その意味では倒叙もの、と言えそうですが、一般の倒叙ミステリが目指す方向を目指した作品ではありません。

なによりも一番大きなポイントは、視点人物である犯人が狂っていることでしょうか。
もっとも、狂っている、と書かれているわけではありません。むしろ、犯人は正常、一般的だ、という前提で描かれています。自らを狂っているなんて、言わないものではありますが。
しかしながら、その思考回路は、どう考えても正常ではありません。一般の目からすると(何が一般なんだ、というご指摘を受けるかもしれませんが)、到底普通ではありません。間違いなく、狂っています。
なかなか明かされない動機を見ればあきらか、です。
なんだかわからないけれど、強烈な危機感を持ち、殺さなければ大変だ、と思い詰めていることはわかりますが、明かされた段階で、まったくついていけないことが確定。
こういう普通じゃない思考経路をたどる人物、石持作品では常套というか、よくでてくるタイプの人物です。
「君がいなくても平気」 (光文社文庫)にも出てきましたね(感想ページへのリンクはこちら)。「君がいなくても平気」 の場合は、犯人役ではありませんでした。
犯人役が変な考えを持っている、というと、「扉は閉ざされたまま」 (祥伝社文庫)がそうでしたが、典型的な倒叙ミステリとしてのロジック対決が見どころだったため、動機はさほど焦点があたっていませんでした。
この「耳をふさいで夜を走る」 は、サスペンス風味なので、動機の比重を低くすることも可能だったと思うのですが、そこが気になるような書き方をされているのでかえって意識が集中していまいます。そして、それが受け入れがたい...
この特異な動機が第一のポイント。

第二のポイントはセックス絡みの話題が頻出すること、でしょうか。
そもそも第一の殺人がセックス中になされますし...

タイトルは、古代ドイツの伝承に触発されたもののようです。281ページあたりから、その話が出ます。
「伝説上の存在アルラウネ、あるいはマンドレイク。無実の罪を負わされて、絞首刑になった童貞男。吊るされた男が漏らした精液が地面に落ちた場所に生える、人型の植物」
「アルラウネは引き抜いて大切にケアすると、所有者に様々な幸福をもたらしてくれる」「未来を予言したり、金貨を増やしたり。」
「ただ、アルラウネを引き抜きときは、注意が必要なんですね。凄まじい悲鳴を上げるということでした。その悲鳴を聞いたものは死んでしまう。だから、引き抜きときには自分は耳をふさいでおき、アルラウネに紐を掛けて、犬に引っ張らせるんでしたね。アルラウネは悲鳴を上げ、犬は死にますが、自分は生きたままアルラウネを手に入れることができる」
なんともすごい説話なんですね。知りませんでした。

この動機を前提とすると、それなりに収まるべきところに収まった結末、とも言えそうなので、ラストは、石持作品らしい妙にロジカルに行動しようとする主人公(犯人)が歪んだ動機で突っ走った一夜の出来事が、タイトルの由来となった説話と絡み合って、ぴたりと着地した(?) と捉えるべきなのでしょうか?



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賢者の贈り物 [日本の作家 石持浅海]


賢者の贈り物 (PHP文芸文庫)

賢者の贈り物 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/05/18
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
◎女の子たちと家でパーティー。翌朝、僕のサンダルが消え、女性物の靴が一足。誰かが、酔っ払って間違えたようだ。でも誰も申し出てこない。なぜ? (『ガラスの靴』)  ◎素性をなかなか明かしてくれない僕の彼女。なぜ? (『泡となって消える前に』) ◎フィルムカメラからデジタルカメラに替えた私。しかし妻からカメラのフイルムが贈られて……。なぜ? (『賢者の贈り物』)など。思考の迷路にいざなう10の物語。

石持浅海の短編集です。
「金の携帯、銀の携帯」
「ガラスの靴」
「最も大きな掌」
「可食性手紙」
「賢者の贈り物」
「玉手箱」
「泡となって消える前に」
「経文を書く」
「最後のひと目盛り」
「木に登る」
の10話収録。
いずれもそれなりに有名な童話や短編、説話などをモチーフに(?)しています。

第1話の「金の携帯、銀の携帯」を読んで、あまりに奇矯な論理展開にびっくり。いやあ、こんなこと考えないでしょう。石持浅海らしいといえば、石持浅海らしいのかもしれないけど。
そんなことを考えながら、第2話「ガラスの靴」を読んで、またびっくり。この作品も論理展開が変ではありますが、びっくりしたのはそこではなく、第1話で登場した人物と同じ名前「磯風」という人が出てきたからです。
同じ人なのかな? とも思いましたが、同じとも、違うとも、決め手がない。
すると第3話「最も大きな掌」にも、「磯風」という人物が。
全10話すべてに「磯風」さんは登場します。
うーん。そういう趣向ですか。
解説で、
「試しに『磯風さん』を同一人物だとみなし、パズルのようにそれぞれの短編の時間を時系列に並べ替えてみる。すると、彼女に関するあるエピソードが浮かび上がってくるのだ。それはちょっと悲しい出来事のようで、もっとも新しい時間軸となる話の中で一言で表されている。他の作品のその後にまで影響してくるので、ハッピーエンドが好きな方はあまり深読みされないほうがいいかもしれない」
なんて思わせぶりなことを羽住典子さんが書いていて気になりましたが、もう一つよくわかりませんでした。
でも、作品によって「磯風」さんの雰囲気がずいぶん違うんですよね。無理に同じ人と思わなくていいのかも。

結構恋愛ネタの作品が多いことも特徴です。

ちょっとひねくれた(と思ってしまいます)登場人物たちが、ひねくれた思考回路を存分に発揮して、勝手な思考の迷路をさまよう、そんな石持浅海らしい作品です。

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君がいなくても平気 [日本の作家 石持浅海]


君がいなくても平気 (光文社文庫)

君がいなくても平気 (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
水野勝が所属する携帯アクセサリーの開発チームが大ヒット商品を生み出した。だが祝勝会の翌日、チームリーダーの粕谷昇が社内で不審死を遂げる。死因はニコチン中毒。当初は事故と思われたが、水野は同僚で恋人でもある北見早智恵が犯人である決定的な証拠を見つけてしまう。なぜ、彼女が…!? 人間のエゴと感情の相克を浮き彫りにする傑作ミステリー。

ここから、9月に読んだ本の感想になります。

石持浅海の作品の登場人物は少し変、というか、発想についていけない人物が多いのですが、この作品の主人公もそうです。
水野勝、実に嫌な奴です。視点人物がここまで嫌な奴って、珍しいと思います。
つきあっている恋人早智恵が犯人だと分かった。早智恵が逮捕されてしまうと自分の社内での立場が悪くなるので、その前にこっそりと別れてしまおう。
こういう思考回路を持つ人、いるでしょうか?
もちろん、人殺しは悪いことですし、許されることではないけれど、「どうして殺したんだろう?」と心情を思いやることもなく、ただただ面倒に巻き込まれそうなので、早く別れようって...
大して好きでもなく、惰性でつきあっているんだ、なんて予防線を張っていますが、自己正当化する水野勝の視点で物語が展開されていくので、ちょっと鬱陶しくなるところあり。
なんだかなぁ...

でも、それに目を瞑り、前提としてしまうと、実に興味深いミステリになっています。
その嫌な、嫌な水野の性格を起点として、ラストで水野と早智恵の関係性をひねってみせるところなんて、感動はできなかったのですが、うまくまとめたなぁ、と感心しました。

この作品でもっとも感心したのは、ニコチン毒の使用をめぐるある考察。
326ページで同僚桜沢により披露されるのですが、なるほどな、と思わせる指摘。身近なものであるがゆえに言えるもので、おもしろい着眼点だと思いました。

ところで、このタイトル、誰のせりふなんでしょうね?
タグ:石持浅海
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彼女が追ってくる [日本の作家 石持浅海]


彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2011/10/26
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
〈わたしは、彼女に勝ったはずだ。それなのに、なぜ……〉
中条夏子は、かつての同僚で親友だった黒羽姫乃を刺殺した。
舞台は、旧知の経営者らが集まる「箱根会」の夜。
愛した男の命を奪った女の抹殺は、正当な行為だと信じて。
完璧な証拠隠滅。夏子には捜査から逃れられる自信があった。
さらに、死体の握る“カフスボタン”が疑いを予想外の人物に向けた。
死の直前にとった被害者の行動が呼ぶ、小さな不協和音。
平静を装う夏子を、参加者の一人である碓氷優佳が見つめていた。
やがて浮かぶ、旧友の思いがけない素顔とは?

新書です。
「扉は閉ざされたまま」 (祥伝社文庫)「君の望む死に方」 (祥伝社文庫)に続く、シリーズ第3弾です。
石持さんのシリーズでは、これが一番好きで、文庫になるのを待たずに買いました。
今回は、犯人対碓氷優佳、に加えて、犯人対被害者、という構図があります。贅沢な趣向ですね。
自らが捕まらないようにするだけではなく、どうして被害者は、犯人ではない人物のカフスボタンを持っていたのか? という謎に犯人が挑みます--というか、こちらがメインのような展開となります。
碓氷優佳との対決は、最後に急ぎ足で訪れます。もっとじっくり対決させてほしかったなぁ。
碓氷優佳は、犯人に対して被害者の意図をも解き明かすという親切な(?)役回りもつとめます。
この碓氷優佳のキャラクターはとても珍しく、おもしろいと思います。犯人が捕まるかどうか、誰が生きるか死ぬか、なんて全く興味がない。怜悧な推理マシーンみたいです。なので、犯人側から描く倒叙ミステリにはぴったりの探偵役です。
また、文中に出てくる「本来なら、わたしは動機なんて、どうでもいいと思っています。犯人の心にだけ存在するものですから。他人がどうこう言っても、何の説得力もありません。むしろ、他人の心境についてしたり顔で語るなんて、そんなみっともないことは、絶対にしたくありません」という碓氷優佳のセリフも興味深いですね。石持さんの作品は、無茶な動機がちょくちょく出てきて欠点として指摘されますが(たとえば、「扉は閉ざされたまま」 の動機で殺されたらたまったものではないと思います)、碓氷優佳のこのスタンスは、この点を無効化する(欠点を無効化するというのは変な表現ですが)ものだともいえます。
この作品の動機もかなり変ですが、倒叙ミステリなのでその動機が前提ということもありますし、この碓氷優佳のスタンスのおかげで推理の邪魔にならないことが確保されているので、捨象できるようになっています。
というわけで、このシリーズが石持さんでは最高のシリーズだと再認識しました。
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