アキハバラ@DEEP [日本の作家 石田衣良]
<裏表紙あらすじ>
社会からドロップアウトした5人のおたく青年と、コスプレ喫茶のアイドル。彼らが裏秋葉原で出会ったとき、インターネットに革命を起こすeビジネスが生まれた。そしてネットの覇権を握ろうとする悪の帝王に、おたくの誇りをかけた戦いを挑む! TVドラマ、映画の原作としても話題の長篇青春電脳小説。
この本、今年にはいって徳間文庫から出ましたが、もともと文藝春秋から出ていたもので、文庫も文春文庫で出ていました。上の写真は徳間文庫ですが、あらすじは文春文庫のものです。読んだのが文春文庫なので...(例によって積読でした。文春文庫版の表紙写真は下↓ に。)
石田衣良さんは、「池袋ウエストゲートパーク」 (文春文庫) の表題作で1997年に第36回オール読物推理小説新人賞を受賞して作家デビュー。若者の生態(?) を取り入れた作品で知られていますが、この作品もその一つ。
コンピュータとコスプレと言う、秋葉原を代表する2つをとりあげ、熱中する若者を主人公に据えています。
とはいえ、この作品でオタクを主人公にしていても、全体的に、大人の視点・考え方が感じられます。「池袋ウエストゲートパーク」 もそうなのですが、若者の視線やリアルさというのはあまり感じられません。
その意味で、多くの(大人の)読者が安心して読むことができるのが長所なのだと思います。したがって、若者やオタクの実際をよく知る人や、コンピュータ(およびその業界)に詳しい人には、違和感であったり、物足りない感であったりを感じさせることがあっても、作者は承知の上、計算の上、なのだと思います(とはいえ、若者視点でこのストーリーを読んでみたい気もします)--コンピュータに詳しくなくても、独創性は感じられず「インターネットに革命を起こす」ようなアイデアとは思えませんが、そんなアイデアがぽんと出て来るのを期待するのは無理だし、やむを得ないと思います。
語り手にちょっとした趣向が凝らしてあって、過去を振り返るという設定になっているので、最終どうなるか、という部分は早くから読者に明かされており、予定調和的なラストへめがけてストーリーが展開することとなります。こういうパターンの小説は、途中のディテールが命となるのですが、ちょっと凡庸な印象です。悪い大企業との対決、が見せ場のはずですが、これもずさんな計画と実力行使という組み合わせではちょっと誉めにくい。
全体として、キャッチーな要素を取材して齧って、いくつか組み合わせて、器用な作家がストーリーを組み立てました、という印象をぬぐい難い。
たとえば...「デジキャピは銀行からの借りいれはわずかだが、関連会社のあいだで融資を繰り返し、見かけ上の負債を大量に発生させ、ほとんど法人所得税は払っていなかった」(P246) というのはどういうことなのでしょうね? この書き方だと全体として税金は減らないと思います。
また、百二十万ボルトもの放電をするスタンガンを、組みついている相手に行使すると、体がつながっている以上、自分も大きくダメージを受けるのではないでしょうか? それでも大丈夫な服を着ている、とかいう説明もなかったような...
と、気になった点ばかりを列挙しましたが、石田さんは上手い作家なので、非常に滑らかに物語られていきます。なので、細部を気にしなければ、楽しく読めます。新しい(あるいは見かけ新しそうな)舞台で、少々のインチキやズルはあっても、弱いものが強いものに立ち向かう、という昔ながらの心地よいストーリーに浸るのは悪くないと思います。
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