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Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件 [日本の作家 や行]


Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 矢樹 純
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/08/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
おぞましい因習が残る、青森県P集落。大学の同僚教授・三崎忍に同行し、二十年ぶりに帰郷する「私」には、苦い思い出の土地だった。途中の新幹線で、「私」たちは同じ場所を目指す心理カウンセラーの桜木と出合う。が、雪で閉ざされた縁切り寺で「私」たちを待ち受けていたのは、世にも奇怪な、連続殺人事件だった。他人の秘密をのぞかずにはいられない窃視症探偵――ここに登場!

2012年は、「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉が4冊も同時刊行された年でして、この「Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件」もその1冊。第10回「このミステリーがすごい!」大賞の最終候補作から選ばれて出版されました。
「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)も同じ経緯です。第10回からはもう1冊「保健室の先生は迷探偵!?」 (宝島社文庫)が、最終候補ではありませんが、隠し玉に選ばれて出版されています。ちなみに、同時刊行の最後の1冊「公開処刑人 森のくまさん」 (宝島社文庫)は第9回「このミステリーがすごい!」大賞の最終候補作です。

帯によると「編集部が将来性を感じた作品を、著者と協議のうえ全面的に改稿」とのことですが、正直、苦しい作品だと思いました。同時期に出た4冊の隠し玉の中で、個人的には最下位です。
そもそも探偵というのは覗き屋なわけですから、窃視症探偵というのはかえって盲点というか、逆転の発想というか、意表をついていると同時に、役柄にうってつけのアイデアで期待したのですが... 作中ではきわめて普通に感じました(普通と感じているこちらがアブナイのかもしれませんが!? でも、探偵なんてこんなもんでしょう)。
因習の残る村、というのはよくある設定ですが、その因習が、ぴんと来ませんでした。説明はされているのですが、迫ってこない。迫力をもって描写されてしまうと堪らなくて読み進められなかったのかもしれませんが、つらそうではあっても、なんだか絵空事のようです(所詮小説なんて絵空事、なんですけどね)。
また、主人公をめぐるエピソードがつまらない。もともとミステリーの中では個人的に嫌いな手法というかテーマを用いているので、厳しく見ているという点はありますが、この作品はどうでしょうか。わりと早いタイミングで明かされるとはいえ、これはちょっと受け入れがたいと思いました。編集部もチェックし、こうやって出版までされているのですから、実際にありうることなのかもしれませんが、この作品のような書き方、使い方が可能なのであれば、ミステリ作家はなんでも好き勝手に書いて読者を煙に巻くことができてしまいますね。
この大きな2つの点がマイナスになっていて、全体として残念な作品になっています。
殺人事件については、ありきたりとはいえ、さまざまなアイデアを組み合わせて(上述の2つのポイントも、相応に組み込まれています)、なんとか意外性を演出しようと作られているので、衣装を全面替えしたら、あるいは、とも思いました。
シリーズ化できそうなエンディングとなっていて、その場合でもこの作品の主人公は使わなくてもよいので(主人公は探偵役ではありませんので)、窃視症探偵という特性を中心に据えて、都会を舞台にした作品を書いてみてはいかがでしょうか? それならぜひ読んでみたいと思います。

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