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烏は主を選ばない [日本の作家 あ行]


烏は主を選ばない (文春文庫)

烏は主を選ばない (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、優秀な兄宮が廃嫡され、日嗣の御子の座についた若宮。世継ぎの后選びには大貴族の勢力争いが絡み、朝廷は一触即発の異常事態に陥る。そんな状況下で、若宮に仕えることになった少年・雪哉は、御身を狙う陰謀に孤立無援の宮廷で巻き込まれていく…。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
シリーズの設定は、大矢博子による解説で簡潔に書かれていますが(興味を持たれた場合は、解説の2ページ目をさっと立ち読みされればよいと思います)、平安時代を思わせる舞台に烏が人間の姿をして暮らしていて、朝廷・宮中の様子が描かれます。
この「烏は主を選ばない」 は前作「烏に単は似合わない」とほぼ同じ時間軸となっています。
「烏に単は似合わない」は、お妃選びでしたが、その裏番組(どっちが表でどっちが裏かはわかりませんが)ともいえる、若君(若宮と呼ばれています)サイドのストーリーが描かれます。
(これはこれで、裏事情が分かって面白かったですが、せっかく2冊あわせてこういう構成を取ったのだから、2冊目を読むと1冊目の見え方が変わるとか、1冊目の人物の位置づけが変わるとか、そういう仕掛けがあるとミステリ好きにはより楽しめたでしょうね...完全なないものねだりですが)
「烏に単は似合わない」ではお妃に選ばれるための権謀術数が扱われていたのに対し、この「烏は主を選ばない」 では本家本元の皇位を巡る争いが扱われています。
日嗣の御子で、皇位を継ぐ者としての特徴(「金烏」と呼ばれています)を備えた奇矯な若君、対、人望厚い若君の兄を支持するものたちの争いです。
「奇矯な」と書きましたが、若宮はかなりの変人(変烏?)として描かれていまして(103ページからの、御前会議で御簾の内側の玉座から父親を追い出すシーンが圧巻です)、主人公である雪哉(若宮の側仕えに登用されちゃいます)とのやりとりは定番といえば定番ですが、楽しめます。
もっとも、雪哉だけではなく、若宮に対してはいろいろな人物がかなり失礼な言葉を投げ、振る舞いをします。いくらなんでも、どれほど若宮が変り者であろうとも、皇位継承者に対して失礼な発言をするものなどいやしないと思うので、このあたりの書き方はちょっとどうかなとも思いましたが、烏の世界ではそういうものなのかもしれないですしねぇ。うまく逃げ道を用意してあるな、と感心。
結構この皇位継承をめぐるエピソードはスリリングで、あれこれよく考えられていますし、前作同様、後半で絵姿を変えるところもポイント高いです(もっとも、前作で一度経験しているので、こちらがある程度身構えてしまっていますが)。この点を考えると、さきほど触れた御前会議のシーンはなかなか重要だったりして、ミステリでいうところのアンフェアな記述じゃないかな、と思える部分も興味深いです。

このあとシリーズは、
「黄金の烏」
「空棺の烏」
と続いているので、楽しみです。


<蛇足>
現代風のセリフが特徴ではありますが、それでも
「とんでもございませぬ」(47ページ)、(112ページ)
「力を尽くさせて頂きます」(214ページ)
「会合の様子を鑑みるに」(218ページ)、「向こうの事情を鑑みれば」(261ページ)
といった、現代ならではの誤用を盛り込むのは勘弁してもらいたいですね。
版元の文藝春秋も編集者や校正できちんと修正してあげてほしい。



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