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絞首台の謎 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/29
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
怪しげな人々が集うロンドンの会員制クラブを訪れた、パリの予審判事アンリ・バンコラン。そこに届く不気味な絞首台の模型に端を発して。霧深い街で次々と怪事件が起こる。死者を運転席に乗せて疾駆するリムジン、実在した絞首刑吏を名乗る人物からの殺人予告、そして地図にない幻〈破滅(ルイネーション)街〉――横溢する怪奇趣味と鮮烈な幕切れが忘れがたい余韻を残す、カー初期の長編推理。


「四つの凶器」 (創元推理文庫)感想で、
「絞首台の謎」は新訳を日本に置いてきてしまったので読めていません。旧訳では読んでいるんですけどね」
と書きましたが、一時帰国時に発掘しました。

読んだ順が変わってしまいましたが、バンコラン登場の第2作。
「夜歩く」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く作品で、「髑髏城」 (創元推理文庫)の前ということになりますね。
これでシリーズ制覇です。

創元推理文庫の旧訳版を読んでいるのですが(手元の記録によれば2004年に読んでいます)、まったく覚えていませんでした。
謎も、仕掛けも、犯人も......なにひとつ。
ここまですっかり忘れてしまっているとは。まあ、おかげで、初読のような楽しみ方をすることができたんですけどね(笑)。

死者が運転するリムジンとか、密室状況の部屋に忽然と現れる品々とか、不可能趣味、怪奇趣味溢れるかたちでカーは突っ走っています。
さらにバンコランの人と人とも思わないような態度が雰囲気を盛り上げていますよね。
正直、カーの作品の中では上出来とは言えませんが、バンコランの冷酷さが光っているので、そういう雰囲気に浸るにはうってつけの作品です。
最後に鼻歌なんて歌ってんじゃないよ、バンコラン。

伝説の絞首刑吏〈ジャック・ケッチ〉を名乗る脅迫者に付け狙われるエジプト人ニザーム・エル・ムルク。彼をとりまく秘書、従僕。知り合いのフランス女性コレット。
舞台となるプリムストーン・クラブに宿泊する元ロンドン警視庁副総監ジョンに、バンコランにジェフ。ジョンの友人ダリングズに医師のピルグリム。
非常に限定された登場人物で物語が展開し、10年前にフランスで起きた決闘騒ぎが由縁と推理をすすめていくのですが......

真相はそこそこ無理があるものになっていますが、それでも手がかりはあちらこちらに忍ばせてあり、デビューしてすぐの作品とはいえさすがカーというところ。最終章でバンコランが振り返って推理を開陳するところでは、なるほどー、と思うところ連発で、謎解きには満足できました。

最後に、巻頭にある登場人物一覧がおもしろかったですね。
リチャード・スマイル ニザームのお抱え運転手。運転席で首を切られ、ドライブを満喫
とか
シャロン・グレイ 妙齢の英国美人。災難やジェフと好相性
とか、ちょっとおふざけの利いた感じになっています。

万人向けの作品ではないとは思いましたが、カー好きなら、あるいは怪奇ミステリ好きなら、お手に取ってみてください。


<蛇足1>
「探偵は一度もしくじらない。それこそ、まさに私の求めるものだ。作家がなぜ探偵を凡人に仕立てたがるか理解に苦しむよ。こつこつと足で稼ぎ、しくじりかねないのに頑固一徹というーーばかばかしい! むろん、本物の頭脳明晰な人物造型の才に欠けるために代用品で押し切る魂胆なのだろうが……」(108~109ページ)
バンコランが読書中のミステリ小説に関連し、ジェフに語る内容です。
カーの本音?

<蛇足2>
「証拠だけをもとに話を進めますよ。まずは初心に戻って一から。」(116ページ)
タルボット警部の台詞です。
ここでいう初心は、一般的に誤用されている初心の意味合いですね。新人のころの(新鮮な)気持ち。
世阿弥の「初心」とは解釈が違いますが、広まっている使われ方なのでやむを得ないのでしょうね。

<蛇足3>
「おーーお廊下の奥です。ご案内をーー」(178ページ)
小間使いの台詞です。
お廊下!? 廊下につける接頭辞は「お」なのか......そもそも廊下に美化語をつけるのか、というのもありますが......




原題:The Lost Gallows
著者:John Dickson Carr
刊行:1931年
訳者:和爾桃子





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