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二千回の殺人 [日本の作家 石持浅海]


二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

二千回の殺人 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
不可抗力の事故で最愛の恋人を失った篠崎百代。彼女は復讐の為に、汐留のショッピングモールで無差別殺人を決意する。触れただけで死に至る最悪の生物兵器《カビ毒》を使い、殺戮をくりかえす百代。苦しみながら斃れていく者、逃げ惑う者、パニックがパニックを呼び、現場は地獄絵図と化す――。過去最大の密室で起こった、史上最凶の殺人劇。


いやあ、石持浅海、また変なこと考えましたねぇ。
と前回感想を書いた「カード・ウォッチャー」 (ハルキ文庫)(感想ページはこちら)と同じ書き出しで始めてしまいますが、今回はスケールがでかいですよ。なにしろ大型商業施設(ショッピングモール)を舞台に二千人以上を殺そうというのですから。

これだけスケールがでかいと、石持浅海の欠点が強調されてしまいます。
それは、動機。
本書の単行本時点でのタイトルは「凪の司祭」
都心への海風を遮ってしまうビル憎しから......この動機で殺されたら、テロを起こされたら(もうこれはテロです。作中ではテロではない、と言っていますが)、たまったもんじゃないなぁ。
まあ、いつものことだと思って、ここはスルーするしかないですね。

舞台となるのは商業施設「アルバ汐留」。ショッピングモールという設定です。
「それにしても、この施設はどうして横長にしてしまったのだろう。おかげで、移動が大変だ。六本木ヒルズみたいに、タワーにまとめてくれたらいいのに。土地の確保の問題なのかもしれないけれど、これでは建物というより、壁だ。」(209ぺージ)
「アルバ汐留は、四つの建物が横につながってできている。だから移動するには、建物を伝いながら延々歩かなければならない。
 まったく、いったい誰がこんな設計にしたんだよ。
 呉はフロアガイドをたたみながら思った。これじゃあ、商業施設というより、壁だ。」(223ページ)
と書かれていますが、うーん、壁、ですか。
通路の両側に店舗が並んでいる建物が連なっているのでしょうが、これ、壁と連想するでしょうか?
実際にものを見ているわけではないのでなんとも言えないのですが、人間が直感的に壁と連想するものよりは幅があるのではないかと思いますし、モールだと高さも壁と呼ぶには足りない気がします。
あと、引き合いに出されている六本木ヒルズ。複合再開発でタワーが印象的ではありますが、商業施設部分は決してタワーにまとめられているわけではないですけれど......あちらもかなり広範囲に広がっていますが......
汐留あたりのマンション群を、屏風にたとえたりすることはありますが、壁、ねえ......

さておき、このモールを舞台に、大量殺戮です。
ここがこの作品の勝負の分かれ目だと思いますが、ここはよく考えられているなぁ、と思いました。
トリコセテン・マイコトキシンという特殊な毒が効果的です。
(この毒、ネットで検索すると、トリコテセン・マイコトキシン、となっていますね......?? わざと変えてあるのでしょうか?)
また、モールの警備、管理会社、警察等々の動きにどう対応していくのか。
考えてみれば、石持浅海は論理を積み重ねていくのが得意な作家ですから、こういうふうに状況をシミュレーションして対策を立てて展開していくのは、向いているのかも。
展開はスピーディだし、読み応えたっぷり。
一方で、殺される側の人のエピソードがはいっているのは、ちょっと読むのがつらいんですが......

全体としては、動機を無視すると(!)、怪作で快作だと思います。


<蛇足1>
「藤間が言葉を切ると、天使が通り過ぎたような居心地の悪さが、店内を支配した。」(33ページ)
会話の途中でふっと静かになることを、フランス語で天使が通り過ぎる、通り過ぎた、と言いますが、それの連想でしょうか? 

<蛇足2>
「そんなことを考えながら通路を歩いていたら、ふといい香りが鼻をついた。周囲を見回すと、吹き抜けを通して三階が見えた。レストラン街だ。この香りはコリアンダーだったと思う。」(210ページ)
好みは好き好きということなのであれですが、コリアンダーの香りをいい香りと感じるんですね......
個人的にはかなり違和感があります。






タグ:石持浅海
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