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風よ僕らの前髪を [日本の作家 や行]


風よ僕らの前髪を

風よ僕らの前髪を

  • 作者: 弥生小夜子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/05/10
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
早朝、犬の散歩に出かけた公園で、元弁護士の伯父が何者かに首を絞められて殺害された。犯人逮捕の手がかりすら浮かばない中、甥であり探偵事務所勤務の経験を持つ若林悠紀は、養子の志史を疑う伯母の高子から、事件について調べてほしいと懇願される。悠紀にとって志史は親戚というだけでなく、家庭教師の教え子でもあった。中学生の頃から他人を決して近づけず、完璧な優等生としてふるまい続けた志史の周辺を調べるうちに、悠紀は愛憎が渦巻く異様な人間関係の深淵を除くことになる。圧倒的な筆力で選考委員を感嘆させた第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。


2022年9月に読んだ12冊目の本。単行本です。
第30回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。
このときの正賞受賞作は千田理緒「五色の殺人者」(感想ページはこちら

養母から養父殺しを疑われる少年立原志史(しふみ)──少年といっても大学四年生なのですが──という設定からして不穏なのですが、調査を進める悠紀の前に現れてくる志史の交友関係、人間関係。
ホームレス状態だった志史の実父が建築現場の足場から飛び降り死。警察の捜査では実父が養父を殺したようで。建築現場の建築主は小暮理都(りつ)。志史の中学時代の友人で互いに通じ合っているように傍からは見えていたのだが、中学三年生の時に絶交していた。理都の家庭も複雑な事情をはらんでいたことが次第に判明し......
とこのような流れで物語は展開していくのですが、 ネタを割らないように気を付けて書いたつもりでも、これだけ読めば大方の読者には、作者の用意した真相の筋書きが予想できてしまうと思います。しかも、わりとよく見るパターンの物語。
あまりにも物語のネタが割れやすい。ミステリとしてみれば大きな欠点だと思います。

帯に
これは罪と罰、そして一生終わらない初恋の物語だ。
 才能と環境に恵まれた二人の少年。
 その周辺では不審な死が相次いでいた────」
とあって、読後、いくらなんでもネタを割りすぎだろう、と感じたものですが、この作品はミステリとして謎解きを楽しむよりも、別の面を見るべき作品だと思われるので、これでよいのかもしれません。

ミステリとしてみれば、ネタが割れやすく、かつ、登場人物たちの置かれた状況や年齢を考えると、スッキリしない部分も残るので決して高く評価はできないと思います。
この点だけを捉えれば、正賞ではないとはいえ、鮎川哲也賞の優秀賞を受賞したのが不思議なくらいです。

ところが、です。
この作品は面白かったです。
読んでいただければわかりますが、主役二人が鮮烈に印象に残ります。

タイトルは、理都が高1のときに文芸部の作品集に書いた短歌からとられています。
「風よ僕らの前髪を吹きぬけてメタセコイアの梢を鳴らせ」(130ページ)
「翼の墓標 十首」と題されたうちの一首ですが、他の九首もなかなか味わい深いです。

この二人の存在が、ミステリとしての不満を吹き飛ばしています。
だから、ミステリの要素はもっともっと薄めにして、それ以外のエピソードに極力絞ったほうが良かったのではなかろうかと思いました。
鮎川哲也の名を冠した賞であることを考えると残念ではありますが。


<蛇足>
「それで私が立ち読みしてたほんの話でもりあがって。北欧のホラー作家の短編集だったんですけど、志史くんもその人の小説が好きだって……」(25ページ)
ここでいう北欧のホラー作家って、誰でしょうね?
文庫になっている、という手がかりもあるのですが、わかりませんでした。





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