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トリックスターズD [日本の作家 か行]


トリックスターズD (メディアワークス文庫)

トリックスターズD (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住 四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界がひっくり返る驚きを味わう!
西洋文化史の異端の系譜「魔学」を説く、風変わりな青年教授。そして、不本意ながら先生の助手に収まったぼく。推理小説を象った魔術師の物語、待望の復刊第3弾。
学園祭という日常の非日常で起きる奇妙な監禁事件。それに二人が関わると展開はもう予測不可能!
ソリッドシチュエーションをあざ笑う奇抜な設定に幻惑され、めまいを起こすこと間違いなし。現実と虚構の境界が曖昧になり、読んでいる者も狐につままれる。衝撃のラストは必見!


2023年5月に読んだ10冊目の本です。
久住四季の「トリックスターズD」 (メディアワークス文庫)

「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら
「トリックスターズL」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)
に続くシリーズ第3作。

今回の舞台は城翠学園の学園祭、城翠祭。
巻頭にまえがきがあり、
「本作には、『トリックスターズ』『トリックスターズL』の二作を読了したあとにこそ真の面白みを味わえる、ある仕掛けが施されています。」
と書かれています。
続く目次は
「in the "D"aylight」 という章と、「in the "D"ark」という章に分かれています。
「in the "D"ark」が総合科学部A棟の闇に閉じ込められた周たちの物語で、「in the "D"aylight」はその前後の話となっています。
そして周と凛々子の友人で、推理小説研究会に所属する扇谷(おうぎがやつ)いみなが、「トリックスターズ」「トリックスターズL」と題するミステリをものにしていて、ミス研の批評会で取り上げられていた。その作品は、現実をモデルとした実名小説で、このシリーズの前作、前々作の内容のよう。
「in the "D"aylight」 「in the "D"ark」と章が分かれているのも、この「作中作」を反映したものなのだな、と推測できます。

シリーズ第3作で作中作を扱う、という建付けからして、すぐに綾辻行人の《館》シリーズを連想したのですが、《館》シリーズについてはあとがきでも触れられていました。
作中作って、難しいと思うんですよね、書くのも、読むのも。
実は読後すぐは「あまり感心できないな」という感想を抱いたのです。
というのも、作中作と分かった段階で、まえがきでいう「ある仕掛け」の凡その見当がついたと思ったからです。
そしてその部分はその通りだったからです。
非常に慎重に、そして細かいところまで作りこまれていますが、サプライズという点は甘いと考えたのです。

しかし、感想を書こうとして振り返ってみて、誤解していたことに気づきました。
話が進んでいくと、作中に展開する現実と、我々読者が認識している「トリックスターズ」の物語とに齟齬があることがわかってきます(いみなによる実名小説は、我々読者が認識している方のようです)。
とすると、「トリックスターズD」の構造は、「in the "D"aylight」 の世界と、魔術師によって封じ込められた「in the "D"ark」の世界と、既存の『トリックスターズ』『トリックスターズL』を作中作として取り込んだ3層構造になっているのを、単純な「作中作」ものだと誤読していたと思えてきました。
この3層がどのように重なり、あるいはずれ、どのように互いに影響を与えているかを読み解くべき物語だったのですね。
少々ネタバレ気味ですが、現実と作中作の位置づけの位相をずらしてみせた作品として印象に残りました。
「作中作」は、たしかに仕掛けの重要な一部なのですが、読者をだますための仕掛けではなく、読者(とある登場人物)に真相を気づかせるための仕掛けになっていた点も興味深いです。

前作「トリックスターズL」感想で、「前作をしっかりと踏襲しつつ、前作と対になるミステリ世界を構築している」と書きましたが、この「トリックスターズD」も同様で、「前作、前々作をしっかりと踏襲しつつ、前作、前々作と対になるミステリ世界を構築している」点が素晴らしいと思いました。

と褒めておいて、気になる点を。
真相が明かされてから読み返してみると、あれっと思うところがあります。たとえば233ページの、周と凛々子のシーンをどう解釈するか、というのは気になりますね。明かされた真相の通りだとするのなら、こういう展開になるかな?

とはいえ、とても楽しい作品でした! 続きが楽しみです。

最後に、
時無ゆたかの「明日の夜明け」 (角川スニーカー文庫)を久住四季は読んだことがあるのでしょうか?
「in the "D"ark」に似ているところが多々あり、気になりました。




<蛇足>
「店長な、見た目あんなで超ラテン系だけど、実は浅草出身で、すげー祭り好きなんだってさ。」(18ページ)
一瞬「ラテン系」はそもそも「祭り好き」なのに、なぜ「だけど」なのだろう? と思ったのですが、この「だけど」は「浅草出身」にかかるものだったのですね。





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