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ノッキンオン・ロックドドア [日本の作家 青崎有吾]


ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

ノッキンオン・ロックドドア (徳間文庫)

  • 作者: 青崎有吾
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: 文庫

 密室、容疑者全員アリバイ持ち──「不可能」犯罪を専門に捜査する巻き毛の男、御殿場倒理。ダイイングメッセージ、奇妙な遺留品──「不可解」な事件の解明を得意とするスーツの男、片無氷雨。相棒だけどライバル(?)なふたりが経営する探偵事務所「ノッキンオン・ロックドドア」には、今日も珍妙な依頼が舞い込む……。新時代の本格ミステリ作家が贈るダブル探偵物語、開幕!


2024年2月に読んだ最初の本の感想です。
青崎有吾の「ノッキンオン・ロックドドア」 (徳間文庫)

「ノッキンオン・ロックドドア」
「髪の短くなった死体」
「ダイヤルWを廻せ!」
「チープ・トリック」
「いわゆる一つの雪密室」
「十円玉が少なすぎる」
「限りなく確実な毒殺」
以上7話収録の短編集。

不可能専門と不可解専門。
探偵のキャラクターを2つに分けるとは、考えましたねぇ。
トリックの解明に強い不可能専門の御殿場倒理、動機や理由を探るのに強い不可解専門の片無氷雨。
この点だけではなく外見含めてキャラクター分けがくっきり説明されています。
そして二人の探偵事務所の名前が「ノッキンオン・ロックドドア」
名前の由来は第2話「髪の短くなった死体」の冒頭で説明されていますが、正直今一つピンと来ない。

青崎有吾といえばデビュー作の「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)を読んだ時の衝撃が忘れられません。
平成のエラリー・クイーンと惹句に書かれることの多い青崎有吾で、特にデビュー作から始まる裏染天馬シリーズではきらめくばかりのロジックに完全に魅了されました。

この「ノッキンオン・ロックドドア」 (徳間文庫)では、華麗なるロジックで「謎を解く」路線から「謎そのもの」へと作風の幅を拡げた印象があります。

「ノッキンオン・ロックドドア」 の密室トリックはおもしろいアイデアで、似たような事象には平凡な日常でも割と出くわすもののように思いますが、これがミステリのトリックとして成立するんですね──といいつつ、ちょっとうまくいかないのでは? と思うところもないではないです。
この作品で穿地決(きまり)警部補登場。二人の大学時代の同ゼミ生ということがのちにわかります。

「髪の短くなった死体」はタイトル通り、死体の髪を切ったのはなぜか、という不可解。髪もそうですが、死体は浴槽にあるのに下着を身につけている、というのも謎ですね。
ミステリらしい理由が考えられていまして、なるほど。

「ダイヤルWを廻せ!」はダイヤル式の金庫の組み合わせがわからないという謎。金庫の持ち主は深夜に路地で脳挫傷で死んでいた79歳の男。
金庫の謎と老人の死が鮮やかに結びつけられます。ただ、これ検死で死因がもっときっちりわかってしまうのでは?と思います(わかってもミステリとして困るわけではありません)。

「チープ・トリック」は、室内の様子をうかがえない室外からどうやって被害者を狙撃したのかというう謎。割と古典的なトリックだとは思いましたが、人物配置がミソ。
そしてこの作品には、レギュラー陣となる新しい人物が登場します。
「チープ・トリック」と呼ばれる糸切美影。こちらも穿地警部補同様、二人の同ゼミ生。
犯罪組織に(とは限らないかもしれませんが)犯罪の立案と口頭での助言を与えることを生業にしています(!)。

「いわゆる一つの雪密室」は、タイトル通り雪密室。
この足跡トリックは定番中の定番とも言える仕上がりなのですが、同時に繰り出される指紋トリック(?)がとても鮮やかで印象に残ります。
これ、いままで誰も使っていないトリックのように思いました。

「十円玉が少なすぎる」は、タイトルから連想される通り、ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を彷彿とさせる作品。
ただ状況からすると「十円玉が少なすぎる。あと五枚は必要だ」というセリフでは生ぬるく、五枚どころかもっともっと大量にいるような気がするのですが......

「限りなく確実な毒殺」は唯一毒の入っていたグラスを被害者がつかみ取り毒殺されたという謎。
被害者が政治家ということで、糸切美影が(裏で?)活躍しています。
非常に強烈かつ印象的なトリックが使われています。これは、すごい。


ミステリファンを喜ばせる仕掛けが多々あったり、トリックも創意にあふれたものだったり、と青崎有吾が今回開けてみせた引き出しは豊穣でした。
作風の幅は確実に広がったと思います。
これからもいろいろな切り口で拡げっていってくれるのではと強く期待しております。

<蛇足1>
タイトルのロックド。
英語では Locked で、発音は ”ロック” ですが、日本では慣例的に ”ロック” ですね。

<蛇足2>
「このままだと殴られかねないので、行きがけに買ったうまい棒のバラエティパック十本入りセットを献上した」(106ページ)
「ぶつくさ言いつつもさっそくコーンポタージュ味を食べ始める女刑事」(107ページ)
青崎有吾は、コーンポタージュ好きなのでしょうか?
「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」(講談社タイガ)(感想ページはこちら)にはコーンポタージュ味のアイスクリームが登場していましたね。

<蛇足3>
「死体に弾が食い込んだ角度なんてあてになるかよ」と、倒理。「国名シリーズ読んでないのか?」
「あいにくここはロデオショーの会場じゃない」(133ページ)
ミステリファンをくすぐってくれますね。
でも、「アメリカ銃の謎」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)ではわりと角度が決め手になっていたような......??

<蛇足4>
「俺はご馳走にありつく前みたく、手袋をつけた両手をすり合わせる。」(168ページ)
「アンデッドガール・マーダーファルス 1 」(講談社タイガ)も同様でしたが、未だ「みたく」が地の文で出てくるのに違和感を感じますね。
ネットで調べると、方言みたいですね。


<蛇足5>
「氷雨は着痩せするタイプで、意外と体が引き締まっている。」(182ページ)
「着痩せ」は女性にのみ使う言葉で、男には使わないんだ、と昔言われたことがあります。
ここの例のように、男性に使ってもいいですよね!

<蛇足6>
「休憩がてら倒理さんに貸してもらった『血染めのエッグ・コージイ事件』という本を読み始めたらこれがめっぽう面白く」(203ページ)
扶桑社ミステリから出ていたジェームズ アンダースン作のミステリですね。
もとは文春文庫から「血のついたエッグ・コージイ」というタイトルで訳されていましたね。
あと、この部分は女子高生である薬師寺薬子が語り手なのですが、「がてら」とか「めっぽう」とか、なかなかクラシックな語法の高校生ですね。

<蛇足6>
私が「なんですか」と聞くと、探偵さんたちはお互いを指さして、再び声をそろえました。
「「公衆電話」」(217ページ)




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