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真実の檻 [日本の作家 下村敦史]


真実の檻 (角川文庫)

真実の檻 (角川文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
1994年、現職の検察官が殺人犯として逮捕され、死刑判決を受けた――2015年、大学生の石黒洋平は、母が遺した写真から実の父がその死刑囚・赤嶺信勝であることを知ってしまう。苦悩する洋平は冤罪の可能性に賭け、雑誌記者の夏木涼子と私的な調査を開始する。人はいかにして罪に墜とされてゆくのか、司法とは本当に公正なものなのか、そして事件の真相は!?『闇に香る嘘』の新鋭がおくる、迫真のリーガルミステリ!!


下村敦史の長編第4作です。

自分には実の父がいて、死刑囚で獄につながれているということを母親の死を契機に知った主人公が冤罪であってほしいと調べ始める。

切実ですよね、これ。
ところが、父親の事件である赤嶺事件そのものよりも、他の冤罪事件を調べる、という風に話が流れていくのがとても興味深かったですね。

なので、章立ても、
プロローグ
発覚
第一章 痴漢冤罪疑惑事件
告白
第二章 覚せい剤使用疑惑事件
追究
第三章 ヒ素混入無差別殺人事件
面会
第四章 赤嶺事件
エピローグ
となっています。

いくつかの冤罪事件の真相を探っていくのもおもしろかったですし、その途上で明かされる司法や警察の姿もとても興味深かったです。
なので、下村敦史、おもしろいよねー、というのは間違いないのですが、この作品の場合、根本のところがちょっと理解できませんでした。
この真相はないなー、という感じです。
赤嶺事件の犯人は誰だったのか、という部分は、想定通りでしたが、ここが問題です。
主人公の母は、育ての父は、どういう気持ちだったのでしょうか? 
また、獄中の実父の感情も謎です。
このあたりが一番理解できません。
ここが理解できるようにならないと、この作品は成功とはいえない気がします。







<蛇足1>
「ペンは剣よりも強しって、聞いたことあります?」
「はい。ジャーナリストが独裁的な政治家とか暴力的な悪党を記事で批判するときの決まり文句、ですよね。正義を訴える言葉はどんな暴力にも勝る、みたいな意味の」
「言論の強さを訴える名言として使われていますけど、実際は違うんです。原点は十九世紀の戯曲『リシュリュー』に登場するフランスの枢機卿リシュリューの台詞です。権力者にとっては、ペン一本あれば逮捕状にも死刑執行令状にもサインできるから、自分がわざわざ剣で戦うよりも強い、という民衆への脅迫なんです」(142~143ページ)
このエピソード、以前にもどこかで読んだことがあるように思いますが、忘れていて、おやっと思いました......

<蛇足2>
人一倍真面目で、何事にも一生懸命な奴だった(165ページ)
毎度のことで恐縮ですが、一生懸命は目障りですね。

<蛇足3>
『~結果の重大性を鑑みて死刑判決が妥当』という馬鹿げた判決理由で(187ページ)
これ、裁判の判決からの引用なのですが、判事さん、鑑みて、なんて誤用をしますかね? 
父親の思想と由美の苦しみを鑑みれば(317ページ)
という箇所もありますね......
どうも鑑みる=考える、という感じで使われているようです。

とても面白いので、売れっ子作家になってほしい作家さんではありますが、書き飛ばしたりされないよう祈念しています。


<2020.4.22追記>
冒頭の書影が違う本のものを使っていましたので、修正しました。
失礼しました。

タグ:下村敦史
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叫びと祈り [日本の作家 さ行]


叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)

  • 作者: 梓崎 優
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/11/29
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第5回ミステリーズ! 新人賞受賞作を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。各種年末ミステリ・ランキングの上位を席捲、本屋大賞にノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作。


第5回ミステリーズ! 新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を含む5話収録の連作短編集で、
「このミステリーがすごい! 2011年版」第3位、「2011本格ミステリ・ベスト10」第2位、週刊文春ミステリーベスト10 第2位です。
デビュー作でこれはすごいですねぇ。

基本的構図は、斉木という旅人が異国で経験する謎を描いています。舞台となっているのは、各作品ごとに
「砂漠を走る船の道」サハラ砂漠
「白い巨人(ギガンデ・ブランコ)」マドリッドの郊外の風車の街レエンクエントロ
「凍れるルーシー」モスクワの修道院
「叫び」アマゾン
「祈り」インドネシアのモルッカ諸島にあるゴア・ドアという洞窟寺院、東ティモール
です。

最初の「砂漠を走る船の道」がやはり素晴らしいですね。
ちょっとした仕掛けが施されていて、その部分にはあまり感心しなかったのですが、それを割り引いても傑作だと思いました。
いや、すごい動機ですよね、これ。

「白い巨人(ギガンデ・ブランコ)」の人間消失のトリックは、少々どころか大きな難あり、と言われてしまいそうですが、スペインのあの強烈な日差しの元では十分あり得るような、そんな気がしました。そして、このトリック、スペインの白い風車の立ち並ぶ世界に似合っていると思うのです。この作品にもちょっとした仕掛けが施されていますが、これはまあ、ご愛嬌という感じですね。

ここまでは素直に楽しんだのですが、個人的にはこの後から少々怪しくなってきます。

「凍れるルーシー」は、ウクライナに隣接する南ロシアの丘陵地帯に位置する修道院に眠る不朽体(生前の姿を留める遺体)を扱っていて、これが目くらましになって、殺人事件が切れ味鋭く解決される、と言いたくなるところが、ラストで違う意味でびっくりさせられました。えっ!? 本件、そういう話なの?

「叫び」は、アマゾンでエボラ出血熱かと思われる疫病で集落が全滅しそうなときにおこる殺人事件を扱っています。もう死ぬことがわかっているのに、なぜ殺すのか、というホワイダニットを扱っていますが、これがなかなか印象深い。異形の動機ですが、物語にはふさわしいものになっています。

そして最後の「祈り」。これ、問題作ですよねぇ......
正直、個人的にはこの作品をどう受け止めてよいのかわかりませんでした。
解説に書かれているように、「サナトリウムのような場所で、患者と訪ねてきた友人の間でささやかなゲームが開始される。やがて明かされる事実とは……」という話で、ミステリからはみ出た部分がこの作品の魅力なのだと推察するものの、その部分が個人的には消化不良でして......
もっともっと斉木の物語を読みたいのですが、斉木はどうなってしまうのでしょうか??

「砂漠を走る船の道」と「叫び」で動機に触れましたが、解説で瀧井朝世がポイントをまとめています。
「本作で重要なのは犯人の動機である(事件が起きない話もあるものの)。本書で起きる人殺しの発端にあるのは、個人的な怨恨や憎悪ではない。彼らが人を殺す動機には必ず、その文化に根差した価値観が隠れている。その多くは日本人にとって馴染みのない異文化の論理であり、それこそが推理のポイントだ。ここにこそ、海外を舞台に選んだ意義がある。というのも、本作ではトリックのために都合のよい土地が選ばれたというよりも、その土地の文化的特性から謎の種類が選ばれたという感があるからだ。真相が明らかになるたびに、その国、その文化に生きている人々の切実な想いが浮かび上がる。読者はその者が背負う物語を感知できるのだ。」
この解説、ここ以外にも読みどころの多い素敵な解説です。


<蛇足>
「凍れるルーシー」に以下のような会話が出てきます、
「日本から取材でお越しだということですがーー日本では、キリスト教といえばプロテスタントですか?」
「そうですね。信徒の数はわかりませんが、一般的なイメージだと、やはり」(143ページ)
そうなんですね。知りませんでした。
なんとなく、日本のキリスト教は、イエズス会が最初だったのでカトリック優勢なのかと思っていました。


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土蛍 猿若町捕物帳 [日本の作家 近藤史恵]

土蛍: 猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

土蛍: 猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
南町奉行所の定町廻り同心・玉島千蔭は、猿若町の中村座から三階役者が首を吊ったと知らせを受ける。早速かけつけた千蔭は、骸があった場所でその死に不審を抱く。調べを進める千蔭の前に明らかになってきたのは、芝居の世界に横たわる漆黒の「闇」だった(表題作「土蛍」)。人気シリーズ、待望の第五弾は、珠玉の短編四編を収録。読者を唸らせる時代推理小説の大傑作。

「巴之丞鹿の子 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「ほおずき地獄 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「にわか大根 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「寒椿ゆれる 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
に続くシリーズ第5弾。
「むじな菊」
「だんまり」
「土蛍」
「はずれくじ」
の4話収録です。

「むじな菊」は、するっと最後に下手人を玉島千蔭がつきとめるところがすごいですが、人情話というには怖い話だなぁ、と思いました。

「だんまり」は、賭博狂いの兄とそのために苦労する妹の話なのですが、ラストの妹のセリフ、客観的には、いいラストではあるのですが、ちょっと唐突感があって納得しにくい感じがしました。伏線を読み落としたでしょうか? パラパラと見た感じではそれらしいものはわかりませんでしたが。

「土蛍」は、梅が枝の身受け話という、ある意味シリーズ的には爆弾投下のエピソード。さて、さて、どうなりますことやら、という感じではあるのですが、芝居の世界、武家の世界そして遊女の世界というまったく異なった世界3つを切り結んで、納得のいく着地にたどり着きます。なるほど。
しかし、巴之丞が役者稼業について語るセリフ
「ときどき、あまりの業の深さに、ぞっとすることがあるのです。生きていくには充分すぎる金を手に入れ、女には好かれ、客には拍手喝采を浴びる。なのに、喉が渇いてならぬ気がするのです」
「そして、喉の渇きを覚えるものだけが、役者として大成できるのかもしれない、とも……」(230おページ)
というのが怖い。

「はずれくじ」は、切れ味するどい、と言いたいところですが、これはちょっとアウトでしょうねぇ。被害者のモノローグで始まるのですが、ちょっとあざとすぎる気がします。このシリーズのトーンに似合っていません。

ということで、シリーズの中ではちょっと落ちる出来かな、と思えましたが、近藤史恵のこと、しっかり楽しく読むことができました。
シリーズ次作が楽しみです。早く書いてくださいね。



<蛇足>
「大変申し訳ございません。まさかそんな恐ろしいことだとは……」(76ページ)
「まことに申し訳ございません……」(78ページ)
「滅相もございません!」(79ページ)
わずかな間に、3連発。さすがに気になりました。
「申し訳ございません」という表現、正しい表現だ、という方もいらっしゃるようですが、違和感は否定できません。
少なくとも、時代小説には似つかわしくない表現だと思います。
「滅相もございません」というのは初めて目にしましたが、こういう言い方もするんですねぇ。
「とんでもございません」というのも使ってもらえれば、制覇したということになったのかもしれませんね。



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COVID-19下のロンドン [イギリス・ロンドンの話題]

日本でも報道されているかと思いますが、COVID-19のおかげでロンドンも他のヨーロッパ諸国同様外出規制が敷かれています。
外出規制の度合いは、国によってそれぞれですが、今のところイギリスで認められている外出は
① どうしても必要な出勤
② 必要な品物の買い物
③ 家族・親族のケアのための外出
④ 一日一度、運動のための外出(一人、あるいは同居家族でできるもののみ)
となってい(ると思い)ます。

また、お店もスーパーマーケットやドラッグストアを除いては閉まっています。
カフェも、レストランも、パブも、クラブも、映画館も、博物館も、劇場も、スポーツジムも、教会(!)もすべて閉まっています。レストランはごく一部テイクアウトのみ営業している場合がありますが、ごくごく一部です

一昨日、昨日(土曜日と日曜日です)などはとても暖かく、天気もよかったので、絶好の外出日和でした。
運動ということで、お散歩に出かけました。
途中何度もおまわりさんやパトカーと行き違いましたが、何も言われませんでした。
公園の草地で寝転んでいたりした人は注意されていましたけどね。運動でない不要な外出はだめ、ということですね。
本来強制力あり、かつ罰則も設けられているはずですが、あまり強引なことは警察も今のところやりたがっておらず、注意するにとどめているようです。よほど悪質な場合は別でしょうけれど。

日本はまだまだ規制は緩いですが、今後が心配ですね。
ご参考までに、いかに街中が閑散とするのか、写真をのっけてみようと思います。

オックスフォードサーカスから北を向いて。
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オックスフォードサーカス
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今回もリバティ撮りました。
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リージェント・ストリート。
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ピカデリー・サーカスもこんな感じです。(逆光ですみません)
DSC_0171.jpg
中華街も人っ気がありません。
DSC_0180.jpg
レスター・スクエアが普通の公園に見えます(笑)。
DSC_0184.jpg
コヴェント・ガーデン。
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コヴェント・ガーデンの中の方もこんな感じです。
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ちょっぴり個人的趣味が入って、ロイヤル・オペラ・ハウス
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ロンドン名物電話ボックスもこの通り。
これ、コヴェント・ガーデンにあるものなので、普段なら人だかりがすごいんですが。
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トラファルガー広場から見るナショナル・ギャラリー。
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バッキンガム宮殿につづくマル、と、その先にあるヴィクトリア・メモリアル。
DSC_0235.jpgDSC_0129.jpg
ガラガラでも、衛兵はいました。当たり前か......
宮殿の上の旗がユニオン・ジャックでしたので、女王陛下は不在。いらっしゃるときは王室旗。
ウィンザー城に今はいらっしゃいます。
衛兵交代はしていないのでしょうね、きっと(未確認)。
DSC_0128.jpg
こんな天気のいい暖かい日には公園には緑の上で休んだり、ひなたぼっこをしたりする人があふれかえっているものなのですが、当然、そうした人もいません。
まあ、上述のとおり、ひなたぼっこなんかしていたらおまわりさんに注意されちゃうでしょうけれど。
DSC_0238.jpg
最後は、クリスマスのとき同様、家の近くのヴィクトリア駅。
DSC_0115.jpg
DSC_0111.jpg
ちなみに、地下鉄の駅にはこんな張り紙が。
DSC_0103_.jpgDSC_0105_.jpg

なんか、クリスマスのときといい、閑散としたロンドンの写真ばかりをアップしている気がしますね(笑)。


<おまけ>
当然ながら、マクドナルドも閉まっています。
その張り紙。2枚目にあるように、店の中には金目のものないよ、と掲示してあるのが日本と違いますね......マクドナルドに金狙いで入り込む人いるんでしょうか??
DSC_0107.jpgDSC_0109.jpg


<2020.4.7追記>
BBCの記者が同じような写真をBBCのHPにアップしているのに気づきました。リンクを貼っておきます。
Coronavirus: Sophie Raworth's deserted London
日本語版にもありますね。
【写真で見る】 ほとんど無人のロンドンを走る


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泥棒はスプーンを数える [海外の作家 は行]

泥棒はスプーンを数える (集英社文庫)

泥棒はスプーンを数える (集英社文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「ALLB」と記されたマニラフォルダーに包まれていたのは、フィッツジェラルドの最初の手書き原稿。匿名と思しきミスター・スミスに依頼され、難なく盗み出した泥棒探偵バーニイ・ローデンバー。第二の依頼もまたフィッツジェラルド絡みだった。そんな中、東92丁目で老婦人殺害事件が発生し、刑事のレイに呼び出されたバーニイが真相を追及する羽目に――。小粋な会話が心地いい円熟のシリーズ最終巻。


COVID-19 が猛威を振るっている中、みなさんいかがお過ごしでしょうか?
息災であられますことを。

さて、ローレンス・ブロック「泥棒はスプーンを数える」 (集英社文庫)です。
ちなみに、この「泥棒はスプーンを数える」 から3月に読んだ本の感想になります。
このブログでローレンス・ブロックの感想を書くの、初めてですね。
ローレンス・ブロックといえば「過去からの弔鐘」 (二見文庫)でスタートした酔いどれ探偵・マット・スカダーシリーズが高名で評価が高いですが、個人的には「泥棒は選べない」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)から始まる泥棒バーニイ・ローデンバーの方が好みです。

シリーズのリストを作ってみると、以下になります。
1. 「泥棒は選べない」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1977年)
2. 「泥棒はクロゼットのなか」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1978年)
3. 「泥棒は詩を口ずさむ」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1979年)
4. 「泥棒は哲学で解決する」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1980年)
5. 「泥棒は抽象画を描く」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1983年)
6. 「泥棒は野球カードを集める」 (ハヤカワ・ポケット ミステリ) (1994年)
7. 「泥棒はボガートを夢見る」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1995年)
8. 「泥棒は図書室で推理する」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (1997年)
9. 「泥棒はライ麦畑で追いかける」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)(1999年)
10. 「泥棒は深夜に徘徊する」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) (2004年)
11. 「泥棒はスプーンを数える」 (集英社文庫) (2013年)

最初の数作はハヤカワ・ポケット・ミステリ版で読み、文庫化が始まってからは文庫で読むようになりました。上のリストはすべてハヤカワ・ポケット・ミステリ版にリンクをはっていますが、文庫化は今のところ第6作の「泥棒は野球カードを集める」 (1994年)で止まっていまして、ぼくが読んでいるのもここまで。
その後もシリーズはハヤカワ・ポケット・ミステリで訳し続けられていましたが、9年振りの新作であるこの「泥棒はスプーンを数える」 は、版元が変わって集英社文庫。ハヤカワには最後までちゃんと訳してもらいたかったところですが、そうするとハヤカワ・ポケット・ミステリで訳されることになって文庫化されない、ということも考えられるので、集英社でよかったのかもしれません。
なんにせよ、バーニイ・ローデンバーシリーズの最終巻の本書が読めてよかった。集英社さん、ありがとう。

上記で引用したあらすじで、「小粋な会話が心地いい」とありますが、まさにそこが特長のシリーズで、語り手バーニイの語り口と合わせて大きな魅力です。
最終巻となる本書でも、その魅力は全開で、楽しめました。
語り口、と言えないかもしれませんが、338ページの第32章を読んだ(見た?)ときには、声を出して笑ってしまいました。

いやいや、そんなところまでいかなくても、冒頭第1章をさっと読むだけで、そのことはわかっていただけると思います。
バーニイの古書店で見つけた本を買わずにKindleでわずか2ドル99セントで買ったとわざわざカウンターにその本を持ってきていう若い女のエピソードから、ニヤリとできます。

ミステリとしての建付けは、話があっちいったり、こっちいったり、出来がよいとはお世辞にも言えませんが、泥棒ならではの謎解きシーンとか、そうそうバーニイならこうでなくてはねぇ、と思える段取りも盛り込まれており、個人的には満足できました。

タイトルは、冒頭に掲げられていますが
「その男がほんとうに善と悪には飽別がないと考えているのなら、その男がわれわれの家を出ていくときにはスプーンの数を数えることにしよう。」
というジェームズ・ボズウェル「サミュエル・ジョンソン伝」からとられています。
「サミュエル・ヂョンスン伝」として岩波文庫から訳されているようですね。

シリーズ最終巻と書かれていますが、特に最終話として特徴づけるようなラストが用意されているわけではなく、普通に終わっていますので、気長に待ってれば新作出たりしないかな?
ローレンス・ブロックも御年86歳だから、もう無理なのかな??

まずは早川書房さん、既刊分を順次文庫化してくださいね!


<蛇足1>
中華料理(というよりアジア料理というべきかもしれませんが)のテイクアウトの店の店員との会話について、バーニイとキャロリンが交わす会話ですが、
「彼女が言う”ジュノー・ロック”が”あなた、これ、好きじゃない(ユー ノー ライク)”だって意味だということがわれわれにわかるまでにいったいどれだけ時間がかかった?」(51ページ)
というのがあります。
ユー ノー ライク が、ジュノー・ロックに聞こえるんですか!?
中国系の人の英語の発音は日本人と比べるとおしなべてきれいだと思うのですが、それでもこうなんでしょうか? ああ、ぼくの英語はどう聞こえていることやら......

<蛇足2>
「わたしはルーマニアのマリア王妃かもしれない。」(110ページ)
会話に突然出てきたので、ルーマニアのマリア王妃、有名な人なのかな? と思いWikipediaで調べてしまいました。
ルーマニアというので馴染みがなかっただけでしょうか? 日本ではそれほど高名ではない気がします。

<蛇足3>
「どうして<ピーター・ルーガー>のステーキディナーが心臓発作の原因になるなんて言われているんだ?」
「勘定書が来たときにショックを受けるからさ」(122~123ページ)
おお、ピーター・ルーガー
ニューヨークに行った際、あちらで働いている人に、ブルックリンのお店に連れて行ってもらいました。そんな高いお店だったのか......ああ、ありがとうございました(このページはご覧になっていないでしょうが)。


原題:The Burglar who Counted the Spoons
作者:Lawrence Block
刊行:2013年
訳者:田口俊樹


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