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苦い祝宴 [海外の作家 ら行]

苦い祝宴 (創元推理文庫)

苦い祝宴 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/06/02
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中華料理店で働く青年四人が、ある日突然揃って姿を消した。彼らが勤めていたのは、チャイナタウンの大物が経営する有名店。最近始められた組合活動に関して、店と対立があったらしいが、その程度のことで拉致されたり消されたりするはずもない。半ば強引に捜索の仕事を引き受けたリディアは、相次ぐ予想外の展開に翻弄される。〈リディア・チン&ビル・スミス〉シリーズ第五弾。


2021年10月に読んだ10冊目の本で、リディア・チン&ビル・スミス・シリーズ第5弾です。
中国系の若い女性リディアと中年白人男性ビルのコンビで、交代に語り手をつとめてきましたが、この「苦い祝宴」 (創元推理文庫)はリディアの番です。

中華街のレストランに端を発する騒動ですが、この手の物語の定番展開ながら、リディアは手を引けと脅されます。
関係者を心配しつつ捜査を続けるのですが、その先で
「誰か変な人は訪ねてきた?」
ピーターは鉛筆立てから箸を抜いて渡した。
「きみのほかに?」(95ページ)
なんてからかわれたりもします。
脅迫されても捜査を続ける言い訳としてリディアが言うのが
「責任を負ったのよ。縁ができてしまったのだから」(101ページ)
というセリフ。これはなかなか理解しにくい概念ですよね。
でも中国人には筋が通ったものと理解されてます。このあたり面白いですよね。

このリディアの不屈の精神というか、まあ、悪く言ってしまえば「わたしが、わたしが」精神こそが物語の駆動力ですよね。
かなり危なっかしいのですが、ちゃんと周りにサポートする人たちがいますしね。
探偵は卑しい街を行く、と言えども、一人で行くわけではないよ、というところでしょうか。

レストランの労使対立(?) のような出だしから、事件の様相が変化・展開していくという定石的な展開を見せますので物足りないといえば物足りないし、手堅いといえば手堅い。


このシリーズ、
「シャンハイ・ムーン」 (創元推理文庫)
のあと翻訳が途絶えていて心配していたのですが、先月(2022年5月)に待望の新刊「南の子供たち」 (創元推理文庫)が訳されましたね!
よかったよかった。
「苦い祝宴」のあとの作品群
「春を待つ谷間で」 (創元推理文庫)
「天を映す早瀬」 (創元推理文庫)
「冬そして夜」 (創元推理文庫)
「夜の試写会」 (創元推理文庫)
「シャンハイ・ムーン」 (創元推理文庫)
はすべて買ってあります!


<蛇足1>
『「イングリッシュブレックファストをポットでお願いできる?」わたしたち中国人がオレンジペコーと呼ぶこの紅茶は繊細さはないものの、色も味も濃く、気分がしゃきっとする。』(79ページ)
恥ずかしながら、紅茶の銘柄としてイングリッシュブレックファストとオレンジペコーはまったく別物だと思っていました。
調べると、オレンジペコーというのは銘柄ではなく、茶葉の等級を指すのですね。
イングリッシュブレックファストはブレンドティーで、結構好きです。
日本ではアールグレイが人気のようですが、ベルガモットの香りが強いフレーバーティーなので、紅茶らしい味わいという意味ではイングリッシュブレックファストの方が断然好みです。

<蛇足2>
「調理人への誉め言葉は暗に料理を批判していることになるというしきたりに従い、誰もシェフを誉めたりはしないが明らかに満足し、例外なくお代わりをして黙々と腹に詰め込み……」(197ページ)
こんなしきたりがあるのですね!


原題:A Bitter Feast
著者:S. J. Rozan
刊行:1998年
訳者:相良和美


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