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カササギの計略 [日本の作家 さ行]


カササギの計略 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

カササギの計略 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 才羽 楽
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
僕が講義とバイトを終えてアパートに帰ると、部屋の前に見知らぬ女がしゃがみこんでいた。彼女は華子と名乗り、かつて交わした約束のために会いに来たという。なし崩しに同棲生活を送ることになった僕は、次第に華子へ惹かれていくが、彼女は難病に侵されていて、あとわずかな命しかなかった……。ともに過ごす時間を大切にする二人。しかし、彼女にはまだ隠された秘密があった――。


2016年の『このミステリーがすごい! 』大賞・隠し玉作品です。
前年の第14回『このミステリーがすごい! 』大賞の応募作品を改稿したものです。
このときの隠し玉は2冊同時刊行で、もう一冊が枝松蛍の「何様ですか?」 (宝島社文庫)
出版社としてセットで売り出す意向が強く、この「カササギの計略」 (宝島社文庫)がホワイトどんでん返し、「何様ですか?」 (宝島社文庫)がブラックどんでん返し、二つで白と黒、らしいです。

この宣伝の仕方は作者のせいではないので、それについてあれこれ指摘しても作者にとって迷惑以外の何物でもないとは思うものの......

これのどこが白いのでしょうか? 恐縮ながら、真っ黒ではないかと。
これを「心温まるホワイトどんでん返し」だの「温かな気持ちで読後の余韻に浸ることができる」だの言う人がいるということ自体が信じられない。

ホワイトどころか、非常に気持ち悪いプロットを持った作品です。
この作品の仕掛け、タイトルにならっていうと計略がミステリとしてみた場合の肝だと思うのですが、あまりにも黒く、かつ(心理的に)非現実的なのが致命傷。
主人公である僕を取り巻く物語のほかに、ベビーさんというベビーカーに人形を乗せて歩き回っている女性のエピソードが出てくるのですが、こちらも無理筋。

突然押しかけて来た女が難病に侵されていて、といういかにもベタな設定をひねってみようと考えて思いつかれた物語なのかな、とも考えましたが、ちょっとこのパターンは拒否反応を示さざるを得ないですね。
登場人物の行動があまりにも受け入れがたい。

計略に触れたので、ついでにカササギにも触れておくと、こちらは
「七月七日にカササギの群れが天の川にやってきて、羽を広げて橋を作るんだって。そして織姫はその橋を渡り、牽牛に会いに行くんだ」(248ページ)
というセリフからとられています。
このタイトル自体が一種のミス・ディレクションとして働いているところはいいなと思えたのですが、いかんせん根幹をなすプロットの後味の悪さを払いのける力はありませんでしたね。
ラストはハッピーエンディングっぽい書き方がされていますが、これ、ハッピーエンディングではないと思います。


<蛇足1>
「エンジンをかけて、クーラーを全開にして」「それから助手席の窓以外、全部開けて」「運転席のドアも閉めて」助手疫のドアを開け、開けたと思ったらすぐに閉めた。それを十回ほど繰り返した。
(102~103ページ)
直射日光のあたるところに停めていて、社内の温度がサウナのように上昇しているクルマの社内温度を下げる方法のようです。すごいな。
機会があれば試してみようと思います。

<蛇足2>
「駅前のコインパーキングに車を停めて、英国風の時計台を横目に通り過ぎ」(233ページ)
英国風の時計台? おそらくビッグ・ベンのようなのをイメージすればよいのでしょうね。
あれを英国風というのかどうかは知りませんが。





タグ:才羽楽
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