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知りすぎた男 [海外の作家 た行]


知りすぎた男 (創元推理文庫)

知りすぎた男 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
新進気鋭の記者ハロルド・マーチが財務大臣との面会に行く途中で出会った人物、ホーン・フィッシャー。上流階級出身で、大物政治家ともつながりを持ち、才気に溢れながら「知りすぎているがゆえに何も知らない」という奇妙な苦悩を抱えるフィッシャーは、高度な政治的見地を要する様々な事件を解決に導いてゆくが……。巨匠が贈る異色の連作が、新訳にて創元推理文庫に初収録。


2021年10月に読んだ5冊目の本です。
論創海外ミステリから「知りすぎた男―ホーン・フィッシャーの事件簿」 (論創海外ミステリ)として出版されていたものが、南條竹則さんの新訳で創元推理文庫へ!

「標的の顔」
「消えたプリンス」
「少年の心」
「底なしの井戸」
「塀の穴」
「釣師のこだわり」
「一家の馬鹿息子」
「彫像の復讐」
の8編収録の連作短編集です。

「知りすぎて何も知らない」とはいかにもチェスタトンが好きそうなフレーズで、読む前からワクワクします。
巻頭の「標的の顔」からして逆説のオンパレードです。
楽しめますよ。

この「知りすぎた男」 (創元推理文庫)で特徴的なのは、政治的である、ということです。
ただし、血気盛んな理想に燃えた政治ではなく、衰え行く大英帝国を悲しみに満ちた視線で捉えています。
探偵役であるホーン・フィッシャーは、事件を解決し犯人を捕まえればめでたし、めでたし、というようには事件を処理しません。
大英帝国を守るため、いや、大英帝国そのものよりむしろ大英帝国の誇りを守るため
逆説たっぷりの皮肉に満ちた物語は、衰退する大英帝国にこそ似つかわしいのかもしれませんね。

だからこそ、ホーン・フィッシャー最後の事件となる最終話「彫像の復讐」が一層印象的なのだと思います。

ところで、解説の「底なしの井戸」のところで大山誠一郎が「後年、別の英国人作家が某有名作で同じアイデアを使っていますが」と触れている、別の英国人作家、某有名作ってなんでしょうね? 気になりました。



<蛇足1>
「何なら、月並(コモンプレイス)ではあっても普通(コモン)ではないと言いましょうか。」(39ページ)
commonplace と common ですか。

<蛇足2>
「もしも民衆が、こんぐらがった上流社会をダイナマイトで丸ごと地獄まで吹っ飛ばしたとしても、人類がさして悪くなるとはおもいませんね。」(43ページ)
「この話は、耳新しいと同時に伝説的な名前にまつわる、こんぐらがったいくつもの話の中から始まる。」(47ページ)
こんぐらがる? 
「こんがらがる」だと思っていたら、「こんがらがる」「こんがらかる」「こんぐらかる」「こんぐらがる」、いずれも言うんですね。

<蛇足3>
「このバーガンディーをどう思うかね? このレストランもそうだが、僕のちょっとした発見なんだ。」(78ページ)
葡萄酒について述べたところですが、もう日本ではブルゴーニュではなく、バーガンディーと呼ぶのが普通になったのでしょうか?

<蛇足4>
「ウェストミンスター寺院を見せられた時は茫然としたが、あの教会は十八世紀の大きくて、あまり出来の良くない彫像の物置になっているから、無理もあるまい。」(83ページ)
チェスタトンにかかっては、ウェストミンスター寺院もかたなしですね(笑)。
出来の良くない彫像の物置......

<蛇足4>
「警備責任者のモリス大佐は小柄で活発な男で、いかめしい、がさがさした顔をしているが、」(86ページ)
がさがさした顔、というのはどういう顔でしょうね? 著しく乾燥しているってことでしょうか?

<蛇足5>
「私はマグスです」と見知らぬ男は応えた。「たぶん、マギという名は聞いたことがおありでしょう。私は魔術師(マジシャン)なのです」(87ページ)
ここには注がついていまして、マギというラテン語は知っていましたが、その単数形がマグスなんですね。


原題:The man who knew too much
著者:G. K. Chesterton
刊行:1922年
訳者:南條竹則






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