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岩窟姫 [日本の作家 近藤史恵]


岩窟姫 (徳間文庫)

岩窟姫 (徳間文庫)

  • 作者: 史恵, 近藤
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/02/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人気アイドル、謎の自殺――。彼女の親友・蓮美は呆然とするが、その死を悼む間もなく激動の渦に巻き込まれる。自殺の原因が、蓮美のいじめだと彼女のブログに残されていたのだ。まったく身に覚えがないのに、マネージャーにもファンにも信じてもらえない。全てを失った蓮美は、己の無実を証明しようと立ち上がる。友人の死の真相に辿りついた少女が見たものは……衝撃のミステリー。


2021年9月に読んだ12冊目の本です。
『このミステリーがすごい! 』大賞・隠し玉2冊が立て続けに(個人的に)大外れだったので、お口直しを求めて、安定の近藤史恵に。

人気女性アイドルや芸能界......もっとも縁遠いといってもいい世界ですが、しっかり浸りました。
自殺したアイドル沙霧の日記に、いじめが原因だと名指しで書かれた蓮美の視点から謎を探っていく物語になっています。

ストーリー展開上、どうしても蓮美が自己を振り返るシーンが多くなるのですが、そのそれぞれが洞察に満ちています。
「でも、今になってわかる。そのコンプレックスはただの言い訳だ。
 うぬぼれ続けるのも苦しいから、息継ぎをするように自分の欠点を数え上げていただけだ。
 背が高いことも、きつい顔も、蓮美の魅力であることはちゃんと理解していた。剛毛なのも、大した欠点ではない。
 欠点だってちゃんとわかっている自分でいることが、心地よかっただけだ。
 自分には嘘をつけないという人がいるけど、それは正しくない。
 人は自分にも嘘をつき続ける。」(129ページ)

沙霧の日記が偽りだと信じて探求を始めた蓮美ですが、途中、あの日記を書いたのが実際に沙霧だったのでは、となるシーンも印象深いです。
「自分の死と一緒に、わたしを引きずり落とすため。
 だとすれば、これ以上探るべき真実はない。すべてがおさまるべきところにおさまってしまう。」(219ページ)
ミステリで使われる逆転の構図が、うまく使われています。
ここ以外でも、逆転の構図はテーマと密接に結びついていて素晴らしい。

タイトルの「岩窟姫」は当然「モンテ・クリスト伯(巌窟王)」を踏まえたもので、無実の咎に囚われ、そこから抜け出そうと苦闘する主人公蓮美のことですが、蓮美だけを指しているものではありません。

この作品が扱っている事件、題材は、手垢のついたものでしょう。
そんな題材でも、きちんと物語は広がっていく、拡げていくことができる。
プロがプロらしく手腕を存分に発揮した作品だと思います。

ところで、文庫本で読んだのですが、上で引用した書影は持っているものとは違います。
持っているバージョンは、Amazon では kindle版の画像のようですね。
そちらの末吉陽子さんによる装画が印象的だったので、引用しておきます。

岩窟姫 (徳間文庫)

岩窟姫 (徳間文庫)

  • 作者: 近藤史恵
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/02/07
  • メディア: Kindle版



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