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クラヴァートンの謎 [海外の作家 ら行]

クラヴァートンの謎 (論創海外ミステリ)

クラヴァートンの謎 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2019/03/04
  • メディア: 単行本

<帯から>
遺言書の秘密、不気味な降霊術、介護放棄の疑惑……
急逝したジョン・クラヴァートン氏を巡る不可解な謎
友人のプリーストリー博士は“真実”に到達できるのか?


単行本です。
論創海外ミステリ228

ジョン・ロードは前回「代診医の死」 (論創海外ミステリ)を読んだ際、「いまいち。ハズレ、というほどのものではありませんが、そこそこの出来映え」という感想を抱いてしまったのですが、今回の「クラヴァートンの謎」 (論創海外ミステリ)は面白かったですね。

プリーストリー博士の旧友が死に、てっきり砒素による毒殺だと思っていたら、なんと砒素は発見されず、自然死だと。
「プリーストリー博士は、およそ直感を信じる人間ではない。人間の五感で知覚できない証拠は決して受け入れない。だが、クラヴァートンの死期が早められたという博士の確信には直感めいた危うさがあるし、裏付けとなる具体的な証拠もない」(110ページ)

これ、なかなか強烈な謎でして、で、結局自然死でしたではミステリにならないわけですから、トリックが弄されているわけですね。
このトリック、強烈で、236ページあたりに謎解きがされているのですが、うーん、そうなのか、というしかありません。ちょっと専門知識がいるかなぁ。それほど難しい知識ではないような気もしますが、一般読者だとどうか。

ここを難点と指摘する読者もいらっしゃるとは思いますが、奇妙な遺言書や降霊術などといった要素がスピーディーに織り込まれていて、じゅうぶん楽しめると思います。
ジョン・ロード、面白いではないですか。
また訳されたら読んでみようと思います。



<蛇足1>
「遠い先の利益を見越して殺人を犯す者はいない」(111ページ)
そうかなあ、と不思議に思ってしまいました。

<蛇足2>
「連行して、すぐさま告発しました。供述したいとすぐに申し出たので、警告は告げましたが、どうしてもと言い張りましてね。」(231ページ)
英国の当時の刑事制度がどうなっていたのかわからないのですが、警察へ連行してから行われる”告発”って何でしょうね? 今の日本の制度から見ると、取り調べの前に告発というのも変な話です。



原題:The Claverton Mystery
作者:John Rhode
刊行:1933年
訳者:渕上痩平





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首のない女 [海外の作家 ら行]


首のない女 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)

首のない女 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/07/20
  • メディア: 単行本


<カバー裏あらすじ>
グレート・マーリニが経営する〈奇術の店〉に、ひとりの女性がやってきた。彼女は「首のない女」の奇術に使う装置をどうしても買いたいという。女性の謎めいた行動に好奇心をかき立てられたマーリニは、友人の作家ロス・ハートとともに彼女のあとを追う。やがて、大ハンナム合同サーカスへとたどり着いたふたりを待っていたのは、団長のハンナム少佐の事故死の知らせだった。だが、その死には不審なところがあった……。
少佐の死は事故か殺人か。「首のない女」とは誰なのか。呼び込みの口上、綱渡りに空中ブランコ、剣呑みに透視術にいかさまトランプ――華やかなサーカスの裏で渦巻く策謀に、奇術師探偵マーリニが挑み、窮地に立たされる。奇術師作家ロースンの仕掛ける大胆な詐術に驚愕せよ! 不可能犯罪の巨匠ロースンの最高傑作が、今ここに新訳でよみがえる!


ここから2月に読んだ本の感想です。
単行本です。山口雅也監修の「奇想天外の本棚」の第2作目。

クレイトン・ロースン、奇術師探偵マーリニといえば、
「帽子から飛び出した死」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)であり、「棺のない死体」 (創元推理文庫)ですが、実はよく覚えていません。
というよりは、いずれもごちゃごちゃしていて、読みにくく、ミステリとしての驚きもなんだかピンと来なかった記憶があります。

実は正直言うと今回の「首のない女」 (海外ミステリ叢書《奇想天外の本棚》)も同じ感想を抱いてしまいました。
自分の記憶力のなさを棚に上げていうのもなんですが、印象に残りにくいんですよね。

探偵役がマーリニというマジシャンなんですが、作者のクレイトン・ロースンもマジシャン。
ミスディレクションを縦横に張り巡らせて読者を煙に巻く。
のはいいんですが、どうも、ちまちました印象なんですよね。
一本とか技ありでもなく、有効を積み重ねていくとでも言いましょうか。大技ではない。
「右手が公明正大な動きをするのを観客が見ている間、左手はたいてい、不正な仕事にいそしんでいるものです。」(310ページ)
とマーリニがマジシャンの動きを警察に解説して見せますが、鮮やかな手つきに感動し、ああ、そうだったのか!、という風にはなりません。細かい技なので、謎解きされたときにあまり印象に残っていないからです。

巻頭の「炉辺談話」と称された山口雅也による前口上で
『ここで作者は、なんと、不可能犯罪の束縛から一歩踏み出し、新たな分野の「マジック」に挑戦しています。しかも、彼同時の奇術師はだしの巧妙極まりない詐術を駆使して、読者をあっと言わせることに成功しているのです。
 このロースンの巧妙な詐術や当時の最新の科学捜査導入は、後続する他の作品にも、隠然たる影響に影響を与えていると、わたしはにらんでいます。ですから、ひとりロースンの代表作というのみならず、本格ミステリの読まれるべきスタンダードの地位を要求できる路里標作(マイルストーン)と断言もできます。』(7ページ)
と書いているのですが、ちょっとぴんときませんでした。

とはいえ、
サーカスならではの雑然とした雰囲気と、次々と巻き起こる騒動、さらには、マーリニが刑務所に入れられてしまうというお楽しみ(?)つきで、楽しめましたし、「首のない死体」に必須の首を切る理由も、極めて合理的で納得のいくもので、満足しました。




<蛇足>
「大ハンナム合同サーカスは確かに分不相応の悲劇に見舞われた。」(173ページ)
分不相応という語を悪いことに対して使うのを見るのははじめてかもしれません。
こういう使い方もあるんですね。



原題:The Headless Lady
著者:Clayton Rawson
刊行:1940年
訳者:白須清美





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制裁 [海外の作家 ら行]


制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

制裁 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/02/23
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
凶悪な少女連続殺人犯が護送中に脱走した。市警のベテラン、グレーンス警部は懸命にその行方を追う。一方テレビでその報道を見た作家フレドリックは凄まじい衝撃を受けていた。見覚えがある。この男は今日、愛娘の通う保育園にいた。彼は祈るように我が子のもとへ急ぐが……。悲劇は繰り返されてしまうのか? 著者デビュー作にして北欧ミステリ最高の「ガラスの鍵」賞を受賞。世界累計500万部を超える人気シリーズ第1作。


北欧ミステリ、流行っていますよね。流行りすぎで、いっぱい翻訳されるようになって、さてどれを手に取っていいのか迷う状況になっています。
この「制裁」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)は、以前ランダムハウス講談社から出版されていましたが、2017年にハヤカワ文庫で復活したものです。
この作者(たち?)、評判よさそうですし、復活するくらいだから、優れた作品なのだろうということで、手に取りました。

読み終わった感想は、優れた作品なのだろうな、とは思うものの、ちょっとどぎつすぎて、個人的好みではありません、というものです。
また、「ガラスの鍵」賞というミステリの賞を獲ってはいますが、これミステリかな? と思いました。

少女連続殺人、護送中の脱走、刑務所の実態、更生しない犯罪者......
社会の暗部を抉り出すような内容になっています。
ミステリというよりは、犯罪を扱った社会派小説という手触りです。
ミステリとするのなら、ミステリの枠を相当拡げないといけないと思いますし、ミステリとしても謎解きではなく、犯罪小説のテイストです。途中、法廷シーンもありますが、法廷ミステリのテイストではありません。

あらすじに引用されているのは、物語の前半まで。
そこから、物語も、フレドリックの運命も、おおきくねじれていきます。
本書の読みどころは、実はこの後の後半の展開だと思うのですが、それを明かしてしまうのは、いくら犯罪小説テイストとはいえ憚られてしまいます。
(訳者あとがきによれば、原題は直訳すると「怪物」「野獣」という意味のようです。邦題の「制裁」は、ややネタバレ気味です)

ぼかしたまま書いておきたいのですが、ラストはおそらく大方の読者の想定とは違うところに落ち着きます。
そのラストのおかげで本書は印象深いというか、忘れられないものになっていると思います。
非常に落ち着きの悪いラストなんですよね。

一方でこのラスト、作者は何を意図したのだろう? と悩んでいます。
なんだか、読者をもやもやさせるためだけに設けられたラストのような気がしてしまうんですよね。
このあたりをどう評価すればよいのか......

非常に気になる作者なので、もう何作か読んでみたいと思っています。



原題:ODJURET
作者:Anders Roslund & Borge Hellstrom
刊行:2004年
訳者:ヘレンハルメ美穂




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ジョージ・サンダース殺人事件 [海外の作家 ら行]

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
幌馬車隊の襲撃シーンが終わっても起き上がらないエキストラは、額に銃弾を受けて死んでいた。殺人なのか、事故なのか。名優ジョージ・サンダースは「殺人だ」と断定、スクリーン同様に殺人捜しにのめり込んでいく。だが件の銃弾は、ほかならぬサンダースの銃から発射されたものだった。こうして無実の証明もしなくてはならなくなったサンダースに第二の殺人が知らされる…


単行本です。
映画俳優であるジョージ・サンダースを作者として出版されたもので、クレイグ・ライスは代作、ゴーストライターですね。
でも、森英俊さんの解説をみるとSF作家のクリーヴ・カートミルとの共作みたいですね。ミステリということで、日本ではライスのみを推したということでしょうか? なんとなく不公平な感じがしますね。

ジョージ・サンダースが書いた「ジョージ・サンダース殺人事件」というのはおもしろいなー、と思っていたのですが、原題は「Crime on My Hands」なんですね。
「本書は、物語の作者兼語り手であり、映画で探偵を演じたこともある実在の俳優ジョージ・サンダースが主人公兼探偵という、前代未聞の構成の、極めてユニークなミステリである。」と解説で書かれている通りです。

映画撮影中に発生した殺人事件というキャッチ―で、興味深い事件を取り扱っています。
事件そのものは単純(なはず)なのに、愉快な(?) 登場人物たちのおかげでどんどん複雑に混乱していく、といういかにもクレイグ・ライス風展開で楽しめます。
凶器を隠しちゃって右往左往する、とか、ジョージ・サンダースが犯人を罠にかけようとしたら、次から次へと容疑者がやってきてハチャメチャ、とか、楽しいですよね。
それでいて、ちゃんと意外な犯人を演出しているのも立派ですよね。
SF作家のクリーヴ・カートミルとの共作とのことながら、クレイグ・ライスが主導していたのでしょうね。
ジョージ・サンダースという名前に寄りかかっているのではなく、クレイグ・ライス印としても、十分おもしろい作品だったな、と思います!


ところで最後に、この本、翻訳がひどいです。
訳者の森村たまきさんって、ジーヴスシリーズを訳されている方ですよね。そちらは読んだことないのですが、こんなひどい翻訳で出版されているのでしょうか?
この「ジョージ・サンダース殺人事件」は、下訳の人の原稿をそのまま見直さずに使われたんでしょうか? 不思議です。
いくつかひどいな、と思ったものを挙げてみます。
「俺自身の福祉についてひとこと言わせてもらいたい」(93ページ)
サンダースを警察に連行するしないという話をしているときに、サンダース自身が言うセリフです。
福祉!? なんのことでしょうか?
原文の想像もつきませんね......

「あの人、前は偉大なエンジニアになりたかったの。その次は偉大なパイロットになりたがった。そのあとは偉大な金融家で、花形セールスマンで、それで最後に、偉大な俳優ね。」(125ページ)
間違いではないのでしょうけれど、ここの「偉大な」というのは違和感ありませんでしょうか?
せいぜい「立派な」程度にしておくべきではなかろうかと。まあ、この程度の変な日本語なら可愛いものですが。

「元々持っていたものは、持ち続けた--スリムなヒップ、豊かな胸、そしてきれいな顔。」(126ページ)
わけのわからない表現にびっくりです。こう日本語がでたらめだと、「一生懸命」と同じ長セリフの中に出てきてもなんとも思いませんね。

「髪をつかんで引き戻してやるぞ」俺は脅迫したし、またそうするつもりだった。(133ページ)
これまたひどい日本語ですね。
「わからん、サミー。だがわかるつもりだ」(146ページ)
またもや変な日本語です。「わかるつもり」なんて「気づくつもり」と言わないのと同様日本人は言わないですね。

「俺がセヴランス・フリン殺害で告発され有罪判決を下されるのは、信じられない話ではない。」(153ページ)
おそらく原文は believe を使っているのでしょうが、日本語に直す際には「信じられない」ではなく「考えられない」を使うべきではないかと。

「俺は一瞬のバカげた愚かさゆえに、彼の言うとおり俺が知っていることを全部話して『クリーン』になろうと決意した。」(181ページ)
「一瞬のバカげた愚かさゆえに」という言い回しの愚かさにびっくりします。

「シェフは、彼の料理人としての感受性のどん底の底まで傷つき、」(200ページ)
感受性、ですか......

「俺はにっこり笑わなきゃならなかったが、俺の意志力がそのにっこり笑いを一瞬で拭い去った。」(288ページ)
意志力が拭い去る、ですか......
まったくできの悪い中学生の英文和訳みたいですね。


<蛇足>
134ページに、声を出せば、電話のレシーバーを持ち上げ、マイクから送話機につながる仕組みをサンダースが作った、というところがあるのですが、この作品の当時、そんなこと可能だったのでしょうか? 副業が発明というハリウッドスターというのは、すごいんですね。


原題:Crime on My Hands
作者:George Sanders / Craig Rice
刊行:1944年
訳者:森村たまき





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スマイリーと仲間たち [海外の作家 ら行]


スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))

スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))

  • 作者: ジョン・ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/04/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
将軍と呼ばれる老亡命者が殺された。将軍は英国情報部の工作員だった。醜聞を恐れる情報部は、彼の工作指揮官だったスマイリーを引退生活から呼び戻し、後始末を依頼する。将軍は死の直前に、ある重要なことをスマイリーに伝えようとしていた。彼の足どりをたどるスマイリーは、やがて事件の背後に潜むカーラの驚くべき秘密を知る! 英ソ情報部の両雄が、積年の対決に決着をつける。三部作の掉尾を飾る本格スパイ小説。


言わずと知れた(?)スパイ小説の金字塔、三部作の最終話です。
映画「裏切りのサーカス」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)を観たのを機にヨタヨタと読みだしたシリーズです。
(当時)新訳なった「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕」 (ハヤカワ文庫NV)を、わりと映画を観た後すぐ読んで、次の「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 (ハヤカワ文庫NV) (ブログの感想ページへのリンクはこちら)を読んだのが1年後。
そして最後を飾る本作「スマイリーと仲間たち」 (ハヤカワ文庫NV)を読んだのが今回、実に6年半ぶりです。

「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 感想)で、スマイリー三部作って、第1作の「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」 でやられて、第2作の「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 で反撃の糸口をつかんで、第3作であるこの「スマイリーと仲間たち」 でやっつける、と書きましたが、その通り、やっつける番が回ってきました! ようやく。

ところが、話がスタートしても、なかなか、なかなか、反撃! という感じにならないんですよね。
反撃どころか、カーラはいずこに、という感じ。
あらすじにも書いてありますが、殺された将軍をめぐるエピソードが中心になっていまして、将軍はソ連からの亡命者で、最後に何か重要なことをスマイリーに伝えようとしていた、という背景。
でもね、そこはジョン・ル・カレですから、派手に大反撃だ~、という感じではなく、地味~に、あくまでも地味~に展開します。
500ページもあるのに、いつ反撃するんだ~。
ようやく反撃しそうになっても、ドーンというのではなく、これまた地味~。
筆致が抑えられているので余計そう感じるのでしょうね。いくらでも派手にできそうなのに、でも、これがル・カレ流ということでしょう。

実際のスパイが映画や小説のようにドンパチ、派手派手しくやってしまったら、世間の余計な注目を集めてしまうので、だめなんでしょう。
これこそ、王道のスパイ、ということなのかも。

といいつつ、引退したスマイリーが担ぎ出され、これまた引退したスマイリーの仲間たちを行脚していくあたりは、現実にはあり得ないでしょうし、そこがフィクションとしての根幹になっているのだと思いますが、それでもそれ以外のところは、リアルに、あくまでリアルに。

ということで、地味な作品ですが、ただ、以前おそれていたような、ル・カレは退屈だ、ということは全くありませんでした。
渋いなー、とは思ったものの、じっくり楽しめる作品でした!


<蛇足1>
いつのまにかヴィクトリア・エンバンクメントに出て、ノーサンバーランド・アヴェニューのとあるパブにきていた。たぶん<ザ・シャーロック・ホームズ>だったのだろう。(191ページ)
スマイリーが、パブ「ザ・シャーロック・ホームズ」(写真はこちらの記事に)に行っています!

<蛇足2>
顔立ちにラテン系の、というより、レヴァント人風のといってもいいはしこさがあり(203ページ)
レヴァント人が、ぴんと来なくて調べました。Wikipediaによると「東部地中海沿岸地方の歴史的な名称。厳密な定義はないが、広義にはトルコ、シリア、レバノン、イスラエル、エジプトを含む地域。現代ではやや狭く、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル(およびパレスチナ自治区)を含む地域(歴史的シリア)を指すことが多い。」らしいです。

<蛇足3>
中央の松材のテーブルには、トーストとマルミットの食べさしが散らかり(254ページ)
マルミットって、なんだろな? と。
「フランス語で「鍋」のことを意味し、具だくさんなスープポトフをアレンジしたような洋風鍋料理のこと。」らしいですね。赤坂にマルミットというお店があるようです。検索するとそのお店のページの紹介がほとんどでした......ちょっと行ってみたくなったかも。

<蛇足4>
ぐうたらで、どうしようもないヴァガボンド(349ページ)
ヴァガボンド? 
放浪者、漂流者、あるいは、ごろつき、やくざ者、無頼漢といった意味でした。

<蛇足5>
彼女は他の下宿人たちに、あの人には不幸があったことがわかるといった。ベーコンをのこすのもそのせいだし、外出が多く、でもかならずひとりで出かけるのもそのせい、明かりをつけっぱなしで寝るのもそのせい、であった。(388ページ)
ほかの部分はともかく、ベーコンの位置づけがよくわかりません(笑)。

<蛇足6>
エレベーターを降りて真っ先に目にはいったのは、福祉厚生部の掲示板で(391ページ)
これ、福利厚生部の間違いでしょうか??

<蛇足7>
その夜十一時すぎ、彼は書類をしまい、机のまわりをかたづけ、メモ類を機密反故(ほご)容器にいれたあと(393ページ)
そこに入れておけば機密を保った状態で破棄してもらえる(焼却処分にでもするのでしょうね)容器のことを、機密反故容器というんですね。ぼくの会社にもありますが、呼び方を意識したことはありませんでした。

<蛇足8>
ロンドン用の靴で水たまりのあいだを踏み、水たまりにだけ注意を集めて進んだ(394ページ)
ロンドン用の靴、なんかあるんですね......
田舎を歩く靴と都会を歩く靴を区別しているということでしょうね、きっと。

<蛇足9>
それとも地下の穴蔵のどこかに、蜂蜜室でもあるのだろうか。なにしろ銃器室があり、釣り具室があり、荷物室があるのだ。もしかしたら、愛欲室もあるかもしれない。(395ページ)
邸宅の描写ですが、愛欲室ですか......すごいですねぇ。
でもきっと、愛欲室があるとしても、地下ではないような気がしますね。
原語がどういう単語なのかも気になります......



原題:Smiley’s People
作者:John le Carre
刊行:1979年
翻訳:村上博基






ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/03/31
  • メディア: 文庫

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/01/31
  • メディア: 文庫





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悲しみのイレーヌ [海外の作家 ら行]


悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

悲しみのイレーヌ (文春文庫 ル 6-3)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/10/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
異様な手口で惨殺された二人の女。カミーユ・ヴェルーヴェン警部は部下たちと捜査を開始するが、やがて第二の事件が発生。カミーユは事件の恐るべき共通点を発見する……。『その女アレックス』の著者が放つミステリ賞4冠に輝く衝撃作。あまりに悪意に満ちた犯罪計画――あなたも犯人の悪意から逃れられない。


「その女アレックス」 (文春文庫)が、2014年週刊文春ミステリーベスト10 と「このミステリーがすごい! 2015年版」と本屋大賞翻訳小説部門第1位、2015本格ミステリベスト10第10位とものすごーく話題になっていたころ、そのランクの作品なので購入はしたもののあまり気乗りせず、積読のままにしているうちに他の作品の翻訳が進み、デビュー作であるこの「悲しみのイレーヌ」 (文春文庫)も訳されました。
これまた積読だったのをようやく読みました。
シリーズは「その女アレックス」の次の「傷だらけのカミーユ」 (文春文庫) に加えて、番外編ともいうべき?「わが母なるロージー」 (文春文庫)も今年9月に訳されています。
「その女アレックス」を読むと、「悲しみのイレーヌ」のネタバレになってしまうらしいので、のんびりしていて、「悲しみのイレーヌ」を先に読むことができてよかったかもしれません。

この「悲しみのイレーヌ」 も、「その女アレックス」に続き大好評で、「このミステリーがすごい! 2016年版」第2位、2015年週刊文春ミステリーベスト10 第1位になっています。
また、ミステリ賞4冠に輝くとのことですね。もっともこの4つがなんという賞なのかわかりませんでした。コニャック・ミステリー大賞だけは解説で名前が挙がっているのですが......

これだけ綺羅星のように輝かしい実績を持っている作品なので、ちょっと言うのに躊躇してしまいますが、結論から申し上げると、ぼく、この作品だめです......
なによりラストが受け付けられない......ぼくの限界を超えちゃっています。
シリアル・キラー物や異常心理物を通して、かなり免疫がついてきたとは思うのですが、それでもこの作品はリミットオーバーでした。

ミステリとして見た場合、まず、第一部から第二部への切り替えがポイントになろうかと思うのですが、これ、個人的には不発でした。
で? だから、どうした!? という感じ。

もう一つのポイントは、ミステリのタイトルが次々と出てくるということ。
ハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシの蘭」 (創元推理文庫)
ジェイムズ・エルロイ「ブラック・ダリア」 (文春文庫)
ウィリアム・マッキルヴァニー「夜を深く葬れ」 (ハヤカワ・ミステリ)
ブレット・イーストン・エリス「アメリカン・サイコ」〈上〉 〈下〉 (角川文庫)
ジョン・D・マクドナルド「夜の終り」(創元推理文庫)
マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 「ロセアンナ」 (角川文庫)
こういう趣向は好きです。

ミステリのタイトルといえば、ほかにも
「たとえば、ハーバード・リーバーマンの『死者の都会(まち)』は傑作ですが、まだ古典とは言えません。アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』はその逆です。一方『アクロイド殺し』は傑作であり、古典でもあります。」(250ページ)
なんて語られています。
とすると、『そして誰もいなくなった』は古典だけど、傑作ではないのですね......なんかかなりの人間を敵に回しそうな言説ですが......あるいはフランスではこういう評価が定着しているのでしょうか?

ミステリ的には、ラストの見当が割と早い段階でついてしまう、ということは大きな欠点ではないかと思います。
グロテスクなラストの見当がついてしまう。
そういうラストじゃないといいな、なにか仕掛けがあるといいな、と思いながらこわごわ読み進んでいくと、なんの工夫も芸もなく(というとさすがに言い過ぎかもしれませんが、そういう印象を持ちました)想定通りのラストになだれ込んでいって、読者の嫌悪を催す......
嫌いな作品でも、よくできているな、と思えることはありますが、この作品の場合はそう言えません。
筆力があることは、嫌というほど伝わってきましたが。

あと、これは作者の責任ではありませんが、邦題がひどいと思いました。
原題はTravail soigné。Google翻訳で日本語にしてみると「丁寧な仕事」。
もちろん邦題は原題からかけ離れたものにして構わないとは思いますが、「悲しみのイレーヌ」はないだろう、と。
もう次作「その女アレックス」が訳されていて、「悲しみのイレーヌ」 の内容もある程度読者から想定されちゃうのでタイトルなんかどうでもいいとでも思ったのでしょうか?

ということで、これほどの世評の高さと自分の感想との落差にちょっとしょんぼりします。
けれど、こういう作品を楽しめる人間になりたいとも思わないので、感覚の違いと割り切らないといけませんね。
残虐、残酷なものが苦手は方は遠ざけておくのがよい作品かと思います。

ところで、amazon の商品紹介が、上に引用しているカバー裏のあらすじとは違うものなんですが、驚くほどストーリーを割っていて、ネタバレが激しいんですよね。こういうのって、売り上げに悪影響を及ぼすのではないでしょうか?
色を変えて下に引用しておきます。読み終わった後ご覧ください。
『その女アレックス』のヴェルーヴェン警部のデビュー作。 奇怪な連続殺人をめぐる物語がたどりつく驚愕の真相。 若い女性の惨殺死体が発見された。パリ警視庁のヴェルーヴェン警部は、裕福な着道楽の部下ルイらとともに捜査を担当することになった。殺人の手口はきわめて凄惨で、現場には犯人のものと思われる「おれは帰ってきた」という血文字が残されていた。 やがて過去の未解決事件とのつながりが浮かび上がる。手口は異なるものの、残虐な殺人であることは一致していた。これは連続殺人なのだ。そして捜査が進むにつれ、犯人は有名なミステリ作品に登場する惨殺死体を模して殺人を繰り返しているらしいことが判明した。ジェイムズ・エルロイの『ブラック・ダリア』、ブレット・イーストン・エリスの『アメリカン・サイコ』……ほかにも未解決の事件があるのではないか? ヴェルーヴェン警部らは過去の事件のファイルを渉猟し、犯人の痕跡を探る。 しかし警部は知らなかった――犯人の魔の手が、自身の身重の妻イレーヌへと伸びていることを。 強烈なサスペンスとともに語られてゆくサイコ・キラーとの対決。だがそれは第二部に入るや、まったく違った相貌を読者にみせつけることになる! 『その女アレックス』の殺人芸術家ルメートルの衝撃的デビュー作。


<蛇足1>
『つまり頭は切れるのだが、世にいう「ピーターの法則」のとおり、管理職になって能力の限界まで昇進したことで結果的に無能になっただけなのだ。』(131ページ)
恥ずかしながら、「ピーターの法則」知りませんでした。
(1)能力主義の階層社会では人は能力の限界まで出世し、有能なスタッフは無能な管理職になる
(2)時が経つにつれ無能な人はその地位に落ち着き、有能な人は無能な管理職の地位に落ち着く。その結果、各階層は無能な人で埋め尽くされる
(3)ゆえに組織の仕事は、出世余地のある無能レベルに達していない人によって遂行される
怖いっ。

<蛇足2>
「あのな、メフディ、フランス人の半分は作家のなりそこないで、残りの半分は画家のなりそこないなんだ。」(258ページ)
笑ってしまいました......

<蛇足3>
「百二十!」「まさにミステリの珠玉のコレクションで、このジャンルの基礎固めをしたい人間には理想的だが、犯罪捜査の資料としては手に余る。」(261ページ)
この百二十冊のリスト、見てみたいですね!


原題:Travail soigné
作者:Pierre Lemaitre
刊行:2006年
訳者:橘明美


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デクスター 夜の観察者 [海外の作家 ら行]

デクスター 夜の観察者 (ヴィレッジブックス)

デクスター 夜の観察者 (ヴィレッジブックス)

  • 作者: ジェフ ・リンジー
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2010/10/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
マイアミ大学の構内で首なし死体が見つかった。被害者の女子学生2人は全身を焼かれ、頭部のかわりに陶器の雄牛の頭が置かれていた。不気味ながら興をそそられる手口……のはずが、事件に関わってからというものデクスターは何者かに執拗にストーキングされ、頼みの“殺人鬼の勘”も今回は捜査に役立ってくれない。そんななか新たな首なし死体が発見され、デクスターの身近な人物にも魔手が伸び始める。手がかりは現場に残された謎の文字。だがそれは想像を超える闇への招待状にすぎなかった!昼は好青年の鑑識官、夜は冷血無情な連続殺人鬼――強烈なダークヒーローの活躍を描く絶賛シリーズ第3弾。


「デクスター 幼き者への挽歌」(ヴィレッジブックス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「デクスター 闇に笑う月」 (ヴィレッジブックス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第三作です。

三作目にして異色作、と申しましょうか、これまでデクスターといつも一緒にいた〈闇の乗客〉に注目です。

まず、不思議な断章が冒頭はじめあちこちにあり、それが次第に〈闇の乗客〉の正体(?) に関連しそうだな、とわかってきます。
すると、〈闇の乗客〉って、デクスターの二重人格的なもの、とばかり思っていたのですが、違ったんですね!? 解説で関口苑生が書いているように、それこそ悪魔のようなものだったんですね!?
「デクスター 闇に笑う月」 感想で、「ひょっとして宇宙人とかSF的設定なのかな、なんて勘ぐりながら読みましたが」なんて書きましたが、ある意味その通りだったのか......
とすると、この「デクスター 夜の観察者」にも
「十四歳として生きるのは、たとえ人造人間にとっても決して楽ではなかった。」(208ページ)
なんてくだりがありますが、あながち誇張じゃない!? あっ、でも、人造人間ではないですね。

そしてその〈闇の乗客〉、本書ではデクスターのもとから(中から?)姿を消してしまいます。(180ページ)
「馬鹿げているのは百も承知だが、とにかくわたしは夜間にまったくひとりになった経験がなく、そのため自分がとことん無防備に思えてならなかった。〈闇の乗客〉なかりせば、わたしは鼻が鈍くなって牙をすっかり抜かれた虎にすぎなくなる。自分がのろまの愚図になった気分だったし、背中の皮膚がぞっとぞわぞわしっぱなしだった。」(263ページ)
とデクスターが言う通り、すっかり調子が狂ってしまいます。

それでも余裕のあるいつもの語り口を100%とは言いませんが、維持しているのは立派ですね。よかった。
さて、〈闇の乗客〉はデクスターのもとに戻ってくるのか......

それと同時に本書で注目なのは、リサ(デクスターの婚約者!)の子供たちをどうやって指導していくか、というところですね。
これがとてもおもしろい。
536ページのコーディのセリフには、もう拍手喝采ですよ。

追う側から追われる側になったデクスター、〈闇の乗客〉が不在のデクスターとかなりの変わり種でずいぶん楽しませてくれましたが、これでいろいろと出揃った感があるので、これからが楽しみだなぁ、と思っても、もう翻訳はストップしているんですよね。
Wikipediaで調べたら、
Darkly Dreaming Dexter (2004) 「デクスター 幼き者への挽歌」
Dearly Devoted Dexter (2005) 「デクスター 闇に笑う月」
Dexter in the Dark (2007)  「デクスター 夜の観察者」
のあと、
Dexter by Design (2009)
Dexter Is Delicious (2010)
Double Dexter (2011)
Dexter's Final Cut (2013)
Dexter is Dead (2015)
と、シリーズは8作目まで出ているようです。
ぜひ、ぜひ、翻訳してください!



<蛇足1>
パステリートというお菓子が登場します(104ページ)。
知らなかったのですが、アルゼンチンのお菓子のようです。
ネットで調べてみると「甘いジャムやサツマイモを薄いパイ生地で包んでこんがり揚げ、粉砂糖をまぶしたもの」や「パイ生地でできた甘い揚げパンで、 中にはメンブリージョというカリンのジャムが入っています」と書かれていますね。
中米の方にも同じ名前の食べ物があるようですが、それはお菓子ではなくて、挽肉を詰めた揚げ餃子のようなもの、とされています。
(勝手にリンクを貼っています)

<蛇足2>
アレスター・クロウリーの名前が132ページに出て来ます。
これまた知らなかったのですが、イギリスのオカルティストで、その世界では有名なんですね...

<蛇足3>
「この若き怪物にさえあてはまっていた思春期の無上命令のひとつに、“二十歳以上の大人はなにもわかっていない”というものがあった。」(208ページ)
そうそう思春期ってそうだよね、と思いながら、無上命令という難しい語が突然出てきてびっくりしました......調べちゃいましたよ......

<蛇足4>
「アラム語はヘブライ語と同様に母音文字をもたない。」(274ページ)
「レイダース 失われたアーク(聖櫃)」を引き合いに出しながら、アラム語が出て来ます。
アラム語もヘブライ語も母音文字を持たないんですか......なんだか、すごそうな言語ですね。

<蛇足5>
「デリカテッセンでランチを注文するときにキールバーサという単語を口にすることはできても、あいにくポーランド語はわたしが通暁している言語ではない。」(325ページ)
またもや知らない語が出て来ました。
キールバーサ。kielbasa 東欧のソーセージ(風のもの)のことらしいです。




原題:Dexter in the Dark
作者:Jeff Lindsay
刊行:2007年
訳者:白石朗



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代診医の死 [海外の作家 ら行]

代診医の死 (論創海外ミステリ)

代診医の死 (論創海外ミステリ)

  • 作者: ジョン・ロード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/07/30
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
資産家の最期を看取った代診医の不可解な死。プリーストリーの鋭い推理が暴き出す真相とは……。筋金入りの本格ミステリファン必読。あなたは作者が仕掛ける巧妙なプロットを読み解けるか?


「2018 本格ミステリ・ベスト10」第8位。

「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
とクラシック・ミステリが続けて面白かったので、調子に乗ってこの「代診医の死」 (論創海外ミステリ)を手にしたのですが、これはいまいちでしたね。ハズレ、というほどのものではありませんが、そこそこの出来映えにとどまっていて、「闇と静謐」「ミドル・テンプルの殺人」を読んだときのようなワクワク、高揚はありませんでした。
なにより、アンフェアだろう、と思えてなりません。
またちょっと中盤中だるみしちゃうんですよね。

もっともアンフェアという点は、逆にその分作者が工夫をこらそうとしているのがよくわかるので(そのあたりは訳者あとがきで解説されています)、プラスととらえてもよいかもしれませんが。

代診医が資産家の最期を看取る。主治医の誤診だったのか? 
するとその代診医が行方不明に。
主治医とは(旅行に行っているので)連絡がつかず...
この発端から、最後の着地はなかなか想定できないと思います。
かなり大胆なプロットなので、アガサ・クリスティあたりが書けばもっとサプライズが高まったかも、なんて考えたりもしました。




<蛇足>
解説を林克郎が
「本名セシル・ジョン・チャールズ・ストリート、筆名ジョン・ロード、マイルズ・バートン、セシル・ウェイ。全て『道』に関する言葉が入っていることをご存知だろうか?」
と始めているのですが、ジョン・ロードのロードは、RoadではなくRhode、セシル・ウェイのウェイもWaye、なので日本語ならではの勘違いではなかろうかと思うのですが。
(Wayeは間違いとは言い切れないかも、ですが)


原題:Dr. Goodwood's Locum
作者:John Rhode
刊行:1951年
訳者:渕上痩平






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日曜の午後はミステリ作家とお茶を [海外の作家 ら行]

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)

日曜の午後はミステリ作家とお茶を (創元推理文庫)

  • 作者: ロバート・ロプレスティ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「事件を解決するのは警察だ。ぼくは話をつくるだけ」そう宣言しているミステリ作家のシャンクス。しかし実際は、彼はいくつもの謎や事件に遭遇して、推理を披露し見事解決に導いているのだ。取材を受けているときに犯罪の発生を見抜いたり、逮捕された作家仲間のため真相を探ったり、犯人当てイベントで起きた『マルタの鷹』初版本盗難事件に挑んだり、講演を頼まれた大学で殺人事件に巻き込まれたり……。図書館司書の著者が贈る連作短編集!


「本書はいわゆる“持ち込み”(翻訳者が見つけた原書を出版社に紹介し、邦訳出版を持ち掛けること)が通って出版の決まった本です。
つねづね、重厚な長編のあいまに楽しめるような、あるいは疲れた日の寝るまえに読めるような、軽やかな読み物がもっとあってもいいのにと思っていました。
お楽しみいただけましたら幸いです。」
と帯に訳者あとがきからの引用が書かれています。
出版業界の裏側の一部を見た気分ですが、なるほどねー。

軽やかな読み物、というだけあって、
「シャンクス、昼食につきあう」
「シャンクスはバーにいる」
「シャンクス、ハリウッドに行く」
「シャンクス、強盗にあう」
「シャンクス、物色してまわる」
「シャンクス、殺される」
「シャンクスの手口」
「シャンクスの怪談」
「シャンクスの牝馬」
「シャンクスの記憶」
「シャンクス、スピーチをする」
「シャンクス、タクシーに乗る」
「シャンクスは電話を切らない」
「シャンクス、悪党になる」
のコンパクトな14編を収録した短編集です。

さらっと読める、さくさく読める、という狙い通りの仕上がりになっていますが、個人的な好みからいうとちょっと軽すぎるでしょうか...
日常の謎、というよりはもう一歩ミステリ寄り、というか犯罪を扱ったものが多いのですが、それでもミステリとしての興趣は強くない、という点がちょっと物足りません。
でも、小味なミステリとして(あるいはミステリ風味の短編として)気軽に楽しめるいい作品だと思いました。
各話ごとに「著者よりひとこと」として作者のコメントが出ているのも、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」 (創元推理文庫)シリーズみたいで楽しいですね。

主人公シャンクスは、レオポルド・ロングシャンクスという名前のミステリ作家で、長い経歴なんだけど、さほど売れていない。
妻のコーラは、最初はロマンス作家の卵(ひよこくらい?)でしたが、本書が進むにつれてシャンクスより売れているみたいです。
このほのぼの感ただよう夫婦を主人公に据えているのがポイントなので、解説で大矢博子が書いているように
「つまるところ、本書は切れ味やサスペンスやサプライズより、それらをくるんだ上で続いていく日常というものの愛おしさを大切にしていると言えるだろう」
ということかもしれません。

日本語版タイトルは「日曜の午後はミステリ作家とお茶を」となっていますが、お茶会(?) で事件の話題が出されるわけでも、シャンクスがお茶を飲みながら謎解きをするというわけでもありません。全体の雰囲気をイメージして日本でつけたものと思われますが、読むときには、それこそお茶でも飲みながらリラックスして読むのがよいと思われます。


<蛇足>
最後の「シャンクス、悪党になる」にさび猫の話題が出てくるのですが、さび猫、知りませんでした。


原題:Shanks on Crime
著者:ROBERT LOPRESTI
刊行:2014年
訳者:高山真由美
なお、この「日曜の午後はミステリ作家とお茶を」 (創元推理文庫)は、短編集”Shanks on Crime”に、日本版独自に「シャンクス、悪党になる」を加えたものとなっていまして、奥付でも発表年は2003-2014という記載になっています。
以上では、”Shanks on Crime”のものを記載しています。


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麗しのオルタンス [海外の作家 ら行]

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

  • 作者: ジャック ルーボー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/01/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
金物屋が次々に襲われ、深夜0時直前、大音響とともに鍋が散乱する。平和な街に続く〈金物屋の恐怖〉事件。犯人は? 動機は? 哲学専攻の美しい女子大生オルタンス、事件担当のブロニャール警部、そして高貴な血を引く猫のアレクサンドル・ウラディミロヴィッチ……。何がどうなる? 文学実験集団ウリポの一員である詩人で数学者の著者が贈る珍妙な味のミステリ……なのか。


映画の感想を挟みましたが、5月に読んだ6冊目の本の感想です。
300ページもない薄い本なのですが、少々読むのに時間がかかりました。なにせ実験的な小説なもので。
『最近読んだ本でいうと、「チャーリー・モルデカイ」(角川文庫)シリーズがイギリス風のおふざけなら、この「麗しのオルタンス」 (創元推理文庫)はフランス風のおふざけです。』と書こうと思っていたのですが、考え直しました。
イギリス風、フランス風の対比ではなく、
『最近読んだ本でいうと、「チャーリー・モルデカイ」シリーズのような高踏的なおふざけに、文学的なおふざけ(あるいは実験)を加えると、この「麗しのオルタンス」 になります。』
と書くほうがいいと思います。

非常に「語り」を意識した小説になっていまして、ある意味わかりづらい。メタ炸裂。
冒頭早々、2ページ目にして「筆者(われわれ)」とか「私ことジャック・ルーボー」とか「語り手」とかの語が出てきます。すでに読者が混乱する兆しが。
2ページ目で予告されていますが、第2章で「語り手」である私(小説家志望のジャーナリストであるジョルジュ・モルナシエ)の視点が導入され、一方で猫のアレクサンドル・ウラディイロヴィッチのことを書く章もあります。かと思えば、いわゆる神の視点である三人称の部分もある。
著者(ジャック・ルーボー)と語り手(モルナシエ)に加えて、校正担当者や校正部長まで出てきたりもします(大体においては註ですが)。

こういう入り組んだ構造の中で語られる事件が、金物屋での悪戯、ですから...「殺人事件はまったく起こっていない」(276ページ)のです。
そこに、タイトルにもなっている魅力的な哲学専攻の女子大生でワンピースの下にパンティをはいていないことが(比較的稀にだが)ある(30ページ)オルタンスの日常生活(?) や、二年前に失踪したポルデヴィア公国の第一皇位継承者ゴルマンスコイ皇子の失踪(?) 事件や、アレクサンドル・ウラディイロヴィッチ(猫です)の恋模様(?) も描かれます。
すみません、(?) ばかりですが、どれもこれも読んでいると重要な気になる要素ながら、さてどういうことを描いているのか的確に言い表しにくいのです...

こういう凝りに凝った、そして計算ずくの作品(ちっとも読み取れていないと自分でも思いますが、こういう作品が作者による緻密な設計の賜物であることは自明だからこう書いておきます。緻密な計算に裏打ちされていないと、ただただでたらめになってしまって、ぼくのような理解度の低い読者には全体が何がなんだかわからず何が書いてあるのかもわからなくなるはずですから)、ミステリかどうかは置いておいても、たまに読むと刺激になりますね。じっくり読み返してみたい気もします。

訳者あとがきによるとこれは三部作らしく、今のところ2作目の
「誘拐されたオルタンス」 (創元推理文庫)
まで翻訳が出ています。


原題:La Belle Hortense
作者:Jacques Roubaud
刊行:1990年
翻訳:高橋啓


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