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胡蝶殺し [日本の作家 近藤史恵]


胡蝶殺し (小学館文庫)

胡蝶殺し (小学館文庫)

  • 作者: 史恵, 近藤
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
市川萩太郎は、蘇芳屋を率いる歌舞伎役者。先輩にあたる中村竜胆の急逝に伴い、その幼い息子・秋司の後見人になる。同学年の自分の息子・俊介よりも秋司に才能を感じた萩太郎は、ふたりの初共演『重の井子別れ』で、三吉役を秋司に、台詞の少ない調姫(しらべひめ)役を俊介にやらせることにする。しかし、初日前日に秋司にトラブルが。急遽、三吉を俊介にやらせることに。そこから、秋司とその母親・由香利と、萩太郎の関係がこじれていく。そしてさらなる悲劇が……。幅広いジャンルで傑作ミステリーを発表しつづける著者が、子役と親の心の内を描く白熱心理サスペンス!


近藤史恵のこの作品、ミステリではありませんね。
タイトルは「胡蝶殺し」と「殺し」ですが、殺人が出てくるわけではない。人も、冒頭で役者:中村竜胆が急逝してしまうことを除くと、死なない。
でも、この作品は「胡蝶殺し」というタイトルがとてもふさわしい。
さらにいうと、事件らしい事件も起こらない。
あらすじには「白熱心理サスペンス」とありますが、サスペンス、というのもちょっと違う気がします。

この作品、市川萩太郎という歌舞伎役者が主人公です。萩太郎の息子が俊介。
先輩中村竜胆の忘れ形見が秋司。
この二人の子役(というか子役候補というか)が物語の中心なのですが、この二人に視点が設定されていないのがポイントだと思います。というのも......

メインは萩太郎。彼の心の動きが、しっかりと描かれる。
歴史を背負う歌舞伎役者の気持ちは、かなり縁遠いものですが、自然にすっと入ってきます。
俊介と秋司の立ち位置(とぼかして書いておきます)をめぐって、秋司の母由香利に引っ掻き回されて、萩太郎が煩悶していくのだな、と考えて読み、確かにその通りにストーリーは進んでいくのですが、秋司に大きな運命が襲い掛かり、思わぬ形で第一章が終わります。
人は死にませんが、胡蝶が殺されて終わります。

続く第二章の趣向を明かしてしまうのは、ミステリではないとはいえ、重大なエチケット違反だと思うので避けますが、第二章でも引き続き萩太郎が視点人物ではあるものの、メインが俊介、秋司にうつったかのように読めました。どちらかというと、俊介よりも秋司に比重がかかっています。秋司はあまり登場しないというのに。
視点人物ではない登場人物、あまり登場しない人物がメインというのもおかしな話かもしれませんが、確かに話の中心は秋司であるように思いました。
第二章だけではなく、振り返ってみるとこの「胡蝶殺し」全体が第一章を含めて秋司の物語といえるように構成されていることがわかります。
すごいなー、と思いました。

その意味では、俊介は脇役なのですが、個人的には俊介にとても共感しました。
あまりおもしろいストーリーにはならないかもしれませんが、俊介を中心に据えた物語も読んでみたいですね。


タグ:近藤史恵
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