イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城 [日本の作家 篠田真由美]
<カバー裏あらすじ>
考古学者のルカが姿を消した。ナチス・ドイツの研究機関アーネンエルベで、養父の父親の同僚だった男に招かれ、南ドイツの古城に出かけたという。ルカが勤めるトリノのエジプト博物館から助けを求められた夜刀(やと)は、単身城に乗りこむ。彼を迎えたのは人形のように生気がないルカと、おぞましい秘密を持つ住人たちだった……性格も見た目も正反対の“腐れ縁コンビ”が再びタッグを組む! 多彩な館と謎ときが魅力のミステリ・ホラー。
「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作。いまのところこのシリーズはここまでしか出ていませんね。
「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」の感想にも書いたのですが、やはり、ちょっと中途半端なイメージです。
今回の舞台は、日本を離れ、ドイツの古城。
ナチスの残党が出てくるのでは、と思ったあなた、正解です(笑)。
「金属的な輝きを放つ金髪に緑がかった青い目をして身長は父親より高い、アーリアン的な美丈夫だ。」(90ページ)って、いかにも、ですよね。
「災厄の年、ノストラダムス・イヤーと俗称される西暦一九九九年から頻発する地震と火山噴火、各地で相継いだ原子力発電所の事故によって、本州の大半が居住不適地域と化した現在の日本」と前作「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」に書かれた設定は、引き続きあまり活かされているようには思えません。
ただ、「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」では、異界への門といえる、イヴルズ・ゲートについてはもっぱら人間サイドの話で終始していたのですが、この「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)では、向こう側にも目がいくようになっているんです。
「人間が汚れたタライを見て、汚水を流して漂白剤をぶっこんで、タワシでこすり上げてやりたいと思うようなものかな。そうすればタライの中に生きている微生物や細菌は死滅するが、別にそういうものを憎んでいるわけじゃない。ただ、清潔なタライは汚いタライよりいいものだという価値観がある」(307ページ)
と夜刀が比喩を用いて説明していますが、こういう世界観(?)おもしろいですよね。
これをもっと深追いすれば、きっと読後の印象も違ったものになったのでは、と思うのですが。
このあとの続刊が刊行されていないので、あくまでも勝手な想像でしかないのですが、このシリーズ、とても長大なものなのではないでしょうか。これまでの2巻ではちっとも全貌がうかがいしれないような。
だから、この2巻だけをみるとかなり中途半端な印象になってしまう。
このままで終わってしまったら、おすすめし難い作品になってしまいますね。
完成形をみたい気がします。