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笑う警官 [海外の作家 マイ・シューヴァル ペール・ヴァール]


刑事マルティン・ベック  笑う警官 (角川文庫)

刑事マルティン・ベック 笑う警官 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
反米デモの夜、ストックホルムの市バスで八人が銃殺された。大量殺人事件。被害者の中には、右手に拳銃を握りしめた殺人捜査課の刑事が。警察本庁殺人捜査課主任捜査官マルティン・ベックは、後輩の死に衝撃を受けた。若き刑事はなぜバスに乗っていたのか? デスクに残された写真は何を意味するのか? 唯一の生き証人は、謎の言葉を残し亡くなった。捜査官による被害者一人一人をめぐる、地道な聞き込み捜査が始まる――。


「ロセアンナ」(角川文庫)(感想ページはこちら
「煙に消えた男」(角川文庫)(感想ページはこちら
「バルコニーの男」 (角川文庫)(感想ページはこちら
に続く、マイ・シューヴァル ペール・ヴァールーによる、マルティン・ベックシリーズ第4作でアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作です。
警察小説の金字塔、名作中の名作、ですね。

旧訳版でも読んでいるのですが、正直、あまりピンとこなかったんですよね。
正直、つまらなかった。
市バスでの大量銃殺事件、そこに警官がいた、ということと、雨、雨、雨で陰鬱だったことだけ覚えていましたが、それ以外はさっぱり記憶に残っておらず......

新訳なって再読したわけですが、このパターンのいつものことながら、昔の自分を叱りつけたい。ちゃんと読め、と。
(それでも、作風があまりにも暗いので、好き嫌いでいうとあまり好きなほうではありませんが)

前作「バルコニーの男」は、あまりミステリらしくないという感想を抱きましたが、この「笑う警官」(角川文庫)は紛うことなきミステリです。

タイトルの「笑う警官」はいろいろな解釈ができると思いますが、直接的にはマルティン・ベックが娘からクリスマスプレゼントとしてもらうレコードのタイトルが「笑う警官の冒険」、最初の曲のタイトルが「笑う警官」というエピソードでしょうか(320ページ~)。
娘は「信じられないほどおかしいわよ」というけれど、マルティン・ベックは「口元を緩めることさえできなかった」というものです。
巻末に収録されているエッセイで、オーサ・ラーソンが「なぜマルティン・ベックは笑わない?」とタイトルとして掲げているように、マルティン・ベックは笑わないのです。
唯一「笑う警官」と呼べそうなのは、解説で杉江松恋がいうとおり被害者のステンストルム刑事なのですが、その唯一の笑う、笑える警官が被害者として殺されてしまうというのでは、陰隠滅滅とした雰囲気に拍車もかかろうというのものです。

舞台であるストックホルムやスウェーデンのことは、今も昔もよく知らないのですが、驚くのはこの作品、1968年出版ということ。50年以上も前の作品とはとても思えません。
マルティン・ベックやコルベリたちは、今まさにストックホルムで暗い顔をして捜査しているのではなかろうかと思えるくらいです。

非常にリアルに感じられる登場人物たちと捜査になっていまして、それがこの作品の最大の長所かと思います。
被害者、特にステンストルム刑事の性的な私生活に踏み込んだ部分があるのが気になりますが(どうも、マイ・シューヴァル ペール・ヴァールーの作品には性的な要素が欠かせないようなそんな感じを受けています)、地道な捜査は充実しているな、と思えましたし、解決に至る過程も自然です。
ただ、その分、ミステリ的な興趣には乏しい、というのか、派手なトリッキーさはありません。だから、旧訳版を読んだ際、つまらなかったと思ったのでしょう。

こういう作品も立派なパターンとして今は認識していますので、とても楽しく(暗い作品ですが)読みました。
新訳は次の「消えた消防車」 (角川文庫)で途絶えてしまっているようですが、ぜひ再開してほしいです。




原題:Den skrattande polisen
作者:Maj Sjowall & Per Wahloo
刊行:1968年
訳者:柳沢由実子








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