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天使に賭けた命 天使と悪魔 10 [日本の作家 赤川次郎]


天使に賭けた命 天使と悪魔 10

天使に賭けた命 天使と悪魔 10

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/08/30
  • メディア: 単行本



「ヴィーナスは天使にあらず」 (角川文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第10弾。
前作同様単行本で出版されました。
短編集で、裏側の帯に各話の簡単なあらすじがついています。

マリが働き始めた旅館で金塊をめぐる怪しい動きが 「湖の底の金塊」
「小箱」を届けるだけの楽なお仕事のはずが怪しい男に追いかけられて。 「危険を運ぶ道」
父親を捜す少女を手伝うことになったマリとポチ。調査中に死体を発見 「絆はどこに行った」
病院の検査結果を待つマリとポチ。誘拐事件に、拳銃発砲…行く先々で事件に遭遇 「5時から7時までのマリとポチ」
一組の男女の身分差の恋に巻き込まれてしまい―― 「華やかな死神」
マリがなりゆきで参加したオーディションで、殺人未遂事件が発生 「天使に賭けた命」

このシリーズ、なんだかんだ言っても、窮地に陥ったヒロインが、ちゃんと人の善意に支えられて助かる、という枠組みが多いのですが、この「天使に賭けた命 天使と悪魔 10」では、天使だと言ってしまうマリに悪者が呆れてしまって助かっちゃう、というパターンが多かった気がします。
人の善意が薄れてしまったのでしょうか?
いつもながらの、「ゆるさ」「ぬるさ」をもっと味わいたいのですが。

今回面白いな、と思ったのは、第三話「絆はどこに行った」で、マリとポチがしっかりした仕事と住むところを確保していること!
さらっと説明されているのですが、銀座の画廊を経営する画商久保田良子を助けたことから、仕事と済むところを世話してもらった、というのです。
どうしてそのエピソードを物語にしなかったのでしょうね?
そして、次の第四話「5時から7時までのマリとポチ」のエンディングでは、
「潮どきだね。私たち、甘えすぎてたよ」
「あんなに居心地のいい所で、何不自由なく暮してたら、研修にならない」
といって、仕事も住まいも手放してしまいます。
うーん、なんだったんだろ? 



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サンキュー、ミスター・モト [海外の作家 ま行]


サンキュー、ミスター・モト (論創海外ミステリ)

サンキュー、ミスター・モト (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 単行本

<帯>
その男の名はミスター・モト
戦火の大陸を駆け抜ける日本人特務機関員。映画化もされた人気シリーズの未訳長編。待望の邦訳!
チャーリー・チャンと双璧をなす東洋人ヒーローの活躍。


単行本です。
論争海外ミステリ137

ずっと読んでみたかったんですよね、ミスター・モト。
古いアメリカの作品なのに(第二次世界大戦前です)、日本人が主人公の作品、興味湧くでしょう?
「天皇の密偵―ミスター・モトの冒険」として長編第四作が角川文庫から出ていたことがあるようですが絶版で、手に入りません。
2014年に論創社から本書の翻訳がでて、ようやく念願かないました。

主人公はミスター・モト、ではありません。
若きアメリカ人、トム・ネルソンですね。弁護士でしたが、やめて北京で暮らしています。悠々自適っぽい。
ヒロイン、エレノア・ジョイスも設定されていまして、ボーイ・ミーツ・ガール物語でもあります。
ミスター・モトは、若い主人公を教え、諭す役割を担っているようです。
あと、ピンチに陥ると都合よく助けてくれる(笑)。

カリカチュアではあるのですが、さまざまな人種が入り乱れる当時の北京の状況が生き生きと描かれていました。
分類するとなるとスパイものに入れるのかな、と思えましたが、活劇調ではありませんし、かといってル・カレのようなシビアな感じでもない。
どことなくのどかな感じ。
ちょっと違うのですが、あえて探すのならば、クリスティのスパイものが近いかも。
緊迫感のあるはずの展開でも、どことなくおっとりとした気分。

しかし、ミスター・モト、格好良くないんですよ。
「彼は小柄でどちらかというとずんぐりとした日本人で、仕立ての良い服を身につけていた。」(12ページ)
「前歯の金充填は、彼が笑うたびに日光を反射してぎらぎら光った。」(63ページ)
「ミスター・モトのしゃべる英語はやかましく、アクセントが変なので、イライラした。」(64ページ)
「今でもはっきりと、ミスター・モトの顔にあたっている光が、勤勉でかつ用心深い彼の細い目を照らし出し、ずんぐりした鼻が脇のコーヒー色の頬の上に影を作っているさまを、思い出すことができる。しかも彼は笑っていた。これは日本人特有の奇妙な反応で、思いもよらないときに歯茎をむき出しにして、ばかばかしいお笑いに転じさせてしまうのだ。」(101ページ)
最初の部分から抜き出すだけでも、こんな感じです。
また、なにかというと「申し訳ございません」という冴えないありさまで、冴えない外見から鋭い推理を放つとか、快刀乱麻を断つとかいうわけでも、武術に秀でているわけでもない。
映画化もされて人気を博したキャラクターとはとても思えません。
不思議です。
もっとも、それだけにラストもラスト、最終ページで明かされるモトの行動は強い印象を与えますが。

どうもこの「サンキュー、ミスター・モト」 (論創海外ミステリ)だけでは、ミスター・モトの魅力がつかみきれませんでした。
KADOKAWAさん、復刊お願いします!


<蛇足1>
「君はこの法律事務所の最も優秀な若手共同経営者だった。」(57ページ)
トムがアメリカから受け取った手紙の一節です。
トムはとても若いように思われたので、「共同経営者」というのに驚いてしまいました。
そして気づきました。これ、法律事務所によくある partner の訳なんですね。
なるほど、パートナーといえば確かに共同経営者ということになるのかもしれませんね。

<蛇足2>
「クラブこそが、僕が求めていた答えだった。―― 略 ――クラブはまさにイギリスものもので、カナダの荒野からシンガポールのゴム農園まで、ありとあらゆる辺境をイギリス領としていった植民者の開拓能力を称える貢物であった。―― 略 ――そこに入れる人種は制限されていた。アングロ・サクソン人種の牙城であり、かつてキップリングが唱えていたような、いささか時代遅れの帝国の雰囲気に満ちていた。ヨーロッパ人だけという気楽さが、まだここには存在していた。」(92~93ページ)
アメリカ人も、ヨーロッパ人なんでしょうか?
当時の状況からして人種的にはアングロ・サクソンなのでしょうが、ヨーロッパ人というのは不思議ですね。
(さらにいうと、イギリス自体がヨーロッパかどうかという議論があり、一層複雑ですが(笑))

<蛇足3>
「東洋は非情な土地で、死人が出たというニュースも、その静謐を揺るがすには、あまりに冷淡過ぎた。」(95ページ)
この文章すぐには意味をとりかねました。

<蛇足4>
『ゲームが終了したときには、クロウ大尉は僕に三十ドル負けていた。ここで僕はまた拳銃を思い出した。そしてあることを思いつき、思わず口に出してしまった。
「拳銃をくれれば、チャラにしてもいいよ」』(95ページ)
三十八口径のピストルなのですが、30ドルというのは高いのか、安いのか、さっぱりわかりませんが、なんとなく気にかかりました。



原題:Thank you, Mr. Moto
作者:John P. Marquand
刊行:1937年
訳者:平山雄一




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Siam 13 Hours [タイ・ドラマ]

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昨日感想をアップした「Make It Right」シリーズの俳優さんを起用したミニドラマです。
いつもの MyDramaList によると、どうやら広告用に作られた作品のようですね。
2017年9月から10月に流されたもののようです。
YouTube で "[ENG SUB] Siam 13 Hours - Ep 1"以下EP4までアップされている英語字幕付きのもので観ました。

「Make It Right」シリーズの俳優さんを起用とはいっても、役柄は変わっています。
でもメインだった4人が勢ぞろいです。
Fuse 役だった Peak さんが主役ですね。役名は Pao。
やりとりしていた女性といよいよリアルで会うということで Siam (地名でしょうか? ショッピングセンターっぽい感じもします)にやってきた。ところが待ち合わせの時間が次々と延期されていき......という話で、さてどうやって時間をつぶすか、というところで仲間がやってきて、という展開です。

冒頭でLittle Siam というアーケードっぽいのが映りますし、そのあともショッピングして、ご飯食べて、喫茶店(のようなところ)に入って、ウィンドーショッピングしてとお店の紹介してるっぽいなーというシーンが多いので、宣伝というのがよくわかります。
(もっともそうでなくても、タイのドラマって露骨な宣伝が多いですが笑)

こういうのって短時間にいかにいろんな要素をぶち込むかが勝負となりそうなのですが、迷子(?) の子供のエピソードがちょっと目を惹くくらいで、特段の工夫もなく(失礼)、割とおっとりした展開ですね。
Tee 役だった Boom さんが演じる Bas とのエピソードは笑えましたが。

彼ら俳優陣に再会できたことを喜べばよいということなのでしょう。

しかしタイトルにもありますが、13時間も待つってすごいですよね。
スタートは朝の9時。
でね、もう明かしてしまうんですが、最後まで会えないんですよ。
さらにいうと、相手役である女性も姿を完全には見せない。
どういうこと!? と思うのですが、よくわからない。
でも Pao は相手(その女性)が誰だかわかったっていうんですよね。謎。
動画をアップされているのはファンの人のようなのですが、そのかたも「わからない」と動画中にコメントされています。

最後に紙でメッセージのやり取りをするシーンがあるのですが、そこで Pao は「君は撮影があったのだろう」と書いているのですね。
だから、Siam を舞台にした撮影をしているモデルさんか何かで有名人という設定なのでしょうね。それで撮影がどんどん押してしまって(でも朝の予定が夜にまで押したら、背景も変わってしまうしちょっとあり得ない気がしますが笑)、とかいうことなのかな? と想像しますが。
でもわかりません!

現地を知っている人が見るとなにかわかるのでしょうか?
手がかりとなるようなものがなくて困ります。
いままで観たタイドラマの中でも一、二をあらそう謎の作品です。





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Make It Right、Make It Right 2 [タイ・ドラマ]

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タイ・ドラマにはまっていろいろ観て、演じる俳優さんの顔が日本人に近いだろうからと台湾のBLドラマを2シリーズ(HIStory1と2)観て、やはりタイの方がいいかな(笑)、と、戻ってきました。

今回は「Make It Right」とその続編「Make It RIght2」。
古い作品です。
いつもの MyDramaList によると、パート1は2016年5月から7月に Channel 9 で、パート2は 2017年5月から8月に LINE TV で放映されたようです。
これ時期も少し離れていて、「Make It Right」「Make It Right 2」に分かれているのですが、正直ストーリーはきっちり終わっていないんですよね、Make It Right の時点では。今となっては続けて観るのが吉ですね。というか、続けて観ないと消化不良で不満が残るような。

2016年ということは、SOTUS(感想ページはこちら) とほぼ同時期ですが、それよりもちょっと古いのですね。
草分け的存在といってもいいのかも、ですが、さらなる大物「Love Sick」があるのですね(こちらもあとで観ました)。

好評だったようで、続編「Make It Right2」もさらに、「Make It Right On the Beach」というのものちに作られています。

英語字幕しかありませんが、予告編を。
上から、1、2です。





上にあげたポスターをご覧いただくとわかるように(画質が悪くてすみません)、高校生ですね。
高校生のわちゃわちゃ感満載。
高校生らしい下ネタも、しっかりしたエッチのエピソードもあります。
でもなにより、みんながわいわいがやがややってる感じが伝わってくるのがいいですね。

メインはポスター中央最前列の男の子二人。
中央が Fuse。Peemapol Panichtamrong (ニックネームは Peak)という役者さんが演じています。
適度に無邪気、程よく悩みがち。こういうドラマの主人公にピッタリです。
お相手はその左隣(左上?)の Tee、Krittapak Udompanich (ニックネーム Boom)という役者が演じています。
高校生にしてかなりの包容力(と思いました)。いい奴っぽいですね。

実はこのカップル、既に何度か見かけているんですよね。
一つは「Love by Chance」(感想ページはこちら)のエピソード13。妹が使っているPCを Can が見るというシーンで、画面に出てくるのがこの二人。
もう一つは「Why R U?」(感想ページはこちら)のエピソード2。主役である Zon が学校で見かける二人です。

彼女が浮気しているのを確認したばかりの Fuse が酔った勢いで、介抱してくれた Tee に男同士でエッチしたことあるか? してみたい、と言う流れで関係を持ってしまう(EP1の終わり)。
ドラマの導入部でのいきなりの進展にびっくりしたのですが、同時に納得というか感心もしました。
(このドラマを観たのはずいぶん前のことになるので、かなりだいたい忘れてしまっているのですが、このくだりは強烈に覚えています)
いつも抱く疑問――男同士で友情が恋愛感情にどう切り替わるのか、という部分に対する一つの答えだと思うからです。性に好奇心旺盛な高校生くらいだと男同士の性行為にも興味を持つのはありだと思いますし、そこで体の関係ができてしまって、その後に恋愛感情が追いかけてくるというのはありうるのだろうな、と。

でまあ、なるようになった二人なんですが、そこから Fuse、はっきりしません。
彼女とも別れたわけでもなく、Tee には「そんなつもりじゃなかった」という。
まあ、このあたりうだうだするのは理解できる気がしますね。酔った勢いって怖いですよね。
Tee も困ったでしょうが、そこは包容力発揮、優しく見守る感じですね。

もう一組、メイン級のカップルがいます。
Tee のすぐ後ろにいる Book。演じているのは Sittiwat Imerbpathom (ニックネーム Toey)。
すごく真面目そうで優等生という役どころですが、かなり激しい過去を抱えています。性的には早熟だったんですね。このエピソードつらいなぁ。
相手役が Frame。演じているのは、すっかりおなじみの Ohm さんですね。MyDramaList によると、どうやらこのドラマがデビュー作のようです。
物おじせず、自分の目指すもの、自分の信じるものに一直線的な役柄のおかげもあるのでしょうが、実に堂々と演技しているような。のちの活躍を予感させる、というのは後知恵ですね(笑)。

周りの役者さんも見知った顔がちらほら。
まず挙げておきたいのが、Wit 役を演じている Plan さん。「Love by Chance」の Can 、そのあと同じ役で「A Chance to Love 」でメインをつとめた俳優さんです。
この作品で彼はボーイズラブの世界には入っていかないのですが、相手役がなんと友だちのお母さん! (しかもそのお母さん役が「Love by Chance」で Can のお母さんをやっていた女優さん! 混乱するじゃないか!)
このお母さん役の女優さん( Preya Wongrabeb ニックネーム Mam という女優さんのようです)の演技に助けられてという側面はあるのでしょうが、しっかり演技しています。
割と直情ボーイというか単純な性格の役柄が多いですが、もっともっと複雑や役柄にチャレンジさせてもいい俳優さんな気がします。

あと、このドラマで指摘しておきたい点は、基本ボーイズラブの物語なのですが、ごく一部ガールズラブの要素も入ってきていること。 Fuse の姉をめぐるエピソードです。

ついでに番外編ともいうべき、「Make It Live On The Beach」に触れておきますと、こちらは2019年8月から9月にLINE TVで放映された1話20分、6話構成の小編です。
Fuse と Tee がつきあって3周年記念ということで海辺へ旅行にという設定。
あえてとりあげるほどのストーリーとかはないので、彼らにまた会うことを目的とした作品です。役柄も俳優さんも成長した彼らにまた会えるという魅力にあふれた作品ですね。
最後に、皆さんが望んでくれたらまた会えます、とテロップが流れますが、さてさて。

最後に、テーマ曲を。上が1で下2です。
タイドラマのテーマ曲は歌詞がドラマの内容に沿ったものが多いので歌詞の訳が見たいのですが、英訳、日本語訳ともに見つかりませんでした。残念です。
1のテーマ曲は軽快な感じで好みです。







タグ:タイBL
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神々の座を越えて [日本の作家 た行]


神々の座を越えて〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)神々の座を越えて〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)神々の座を越えて〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
  • 作者: 谷 甲州
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1999/10/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
スイスに滞在していた登山家の滝沢は、自らのミスで遭難事故を起こし、苦しい立場に立たされる。そんな折り、旧友でありかつてともにヒマラヤを駆けたチベット独立運動の闘士ニマの窮地を告げる手紙を受け取り、滝沢はヒマラヤへ向かう。手紙を出したのは、ニマが自分の父親ではないかと疑う日本人女性、摩耶。滝沢は彼女とともに政治の罠が待ち受ける苛酷な山々へ踏みこんでゆく。雄渾の筆致で描く迫力の山岳冒険小説。<上巻>
独立運動に揺れるチベットで、滝沢は摩耶に再会した。そして独立運動の指導者であるチュデン・リンポチェと行動をともにしていたニマとも再会する。しかし滝沢と接触したことが原因で、リンポチェたちは中国軍に逮捕されてしまう。彼らを救うため滝沢はチベット・ゲリラ「テムジン師団」に協力を仰ぎ、彼自身も、重要な工作に携わることになる。厳寒のヒマラヤに、政治の横暴とクライマーの誇りが、熱く激しく衝突する。<下巻>


2022年1月に読んだ8作目の本です。
谷甲州はSF作家で、日頃の守備範囲ではないのですが、山岳冒険小説、山岳ミステリーを書いておられまして、この「神々の座を越えて」〈上〉 〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)の前編である
「遙かなり神々の座」 (ハヤカワ文庫JA)

「天を越える旅人」 (ハヤカワ文庫JA)
は読んでいます。

神々の座、ヒマラヤを舞台にしているはずが、上巻オープニングはアルプスで、あれれ? と思いました。
おそらくは前作とのつなぎに当たるのだと思うのですが、前作を覚えていないので......いつか読み返します。
ただ、このエピソード、あまり愉快なものではありません。
主人公が窮地に陥るのは、小説としては王道で、そのことでヒマラヤへ向かうことになるので必要なステップなのでしょうが、もっと早くヒマラヤに行ってほしいと思ってしまいました。
ヒマラヤに行ってから、アルプスでの出来事を振り返るシーンがありますので、不必要なシーンというわけではありません、念のため。それだけヒマラヤの緊迫シーンを待ち望んだということです。

待望のヒマラヤの赴くのはようやく上巻150ページを過ぎてからです。
なんですが、山というよりは高原地帯が舞台となります。

ヒマラヤに着くと、主人公滝沢を待ち受けているのはチベット独立運動。
チベットというとダライ・ラマのイメージしかありませんが、大丈夫です。しっかり作品中に説明されます。
「もちろん中国におけるチベット文化圏は、チベット自治区だけに限定されるわけではない。四川省の西半分と青海省のほぼ全域、それに周辺の省に存在するチベット族の自治県までがチベットに含まれるはずだ。」(上巻297ページ)
「それにおなじチベット文化圏といっても、他の省は昔から国会意識にとぼしい辺境だった。なかにはチベットが独立国家であった時代から、国民政府に支配されていた地域もある。もちろん住民はチベット中央政府への帰属意識にとぼしく、むしろ税負担の少ない国民政府の支配を歓迎していたともいう。だいたいチベット文化圏すべてを独立国の版図と考えるのなら、インドやネパール領内にまで国境外縁をひろげざるをえなくなる。」(上巻297ページ)
独立運動の指導者リンポチェが活仏(トウルク)とよばれているだけあってとても印象的です。

先ほど書いた通り、山というよりは高原の逃避行が話の中心になっていきまして、中国軍との駆け引きにドキドキ。
そしていよいよ待ってましたの山岳行。
ヒマラヤ、雪山を舞台にしているので、世界は白一色。その舞台を背景として、実にカラフルなストーリーが展開します。
雪山に登るなんて考えもしないくせに、山岳小説読むの、好きなんですよね。
雪山を踏破するだけでも大変なのに、中国軍との戦闘まで加わって、緊迫感のあるシーンの連続で、ハラハラし通しです。

永らくの積読が申し訳なくなるくらいおもしろかったです。


<蛇足1>
「だが家族の居場所は、なかなかわからなかった。それでようやく、日本はいま午後だという事実を思いだした。」(上巻97ページ)
ここの意味がピンと来ませんでした。
午後だと、居場所がわからないのでしょうか? 
今ほど携帯電話が普及していなかった頃の話ですので、居場所、行き先はわかっていても捕まらない、程度ではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「――もしかするとイギリス人というのは、中国人と同程度に老獪なのかもしれない。」(184ページ)
イギリス人と接触した滝沢の感想なのですが、あまりのナイーブさに(日本語のナイーブではなく、英語もともととの意味合いのナイーブです)苦笑いします。




タグ:谷甲州
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映画:LAMB/ラム [映画]

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映画「LAMB/ラム」の感想です。

感想を一言でいうと、変な映画を観たなぁ、というものです。

いつものようにシネマ・トゥデイから引用してみます。

見どころ:アイスランドの人里離れた場所に住む羊飼いの夫婦をめぐるスリラー。羊から生まれた謎の存在を育てる二人の姿を描き、第74回カンヌ国際映画祭のある視点部門「Prize of Originality」を受賞した。監督・脚本は『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などに携わってきたヴァルディマル・ヨハンソン。『ミレニアム』シリーズなどのノオミ・ラパスが主演と製作を務めるほか、ヒルミル・スナイル・グドゥナソン、ビョルン・フリーヌル・ハラルドソンらが出演する。

あらすじ:アイスランドの山間で羊飼いをしている夫婦・イングヴァルとマリア(ノオミ・ラパス)。ある日、出産した羊から羊ではない何かが生まれ、二人はその存在を“アダ”と名付けて育てることにする。子供を亡くしていた二人にとって、アダとの生活はこの上ない幸せに満ちていたが、やがて夫婦は破滅への道をたどることになる。

上の見どころでは、「スリラー」と書かれています。「ホラー」という評も見かけます。
観た印象はどちらでもありません。神話ではないですね、寓話?でしょうか。

荒涼としたアイスランドの田舎の風景。人里離れた山間で羊飼いを営む夫婦。
美しいけれど、厳しそうな自然の中で、淡々と日々を送る夫婦。
ある日生まれた特別な羊を夫婦は「アダ」と名付けてまるで人間の子供であるかのように育て始める。
この「アダ」ですが、上で引用したシネマ・トゥデイの記事では「羊から生まれた謎の存在」「羊ではない何か」と書かれていて、映画のHPでも「羊ではない何か」となっています。
実際映画で見てみると、羊に見える。
カメラも演出も頭部以外を映さないようにしていてわかりにくい。
でもちらりと、羊の手足(蹄)ではなく、まるで人間のような手をしていることが見えてきます。
このあたりで、まさか夫が......なんてきわめて下劣なことをちらっと考えてしまいましたが、この夫婦仲睦まじいんですよね。反省。

「アダ」を自分たちの住まうエリアに連れて来て一緒に住む。ベビーベッドに入れ、夫婦の寝室で寝起きする。
一方「アダ」の居場所に気づき、周りまでやってくる母羊。
この母羊に対して、妻が爆発してしまうのが一つのピークですね。

その後すぐにこの夫婦の日常に、夫の弟がやってきて、さらに不穏な空気に。
アダのいる暮らしを見て「これはなんだ」という弟に対する兄の答えが「幸せだ」。
夫婦には「アダ」と名づけられた子供がいたようですが、亡くしてしまったらしい。

「アダ」は言葉は話さないものの、人間が話しかけることは理解しているようです。
また二本足歩行もします。
夫婦と手を繋いで歩いているさまは、本当に子どものよう。頭は羊なんですけどね。

で、なんとか弟を追い出して、二人と「アダ」の穏やかな生活が戻ったと思ったら訪れる衝撃のラスト。
いや、正直、一瞬何が起こったかわかりませんでした。想像の遥か斜め上をいく衝撃です。
このシーンを見て怒り出す人、あるいは笑い出す人がいてもおかしくないな、と思います。
映画を通して背景となる音楽や効果音などが、重々しく、陰というトーンで貫かれているので、余計にそう思ってしまう。
伏線、張ってありましたっけ?

観る人の想像に委ねるというのか、劇中でいろいろと明確にしてくれるわけではないので、非常に居心地が悪い、収まりの悪いエンディングに愕然とします。

ほんと、変な映画を観たなぁ。



製作年:2021年
原 題:LAMB
製作国:アイスランド/スウェーデン/ポーランド
監 督:ヴァルディマル・ヨハンソン
時 間:106分



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