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イン・ザ・ブラッド [海外の作家 か行]


イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件――銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは? 緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。


2021年12月に読んだ5冊目の本です。
「百番目の男」 (文春文庫)
「デス・コレクターズ」 (文春文庫)(感想ページはこちら
「毒蛇の園」 (文春文庫)(感想ページはこちら
「ブラッド・ブラザー」 (文春文庫) (感想ページはこちら
に続くカーソン・ライダーシリーズ第4弾。

「このミステリーがすごい! 2014年版」第7位。
週刊文春ミステリーベスト10 第8位。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第3位
と相変わらず好位置をキープしています。

これまでの兄ジェレミー・リッジクリフとの対決も一区切りで、リラックスモードの僕カーソンと相棒ハリーだったのがいきなり赤ん坊を保護することになり、するすると事件が大きくなっていきます。
絡むのは人種差別的な極右の説教師が倒錯プレイの最中死亡したように見える事件。
人種差別的でカルトチックな、となるとミステリ的にはある種単純な連想が働いてしまうのですが、ジャック・カーリイはそれより先、複雑で壮大な真相をちゃんと提示してくれます。さすが。

シリーズはこのあと
「髑髏の檻」 (文春文庫)
「キリング・ゲーム」 (文春文庫)
と出て、そのあと翻訳が出ていませんが、期待して待っています!
(↑ いや、その前に自分が積読を消化せよ)

<蛇足>
「丸々とした黒人男性で大きく眠たげな目、八角形の眼鏡、髪のない脳天と同じくらいに輝く笑みをいつでも浮かべている。」(191ページ)
八角形の眼鏡ってどんなのでしょうね?



原題:In the Blood
著者:Jack Kerley
刊行:2008
訳者:三角和代





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間に合わせの埋葬 [海外の作家 か行]


間に合わせの埋葬 (論創海外ミステリ207)

間に合わせの埋葬 (論創海外ミステリ207)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2018/04/04
  • メディア: 単行本

<帯惹句>
ニューヨークの富豪の元に届いた幼児誘拐予告事件を未然に防ぐため,NY市警のロード警視はバミューダ行きの船に乗り込む!
「いい加減な遺骸」「厚かましいアリバイ」に続く〈ABC三部作〉遂に完結!


2021年11月に読んだ4冊目の本。
論創海外ミステリ207。単行本です。
C・デイリー・キングのABC三部作のうち、「いい加減な遺骸」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら
「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら
に続く第3作にして最終作。

舞台がバミューダということで、異色作ということになると思われます。
ほぼほぼロード警視ひとりで、ポンズ博士は最後の方にちょこっとしか登場しません。
だから、ということではないと思いますが、作品の持つ雰囲気が少々今までとは違います。
事件もなかなか起こらず、ロード警視は休暇のようにバミューダを楽しみ、恋に落ちる!

オベリスト三部作、ABC三部作と6作に登場してきたロード警視が、ようやく幸せになれるのかどうか。
事件そっちのけで、この点が気になってしまいました。

おもしろいのは、ロード警視は主人公でありながら、ミステリ的には狂言回しの役どころという点でしょう。
ポンズ博士も結局のところ、引き立て役。
最後のクライマックスで真相を見抜いていたのはロードでもポンズ博士でもなく、というのがおもしろい。
いいんです、いいんです。
ミステリとしては苦しいところも多いけれど、ロード警視が幸せになれそうですから。

ある意味、見事な最後の事件、完結編です。


<蛇足1>
「中でも、偶然見つけた小さな砂浜は絶品で、岩陰でこっそり水着を脱ぎ捨ててひと泳ぎした後、体が乾くまでゆっくり太陽を浴びたおかげで、うっすらと健康的な日焼けまでしてきた。」(73ページ)
旅先のバミューダでのこととはいえ、全裸で泳いでその後日光浴とは、ロード警視も大胆な(笑)。

<蛇足2>
「この女性はこれから恐妻ぶりを発揮して、綿棒を振りかざすつもりだろうか?」(89ページ)
「恐妻」を恐ろしい妻という意味で使う例に初めて遭遇しました。
かなり独特の言語観を持った訳者のようですね。

<蛇足3>
「どの窓にもバミューダ・シャッターが吊ってあり、下辺部を外へ押し出してつっかえ棒で留めるため、隙間しか開かないのだ。」(103ページ)
バミューダ・シャッターがわからず調べました。
ああいう窓をバミューダ・シャッターというのですね。

<蛇足4>
224ページに株を使った詐欺の手口が書かれているのですが、そこに
(原注・著者は前述の手口について、クレイトン・ロースン著『天井の足跡』(一九三五年)を参考にさせてもらった。著者自身にはこの詐欺行為を実践した経験がないからだ
と書かれていて笑ってしまいました。
この書き方だと、まるでクレイトン・ロースンはこの詐欺行為をやったことがあるみたいです。

<蛇足5>
「なあ、赤ん坊のものがいくつか見つかったんだ。おまえが<メイシ―>で買ったシャツが二枚ある」(236ページ)
ここのメイシ―、おそらくアメリカの非常に有名なデパート Macy's の訳ではないかと思うのですが、通常日本語にするときはメイシーズ、と訳されていますね。
's はもともと「~の店」という意味なので訳さないと習うことが多いですが、's まで含めて固有名詞化していることが多くそこまでカタカナにする例が多いように思います。




原題:Bermuda Burieal
作者:C Daly King
刊行:1940年
訳者:福森典子




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愛しいひとの眠る間に [海外の作家 か行]


愛しいひとの眠る間に (新潮文庫)

愛しいひとの眠る間に (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
雪のニューヨーク、衝撃的な記事を書くことで著名な、女性ライターが姿を消した。ブティックを経営するニーヴは、その作家のコートがすべて残されていることからこの失踪に不審を抱き、元市警本部長の父に相談する。一方、彼に逮捕されたマフィアのボスが、復讐のため、ニーヴに対する殺人指令を出したらしい……。米ファッション業界が抱える様々な問題を扱ったサスペンス長編。


2021年8月に読んだ11冊目の本です。
またまた、どこから掘り出してきたんだと言われそうな本です。
奥付を見ると平成2年10月25日発行。30年以上積読にしていました......

さすがは”サスペンスの女王”。すっと世界に入っていけます。
華やかなファッション業界を背景にしたドラマです。
主人公ニーヴはブティックの経営者。ニーヴの母レナータも同じようにファッション業界に携わっていた。
ニーヴの父マイルズの旧友、サルおじさんはファッション・デザイナーとして業界で大成功を収めている。
ニーヴの父マイルズは連邦検事だった際マフィアのボスを投獄、その後市警本部長に就任。直後、妻レナータは惨殺されていた。
ニーヴの顧客でファッション・ライターのエセルが殺され、エセルの分かれた夫が怪しい動きを見せている。
折も折、マフィアのボスが、ニーヴへの殺人指令を出したという......
最近のどぎついサスペンスものに比べると、あっさりとしているようにも思えますが、しっかりと盛り上げてくれます。

作者のメアリー・ヒギンズ・クラークはベストセラー連発の作家で、その名を冠した賞もあるのですが、もう日本では新刊書店では手に入らないですね......
読み返してはいないものの、初期の
「子供たちはどこにいる」 (新潮文庫)
「誰かが見ている」 (新潮文庫)
「揺りかごが落ちる」 (新潮文庫)
あたりは復刊してもいいんじゃないでしょうか?

話はそれますが、創元推理文庫は毎年復刊フェアをやっていて、早川書房もたまに復刊フェアをやりますが、ほかの海外ミステリを出す出版社も復刊フェアをときどきはやってほしいですね。
新潮文庫、文春文庫、角川文庫あたりには特に期待したいです。
もちろん、未訳の作品も大歓迎ですよ。


<蛇足1>
「物慣れた手つきでレタスをちぎり、リーキを刻み、ピーマンを剃刀の刃ほどの薄い輪切りにした。」(43ページ)
リーキ? リーク(Leak)のことだろうな、と思って調べてみたら、日本ではリーキとも言うようですね。リークよりはリーキの方が優勢かもしれません。
ロンドンに行くまで料理をしませんでしたので、野菜を自分で買ったりもしませんでしたので、知りませんでした。
長ネギは、日本食材店あるいはアジア食材店に行かないと手に入りづらいので、日本人家庭ではリークで代用することはよくあることかと思いますが、味わいが違いますよね......

<蛇足2>
「もうそんな話はよして、さっさと小海老のスカンピ(訳注 ニンニクで風味をつけた小海老のフライ)でも注文してくれない?」(58ページ)
スカンピに、料理名(フライ)だという訳注がついていますが、スカンピは料理名ではありませんね。
イタリア料理が日本でもかなり広まっているので今では知っている人の方が多いと思いますが、スカンピとは手長海老のことですね。
本書が訳された当時はわかりやすくするためにこう書かれたのでしょう。

<蛇足3>
「小さな、形のいいくちびるは、キューピーのように両端のつりあがった弓形に描かれている。」(67ページ)
ここを読んで、我ながらバカバカしいことに、日本のマヨネーズがこの頃にはすでにアメリカにも広まっていたのか、なんて思ってしまって、その後自分の勘違いに気づき笑ってしまいました。
日本のマヨネーズ、おいしいですよね。少なくともロンドンで普通に手に入るあちらのもの(たとえばハインツとか)とは味わいが全く違いますね。


原題:While My Pretty One Sleeps
著者:Mary Higgins Clark
刊行:1989年
訳者:深町眞理子


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火焔の鎖 [海外の作家 か行]


火焔の鎖 (創元推理文庫)

火焔の鎖 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
27年前、米空軍の輸送機が農場に墜落した。この事故で九死に一生を得たマギーは、とっさに乗客の死んだ赤ん坊と自分の息子をすり替えていた。なぜ我が子を手放したのか? 少女の失踪や不法入国者を取材しながら真相を探るドライデンは、拷問された男の死体を見つけてしまい……。大旱魃にあえぐ沼沢地(フェン)を舞台に、敏腕記者が錯綜する謎を解き明かす。CWA賞受賞作家が贈る傑作。


今年の6月に読んだ本の感想を書き終わったことですので、読了本落穂拾いを。

「水時計」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続く、ジム・ケリーの第2作で、新聞記者ドライデンが引き続き探偵役を務めます。
「本格ミステリ・ベスト10〈2013〉」 第3位。

帯に「英国探偵小説の正当なる後継者」とありまして、言い得て妙、です。
渋い。
あっ、でも、渋いと言っても、退屈ということではありません。
じっくり読ませる、という感じでしょうか。

前作「水時計」 とはうって変わって、旱魃や火災といった熱い(暑い)火のイメージに濃く彩られた作品です。

本書の構成を、川出正樹の解説から引用します。
あらすじにも書いてある、27年前の赤ん坊すり替え事件の「動機を探るメインストーリーに、アフリカからの不法入国者斡旋業の実態解明と、違法ポルノ写真の流通経路の追跡という二つのサブストーリーが加わり、事態はどんどん錯綜していく。」

あれもこれも結びついて、一気にわっと解決する、というパターンではなく、題材を拡げたので、ドライデンの捜査がバラバラ感がありますが、要所要所でドライデンの妻ローラが彩りを添えます。
こういう英国ミステリ、たまに読みたくなります。
シリーズはこのあと、
「逆さの骨」 (創元推理文庫)
「凍った夏」 (創元推理文庫)
と翻訳されており、買って積読状態です。
じっくり読んでいきます。


<蛇足>
「騒がしい日本人観光客の一段が、パレス・グリーンにいるアイスクリームのヴァンのまわりに群がっている。それを除くと、町の中心部にはひと気がなかった。」(338ページ)
うーん、日本人観光客がやり玉に挙がっていることに、謝罪すべきか、お礼を言うべきか。
コロナ前ではありますが、最近では海外の観光地では、日本人はかなり比重が下がってしまい、韓国人・中国人に数でも騒がしさでも、激しく後れを取っています。




原題:The Fire Baby
著者:Jim Kelly
刊行:2004年
訳者:玉木亨





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緯度殺人事件 [海外の作家 か行]


緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

緯度殺人事件 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/04/02
  • メディア: 単行本

<帯から>
十一人の船客を乗せて出航した貨客船……陸上との連絡手段を絶たれた海上の密室で、連続殺人事件の幕が開く。
ルーファス・キングが描くサスペンシブルな船上ミステリ。
〈ヴァルクール警部補〉シリーズ第3作、満を持しての完訳刊行!


論創ミステリ、単行本です。
この「緯度殺人事件」 (論創海外ミステリ)、タイトルはよく見かけていたので、待望の、という感じです。

ルーファス・キングは、
「不変の神の事件」 (創元推理文庫)
「不思議の国の悪意」 (創元推理文庫)
を読んでいるはずなのですが、例によって、覚えていません......

名高き作品の初の完訳ということで、期待して読み始めたのですが、いきなり第一文が
「無線係のミスター・ガンズが死んだ。」(7ページ)
となっていて、読むのをやめようかと一瞬思いました。
同じページに、ミス・シダビー、ミセス・プールなども出てきます。
ミスター、ミス、ミセスという語がこういうふうに頻発する翻訳はごめんだな、と思ったからです。
登場人物の呼び方や人称に無神経な翻訳は読書の大きな妨げになります。

ミスター・サンフォードはへつらうような笑みを浮かべた。ーー略ーー
「ミセス・サンフォードも、同じように感じておりましたよ」と彼は言った。(71ページ)

なんて訳もあります。原文でもミセス・サンフォードを使っているのでしょうが、夫が妻のことを、ミセス・サンフォードと呼ぶというのは翻訳としていかがなものかと思わずにはいられません。

読みのをやめようかなと思わせる文章もあちらこちらに。

「汽船〈イースタン・ベイ号〉の蓋然的な推定位置を概算するよう乞う。」(104ページ)
「はっきりしない経緯のどこかに、支持できるかもしれない仮説に至る、現時点で最も近い道筋が示されていた。」(104ページ)

あまりにもぎこちなくて、意味の取りにくい文章で、苦笑するしかありまん。

「この船のどこかに、あんな卑劣な罪を犯すほど堕落しきった人物がいるなんて、誰も知っていたくはないのですから。」(169ページ)

これまた苦笑なのですが、日本語にするときには「知る」ではなく「思う」とか「考える」とかせめて使えなかったのでしょうか?

論創社って、貴重なミステリを翻訳してくれるのはいいのですが、もうちょっと訳者を選んでほしいな。
これらの訳者による妨害に負けず、最後まで読みました(笑)。

船に殺人犯が正体を隠して?乗り込んでいて、船上で殺人が起こる、という設定になっていて、意外とサスペンスフルです。
殺人犯を追いかけてきたニューヨーク市警のヴァルクール警部補が探偵役です。

各章のタイトル?が、北緯〇度、西経〇度、と船の座標を表す形になっていますし、途中から折々、ヴァルクール警部補になんとか連絡しようとするニューヨーク市警の電報などの通信文が挟まれます。
これがちょっとしゃれているなと思わせてくれ、これまた意外とサスペンスを盛り上げます。
確認はしていないのですが、おそらくある意味手がかりにもなっているのかも、です。

かなり奇矯な登場人物たちが楽しく、対するヴァルクール警部補が常識人という感じで、警部補の活躍は安心して読めます。
謎解きものとしては軽めですが、退屈はしません。

ミステリ的にはどうということはないのですが、物語としてはラストは意外な展開になりまして、おやおや、と思いました。
そこへ至る小道具がちょっと効果的に使われているのも好印象です。

翻訳がひどいのが残念ですが、まずまず楽しめました。



<蛇足1>
「それから船室へ行き、冷たい海水のシャワーを浴びて、船室に戻り、服を着て甲板に出た。」(71ページ)
舞台となる<イースタン・ベイ号>は、貨物船を貨客船に改造したようですが、海水のシャワーって、嫌ですね.....浴びても、ベタベタする。


<蛇足1>
「彼は夫人の無慈悲さに激しい怒りを感じた。人間の行動における予想外の無慈悲さに出くわすたびに、いつもそんなふうに感じるのだ。」(211ページ)
ここだけ切り取ってもわからないとは思うのですが、ここでいう「無慈悲」の意味がわかりませんでした。前後を何度読んでもわかりません。

<蛇足2>
「紐がほどけて、襟(カラー)の半数が飛び出しているカラー入れ」(217ページ)
カラーは確かに襟で、襟という意味で使うことが多いですが、ここでいうカラーは、日本語でいうところではなく、襟につけるカラーでしょうね(日本で知られているのは学生服に使われているものですね)。

<蛇足3>
「利己的で、わがままで、恥知らずの年寄り女。本当に年寄りですよ、ミスター・ヴァルクール。わたしとまったく同じくらい年寄りだと思うし、わたしは来月半ばには四十七になるんですからね」(239ページ)
47歳でもう年寄りと呼ばれちゃったんですね、この作品の発表当時は。




原題:Murder by Latitude
作者:Rufus King
刊行:1930年
訳者:熊井ひろ美







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厚かましいアリバイ [海外の作家 か行]


厚かましいアリバイ (論創海外ミステリ)

厚かましいアリバイ (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/12/21
  • メディア: 単行本



論創海外ミステリ169。単行本です。
C・デイリー・キングのABC三部作のうち、「いい加減な遺骸」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)に続く第2作です。
このあと「間に合わせの埋葬」 (論創海外ミステリ)が第3作です。

前作「いい加減な遺骸」は、ちょっと見過ごせないほどの大きな欠点があるものの、なぜか嫌いにはなれないという、ある意味愛すべき作品だったように思ったのですが、さて、今度の「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)はどうでしょうか?

あらすじがどこにもないのですが、帯に
「洪水で孤立した村
 館で起きる密室殺人
 容疑者全員には完璧なアリバイがあった」
と書かれています。

解説では、森英俊が
「密室にアリバイ崩し、ダイイング・メッセージ」に奇妙な凶器、邸の見取り図に関係者のアリバイ一覧表、複数の仮説に誤った推理という、パズラー・ファンにはたまらない御馳走がいくつも盛り込まれており、読むものを最後まで飽きさせない」
と書いているように、盛沢山です。
(ところで、解説で「タラントとその相棒であるポンズ博士」と書いてあるのですが、ロードとポンズ博士の間違いではなかろうかと思います)

ただ、今回もトリックはちょっと問題あり、でしたね。
当時のアメリカの事情が(こちらには)わからないから、というのも理由のひとつかとは思うのですが、294ページからの解決シーンでもちょっとピンとこない。伏線として書かれたとおぼしき部分(231ページ~)を読んでもよくわからない......これに関しては大胆な示唆となるダイイングメッセージが残されているので感心するところだと思うのですが、正直感心できなくて困ってしまいました。もったいない。リアルタイムでアメリカに住んでいたら、感心できたのだろうな、と思えます。

ほかのトリックも、まず平凡というか、さほど思い切ったものはないのですが、全体を通してみると、引用した森英俊の解説にもあるように、ミステリファンをくすぐる趣向盛沢山で、かつ、細かいけれども細かい点でいろいろと考えられていることがわかるようになっていまして、満足できました。

最後に、前作「いい加減な遺骸」の日本語がとてもぎこちなくて、読みにくかったことを指摘しましたが、訳者は変わっているものの本書「厚かましいアリバイ」も読みにくかったです。
「証拠は既知の情報から論理的な消去を重ねて出てくる。」(220ページ)
どういうことでしょう? なんとなくわかる気がするのですが、この部分、ロードとポンズ博士が意見を交わすとても興味深いところで、間違いなく明確、論理的に解釈できるはずなのに、消化不良に陥ってしまいました。

シリーズ最終作「間に合わせの埋葬」も楽しみです。




原題:Arrogant Alibi
作者:C Daly King
刊行:1938年
訳者:福森典子




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魔術師を探せ! [海外の作家 か行]


魔術師を探せ! 〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

魔術師を探せ! 〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2015/09/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
英仏帝国による統治が長く続き、科学的魔術が発達した世界。たぐいまれな推理力をもつ捜査官ダーシー卿と上級魔術師のショーンは、彼らでないと解決できない特殊な事件の捜査にあたっていた。隣国の工作員を追っていた国王直属エージェントが失踪した事件、棺の中から青く染められた死体が発見され、秘密結社の暗躍が疑われる事件――架空の欧州を舞台にした名作本格ミステリの新訳版。3篇収録の中篇集。


早川書房創立70周年のハヤカワ文庫補完計画で、2015年に新訳復刊された作品です。
魔術が普通に存在するパラレルワールドを舞台にした本格ミステリ。
「その眼は見た」
「シェルブールの呪い」
「青い死体」
の3編を収録した短編集です。

舞台設定については、解説で山口雅也が要領よくまとめておられますが、さらにはしょって紹介すると......
舞台となるのは、架空の英仏(アングロ・フレンチ)帝国--イングランド、フランス、スコットランド、アイルランド、ニュー・イングランドおよびニュー・フランス帝国。
時代の設定は、作品発表当時の「現代」である一九六〇~七〇年代。
しかし、産業革命は起こっていないようで、照明は燭台かランプかガス灯、自動車も飛行機もなく、移動手段は馬車や汽車、電話もない模様で、代わりにテレソンなる詳細不明の遠隔通信の手段がある。
シャーロック・ホームズが活躍したヴィクトリア朝に世界の雰囲気は似ているが、科学の発達度合いはそれ以前といった有様。
ギャレットが描くパラレル世界の「現代」には、産業革命以降の科学技術に代わって、何と古(いにしえ)の《魔術》が科学的に理論体系づけられ、堂々と社会の中に根付いている。

作品においては、くどくどした説明はないのですが、探偵役である捜査官ダーシー卿と上級魔術師のショーンの捜査の過程において、魔術の効用、限界がきっちり伝わってくるので、本格ミステリとして謎を解こうとしたときに問題はありません。
また、魔術が出てくるからなんでもあり、という展開もきちんと封じられています。
すごいなぁ。
今でこそ、こういう架空世界を舞台にしたミステリは珍しくないですが、当時は斬新でしたでしょうね。

「その眼は見た」は、慎みがなかった伯爵、つまり猟色家だった伯爵が殺されるという事件です。
面白いのは、眼球検査(アイ・テスト)をすることでしょう。
「死の間際--とりわけ激烈な死の間際に、たまに生じる心霊現象を調べるものでして。激情のストレスは、この意味がおわかりかどうかわかりませんが、ある種の逆流を心に引き起こす。その結果、死にゆく人間の心にあるイメージが網膜に反映される。しかるべき魔術を使うことによって、そのイメージを浮かびあがらせ、死者が最後に見たものを引き出すことができるというわけです」(72ページ)
と説されますが、これ、清水玲子の「秘密 トップ・シークレット」と相似形ではありませんか。
特に第一話(感想ページへのリンクはこちら)を思い出させました。

第二話「シェルブールの呪い」は、英仏帝国と敵対するポーランドの工作員が暗躍するシェルブールで、侯爵が姿を消した事件を追います。
侯爵の側近であったシーガー卿が印象に残りました。

最後の「青い死体」は、時代がかった登場人物たちの言動が趣深いですが、ミステリ的には、魔術そのものではなく、魔術が存在するという事実がうまく物語に組み込まれているな、と思いました。

いずれの話も、魔術が存在する世界で、魔術を使えないダーシー卿が、それぞれの家族に救いをもたらすことになっており、そこが意外とポイントなのじゃないかなという気がしました。

ずっと読んでみたかった作品なので読めて幸せです。
解説にもありますが、長編「魔術師が多すぎる」(ハヤカワ・ミステリ文庫)復刊と、本書に続く第二集を期待します。
よろしくお願いします、早川書房さん。



<蛇足1>
「受割礼日--一月一日--の前夜祭のときは、街路がひとの海になったが」(96ページ)
受割礼日? なんじゃそりゃ? と思って調べてしまいました。
「イエス様が誕生から8日目に旧約の律法にしたがって割礼を受け、天使から示されたとおり「イエス」と名付けられたという聖書の記述(ルカ2:21)に基づき、1月1日を「受割礼日」という名称で古くから守ってきました。」(市川聖マリア教会さんのHPから。例によって勝手リンクです、すみません)
イエス・キリストはユダヤ人ですから、割礼しているんですね。
そしてそれが記念日になっている...... ちょっとすごいな、と思ってしまいました。


<蛇足2>
「南へのびる河岸道路(ケとルビが振ってあります)、サント・マリに入った。」(99ページ)
「サント・マリ海岸道路を、ひとりの男がやってくる。」(100ページ)
わずか数行の間で、河岸道路、海岸道路が入り乱れています。
校正をすり抜けたミスですね。
さて、どちらが正しいのでしょうね?

<蛇足3>
「わたしが戸締りをしたのは八時半でございます、卿。まだ外は明るかったですね。」(249ページ)
5月18日のことです。
たしかにイギリスの夏は日が長いですが、5月後半の段階で8時半はまだ明るいだろうか? と思ってしまいました。
舞台となっているカンタベリーの日没を調べると(カンタベリー大聖堂の地点で調べました)、
          日の出    日の入    日長
2020年05月01日 05:26:02 AM 08:19:17 PM 14h 53m 15s
2020年06月01日 04:44:20 AM 09:02:59 PM 16h 18m 39s
となっていまして、8時半だとまだ明るいのも納得です。
そうか...10月に入ってかなり日が短くなってきたので忘れてしまっていました。
(ただし、イギリスは夏時間を採用していますので、午後八時半といっても通常だと7時半です)


<蛇足4>
第一話「その眼は見た」の原題「The Eyes Have It」を見て、ちょっと笑ってしまいました。
イギリスの議会で採決されたあと、賛成多数の場合「The “ayes” have it」と議長が宣言するのを思い出したからです。
ブレグジットをめぐる議会でのやり取りの中ですっかりお馴染みになってしまいました。
ちなみに、反対多数の場合は「The “noes” have it」


原題:The Eyes Have It
作者:Randall Garett
刊行:1964, 1965年
翻訳:公手成幸






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運河の追跡 [海外の作家 か行]

運河の追跡 (論創海外ミステリ)

運河の追跡 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: 単行本



単行本です。
論創海外ミステリ125。
アンドリュウ・ガーヴの作品は、「殺人者の湿地」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。

論創ミステリの常としてあらすじがないのですが、帯に
「連れ去られた娘を助けるべく東奔西走する母親
 残された手掛かりから監禁場所を探し出せるのか」
と書かれています。

娘を連れ去るのが夫だ、というのがおもしろいポイントですね。ちょっと現代的な感じがします。
(ちなみに娘は一歳なので、「監禁」というのはあまり適切な語とは思えないのですが)

娘を捜索するやり方が、極めて行き当たりばったりなのが気になりましたが、素人だとこんな感じになってしまうのかもしれませんね。
途中で運河をボート(長さが30~40フィート、幅が6フィートで船室も二部屋あるというのですから、日本語の感覚では船といった方がいいかもしれませんね)を借りて探しに行くことになって、娘を探すにしては少々牧歌的な展開です。ボートを航行させる様子が割と詳しく書かれていて興味深かったですね。

薄い本なので少々あっけない感じもしてしまいますが、さらっと読めてよかったです。


<蛇足1>
「レナはナイツブリッジのフラット式アパートメントに住んでいる」(27ページ)
イギリスでは日本でいうところのアパートメントやマンションを、フラットと呼びますが、それをフラット式アパートメントとは、なかなか思い切った新語を作られましたね。

<蛇足2>
「王立裁判所の向かいのビルに着くと、鈍いエレベーターに乗り」(50ページ)
鈍いエレベーター? どういう意味だろう、と悩みました。
動きの遅い、ということ? 操作をしても反応が鈍い、ということ?

<蛇足3>
「もっと良い案があればいいのだが、今だに思いつかない、」(140ページ)
正しくは「未だに」ですね。ちなみにぼくのPCの変換では「今だに」というのは出てきませんね。
同じページに「クリスティーンさえいてくれれば!」という誤植(?) もあります。

<蛇足4>
「もう、夫に抱いていた感情は完全に消えた。」(199ページ)
あまりの直訳に苦笑してしまいます。
ここは日本語の感覚では、感情よりは愛情でしょうねぇ。
中学生の英文和訳を読まされているような文章がいっぱいあって、困りものの翻訳でした。


原題:The Narrow Search
作者:Andrew Garve
刊行:1957年
訳者:菱山美穂




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いい加減な遺骸 [海外の作家 か行]


いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
米国の鬼才C・デイリー・キングが奏でる死の狂想曲 ABC三部作 第一弾 遂に始動!
孤島の音楽会で次々と謎の中毒死を遂げる招待客
マイケル・ロード警部が事件に挑む


論創海外ミステリ141。単行本です。
C・デイリー・キングといえばオベリスト三部作。
「海のオベリスト」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
「鉄路のオベリスト 鮎川哲也翻訳セレクション」 (論創海外ミステリ)
「空のオベリスト 世界探偵小説全集(21)」(国書刊行会)
全て読んでいるのですが、実は覚えていません......
「鉄路のオベリスト」 は、鮎川哲也訳ということで、カッパ・ノベルス版が出た際(amazon によると1983年らしい......)慌てて買った記憶があり、そんなにも飛びついたのにもかかわらず、覚えていない......
ちなみに、S・フチガミさんの(渕上痩平という表記はとられていません)HPによると(例によって勝手リンクを貼っています)、オベリストとは、「海のオベリスト」の英ヘリテイジ社版では「ほとんど全く価値のない人(a person who has little or no value)」、米クノップ社版では「疑いを抱く者(one who harbours suspicions)」となっているそうです。おもしろいですね。

この「いい加減な遺骸」は、このあと「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)「間に合わせの埋葬」 (論創海外ミステリ207)と続くABC三部作の第1作です。

探偵役はロード警部。オベリスト三部作に続いての登場で警視に出世しています。
「ポンズに言わせれば、ロードは船上では健闘したし、列車では大活躍をした。しかし、飛行機のときはそうはいいきれない。結果と事件の解決には何も問題はないように思えるが、どこか疑問がつきまとう。」(11ページ)
と微妙な(?) 紹介がされていますが......

読み終わってどうだったかというと、個人的にはとてもおもしろく読みましたし、ABC三部作残りの二作品を読みたいな、と思えました。さらに覚えていないオベリスト三部作も読み返していいかも、とも思いました。
けれど、この作品をほかの人にお勧めするか、というと残念ながらNoですね。

解説で森英俊が書いている表現を借りると「無害なはずのコーヒーを飲んだ者たちが次々と命を失っていく」というのが事件で、すごく魅力的なんですね。
でも、作中でさんざんどうやって殺したかわからない、と繰り返しておきながら、この毒をめぐる種明かしは、正直いんちきとしか言いようのないもので、実効性もない。
326ページや347ページの謎解きシーンでは、きっと唖然としますよ。
なので、お勧めは到底できない。
作者の苦し紛れの言い訳(としか思えないコメント)が巻末にくっついていますが、これまた笑うしかない程度のもので......ぜひご笑覧ください、って感じです。

でも、だからダメミス、くそミスか、となると、たしかにダメミスなんでしょうけれど、なんだか弁護したくなっちゃうんですよね。
というのも、演奏会などの退屈な部分もあるものの(失礼)、孤立した状況とか、法廷シーンとか、楽しませようという意欲がありますし、またロード警視にそれなりに肩入れしたから、というのもありますが、そのダメなトリックを前提にすると、しっかり犯人を論理的に指摘できるようになっているんですね。
遅すぎるといえば遅すぎるのですが、そのトリックを明かしたあとの326ページ以降で、たとえば読者への挑戦を挿入していたとしたら、作品の印象はずいぶん違ったと思うのです。
現実にはこれで人が死ぬことはないけれども、この作品世界ではこの前提で考えて推理してくださいね、という感じですね。

というわけで、かなりの曲者でしたが、個人的にはOK。
ABC三部作、読み進めていくつもりです!

最後に、この本日本語がとてもぎこちなくて、読みにくかったことを指摘しておきます。
屋敷の音響を説明するシーン(107ページ~)が象徴的で、技術的なことを言葉で説明するのはもともと大変なことだとは思っていますが、それにしてもひどい。
それ以外にも不思議な日本語があちこちに。
「わたしの部屋には暖炉があって、杉の薪が使われているだけでなく、燃えるととてもよい香りがするのだよ。」(113ページ)
「だけでなく」の使いかたがしっくりきませんでした。
薪として杉が使われていることで何か明らかな価値があるのでしょうか?
「これまでにわかったことを教えてもらいたいのだ。単なる好奇心ではない、個人的な興味がある。」(116ページ)
という文章も謎です。原語を確認したいですね。個人的な興味って、好奇心と言われちゃいますよね......
「むろん、ブラーの直前に来た者が置いていったのだ。彼が入る前に、ほかの誰も船室にはいらなかったということだ。」(121ページ)
誰も入らなかったのに、直前に来た者が置いていった、というのはちんぷんかんぷんですね......
「地球を半周すれば、この国の最後の議会選挙を見ることができます。あなたがたの恥知らずな公共事業の賄賂とともにね。」(126ページ)
意味がわかりません。話の筋に影響はないですが。
「たとえばパンテロスのような人間は、この状況をどう考えているのだろうか? 今はマリオンと楽し気におしゃべりしている。にもかかわらず、パンテロスはマリオンが犯人かもしれないことを知っている。もちろん、彼が犯人を知っていれば話が別だが、その場合は彼が犯人ということになる。」(244ページ)
というところもひどいですね。どうやったらこういう訳になるのか教えてほしいくらいです。
訳者の白須清美さんはこれまでにも訳書を読んだことがありますが、こんなにわかりにくい日本語を使う方でしたっけ? と不思議な感じがしました。


<蛇足1>
現場に残っていた魔法瓶の中のコーヒーを、警察官が飲んでいたというエピソードがあるのですが(58ページ)、いくらなんでもねぇ......しかも7杯分もあったのを全部飲んでいるんですよ!

<蛇足2>
ゆうべボートを調べたとき、船室の床に割れたカップが落ちていました。誰も片づけようとしなかったようです。むろん、中身はなく、分析はできません。(59ページ)
割れたカップといえども、ある程度は中身残ってそうですけどね......

<蛇足3>
「彼らは弁護側の証言を聞くことができず、彼らの前で証言する者は、自分が証言するどのような事柄についても自動的に刑事免責を受けることになる。」(337ページ)
ここでいう彼らというのは、大陪審の陪審員のことなのですが、大陪審での証言者は、刑事免責を受けられたというのは衝撃でした。
そのあとでも
「殺人に関する証言を行うことで、犯人は刑事免責を得るでしょう。」(360ページ)
という発言がロード警視から出ます。
こんなへんな制度だったのでしょうか?



原題:Careless Corpse
作者:C Daly King
刊行:1937年
訳者:白須清美





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九つの解決 [海外の作家 か行]


九つの解決 (論創海外ミステリ)

九つの解決 (論創海外ミステリ)

  • 作者: J.J. コニントン
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/07
  • メディア: 単行本

単行本です。
論創海外ミステリ176。
「2017本格ミステリ・ベスト10」 第8位。

先日感想を書いた「オシリスの眼」 (ちくま文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で、渕上痩平による訳者あとがきから、
「犯人が誰かという答えを単に当てることではなく、なぜその人物が犯人なのかをプロセスとしてきちんと論証してみせることを重視した作家だった。」
というくだりを引用しましたが、この「九つの解決」 (論創海外ミステリ)の作家J・J・コニントンも同様のようですね。

タイトルの「九つの解決」。
てっきり多重解決ものなのかな、ととても期待していたんですよね。
でも、違いました。
物語のキーとなる二つの死について、それぞれ自殺、事故、他殺の3通りが考えられるので、組み合わせとして3×3の 9通りが考えられる、ということで、探偵役であるクリントン卿とフランボロー警部がすべての可能性について検討し、一つずつ潰していくことから来ています。(94ページにリストが9通りを表にしたものが出て来ます。また、カバーにもこの9通りのリストが描かれています)
ここを読んだときには、正直、がっかりしましたし、馬鹿馬鹿しいな、と思いました。
いくらそのあとのフランボロー警部たちの検討が示唆に富むものであってもね...
土台、これでは、solution (解決) とは呼べないじゃん......

ということで、タイトルだけで変な期待をした分がっかりしたのですが、作品そのものはとてもしっかりした、おもしろいものでした。
(解説によると、ダシール・ハメットが「きわめて慣習的で、エキサイティングな要素は皆無だが、しかし、まことに面白く読める探偵小説」で、解決は「完全に満足のいくものである」と賞賛していたそうです。ハメットの作風からすると意外感があるので、この点もおもしろいですね)

本書の一番のポイントは、最終章である「第一九章 クリントン卿のノートからの抜粋」ですね。
ここでは、折々にクリントン卿が事件をどう考えていたのか、どのような証拠をどう解釈していたのか、がクリントン卿自身のメモという形で提示されます。
メモなので、そっけない感じになってしまっていますが、本格ミステリ好きにはたまらないプレゼントなのではないでしょうか。
一番おもろいな、と思った点は、折々の名探偵の推理過程が明らかになること、です。
詳細な解決編が用意されているミステリであっても、最後に一気呵成に推理が披露されることがほとんどで、本書のように節目節目の名探偵(クリントン卿)の考えがトレースできることは滅多にないですから。これはものすごく優れた点として注目だと思います。

ということでお分かりいただけるかと思うのですが、節目の名探偵の推理を披露できる、ということは、すなわちそれだけ複雑な分岐をもつプロットを事件に仕込んである、ということでもあります。
化学研究所の若い職員ハッセンディーンが自宅で殺されているのが発見される。
化学研究所の研究者シルヴァーデイルが住んでいる隣家では女中が殺されていた。
さらに、少し離れたバンガローでシルヴァーデイル夫人が殺されているのが発見される。シルヴァーデイル夫人はハッセンディーンと非常に懇意であった。バンガローは密会場所だったと思われる。
更には事件の鍵を握っていると思われるホエイリーという前科者も殺されてしまう。
と合計4つも殺人が起こるわけですが、非常によく練られていると思いました。


<蛇足1>
「だから、いくら君に土地勘があっても、さして役に立つとは思えない。」(9ページ)
昔、佐野洋の「推理日記」(巻数がわからないので、第1作目にリンクを貼っています)だったかと思うのですが、土地勘ではなく土地鑑と書くのが正しいと書いてあったのを思い出しました。

<蛇足2>
「クリントン卿は、再び四冊の浩瀚な冊子をあからさまに嫌そうな目で見つめた」(129ページ)
浩瀚、意味が分からず調べました。
「書物の分量が多いこと。書物が大部であること。」

<蛇足3>
「義弟は債権や株式で持っていた財産の一部を妹に名義替えしたんです。」(183ページ)
原文は確認しておりませんが、ここは債権ではなく、債券ではないでしょうか? よくある話ではありますが。

<蛇足4>
カバー裏にある作者紹介のところで、
「<読者への挑戦状>が作中に挿入される趣向を、エラリー・クイーンに先駆けて自作に取り入れた。」
と書かれているのですが、本書には読者への挑戦はありません......


原題:The Case with Nine Solutions
作者:J. J. Connington
刊行:1928年
訳者:渕上痩平




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