SSブログ
日本の作家 ま行 ブログトップ
前の10件 | 次の10件

ヴェルサイユ宮の聖殺人 [日本の作家 ま行]


ヴェルサイユ宮の聖殺人

ヴェルサイユ宮の聖殺人

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/01/21
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
1782年5月──ブルボン朝フランス王国が黄昏を迎えつつある頃、国王ルイ16世のいとこにして王妃マリー=アントワネットの元総女官長マリー=アメリーは、ヴェルサイユ宮殿の施錠された自室で刺殺体に遭遇する。殺されていたのは、パリ・オペラ座の演出家を務めるブリュネル。遺体は聖書をつかみ、カラヴァッジョ「聖マタイと天使」に血文字を残していた。そして、傍らに意識を失くして横たわっていたのは、戦場帰りの陸軍大尉ボーフランシュだった──。マリー=アメリーは集った官憲たちに向けて、高らかに告げる。「この方の身柄を預けて下さいませんこと? 私のアパルトマンで起きた事件です。こちらで捜査しますわ。無論、国王陛下の許可はお取りしますからご安心下さい」「俺は助けて欲しいと一言も言ってない! 」かくして、奇妙な縁で結ばれた、才女気取りのやんごとなき貴婦人と第一容疑者のボーフランシュ大尉は、謎多き殺人事件に挑む。


2022年9月に読んだ11冊目です。
単行本で読みました。
第10回アガサ・クリスティ―賞の優秀賞。
このときの受賞作はそえだ信の「掃除機探偵の推理と冒険」 (ハヤカワ文庫JA)(感想ページはこちら


18世紀、フランス革命前夜の王族、貴族階級を舞台にした歴史ミステリです。

国王のいとこであるマリー=アメリーが、殺人現場にいた陸軍大尉ボーフランシュの身柄を預かる、という冒頭の展開に驚いてしまいますが、次第にマリー=アメリーならやりかねないと納得できてしまいます。
マリー=アメリーとボーフランシュ二人が組んで事件の真相を追っていくのですが、この二人のやり取りがおもしろい。

この場面でも明らかなように、マリー=アメリーが現代風の性格をしている点を興ざめに思う方もいらっしゃるのではと思いますが、このように現代風の意匠が盛り込まれているのも、犯人がパターン通りで見え見えであるのも、この物語の中ではかえって趣深いように感じました。
犯人がパターン通りで見え見えといっても、さまざまな手がかりちりばめられていて好印象です。
デビュー作にありがちなことですが、要素盛り込みすぎ、という感もなくはないですが、舞台背景が豪華絢爛なので、これくらいでよいのかもしれません。
なにより堂々とした筆運びが素晴らしい。

応募時のタイトルは「ミゼレーレ・メイ・デウス」
Miserere mei, Deus。「神よ、我を憐れみたまえ」(262ページ)
システィーナ礼拝堂の歌手アッレーグリが作曲、歌詞は詩編第五十篇をそのまま用いているそうです。カストラートが歌い上げるシーンもありますが、クライマックスでの使われ方が印象的です。

次はどういう作品を読ませてくれるのか、とても気になる作家です。


<蛇足>
「凝った刺繍が施された上着とジレから、かなりの洒落者と見受けられたが、穏やかな笑みを湛えた端正な顔立ちに反し、有無を言わせない威圧感を放っている。」(64ページ)
恥ずかしながら、ジレがわかりませんでした。

<蛇足2>
「二人は熱いワイン(ヴァン・ショー)で身体を温めることにした。」(162ページ)
ヴァン・ショーという語が当てられている ”熱いワイン” は日本ではホットワインと言われることが多いように思います。
フランスが舞台ですので、ホットワインという言い方を避けられたのでしょうね。

<蛇足3>
「一度嫁した王族は、たとえ親や兄弟が今際の際であろうとも、二度と故郷の土を踏むことは許されない。離縁されるか、嫁いだ国が無くなるか。不名誉な理由以外には。」(162ページ)
こういう掟があったのですね。
やはり王族・貴族というのはかなり不自由そうです。

nice!(12)  コメント(0) 
共通テーマ:

衣更月家の一族 [日本の作家 ま行]


衣更月家の一族 (講談社文庫)

衣更月家の一族 (講談社文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/03/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
別居している妻の潜伏先を察知した男が、応対に出た姉のほうを撲殺―一一〇番通報の時点では単純な事件と思われた。だが犯行が直接目撃されていないうえ、被害者の夫には別の家庭があった。強欲と憤怒に目がくらんだ人間たちが堕ちていく凄まじい罪の地獄。因業に満ちた世界を描ききった傑作ミステリー。


2022年8月に読んだ10作目(11冊目)の本です。
作者の深木章子は、「鬼畜の家」 (講談社文庫)で第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞しデビューした作家です。

目次を開くと、プロローグ、エピローグに挟まれて
廣田家の殺人
楠原家の殺人
鷹尾家の殺人
と続き、最後が
衣更月(きさらぎ)家の一族。

上で引用したあらすじは「廣田家の殺人」にフォーカスしています。
「楠原家の殺人」ではガラッと話が変わり、八王子にある病院を舞台に宝くじ騒動で幕を開けます。
「鷹尾家の殺人」でまたもや話が変わります。
プロローグで、衣更月家の相続の話が出ていますので、はてさて、各話とどう結びつくのか、というのが興味の焦点となります。

非常に細やかに組み立てられています。
「解答の唯一性を保証するタイプの作品ではありませんが、作者が用意した解答はいちばん見栄えの良いものだと言うことはできるとおもいます。消去法推理による犯人当てのミステリとは違って、何通りもの解釈が成立しうる話なのですが、読者が出した複数の回答の中に、作者の用意したエレガントな解答が含まれているかどうか──作者の創造力に読者の想像力が追い付けるかどうかが、勝敗の分かれ目になります。」
という解説での乾くるみの指摘はさすが鋭いですが、出来上がった真相の絵面の精緻さはとても素晴らしい。

個人的には、鮮やかさに膝を打つというよりは、その細かさにクラクラしてしまった印象。
圧倒されてしまって、素直な感動にはちょっと至れなかったですね。
ただ、これはあくまで個人的な感想であって、この細やかさは本格ミステリの一つの行き方としてとても素晴らしいと思います。
この作者の本は、続けて読んでいきたいです。


タグ:深木章子
nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:

ホテル・カリフォルニアの殺人 [日本の作家 ま行]


ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ホテル・カリフォルニアの殺人 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 村上 暢
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/08/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アメリカのモハーベ砂漠に聳え立つホテル・カリフォルニア。外界から閉ざされたその空間に迷い込んだトミーこと富井仁は、奇妙な殺人事件に巻き込まれる。連夜のパーティで歌を披露する歌姫の一人が、密室で死体となって発見されたのだ。音楽に関する知識で事件解決に乗り出すトミーだったが、やがて不可思議な状況下で新たな惨劇が……。果たして、繰り返される殺人事件の真相とは?


2022年5月に読んだ9作目の本です。
このミス大賞の超隠し玉。
超隠し玉とは何か、ということは帯に書かれています。
『このミス』大賞15周年記念として、これまで応募された未刊行作品の中から、受賞には及ばなかったものの、編集部が「今こそ世に出したい!」と選び抜いた作品を、大幅改稿した上、”超隠し玉”として刊行しました。
『このミス』大賞は大賞や優秀賞だけではなく、選外の作品から隠し玉として毎年2、3作程度出版しています。
その隠し玉にすら漏れてしまった作品から3作選んで出版されたのが、この超隠し玉。
そもそもの隠し玉はあまりの打率の悪さに嫌気がさしてきていまして、もう買うのを辞めようと思ったところに出てきた超隠し玉。
見送るところなのですが、まあ本質的にはこういうお祭りごとは嫌いじゃないので、3作も出版された中で1冊くらい買っておこうかと思って買いました。
「孤立した砂漠の館で密室殺人! 本賞初の本格ミステリー登場」
「『このミス』大賞史上類がない、直球ど真ん中の〈館〉もの本格ミステリー」
という惹句に注目して選びました。

結論からいうと、やめとけばよかったかな。
もともと期待せず読んだのですが、その低い期待をはるかに下回る出来栄え。

タイトルがホテル・カリフォルニアであることからイーグルスを意識したものであることがわかりますし、話の中身にも音楽の要素がちりばめられています。
謎にも、真夜中のバードソングという音楽が取り入れられています。
探偵役である主人公が謎を解くきっかけも音楽。
このあたりの配置はまずまずだとは思ったのですが......

驚くほど古めかしく、トリックに寄りかかった構成は潔いとも思えるけれど、肝心のトリックが非常につらい。
似たアイデアを利用した前例はあります。そういえばあの作品も新人賞の受賞作で音楽を扱っていましたね。
このトリックは実際に実行可能かどうかは置いておくとして(ミステリ的には十分、ありなトリックだと思います)、読者に対して説得力を持たせるのに気をつかう必要があるトリックだと思われ、前例作ではかなりの労力をその点に割いていた印象があるのですが、この「ホテル・カリフォルニアの殺人」 (宝島社文庫)はこの点に配慮が見られません。

むしろ、トリックを中心にするのではなく、ホテルを舞台にした歌姫たちの物語に焦点を当てていればよかったのかもしれません。
おそらく今後『このミス』大賞隠し玉を手に取ることはないでしょう。

<蛇足>
「東の端にある部屋が『赤の間』で、そこから西に向かって、橙、黄、緑、青、藍、紫となっていた。すなわち、虹の七色だ。」(44ページ)
虹が七色というのは日本の認識であって、世界共通認識ではありません。
アメリカ、モハーベ砂漠にあるモーテルで、経営も日本人ではないというのに虹が七色というのは解せません。






nice!(18)  コメント(0) 
共通テーマ:

キング・メイカー [日本の作家 ま行]


キング・メイカー (双葉文庫)

キング・メイカー (双葉文庫)

  • 作者: 水原秀策
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/06/12
  • メディア: Kindle版

<裏表紙あらすじ>
未来もお金もない底辺ボクサー・黒木には、たった一つ、夢がある。それは、「かつてのライバルと世界タイトル戦で拳を交える」こと。そんな彼のもとに、天才詐欺師・沖島とその助手の美女が現れた。百円の契約料で、その夢を実現するという。藁をもつかむ気持ちで契約した黒木は、代償として平穏な生活を失うことに――。女性に奥手、口下手、純粋過ぎる、その全てを沖島に利用され、美女に翻弄されながら、黒木は世間を賑わす「悪役ボクサー」として頂点へ駆け上がる! 「騙しのプロ」が一発逆転のトリックを仕掛けた、奇跡の六ヶ月。


作者である水原秀策は、「サウスポー・キラー」 (宝島社文庫)で、第3回 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューした作家です。
「サウスポー・キラー」 が好みにぴったり合いまして、その後文庫化された作品はすべて買っています。
語弊があるかもしれませんが、ミステリとして突出したところがあるという作風ではありません。
ただ、読み心地がすこぶる良い。人物像と語り口で読ませるタイプ、と思っています。

今回の舞台はボクシング。さらに、ミステリ、ではないですね。
解説で北上次郎も書いています。
「だから一度、ミステリーから離れた作品を読みたいと思っていた。そうすればこの作家の美点が全開するのではないか。その予感が間違っていなかったことを本書が証明してくれたのは嬉しい。」と。

正直、”天才詐欺師・沖島”が打つ手は、さほど意外なものではありません。
(さらに言ってしまうと、最後に沖島がとる手段はあまりにもベタすぎるように思いますし、そういう手を繰り出すのであれば、もっと早くそうしてしまえばよいのに、とも思います。もっともこんな読み方をするのはミステリ好きの悪い癖ですが)
それでもハラハラドキドキ、楽しく読み進めることができるのは、登場人物、特に黒木の煩悶がしっかり伝わってくるからだと思います。
それぞれ癖のある登場人物がぶつかり合うダイナミズムがポイントですね。
ミステリでなかったことは個人的に残念ですが、とても楽しく読めました!

このあと、水原秀策の作品の文庫化が途絶えてしまっているようです。
単行本で出たきりの作品がいくつかあるようなので、ぜひ文庫化してください。
あと、新作も出してね。



<おまけ>
いつものように Amazon のリンクを貼っているのですが、文庫のものがなく、Kindle版のみでした。
そもそも文庫本のページもなさそうです。
残念......




タグ:水原秀策
nice!(19)  コメント(0) 
共通テーマ:

強欲な羊 [日本の作家 ま行]


強欲な羊 (創元推理文庫)

強欲な羊 (創元推理文庫)

  • 作者: 美輪 和音
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/07/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが────。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは? 圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。

6月に読んだ5冊目の本、で、最後の本、です。

表題作である「強欲な羊」で第7回ミステリーズ!新人賞した作家の短編集です。
帯にあらすじ?があるので、引用しておきます。
「強欲な羊」 姉妹の争いの果てに起こった悲劇を粘つく筆致で描く、第七回ミステリーズ!新人賞受賞作
「背徳の羊」 自分の息子と友人の息子は瓜二つ。疑心に揺れ動く男と狡猾な女、秀逸な対比。
「眠れぬ夜の羊」 幼なじみが公園で殺害された。彼女は私の婚約者を奪った憎い憎い女。
「ストックホルムの羊」 城で王子に尽くす四人の女の暮らしは、一人の若い女の登場で脆くも崩れ去った。
「生贄の羊」 深夜目覚めるとそこは公園の公衆トイレ。“羊”たちをめぐる四つの物語はここに……
の5編収録。

受賞作である「強欲な羊」ですが、うーん、どうでしょうね、これ?
落ち着いた口調で、”旦那様”へ向けて、滔々と、しかし、淡々と語られる、お屋敷での姉妹の生活。ことあるごとに事件が起きて、最後には殺人へ。
よくできた物語だとは思いましたが、感想は、既視感、なんですよね。
そこかしこに、ああこういうの読んだことある、観たことある、という感じがつきまとう。
既視感を与えるパーツ、パーツの組み合わせ方は、さすが賞をとるだけのことはある、と思えたのですが、どうもすっきりしませんでした。

「背徳の羊」もひねりすぎて、かえって底が浅くなってしまったような気がします。

「眠れぬ夜の羊」は、ミステリなのかホラーなのか、中途半端になってしまったな、と。

「ストックホルムの羊」は、服部まゆみの某作品(ネタばれを気にしない方はリンクをたどってください)との類似がネットで話題になっていたようです。
読んでいる間は気づいていなかったのですが、確かに、趣向は同じですね。しかも、さらに非現実的な方向に踏み出してしまっているのが弱い点かな、と思います。

そして最後の「生贄の羊」。
うーん、東京創元社症候群とでも呼びたくなる作品ですね(笑)。
それぞれ別個だった短編がつながる、という趣向、そろそろやめませんか? 食傷気味です。
しかもこの作品の場合、ホラーテイストのものが混じっているので、すっきり感が少ないんですよね。

とまあ、見事に否定的なコメントをつらつら書いてしまったのですが、なのに、帯にも書いてある通り「ページを捲る手が止まらない」のです。
不思議な感じですが、とても気になる作家です。
もうちょっと読んでみるのがよいように思ったので、ほかの作品もぜひ手に取ってみたいです。


<蛇足>
本文ではなく、七尾与史による解説のところなので、蛇足中の蛇足ですが、
「もちろんデビュー作はその日のうちに拝読させていただきました。」(277ページ)
いやしくも、文章で身を立てる作家が「拝読させていただきました」はないでしょう......嘆かわしい。




nice!(18)  コメント(0) 
共通テーマ:

15歳のテロリスト [日本の作家 ま行]


15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

15歳のテロリスト (メディアワークス文庫)

  • 作者: 松村 涼哉
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。
 少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。
 事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。


「死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る」 (中公文庫)(感想ページはこちら)に続いて5月に読んだ本で、5月に読んだ最後の本です。
そう、5月は2冊しか読めなかった......

カバー裏には引用したあらすじの上に「衝撃と感動が突き刺さる慟哭のミステリー」と、いかにも下品な惹句が書かれていてげんなりしますが、それは編集者の責任で、作者の責任ではないので責めてはかわいそうです。
あちらこちらで評判がよかったので、手に取りました。

読み終わった感想は、大変失礼な物言いで恐縮ですが「悪くないな」というものでした。
下品な惹句に負けず、いっぱい売れるといいな、と思いました。

テロ事件を追う記者のシーンと、ぼくと少女との交流を描くシーンが交互に描かれます。
いわゆるラノベのレーベルですし、250ページほどの薄い本なので、非常にせわしなく、筋を追うのに精いっぱいな感じがします。
あらすじで「驚愕の真実」と言われている真相も、さほど意外ではなく、大方の読者が早い段階で射程に入れるようなものだと思います。
最後の対決シーンも、少々安っぽい。

と、こう感想を書くと、ネガティブな感じを受けるかと思いますが、冒頭にも書いたように「悪くないな」と思いましたし、支持したいと思いました。

作者の松村涼哉には、ラノベを離れて、一般小説の枠?で、十分な枚数で作品を書いてみてもらいたいな、と。

松村涼哉には、物語る力があると思うのです。
少年法、犯罪被害者の扱い、といった、すでに手垢のついたようなテーマですが、大きな物語に仕立てくれましたし、実名入りの犯行予告やその狙いとか、大きな物語を支えるディテールもきちんと効果的に機能しています。
15歳という設定も、考えられて選ばれたんだろうなと思います。
物語の構成上リスキーではありますが、登場人物の心情にもう少し分け入ってくれたら、より説得力が増したかも、と思え、十分な枚数で存分に書いてもらえたら、と感じました。

楽しめたし、期待も高まっていますので、ほかの作品も読んでみたいと思います。


<蛇足>
「渡辺篤人がいまだ逮捕されない現状を鑑みれば」(97ページ)
言っても詮無いこととわかっていても、やはり気になりますね。~を鑑みれば。気持ち悪い。




タグ:松村涼哉
nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:

ニャン氏の事件簿 [日本の作家 ま行]


ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アルバイトをしながら、自分を見つめ直している佐多くんは、あるお屋敷で、突然やってきた一匹の猫とその秘書だという男に出会う。実業家のA・ニャンと紹介されたその猫が、過去に屋敷で起こった変死事件を解き明かす?! って、ニャーニャー鳴くのを通訳しているようだが本当? 次々と不思議な出来事とニャン氏に出くわす青年の姿を描いた連作ミステリ。文庫オリジナルだニャ。


松尾由美の作品を読むのはずいぶん久しぶりになります。
2015年に読んだ「雨の日のきみに恋をして」 (双葉文庫)(実際に手に取ったのは、改題前の「雨恋」 (新潮文庫)でした。感想ページはこちら)以来ほぼ6年ぶり。
松尾由美といえば、ぶっ飛んだ設定の物語が多い作家さんです。
今回の設定は、猫が探偵。
猫が探偵というと、言わずと知れた赤川次郎の三毛猫ホームズが代表作かと思いますが、海外にも相応に作例はありますし、ミステリではわりとお馴染みの設定ですね。

これがなかなかの大人物、いや大猫物でして、なんと実業家。
フルネームがアロイシャス・ニャン。余暇には「ミーミ・ニャン吉」のペンネームで童話を執筆。
どんな猫だ!?

「ニャン氏登場」
「猫目の猫目院家」
「山荘の魔術師」
「ネコと和解せよ」
「海からの贈り物」
「真鱈の日」
の6編収録。

創元推理文庫は、日本のものでも英文タイトルがついていまして、本書は
The Mysterious Mr Nyan
これ、あからさまに、
The Mysterious Mr Quin(クリスティ「ハーリー・クィンの事件簿」 (創元推理文庫)
ですよね(笑)。
「ハーリー・クィンの事件簿」の第一話は「ミスター・クィン、登場」。確か旧訳では「クィン氏登場」だったはず。「ニャン氏登場」と平仄合ってる。

この短編集には狂言回しとして、佐多くんが各話に登場しますが、とすると、佐多くんは、サタスウェイトから取ったのかな? 佐多俊英(さたとしひで)。音読みするとサタシュンエイで、近いと言えば近いかな(笑)。

「猫目の猫目院家」や「真鱈の日」は明らかにもじりですしね。

といっても各作品はパロディになっているわけではありません。
軽く読めるようになっていますが、要所要所に、ミステリ的に気の利いた部分が忍ばせてあるのも好印象です。

「ニャン氏登場」で花瓶が凶器である理由とか、「猫目の猫目院家」でパソコンが消えた理由とか、「山荘の魔術師」で印象的に交わされる「人形はなぜ殺される」というセリフ!とか、「ネコと和解せよ」で一対の掛け軸の片方だけがなくなった理由とか、「海からの贈り物」の葉書のエピソードとか(しかし、この思いつき、よく作品に仕立てましたね笑)、「真鱈の日」のスーツケースの扱いとか。
こういうのが各話しっかり盛り込まれているので、読みごたえを感じます。

シリーズは、
「ニャン氏の童心」 (創元推理文庫)
「ニャン氏の憂鬱」 (創元推理文庫)
と続いているので、楽しみです。


nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ:

箱とキツネと、パイナップル [日本の作家 ま行]


箱とキツネと、パイナップル

箱とキツネと、パイナップル

  • 作者: 美涼, 村木
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 単行本

<帯から>
大学を卒業したばかりの僕の新居は、一見普通のアパート・カスミ荘。でも、住人は揃って個性豊かだし、怪現象も続くし…。この土地はキツネに祟られているという噂まであるらしい。一体ここはどうなってるの!?
ようこそ、カスミ荘へ。楽しい隣人とたっぷりの不思議があなたを待っています。新潮ミステリー大賞優秀賞受賞作品。


単行本です。
新潮ミステリー大賞優秀賞受賞作。
作者の村木美涼さんは、「窓から見える最初のもの」(早川書房)(感想ページはこちら)で第7回アガサ・クリスティー賞を受賞しています。

帯に
「これって果たしてミステリ?
 選考委員、激論!
 ……でも、この雰囲気は捨てがたい。」
とありまして......ミステリ好きとしては不安になりますよね。
既読の「窓から見える最初のもの」もミステリ味はとても薄かったですし。
「窓から見える最初のもの」と比較すると、ミステリ味は濃くなっていますが、ギリギリかもしれませんね。

タイトルが、三題噺かな、と思えるような形になっていますが、章題といえる部分も
第一週 回覧板とバスケットシューズ
第二週 コンビニとハイヒール
第三週 立札と目玉焼き
第四週 桃と玄関チャイム
第五週 分電盤とジョギングと、パイナップル
となっていて、風変わりな組み合わせが続いています。
となると、意外な組み合わせが意外な結びつきを見せて驚かせてくれる、というのがミステリ的には普通なんですが、この作品の並べ方、結びつき方は、意外感がありません......

なにより不思議だなぁ、と思うのは、この作品、ミステリっぽく仕立てることもできるように思えるからです。
意外感も、演出することは可能な気がしてなりません。

変わった住人たちとの交流、怪しげな空き地をめぐるエピソード。
風変わりな日常が、徐々にねじれていく展開。

なのに、作者はミステリらしくする道を選んでいない。あえてミステリらしさを捨てているのかもしれません。

特筆すべきはやはり、温かい雰囲気が醸されていること。
登場人物たちにまた逢いたいな、と思えました。

もう少しミステリに寄った作品を書いてもらえるとうれしいな。
なんといっても、新潮ミステリー大賞、アガサ・クリスティー賞作家なのですから。


<蛇足>
「窓を開けると雑草ばかりというのも考えものだが、窓を開けるとお稲荷様というのは、もっと考えものだろう。」(173ページ)
そうなんでしょうか? あまりお稲荷様に悪いイメージはないのですが......









nice!(19)  コメント(0) 
共通テーマ:

夕暮れ密室 [日本の作家 ま行]

夕暮れ密室 (角川文庫)

夕暮れ密室 (角川文庫)

  • 作者: 村崎 友
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
遅刻厳禁! 明日、晴れるといいね――文化祭前夜、そう言い残した少女は、翌朝、密室状態のシャワールームで死んでいた。少女は、栢山(かやのやま)高校バレー部マネージャーにして男子生徒憧れの的、森下栞。遺書が発見され自殺として処理されそうになる中、疑念を持ったバレー部員やクラスメイトの、真実を追う推理が始まる。立ちはだかる二重密室と若者ならではの痛みと殺意。横溝正史ミステリ大賞選考委員が奮い立った、傑作青春ミステリ。


この作品、単行本が出たときから気になっていたんです。
作者の村崎友は、第24回横溝正史ミステリ大賞を「風の歌、星の口笛」 (角川文庫)で受賞しデビューした作家ですが、この「夕暮れ密室」 (角川文庫)は第23回の候補作。北村薫と綾辻行人の強い推挽があった、と知ったからです。
この文庫本の帯にも、

第23回横溝正史ミステリ大賞<落選作>
「しかし、どうしても本にして欲しかった」
選考委員|北村薫、綾辻行人

と書かれています。
落選作、とはなかなかの書きっぷりですが(笑)。
ちなみに、第23回は受賞作なし、という結果で、だったら受賞作にしとけばよかったのに、と思いました。
そうです。
もともとこういう作風が好きだ、というのもありますが、「夕暮れ密室」、とても面白かったからです。
(もっとも応募作品からかなり修正がされているのでしょうけれども)

巻頭に紀田順一郎の言葉が掲げられています。
「密室に夕暮れが訪れた。
 閂のかかった分厚い扉を
 こじあけようとする者は既にない。」

タイトルにも密室とありますし、この引用なので、密室に焦点が当たっています。
この密室が面白いのですよ、とても。
まず、「奇蹟」と作中で言われる(偽りの)トリックがすばらしい。爆笑もの。もう、なんか、小栗虫太郎を思い出しましたよ(笑)。
そしてそのあと明かされる本物のトリック。これが本当にすばらしい。こっちは違うトリックなのですが、柄刀一を思い出しました。
いや、本当に、なぜ受賞作にしてしまわなかったのだろう?

小道具や舞台設定の使い方も巧みですよね。
ぼやかして書くしかないのですが、プールとか、バレー部とか、文化祭(作中では、黎明祭と呼ばれています)とか、携帯とか。
そうそう遺書のくだりもおもしろいですよね。こっちは、日下圭介を思い出しました。あっ、これ、ネタバレ? 同じものではないし、日下圭介も作品数が多いからわからないですよね。

もうこれだけでも十分な気がしますが、それに加えて、学園ミステリ、青春ミステリなんですよね。
冒頭の森下栞視点の第一章がとても素晴らしくて、ワクワクして続きを読んだら、なんと第二章でその森下が被害者になる、というサプライズ。
犯人の動機(?) に至るまで、ぼくは楽しく読めましたね。
あらすじに「若者ならではの痛みと殺意」とありますが、少々エキセントリックな部分も含めて、愛すべき作品だな、と感じました。



タグ:密室 村崎友
nice!(17)  コメント(0) 
共通テーマ:

れんげ野原のまんなかで [日本の作家 ま行]

れんげ野原のまんなかで (創元推理文庫)

れんげ野原のまんなかで (創元推理文庫)

  • 作者: 森谷 明子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/09/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
新人司書の文子がこの春から配属されたのは、のんびりのどかな秋葉図書館。ススキ野原のど真中という立地のせいか利用者もまばら、暇なことこのうえない。しかし、この図書館を訪れる人々は、ささやかな謎を投げかけてゆく。季節のうつろいを感じつつ、頼もしい先輩司書の助けを借りて、それらの謎を解こうとする文子だが……。すべての本好き、図書館好きに捧げるやさしいミステリ。


辺鄙なところ(失礼!)にある秋葉市の図書館の分館を舞台にした日常の謎もののミステリです。
ミステリ味は極薄ですけどね。
第一話 霜 降--花薄
第二話 冬 至--銀杏黄葉
第三話 立 春--雛支度
第四話 二月尽--名残の雪
第五話 清 明--れんげ野原
の五話収録の連作短編です。
風流なタイトルが並んでいていいですね。

そうなんです。
この作品、雰囲気を味わうもの、という気がしました。ミステリとしては期待せずに。
大崎梢が解説を書いていまして、これが見事な解説です。
買おうかどうか迷っておられる人がいらっしゃったら、ぜひ解説を読んで検討されるとよいと思います。

本を愛するすべての人へ贈るハートフルミステリと帯に書いてあるのですが、本好きには悪い人はいない、とでも言いたいかのように、本当に悪い人は登場しません。
ぬるい世界ではありますが、そのぬるさが心地よいというか、そういうぬるさに浸りたいときありますよね? それにぴったりなんです。
シリーズは続いているようなので、またぬるさが恋しくなった時に読みたいな、と思います。

レギュラー陣以外の登場人物の印象がさほど強くないのがちょっと気になりますが、そんななか第二話に出てくるおばあさま深雪さんは強く印象に残っています。




<蛇足1>
「問い合わせの中でさりげなく、リストのほかの名を(用心深く名字だけ、だが)持ち出しても、六人ともに、知らないと言い切っていた。」(149ページ)
さらっと書いてあるのですが、まったく無関係な人の名前を「さりげなく」五人分持ち出して知人かどうか聞くなんて、いったいどうやったんでしょう??
ミステリ味の薄い日常の謎系とはいえ、ミステリがこういう部分をおろそかにする、というか、あっさり片付けてしまうのはちょっといただけない気がします。

<蛇足2>
第三話に隣町に住んでいる人が図書館を利用できるように、自治体同士で図書館協定を結ぶ(結ぼうとする)という話がでてくるのですが(170ページ)、自治体の図書館って、住んでいる人だけではなく、そこで働いている人も使えるようになっているのが普通のような気がするのですが、違いましたでしょうか? もしそうであれば、このストーリーで取り上げられている事象に対しては図書館協定いらないのでは? とそんなことを考えました。



nice!(24)  コメント(0) 
共通テーマ:
前の10件 | 次の10件 日本の作家 ま行 ブログトップ