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ドラマ:死への誘引 [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の、シーズン2 第1作目「死への誘引」 (Danse Macabre)です。

日本語タイトルは「死への誘引」で、原題は Danse Macabre。
シリーズを通して、テーマ曲がサン・サーンスのDanse Macabre (死の舞曲)ですから、シーズン2を始めるにあたっての意欲作、という感じなのでしょうか?

事件は、仮装パーティの夜、帰宅した後、骸骨男の仮装をした人物に射殺され、駆け付けた被害者の娘を人質に逃げようとした犯人がガレージに気絶した娘と共に逃げ込み扉を閉めて立て籠もる。
警察が包囲し、ガレージの扉を開けたときには犯人は消え失せ、娘だけが残されていた......
というもの。

ちょっと歯ごたえのない謎解きだったかな、と思いましたが、小説で読むのと違い、実際の人間が登場人物として目に見えるかたちであらわれてくるので、人物像そのものが一種のミスディレクションとして機能しやすくなっているのが興味深かったですね。
ストーリーとして被害者をめぐるエピソードなどで興趣を盛ろうとしてるんだな、と感じました。個人的には、このシリーズにはそういう方面は期待していないので、不発でしたが......

シリーズ的には、マデリンがやきもちを焼くのが定番のシーンとなりつつありますね。
ジョナサンとマデリンの関係が、シーズン2に入ってより複雑化(?) していくように思えました。





いつも通り「The Jonathan Creek homepage」という英語のHPにリンクを貼っておきます。
「死への誘引」 (Danse Macabre)のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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IQ [海外の作家 あ行]

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ジョー イデ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/06/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ロサンゼルスに住む黒人青年アイゼイアは “IQ” と呼ばれる探偵だ。ある事情から大金が必要になった彼は腐れ縁の相棒の口利きで大物ラッパーから仕事を請け負うことに。だがそれは「謎の巨犬を使う殺し屋を探し出せ」という異様なものだった! 奇妙な事件の謎を全力で追うIQ。そんな彼が探偵として生きる契機となった凄絶な過去とは――。新たなる“シャーロック・ホームズ”の誕生と活躍を描く、新人賞三冠受賞作!


帯にアンソニー賞、シェイマス賞、マカヴィティ賞受賞とあり、ミステリ新人賞を総なめにした話題作、と書かれています。
また、2018年週刊文春ミステリーベスト10第4位、「このミステリーがすごい! 2019年版」第3位です。
そして「新たなる“シャーロック・ホームズ”の誕生」@あらすじ。

正直、期待しすぎましたね。シャーロック・ホームズが引き合いに出されているのが信じられない。
きわめて普通のハードボイルドではないですか、これ。そんなに新しさも感じません。
IQというから、なにかあるのか、あるいは頭がいいことを誇示しているのかと思ったら、アイゼイア・クィンターベイのイニシャルってだけだし。
もっともこれらはこの作品の罪ではなく、周りの勝手な煽りのせいなので、割り引いて考えなければなりませんね。
シャーロック・ホームズさえ引き合いにだしていなければこういう感想はなかったかな?

はい、普通のハードボイルドとして楽しく読めましたよ。
不幸な育ちの黒人青年の背伸びを描いてもいる。その分も楽しい。
それ以上でも、それ以下でもない気がしました。

まず、原文がそうなのか、あるいは翻訳のせいなのかはわかりませんが、文章にあまり馴染めませんでした。相性が悪かったのでしょう。
またミステリ部分も、サプライズがない、というのは欠点として挙げておかねばならないと思います。
こういってはなんですが、ただだらだらと事件が解けていく感じ。犯人サイドも余計なことしすぎでしょう。
ハードボイルドの傑作群は、ミステリとしてきちんとサプライズがあるものですが......

一方で、卑しき街を行く探偵、ということで、不幸な育ちの黒人青年IQの背伸びはとても楽しい。

「自分たちがNではじまる言葉を使うのはいいのに、わたしのような人が使っちゃいけないのはなぜですか?」
「ニガにニガといわれたら、どういうつもりでニガといったのかはわかる。だが、あんたにニガといわれたら、心から“ニガ”といってるかもしれねえだろ」(350ページ)
なんて、おやっと思える会話もあちこちに忍ばせてあります。

映画化するといいのでは? と思ったりしましたが、どうなんでしょうか?
シリーズ化しているようですが、さて、次作「IQ2」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだものかどうか......

最後に、カバーかっこいいなと思いました。
次作のカバーもよさげですね。
IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ジョー イデ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 新書


<蛇足1>
「ビギーは本物のギャングスタ(OG)で、先駆者だ。」(99ページ)
本物のギャングスタにOGと振ってあります。
OG=Original Gangstaらしいです。知りませんでした。

<蛇足2>
「すぐ上に長方形の家(ケープコッド)の二階部分が見える。」(103ページ)
「長方形の家」にケープコッドとルビが振ってあります。
ケープコッドスタイルの建物って、長方形と呼ぶような形でしたっけ?
屋根の部分を考えると、あまり長方形というのはふさわしくないような気がしますが......
おうちの形といえば、このホームページがステキですね。(いつもながら勝手リンクです)

原題:IQ
作者:Joe Ide
刊行:2016年
訳者:熊谷千寿







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パンドラ・アイランド [日本の作家 あ行]

パンドラ・アイランド〈上〉 (徳間文庫)パンドラ・アイランド 下 (徳間文庫)パンドラ・アイランド〈下〉 (徳間文庫)
  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2007/10/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
平穏な暮らしを求め、東京から七百キロ離れた孤島・青國島に来た元刑事・高州。“保安官”――司法機関のない島の治安維持が仕事だ。着任初日、老人が転落死した。「島の財産を狙っておるのか」死の前日、彼の遺した言葉が高州の耳に蘇り……。(柴田錬三郎賞受賞作)<上巻>
転落死、放火、そして射殺事件。高州の赴任以来、青國島の平穏な暮らしは一変した。島の“秘密”に近づく高州の行く手を排他的な島の人間が阻む。村長の井海、アメリカ人医師オットー、高州に近づく娼婦チナミ……真実を知っているのは? (柴田錬三郎賞受賞作)<下巻>


大沢在昌の作品の感想をこのブログで書くのは初めてです。
読むのもずいぶん久しぶりで、手元の記録を見てみると、2006年に「心では重すぎる」 (上) (下) (文春文庫)以来で、13年ぶり(!)のようです。
大沢在昌といえば、「新宿鮫」 (光文社文庫)が爆発的に売れて一大人気作家となったわけですが、むしろそうやって売れるようになる前は割と熱心に読んでいたのに、売れだしてからは少し縁遠くなりました(13年ぶりに読んでいるようでは、少し縁遠いどころの騒ぎではないですね)。

徳間文庫版で読みましたが、Kindleだと合本版があるんですね。
パンドラ・アイランド【上下合本版】 (徳間文庫)

パンドラ・アイランド【上下合本版】 (徳間文庫)

  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/05/16
  • メディア: Kindle版

ちなみに、集英社文庫からも出ているようです。
パンドラ・アイランド 上 (集英社文庫)パンドラ・アイランド 下 (集英社文庫)パンドラ・アイランド 下 (集英社文庫)
  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫

集英社文庫の方が徳間文庫よりも後から出ているので、書店で手に入りやすいのは集英社文庫版かもしれません。

舞台は孤島(離島)ですが、本格ものではありません、なにせ大沢在昌ですから。
(と言いながら、大沢在昌はフィールド的にはハードボイルドを中心とする作家ですが、個人的には、本格ものを書いても絶対に面白い作品が書ける作家だと思っています。ご本人にその気がないだけで......一度くらい書いてみてくれてもいいのにな、なんて思います)
この孤島の設定がちょっと現実離れしているような、それでいてありそうな、というあたりがポイントですね。島に公営の(?) 売春施設があるところもすごい。
またそのおかげで、主人公が日本なのに保安官、という設定となっているのがおもしろいですよね。
警察ではない。でも民間人でもない。ハードボイルドに向いた職業かもしれません。
そして、どうも島が秘密を隠しているらしいので、主人公の立ち位置が難しくなってくるところも手堅い印象です。

その、島が隠している秘密にもうひとひねりほしかったかな、とも思いましたが、この程度に収めておくほうがバランスがよいのかもしれません。
ラストのいかにもハードボイルドなエンディングを趣がある、と思って読んだのですが、人によっては平凡だとかありきたりだとかおっしゃるかもしれません。
でも、離島でもハードボイルド、因習の村での事件が本格ミステリの定番であるところ、そういう雰囲気の舞台でハードボイルドを展開する、というのがポイントの作品だと思うんですよね。だから、真相や結末はこうでなければいけないのではなかろうか、とそんなことを考えています。

久しぶりに読みましたが、大沢在昌、おもしろかったですね。
また読みだしてみようかな...... ああ、こうやって読まなきゃいけない本が増えていく......

<蛇足>
「おおむね年中無休で、正午から深夜、早朝まで開けているが、突然に休業したり、数時間だけ閉店することもあり、返却専用のポストが設けられている、」(410ページ)
大沢在昌らしくなく、「たり」が単独利用されています......





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ゼロの激震 [日本の作家 あ行]

ゼロの激震 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ゼロの激震 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/06/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
不可思議な大規模災害が頻発する北関東。そんな折、元大手建設会社で技術者だった木龍のもとに奥立という男が現れる。すべてはマグマ活動にともなう火山性事象が原因であり、これ以上の被害を阻止すべく木龍の力を借りたいという。やがてマグマは東京へと南下していく。このままでは関東が壊滅、日本が滅んでしまう――。未曾有の危機にゼネコン技術者たちが挑む、パニックサスペンス。


「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)の作者安生正の長編第三作です。(ちなみに、「生存者ゼロ」感想ページは、このブログのアクセス数ダントツ一位です。)
間に「ゼロの迎撃」 (宝島社文庫)が挟まっていて既読ですが、感想を書けていません(こんなのばっかりですね......)。

この種のディザスターもの大好きなので、この本もとてもとても楽しんで読みました。
壊滅しちゃう地域にお住いの方々、すみません......
災害シーン、いろいろとバリエーションがあって、すごいですね。

序章は、東京湾の人工島から地下五十キロのマントル層を目指す工事現場での事故です。
後でこの現場は、「東京湾第一発電所」の建設現場だったことがわかります。
この発電所がすごいですよ。名付けてバベルシステム(縁起の良くない名前ですけどね)という地熱発電所。マントル層の熱を利用する、というなんか壮大な発電所です。(技術的に可能なんでしょうかね?)

一方で群馬県、栃木県など北関東で火山性の災害が多発。
地下でマグマがおかしな(危険な)動きをしている。

地震や噴火のメカニズムがややうるさいくらいになされますが、これが意外と楽しい。
正直、理解できたかどうか疑わしいですが、それでも楽しかったですね。ワクワクします。
この大災害が、人災だ、という流れになっていくのですが、そしてそれは大方の予想通り、バベルプロジェクトが関係しているのですが、だからこそということなのか、この作品は災害に土木で対抗する、という気宇壮大なコンセプトの作品になっています。
(まったくの素人ゆえ)真偽のほども定かではありませんが、なので、この部分必須ですよね。

「よい設計者とは壊れ方を知っている設計者だ。どんな構造物であれ、それがどう壊れるかを知らない者に設計などできるわけがない」(94ページ)
「技術は人を選ぶ。勤勉、真摯、謙虚、そして器の大きさ。どれ一つ欠けても人の命を預かる資格はない。売名、不遜、おごり。どれか一つでも心に潜んでいれば技術は人を裏切る」(95ページ)
というのは主人公木龍が後輩である技術者設楽に語る内容ですが、いろいろ考えどころのセリフですね。

458ページからの最終章で災害を振り返るのですが、その風景にはあっけにとられます。
それまでにさんざん災害シーンが出てきているのですが、それでもこのラストの壮大さにはびっくりです。それくらいすさまじい災害です。
さて、本当に土木でこの規模の災害に対抗できるのか(対抗したからこそ、この規模で済んだ、ということなのかもしれませんが)、犠牲者十五万人程度で収まるのか(この規模だと二次災害というのか、海外にも大きな大きな影響が出ると思われます)、疑問は尽きないラストになっていますが、個人的にはこれだけ楽しませてもらえば大満足です。
災害規模の見積もりが甘いと思われるラストも、希望を残したということで物語的にはOKかと思います。

巻末の<主要参考文献>に、石黒耀の「死都日本」 (講談社文庫)が挙げてあって、おもわずニヤリとしました。

この本に関し、すごく面白いなと思ったブログにリンクを貼ります。勝手リンクです。
「『ゼロの激震』 安生正」Heaven or Hell?


<蛇足>
「人が死んでいく。こんなことで人が死んでいくのだ。」(219ページ)
という感想を漏らすシーンがあるのですが、「こんなこと」ではないと思いましたが......
この段階では、この災害の原因(遠因?)が人であることは明らかになっていませんが、匂わされてはいるのでそのことを先取りした感想でしょうか?
それにしては比較で語られるのが、一九九五年の阪神・淡路大震災、二〇一一年の東日本大震災なんですよね。
「十六年というタイムスパンは、地質学的にみれば一瞬だ。この国は神が瞬きしている間に何度も災害が起きる国なのだ。」(220ページ)
というのは、まったくその通りだと思いますが。
ちょっとあれっと思いました。


<2019.11.05>
昔の記事をコピーしてそれをベースに書いていたのですが、昔の記事が残ってしまっていました。
すみません。
削除しました。



タグ:安生正
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百年祭の殺人 [海外の作家 あ行]

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2013/05/01
  • メディア: 単行本


単行本です。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第2位。
論創海外ミステリ105。
この叢書、あらすじがないんですよね......

先日読んだ「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がとてもとてもおもしろかったので、この「百年祭の殺人」 をそれほど間を開けずに読むことにしました!

プロローグは、フォン・ラッシュというドイツ人医学生が職を手に入れるシーンです。
でもその後第一部が始まると、舞台も人物もすっかり変わってしまいます。
「メルボルンの礎が築かれてから百年が経過したことを祝う祭典で、一九三四年に催された」(29ページ)百年祭を控えたメルボルンが舞台となります。
新聞記者が堂々と殺人現場に行き、ちゃんと中までたどり着いて普通に警察と話をするというのに驚きますが、当時のオーストラリアはそうだったのでしょうね......すごい。
メルボルンで判事が殺されるという事件なのですが、捜査にあたるのはスコットランドヤードから移ってきたヴィクトリア州警察刑事捜査部のリード首席警部。イギリスからは独立していたはずですが、そういう人材交流もあったんですねぇ。そしてその若い友人ジェフリー・ブラックバーンが捜査に協力する、という構図ですね。この二人は「闇と静謐」にも出て来ました。

リード首席警部、なんかいいんですよね。
「おまえさんは推理で殺しが解決すると思っとるのかもしれん。たしかにそういう場合もある。だが、たいていは骨の折れる地道な作業の積み重ねが実を結ぶんだ。ほんのわずかでも脈がありそうな手がかりは片端からたどって--」(116ページ)
というセリフなど、名探偵と対峙する刑事さんが言いそうなセリフですが、
「たしかにそういう場合もある。」
という部分、光っていますよね。

謎解きの方ですが、帯には「巧妙なトリックと鮮烈なロジック」とあるのですが、トリック自体はそれほど驚くようなものではありません。
そういう観点でみるよりは、解説で大山誠一郎が書いているように、密室であることによって、あるいは密室の謎が解かれることによって、一種のミスディレクションとなることにポイントがあると思います。
「闇と静謐」に続く大山誠一郎の解説(正しくは、続くではありませんね。「百年祭の殺人」 の方が「闇と静謐」より先に訳出されていますので)が今回もとても素晴らしく感動ものです。

「闇と静謐」があまりにおもしろかったので、それと比べると期待しすぎという感じがしますが、それでもこの「百年祭の殺人」 、本格ものの醍醐味を味わえました。
マックス・アフォードの作品まだ残っていますので、ぜひ訳してください。
「魔法人形」もいつか読み返してみなければ。



<蛇足1>
「前にエドガー・ウォーレスの『血染の鍵』という作品を読んだのですがね。」(50ページ)
と出てきて、続けてトリックが明かされちゃっています。もうっ! 未読なのに!!
ちなみに、「血染めの鍵」 (論創海外ミステリ)も2018年に論創海外ミステリから訳出されています(タイトルの字面は「血染」から「血染め」になっていますが)。
読もうかどうしようか、迷っちゃいますね。

<蛇足2>
「だんまりを決めこむつもりなら、本部の連中に引き渡してやる。白状するまで水道のホースでしばかれるような目に遭いたいか!」(67ページ)
ここでちょっとあれっと思いました。
「しばく」って関西弁だと思っていたので......

<蛇足3>
「たとえば、ある人が希少な絵画や高価な陶器、あるいは何かの発明の設計図でもいいのだけれど、要するに創造の産物--数万人に一人の頭脳にしか生み出せない何か--を盗んだとしたら、その人は罰せられるべきだと思う。だって、ほかに交換のきかないものを奪い去ったんだから。それに引き換え、人間の命なんて、何よりも安く、しかもいちばん簡単に代えのきくものでしょう? それを奪ったからといって罰するなんて、わたしには蜘蛛を踏みつぶした人を罰するくらい馬鹿げたことに思えるわ」(92ページ)
なかなか大胆な発想、大胆な発言をする女性が出て来ます。しかも推理作家......

<蛇足4>
「『ブラウン神父のお伽噺』をご存じ?」(101ページ)
そんなタイトルの作品あったかな? と一瞬思いましたが、ポイントが続けて語られていまして、それからわかりましたが、「ブラウン神父の知恵」 (創元推理文庫)に収録されている短編ですね。
「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)での訳題は「ブラウン神父の御伽話」のようです。

<蛇足5>
「そしてこれは、意気消沈している捜査員がすべからく拳拳服膺すべき金言です。」(185ページ)
文脈から意味はわかりますが、「拳拳服膺」! この四字熟語知りませんでした......
「《「礼記」中庸から。「服膺」は胸につけて離さない意》心に銘記し、常に忘れないでいること。」らしいです。
かと思えば、
「ここがまさに、狂瀾を既倒にめぐらすことができるかどうかの分かれ目でしょう。」(309ページ)
という文章も出て来ます。
これまた難しい。こちらも知りませんでした。
「《韓愈「進学解」から》崩れかけた大波を、もと来た方へ押し返す。形勢がすっかり悪くなったのを、再びもとに返すたとえ。」らしいです。
あえて難しい語を訳に使うのがふさわしいような、凝った英語表現になっているのでしょうね、きっと。

<蛇足6>
「茅葺き屋根の茶房(ティーハウス)は、川沿いに建つよく知られた陸標(ランドマーク)だったし、」(320ページ)
ランドマークに陸標という訳語が当ててありますが、陸標という語を知らなかったので検索してみると、たしかに陸標はランドマークの一つではありますが、ここでいうランドマークは陸標ではないように思いました。それにティーハウスは陸標ではないでしょう......
ランドマークとは「陸標、灯台、鉄塔のような土地における方向感覚の目印になる建物、国、地域を象徴するシンボル的なモニュメント、建物、空間を意味する。また、広い地域の中で目印となる特徴的な自然物、建物や事象も含まれる。ニューヨークの自由の女神、パリのエッフェル塔などは都市、国家を象徴するランドマークで木、山、高層ビル等は町や都市のランドマークである。」(Wikipedia)ということですから。こちらは一般的に理解しやすいランドマークですね。これらを陸標と呼ぶのは無理がありますよね。
それと、引用した部分では、ティーハウスに茶房という語が当ててあります。これはこれで結構なのですが、本書 の場合、その後すぐに「ティーハウスと芝生を含む相当広い一帯」とか「ティーハウスの裏手へ」(ともに321ページ)と書かれていて、だったら茶房なんて当てずに、初めからティーハウスとだけ書けばいいのにと思ってしまいます。
リボルバーにも「輪胴式拳銃」といういかめしい訳語がついていますし、なにかこだわりがあるのかもしれませんね。


原題:Blood on His Hands!
作者:Max Afford
刊行:1936年
訳者:定木大介



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