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夏の祈りは [日本の作家 さ行]


夏の祈りは (新潮文庫)

夏の祈りは (新潮文庫)

  • 作者: しのぶ, 須賀
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
文武両道の県立北園高校にとって、甲子園への道は遠かった。格下の相手に負けた主将香山が立ち尽くした昭和最後の夏。その十年後は、エース葛巻と豪腕宝迫を擁して戦 った。女子マネの仕事ぶりが光った年もあった。そして今年、期待されていないハズレ世代がグラウンドに立つ。果たして長年の悲願は叶うのか。先輩から後輩へ託されてきた夢と、それぞれの夏を鮮やかに切り取る青春小説の傑作。


「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」一位、と帯に書かれています。
ミステリではありません。
高校野球を題材にしたスポーツ小説、青春小説です。

第一話 敗れた君に届いたもの
第二話 二人のエース
第三話 マネージャー
第四話 はずれ
第五話 悲願

の五話収録の短編集--ではありますが、同時に、県立北園高校の野球部の変遷?を描いた連作になっています。
第一話、最初の一文が
「悲願である、と言われ続けた。」
であり、第五話のタイトルが、そのものずばり「悲願」ですから。
その悲願とは、甲子園に行くこと。

第一話の段階で、その30年前(昭和33年=1958年)の埼玉大会準優勝が最高成績で、あと一歩だった、と記されています。
つまり、第一話は、昭和63年=1988年。
最終話の設定が平成29年=2017年。
十年ごとの周年大会に照準を合わせつつ、30年にわたる北園高校野球部の歴史、思い?が描かれています。(昭和33年からカウントすると60年!)

さて、最後に甲子園に行けたのかどうか、はさすがにエチケットとしてここでは明かしません(ミステリではなくても、この種のネタバレは禁止だと思いますので)。

しかし、高校三年間という時間に限りのある高校野球という世界は、観ていても楽しいものですが、ドラマに満ち溢れているのですね。
この「夏の祈りは」は、当然ながら、野球の試合のシーンが面白いです。ゲームの進展も十分ワクワクできるのですが、それをめぐる登場人物たちの方に焦点が当たっているところもGOODです。
これがとても面白いんですよね。
と同時に、試合以外のシーンも充実しています。
第三話が、マネージャーの話であることでも、そのことはわかると思います。(ちなみに第三話は、逢坂剛が朝日新聞の文芸時評でお薦めしていることが、帯に引用されています)

ミステリ以外の小説はほとんど読まないので、この「夏の祈りは」の出来栄えが、スポーツ小説として、あるいは青春小説としてどうか、というのは正直自信がありませんが、少なくともとても面白く読みましたし、人にお薦めしたくなりました。実際、友人に薦めました。
軽い小説ではありますが、読めてよかったな、と思いました。


と、これで終わってもよいのですが、あえて気になる点に触れておきます。

第一話で対戦相手である溝口高校のすごさが、キャプテン香山始を通して語られます。
結果的に北園高校は、溝口高校に敗れてベスト4。
このとき、香山が抱く感慨
「やりきったから後悔はない? そんなはずがあるか。全身全霊でやったからこそ、苦しいのだ。」(56ページ)
がとても印象に残っています。

話がそれました、第一話では明かされませんが、後に第三話で、溝口高校は「逆転の溝口」と称えられ、甲子園に進出し、溝口旋風と呼ばれ甲子園ベスト4になったことが明かされます。
「常に笑顔で楽しんでプレーをする彼らの姿勢は、文字通り爽やかな風となって全国を駆け抜けた。」(139ページ)

第四話、第五話は続いていて(同じチームを扱っていて)、ハズレと呼ばれた世代が最高学年となる周年大会を描くのですが、そのとき、監督が香山始。
このハズレ率いるチームが、著しい成長を遂げる、という展開で、地方大会を勝ち進んでいくのですが、その際のチームの有り様が、往年の溝口高校のよう、なんですね。

これを、連作長編の構成の妙、と捉えるのか、あるいは、安直だ、と捉えるのか。

また、この作品は、高校野球賛歌でもあると思うのですが、この構成をとったことで、意図したことなのか意図していないことかわかりませんが、ある種のメッセージ(高校野球のあるべき姿?)を送る形になってしまっており、それを是ととるか非ととるか。

個人的には、この構成、この結構は大賛成ではありますが、ここが気になったポイントです。

爽やかな野球小説、青春小説として、お勧めです!







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