SSブログ

フェイク・ボーダー 難民調査官 [日本の作家 下村敦史]


フェイク・ボーダー 難民調査官 (光文社文庫)

フェイク・ボーダー 難民調査官 (光文社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
東京入管の難民調査官・如月玲奈は、後輩の高杉純と共に、日本に難民申請したクルド人・ムスタファの調査を行うことに。聴取中、善良そうな彼の吐く不可解な嘘に玲奈らは困惑する。彼は本当に難民か? 真実を追ううち、玲奈たちはやがて、国境を越えた思いもよらぬ騙し合いの渦に巻き込まれていく――。若き調査官らの活躍をスリリングに描く、大注目のポリティカル・サスペンス! (『難民調査官』改題。)


下村敦史の長編第5作です。

これはまた難しい問題に挑んだな、と思いました。
難民。
さらに、クルド人。

それがとてもなだらかに、読みやすく書かれている点はとても素晴らしいと思いましたし、誠実に書かれているなと感心もしました。
若い難民調査官の、やや行き過ぎた調査も、現実にはあり得ないと思いつつ、むしろ好ましく感じました。行き過ぎてはいても、勢いや気負いだけで突っ走っているわけではない。このあたりのバランス感覚が長所ですね。

難民調査官というのは、馴染みのない職業でしたが、とても興味深く読みました。
主要登場人物である西嶋が
「意外だった。不法外国人摘発組織のようなイメージを持っていたが考えてみれば在留資格の取得や変更に留まらず、空港の入国審査ブースで外国人旅行者と対面する対処の日本人としての顔となったり、信念と誇りを胸に仕事をしている人々なのだ。」(245)ページ
という感想を抱きますが、たしかに、いろんな側面をもった職業のようです。
(余談ですが、この引用した部分に「たり」の単独使用があり、いつもならあげつらうところですが、このケースではそのあとの「信念と誇りを胸に仕事をしている」と並列関係にはないので、これでよいのだと思います)

この作品が出版された2016年から、難民をめぐる世界の情勢はどんどん変化していっており、より一層難しさを増していると思われます。
物語の最後に、変わりつつあるヨーロッパの様子が少しだけ、本当に少しだけ触れられていますが、その傾向は強まっています。
簡単に結論の出せる問題ではなく、また、簡単に結論を出していい問題でもない。
民族自立、民族自決、というのも、一筋縄ではいきません。
最後に難民調査官・如月玲奈がつきとめる真相(?) も、はたして悪と断じてしまってよいものか。
この作品で、明確な方向性を打ち出すわけではありませんが、誠実に取り組んでいかねば、と調査官は思いを新たにします。

ちょっと残念だったのは、ミステリとして意外性を仕掛けた部分が、このテーマに埋没してしまって意外性を感じにくくなってしまっていること、でしょうか。

シリーズ化されているので、次の「サイレント・マイノリティ: 難民調査官」 (光文社文庫)が楽しみです。


<蛇足1>
これは作者の問題ではなく、引用したあらすじ、編集の問題ですが、この作品、ポリティカル・サスペンスでしょうか? 
ポリティカルな題材を扱ってはいますが、ポリティカル・サスペンスというのとは違う手触りです。

<蛇足2>
冒頭近いところで、埼玉の港に入国したという回答を、若い方の難民調査官である高杉がスルーする場面があります。
そんなことありますか!?



タグ:下村敦史
nice!(17)  コメント(0) 
共通テーマ: