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くちびるに歌を [日本の作家 な行]

くちびるに歌を (小学館文庫)

くちびるに歌を (小学館文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/12/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
長崎県五島列島のある中学校に、産休に入る音楽教師の代理で「自称ニート」の美人ピアニスト柏木はやってきた。ほどなく合唱部の顧問を受け持つことになるが、彼女に魅せられ、男子生徒の入部が殺到。それまで女子部員しかいなかった合唱部は、練習にまじめに打ち込まない男子と女子の対立が激化する。一方で、柏木先生は、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲「手紙~拝啓十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課した。そこには、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた。


「百瀬、こっちを向いて。 」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「吉祥寺の朝日奈くん」 (祥伝社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く中田永一名義の第3作。
NHK全国学校音楽コンクールを背景にした、長編小説です。

タイトルは、文中に早い段階で出てきます。
「松山先生の好きな詩の一部分です。たしかドイツ人の」
「【くちびるに歌を持て、勇気を失うな。心に太陽を持て。そうすりゃ、なんだってふっ飛んでしまう!】って、そんな感じの詩があるとです」(28ページ)

この田舎町の(なにしろ離島ですから)中学校を舞台にしていて、語り手をつとめるのは、私、仲村ナズナと、僕、桑原サトルのふたり。

サトルが、長谷川コトミのことを好きになるシーン(P35~38)なんか、いいなぁ、と思っていたら......
あらすじにあるように、「誰にもいえない、等身大の秘密」があるのですが、サトルの秘密、決して等身大ではありませんよね。
271ページから274ページにある、サトルの手紙。
いや、これ、つらいでしょう......

それでも、サトルたちは、ナズナたちは、毎日過ごしていく。
NHK全国学校音楽コンクールへ向けての練習という、物語の核はあるけれど、あくまで普通にすごしていく。
この「普通に」の部分が、とてもいい。
「男子の考えてることは理解不能ばい」(178ページ)なんてセリフもありますが、この、男子、女子という距離感もいい。

コンクールでの合唱シーンが本書のハイライトではあるのですが、それ以上に印象に残るのは、コンクールのあと、会場の外で繰り広げられるエピソードです。それがなにかはエチケットとしてここでは触れませんが、このシーン、とても美しいと思います。
そして、仲村ナズナと桑原サトル、ふたりの語りがつながる......
このあたり、中田永一=乙一の面目躍如といった感があります。さすが。

十五年後のみんなに会ってみたいな、と、そう思って本を閉じました。


<蛇足1>
「ぼっちの求道者(きゅうどうしゃ)である僕は」(113ページ)というフレーズがあります。
求道者。これ、「ぐどうしゃ」と読むのだと思っていたのですが、「ぐどうしゃ」というのは宗教的な意味の際の読み方なのですね。
ぼっちが対象だと「きゅうどうしゃ」なのですね。

<蛇足2>
「あんたたちは、ほんとうに、どうしようもなか。もう、しらん。死ね。そして地獄におちろ。生き返って、もう一回、死ね」(167ページ)
ここを読んで、思わず笑ってしまいました。
関西では、わりと普通にいう表現で、子供たちのいい争いや、ちょっとした喧嘩でよく使われるのですが、五島あたりでもいうのですね、「死ね」って。
「生き返って、もう一回、死ね」はケッサクです。
まあ、他地域の方からしたら、「死ね」だなんて、なんてこというんだと眉をひそめる場面なのでしょうけれども。

<蛇足3>
「合唱に、一生懸命なところとか……」(207ページ)
うわっ、一生懸命がでたっ、と思ったら、一方で、
「影響を受けないように、耳を手でおさえたり、耳元を手のひらでパタパタとやって聞こえないようにしたりする。」(267ページ)
と、長い文章でもきちんと「~たり、~たり」と呼応。




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