七月に流れる花 [日本の作家 恩田陸]
<外箱あらすじ>
坂道と石段と石垣が多い町、夏流(かなし)に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城――夏流城(かなしろ)での林間学校への招待状が残されていた。ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。
この「七月に流れる花」 (ミステリーランド)は、「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」という宣伝文句だったミステリーランドという叢書から出た作品で、同じ恩田陸の「八月は冷たい城」 (ミステリーランド)と同時発売でした。(奥付は2016年12月)
この2作で、ミステリーランドは全30冊が完結した、と巻末の広告ページに書かれています。
既に文庫化されています。講談社タイガ版、講談社文庫版があるようです。
講談社文庫版は、「八月は冷たい城」と合本ですね。
「八月は冷たい城」 (講談社タイガ)よりも先に、この「七月に流れる花」 (講談社タイガ)を読んだ方がいいです。
舞台となっているのはタイトルからもわかるように夏なのですが、どことなくひんやりした手触りの作品になっています。
というのも......、とその理由を書いてしまうと、ネタバレになってしまいますね。
雰囲気としては、ゴシックロマンに近いのかもしれません。
この作品は、主人公であるミチルがやってきた夏流という町、そしてミチルが招待される林間学校、招待状を届けてくる「みどりおとこ」の謎を扱っているのですが、そもそも「何が起こっているのか」「何をしているのか」がメインなので、なにかちらっとでも書いてしまうと、すべてがネタバレになってしまいます。
ファンタジーと呼ぶにはリアルな手触りでありながら、設定自体は現実から少々飛躍したものになっています。
なので、読者サイドは、謎を解く、ということを目指すのではなく、作者の構築した世界観を味わうことに注力すべき作品なのだと思います。
雰囲気づくりに長けた恩田陸の面目躍如といったところでしょうか。
明かされる事実、世界の設定は、ちょっと現実にはあり得ないな、というものですが、物語としてはさほど奇異なものではないのかもしれません。
「六月という半端な時期の転校生」というのも含めて、
主人公の大木ミチルのほか、林間学校の舞台となる夏流城では、佐藤蘇芳、斉木加奈、稲垣孝子、塚田憲子、辰巳亜季代が、迎えが来るまでという期限の定まらない生活を送ります。
この6人の人物像が短い作品なのにくっきりと浮かび上がってくるのがさすがです。
途中、塀の向うにも人がいる--しかも男の子たちであることがわかりますが、そちらについては最後に
「同じ夏、塀の向こう側で起きていた出来事は、また別の新たな物語となる。」(216ページ)
と書かれていて、それが同時刊行だった「八月は冷たい城」となります。