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紳士の黙約 [海外の作家 あ行]


紳士の黙約 (角川文庫)

紳士の黙約 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
サンディエゴの探偵にして地元屈指のサーファー、ブーン・ダニエルズは、“紳士の時間”を海で楽しむサーフィン仲間から、妻の浮気調査の依頼を受ける。同じころ、爽やかな人柄で愛されるサーファーのK2が、ダイナーで殴り殺された。人気者の死に街中が悲しむなか、加害者の弁護士に雇われたブーンは調査を開始、真相は別にあると直感。そして危険過ぎる事件の内実が、カリフォルニアの太陽の下に晒される時が訪れる――。


「夜明けのパトロール」 (角川文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
前作を読んだのは2014年5月。6年以上読む間が空いてしまいました。

文体といい、会話といい、くつろいだ感じが漂うのがこのシリーズの魅力と思っていて、そこに変わりはないのですが、主人公ブーンの立ち位置から、「夜明けのパトロール」 よりも緊迫した感じがします。
なにせ、仲間に背を向けるような捜査をするのですから。
そこに、恋人候補(?) のペトラが絡むのですから、なおさら。
ブーンを取り巻く人物たちがいいのは変わらずで、であるからこそ一層、ブーンの置かれる状況が厳しいものであることがこちらに響いてきます。
探偵は孤高の騎士である、というわけですね。

同時に取り組む調査が、名士で知り合いの金持ちの妻の浮気調査。
卑しき町を行く、卑しき探偵。

そう、わりと普通のハードボイルドの物語に大きく近づいた一編となっています。
ウィンズロウのハードボイルドがおもしろいのは、「ストリート・キッズ」 (創元推理文庫)から始まるニール・ケアリー シリーズやその他の作品群で照明済ですから、安心して世界に浸ればいいんですよね。

楽しみなシリーズなのですが、その後続編は出ていなそうです。
登場人物たちとまた逢いたいので、続編希望です。


<蛇足>
「名探偵がさらに活躍して、ブレインガムはじつはJFK暗殺犯だった、なんていう新事実を掘り起こしかねないからな。あるいは、リンドバーグの赤ん坊の誘拐事件にも関わっていたとか? ユダヤの群衆を煽ってキリストを磔にしたのもブレインガムだと割り出したんだろ、ブーン?」(233ページ)
こういうセリフが早い段階で登場します。望まない事実を探り当てたブーンに対して弁護士が嫌味?を言うところです。
おもしろいな、と思っていると、
「この警部補は、ケネディー暗殺もリンドバーグ愛児誘拐事件もイエス・キリストの磔も、ブーンを犯人に仕立てたがる。」(339ページ)
という地の文が登場しますーー地の文とはいってもジョニーという登場人物の視点ですが。
とすると、弁護士とジョニー双方が同じような感覚を持っている、ということですよね。このふたり、相当性格も育ちも違いそうなのですが。
こういう言い回し、アメリカでは一般的なのでしょうか? まさかね(笑)。






原題:The Dawn Patrol
著者:Don Winslow
刊行:2008年
訳者:中山宥



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ホワイトコテージの殺人 [海外の作家 あ行]


ホワイトコテージの殺人 (創元推理文庫)

ホワイトコテージの殺人 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
1920年代初頭の秋の夕方。ケント州の小さな村をドライブしていたジェリーは、美しい娘に出会った。彼女は住居の〈白亜荘(ホワイトコテージ)〉まで送ったとき、メイドが駆け寄ってくる。「殺人よ!」ジェリーは、スコットランドヤードの敏腕警部である父親のW・Tと捜査をするが……。英国本格の巨匠の初長編ミステリにして、本邦初訳作、ユーモア・推理・結末の意外性――そのすべてが第一級!


マージェリー・アリンガムの作品は、「屍衣の流行」(世界探偵小説全集 (40))を読んでいますが、まったく覚えていません......

あらすじからかなり典型的なお屋敷もののように思えるのですが、読んでみるとあれこれ型破りです。
1) 偶然行き当たったジェリーが父親(スコットランドヤードの警部)を捜査に引き込む。
2) お屋敷に人が集まって、そこで連続殺人、という展開にならない。
3) 警部が捜査に息子を連れまわす。
4) 怪しい人物を追うためとはいえ、早々に海外(パリ)まで行ってしまう。(93ページ)
5) しかも、その足で、南海岸のマントン(コートダジュール)まで!(155ページ)
6) そのくせ手がかりを見つけたとロンドンに急いで戻ったのに、警部は捜査を途中で投げ出してしまう。(256ページ)
そのあと話は飛んで真相が明かされるのですが、これまたびっくり。
手がかりなく、いきなりの真相ですから。
森英俊が解説で「とりわけ残念なのは、W・Tが真相に思い当たるうえでの最終的な決め手となるべきものの内容が読者に事前に知らされていない点で、これではアンフェアのそしりを免れない(犯人の正体に直結するので、やむをえないとはいえ)。」と書いている通りです。

とはいえ、ミステリ的にはやはりその真相がポイントでしょうねぇ。
この作品、あれ(ネタバレになるので書名は書きませんが、Amazonへのリンクをはっています。ネタバレを気にしない方はご確認ください)よりも発表年が早いですね。
問題は後か先かではなく出来栄えがどうかだと思うので、発表年が早いから何だということはありませんが。

ミステリ的にはがっかりな点もありましたが、発想とか物語の進み方は楽しめましたので、またアリンガムの他の作品も読んでみたいですね。
特に、「葬儀屋の次の仕事」 (論創海外ミステリ)はタイトルがとても気になっています。


原題:The White Cottage Mystery
著者:Margery Allingham
刊行:1928年
訳者:猪俣美江子







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地下迷宮の魔術師 ロンドン警視庁特殊犯罪課 3 [海外の作家 あ行]

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
午前3時、殺人課のステファノポウラス警部の電話で、ぼくはたたき起こされた。「まっとうな警官なら仕事にとりかかる時間だよ」若い男の死体が、地下鉄ベイカー・ストリート駅の構内で発見されたのだという。すぐに駆けつけて調べてみると、魔法で作られた陶器のかけらで刺されていた。こんな時間になぜ、どうやって地下鉄に入りこんだのか? 捜査を続けるうち、ぼくは古都ロンドンの地下迷宮へと迷いこんでいった……


「女王陛下の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「顔のない魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。

前作「顔のない魔術師」を読んだのが2017年12月なので、約2年半ぶりにシリーズを読みました。

もともとシリーズの設定が、パラレルワールドというか、現代のロンドンに、もう一つの神霊世界(?)のロンドンが二重写しにしている世界観となっているところ、今回はさらに地下世界が広がっているというぜいたくさ!

巻頭にロンドンの地図が掲げられ、各章の章題がロンドンの地名になっています。
これ、在ロンドンのこのタイミングで読んでよかったと思いました。
地名が馴染みのあるものが多く、わくわくして読むことができました。

でも、まさか実際のロンドンの地下鉄の駅やその近くに、地下道や地下室につながる経路は設定されていないでしょうねぇ(笑)。
具体的な駅名が記載されているので、ちょっと確かめに行ってみようかな。でも、仮にそんなところがあったとしても近づけないようになっているんだろうな。
こういうばかばかしい想像を巡らせるのも楽しいですね。
昔ながらの冒険小説的世界に浸れます。

もうひとつこの作品が楽しいのは語り口。
主人公であるぼく=ピーターの余裕のある語り口が魅力ですね。
ファンタジックな作品世界とこの語り口のバランスがなかなかいいです。

ピーター属する特殊犯罪課と普通の捜査課の面々、イギリス鉄道警察、さらにはFBIの特別捜査官まで出てきて捜査陣も賑やかですし、さらに魔術師に、川の女神に、台湾から来た道教の術士(マオイスト)まで登場して、どんどん作品の奥行きが拡がってきているようです。
楽しみ。

楽しみなんですが、シリーズはいまのところ、残すところ
「空中庭園の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)
だけになってしまいました。
原書ベースでは第8巻まで出ているようですので、続巻もぜひぜひ訳してください!


<蛇足1>
「ゲートから手の届くほんの少し先の壁に、外出用のボタンがあった。」(69ページ)
ドアを開ける際、壁に設置してあるボタンを押してから開ける仕組みがかなりあり、そのボタンのことをここでは「外出用ボタン」と訳してあるのですね。
たしかにあのボタン、日本語でなんと呼ぶのでしょうね? 英語ではそのまま Exit Button ですが。

<蛇足2>
ダイニング・クラブというのは、五〇年代から六〇年代にかけて、上品ぶった学生たちが破滅的な恋愛関係や、ロシア人をスパイしたり、現代の風刺作品を発明していないときにおこなっていた余暇の過ごし方だ。(95ページ)
ちゃんと「~たり、~たり」となっていないことを置いておくとしても、この文章わかりにくいですね。
破滅的な恋愛関係、ロシア人をスパイすること、現代の風刺作品を発明することのそれぞれの関係、つながりがわかりません。並列関係なのでしょうか? やはりちゃんと「~たり、~たり」を守った日本語にしておけばもう少しわかりやすくなったのではと思います。
金子司さんの訳は個人的にはとても読みやすいと思っているので、ここは少々残念です。

<蛇足3>
「お茶でもどうです? ヴァレンカのお茶の腕前はじつに信頼できますぞ。レモン入りのがお好みだとすればですがね」(102ページ)
うわぁ、イギリス人らしい嫌味たっぷりなセリフだ、と笑ってしまいました。
ヴァレンカというのは、スラヴ系のなまりがある、ロシア人かウクライナ人だろうとされている住み込みの看護婦です。
イギリスでは基本的にレモンティーを飲みませんので、このセリフの嫌味がエスカレートしますね(笑)。
このあと
「ヴァレンカが紅茶を運んできた。ロシア流に、ミルクは入れずにレモンを添え、グラスで出された。」(104ページ)
というシーンが続きます。
あ、ロシアン・ティーというと日本ではジャムを入れた紅茶のことを指しますが、あれはおそらく日本だけで、イギリスではロシアン・ティーはレモンティーを指します。

<蛇足4>
相手がいかがわしい上流階級を演じるつもりなら、こちらもコックニーなまりの警官の一線を越えるつもりはない。(102ページ)
イギリスに階級が根強く残っていることを示すエピソードですね。
なまりや使う単語で階級が知れます。「イングリッシュネス」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で触れられている通りですね。

<蛇足5>
「国立近現代美術館テイト・モダンのお膝元となった場所に。この建物は有名な赤い電話ボックスを設計したのと同じ男によって、もともとは石油を燃料とした火力発電所として建設された。」(151ページ)
テート・モダンと電話ボックスが同じ人の設計とは知りませんでした。(余計なことでですが、電話ボックスだと日本語では設計といわないような気がしますね......)
調べてみると、サー・ジャイルズ・ギルバート・スコットという人のようです。

<蛇足6>
主人公であるぼくは、MRI検査を受けてこう書いています。
「ぼくはこの機械に慣れてきたに違いない。磁気コイルがハンマーのように打ちつける音にもかかわらず、ぼくはスキャンの最中にすっかり眠りこんでいた。」(402ページ)
MRI。海堂尊のバチスタシリーズでいう「がんがんトンネル」ですね。
たしかにうるさいことはうるさいのですが、実はぼくも受けたとき寝てしまった記憶が......
意外とうるさくても眠れるものですよ(笑)。


原題:Whispers Under Ground
作者:Ben Aaronovitch
刊行:2012年
翻訳:金子司




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黒いアリバイ [海外の作家 あ行]


黒いアリバイ (創元推理文庫)

黒いアリバイ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/02
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女優の旅興行の宣伝のため連れてこられた黒豹が、衆人環視のなか逃げ出して姿をくらました。やがて、ずたずたに引き裂かれた娘の死骸がひとつ、またひとつ--。美しい犠牲者を求めて彷徨する黒い獣を追って警察は奔走するが、その行方は杳として知れない。だが本件の示すあまりに残虐な獣性に、ある疑惑が浮かび……。サスペンスの巨匠による《ブラック》ものを代表する傑作!


創元推理文庫の2018年の復刊フェアのうちの1冊です。
これ、かなり風変わりな作品でしたね。
発表当時はかなりセンセーショナルだったのではないでしょうか?
なにしろ黒豹に襲われて殺される、というのですから。

あらすじにも書かれていますが、興行の宣伝のために黒豹を街中に連れていく、などというのは正気の沙汰ではありませんが、舞台となっている南米の架空の都市シューダ・レアルの猥雑さには合っている、ということでしょうか?
思いついた女優のマネージャーであるマニングのバカッ、という感じが強いですね。
第一章で黒豹が逃げ、第二章から第五章まで順に被害者の視点で描かれます。
これが、非常にサスペンスフルですね。
ああ、この娘(女性)も無残に殺されてしまうんだなぁ、と思っても、読み進んでしまう。ヒリヒリします。

そして最終章では、反撃。
マニングは最初から女性惨殺が豹の仕業という見方に疑義を唱えている、という設定になっています。
「ぼくの意見はまったく正反対だ。人間でなくて、どんな動物が、こんなにとことんまでやりぬけるもんか。こんなむごいことができるのは、人間だけさ。どんなに悪虐非道の猛獣だって、ここまではやらない」(142ページ)
最後に殺された女性の友人が囮となって、マニングとともに追い詰めようとします。
ここもまたとてもサスペンスフルです。

出来がいい作品ですか? と問われると、No と答えないといけないのかな、と思える作品なのですが、それでも一気読みしました。

ところで、タイトルの「黒いアリバイ」のアリバイ、どういう意味なのか読み終わってもピンときません。
ミステリでよくいう現場不在証明という意味ではなさそうです。
言い訳、という意味もありますが、そちらでもしっくりきません。
第一章の章題が「アリバイ」、そして最終章の章題が「黒いアリバイ」。
意味がわかりません。




<蛇足>
「だけどサリイ、あなたっていつもあんなふうなのね。誰かにこれこれするなっていわれると、かえってしたくなるのね。」
「スチーム・ローラーのサリイってところかしら」(218ページ)
この部分意味がわかりませんでした。
スチーム・ローラー!?



原題:The Black Alibi
作者:William Irish
刊行:1942年
訳者:稲葉明雄




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IQ [海外の作家 あ行]

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ジョー イデ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/06/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ロサンゼルスに住む黒人青年アイゼイアは “IQ” と呼ばれる探偵だ。ある事情から大金が必要になった彼は腐れ縁の相棒の口利きで大物ラッパーから仕事を請け負うことに。だがそれは「謎の巨犬を使う殺し屋を探し出せ」という異様なものだった! 奇妙な事件の謎を全力で追うIQ。そんな彼が探偵として生きる契機となった凄絶な過去とは――。新たなる“シャーロック・ホームズ”の誕生と活躍を描く、新人賞三冠受賞作!


帯にアンソニー賞、シェイマス賞、マカヴィティ賞受賞とあり、ミステリ新人賞を総なめにした話題作、と書かれています。
また、2018年週刊文春ミステリーベスト10第4位、「このミステリーがすごい! 2019年版」第3位です。
そして「新たなる“シャーロック・ホームズ”の誕生」@あらすじ。

正直、期待しすぎましたね。シャーロック・ホームズが引き合いに出されているのが信じられない。
きわめて普通のハードボイルドではないですか、これ。そんなに新しさも感じません。
IQというから、なにかあるのか、あるいは頭がいいことを誇示しているのかと思ったら、アイゼイア・クィンターベイのイニシャルってだけだし。
もっともこれらはこの作品の罪ではなく、周りの勝手な煽りのせいなので、割り引いて考えなければなりませんね。
シャーロック・ホームズさえ引き合いにだしていなければこういう感想はなかったかな?

はい、普通のハードボイルドとして楽しく読めましたよ。
不幸な育ちの黒人青年の背伸びを描いてもいる。その分も楽しい。
それ以上でも、それ以下でもない気がしました。

まず、原文がそうなのか、あるいは翻訳のせいなのかはわかりませんが、文章にあまり馴染めませんでした。相性が悪かったのでしょう。
またミステリ部分も、サプライズがない、というのは欠点として挙げておかねばならないと思います。
こういってはなんですが、ただだらだらと事件が解けていく感じ。犯人サイドも余計なことしすぎでしょう。
ハードボイルドの傑作群は、ミステリとしてきちんとサプライズがあるものですが......

一方で、卑しき街を行く探偵、ということで、不幸な育ちの黒人青年IQの背伸びはとても楽しい。

「自分たちがNではじまる言葉を使うのはいいのに、わたしのような人が使っちゃいけないのはなぜですか?」
「ニガにニガといわれたら、どういうつもりでニガといったのかはわかる。だが、あんたにニガといわれたら、心から“ニガ”といってるかもしれねえだろ」(350ページ)
なんて、おやっと思える会話もあちこちに忍ばせてあります。

映画化するといいのでは? と思ったりしましたが、どうなんでしょうか?
シリーズ化しているようですが、さて、次作「IQ2」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだものかどうか......

最後に、カバーかっこいいなと思いました。
次作のカバーもよさげですね。
IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ2 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ジョー イデ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 新書


<蛇足1>
「ビギーは本物のギャングスタ(OG)で、先駆者だ。」(99ページ)
本物のギャングスタにOGと振ってあります。
OG=Original Gangstaらしいです。知りませんでした。

<蛇足2>
「すぐ上に長方形の家(ケープコッド)の二階部分が見える。」(103ページ)
「長方形の家」にケープコッドとルビが振ってあります。
ケープコッドスタイルの建物って、長方形と呼ぶような形でしたっけ?
屋根の部分を考えると、あまり長方形というのはふさわしくないような気がしますが......
おうちの形といえば、このホームページがステキですね。(いつもながら勝手リンクです)

原題:IQ
作者:Joe Ide
刊行:2016年
訳者:熊谷千寿







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百年祭の殺人 [海外の作家 あ行]

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2013/05/01
  • メディア: 単行本


単行本です。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第2位。
論創海外ミステリ105。
この叢書、あらすじがないんですよね......

先日読んだ「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がとてもとてもおもしろかったので、この「百年祭の殺人」 をそれほど間を開けずに読むことにしました!

プロローグは、フォン・ラッシュというドイツ人医学生が職を手に入れるシーンです。
でもその後第一部が始まると、舞台も人物もすっかり変わってしまいます。
「メルボルンの礎が築かれてから百年が経過したことを祝う祭典で、一九三四年に催された」(29ページ)百年祭を控えたメルボルンが舞台となります。
新聞記者が堂々と殺人現場に行き、ちゃんと中までたどり着いて普通に警察と話をするというのに驚きますが、当時のオーストラリアはそうだったのでしょうね......すごい。
メルボルンで判事が殺されるという事件なのですが、捜査にあたるのはスコットランドヤードから移ってきたヴィクトリア州警察刑事捜査部のリード首席警部。イギリスからは独立していたはずですが、そういう人材交流もあったんですねぇ。そしてその若い友人ジェフリー・ブラックバーンが捜査に協力する、という構図ですね。この二人は「闇と静謐」にも出て来ました。

リード首席警部、なんかいいんですよね。
「おまえさんは推理で殺しが解決すると思っとるのかもしれん。たしかにそういう場合もある。だが、たいていは骨の折れる地道な作業の積み重ねが実を結ぶんだ。ほんのわずかでも脈がありそうな手がかりは片端からたどって--」(116ページ)
というセリフなど、名探偵と対峙する刑事さんが言いそうなセリフですが、
「たしかにそういう場合もある。」
という部分、光っていますよね。

謎解きの方ですが、帯には「巧妙なトリックと鮮烈なロジック」とあるのですが、トリック自体はそれほど驚くようなものではありません。
そういう観点でみるよりは、解説で大山誠一郎が書いているように、密室であることによって、あるいは密室の謎が解かれることによって、一種のミスディレクションとなることにポイントがあると思います。
「闇と静謐」に続く大山誠一郎の解説(正しくは、続くではありませんね。「百年祭の殺人」 の方が「闇と静謐」より先に訳出されていますので)が今回もとても素晴らしく感動ものです。

「闇と静謐」があまりにおもしろかったので、それと比べると期待しすぎという感じがしますが、それでもこの「百年祭の殺人」 、本格ものの醍醐味を味わえました。
マックス・アフォードの作品まだ残っていますので、ぜひ訳してください。
「魔法人形」もいつか読み返してみなければ。



<蛇足1>
「前にエドガー・ウォーレスの『血染の鍵』という作品を読んだのですがね。」(50ページ)
と出てきて、続けてトリックが明かされちゃっています。もうっ! 未読なのに!!
ちなみに、「血染めの鍵」 (論創海外ミステリ)も2018年に論創海外ミステリから訳出されています(タイトルの字面は「血染」から「血染め」になっていますが)。
読もうかどうしようか、迷っちゃいますね。

<蛇足2>
「だんまりを決めこむつもりなら、本部の連中に引き渡してやる。白状するまで水道のホースでしばかれるような目に遭いたいか!」(67ページ)
ここでちょっとあれっと思いました。
「しばく」って関西弁だと思っていたので......

<蛇足3>
「たとえば、ある人が希少な絵画や高価な陶器、あるいは何かの発明の設計図でもいいのだけれど、要するに創造の産物--数万人に一人の頭脳にしか生み出せない何か--を盗んだとしたら、その人は罰せられるべきだと思う。だって、ほかに交換のきかないものを奪い去ったんだから。それに引き換え、人間の命なんて、何よりも安く、しかもいちばん簡単に代えのきくものでしょう? それを奪ったからといって罰するなんて、わたしには蜘蛛を踏みつぶした人を罰するくらい馬鹿げたことに思えるわ」(92ページ)
なかなか大胆な発想、大胆な発言をする女性が出て来ます。しかも推理作家......

<蛇足4>
「『ブラウン神父のお伽噺』をご存じ?」(101ページ)
そんなタイトルの作品あったかな? と一瞬思いましたが、ポイントが続けて語られていまして、それからわかりましたが、「ブラウン神父の知恵」 (創元推理文庫)に収録されている短編ですね。
「ブラウン神父の知恵」 (ちくま文庫)での訳題は「ブラウン神父の御伽話」のようです。

<蛇足5>
「そしてこれは、意気消沈している捜査員がすべからく拳拳服膺すべき金言です。」(185ページ)
文脈から意味はわかりますが、「拳拳服膺」! この四字熟語知りませんでした......
「《「礼記」中庸から。「服膺」は胸につけて離さない意》心に銘記し、常に忘れないでいること。」らしいです。
かと思えば、
「ここがまさに、狂瀾を既倒にめぐらすことができるかどうかの分かれ目でしょう。」(309ページ)
という文章も出て来ます。
これまた難しい。こちらも知りませんでした。
「《韓愈「進学解」から》崩れかけた大波を、もと来た方へ押し返す。形勢がすっかり悪くなったのを、再びもとに返すたとえ。」らしいです。
あえて難しい語を訳に使うのがふさわしいような、凝った英語表現になっているのでしょうね、きっと。

<蛇足6>
「茅葺き屋根の茶房(ティーハウス)は、川沿いに建つよく知られた陸標(ランドマーク)だったし、」(320ページ)
ランドマークに陸標という訳語が当ててありますが、陸標という語を知らなかったので検索してみると、たしかに陸標はランドマークの一つではありますが、ここでいうランドマークは陸標ではないように思いました。それにティーハウスは陸標ではないでしょう......
ランドマークとは「陸標、灯台、鉄塔のような土地における方向感覚の目印になる建物、国、地域を象徴するシンボル的なモニュメント、建物、空間を意味する。また、広い地域の中で目印となる特徴的な自然物、建物や事象も含まれる。ニューヨークの自由の女神、パリのエッフェル塔などは都市、国家を象徴するランドマークで木、山、高層ビル等は町や都市のランドマークである。」(Wikipedia)ということですから。こちらは一般的に理解しやすいランドマークですね。これらを陸標と呼ぶのは無理がありますよね。
それと、引用した部分では、ティーハウスに茶房という語が当ててあります。これはこれで結構なのですが、本書 の場合、その後すぐに「ティーハウスと芝生を含む相当広い一帯」とか「ティーハウスの裏手へ」(ともに321ページ)と書かれていて、だったら茶房なんて当てずに、初めからティーハウスとだけ書けばいいのにと思ってしまいます。
リボルバーにも「輪胴式拳銃」といういかめしい訳語がついていますし、なにかこだわりがあるのかもしれませんね。


原題:Blood on His Hands!
作者:Max Afford
刊行:1936年
訳者:定木大介



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闇と静謐 [海外の作家 あ行]

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/06
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
ミステリドラマの生放送、現実に殺人事件が……。ラジオ局で発生した停電中の密室殺人に始まる不可思議な事件の数々にジェフリー・ブラックバーンが挑む! シリーズ最高傑作と評される第3作"The Dead Are Blind"が、原著刊行から79年の時を経て遂に邦訳!


単行本です。「2017 本格ミステリ・ベスト10」第9位。
論創海外ミステリ172。
この叢書、あらすじがないんですよね。
上の論創社HPからの引用も、あらすじと呼ぶには足りないですね.....
ということで、訳者あとがきから引用します。

物語は一九三二年五月十五日、英国放送協会(BBC)の新社屋、ブロードキャスティング・ハウスの完成を祝し、各界の有名人を招いた記念式典に、我らがジェフリー・ブラックバーンと、スコットランドヤードのジェイミソン・リード主席警部が招待されるところから始まります。式絵tンに続いて行われたラジオドラマ『暗闇にご用心』の生放送中、新進女優のメアリ・マーロウが突然亡くなるという大ハプニングが発生。当初は心疾患による病死との診断が下されたのですが、死因に不審な点が多いのが気になったジェフリーは他殺を疑い、独自の捜査に乗り出します。放送中のスタジオは内側から鍵が掛かっており、外部からの侵入は不可能。検視にあたったコンロイ医師のもと、新たな事実が明らかになります。その後事態は二転三転し、ジェフリーがたどり着いた真相とは……。


マックス・アフォードの本を読むのは「魔法人形 世界探偵小説全集 4」(国書刊行会)以来ですね。
「百年祭の殺人」 (論創海外ミステリ)は購入してあるものの未読ですので。
「魔法人形」はもうすっかり忘れてしまっていまして、おもしろかったかどうかすら定かではありません。
でも、この「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)はとてもおもしろかったですね。

タイトルの意味は冒頭いきなり出て来ます。
『ジェフリーが今後、どのような事件に遭遇する運命にあろうとも、かの「暗闇と静謐の驚くべき事件」は、その記憶に今もなお鮮やかに刻まれているのは、彼をよく知る立場である私が何よりわかっている」(9ページ)
ーーここ、なぜ闇と静謐と訳さなかったのでしょうね? あるいは邦題を暗闇と静謐にしなかったのでしょうね? それと、この文章ちょっと日本語としておさまりが悪いですよね...
まあ、これを見ても何のことかよくわからないわけですが、BBCのラジオドラマ上演収録時に起こった殺人事件ということを考え合わせると、わかったような、わからないような......

ミステリとしての建付けは、ネタバレを含みつつ、大山誠一郎が「オーストラリアのクイーンズランド」と題した解説で詳細に書かれていまして、もうそれ以上素人が付け加えようもありません。

訳者あとがきにもある通り、二転三転する事件の様相が読み応えたっぷりでした。
また、これも受け売りですが(法月綸太郎の評論からの孫引きになるかも)、鍵のかかったドアを中心に空間を切り分けて事件の様相を考察すると、とてもおもしろい構図になっていたんですね。
(そういえばこの解説で名の挙がっているエラリー・クイーンの「スペイン岬の謎」 (創元推理文庫)のことが大好きだったのを思い出しました。新訳が出るのがとても楽しみになってきました)

殺人の方法が、いままで読んだことのない感じの殺し方で、びっくりしました。ちょっと大げさかもしれませんが。
ただ、この殺し方、「実に見事な手口と言うべきだな」(154ページ)と監察医がいうのですが、うまくいくかなぁ、と心配になりました(犯人を心配する必要はないですが)。
「物音ひとつ出さず、傷もつけず、血も流さずに人を殺す。検視ではどんな医者もお手上げの兆候を見せる死にざま。」(155ページ)
と続けて監察医が解説しているものの、血は流れるんじゃないかと素人考えですが思います。
とはいえ、この殺し方はミステリとしてのキーポイントではありません。血が流れて、あからさまな殺人であっても、ミステリとしての傷にはならない構成になっています。
安心してお読みください(?)。

「百年祭の殺人」を読むのはもちろん、「魔法人形」も読み返してみなければ、と強く思いました。


<蛇足1>
「教育の行き届いたポーターがゲストを休憩室(ホワイエ)へと誘導する」(28ページ)
ホワイエに休憩室と訳語がついていますが、違和感がありますね。日本語の感覚では、ホワイエはどちらかというと、ロビーに近いのではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「『暗闇にご用心』の舞台は、田舎屋敷のダイニングルームです」(40ページ)
田舎屋敷...... 原語はおそらくcountry house で、逐語訳すればたしかに田舎屋敷ですが、これまた... 今やカントリーハウス、でよいのではないかと思うのですが。

<蛇足3>
「今夜、君の下着の中ではアリがはい回っているのかね?」(118ページ)
落ち着かないジェフリー・ブラックバーンにリード警部がいうセリフなのですが、おもしろい言い回しですね。
同じページに「肩を丸め」という表現も出てきます。これもおもしろい表現だと思いました。肩ってどうやって丸めるのでしょうね? 背中を丸めるはわかるのですが......似たような状況を指すのでしょうか?

<蛇足4>
リード警部とジェフリー・ブラックバーンが住んでいる場所のことを、この本では、アパートと呼んだり(たとえば11ページ)、フラットと呼んだり(たとえば184ページ)しています。どうして統一しないのでしょうね??

<蛇足5>
「ジェフリーとリードは、味はいいが、どこがいいのかさっぱりわからない昼食をともにしながら」(185ページ)
意味がわかりません......原文を確認したくなりますね。
(こういうときはまず間違いなく誤訳ですから)

<蛇足6>
「きっと役に立つ手がかりがふくまれているかもしれません」(188ページ)
きっと~かもしれません、というつながり方は珍しいですね。呼応していないと思います。

<蛇足7>
「昨日の午後、ロンドン郵便局本局(GPO)の、EC1管轄区から投函されたということしかわからなかった。」(188ページ)
EC1管轄区という訳語を見て、なるほどなぁ、と思いました。
EC1というのは、イギリスのPOST CODE、日本でいう郵便番号にあたります。地域をある程度特定できるわけですね。管轄区という呼称は正しくないかもしれませんが、雰囲気をよく伝えていると思います。

<蛇足8>
「殺人事件の九十パーセントは状況証拠で有罪が宣告されているじゃないですか。」(205ページ)
なかなか衝撃的なセリフですね。
さらにこのあたりのセリフ、結構支離滅裂なんで要注目です。
「謎解きなら、やめたまえ」というリード警部の直前のセリフも文脈からして意味不明ですし(謎を解くサイドではなく、謎を提出するサイドならわかります)。



原題:The Dead are Blind
作者:Max Afford
刊行:1937年
訳者:安達眞弓





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犯罪は老人のたしなみ [海外の作家 あ行]

犯罪は老人のたしなみ (創元推理文庫)

犯罪は老人のたしなみ (創元推理文庫)

  • 作者: カタリーナ・イン ゲルマン=スンドベリ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/09/10
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
新しいオーナーになって、ホームは変わってしまった。食事は冷凍食品、外出も制限される。こんなはずではなかった。ならば自分たちの手で変えてみせるとばかり、79歳のメッタは一緒にホームに入った友人4人と、老人だけの素人犯罪チームを結成した。美術館の名画を誘拐して身代金を要求しようというのだ。老人ならではの知恵と手段を駆使して、大金を手にすることはできるのか。


スウェーデンの作家の作品です。
帯に「老人ホームの仲良し五人組が企てたとてつもない大犯罪とは?」とありまして、老人による犯罪を描いた作品です。
この種の作品はいくつか前例がありますが、たいてい愉快な作品に仕上がっています。
日本語版のタイトル「犯罪は老人のたしなみ」というのも、そういう雰囲気を狙ったものになっています。原題 Kaffe med Rån というのは Google 翻訳 を使ってみると「強盗とコーヒー」くらいの意味らしく、軽やかなイメージですね。
ところが、そう思って期待して読むと、これが思ったより軽快な感じがしません。もちろん、ユーモラスな部分は多々あるのですが、カラっとはせず、なんとなく湿った感じがします。
これは、「老人ホームの暮らしがつらくなったので、犯罪にでも手を染めて刑務所に入ったほうがいい暮らしができる」という犯行動機がそもそも湿っぽいからかもしれませんし、スウェーデンというお国柄なのかもしれません。

事件の方はいろいろと用意されていまして、いずれも老人にもできる犯行計画になっているところが〇。
もちろん、厳密な感じではなくて、うまくいかないんじゃないかな、と思える危なっかしいところ満載なのですが、「まさか老人がそんなことしないだろう」という周りの思い込みが作用します。真面目に考えると犯罪計画、ひいては作品自体が「緩い」わけですが、そういうあたりも楽しむつもりで読むことがこの種の作品には求められると思います。

うまくいくケース、いかないケース双方とも用意されていて、拘置所や刑務所に入るシーンもあり、半年以上の長きにわたる物語になっています。
危機もあれば機知もあり、読むごたえも相応にあります。
ただ、スカッと爽やか、快哉! という感じにはならず、冒頭申し上げたように、どこかしら物哀しいというか、なにかひっかかる部分が残るところが気になりますね。面白くは読んだのですが。

「老人犯罪団の逆襲」 (創元推理文庫)という続編も出ているので、そのあたりの読後感を改めて確かめるために読んでみるのもいいかなぁ、と考えています。


<蛇足1>
「発明家の上、腕の良いコックでもあるのだ。」(24ページ)
とあるのを見て、高校時代の英語の授業を思い出しました。
たとえば、My mother is a good cook. という英文、「母は良いコックだ」と訳すのは間違いだと教わったのです。英語ではこういう言い方をするが、日本語の場合料理人やコックというのは職業を表す語であるので、日本語としては「母は料理がうまい」とせねばならぬ、というわけです。
この作品の場合はスウェーデン語で書かれているわけなので、英語とは事情が違うかもしれませんが、当時の先生が見たら、間違いだー、と説教するかも(笑)。

<蛇足2>
「我々はパラシュートで飛んだり、世界一周できるようなコンディションではないが」(51ページ)
「脱税をしたり金儲けだけ考える連中から」(同)
というセリフが出てきます。
~たり、~たり、という文型はすたれつつあるのでしょうね...





原題:Kaffe med Rån
作者:Catharina Ingelman-Sundberg
刊行:2012年
翻訳:木村由利子



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顔のない魔術師 ロンドン警視庁特殊犯罪課 2 [海外の作家 あ行]


顔のない魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

顔のない魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

  • 作者: ベン アーロノヴィッチ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
歓楽街ソーホーで奇妙な事件が多発した。ジャズ・ミュージシャンが演奏直後、あるいは帰宅途中に相次いで突然死したのだ。その体から魔術の痕跡をかぎとったピーターは、ただちに捜査を開始する。死体はみな古いジャズの名曲《ボディ・アンド・ソウル》を奏でていたのだ! だがその直後、高級クラブの地下トイレで、魔術師とおぼしき男の惨殺死体が発見される。やがて事件の背後に、妖しい魅力をもつ女と黒魔術師の姿が!?


今月(12月)に読んだ最初の本です。
「女王陛下の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)に続くシリーズ第2弾。
「女王陛下の魔術師」を読んだのが2014年1月なので(リンクはこちら)、ほぼ4年ぶりに読んだシリーズです。

設定自体は、パラレルワールドというか、現代のロンドンに、もう一つの神霊世界(?)のロンドンが二重写しにしている世界観となっています。なんといっても、主人公も魔術師(見習い?)ですから。
その中で、事件が起こる。
この第2巻はかなりミステリ色が強いですね。
ジャズ・マン連続殺人事件、というのと、男性器を噛みちぎられて殺される事件。

章題(の多く)が、ジャズやポピュラー・ソングのタイトルとなっています。
本書の原題“Moon over Soho”含め、いずれも歌のタイトルでもおかしくなさそうなものばかりですが、訳者あとがきによると、全部というわけではなさそうです。

前作でかなりダメージを受けた同僚レスリーの容態がかなりひどそうで心配です。
ピーターの師匠であるナイチンゲールもあんまり具合よくなさそう。
というわけで、本書ではかなりピーターが独りで捜査していきます。
かなりハードボイルドに近づいた作品だな、と感じました。
こういう感じも楽しく読めますね!
レスリーとの関係性が変わりそうな気配で幕を閉じるので、続編が楽しみです。

シリーズはこのあとも順調に訳されていて、といいたいところですが
「地下迷宮の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)
「空中庭園の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)
と出たところで止まっています。原書も続きは出ていなそうで、気がかりです。



<蛇足1>
「“シニステル”とはラテン語で、“左の”という意味だ。生徒たちのばかばかしい冗談で、男女共学にとってそれほどはっきりした教訓になっている。友人の一人が運悪く“右の(デクスター)”という名で呼ばれることを想像してみるといい。どんなに腹をかかえて笑ったことだろう」(173ページ)
というくだりがあります。
まったく意味がわかりませんでした。
こういうところにこそ訳注をつけてもらいたいです。


<蛇足2>
<ヨー! 寿司>で夕食をとったあと(385ページ)、
「日本人の食べ物はとってもおいしいけど、まっとうなケーキの作り方はわかってないみたい」(388ページ)
というセリフが出てきます。
<ヨー! 寿司>というのは、<YO! SUSHI>という実際にあるレストランですね。ロンドンのSOHOからスタートしたもので、いまやあちこちにあるようです(上の<YO! SUSHI>にホームページのリンクをはっておきました)。
しかしなぁ、ここの料理、和食あるいは日本食といわれて素直にはうなずけませんね...料理名はともかく、似て非なるもの、という感じです。
ここのデザートを食べて、日本人は「まっとうなケーキの作り方はわかってない」と言われてもちょっと困ります。困るというか、憤慨します!
だいたいイギリスはデザートもただただ甘いだけだったりして壊滅的にまずいくせに...



原題:Moon over Soho
作者:Ben Aaronovitch
刊行:2011年
翻訳:金子司

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黒いカーテン [海外の作家 あ行]


黒いカーテン (創元推理文庫)

黒いカーテン (創元推理文庫)

  • 作者: ウィリアム・アイリッシュ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1960/02/19
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
事故で昏倒したことがきっかけで、記憶喪失から回復したタウンゼンド。しかし、彼の中では三年半の歳月が空白になっていた。この年月、自分は何をしてきたのか?不安にかられる彼の前に現れた、瑪瑙(めのう)のような冷たい目をした謎の男。命の危険を感じ取った彼の、失われた過去をたどる闘いが始まった。追われる人間の孤独と寂寥を描かせては並ぶ者のない、サスペンスの名手の真骨頂。


今月(2017年9月)読んだ2冊目の本です。
創元推理文庫の今年の復刊フェアのうちの1冊です。
むかし子供向けのものを図書館で借りて読んで以来ではないかと思います。
当然(?)、サスペンスものだったことのみ記憶にあるだけで、話の中身はちっとも覚えていませんが...
カップリングが「暁の死線」 (創元推理文庫)で、どちらかというと「暁の死線」 のほうが好みに合った記憶ですが、この「黒いカーテン」 も十分おもしろかったはず...
大人向けの普通の翻訳を読むのはこれが初めてです。

200ページくらいの短い作品ですが、非常にサスペンスフルで、今の視点から見ると手垢にまみれたような記憶喪失ものながら、すっきりしたストーリーがとても好もしいです。

主人公の記憶喪失中の3年間の間に起こった事件が鍵となるのですが、そこに使われているトリックが意外でした。
あ、意外といっても、意外なトリックが使われていたということではありません。
このトリックに比重があるわけではなく、かつ、見せ場にできるようなトリックではないし、ミステリで先例がいくつもあるトリックなので、とりたててあれこれ言うのもなんですが、アイリッシュがこのようなトリックを使っているということが意外でした。
アイリッシュの作品、実はそんなに読めていないので、あらためて読んでみると、いろいろと発見があるのかもしれませんね、個人的に。

主人公に都合のいい結末を迎えるところが現代の感覚からいうとゆるいのですが、そういう甘さのあるところが、ウィリアム・アイリッシュの魅力のように思えます。
細かいところを気にし始めると、いろいろとボロの多い作品ですが、さっと読めて、主人公と一緒に一喜一憂はらはらできる、楽しい作品だと思いました。
ほかのアイリッシュ(=ウールリッチ)の作品もまた読んでみたいです。

<蛇足>
「新聞紙は、急湍(きゅうたん)のようにバラバラになって床に散った」(20ページ)
という表現が出てきます。
急湍って語、知りませんでした。
「流れの速い瀬。早瀬。急灘 (きゅうだん) 。」
らしいです。

原題:The Black Curtain
作者:William Irish
刊行:1941年
訳者:宇野利泰



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