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オタバリの少年探偵たち [海外の作家 た行]


オタバリの少年探偵たち (岩波少年文庫)

オタバリの少年探偵たち (岩波少年文庫)

  • 作者: セシル・デイ ルイス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/09/17
  • メディア: 単行本


<裏表紙あらすじ>
第二次大戦直後のイギリスで、戦争ごっこにあけくれる少年たちの物語。ある日、みんなでかせいだお金が消えてしまいます。犯人を見つけ、お金をとりもどそうとするうちに、いつのまにか、悪党一味の大犯罪があきらかに……。


「エーミールと探偵たち」 (岩波少年文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「名探偵カッレくん」 (岩波少年文庫)(感想ページへのリンクはこちら
に続いて児童書です。
岩波少年文庫の児童書はいったんこれで打ち止め。というよりはこの「オタバリの少年探偵たち」が真打で、既読だった「エーミールと探偵たち」 「名探偵カッレくん」 はいわば前座の位置づけ。
「オタバリの少年探偵たち」は初読です。
作者のセシル・デイ=ルイスはイギリスの桂冠詩人ですが、別名ニコラス・ブレイクでミステリを書いています。「野獣死すべし」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)が有名ですね。これは読んでみなければ、とおもったわけです。

ところが冒頭、
「『オタバリの少年探偵たち』を書くにあたって、私はフランスの映画 “Nous les Gosses” (『ぼくら悪ガキ』)を下敷きにしました。」
と作者が書いています。
あれれ? 本当の意味でのオリジナルではないのですね...

さて、その内容ですが、少年探偵ものとしては、かなりハードです。
最初のほうの、ガラスを割ってしまった仲間のために、みんなでお金を集めようとする、というくだり、牧歌的でいいな、なんて思っていたら、途中でどーんと大展開。本物の、冒険というかスリルです。
子どもたちの勇気に乾杯、といったところでしょうか。大人が関与していたら、きっと危険すぎるので止めたと思いますが。だって、相手は悪党一味ですから。

女の子が出てこないのが時代を感じさせますが(今この種の作品を書いたら、かならず女の子も登場すると思うので)、子どもならではというか、男の子ならでは、というか、助け合って、かばい合って、でも意地を張りあって、というあたりがよく伝わってきます。
エドワード・アーディゾーニの挿絵も(表紙もそうです)、そっけないようで、味があって、なかなかよかったです。

<蛇足1>
この作品の書き出し
「事の起こりからはじめて、結末まで行ったら、そこで終わりにしろ」
ふと岡嶋二人の「クラインの壺」 (講談社文庫)を思い出しました。
手元にないので記憶ベースですが、たしか、「クラインの壺」 も似たような書き出しだったかと。

<蛇足2>
冒頭訳者による「物語のまえに」という導入部分があるのですが、わかりにくい当時の通貨単位と度量衡の説明があって親切です。
それにしても、インチ、フィートの説明で、寸、尺、間を引き合いに出し、「一ヤードは畳の短いほうの幅くらい」という説明はいいとして、「こういう単位は、十進法とちがって計算はめんどうですが、目分量には具合よくでてきているということですね。」っていうのは、どうですかねぇ?
日本では畳をベースにわかりやすい、具合よい、と言えても、イギリスには畳ありませんよ!? さらに最近では日本でも畳のないマンションが増えていませんか?



原題:The Otterbury Incident
作者:Cecil Day Lewis
刊行:1948年
翻訳:脇明子





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死をもちて赦されん [海外の作家 た行]


死をもちて赦されん (創元推理文庫)

死をもちて赦されん (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/01/26
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ウィトビアでの歴史的な教会会議(シノド)を前に、アイオナ派の有力な修道院長が殺害された。調査にあたるのはアイオナ派の若き美貌の修道女“キルデアのフィデルマ”。対立するローマ派から選ばれたサクソン人の修道士とともに、事件を調べ始める。フィデルマの名を世に知らしめることになる大事件と、後に良き相棒となるエイダルフとの出会いを描いた、ファン待望の長編第一作遂に登場。


上で引用したあらすじでは、ファン待望の、とありますが、このシリーズ、初めて読みます。
あとがきに書いてありますが、このシリーズの邦訳は5-3-4-1-2という順で訳されたようですね。
シリーズ物はできれば(原書が)出た順に読みたい(シリーズ物でなくても、ある作者の作品は出版順に読みたいと思っていますが)ので、ここまでの邦訳3冊が売れていなかったら、この第1作が訳されることもなかったわけで...こういう翻訳順はちょっと困るなぁというところ。日本では割とこういうこと(出版順に翻訳されないこと)がよくあるんですよね。
でも逆に、第1作を手に取るころには日本で好評を持って受け入れられたことがわかっているということでもあるので、本を選ぶときに安心できるとも言えるんですよね。うーむ。

で、この「死をもちて赦されん」 を読んでどうだった、というと、おもしろかったですね。
シリーズの翻訳順が原書出版順とならなかった理由は、第1作、第2作で色濃いカトリック内部の教義論争が受け入れられにくいと判断されたことと、作品の舞台がアイルランドではないので古代ケルトというシリーズの特色があまり出ていないと判断されたこと、のようです。
いや、こんなの杞憂ですよ。
しっかりとした作品ですし、「死をもちて赦されん」 から訳されても、十分受け入れられ、評価されたと思います。
宗教会議も、おもしろかったですよ。特に、政治状況と結びついているところがよろしい。宗教が宗教のみの事情で決せられない、というよりも、宗教はそもそも政治と分かちがたく結びついていたということでしょう。
ミステリの部分も、クラシックなミステリらしい結構で楽しめました。
これだけ古代の香りが立ち込めている中に、こういう動機を抛り込んでくるなんて、なかなかピーター・トレメインも曲者ですね。

それにしても、人気シリーズとのことですが、主人公であるフィデルマ、嫌な女ではありませんか(笑)?
シリーズ続巻を読んで、フィデルマがどう変わっていくのか、観ていきたいと思いました。

<蛇足>
(1) バリトンに“中髙音”という漢字があててあるのですが(117ページ)、高 ではなく、髙(いわゆる、はしごだか)でした。なぜ?
(2) 「客観的な同情の視線で見守った」(221ページ)というのは、どういう視線なんでしょうね?


原題:Absolution by Murder
作者:Peter Tremayne
刊行:1994年
翻訳:甲斐萬里江


ここにこれまで邦訳されている長編の書影を、ぼく自身の備忘のために順に掲げておきます。
死をもちて赦されん (創元推理文庫)

死をもちて赦されん (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/01/26
  • メディア: 文庫

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/10
  • メディア: 文庫

幼き子らよ、我がもとへ〈上〉 (創元推理文庫)幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 文庫

蛇、もっとも禍し上 (創元推理文庫)蛇、もっとも禍し下 (創元推理文庫)蛇、もっとも禍し下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 文庫

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫)蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/10/24
  • メディア: 文庫

翳深き谷 上 (創元推理文庫)翳深き谷 下 (創元推理文庫)翳深き谷 下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/12/21
  • メディア: 文庫


消えた修道士〈上〉 (創元推理文庫)消えた修道士〈下〉 (創元推理文庫)消えた修道士〈下〉 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/11/21
  • メディア: 文庫




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時のかなたの恋人 [海外の作家 た行]


時のかなたの恋人 (新潮文庫)

時のかなたの恋人 (新潮文庫)

  • 作者: ジュード デヴロー
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1995/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
恋人に捨てられて教会で泣いていたダグレスの前に、16世紀イングランドの伯爵を名乗る奇妙な男が突然現れた。無実の罪で捕われた部屋に女の泣き声が聞こえ、気づくとここにいたのだという。このままでは処刑されてしまう彼の運命を変えるため、ダグレスのタフな愛の冒険が始まった! ―― 400年の時を越えて永遠の絆を求めあうふたりの、せつなく優しいタイムスリップ・ラブ・ロマンス。


いつもの読書傾向からは大きく外れた「時のかなたの恋人」 (新潮文庫)ですが、確か本の雑誌で推されていたので買ったものです。積読が長かったので、本の雑誌だったかどうか自信がないのですが...
積読期間が長すぎて、Amazon.co.jp を見るともう品切れ・絶版状態なんですね。
ラブ・ロマンスはいつも読んでいないので、ラブ・ロマンスというジャンルの中でのこの作品の位置づけやレベル感はわからないですが、面白かったですよ、十分に。

あらすじでお分かりかと思いますが、2001年の映画「ニューヨークの恋人」に似てますよね。原作というわけではないでしょうが、脚本のヒント?

ニューヨークの恋人」は、19世紀からタイムスリップした貴族レオポルドが、現代のケイトと恋に落ちるというストーリーでしたが、「時のかなたの恋人」 は、もっと複雑で、堪能できます。
というのも、とその理由を書いちゃうとネタばれになるので自粛。

しかし、ダグレスの現代の婚約者ロバート・ホイットニーとその娘グロリアが、すごーく嫌な父子で、イライラ、うんざりできます。すっかり作者の術中にはまっていますね。
あまり読むジャンルではないのですが、楽しかったです。たまには、こういうのもいいかな。


原題:A Knight in Shining Armor
作者:Jude Deveraux
刊行:1989年



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災いの古書 [海外の作家 た行]


災いの古書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

災いの古書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者: ジョン ダニング
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2007/07
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
古書店主クリフは、恋人エリンの頼みで蔵書家射殺事件の調査を開始した。被害者男性とエリンが交際していた過去があり、容疑者女性がエリンの元親友という事情から依頼を引き受けたのだ。まもなく被害者が貴重なサイン本をコレクションしていたという事実が判明する。本をめぐる争いに巻き込まれたのか? やがてその蔵書をめぐり怪しい三人組が暗躍しはじめ……古書にまつわる意外な蘊蓄を盛りこんだ人気シリーズ第四作。


うわー、懐かしい、ジョン・ダニング。
なんて言っている場合ではありませんね。
「死の蔵書」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「幻の特装本」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「失われし書庫」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
と続いてきたシリーズ、第3作の「失われし書庫」が訳されたのが2004年。
この「災いの古書」は、2007年に訳された第4作で、訳されたの自体が3年ぶりではありましたが、積読約7年とは...
第5作の「愛書家の死」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)が訳されたのすら2010年。「愛書家の死」 は、それほど間をあけずに読むことにします。

さて、「災いの古書」です。
久しぶりに読むシリーズですが、クリフ・ダンウェイとエリンの世界に、すっと入り込むことができました。

今回の古書のテーマは、サイン本。
エリンの元親友ローラが逮捕された状況というのは、血まみれで発見され保安官代理に自分がやったと自白していた、というもの。
しかし、障害を持つ養子ジェリーをかばっているのではないか、という見立てもあり...
そして被害者は大量の貴重なサイン本を保有していた。サイン本をめぐってあらわれる怪しい三人組。
はたして、ローラが殺したのか? ジェリーをかばっているのか? それなら、ジェリーが犯人なのか? それともローラがそう思っているだけでジェリーとは別に真犯人がいるのか?
定番中の定番ともいえそうな設定ですが、やや無鉄砲というか無軌道なクリフの捜査の進展具合と絡みながら、じっくり展開していきます。いや、活劇シーンもありますし、かなりスピーディではあるんですけれどね。

印象の残るのはやはりジェリーの取扱いでしょう、きっと。
真犯人がかなりどぎつい設定となっているので、一層際立ちます。ジェリーのその後を確かめたい気になります。

シリーズは快調です。
次作「愛書家の死」 も楽しみです。本当に、それほど間をあけずに読むことにします!

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ベンスン殺人事件 [海外の作家 た行]


ベンスン殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集1) (創元推理文庫)

ベンスン殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集1) (創元推理文庫)

  • 作者: S・S・ヴァン・ダイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/02/21
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
証券会社の経営者ベンスンがニューヨークの自宅で射殺された事件は、有力な容疑者がいるため、解決は容易かと思われた。しかし捜査に、尋常ならざる教養と才気をもつファイロ・ヴァンスが加わり、事態は一変する。物的・状況証拠を否定するヴァンスが用いる、心理学的推理とは?巨匠のデビュー作にして、米国本格ミステリ黄金時代の幕開けを告げた記念碑的傑作、新訳で登場。

うわぁ、もう出ないんじゃないかと思っていた、ファイロ・ヴァンスシリーズ新訳が出た!
第1弾の「僧正殺人事件」 (創元推理文庫)が出たのが2010年4月で、2011年の10月に書いたブログでも(リンクはこちら)続きが出ないな、と書いていた、シリーズ新訳が出ました。ほぼ3年ぶり...この「ベンスン殺人事件」 はデビュー作なので、今後はシリーズ刊行順に出るのかな?
「ベンスン殺人事件」 は、瀬戸川猛資さんの「夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波」 (創元ライブラリ)で、触れられていまして、ファイロ・ヴァンス初登場のセリフが紹介されています。このセリフ、確認したかったんですよね。
「こんなふうに庶民並みに早起きしたもので、疲れてね」(P17)
うーん、確かに、すごい上から目線この上ないセリフで初お目見えしたんですねえ。瀬戸川さんのおっしゃる通り、嫌な奴(笑)。
ところが、そのあと、早起きしたことを受けて、
「それにしても、なんとも理不尽な時間だよ! 誰かに見られたらどうしよう」(P28)
なんて言うので、おかしくなってしまいました。なんか、お茶目(本人にはそんな意識ないでしょうが)。
なんにせよ、瀬戸川さんご指摘のこのせりふが確認できて満足です。

さて、ファイロ・ヴァンスといえば、心理的推理。
「真相を知るには、犯罪の心理的要因(ファクター)を分析して、それを人物に適用するしかないんだよ。唯一ほんとうの手がかりになるのは、心理的なものだ--物的なものじゃなくて」(P90)
という通りで、後期の作品では、その印象は薄くなっても、第1作のこの「ベンスン殺人事件」 では、心理的探偵法一本やりで、ブイブイ言われていたのだろう、と、そんな風に思っていました。
今回読み返してみて、びっくり。
確かに、心理的に犯罪を眺めてはいますし、証拠にとらわれる警察をバカにしきってはいますが、意外や意外、かなり親切に物的証拠もマーカム地方検事に示してくれています。いうほど嫌な奴じゃなくて、意外といい奴じゃん(笑)。
むしろ、物的証拠と心理的証拠のバランスが優れた作品だったのでは、と思いました。
それほど多くはない(少なくもないですけど)登場人物の間で、疑わしい容疑者がくるくると変わっていく様子もなかなかよくできていて、古い作品だからと恐れていたようには退屈しませんでした。
まあ、さすがにファイロ・ヴァンスの垂れる講釈(ペダントリー)は余計だなぁ、とは思いますが、全体として現代でも十分楽しめる記念碑的作品と感じました。
新訳シリーズの次の刊行、まさか3年後ではないですよね!?
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黒猫ルーイ、名探偵になる [海外の作家 た行]


黒猫ルーイ、名探偵になる (ランダムハウス講談社文庫)

黒猫ルーイ、名探偵になる (ランダムハウス講談社文庫)

  • 作者: キャロル ネルソン ダグラス
  • 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
  • 発売日: 2009/10/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
いかがわしい裏路地すらも、勝手知ったる自分の庭。ラスベガスの裏社会ではちょっとした顔の黒猫ミッドナイト・ルーイは、ひょんなことからブックフェアの会場で出版社社長の他殺体を嗅ぎつけた。同じく死体につまずいて第一発見者となったのは、美人広報のテンプル・バー。身体は小さいが頑張り屋の彼女を相棒(飼い主)に、黒猫探偵ルーイが犯人に迫る! 猫と本が事件の鍵を握る、コージーミステリ・シリーズ、第1弾。

猫が探偵というと、日本では赤川次郎の三毛猫ホームズですが、海外でもリリアン・J.・ブラウンの「猫は手がかりを読む」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)で登場したシャム猫ココが有名ですね。
黒猫ルーイも本作「黒猫ルーイ、名探偵になる」でデビューとなったわけですが、原著は1992年発行ですからもう20年選手ですね。シリーズも20作以上になっているそうです。
日本では、このあと、
「黒猫ルーイと死神の楽屋」 (ランダムハウス講談社文庫)
「黒猫ルーイと猫屋敷の怪」 (RHブックス・プラス)
「黒猫ルーイとおてんば探偵」 (RHブックス・プラス)
「黒猫ルーイとロマンス作家の秘密」 (RHブックス・プラス)
「黒猫ルーイと交霊会の夜」 (RHブックス・プラス)
まで翻訳されています。
プロローグがいきなり猫の一人称なので、全編語り手を猫がつとめるのかな? と思ったのですが、第1章に入ると主人公格であるテンプル・バーに視点を据えた普通の三人称になるので、猫視点がちょこちょこ挟み込まれるのは単なるアクセントですね。
というわけで、普通のコージー・ミステリですね。
特徴としては、猫ががんばることと、出版業界が舞台になっていること。この作品では、ラスベガスで開催されるブックフェアの狂騒振りが舞台です。
ミステリとして見た場合、やはり犯人の名前をめぐる考察がポイントなのでしょう。ちょっと日本人には厳しい内容ですが...そして、凶器の解釈(?)はちょっと気が効いていると思いました。
ミステリとしては物足りない部分もありますし、ルーイは活躍するけれど名探偵という趣ではないのが残念ですが、基本的な部分は押さえてありますし(上述のような長所もあります)、働く女性をめぐる人間模様もちゃんと盛り込まれていますので、シリーズが長続きしていったのも納得できます。次作以降も手堅い安心感があるのではないだろうか、と思いました。

ところで、このシリーズを日本で出版していた武田ランダムハウス社って、先月倒産してしまったんですね。
確かに、新刊の何冊かは平台に積まれたままではあるものの、本屋さんの棚から既刊本は消えてしまっているような気がします。
もうこのシリーズ手に入らないのかな?
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災厄の紳士 [海外の作家 た行]

災厄の紳士 (創元推理文庫)

災厄の紳士 (創元推理文庫)

  • 作者: D・M・ディヴァイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/09/30
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
根っからの怠け者で、現在ではジゴロ稼業で糊口を凌いでいるネヴィル・リチャードソンは、一攫千金の儲け話に乗り、婚約者に捨てられた美人令嬢のアルマに近づく。気の強いアルマにネヴィルは手を焼くが、計画を仕切る“共犯者”の指示により、着実にアルマを籠絡していく。しかしその先には思わぬ災厄が待ち受けていた……。名手が策を巡らす、精巧かつ大胆な本格ミステリの快作。

「本格ミステリ・ベスト10 2010」(原書房)第1位。ちなみに、「このミステリーがすごい! 2010年版」では第14位です。
この前に翻訳された「ウォリス家の殺人」 (創元推理文庫)が、「本格ミステリベスト10 2009」(原書房)の第1位(ちなみに、「このミステリーがすごい! 2009年版」では第10位)、さらに前の「悪魔はすぐそこに」 (創元推理文庫)が、「本格ミステリ・ベスト10 2008」(原書房)の第2位(こちらもちなみに、「このミステリーがすごい! 2008年版」では第5位)なので、本格ミステリとして定評のある作家です。
なんですが、オープニングは本格ミステリっぽくありません。結婚詐欺を狙っているかのような青年ネヴィルの視点ではじまります。狙われているのは作家の令嬢アルマ。単なる結婚詐欺ではなさそうな描写もそこかしこにあって、気になります。
ネヴィルの性格が、いかにも軽そうに設定されていて、それはそれで楽しく読めるものの(時代感はあっても、あまり違和感なく読めました)、あれれ? 本格ミステリじゃないんだろうか、と不安に(?)なりますが、大丈夫、途中でしっかり本格ミステリに変わります。
もう一人の視点人物サラは、アルマの姉で、被害者家族(?)の癖のある人物たちをじっくり紹介していきます。
そして発生する事件、ということで、いよいよ本格ミステリの幕開け、です。視点も、ネヴィルとサラから、サラと捜査するボグ警部へ移ります。
登場人物が非常に限られているので、犯人(ネヴィルの黒幕と事件の犯人の2種類の犯人です)をつきとめるのはそんなに難しくはないのですが、本格ミステリらしからぬネヴィルのエピソードすらをも本格ミステリの枠組みに奉仕させている作者の手腕を存分に楽しみました。
ネタバレにならないようぼかした書き方となってしまいますが、手掛かりの使い方には、素直にすごいなー、と感嘆しました。派手なトリックはなくても、十分たのしめるお得な本格ミステリです。
年に一冊ずつ翻訳されていますが、これからも翻訳を続けてほしいです。
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木曜日だった男 [海外の作家 た行]


木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2008/05/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
この世の終わりが来たようなある奇妙な夕焼けの晩、十九世紀ロンドンの一画サフラン・パークに、一人の詩人が姿をあらわした。それは、幾重にも張りめぐらされた陰謀、壮大な冒険活劇の始まりだった。日曜日から土曜日まで、七曜を名乗る男たちが巣くう秘密結社とは。

本書は新訳です。
原題(The man who was Thursday)をそのまま訳したタイトルになっています。
「木曜の男」 (創元推理文庫) を昔読んでいますので、再読です。
ついでに(?)創元推理文庫版の書影もはっておきます。

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

木曜の男 (創元推理文庫)

  • 作者: G.K.チェスタトン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1960/01
  • メディア: 文庫


昔読んだ時には、正直よくわかりませんでした。なんだか読みにくかった記憶だけが残っています。
今度の新訳は、南條さんの訳文がとても読みやすかったですね。なにせ100年以上も前に書かれている作品なので時代は感じさせますが、それでも読みやすい。
昔読んだことでかろうじて覚えているのは、第14章までのストーリー展開(?)だけで、最終章である第15章の記憶がありませんでした。なので、今回読んでびっくり。
第14章までだけでも、相当奇天烈な話なので、「ブラウン神父の童心」 (創元推理文庫) をはじめとするブラウン神父シリーズの作者らしさ満点です。
読んでいて楽しかった。無政府主義者とその反対の立場(何というのでしょうね? 政府擁護者?)の論争からはじまって、捜査官が無政府主義者の秘密結社にもぐりこむ。テロを阻止しようと冒険活劇のはじまり、はじまり。
結社の秘密は途中で見当がつきますが(そのように書いてあります)、「幻想ピクニック譚」と帯には書いてある通り、スリルある展開のなかでスピーディに舞台を移して進んでいく冒険物語に身をゆだねるだけでも十分楽しめます。スリリングなはずなのに、どこかおっとりした風情が漂うのも特長です。
が、本書の真価はたぶんそのあとの第15章にあるのだと思います。「たぶん」というのは、今回読んでみてもやっぱり良く分からなかったからです...作者の思弁、思想が出ているのだと思うのですが...
副題が「一つの悪夢」で、すべてが悪夢のようなもので、まるで夢から醒めたように、サイムが澄み切った心持ちになったラストから、なんとはなしに、破壊や苦しみを経ても、秩序ある安寧を最終的には目指しているような、そんな気がしています。

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僧正殺人事件 [海外の作家 た行]


僧正殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集) (創元推理文庫)

僧正殺人事件 (S・S・ヴァン・ダイン全集) (創元推理文庫)

  • 作者: S・S・ヴァン・ダイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/04/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
だあれが殺したコック・ロビン? 「それは私」とスズメが言った――。四月のニューヨーク、この有名な童謡の一節を模した不気味な殺人事件が勃発した。マザー・グース見立て殺人を示唆する手紙を送りつけてくる“僧正”の正体とは? 史上類を見ない陰惨で冷酷な連続殺人に、心理学的手法で挑むファイロ・ヴァンス。江戸川乱歩が称讃し、後世に多大な影響を与えた至高の一品。

古典中の古典、名作中の名作、僧正殺人事件です。
最近古典の新訳が流行ですが、これもそのひとつ。創元推理文庫は2010年発売ですが、1999年に集英社文庫からでた「僧正殺人事件  乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(3) 」の改稿であると巻末に記されています。
この作品は、小学生か中学生のころに創元推理文庫の旧訳版で読んだきりなのでもうずいぶんたちます。当時非常にどきどきわくわくして読んだ記憶があります。
童謡殺人というアイデアが光る作品で、そこに惹かれていたのだと思います。マザー・グースって、ミステリに似合いますよね。ミステリ的には、同じヴァン・ダインでは「グリーン家殺人事件」 (創元推理文庫)のほうが世評は高いようですが、僧正の方がずっと好きでした。
さて、今回読んでみると、さほどどきどき感はありませんでした。事件の数もかなり盛りだくさんなのに、思ったよりゆったりと物語が進みます。
ヴァン・ダインといえばペダンティズムで知られていますが、本筋とは関係のない薀蓄系の話に筆が割かれるということなので、その分進行が遅れるせいかもしれません。今となっては、このペダンティックな部分が不要に感じられてしまうのは仕方がないように思います。
犯人像にも強烈な印象を覚えていたのですが、わりとあっさり書かれているイメージで意外でした。もっとくどいくらいに書かれているような気がしていたのですが。それでもこの犯人像は現在でも十分通用するインパクトですね。
また、動機も「狂気」で片付けることなく、きちんと普通の(?)動機が用意されているのは、書かれた時代もあるのでしょうが、ミステリとしてみた場合の好感度アップです。
ところで、裏側の帯には「ファイロ・ヴァンスシリーズ新訳刊行スタート!」とありますが、その後出ていませんね。どうしたのでしょうか? この「僧正」の売れ行きが悪かったのでしょうか? 「グリーン家」も読み直してみたい気がするので、ぜひ続けてほしいのですが....

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魔性の馬 [海外の作家 た行]

魔性の馬
ジョセフィン・テイ
小学館

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

  • 作者: ジョセフィン テイ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 単行本


<表紙そでのあらすじ>
「あんた、あいつに瓜二つだ」飲んだくれの役者ロディングがロンドンの街頭で出逢った孤児のファラー。彼はロディングが彼の親戚アシュビー家の行方不明の長男パトリックと間違えたほど、そっくりだった。金に困っていたロディングは、彼を説得して家督相続者である行方不明の兄が戻ってきたという触れ込みで、アシュビー家に彼を送り込んだが…。『時の娘』で世界的な評価を受けた実力派女流作家が、それに先だって発表した異色作。物語の面白さを満喫させる、意外性とサスペンスに満ちたミステリ・ロマン。

文庫ではなく、単行本です。
時の娘」で高名なジョセフィン・テイの作品です。「時の娘」は、ベッド・ディテクティブの古典で、名作中の名作として名高いですが、ずいぶん昔に読んで、あまりぴんと来なかった記憶です。やはり、リチャード三世という題材にあまりになじみがないことがいけなかったのでしょう。
「魔性の馬」は打って変わって読みやすく、おもしろかったです。「時の娘」に挫折した人や、つまらないと思った人にもどうぞ。ジャンルとしては本格ミステリではなく、サスペンスかと思いますが、あらすじの「ミステリ・ロマン」というのがぴったりです。
原題は、Brat Farrar。主人公の名前です。この主人公が、田舎の名家の遺産相続人になりすまそうとする話です。主人公ファラーは、悪人タイプに造型されておらず、読者は感情移入してしまいます。ここがこの作品の最大のポイントかと思います。一方のアシュビー家の人々も、見事にいい人ばかりで、疑いは残っていても、なんとか主人公を信じようとします。ファラーと視点が交互にとられているのが非常に効果的で、醸しだされる緊張感が読みどころ。
途中から、パトリック失踪の真相を探る、という展開になり、倒叙ものっぽく"犯人"ファラーの視点だった物語は、"探偵"ファラーの物語に切り替わります。これもまた楽しい。
とはいっても、本格ミステリのようなギミックがあるわけではなく、非常にあっさりしたものですが、真相をアシュビー家の人たちに明かしてしまうと、自分が偽者であることがばれてしまうというジレンマが物語としては効果的です。
そして迎えるラスト、大団円とでもいえそうな落着で、ちょっと強引だなぁ、とも感じますが、そこはそれ、まさに「ミステリ・ロマン」、ウェルメイドなイギリス作品です。
アマゾンでみると品切れのようですが、どこか文庫で出さないでしょうか? 十分いま読んでもおもしろい良い作品だと思います。

蛇足もいいところですが、作者の名前、テイではなく、ティだと思い込んでいました。恥ずかしい。スペルを見ると、Tey...


<2018.1修正>
カテゴリーが、ずっと日本の作家になっていました。
もちろん、海外の作家です。修正しました。

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