さいごの毛布 [日本の作家 近藤史恵]
<カバー裏あらすじ>
犬の最期を看取る「老犬ホーム」で働くことになった智美。初日から捨て犬を飼うことになってしまったり、脱走事件があったりと、トラブル続きの毎日だ。若い犬を預ける飼い主を批判してオーナーに怒られたり、最期を看取らない飼い主や、子供に死を見せたくないと老犬を預けた親に憤り……。ホームでの出来事を通じ、智美は、苦手だった人付き合いや疎遠な家族との関係を改めて考え直し始める。世知辛い世の中に光を灯す、心温まる物語。
近藤史恵のこの作品、ミステリではありません。
あらすじにもありますとおり、人付き合いが苦手だった(世の中の九十五パーセント近い人が苦手!)主人公智美が、老犬ホームで働くことで成長していくというストーリーです。
その老犬ホームの名前がブランケット。毛布ですね。老いた犬にとって、さいごの毛布。
「この仕事、すごく犬が好きだときついから」
というセリフが、読んでいると折に触れて思い出されるのですが、一方でさいごまで面倒を見ないのが悪い、と簡単に飼い主を断罪してしまわないところがポイントですね。
薄情だなと飼い主のことを思った智美が、
「お客さんの悪口は言わないで」
とオーナーに叱られるシーン(100ページ)も、単に商売だからというわけでもなさそうなことが、次第にわかってきます。
同様に、飼い主が会いに来ない犬のことを
「ノノが可哀想……」といった智美(オーナーからチビちゃんと呼ばれています)にオーナーがいうセリフも考えさせられます。(152ページ)
「可哀想かどうかを決めるのは、いつも傍観者よね」
「犬は自分が可哀想だなんて考えたことないわ。目の前にうれしいことがあったら夢中になって、寂しければ落ち込んで。そのときの感情だけで生きている」
「チビちゃんがノノを可哀想だと決めつけるのは勝手だけれど、それはあなたの感情に過ぎないわ。それで人を裁かないで」
犬の話に加えて、智美だけではなく、ホームのオーナー麻耶子にも、同僚(先輩)の碧にも、それぞれの事情があり、徐々に明らかになっていきます。
これらを通して、智美が成長していく物語となっています。
それにしても、近藤史恵さん、犬がお好きなんですね。
でも、犬にのめりこんで物事を捉えるのではなく、一歩引いたというか、冷静に客観的に、犬や飼い主の事情を眺めているところが作家のすごさなんだろうな、と思いました。