SSブログ

地下迷宮の魔術師 ロンドン警視庁特殊犯罪課 3 [海外の作家 あ行]

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

地下迷宮の魔術師 (ハヤカワ文庫FT)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2013/10/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
午前3時、殺人課のステファノポウラス警部の電話で、ぼくはたたき起こされた。「まっとうな警官なら仕事にとりかかる時間だよ」若い男の死体が、地下鉄ベイカー・ストリート駅の構内で発見されたのだという。すぐに駆けつけて調べてみると、魔法で作られた陶器のかけらで刺されていた。こんな時間になぜ、どうやって地下鉄に入りこんだのか? 捜査を続けるうち、ぼくは古都ロンドンの地下迷宮へと迷いこんでいった……


「女王陛下の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「顔のない魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。

前作「顔のない魔術師」を読んだのが2017年12月なので、約2年半ぶりにシリーズを読みました。

もともとシリーズの設定が、パラレルワールドというか、現代のロンドンに、もう一つの神霊世界(?)のロンドンが二重写しにしている世界観となっているところ、今回はさらに地下世界が広がっているというぜいたくさ!

巻頭にロンドンの地図が掲げられ、各章の章題がロンドンの地名になっています。
これ、在ロンドンのこのタイミングで読んでよかったと思いました。
地名が馴染みのあるものが多く、わくわくして読むことができました。

でも、まさか実際のロンドンの地下鉄の駅やその近くに、地下道や地下室につながる経路は設定されていないでしょうねぇ(笑)。
具体的な駅名が記載されているので、ちょっと確かめに行ってみようかな。でも、仮にそんなところがあったとしても近づけないようになっているんだろうな。
こういうばかばかしい想像を巡らせるのも楽しいですね。
昔ながらの冒険小説的世界に浸れます。

もうひとつこの作品が楽しいのは語り口。
主人公であるぼく=ピーターの余裕のある語り口が魅力ですね。
ファンタジックな作品世界とこの語り口のバランスがなかなかいいです。

ピーター属する特殊犯罪課と普通の捜査課の面々、イギリス鉄道警察、さらにはFBIの特別捜査官まで出てきて捜査陣も賑やかですし、さらに魔術師に、川の女神に、台湾から来た道教の術士(マオイスト)まで登場して、どんどん作品の奥行きが拡がってきているようです。
楽しみ。

楽しみなんですが、シリーズはいまのところ、残すところ
「空中庭園の魔術師」 (ハヤカワ文庫FT)
だけになってしまいました。
原書ベースでは第8巻まで出ているようですので、続巻もぜひぜひ訳してください!


<蛇足1>
「ゲートから手の届くほんの少し先の壁に、外出用のボタンがあった。」(69ページ)
ドアを開ける際、壁に設置してあるボタンを押してから開ける仕組みがかなりあり、そのボタンのことをここでは「外出用ボタン」と訳してあるのですね。
たしかにあのボタン、日本語でなんと呼ぶのでしょうね? 英語ではそのまま Exit Button ですが。

<蛇足2>
ダイニング・クラブというのは、五〇年代から六〇年代にかけて、上品ぶった学生たちが破滅的な恋愛関係や、ロシア人をスパイしたり、現代の風刺作品を発明していないときにおこなっていた余暇の過ごし方だ。(95ページ)
ちゃんと「~たり、~たり」となっていないことを置いておくとしても、この文章わかりにくいですね。
破滅的な恋愛関係、ロシア人をスパイすること、現代の風刺作品を発明することのそれぞれの関係、つながりがわかりません。並列関係なのでしょうか? やはりちゃんと「~たり、~たり」を守った日本語にしておけばもう少しわかりやすくなったのではと思います。
金子司さんの訳は個人的にはとても読みやすいと思っているので、ここは少々残念です。

<蛇足3>
「お茶でもどうです? ヴァレンカのお茶の腕前はじつに信頼できますぞ。レモン入りのがお好みだとすればですがね」(102ページ)
うわぁ、イギリス人らしい嫌味たっぷりなセリフだ、と笑ってしまいました。
ヴァレンカというのは、スラヴ系のなまりがある、ロシア人かウクライナ人だろうとされている住み込みの看護婦です。
イギリスでは基本的にレモンティーを飲みませんので、このセリフの嫌味がエスカレートしますね(笑)。
このあと
「ヴァレンカが紅茶を運んできた。ロシア流に、ミルクは入れずにレモンを添え、グラスで出された。」(104ページ)
というシーンが続きます。
あ、ロシアン・ティーというと日本ではジャムを入れた紅茶のことを指しますが、あれはおそらく日本だけで、イギリスではロシアン・ティーはレモンティーを指します。

<蛇足4>
相手がいかがわしい上流階級を演じるつもりなら、こちらもコックニーなまりの警官の一線を越えるつもりはない。(102ページ)
イギリスに階級が根強く残っていることを示すエピソードですね。
なまりや使う単語で階級が知れます。「イングリッシュネス」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で触れられている通りですね。

<蛇足5>
「国立近現代美術館テイト・モダンのお膝元となった場所に。この建物は有名な赤い電話ボックスを設計したのと同じ男によって、もともとは石油を燃料とした火力発電所として建設された。」(151ページ)
テート・モダンと電話ボックスが同じ人の設計とは知りませんでした。(余計なことでですが、電話ボックスだと日本語では設計といわないような気がしますね......)
調べてみると、サー・ジャイルズ・ギルバート・スコットという人のようです。

<蛇足6>
主人公であるぼくは、MRI検査を受けてこう書いています。
「ぼくはこの機械に慣れてきたに違いない。磁気コイルがハンマーのように打ちつける音にもかかわらず、ぼくはスキャンの最中にすっかり眠りこんでいた。」(402ページ)
MRI。海堂尊のバチスタシリーズでいう「がんがんトンネル」ですね。
たしかにうるさいことはうるさいのですが、実はぼくも受けたとき寝てしまった記憶が......
意外とうるさくても眠れるものですよ(笑)。


原題:Whispers Under Ground
作者:Ben Aaronovitch
刊行:2012年
翻訳:金子司




nice!(17)  コメント(0) 
共通テーマ: