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北緯43度のコールドケース [日本の作家 は行]


北緯43度のコールドケース

北緯43度のコールドケース

  • 作者: 伏尾 美紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/10/06
  • メディア: 単行本

<帯から>
私はもう怯まない
この仕事を選んでよかったと思えるように。
博士号取得後、とある事件をきっかけに大学を辞めて30歳で北海道警察に入り、今はベテラン刑事の瀧本について現場経験を積んでいる沢村依理子。ある日、5年前に未解決となっていた誘拐事件の被害者、島崎陽菜(ひなた)の遺体が発見される。犯人と思われた男はすでに死亡。まさか共犯者が  捜査本部が設置されるも、再び未解決のまま解散。しばらくのち、その誘拐事件の捜査資料が漏洩し、なんと沢村は漏洩犯としての疑いをかけられることに。果たして沢村の運命は、そして一連の事件の真相とは。


2023年1月に読んだ5冊目の本です。
単行本で、第67回江戸川乱歩賞受賞作。
先日の桃野雑派「老虎残夢」(講談社)と同時受賞でした。

新人作家の作品にこういうことをいうのは申し訳ないとは思うのですが、非常に読みにくかったです。
個人的には、乱歩賞史上最高の読みにくさ。巻末の選評をみても、選考委員も揃って読みにくいと指摘しています。
「特に序盤、書き方がちょっと読者に不親切すぎて首を傾げたくなった」(綾辻行人)
「整理をしてほしい。順番、内容を整理すれば、このお話、ずっと読みやすくなる」(新井素子)
「惜しむらくは小説としての体裁が整えられていない。」(京極夏彦)
「最も読みにくい作品」「警察小説としての部分に新鮮味はなく、本筋や時系列をいたずらにわかりにくくしているだけで、全部不要であると思いました。」(月村了衛)
「一番小説が下手でした」(貫井徳郎)
応募原稿の段階から、受賞が決まって刊行されるまでのあいだに修正されているはずだと思うのですが、それでも読みにくい。

ついでに言っておくと、タイトルも今一つ。
未解決事件を扱っているので、コールドケースはまあよいとしても、北緯43度というのが北海道を舞台にしているからというだけの意味しかないというのはちょっと困りものではないでしょうか。
応募時点のタイトルは「センパーファイ ──常に忠誠を──」だったそうで、こちらもピント外れ。

選考委員はミステリとしての謎や真相を誉めています。
実はこの部分も、着眼点はおもしろいと思うものの、全体を通してみると無理が多すぎて、ありかなしかと聞かれたら、なしと答えざるを得ないかなと思います。
また最後の対決シーンもあっけなく、不満が残ります。

とこう書いてしまうと、ではこの作品はつまらなかったのですね、と言われそうですが、そうではない。つまらなくはないのですよ、決して。
読みにくいのだけれど、物語の牽引力はありますし、登場人物もカラフルです。
読みにくさの主因である詰め込みすぎという部分が、不思議な魅力を放っているのです。
未整理という部分はなんとかしてもらいたかったとは思いますが、この小説に盛り込まれている数多の物語の要素が組み合わさった様子は、ある意味壮観です。
仕上がりは決して綺麗なものではなく、いびつではあるのですが、一大建造物が構築されたとでも申しましょうか。
作者の力、熱意にねじ伏せられた、ということなのかもしれません。
この作者の別の作品を読んでみたいですね。



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老虎残夢 [日本の作家 ま行]


老虎残夢

老虎残夢

  • 作者: 桃野 雑派
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/09/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

<帯から>
最侠のヒロイン誕生!
湖上の楼閣で舞い、少女は大人になった。
彼女が求めるのは、復讐か恋か? <表側>

私は愛されていたのだろうか?
問うべき師が息絶えたのは、圧倒的な密室だった。
碧い目をした武術の達人梁泰隆。その弟子で、決して癒えぬ傷をもつ蒼紫苑。料理上手な泰隆の養女梁恋華。三人慎ましく暮らしていければ、幸せだったのに。雪の降る夜、その平穏な暮らしは打ち破られた。
「館」×「孤島」×「特殊設定」×「百合」!
乱歩賞の逆襲が始まった! <裏側>


2023年1月に読んだ4冊目の本です。
単行本で、第67回江戸川乱歩賞受賞作。
このときは伏尾美紀の「北緯43度のコールドケース」(講談社)と同時受賞です。

引用した帯に
「館」×「孤島」×「特殊設定」×「百合」!
とあるように盛り沢山です。
出だしがなんだか読みづらかったのですが、途中から勢いがついて読み進みました。

ミステリ的な部分は、巻末の綾辻行人の選評が簡潔です。
「外功、内功、軽功を鍛錬した武術の達人たちが居揃う中で発生する変死事件。現場は密室的な状況にあった湖上の楼閣。」
人間離れした技を持つこの武侠の達人たちがいる世界というのが特殊設定ですね。
密室状況が密室でなくなってしまう技を持っていたりするわけですから。

ちょっともたもたする部分もありますが、この技の取り扱いは面白かったですね。
ネタバレにならないようぼかして書きますが、キーとなる技は事前に読者にもきちんとさらしてくれているところとか、技のオン、オフの扱いとかですね。
ここはミステリとして重要なポイントになると思いますが、更にポイントとなるのが謎解きシーンで、多重解決と言ってもよいような展開を見せてくれます。

最後に突き止められる真相は、非常にシンプルなものになっているので、すぐに分かったとか、あるいはがっかりという読者もいらっしゃるかもしれませんが、個人的には感心しました。
通常特殊設定のミステリの場合、特殊設定だからこそという謎解きが用意されます。
たとえば特殊設定だから密室が構成できた。だから犯人は〇〇だ! あるいは特殊設定だから〇〇には密室が作れない、などという感じです。
ぼかした言い方がうまくできるか自信がないので、ネタバレを避けたい方は次の行あきのところまで飛ばしていただければと思うのですが、そうやって特殊設定を利用して犯人を絞り込んでいくのが通例かと思うところ、すなわち、AでもないBでもない、だからCだ、となるところ、この作品の場合はAでもBでもCでも不可能状況を打破できるというかたちに持ち込んでいるのが面白いと感じたのです。

もう一つ、南宋を舞台としていることから、物語の背景が壮大であることも大きなポイントだと思いました。
広大な物語を背景に、非常に狭い範囲での事件を描く。
このあたりもこの作品の面白さなのだと感じます。
被害者が伝えようとしていた奥義とは何かというのも、この作品も見どころの一つで、その点と犯人が犯行を武術の達人たちが揃うこの湖上の楼閣で行おうとした理由とがきちんとリンクしているのがよかったです──といいつつ、この理由は明記されていないのでぼくの推察なのですが。

この作品を読んだだけですが、どうもこの作者なんか変なこと(褒め言葉として)をしてくれそうな気がします。


<蛇足1>
「断袖や磨鏡は珍しくないが、自分達の関係は、江湖では近親相姦に等しい。」(191ページ)
教養のなさを露呈してしまいますが、断袖も磨鏡もわかりませんでした。
出てきたところで調べてしまいましたが、ちゃんと210ページに説明が出てきます。
漢の哀帝と董賢の断袖のエピソード、結構微笑ましいというか、ロマンティック?なエピソードですね。

<蛇足2>
「有名な孫子の一節にも、次のようにある。
 故に其の疾きこと風の如く、其の徐(しず)かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如く、知りがたきこと陰の如く、動くこと雷霆の如し、郷を掠めて衆を分かち、地を廓(ひろ)めて利を分かち、権を懸けて動く。」(226ページ)
教養のなさの露呈第2弾ですが、武田信玄しか思い浮かびませんでした......

<蛇足3>
「水清ければ魚棲まずとは、孔子が口にした言葉である。」(244ページ)
またもや教養のなさを露呈ですが、この文言は歴史に授業で松平定信のところで出てきた狂歌でしか知りませんでした。


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ファイナル・ゼロ [日本の作家 な行]


ファイナル・ゼロ (集英社文庫)

ファイナル・ゼロ (集英社文庫)

  • 作者: 鳴海 章
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
南米のコカインを駆逐せよ! ホワイトハウスから命を受けた退役将軍バーンズは、作戦の遂行を宿敵にして最良の友、那須野治朗に託す。那須野はキューバへ飛ぶが、愛機「ネオ・ゼロ」は敵に爆破されてしまう。絶体絶命の窮地の中、那須野とチーム・ゼロのメンバーは賭けに出る。伝説のパイロット、ぶれない男の生きざまの物語、ついにクライマックス。発表から25年冷めない熱。シリーズ感動の最終話。


2022年1月に読んだ3冊目です。
鳴海章の復刊されたゼロ・シリーズ第4弾にして最終作。
「ゼロと呼ばれた男」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
「ネオ・ゼロ」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
「スーパー・ゼロ」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
に続く作品です。
このあと「レジェンド・ゼロ1985」 (集英社文庫)という作品が2021年に出版されていますが、シリーズなのかどうか確認していませんが、タイトルからして前日譚という位置づけなのかなと考えています。

ちょっと引用したあらすじは、先までストーリーを明かしすぎですね......
「ネオ・ゼロ」をめぐる攻防は物語の大きな要素なのに。

今回は部隊がほぼほぼ中南米で、目標はペルー。
この物語では、ペルーの大統領はフジタ。両親が第二次世界大戦の直前に熊本からペルーに入った日系一世で本人は日系二世(85ページ)。これ、どうみても実在のフジモリ大統領を思い起こさせますね。
「反政府勢力の資金源であるコカイン市場を席巻し、ゲリラ組織を根本から叩き、次いでコカイン売買で得た金を軍の強化と政治基盤の拡充にあてる。さらにドルを獲得して国内市場に投下することによってインフレに歯止めをかけ、最終的には、安定した財源をベースにエネルギー資源開発を進めることまでを目的としている。」(87ページ)
描かれる政治手法も近いような。もっともコカイン・ビジネスにまで手を染めていたとは思いませんが。
そして、そのフジタと手を組んでいるのが日本商社の財閥系総合商社。こちらも利権があるとはいえ、コカインまでやるとは思えませんが。

主要人物として、那須野(ゼロ)にあこがれていたという元自衛官が出てきます。
彼のキャラクター、結構気に入ってしまいました。
那須野の口から「好きな女」の話を聞きだすという大手柄(!)。
例の亜紀の写真を持ち歩いているというのですから、
「ずっと持ち歩いているんですか?」
「捨てる理由がなかった」(267ページ)
那須野もなかなかです。
「やはり私はあなたを追いかけて正しかったと思いますよ」(419ページ)
なんということもないセリフですが、物語終盤にふさわしくていいですね。

エチケットとしてエンディングには触れないこととしますが、ゼロシリーズの終着点として、ああ終わったんだな、という感慨を抱きましたが、同時に、このエンディングでよいのだろうかと思いました。
ゼロと呼ばれた那須野に似つかわしいといえば似つかわしいのですが、一方で、まったく似合っていないとも言えます。



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虚ろな十字架 [日本の作家 東野圭吾]


虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)

  • 作者: 圭吾, 東野
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた――。


2023年1月に読んだ2冊目の本です。
東野圭吾「虚ろな十字架」 (光文社文庫)
上で引用したあらすじをご覧いただいてもわかると思いますが、死刑問題を扱っています。そう読みました。
もやもやしております。

主人公中原が被害者家族であるので、被害者寄り≒死刑賛成のトーンが強くなっていますが(必ずしも被害者家族であるから死刑賛成とは限らないとは思いますが、この作品ではそうなっています)、両論書かれています。

「そして蛭川も真の意味での反省には、とうとう到達できないままだった。死刑判決は彼を変わらなくさせてしまったんです」「死刑は無力です」(165ページ)
死刑囚の弁護をした弁護士のコメントです。
死刑判決を受けたがためにかえって自らのしたことに向き合わなくなってしまうという例を挙げているのですが、衝撃的な言葉です。

一方の死刑推進派は、主人公の妻で第二の事件の被害者である小夜子が(作中では)代表ですね。
「遺族は単なる復讐感情だけで死刑を求めるのではない。家族を殺された人間が、その事実を受け入れるにはどれほどの苦悩が必要なのかを、どうか想像していただきたい。犯人が死んだところで被害者が蘇るわけではない。だが、では何を求めればいいのか。何を手に入れれば遺族たちは救われるのか。市死刑を求めるのは、ほかに何も救いの手が見当たらないからだ。死刑廃止というのなら、では代わりに何を与えてくれるのだと尋ねたい。」(154ページ)
『人を殺した人間は、計画的であろうとなかろうと、衝動的なものだろうが何だろうが、また人を殺すおそれがある。それなのにこの国では、有期刑が下されることも少なくない。一体どこの誰に、「この殺人犯は刑務所に〇〇年入れておけば真人間になる」などと断言できるだろう。殺人者をそんな虚ろな十字架に縛り付けることに、どんな意味があるというのか。
 懲役の効果が薄いことは再犯率の高さからも明らかだ。更生したがどうかを完璧に判断する方法などないのだから、更生しないことを前提に刑罰を与えるべきだ。』(174ページ)
小夜子の遺稿の記載です。
タイトルの「虚ろな十字架」はここから取られています。

「それぞれの事件には、それぞれにふさわしい結末があるべきだと思うのです。」(158ぺージ)
上で引用した弁護士のコメントで、おそらくこう考えるしかないのだろうと思うものの、ではどうすればいいのかという答えがないのが難しいですね。

冒頭もやもしていると書きましたが、死刑問題というのは簡単に結論が出せるようなものではない難しい問題なので、これ自体に方向性が(作中で)打ち出されないことにもやもやしているのではありません。
描かれている事件の構図が、死刑問題というテーマとマッチしていないように思えたことがもやもやしている点です。
というのも......
中原が調査を進めるうちに小夜子の事件が意外な様相を見せる、というのがミステリとしての展開なわけですが(これくらいは明かしてしまってよいと思います。正直いうとさほど以外ではありませんが...)、この真相は死刑問題を考えるにあたりふさわしいものだったのかどうか。
金目当てではなかったとはいうものの、つまるところはあくまで利己的な犯行に思えてしまったんですよね。この題材であれば、もともと死刑になるような犯罪ではないとはいえ(ここも死刑問題の観点から議論の余地があろうかとは思いますが)、もっと犯人サイドに同情の余地(情状酌量の余地というべきでしょうか?)がある犯行であるべきではないでしょうか? 
ぼかした言い方をしますが、過去の出来事の性質がまさに同情の余地のあるものであるだけに、余計そう考えてしまいます。
死刑問題そのものが真相への目くらまし、というかたちにもなってしませんし、もやもやする所以です。


<蛇足>
「俺と君の連名にしてあるから」(122ページ)
史也が妻の花恵にいうセリフで、史也が小夜子の両親に宛てて書いた手紙が続くのですが、連名の手紙に「義父」という表現が出てきてあれっと思いました。
義父というのは完全に史也視点で、花恵の視点がないからです。
でもこういう場合(連名のそれぞれからみた呼称が違う場合)は何と書くがよいのでしょうね?


<2023.8.3追記>
2014年週刊文春ミステリーベスト10 第5位です。


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大聖堂の殺人 The Books [日本の作家 周木律]


大聖堂の殺人 ~The Books~ (講談社文庫)

大聖堂の殺人 ~The Books~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
すべての事件を操る数学者・藤衛に招かれ、北海道の孤島に聳え立つ大聖堂を訪れた宮司百合子。そこは、宮司家の両親が命を落とした場所だった。災禍再び、リーマン予想の解を巡り、焼死や凍死など不可解な殺人が発生する。しかし、藤は遠く離れた襟裳岬で講演の最中だった。大人気「堂」シリーズ、ここに証明終了!


2023年1月に読んだ最初の本です。ようやく今年読んだ本に辿り着きました。
周木律の堂シリーズ最終作、「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)です。
ようやく最終作ですよ。長かったなぁ。

シリーズ最終作にふさわしく(?)、舞台は因縁の(?)孤島。

このシリーズ、「教会堂の殺人 ~Game Theory~」 (講談社文庫)をワーストとして、後半読むのがつらくなっていたんですよね。

その意味では、本書「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)も読むのがつらかったですね。

数学を中心とした衒学は鬱陶しいだけだし、天才と称される登場人物は単にイカれているだけだし(天才となんとかは紙一重といいますが、その意味では天才ではなく天才と紙一重の方)、トリックはバカバカしいし、エンディングはめちゃくちゃだし(トリックとエンディングが整合しているのか気になっています)。
シリーズを通してみても、作中であれほど天才だ、天才だという藤衛がちっとも天才に見えないのは致命的だと思います。

伊弉諾(イザナギ)や伊弉冉(イザナミ)まで持ち出して仰々しく語る日蝕のエピソード(184ページ~)もばかばかしくて、いったいいつの時代の未開の地の話なんだと思いますし、
「襟裳岬において、太陽すら欠けさせ、まるで神のごとき力を見せつけた、藤衛が」(397ページ)
というに至ってはジョークにしても出来が悪すぎて戸惑うほどです。

「上手に使えば、身体を意のままにすることなど訳はない。」(484ページ)
「彼らを導き得るのも、すべては彼らが私の期待どおりに聡明だったからだよ。」(485ページ)
というところも、凡人であるこちらにすら明らかな内容なので笑うしかないですよね。

数学をめぐる議論の結論は、百合子が出すのですが、
「数学は、結果ではない。
 結果は、ただの知識だ。それよりもむしろ、その知識に至る過程において人間が、人間たちが必死に生み出していく叡智、言い換えれば無限の想像力にこそ、真価がある」(596ページ)
というのでは、少々凡庸にすぎはしないかと。
「数学とは、その無限に続く道のりの踏破であり、まさしく世界の発散そのものだ。決してただ一点に収束させ得るものではない。そのための努力が人々により続けられる限り、知性が神に負けることも、ないのだ。」(597ページ)
というと少し印象は変わりますが、光の当て方が変わっただけで、凡庸から離れた地点に到達したとは言えないでしょう。

となると、これはダメでしたね、とポイっと投げやると思われるかもしれませんが、実はこの「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)を読んでいて、シリーズを閉じてやるんだ、という作者の気迫にちょっと感動してしまったんですよね。

正直作中の藤衛は天才だ、天皇だ、神だと言われているものの、到底神の領域には到達できない単なる狂人ですが(作者の意図に反して、でしょうね)、作者は物語世界の神として君臨し、すべてを統べるという意思をみなぎらせています。
作中に見られる様々な要素も、タイトルも、副題も、果ては作者のペンネームに至るまで、ありとあらゆるものを取り込んで、シリーズを仕立て上げようという蛮勇は、称賛するしかないと思います。
ちょっとゆがんだかたちではありますが、ミステリにおける稚気を存分に発揮したシリーズ、と言える気がしました。


最後にシリーズのリストを。
「眼球堂の殺人 ~The Book~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「双孔堂の殺人 ~Double Torus~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「五覚堂の殺人 ~Burning Ship~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「教会堂の殺人 ~Game Theory~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)




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怪談 [日本の作家 柳広司]


怪談 (講談社文庫)

怪談 (講談社文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
残業を終え帰路を急ぐ赤坂俊一が真っ暗な坂道をのぼる途中、うずくまって泣いている女を見かけた。声をかけると、女はゆっくりと向き直り、両手に埋めていた顔をしずかに上げた──その顔は(「むじな」)。ありふれた現代の一角を舞台に、期せずして日常を逸脱し怪異に呑み込まれた老若男女の恐怖を描いた傑作6編。


2022年12月に読んだ9冊目=最後の本です。
「雪おんな」
「ろくろ首」
「むじな」
「食人鬼」
「鏡と鐘」
「耳なし芳一」
の6話収録。

タイトルにも明らかなとおり、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「怪談」を踏まえた短編集です。

冒頭の「雪おんな」を読んで、テイストに感心してしまいました。
”怪談” と呼ぶには怖くなさすぎるのですが、八雲の「怪談」のテイストとはがらりと変わったミステリ世界を構築しているので。
雪おんなをベースにしていること自体を有効に活用しているように思えます。
ただ、ミステリとして捉えるとあまりにアンフェアな感じがするのが難点です(特に29ページの最終行にはひっかかりを覚えます)。

一転して「ろくろ首」は、ミステリ調の話をラストで怪談テイストに染めてみせる作品。
怪談とミステリというと、カーやマクロイの作品を連想する方も多いと思いますが、それらとは違った行き方なのが印象的でした。

「むじな」はのっぺらぼうなんですね。
第3話ともなるので、ミステリと怪談を行き来する物語であることを前提として読者が読むことを意識して書かれているのだと思いますが、このオチのつけ方は常套的すぎるのが難点でしょうか。

「食人(しょくじん)」という単語がありますが、「食人鬼」は「じきにんき」と読むのですね。
ミステリで食人といえばある一定の作風が思い浮かぶのだと思いますし、それを思わせるような設定で捜査にあたる所轄の巡査の視点で進んでいくのですが、思わぬところに着地してびっくりしました。間違っても「ニンマリしました」と言ってはいけませんね。

「鏡と鐘」はボランティアで不用品を募集しているというHPを勝手に開設され全国から宅配便が送られてきてしまうという発端でスタートしますが、怪談になりそこなった話のように感じられました(いちばん怖いのは人間だ、というのも怪談だとすれば怪談ですが)。その分現実の話として面白かったです。

「耳なし芳一」はライブハウスで人気を掴んだ若者が陥る怪しい都市伝説のようなものが扱われていますが、これは現実と怪談が闘う話なのでしょうか?
怪談サイドの話の背景があまり明かされないがかえって怖いです。
しかし、平家物語の文言をアレンジした曲って、売れますかね?

全体として、怪談とミステリの間を行ったり来たりすることを前提に楽しむ連作という印象を受けました。
オリジナルの(?)小泉八雲の「怪談」は子供の頃に子供向けで読んだだけなので、大人の目で読みなおすのがよいかも、と思いました。




タグ:柳広司
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無防備都市 禿鷹II [日本の作家 逢坂剛]


無防備都市 (文春文庫―禿鷹の夜2)

無防備都市 (文春文庫―禿鷹の夜2)

  • 作者: 逢坂 剛
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/01/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ヤクザにたかり、弱きはくじく、冷酷非情な刑事が帰って来た! 彼にかかれば、上司もキャリアも関係なし。警察組織を食い荒らし、南米マフィアを翻弄し、さらには関係を持った女性をも平気で見殺しに――。圧倒的存在感で描かれた悪漢、神宮署生活安全特捜班のハゲタカこと禿富鷹秋の非道ぶりをご覧あれ。


逢坂剛の悪徳警官もの禿鷹シリーズ第2作です。
このシリーズは新装版が出ています。
前作「禿鷹の夜」 (文春文庫)(感想ページはこちら)と違い、amazonで旧版のものを見つけたので、上の書影は旧版のものです。
新装版はこちら ↓。
無防備都市 禿鷹II (文春文庫 お 13-20)

無防備都市 禿鷹II (文春文庫 お 13-20)

  • 作者: 逢坂 剛
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/08/03
  • メディア: 文庫


主役である禿富が前作比パワーアップしていますね。
前作では、恋人の敵を討つ、というわかりやすい動機を禿鷹は持っていたのですが、それがなくなった今作では禿鷹がどういうやつなのか本当にわかりません。
普通だと、こういう人物を主役に据えた物語って、楽しめないような気がするのですが、この禿鷹シリーズは違いますね。ぐんぐん読み進んでしまう。

作中で、主要登場人物の一人である監察官が考えます。
「その一方で、松国は禿富に対してある種の畏敬のようなものを、感じていた。禿富の中に、自分自身がついに持ちえなかった貴重な資質を、見出したのだった。
 自分が、よくも悪くも模範的な警察官の一人であり、禿富がその対極に位置する悪徳警官だということは、だれの目にも明らかだろう。
 にもかかわらず、松国は心のどこかで禿富の生き方をうらやましく感じ、あこがれている自分を意識するのだ。」(438ページ)
ここで言われているのは、自分の思い通りに何事も扱ってしまうというだけではなく、なんだかわからないけれど、筋が通っているというのか、傍若無人ではあるけれどもどこか信じられるところがあるというのか、そういう感じであり、不思議な感覚に包まれます。

とはいえ、決して禿富だけで持っている物語ではありません。
マフィア・スダメリカ(略称マスダ)との闘いが全体を通して底流ではあるのですが、その過程で描かれるヤクザにも注目してしまいました。
渋六興業の面々も、魅力的に感じられました――禿富と比べるからかもしれませんが(笑)。
悲劇のヒロイン役を割り振られているバーのママも、よくある造形ではあるものの、しっかり印象に残りました。
ストーリー展開が少々乱暴なところがありますが(暴力シーンが多いという意味ではなく、物語の建付けが乱暴という趣旨です)、しっかり楽しむことができました。
シリーズの今後も楽しみです。





タグ:禿鷹 逢坂剛
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靴に棲む老婆 [海外の作家 エラリー・クイーン]


靴に棲む老婆〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

靴に棲む老婆〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/12/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
製靴業で成功したポッツ家の女主人コーネリアには子供が6人いる。先夫の子3人は変人ぞろい、現夫の子3人はまともだがコーネリアによって虐げられていた。ある日、名誉毀損されたと長男が異父弟に決闘を申し込んだ。介添人を頼まれたエラリイは悲劇を回避するため一計を案じる。だがそれは、狂気と正気が交錯する恐るべき連続童謡殺人の端緒に過ぎなかった。本格ミステリの巨匠、中期の代表作が新訳で登場。


2022年12月に読んだ7冊目の本です。
ハヤカワ文庫のエラリー・クイーンの新訳はライツヴィルものが先行していましたが、災厄の町(ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら)の後、「フォックス家の殺人」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)の前に書かれた本書「靴に棲む老婆」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)が出ました。
記憶力が悪い癖に、できれば刊行順に読みたいと思ってしまうのでとてもありがたいです。

この「靴に棲む老婆」、最初の出会いは児童向けの本でして、どういうタイトルだったかは忘れてしまいましたが、図書館で借りて読みました。
大人向けとしては、タイトルが異なりますが「生者と死者と」 (創元推理文庫)で読んだことがあります。

まあ、例によってほとんど何も覚えておらず、覚えていたことといえば、舞台が靴の形の家(!)だったことと、童謡殺人であったことくらいでしたが、なぜか子供のころからこの作品は好きだった記憶。
今回の新訳で読み返してみて、何が驚いたと言ってエンディングです。
えっ? こういう話だったの?
エラリー・クイーン、色男の本領発揮、ですね。
エラリー・クイーンの登場する作品についてとても重要なエンディングなのに、覚えていなかった(笑)。これを忘れてしまっていたなんて、われながら、いったいどうしちゃったのでしょうか?

さておき事件の方は、富豪一家のなかの連続殺人というかたちで、手堅いです。
拳銃のすり替えのせいで起こる、決闘中の死亡。誰が拳銃をすり替えたのか、という謎の設定が魅力的です。

それほど多くない登場人物の中で連続殺人が起こりますので、犯人の意外性には乏しくなりがちかと思いますが、この作品は流れがよいと思いました。
マザーグースを彷彿とさせる場面が多々ある点も、一種のミスディレクションとして機能しているように思えました。

残りの作品も、ジャンジャン新訳で出してもらいたいですね。

<蛇足1>
「ベッドにもぐりこむ前に、プロクルステスのものじゃないかどうか、細かく調べますから...」
「だれだ、それは」
「ギリシャ神話の強盗で、よくベッドの大きさに合わせて被害者の体のはみ出した部分を切り落としたんですよ」(124ページ)
恐ろしい強盗ですね。しかし、わざわざ殺してから切る理由がわかりませんね。

<蛇足2>
「エラリイは猫のように眠りに落ち、人間のように目を覚ました。」(125ページ)
「猫のように眠りに落ちる」おもしろい言い回しですが、猫が寝入るときってどんな感じなんでしょう?

<蛇足3>
「ヴェリー部長刑事の妻は、夫の大きな足のためにマスタード入りの湯を用意し、アスピリンと愛情をたっぷり与えてベッドに送り込んだ。」(287ページ)
マスタード入りの足湯ですか......足の疲れに効くのでしょうか? いわゆる民間療法なのかな?


原題:There was an old woman
作者:Ellery Queen
刊行:1943年
訳者:越前敏弥




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光媒の花 [日本の作家 道尾秀介]


光媒の花 (集英社文庫)

光媒の花 (集英社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界──。認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束……。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。第23回山本周五郎賞受賞作。


2022年12月に読んだ6冊目の本です。
山本周五郎賞受賞作とのことですが、山本周五郎賞って地味ですよね......あまり知られていない気がします。

目次を見ると、第一章、第二章とあるので、長編として捉えられることを企図していると思われますが、読んでみた印象は連作短編集です。
登場人物の一部が重なっていく形の連作ですが、ピュアなリレー形式というわけでもなく、また輪になって閉じるというかたちでもありません。ただ、最終章ではいままで出てきた人物たちが顔を出します。
ああ、そこを繋げるのか、あるいは、次はその人物の物語を紡ぐのか、とさすが道尾秀介と言いたくなるようなつながり方をしていく物語になってはいるのですが、非常に緩やかなつながりのため、少々不安定な作品世界のようにも思えました。
これは、この連作長編を貫くアイデアが、「光媒」とタイトルにもあるように、かそけきつながりであるから、だと思えます。なにしろ、虫媒や風媒よりも遥かにはかなそうな「光媒」ですから。
それであるがゆえに最終章の仕上がりは、解説で玄侑宗久が指摘しているように「強引な円環づくり」にも思われます。

「光ったり翳ったりしながら動いているこの世界を、わたしもあの蝶のように、高い場所から見てみたい気がした。すべてが流れ、つながり合い、いつも新しいこの世界を。どんな景色が見られるだろう。泣いている人、笑っている人、唇を嚙んでいる人、大きな声で叫んでいる人――誰かの手を強く握っていた李、何かを大切に抱えていたり、空を見上げていたり、地面を真っ直ぐに睨んでいたり。」(284ページ)
最終章におけるある登場人物の感想(感慨?)ですが、ここで、光媒ではなく蝶媒でよかったのでは?と思ってしまったりもしました。
玄侑宗久による見事な解説を読んだ今では、光媒である意味を理解したつもりではありますが。

ミステリ好きの立場からいうと、第一章からどんどん(わかりやすい)ミステリ味が薄くなっていくことが少々残念ではありますが、この点もテーマに寄り添った物語展開故なのだと思います。




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捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 [日本の作家 か行]


捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社文庫)

捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社文庫)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃は元アイドルという経歴のせいでお飾り扱い。天才心理学者草辻蓮蔵とFBI出身の鬼才深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれてしまうことに。初めて挑む密室殺人事件捜査は一体どうなる!? 「小説でしかできないことをやりました」と著者自ら語る傑作初長編。


2022年12月に読んだ5冊目の本です。
帯には
「ミステリ漫画界からの新しい才能!」「記念すべき初小説!」
という文字があり、「Q.E.D.」や「C.M.B. 森羅の博物館」などのシリーズで楽しませてくれているマンガ家加藤元浩による長編ミステリ。
マンガを追いかけているので、この初小説にも期待していました。

まず、主人公である七夕菊乃の設定がポイントなんだと思います。
元(地元)アイドルで、美形で、運動能力も抜群で、行動的で。これ、水原可奈&七瀬立樹ラインの人物設定ですね。絵が浮かびます。
でも、文庫カバーの絵は、加藤元浩自身のものではないのですよね。
このシリーズでは小説家として振る舞う、ということかもしれませんし、後進に道を譲る、ということなのかもしれません。大人(たいじん)ですね。

この菊乃が語り手となって物語は進んでいくのですが、この語り口がちょっと馴染みづらい。
自分のことはわからないとよく言いますが、菊乃も
「美人とかモテてるとかの自覚がまったくない」(39ページ)
と評されたりしています。こう言われているのを聞きながら、
「よくは分からないが、二人が仲良くしていたので、深く考えるのはやめにした。」(860ページ)
と続くのですね。これ一人称で語るのはつらくないでしょうか?
さらに、菊乃の設定は、鈍いだけのワトソン役というわけではなく、諸々気づくことは気づいていくようになっています。こういう設定の人物を視点に据えるのは、見抜けること、見抜けないこと、読者に知らせたいこと、知らせたくないことの線引きを考えると、とても難しいのではないかと思います。
そんな菊乃ですが、自分の気持ちも含めて、説明しすぎています。
「内心、大はじゃぎだ。捜査を大ベテランから学べる絶好の機会でもある。もっとも伏見主任にしてみたら新人のお守りだろうが。」(209ページ)
確かにその通りなんだろうけれど、こう書かれてしまうと読む側は白けてしまう部分が出てきますよね。なんだか若い新人刑事が語り手というより、世知に長けたおじさん・おばさんみたいな印象を受けてしまいます。
またシリーズの導入として背景の説明が必要だから、ということかとは思うのですが、前置き的な部分が長く、なかなか本題の事件にはいらない。162ページでようやく、という次第です。

そしていよいよ語られる事件の内容が......
これ、犯人(や物語の大枠)の見当がつかない読者、いるでしょうか?
細かいトリックが、新奇性はないものの、ふんだんに盛り込まれていて楽しいのですが、読者の方が先に全体を見通してしまっているので、つらいですね。

印象論になって恐縮なのですが、意外なことに、全体が古めかしい。
長々とした導入部もそうですし、犯人の設定もそう。
初小説ということで意気込まれたのでしょう、いろんな要素を盛り込みすぎていて窮屈な感じもそうですね――たとえば警察の内部の確執などは、このシリーズ第一作では菊乃は気づかなかったことにして、実は舞台裏にこういう確執があった、とシリーズの続刊で明かすという展開にした方がすっきりしたと思います。
懐かしい雰囲気とさえ、言ってしまってよいかもしれません。

期待したのと違う方向に行ってしまっている感じはありますが、加藤元浩ファンとしてもう少し追いかけてみたいです。




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