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黄金の烏 [日本の作家 あ行]


黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

  • 作者: 智里, 阿部
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、仙人蓋と呼ばれる危険な薬の被害が報告された。その行方を追って旅に出た日嗣の御子たる若宮と、彼に仕える雪哉は、最北の地で村人たちを襲い、喰らい尽くした大猿を発見する。生存者は、小梅と名乗る少女ただ一人――。八咫烏シリーズの第三弾。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(感想ページはこちら)から始まる八咫烏シリーズ第3弾です。
第2弾である「烏は主を選ばない」 (文春文庫) (感想ページはこちら)から読むのにずいぶん間が空きましたが、ロンドンに持っていくつもりが間違えて日本において行ってしまったからで、日本に帰ってきたので続けて読んでいきたいと思っています。

今回は、雪哉の故郷垂氷郷(たるひごう)あたりで起こる事件-頭がおかしくなって怪力で人(烏)を襲う-を皮切りに、烏対大猿、烏の表社会対裏社会(谷間-たにあい-)、が描かれます。
虐殺現場に残された少女を怪しむところとか、ちゃんと雪哉のところへ若宮が宮廷からやってくるところとか、手堅いんですよね。
すごく心地よい。

この事件の構図やなりゆきがじゅうぶん面白いのですが、なによりこの作品で興味深いのは、この烏たちの世界(山内)のありようが、次第次第に読者に明らかになってくるところです。
外の世界、として人間がいる、という設定なのですね。
「山内に伝わる伝説では、八咫烏は山神に率いられて、この地にやってきたとされている。それにしても過剰ではないかと思えるほどに、山内にあるものは、外界にあるものを自分達の都合に合わせて、作り変えたようなものばかりだったのだ。外界を知る度に、若宮は漠然とだが、自分達の先祖は、山内に外の世界を再現しようとしていたのではないだろうか、と思うようになっていた。」(239ページ)
いいではありませんか、こういうの。物語世界がどんどん拡がっていく気配がします。
そしてそれと平仄を合わせるように、金烏、若宮のあるべき理由が考察されていきます。

ファンタジーは読みつけないのですが、こういう風に世界が構築されているのを垣間見ていくのはとても楽しいですね。物語の展開に合わせて、世界が姿を現していく場合は特に。
シリーズ展開でおそらくどんどん明らかになっていくのでしょう。

このあともシリーズは順調に続いているので、楽しみです。


<蛇足>
毎度のことで恐縮ですが、
「報告を鑑みるに」(287ページ)
とあるのが気になりました......
もう気にするほうがおかしいというか、気にしても仕方ないことだとわかっているのですが、気になるものは気になるんですよね。



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罪の余白 [日本の作家 あ行]


罪の余白 (角川文庫)

罪の余白 (角川文庫)

  • 作者: 芦沢 央
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/04/25
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう――。安藤の娘、加奈が学校で転落死した。「全然悩んでいるようには見えなかった」。クラスメートからの手紙を受け取った安藤の心に、娘が死を選んだ本当の理由を知りたい、という思いが強く芽生える。安藤の家を弔問に訪れた少女、娘の日記を探す安藤。二人が出遭った時、悪魔の心が蠢き出す……。女子高生達の罪深い遊戯、娘を思う父の暴走する心を、サスペンスフルに描く!


今年6月に読んだ最初の本です。
芦沢央の本を読むのは初めてです。
最近、いろんな作品が話題になっている作者さんですね。注目の作家、というところでしょうか。
八重洲ブックセンターでサイン本が売られていたこともあり、デビュー作である本作を手に取りました。
第3回野生時代フロンティア文学賞受賞作とのことです。

娘(あるいは息子)の死の真相を探る父親(あるいは母親)というのはミステリでよくある設定かと思いますが、バリエーションを作りにくい設定だな、と思っています。
そして、個人的にはあまり満足感を得られたことがない。

このジャンルを読んだ記憶で一番古いものは、岡嶋二人の日本推理作家協会賞受賞作「チョコレートゲーム」 (講談社文庫)ですが、これも岡嶋二人らしいひねりが用意されていたものの(中学校を舞台にそれをやるか!と思わせてくれました)、個人的には今一つしっくりこなかった。

そもそも子どもが死ぬという前提だけでも後味が悪くなってしまう可能性が高いうえ、親が知らない子どもの姿、ということで学校が舞台となれば、いきおいいじめが出てくるだろうと想定されるわけで、その子どもがよい子にせよ悪い子にせよ、意外性というのも打ち出しにくいと思います。

そう思いつつ、この「罪の余白」 (角川文庫)を手に取りました。
オープニングであるプロローグが、まさに少女が命を落とす場面。
非常に気を使った書き方がされているのですが、ここを読むといじめとは言い切れなさそうな雰囲気。
おやおや、と興味を惹かれました。

なんですが、やっぱりいじめだったんですよね。
追及する父親サイドと、いじめた側の少女たちサイドの話がつづられていくのですが、意外性はありません。

となると、つまらない作品だったのか、というとそんなことはありませんでした。
主要人物の一人として、父親サイドに人とコミュニケーションをとるのが苦手な女性が配されているのですが、この人物はなかなか興味深いです。
また、事件のきっかけとなるいじめも、機微というのか、感じ取れました。

注目の作家のデビュー作らしいな、と思いましたので、ほかの作品も読んでみたいと思います。






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半席 [日本の作家 あ行]


半席 (新潮文庫)

半席 (新潮文庫)

  • 作者: 文平, 青山
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
御家人から旗本に出世すべく、仕事に励む若き徒目付の片岡直人。だが上役から振られたのは、不可解な事件にひそむ「真の動機」を探り当てる御用だった。職務に精勤してきた老侍が、なぜ刃傷沙汰を起こしたのか。歴とした家筋の侍が堪えきれなかった思いとは。人生を支えていた名前とは。意外な真相が浮上するとき、人知れずもがきながら生きる男たちの姿が照らし出される。珠玉の武家小説。


「半席」
「真桑瓜」
「六代目中村庄蔵」
「蓼を喰う」
「見抜く者」
「役替え」
6編収録の連作短編集です。

一代御目見の半席で、永々御目見になるべく旗本を目指す徒目付(かちめつけ)の主人公片岡が、正式なお役目以外の頼まれごと、御用をこなしながら成長していくという物語になっています。

正式な取り調べ、捜査では抜け落ちてしまう動機を探るストーリーです。

最初の「半席」は、正直感心しなかったんですよね。
肝心の動機が、ちょっと作り物臭いな、と思えてしまったので。
よく考えられているとは思ったのですが。
さらにラストが悲劇になっているのも、あまり好みじゃないな、と。

ところが、「真桑瓜」に驚かされました。
これ、クリスティの「ネタバレにつき伏せます。気になる方はリンクをたどってください」ではないですか。
いや、もうあっぱれです。

主人公片岡や、彼を取り巻く人物も興味深い人が多く、そのあとはすっかり引き込まれました。
ミステリ的な趣向が勝って、少々建付けが悪くなっているものもありますが(第一話の「半席」がそうだったのかもしれません)、いやいや、こんなにわくわく、楽しく時代小説を読めたら、大満足です。
青山文平のほかの作品も読んでみたいです。




タグ:青山文平
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それ以上でも、それ以下でもない [日本の作家 あ行]


それ以上でも、それ以下でもない

それ以上でも、それ以下でもない

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本


<カバー袖あらすじ>
 1944年、ナチス占領下のフランス。中南部の小さな村サン=トルワンで、ステファン神父は住民の告解を聞きながらも、集中できずにいた。昨夜、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男が、何者かによって殺されたのだ。
 祖国解放のために闘うレジスタンスの殺害が露見すれば、住民は疑心暗鬼に陥るだろう。戦時下で困窮する村がさらに混乱することを恐れたステフィン神父は、男の遺体をナチスに襲撃された隣町に隠し、事件の隠蔽をはかる。
 だが後日、ナチス親衛隊のベルトラム中佐がサン=トルワンを訪れる。レジスタンスが匿われていると信じる住民にも、目的が判然としないベルトラム中佐にも、ステファン神父は真実を告げることができない……。孤独に葛藤し、村を守るため祈り続けた神父が辿り着いた慟哭の結末とは。


単行本です。
第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。
穂波了の「月の落とし子」と同時受賞です。

第8回の受賞作である「入れ子の水は月に轢かれ」(早川書房)感想に書いたことを繰り返します。
「毎度書いておりますが、アガサ・クリスティー賞は素直におもしろいと思える作品が少なく(少ないどころか、なく、かもしれません...)、おやおやと思っているところ、今回の作品はどうでしょうか?」

結論をいうと、素直におもしろいと思えました!
よかった、よかった。

終戦間近のドイツ支配下のフランスの小村を舞台にして、日本人は(当然ながら)登場しません。
さらに、主人公が神父。
もう、これだけでいかに大胆な設定に挑んでいるかがおわかりいただけれるのではないかと。
非常に重苦しい雰囲気ながら、文章は読みやすく、状況が状況という中での緊迫感、息苦しさに浸りました。

ただ、そのおもしろさがミステリ的なものだったかというと.......と読後思ってしまいました。
しかし、この言い方は公平さを欠いています。
振り返ってみると、この感想は間違っていた、と思います。
この作品はミステリとしても立派な作品だと、そう思っています。その理由を以下に書きます。

事件は、あらすじにも書いてある通り、基本的に、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男を殺したのはだれか、という謎です。
戦争の行方によって、村がどうなってしまうのか、という不安が底流として流れていて、なかなか事件に集中できないということもありますが、疑心暗鬼の村の中、事件はなかなか解明の兆しすら見せません。

幾分ネタバレのきらいはありますが、事件の真相は「読み終えてみるとすごくシンプルな話であることがわかる」と選評で北上次郎が評している通りで、すっきりした真相です。
つまり、シンプルな話を、緊迫感ある設定の中で転がしてみせた、ということですね。
時代背景、設定自体が、事件を覆いつくすように仕組まれているのです。

だから、ミステリ的なおもしろさではなかったような気がしてしまったのです。
ミスディレクションとして非常に効果的だったのではないでしょうか。
非常に興味深い狙いを持ったミステリだと感じました。
こういう行き方はミステリとして、最近では珍しい気がします。
似たような例はあるはずだと思うのですが、思い浮かびません。

不満を書いておくと、この内容だと、もっともっと書き込んでおかないといけない気がしました。
特に登場人物たちの書き込みが必要だと思います。
アガサ・クリスティー賞への応募なので枚数に制約があるため、ないものねだり、なのですが。

ミステリとして薄味だと思う方もいらっしゃるとは思いますが、いえいえそんなことはありません。
不満として書いたように書き込みが必要だとは思いますが、非常にレアな狙いを秘めたミステリだ、ととても感心しました。
この後の作者の活躍が楽しみです。




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赤い博物館 [日本の作家 あ行]


赤い博物館 (文春文庫)

赤い博物館 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/09/04
  • メディア: Kindle版


<カバー裏あらすじ>
警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」の館長・緋色冴子はコミュニケーション能力は皆無だが、ずば抜けた推理力を持つ美女。そんな冴子の手足となって捜査を行うのは、部下の寺田聡。過去の事件の遺留品や資料を元に、難事件に挑む二人が立ち向かった先は―。予測不能なトリック駆使、著者渾身の最高傑作!


「2016 本格ミステリ・ベスト10」第6位です。

「パンの身代金」
「復讐日記」
「死が共犯者を別つまで」
「炎」
「死に至る問い」
の5話収録の連作短編集です。
 
あらすじにもある通り、架空の(ですよね!?)警視庁付属犯罪資料館〈赤い博物館〉の館長・緋色冴子が安楽椅子探偵をつとめます。
手足になるのは、どえらいミスからその資料館に異動になった元捜査一課の寺田聡。
このパターン、大山誠一郎はレックス・スタウトのネロ・ウルフ、アーチー・グッドウィンを意識したのかな? していないのかな?

「パンの身代金」は、〈赤い博物館〉と寺田のポジショニングを定める重要な作品で、それにぴったりの事件となっていますが、ちょっとプロットに無理があるような気がします。
きっかけとなる事態が発生したとき、犯人はこの作品にあるような行動をとるでしょうか?
物語としてはあり得るし、現実にもあり得るのでしょうが、こちらが甘ちゃんなのかもしれませんが、信じられません。
それでもとても面白かったですが。

「復讐日記」は、証拠として、彼女を死に至らしめた原因を作った男に復讐を誓い実行する男の手記(日記)が使われています。
復讐に備えた日記ということで、ミステリファンだと、ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を連想してしまいますね。
それとどう変えてみせるか、あるいは変えないかというのが腕の見せどころ、になってくると思いますが、十分おもしろかったですね。
日記の使い方としては、こちらのほうが自然かもしれません。

「死が共犯者を別つまで」は、交通事故に遭った男が、25年前に交換殺人をした、と言い残して死んだという発端です。
これはおもしろいですねー。
若干ネタバレ気味ではありますが......(気になる方は次の作品まで飛ばしてください) 交換殺人というのはミステリではちょくちょく見るモチーフですが、それを別のモチーフと組み合わせるというのは新しいと思いました。こんな世界が広がるのですね。

「炎」は、女性誌に載った写真家のエッセイから、過去に起こった迷宮入り殺人事件の再捜査が始まります。写真家は、その事件の生き残り。
この事件、警察の捜査で解決していたような気がしますが、この作品で描かれているような事態は想定しないので明るみに出ないものなのかもしれませんねぇ。

「死に至る問い」は、26年前の事件の模倣犯と思しき事件を扱っています。
かなり無理のある真相だなぁ、と思いましたが、論理のアクロバットというのか、大胆な発想で、ミステリファンの心をくすぐるところが大という感じがしました。


いずれも、かなりたくらみに満ちた作品で楽しめました。
少々無理があっても、なんだか許せちゃいます。むしろ、よくぞここまで、と大山誠一郎に感謝したくなる感じです。
最後に、館長による思わせぶりなセリフが出てくるので、続編を期待してもいいのでは? と思えました。
ぜひ、続編をお願いします。




<蛇足1>
「復讐日記」に、社会人を4年経験した後、学費を貯めて大学に入った男に対し、「あなたの大人びたところが好き」と同級生の女性がいうというくだりがあります。(107ページ)
4つほど年上の男性で、大学生になっているとはいえ実際に社会人も経験している人に「大人びている」というかなぁ、と不思議に思いました。

<蛇足2>
「君の報告によれば、交通事故で死んだ友部義男はズボンの臀部側の左ポケットに財布を入れていたという。ここからわかるのは、彼が左利きだということだ。左利きの人間は、左ポケットのほうが出し入れしやすいからだ。」(206ページ)
あっ、そうなんですか。普通はそうなんですね。
財布を出し入れするくらい、右手でも左手でもできるので、そのときそのときでぼくは右ポケットにも、左ポケットにも入れるので一定していませんね。




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密室蒐集家 [日本の作家 あ行]

密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
鍵のかかった教室から消え失せた射殺犯、警察監視下の家で発見された男女の死体、誰もいない部屋から落下する女。名探偵・密室蒐集家の鮮やかな論理が密室の扉を開く。これぞ本格ミステリの醍醐味!物理トリック、心理トリック、二度読み必至の大技……あの手この手で読者をだます本格ミステリ大賞受賞作。


第13回(2013年度)本格ミステリ大賞受賞作。
「柳の園 一九三七年」
「少年と少女の密室 一九五三年」
「死者はなぜ落ちる 一九六五年」
「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」
「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」
の5話収録の連作短編集です。
 
密室ミステリばかりを集めた贅沢な短編集なのですが、密室蒐集家という謎の人物が出てくるところがポイントですね。
タイトルに年代が書かれていますので、最初から最後までの間に七〇年ほどの時間が経っているのにもかかわらず、同じ人物という設定です(たぶん)。
外見はちっとも歳をとらない。
「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」でも、「彼の外見はどう見ても三十歳前後だ」(212ページ)と書かれています。
この密室蒐集家という非現実的な設定をとった趣向(の意図)がよくわかりませんでした。
時代背景がバラバラだから(時代を現代にしたら成立しない作品がありますので)、一人の名探偵ではこの作品の探偵役はつとまらないことは理解できますが......別の探偵を立てればよかったんじゃないかな? なんて思ってしまいました。
まさか、「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」で披露される密室講義=犯人が意図的に密室を作る理由に貢献するためじゃないでしょうね......いやいや、ありえますね(笑)。

冒頭の「柳の園 一九三七年」はオーソドックスな感じですね。
オーソドックスすぎて「柳の園 一九三七年」を読んだ段階でこの短編集どうかなぁ、と思った人がいらっしゃったとしても、ぜひ続けて読んでください。、
いろいろな密室のバリエーションが描かれています。

いちばん感心したのは、2作目の「少年と少女の密室 一九五三年」。
もう、作者・大山誠一郎の苦労が偲ばれて、不自然だ、とか、無理やりだ、とか責める気には全くなりませんでした。
こういう無茶な綱渡り、結構好きです。

無茶といえば、「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」もかなりの無茶で、楽しめます。
上で密室蒐集家の外見の描写を引用した際にも触れたように、密室を作る理由に焦点をあてた作品で、その謎解きそのものはとても楽しく読んだのですが、最後に明かされるダイイングメッセージ(ネタバレにつき色を変えています)は、いくらなんでも無理すぎでしょう。
これまた、こういうの好きですけれども。

その2編にはさまれた「死者はなぜ落ちる 一九六五年」もかなりのものですね。
この犯人、頭よすぎです。いろんな意味で。

最後の「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」は、これらに比べるとおとなしい。
密室のトリックは前例あってもまあまあだと思うのですが、個人的には動機がちょっと......

密室ミステリばかりを集めた短編集なんて贅沢だし、密室もそれぞれバラエティに富んでいるし、本格ミステリ大賞受賞も納得という感じでした!



<蛇足>
「少年と少女の密室 一九五三年」に、新宿署が出て来ます。
舞台設定は一九五三年。
でも、新宿署ができたのは一九六九年で、それ以前は淀橋署と呼ばれていたようです(このあたりはWikipediaで確認しました)。
昔、佐野洋の「推理日記」で新宿署というのはなかった、というのを読んだ記憶があったので調べてみました。
物語の本筋とはまったく関係ありませんが、時代考証ミスですね......



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出星前夜 [日本の作家 あ行]


出星前夜 (小学館文庫)

出星前夜 (小学館文庫)

  • 作者: 飯嶋 和一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/02/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
寛永十四年、突如として島原を襲った傷寒禍(伝染病)が一帯の小児らの命を次々に奪い始めた。有家村の庄屋・鬼塚甚右衛門は旧知の医師・外崎恵舟を長崎から呼ぶが、代官所はあろうことかこの医師を追放。これに抗議して少年ら数十名が村外れの教会堂跡に集結した。折しも代官所で火事が発生し、代官所はこれを彼らの仕業と決めつけ討伐に向かうが、逆に少年らの銃撃に遭って九人が死亡、四人が重傷を負う。松倉家入封以来二十年、無抵抗をつらぬいてきた旧キリシタンの土地で起こった、それは初めての武装蜂起だった……。第35回大佛次郎賞受賞の歴史超大作。


はるか以前2005年に感想を書いた「雷電本紀」 (小学館文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)の作家飯島和一の作品です。
ミステリではありません。この作品も時代小説です。
「神無き月十番目の夜」 (小学館文庫)
から読みはじめ、
「始祖鳥記」 (小学館文庫)
「雷電本紀」 (小学館文庫)
に続き、読むのは4冊目になります。
「雷電本紀」 のあと、「黄金旅風」〔小学館文庫〕が出ているのですが、買ってはあるものの日本にうっかり置いてきてしまったので、その次の「出星前夜」を今回手に取りました。


カバー裏側の帯に大佛次郎賞の選考委員のコメントが書いてあるのですが、そのうち
「たしかにここに歴史があった」という実感--傑作である。
という井上ひさしのコメントがとてもしっくりする歴史大作です。

扱っているのは、島原の乱。
キリシタンの反旗、キリシタン弾圧の最期の一撃、鎖国の完成への一大里標。
この程度の知識しかありませんでしたので、いや、もうびっくりすることの連続でした。
だいたい、名前からして(呼び名からして、というべきか)明らかなのに、天草四郎が島原出身ではないことにびっくりしているくらいですから、いかに当方がとんちんかんな知識しかなかったは明らかです......
物語の始めのころに、島原の有家(ありえ)で寿安(ジュアン)と呼ばれる若者矢矩鍬之介(やのりしゅうのすけ)が旧教会堂に立て籠もり事件(?) を起こすのですが、こいつが後の天草四郎なのかな、と勘違いするくらい、島原の乱に認識がない状態でした。

そういった愚かな勘違いを、「出星前夜」は、圧倒的な迫力で次々と打ち破ってくれました。
だいたい、島原の乱はキリシタンの反乱という単純な図式で捉えること自体が愚かなことですね。

長崎の医師外崎(とのざき)恵舟、長崎代官末次平左衛門、有家の庄屋鬼塚甚右衛門......印象的な登場人物が次々と出て来ます。
特に、有家の庄屋で、朝鮮出兵にも参加し勇将として知られた鬼塚甚右衛門=鬼塚監物(けんもつ)ですね。
耐えて、耐えて、耐え抜いた末の島原の乱ということが、鬼塚監物のおかげで鮮やかに迫ってきます。
思いどおりにならないことは世の常であり、最善を尽くしても惨憺たる結果を招くこともある。最善を尽くすことと、その結果とはまた別な次元のことである。しかし、最善を尽くさなくては、素晴らしい一日をもたらすことはない。(277ページ)
こういう心持ちの人物を追い込んでしまうほど、島原藩松原家の苛政は民を顧みないものだったわけですね。

印象的、といえば、原城に立て籠もってからの鎮圧部隊のでたらめさ。
圧倒的な兵力でありながら、連戦連敗。次から次への悪手を繰り出して蜂起勢にやられてしまうさまは、残酷ながら、ある意味快哉を叫びたくなるひどさ。
結果的には蜂起勢は鎮圧されてしまうことを歴史的事実として知っているので、こういったシーンに余計反応してしまうのかもしれません。
散りゆくものたちの覚悟、哀しみがあふれた戦いであったように感じました。

読了して考えてしまったのが、タイトル、出星前夜。
ミステリではないので、ネタバレを気にする必要はないのかもしれませんが、ラストを明かしてしまうので気になる方はこの後は読まないようにお願いします。

ここでいう星とはなんだろう?
いろいろあって原城にはいかず、長崎にいた寿安が、医家として逃禅堂(とうぜんどう)北山友松(ゆうまつ)と名乗って大坂で開業したというエピソードが最後の最後にあります。
長い本書の最後は以下です。
 病児を抱える親たちが、とある星を「寿安星」と呼び、その星に快癒を願う姿が見られるようになったのは、北山寿安が世を去って間もなくのことだった。  その星は、北斗七星の杓(ひしゃく)の柄の二番目に当たる開陽星脇に、小さく見える星だった。それまでは、正月に寿命占いとして使われていたところから寿命星と呼ばれていた。「寿安星」と呼び名が代えられたその小星に祈れば、児の病は必ず治ると信じられ、その星に救いを求める親たちの姿がいつまでも絶えなかった。

とすると、ここでいう星は、寿安、ですね。
タイトルは出星前夜ですから、島原の乱などは、寿安星が世に出る前の物語ということになり、主客どちらかなど、なかなか考えさせるものがありますね。



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書物法廷 [日本の作家 あ行]


書物法廷 (講談社文庫)

書物法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界の米海軍基地を標的にした同時多発テロを未然に防ぎ、冷戦時代に行方不明となった水爆のありかを示す。一冊の書物が持つ恐るべき力を知り尽くし、いかなる困難な依頼をも達成してきた書物狩人(ル・シャスール)ユーイチ・ナカライ。だが、無敵を誇るル・シャスールの前に、ついに強大な宿敵が現れる。シリーズ第3弾!


「書物狩人」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
「書物迷宮」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。しかし、前作の感想を書いたのが2015年7月ですから、もうあれから4年以上たつのですね...
主人公である、書物狩人というのは、「書物狩人」 のあらすじから引用すると、
「世に出れば世界を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わずあらゆる手段を用いて入手する『書物狩人』」
ということになります。

この第3作は、
「クイナのいない浜辺」
「銀の川(ラ・プラタ)」
「奥津城に眠れ」
「笑うチャーチル」
の4話を収録しています。

冒頭の「クイナのいない浜辺」は、ル・シャスールがあまりにも神がかった洞察力を見せます。興醒め、と思う方もいるでしょうねぇ。
タイトルにもなっているクイナのいる浜辺の幸せな光景が印象的です。

「銀の川(ラ・プラタ)」は、かなり滅茶苦茶なストーリーですね。
いかに貴重なもの(本)とはいえ、それを手に入れるためだけにアルゼンチンの刑務所に入るなどということはちょっと理解を超えていますね。
手に入れた本も、ちょっとどうかな、と思う代物でしたが、ラストで手を打ってあって、なるほどな、と感心しました。

「奥津城に眠れ」で扱われるのはポオ。
シリーズとして興味深い点は以下のセリフに凝縮されていますね。
「たしかに、書物狩人が扱うのは、歴史を書き換えたり、国家や経済を揺るがすような秘密を隠した本……。けれども、わたくし個人にかぎっていえば、美意識で動くこともあります。」(257ページ)

「笑うチャーチル」は、コヴェントリー空襲の真相を秘めたチャーチルの書き込みつきの書物を扱っています。
シリーズとして、書物偽造師であるミスター・クラウンと対決姿勢が明確になったことがポイントでしょうか。

歴史が(虚実はともかく)、書物を通して滲み出してくるこのシリーズ、楽しいです。
この「書物法廷」 のあとも
「書物幻戯」 (講談社ノベルス)
「書物輪舞」 (講談社ノベルス)
「書物審問」 (講談社ノベルス)
「書物奏鳴」 (講談社ノベルス)
「書物紗幕」 (講談社ノベルス)
と快調に巻を重ねてはいるのですが、文庫化は止まってしまっているようですね。
楽しみにしているので、文庫化を順次よろしくお願いします。


<蛇足1>
つまらないのとでも言いたげに、あたりにネズミ鳴きの合唱があがる。(10ページ)
まず、ネズミ鳴き? ねず鳴きではないのかな? と思ったのですが、ネズミ鳴きとも言うんですね。
で、これ、浜辺に集っているクイナの鳴いているところの描写なのですが、ねず鳴き(ネズミ鳴き)というのはふさわしい表現ではないような気がしました。
ねず鳴き(ネズミ鳴き)といえば枕草子ですが、ネズミの鳴きまねをすることですよね。
クイナは鳴きまねをするわけではないのに......??

<蛇足2>
「書物狩人」「書物迷宮」がどうだったか覚えていないのですが、ル・シャスールが使う二人称が「あなたさま」というのにひっかかりました。
20ページに最初に出てきてから、出てくる二人称、ことごとく「あなたさま」。
正直、気に障りました......

<蛇足3>
ポオのアナヴェル・リィを唱和するシーンが「奥津城に眠れ」185ページに出て来ます。
唱和のところでは「海のほとりの奥津城(おくつき)に」と、「おくつき」というルビが、その後の未亡人との会話では「水底を奥津城(セパルカア)に選びました」と「セパルカア」というルビが振ってあります。
使い分けの意図がわかりませんでしたが(殊に、我々は日本語で書かれた小説として読んでいますが、実際の会話は英語で行われているはずだということを考えると余計にわからない)、こういう小技は興味深いですね。

<蛇足4>
第4話「笑うチャーチル」にデイヴィッド・アーヴィングの名前が出て来ます。
この人、映画「否定と偏見」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で題材になっている人ですね!







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がん消滅の罠 完全寛解の謎 [日本の作家 あ行]

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

  • 作者: 岩木 一麻
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後も生存、病巣も消え去っているという。同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうか――。


第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作です。
『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは極めて久しぶりです。
第14回大賞受賞作である 
一色さゆり「神の値段」 (宝島社文庫)
城山真一「天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス」 (宝島社文庫)
は未読(日本に置いてきてしまいました)、
第13回受賞作である
降田天「女王はかえらない」 (宝島社文庫)
第12回受賞作である 
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
の3作は既読ですが感想を書いていません。
なので『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは、第11回の
安生正「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
以来でほぼ5年ぶりとなります......


がんがどうやって消えたか、というのがメインの謎になるということで、あらすじを読んだ段階で、そういう医学的な話をされてもわからないんじゃないだろうか、と不安に思っていたのですが、とてもわかりやすかったですね。まったくの素人でも絶対大丈夫。

医学ミステリというのは、そもそも例が少ないのですが、この作品のように、病気そのものが謎の対象となる作品は極めて珍しいと思います(ひょっとしたら世界初?)。このことだけでも大拍手!
しかもその謎が、素人にもわかるかたちで、何段階にも複層化されているのが素晴らしい。

それでも、いつもの(悪い)癖でいくつか難点を挙げておきます。
おそらくいろんな人物の思惑が絡み合った結果だからとは思うのですが、犯人の目指したところがあまりクリアではない点。
目的と手段のバランスも今一つですよね。

次に犯人サイドの描写がアンフェアではないかな、と思える箇所が散見される点。
登場人物の感想がいろいろと書きこまれていて、それはとても面白かったのですが、真相を知ってから見返すと、こういうポジションの人はこういう感想は抱かないのでは? と思えるところがあるのです。

またミステリとして、謎解きが犯人サイドの回想によって読者にもたらされるという構造自体も難点に挙げておきたいと思います。最後に犯人の自白ですべてを明かすタイプのミステリは、安直で評価を下げる元です。
この作品の場合、すべてを探偵サイドが解き明かすのは難しいのかもしれませんが、それでももうひとふんばりしてほしかったところです。

そして最後に......
「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことをです。」(47ページ)
主人公である夏目と羽島の恩師西條が大学を去る際に残した言葉です。
この言葉、この作品のキーとなる言葉のはずなんですが、最後まで読んでも、ああ、そういうことか、と膝を打つような感じにはならず、もやもやしたままです。
352ページであらためてこの言葉が繰り返され、一定の説明がなされているのですが、西條のしたこと、果たして「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」でしょうか?

と、不満もあげましたが、引き込まれて読める医学ミステリ、一気読みしました!


<蛇足1>
「実は昆虫やエビ、カニを含む節足動物というのはがんになりにくいみたいなんだ。」(126ページ)
と書いてあります。そうなんですね。
そのすぐ後に
「海綿ってわかるか?」
「保健体育の授業で習ったけど」
「それは海綿体。」(127ページ)
さらっと下ネタですね(笑)。

<蛇足2>
「昔はその辺に溢れていた『大丈夫。きっとよくなりますよ』という言葉は医者の間では今や絶滅危惧種だよね。これは正確な情報を患者に伝えるという社会的コンセンサスの下では必然的に起こってくる問題で、別に医者が悪いわけじゃない。」(227ページ)
そういえば、『大丈夫。きっとよくなりますよ』やそれに近い言葉、聞かなくなりましたね......

<蛇足3>
パンドラは慌てて箱を閉めたので、箱の中には『エルピス』だけが残った。
「羽島はパンドラの箱に残されたエルピスというのは何だと思う?」夏目は羽島に訊ねた。-略-
「希望か予兆のどちらかということだね?」-略-
パンドラの箱に残されたとされるエルピスについては様々な解釈が存在するが、有力なのはそれが希望であるという説と、未来を見通す力であるという説だ。(227~228ページ)
パンドラの箱、よく使われる言葉ですが、希望というのしかしりませんでした。未来を見通す力という考えもあるんですね。




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パンドラ・アイランド [日本の作家 あ行]

パンドラ・アイランド〈上〉 (徳間文庫)パンドラ・アイランド 下 (徳間文庫)パンドラ・アイランド〈下〉 (徳間文庫)
  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2007/10/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
平穏な暮らしを求め、東京から七百キロ離れた孤島・青國島に来た元刑事・高州。“保安官”――司法機関のない島の治安維持が仕事だ。着任初日、老人が転落死した。「島の財産を狙っておるのか」死の前日、彼の遺した言葉が高州の耳に蘇り……。(柴田錬三郎賞受賞作)<上巻>
転落死、放火、そして射殺事件。高州の赴任以来、青國島の平穏な暮らしは一変した。島の“秘密”に近づく高州の行く手を排他的な島の人間が阻む。村長の井海、アメリカ人医師オットー、高州に近づく娼婦チナミ……真実を知っているのは? (柴田錬三郎賞受賞作)<下巻>


大沢在昌の作品の感想をこのブログで書くのは初めてです。
読むのもずいぶん久しぶりで、手元の記録を見てみると、2006年に「心では重すぎる」 (上) (下) (文春文庫)以来で、13年ぶり(!)のようです。
大沢在昌といえば、「新宿鮫」 (光文社文庫)が爆発的に売れて一大人気作家となったわけですが、むしろそうやって売れるようになる前は割と熱心に読んでいたのに、売れだしてからは少し縁遠くなりました(13年ぶりに読んでいるようでは、少し縁遠いどころの騒ぎではないですね)。

徳間文庫版で読みましたが、Kindleだと合本版があるんですね。
パンドラ・アイランド【上下合本版】 (徳間文庫)

パンドラ・アイランド【上下合本版】 (徳間文庫)

  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/05/16
  • メディア: Kindle版

ちなみに、集英社文庫からも出ているようです。
パンドラ・アイランド 上 (集英社文庫)パンドラ・アイランド 下 (集英社文庫)パンドラ・アイランド 下 (集英社文庫)
  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/04/20
  • メディア: 文庫

集英社文庫の方が徳間文庫よりも後から出ているので、書店で手に入りやすいのは集英社文庫版かもしれません。

舞台は孤島(離島)ですが、本格ものではありません、なにせ大沢在昌ですから。
(と言いながら、大沢在昌はフィールド的にはハードボイルドを中心とする作家ですが、個人的には、本格ものを書いても絶対に面白い作品が書ける作家だと思っています。ご本人にその気がないだけで......一度くらい書いてみてくれてもいいのにな、なんて思います)
この孤島の設定がちょっと現実離れしているような、それでいてありそうな、というあたりがポイントですね。島に公営の(?) 売春施設があるところもすごい。
またそのおかげで、主人公が日本なのに保安官、という設定となっているのがおもしろいですよね。
警察ではない。でも民間人でもない。ハードボイルドに向いた職業かもしれません。
そして、どうも島が秘密を隠しているらしいので、主人公の立ち位置が難しくなってくるところも手堅い印象です。

その、島が隠している秘密にもうひとひねりほしかったかな、とも思いましたが、この程度に収めておくほうがバランスがよいのかもしれません。
ラストのいかにもハードボイルドなエンディングを趣がある、と思って読んだのですが、人によっては平凡だとかありきたりだとかおっしゃるかもしれません。
でも、離島でもハードボイルド、因習の村での事件が本格ミステリの定番であるところ、そういう雰囲気の舞台でハードボイルドを展開する、というのがポイントの作品だと思うんですよね。だから、真相や結末はこうでなければいけないのではなかろうか、とそんなことを考えています。

久しぶりに読みましたが、大沢在昌、おもしろかったですね。
また読みだしてみようかな...... ああ、こうやって読まなきゃいけない本が増えていく......

<蛇足>
「おおむね年中無休で、正午から深夜、早朝まで開けているが、突然に休業したり、数時間だけ閉店することもあり、返却専用のポストが設けられている、」(410ページ)
大沢在昌らしくなく、「たり」が単独利用されています......





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