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天空の少年探偵団 [日本の作家 あ行]


天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/08/11
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
君たち、夏休みの宿題は順調かい?──交番の鈴木さんが持ちかけてくれた天空館行き。僕らはねじり鉢巻で宿題を片づけ、噂の邸宅に意気揚々と乗り込んだ。ぜひ少年探偵団に会いたいと駆けつけたおじいさんおばあさんと合流し、賑やかな一夜を過ごしたところまではよかった。でも朝起きたら、あんなに愉快そうだった巨体のおじいさんが亡くなっていたんだ。しかも“不可能状況”で!


読了本落穂拾いを続けて、今回は2016年2月に読んだ、秋梨惟喬の「天空の少年探偵団」 (創元推理文庫)
前作「憧れの少年探偵団」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)を楽しんで読んだので期待して読みました。

今感想を書こうとしてパラパラめくってみて驚いたのが、語り口。
探偵団の一員(発起人?)で小学六年生という設定なのですが、まあ全体に爺臭い(笑)。
TKOの木下とか、はんにゃやフルポンといったお笑い芸人の名がたとえで出てくるのはよいとしても、成田亨、石ノ森章太郎は小学生には厳しいでしょう。これはまだ子供向けの特撮ヒーロー関連でOKと甘く見積もったとしても、柳生博とか柳生但馬守ときたら完全アウトですよね。

少年探偵団の縁起は冒頭25ページくらいからさらっと語られます。
笑ってしまったのは
「未菜美は名探偵は好きだけど、乱歩の少年探偵団物のことは馬鹿にしていたからね。」(26ページ)
という箇所。いや、子供の頃のぼくなら正直未菜美さんに激しく同意しますよ。
未菜美は別のところでも少年探偵団物を引き合いに出していまして
「秘密の地下道があるとか、壁が回転するとか、部屋自体がエレベーターになってるとか、天井が下りてきて人を押し潰すとか、そんなのありえないじゃん」
「怪人二十面相はよく使ってるよ」
「二十面相はいいのよ。もともと趣味でやってる人なんだから」(166ページ)
なんてところでは笑い出してしまいました。

前作「憧れの少年探偵団」の感想で、
「ミステリとしての趣向もなおざりにせず、凡庸な日常の謎に堕してしまわないようにお願いしたいです。」などと書いてしまいましたが、この「天空の少年探偵団」が扱うのは密室殺人!

と紹介するのはこのあたりにしないと、この企みに満ちた作品の鑑賞の妨げになるかもしれません。
それでもあえて書いておくとすると、少年探偵団物の弱点をうまく利用していることと、館もの、密室ものの難題の一つに豪快な解決を与えていること、でしょうか。

あとがきをみると、続編が期待できそうなのですが、その後刊行されていませんね。
読みたいので、ぜひ、ぜひお願いします。
もろこしシリーズも、ぜひ。




タグ:秋梨惟喬
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忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち [日本の作家 あ行]


忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

忠臣蔵異聞 <家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち> (講談社文庫)

  • 作者: 石黒 耀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
悪家老として名高い、赤穂藩の経済官僚・大野九郎兵衛。しかし、彼こそが、先進的な製塩技術の開発と塩相場による儲けで、お取り潰しにあった浅野家再興を志す忠臣だった。赤穂浪士の討ち入り後は、真の仇を討つべく、米相場を下落させ、さらに布石は長州にも……。会心作!


2022年1月に読んだ7冊目の本です。

帯に
死都日本』『震災列島』『富士覚醒』…サイエンス・フィクションの名手が、元禄赤穂事件から維新戦争まで、滔々と流れる歴史の大河の核心を、大野九郎兵衛の仇討ちを主旋律に、壮大なスケールで解き明かす。類のない時代ミステリーの快作。
とあります。

作者の石黒耀は、上にも書かれている諸作品でお馴染みです。
「死都日本」は読んだ時期が早くこのブログに感想を書いていませんが、傑作です!
そのあとの「震災列島」(感想ページはこちら)も「富士覚醒」(感想ページはこちら)もとても面白かったです。
この路線で期待していたところ、出版されたのが本書「忠臣蔵異聞 家老 大野九郎兵衛の長い仇討ち」 (講談社文庫)
ちょっと虚を突かれた感じはありますが、忠臣蔵も題材としては面白いので期待して読みました(例によって積読が長かったですが)。

引用した帯にあるように、タイトル通り忠臣蔵を扱っているのですが、幕末まで俯瞰する作品になっているのが大きなポイントだと思いました。
「すると、日本史の教科書にはまず出てこないが、幕末の大騒ぎは、黒船来訪と同じくらい地震が原因だったのかもしれない。一般的に社会学者や歴史学者、それに文科省は、人文的なイベントには敏感だが、気候とか、地震や噴火、外来生物の来襲といった自然科学上のイベントには鈍感である。」(282ページ)
というところなど、作者が作者なだけに、ニヤリとしてしまいます。

この作品で、歴史を取り扱うのに作者はなかなかずるい手を編み出されています。
ずるいというのは誉め言葉です。念のため。
現在の私一家が、享保の頃に生きていた赤穂藩士の荘右衛門の幽体を呼び出し、やりとりをする。そのやり方がすごいのです。
「ようやく私は理解した。荘右衛門との対話は、人と人との会話とは全く違う方法で行われていたのである。
 おそらく荘右衛門が発信する情報は文章になっていない概念のようなものに過ぎず、受け取る人間が自分の知識量や理解度に応じて頭の中で言葉に組み立てていたのだ。
 従って、荘右衛門が送ってきた『ある年』という概念が、時代劇ファンの私の頭の中では『享保三年』になり、世界史選択のカミさんの頭の中では『西暦一七一八年』、小学五年生の紗月には『江戸時代の中頃』、二年生の桜には『昔々、大昔』という言葉になって像を結んだのだろう」(53ページ)
このやり方の何がすごいと言って、細かい時代考証の軛から解き放たれ、現代人の感覚、現代人の言葉でよくなるのです。素晴らしい。
思い切り、想像の翼を広げて、奇想を展開してほしいですね。

あまり従来の忠臣蔵ではいい焦点が当たっていなかった大野九郎兵衛だけに、お話の展開は斬新に感じました。
特に、幕府の経済面に着眼し、幕末までを貫く太い流れを描いて見せたのが面白かったですね。


このあと作品が出ていないようですが、気になる作家なので、また作品を上梓してほしいですね。


<蛇足>
「南海トラフ地震と首都直下地震という組み合わせは、我が国で起こる地震の中では最悪の組み合わせで、今の日本で発生すれば、原発が無事でも二百兆円から三百兆円の損害が出ると言われている。」(282ページ)
この作者ならではというか、さらっと書かれていますが、この本が単行本で出たのは2007年。
東日本大震災の前です。
「原発が無事でも」という句は文庫化は2011年12月なので書き足したのでしょうか? それとももともと書かれていたのでしょうか?





タグ:石黒耀
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名探偵は嘘をつかない [日本の作家 あ行]


名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
名探偵・阿久津透。数々の事件を解決してきた彼は、証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したという罪で、本邦初の探偵弾劾裁判にかけられることになった。兄を見殺しにされた彼の助手、火村つかさは、裁判の請求人六名に名を連ねたが、その中には思わぬ人物も入っていて―!新人発掘プロジェクトから現れた鬼才、審査員を唸らせた必読のデビュー作、待望の文庫化!


また更新をさぼってしまいました。ちょっと油断すると......
さておき、2021年12月に読んだ4冊目の本です。
阿津川辰海は2017年本書で光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の受賞作に選ばれてデビューした作家で、非常に評判いいですね。
文庫化(2020年6月)されて勇んで買いました。が、例によって積読に。
大量の積読を抱えていますので「あー、もっと早く読めばよかった」と思う本はいろいろあるのですが、この「名探偵は嘘をつかない」 (光文社文庫)はそんな中でも飛び切り後悔した一冊。
あー、どうしてもっともっと早く読まなかったのだろう。こんなにおもしろいのに!

本書成立の経緯は、あとがきと石持浅海による解説に書かれていて、これが感動してしまうくらいすごくて、もとの原稿を読んでみたくなるくらいです。
石持浅海は新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の選考委員だったわけですが、もう一人の選考委員東川篤哉の解説もお願いしたいところです。

死者が甦る「転生」、名探偵が国家機関として活躍する世界、そして名探偵弾劾裁判。
3つの大きな虚構をバックに、華麗なミステリ世界が展開します。
名探偵の弾劾裁判というのが大いにツボ。
名探偵阿久津透だけではなく、語り手を含めた登場人物たちがかなり理屈っぽい人が多く、法廷という形式はそれぞれが論理を戦わせるのに打ってつけですよね。
ましてや、名探偵が名探偵として不適であることを示す裁判となると、扱った事件と二重写しになる周到さ。

阿久津のセリフ
「名探偵は自分で見つけた真実に嘘なんてつかない。ついてはならないんだ。」(285ページ)
というのが結構効いています。

新人らしいということかもしれませんが、”名探偵”をめぐる議論も楽しいです。
「昔、阿久津に言われたことがあるの。名探偵には二つの能力が必要だ、ってね。事件の真相をイマジネーションにより見通す発想力と、それにより到達した真相に向けて論理を組み立てる説得力の二つが。」(485ページ)
とか何度か読み返してしまいました。
「謎を隠すのに最も賢いやり方はそれに解決を与えてしまうこった」(470ページ)
こちらは阿久津のセリフではありませんが、ミステリ作法としては面白いですよね。似たようなことは、赤川次郎が「ぼくのミステリ作法」 (角川文庫)の中で言ってしましたね、そういえば。

各章のタイトルがまたいいんですよ。
第一章 春にして君を離れ
第二章 幽霊はまだ眠れない
第三章 災厄の町
第四章 生ける屍の死
第五章 再会、そして逆転
第六章 トライアル&エラー
第七章 斜め屋敷の犯罪
第八章 鍵孔のない扉
第九章 法廷外裁判
第十章 死者はよみがえる
ですから!

ちなみに自分の備忘のために「幽霊はまだ眠れない」は「温情判事」に収録されている結城昌治の短編、「再会、そして逆転」は「逆転裁判」からです。



<蛇足>
<DL8号機事件>というのが出てきます。(471ページ)
阿津川辰海ほどの作家なので当然泡坂妻夫は読んでいますよね。これにはニヤリとしてしまいました。





タグ:阿津川辰海
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サブマリンによろしく [日本の作家 あ行]


サブマリンによろしく (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

サブマリンによろしく (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 大津 光央
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/05/09
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
二十八年前、八百長疑惑をかけられてみずから命を絶った伝説の下手投げ投手K・M。行方不明になっていた千五百奪三振の記念ボールが発見されたのをきっかけに、彼を再評価する動きが起こる。作家の芹澤真一郎は、K・Mの伝記を書くべく関係者たちのもとを取材して回るが、彼にまつわる逸話にはいくつもの謎があった――。途絶した芹澤の原稿を引き継ぎ、野球嫌いの「あたし」が謎に迫る。


2021年10月に読んだ7冊目の本です。
第14回『このミステリーがすごい』大賞の優秀賞受賞作。
単行本で出た時のタイトルは「 たまらなくグッドバイ」でした。

下手投げ投手の自殺の謎を探る、ということでサブマリン。
その伝説の下手投げ投手K・Mのことをあたしがノン・フィクションとして書く。それはスポーツ作家であった芹澤真一郎氏に言われて始めたことだった、という形になっていまして、二重構造の額縁ともいえます。

いくつかのエピソードを積み重ねて実像に迫っていくのですが、話は飛び飛びですし、人物関係も一筋縄ではいかない配置になっていまして、すっきりした着地とかわかりやすい物語とはいえないものになっています。
ただ、物語として額縁タイプであることが効果をあげているように思いました。
複数の人物の思惑が絡み合った真相(と思われるもの)は、この形でないと描けなかったように思うからです。
そして額縁小説であるからこそ、一気にあたしの物語として収束していく展開が意味を持つように思います。

「 たまらなくグッドバイ」から「サブマリンによろしく」への改題も物語に組み込んで見せた心意気も楽しく感じました。



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深泥丘奇談・続 [日本の作家 あ行]


深泥丘奇談・続 (幽ブックス)

深泥丘奇談・続 (幽ブックス)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2011/03/18
  • メディア: 単行本



単行本で読みました。
今となっては、角川文庫から出ています。末尾に書影を掲げておきます。

『幽』編集長の東雅夫さんが、帯に紹介文を書かれています。
長いですが、引用しちゃいます。

誰もいない閑寂な境内で、社殿の鈴が鳴り響く不思議を追う「鈴」、
カニやエビといった甲殻類に対する苦手意識が、刻々と真正の恐怖へ高まってゆく「コネコメガニ」、
同窓会の酒席で語り手が直面する薄気味悪い事態を描いて、あの名作『Another』を彷彿せしめる珠玉の都市伝説風ホラー「狂い桜」、
世にも奇妙な外科手術の顛末を軽妙に描いてアッと云わせるナンセンス・ストーリー「心の闇」、
熱烈なホラー映画マニアとして知られる著者の本領が前回の「ホはホラー映画のホ」、
地蔵盆の郷愁に満ちた光景が、いつしか土俗的怪異の幻景に変貌を遂げてゆく「深泥丘三地蔵」、
誰もが一読呆然とするに違いない、集中髄一の怪作「ソウ」、
クトゥルー神話的なるものとの聯関をいよいよ予感させる異色の猟奇譚「切断」、
人ならざる幽霊に翻弄される「夜蠢(うごめ)く」、
奇絶怪絶のラストシーンに圧倒される「ラジオ塔」
……記憶の深みへ、地霊の奥処へ、読む者を妖しく誘う連作集、変幻自在の第二弾!


架空の京都の町、深泥丘(みどろがおか)を主要な舞台としたホラー?連作中。
前作「深泥丘奇談」 (角川文庫)を読んだ時も、ホラーというのかなんというのか、実に奇妙な手触りの作品で、どう解釈していいものやら悩んだのですが、その傾向はこの「深泥丘奇談・続」 (角川文庫)も同じ。
ホラーではあっても、緊張感高まる、ハイテンションのホラー、来るぞ来るぞ、出るぞ出るぞと脅してくるホラーではなく、肩の力を抜いたホラー?

だいたい舞台となる深泥丘からして変ですよね。
実在の地名、深泥池(みどろがいけ)からアイデアを拝借した知名なわけですが、池や沼だからこその深泥であって、深泥が丘になるって、どういうこと!?
まさに、帯にある通りで、「この京都、面妖につき」です。

さらなる続刊もあるんですよね。
きっと読みます。(というか買ってあります)

<蛇足>
「近隣の大阪や滋賀も含め、こちらの地方ではごく一般的な行事として慣れ親しまれている地蔵盆だが、これが他の地方に広まることはなかったらしい。今でもだから、たとえば東京の人間に『地蔵盆』と云ってみても、往々にして『何ですか、それ』と問い返されたりするのである。」(135ページ)
今まで気づいていませんでしたが、そういえば、地蔵盆って東京では見ないですね......


角川文庫の書影です。

深泥丘奇談・続 (角川文庫)

深泥丘奇談・続 (角川文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/25
  • メディア: 文庫


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ゼロの迎撃 [日本の作家 あ行]


ゼロの迎撃 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ゼロの迎撃 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/03/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
活発化した梅雨前線の影響で大雨が続く東京を、謎のテロ組織が襲った。自衛隊統合情報部所属の情報官・真下は、テロ組織を率いる人物の居場所を突き止めるべく奔走する。敵の目的もわからず明確な他国の侵略とも断定できない状態では、自衛隊の治安出動はできない。政府が大混乱に陥る中で首相がついに決断を下す――。敵が狙う東京都市機能の弱点とは!? 日本を守るための死闘が始まった。


読了本落穂拾いで、2017年10月に読んだ本です。

「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)の作者安生正の長編第二作です。
先に第三作「ゼロの激震」 (宝島社文庫)感想を先に書いてしまっています。
ちなみに、「生存者ゼロ」感想ページは、このブログのアクセス数ダントツ一位です。


正体不明のテロ組織に襲われる東京。
こういう設定好きなんですよ。
読者には、犯行側ともいうべき朝鮮人民軍のハン大佐の視点のストーリーも提供されるので、親切設計です。

この作品のメインの見どころは、幾重にも考えられたハン大佐の攻撃計画に対して、日本側自衛隊の情報官・真下がどう守るか、という部分にあるのですが、それ以外にも見どころはたくさんあります。

日本には強力な有事法制がないため苦闘する自衛隊、というのはよく言われることで、本書でも国家安全保障会議がかなり緊迫感もって描かれます。
ただ本書では、枚数の制限でもあったのか、あるいは物語が停滞してしまうのを防ぐためか、官僚的な動きであったり、保身的な動きであったりはみられるものの、梶塚首相がかなりの胆力を持つ人物として設定されておりまして、要所要所を切り抜けます。
「よりによってこんなときに」(85ページ)
と触れられているのですが、あと五日で梶塚内閣は総辞職し、総理の地位は後任の民政党総裁に引き継がれることが決まっているというタイミングも、逆に功を奏したのかもしれません。
いざというときに、こういうリーダーに恵まれればよいですねえ。
日本の歴代総理の顔を浮かべてみて、果たしてどういうことになるだろうか、と想像してみるのも......

やはり梶塚首相が出動する自衛隊員に向けてメッセージを発するところが、一つのクライマックスですね。(338ページあたりから)
「自衛官が持つ英雄的な心とは、死を恐れぬ心ではなく、弱きを守るために自らの恐怖心を克服できる心だ。」(344ページ)
このセリフ、作中に描かれたいくつかのエピソードと呼応する力強いメッセージの象徴かと思いました。

ややネタバレ気味になるのですが、ハン大佐の攻撃の重層構造も素晴らしいですし、最終的に推察される各国の思惑にも強く感心させられました。
(茶木則雄の解説は、かなり先のほうまでネタを割ってしまっており、謎解きミステリではないから、明かしてもよいと思われたのでしょうか? エチケット違反なのではないかと感じました。)


タグ:安生正
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眠たい奴ら [日本の作家 あ行]


眠たい奴ら (角川文庫)

眠たい奴ら (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
組織に莫大な借金を負わせ、東京から地方の温泉街に逃げ込んだ経済ヤクザ・高見。一方、大阪から単独捜査のため、その街を訪れたはみ出し刑事・月岡。街で二人を待っていたのは、地元の政治家や観光業者をまきこんだ巨大新興宗教団体の跡目争いと、闇にうごめく寄生虫たち――。惚れた女のために、そして巨大な悪に立ち向かうため、奇妙な友情で結ばれた一匹狼たちの闘いが始まる! 
圧倒的なスケールで描く大沢ハードボイルドの巨編。


2021年8月に読んだ10冊目の本です。
長年積読にしていたのが、ふと読みたくなって手に取りました。
奥付を見ると2000年12月の再版。手元の記録では購入したのは2001年4月。20年以上も積読です。
その間に、2016年に新装版が出ています。

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: 文庫


あらすじを読んでもらうとわかりますが、極めて王道というか、ハードボイルドというと軽率にパッと浮かびそうなもののてんこ盛りです。
主人公は男前らしい、経済ヤクザ高見。
敵か味方か判然としませんが、どうも気になる大阪の刑事月岡がポイントですね。いや、ポイントというか、陰の主役といってもいいかも。
ヤクザからみた刑事だから仕方ないのかもしれませんが、かなりひどい書かれ方です。
『特に顔がひどい。ま四角の、雪駄の裏で「福笑い」をやったような面つきをしている。
 顎が張り出し、下唇もつきでている。まるで何にでも食いつくダボハゼといった造作だ。』(27ページ)
まあ、自覚もしているようで
「わいは『シラノ・ド・ベルジュラック』ちゅうとこか」(198ページ)
などというセリフも飛び出します。

もうひとり重要な人物は、亜由子。あらすじでいう「惚れた女」です。
「女とは、ある種、性欲を満たすための道具であって、行為に溺れることによって得られる安らぎ以上のものをこれまで求めたことはない。」
「高見は女といて、自分の要求以外のことを優先させた記憶がない。常に自分の今したいことを、最優先させてきた。結果、女には金をつかったが、それは ”代価” のようなものだった。」(285ページ)
こう述懐する高見が、変わっていくのが見どころ。
そして、高見はあまり気づいていなそうですが、月岡も亜由子に惚れている模様。ここがいいですね。

敵側の人間も癖のある人物が揃っていて、王道中の王道が展開されていきます。
たっぷり楽しめますよ。

タイトルの「眠たい」。本来「眠い」という意味ですが、「眠たい 俗語」で調べてみると、”とぼけている。状況判断が甘い” と出てきましたね。
本書では165ページに、高見とのやりとりで月岡のセリフの中に出てきます。
「東京の極道がこないとこで何しとるのや」
「実は今、休職中でしてね。ひょっとしたらこのまま、足を洗っちまうかもしれない」
「阿呆くさ。何眠たいこというとんねん」
カバーには、おそらく「眠たい奴ら」の英訳なのでしょう、Amazing Fellows と書いてあります。
Amazing(驚くような、すごい、すばらしい) と 眠たいではずいぶん違いますが(笑)。
これがラストのセリフに効いてきていますね。


<蛇足1>
「総刺青は、内臓をとことん痛めつける。刺青をしょった人間が、夏でも長袖を着るのは、人目につかないようにするためもあるが、実はひどく寒がりになるせいもある。刺青をしょうと寒さがこたえるようになるのだ」(282ページ)
知りませんでした。

<蛇足2>
「大阪弁を喋るっていってたね」
「大阪かどうかは知らないけれど関西弁。」(404ページ)
するどい!
テレビの影響もあり、かなり入り混じってきていますが、関西の言葉も地域によって違うようなので、大阪弁とひとくくりにしないのはただしいですね。


タグ:大沢在昌
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チェーンレター [日本の作家 あ行]

チェーンレター (角川ホラー文庫)

チェーンレター (角川ホラー文庫)

  • 作者: 折原 一
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2021/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「これは棒の手紙です。この手紙をあなたのところで止めると必ず棒が訪れます。二日以内に同じ文面の手紙を……」水原千絵は妹から奇妙な「不幸の手紙」を受け取った。それが恐怖の始まりだった。千絵は同じ文面の手紙を妹と別の四人に送ったが、手紙を止めた者が棒で撲殺されてしまう。そしてまた彼女のもとに同じ文面の手紙が届く。過去の「不幸」が形を変えて増殖し、繰り返し恐怖を運んでくる。戦慄の連鎖は果たして止められるのか?


この作品は単行本時点では青沼静也(あおぬましずや)名義で出版されたものを文庫化にあたって折原一にしたようです。
積読にしている間に光文社文庫から改題の上、再文庫化されています。
題して「棒の手紙」

棒の手紙 (光文社文庫)

棒の手紙 (光文社文庫)

  • 作者: 一, 折原
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 文庫


棒の手紙ってなんだろなと思いますが、不幸の手紙です。
不幸の手紙を汚く書けば棒の手紙、って傑作ですよね。横書きだったのか! と思いました。
不幸の手紙が棒の手紙になって、さらに......というところはおもしろい思いつきだと思いました。

この点も含めて、この作品が折原一のものだとわかっている現時点で読むと、
「おお、いかにも折原一だ」
と思いながら読み進んでいくことになるわけですが、青沼静也の作品として手に取っていたら、あっさり騙されていたような気がします。

別名義にした理由として、あとがきで
「推理界からホラーに越境すると、ホラー・ファンには徹底的に無視されるんじゃないの?」と言われた
と書いてあるのですが、そうなんでしょうかね?

折原一の作品だと思って読むと、なかなか興趣があるのですが、ホラーとしてはどうでしょうか?
折原一お得意のどんでん返し連続技、ホラーには逆効果なような気がしました。
どんでん返しが続くと、理に落ちて、どんどん怖くなくなっていく気がします。
また折原一がよく使う ”狂気” も、ホラーにしてみたら、怖くないかもしれません。

あと、個人的にはあまり好きではない題材が扱われていたので(それがなにかはネタばれになるので伏せておきますが)、残念でした。



タグ:折原一
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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 [日本の作家 あ行]


舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「通りすがりの舞田ひとみですよ」中学生になった舞田ひとみは皮肉度も上昇!? 彼女は退屈な日々に倦む女子中学生三人組と共に刺激を求め日常に潜む謎に挑む! 募金詐欺の女は死体で発見され、激痩せした英語講師は幽霊を見たと言い張り、はたまたヤバすぎる誘拐事件にも巻き込まれ……。十四歳の青春と本格ミステリの醍醐味を詰め込んだ、シリーズ第二弾!


すでに角川文庫から改題のうえ再文庫化されていまして、それがこちら ↓。
「名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート」

名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート (角川文庫)

名探偵は反抗期 舞田ひとみの推理ノート (角川文庫)

  • 作者: 歌野 晶午
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2021/05/21
  • メディア: 文庫



舞田ひとみシリーズ、なわけですが、シリーズ第1作である「舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)も、「名探偵、初心者ですが 舞田ひとみの推理ノート」 (角川文庫)として再文庫化されています。
ちなみに、第3作も「コモリと子守り」(光文社)というタイトルだったものが、「誘拐リフレイン 舞田ひとみの推理ノート」 (角川文庫)として文庫化されています。

前作での舞田ひとみの位置づけは、必ずしも名探偵ぽくなく、舞田ひとみが放つせりふに触発されて、叔父である刑事の舞田歳三が推理して解決するというパターンでした。
今回は、この枠組みを離れて、別の学校に通る女子中学生3人組と一緒に活躍します。舞田歳三はこき使われていますが。

「白+赤=シロ」
「警備員は見た!」
「幽霊は先生」
「電卓男」
「誘拐ポリリズム」
「母」
の6編収録。

繁華街で募金詐欺と思しき女性を見張っていた語り手高梨愛美梨に、ストリートダンスをしていた舞田ひとみが声をかける。小学校のときの同級生として。流れで、濡れ衣を着せられそうなインドネシア人の冤罪を晴らしてあげる「白+赤=シロ」は、紹介編という感じでしょうか?
真犯人をつきとめることなく、冤罪を晴らすところで物語が終わるのは、非常に現実的というか、舞田ひとみのスタンスを知る上で重要な気がしました。

「警備員は見た!」は学校を舞台にした窃盗事件を扱っていて、タイトルが面白いですが、事件を解き終わったあとで、「今になって気づいた」とかいって、舞田ひとみが出してくる手がかりが楽しかったですね。

「幽霊は先生」は、1週間で一気に貧相な体になってしまったオーストラリア人英語教師の謎です。
謎解きそのものは、ミステリ的にしょぼいと言わざるを得ないと思いますが、ポイントは
「人の秘密を探るというのは、それはもうわくわくするのだけど、いざ秘密を知ってしまったら、こっちまで大変なものをしょいこんでしまうんだよね。刑事とか探偵とか、普通の神経じゃとてもつとまらないよ」(200ページ)
という舞田ひとみのセリフなのでしょうね。

「電卓男」は、語り手高梨愛美梨の弟が怪しい行動をとる真相をつきとめます。
「名探偵は反抗期」という改題後のタイトルに出てくる「反抗期」らしさが徐々に色濃くなってきているということでしょうか。もっとも、舞田ひとみというよりは、他の登場人物ですけどね。

「誘拐ポリリズム」は、その弟君が誘拐されるという大事件発生です。
面白い狙いの誘拐だとは思いましたが、労多くして......ではないかな、と思います。

最後の「母」に出てくる事件は、舞田ひとみが事故にあって入院した病院で、患者が失踪したというもので、偶然が多発された謎解きはあまり感心しないものの、作品集全体の位置づけはしっかりしているな、と思えました。
「母」はそのものズバリなタイトルというか、反抗期問題の中枢に位置する問題なのですが、高梨愛美梨本人の事件ではなく事件を通して愛美梨に訴えかけるというかたちになっていますね。

ということで、前作とは作品の建て付けを大きく変えた作品となっていました。
好みは前作ですが、「誘拐リフレイン 舞田ひとみの推理ノート」 も買ってありますので、期待して読みます。






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黄金の烏 [日本の作家 あ行]


黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

黄金の烏 八咫烏シリーズ 3 (文春文庫)

  • 作者: 智里, 阿部
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人間の代わりに「八咫烏」の一族が住まう世界「山内」で、仙人蓋と呼ばれる危険な薬の被害が報告された。その行方を追って旅に出た日嗣の御子たる若宮と、彼に仕える雪哉は、最北の地で村人たちを襲い、喰らい尽くした大猿を発見する。生存者は、小梅と名乗る少女ただ一人――。八咫烏シリーズの第三弾。


松本清張賞を受賞した「烏に単は似合わない」 (文春文庫)(感想ページはこちら)から始まる八咫烏シリーズ第3弾です。
第2弾である「烏は主を選ばない」 (文春文庫) (感想ページはこちら)から読むのにずいぶん間が空きましたが、ロンドンに持っていくつもりが間違えて日本において行ってしまったからで、日本に帰ってきたので続けて読んでいきたいと思っています。

今回は、雪哉の故郷垂氷郷(たるひごう)あたりで起こる事件-頭がおかしくなって怪力で人(烏)を襲う-を皮切りに、烏対大猿、烏の表社会対裏社会(谷間-たにあい-)、が描かれます。
虐殺現場に残された少女を怪しむところとか、ちゃんと雪哉のところへ若宮が宮廷からやってくるところとか、手堅いんですよね。
すごく心地よい。

この事件の構図やなりゆきがじゅうぶん面白いのですが、なによりこの作品で興味深いのは、この烏たちの世界(山内)のありようが、次第次第に読者に明らかになってくるところです。
外の世界、として人間がいる、という設定なのですね。
「山内に伝わる伝説では、八咫烏は山神に率いられて、この地にやってきたとされている。それにしても過剰ではないかと思えるほどに、山内にあるものは、外界にあるものを自分達の都合に合わせて、作り変えたようなものばかりだったのだ。外界を知る度に、若宮は漠然とだが、自分達の先祖は、山内に外の世界を再現しようとしていたのではないだろうか、と思うようになっていた。」(239ページ)
いいではありませんか、こういうの。物語世界がどんどん拡がっていく気配がします。
そしてそれと平仄を合わせるように、金烏、若宮のあるべき理由が考察されていきます。

ファンタジーは読みつけないのですが、こういう風に世界が構築されているのを垣間見ていくのはとても楽しいですね。物語の展開に合わせて、世界が姿を現していく場合は特に。
シリーズ展開でおそらくどんどん明らかになっていくのでしょう。

このあともシリーズは順調に続いているので、楽しみです。


<蛇足>
毎度のことで恐縮ですが、
「報告を鑑みるに」(287ページ)
とあるのが気になりました......
もう気にするほうがおかしいというか、気にしても仕方ないことだとわかっているのですが、気になるものは気になるんですよね。



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