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ブルーローズは眠らない [日本の作家 あ行]


ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)

ブルーローズは眠らない (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/03/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ジェリーフィッシュ事件後、閑職に回されたフラッグスタッフ署の刑事・マリアと漣。ふたりは不可能と言われた青いバラを同時期に作出したという、テニエル博士とクリーヴランド牧師を捜査することに。ところが両者と面談したのち、施錠されバラの蔓が壁と窓を覆った密室状態の温室の中で、切断された首が見つかり……。『ジェリーフィッシュは凍らない』に続くシリーズ第二弾!


2022年10月に読んだ4冊目の本です。
市川憂人「ブルーローズは眠らない」 (創元推理文庫)
「2018 本格ミステリ・ベスト10」第5位

「ジェリーフィッシュは凍らない」(創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズということで、警戒して読みますよね。
2つの視点から綴られるストーリーということである程度想像がつくのですが、作者は一段上手でした。
記憶力が悪くて覚えていないだけかもしれないのですが、これ世界初の試みではなかろうかと思うのです。
ここまで周到に組み立てるのは大変だっただろうな、と驚嘆。
ネタばれになるので、詳細を書けないのが残念なほどです。


ただ、ちょっとズルくないですか?←負け惜しみ
アンフェアとまでは言えないとは思うのですが、ズルいです←負け惜しみ。

負け惜しみついでに。
舞台は80年代のパラレルワールド的世界で、U国(地名などからしてアメリカ合衆国ですね)。探偵役がアリスと漣で、漣の出身はJ国(アサガオの話も出てきますが、明らかに日本)。
実は前作「ジェリーフィッシュは凍らない」を読んだ時も感じていたのですが、この設定だと会話は英語ですよね。
こうやって我々日本の読者に向けて出版されていますから、当然日本語で綴られているわけで、英語で会話や記録が行われていることを前提に考えると、(ミステリとしての本筋を離れたところが多いですが)突っ込みどころがあちこちにあるのです。それはある程度やむを得ない。
なので、それを逆手に取ってあると、ズルいと感じてしまうんですよね。

と、さんざんズルい、ズルいと騒いでおきながら、ですが、それでもこういう方向性の作品は大好きです。
快調に作品を発表されているようなので、追いかけていきます。

ところで、福井健太の解説によると、前作「ジェリーフィッシュは凍らない」の感想で伏せておいた日本の某有名作の名前が、同書の文庫本の帯には書かれているそうですね。
無駄なことをしていたな、と我ながら笑ってしまいました。





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擬傷の鳥はつかまらない [日本の作家 あ行]


擬傷の鳥はつかまらない

擬傷の鳥はつかまらない

  • 作者: 荻堂 顕
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/01/27
  • メディア: 単行本

<カバー裏側帯あらすじ>
あなたの絶望を確かめましょう
顧客の要望に応じて偽りの身分を与える「アリバイ会社」を生業とするサチのもとに、ある日、二人の少女が訪ねてきた。数日後、片方の少女がビルの屋上から身を投げ、サチは残されたデリヘル嬢・アンナを「門」の向こう側へと “逃がす” よう迫られる。サチはこの世界に居場所を失った者を異界へ導く “雨乳母(あめおんば)” だったのだ──。
なぜ、少女は死んだのか。死の道標を追う過程で浮上した〈集団リンチ殺人事件〉と少女たちの恩讐渦巻く関係とは。そして、サチの隠された過去とは一体……


2022年9月に読んだ4冊目の本です。単行本です。
第7回新潮ミステリー大賞受賞作。

タイトルにもなっている擬傷は
「鳥のなかには、敵の襲われた時に、弱っているふりをすることで捕食者を引き付け、他の仲間を逃がすという習性を持つものがいるそうだ。」(52ページ)
とオープニング早々説明され、物語的にはいろいろとイメージが重ね合わせられているのですが、主人公サチに「自分もその鳥のように、傷付いている誰かのことを逃してあげられるような優しい大人になりたい」と語った男友達の存在は一つの大きなポイントです。

サチの職業はメインは偽の身分を作り出すことながら、それとは別に “雨乳母(あめおんば)” と呼ばれ、この世界に居場所を失った者を異世界への門まで連れていく仕事もやっている。
その異世界は「あなたが歩んだかも知れない人生の中で、あなたが最も幸福になったであろう選択が為された世界。あなたが手に入れられなかった可能性が実現した世界。」(291ページ)

異世界へ導く存在、という特殊設定が持ち込まれていますが、異世界は向こう側の話であって、物語はあくまで普通の現実世界を基本に展開します。

読み始めてしばらくは、主人公の設定とか文体とかから、(異世界は出てくるものの)よくある女探偵ハードボイルドものか、と思いました。
女探偵ハードボイルドには、一つの典型的なパターンがあって、桐野夏生の江戸川乱歩賞受賞作「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)がその代表例だと思いますが、その流れの一作かと思ったのです。

「長谷部の『可哀想』という思いは、おそらく本物だ。彼は普通の人間で、悪人ではない。ただ、弱いだけ。弱いからこそ、さらに弱い人間を傷つける」(122ページ)
あるいは
「あいつは、自分以外の誰かのために戦う人間だった。おれは、兄貴を尊敬してる」
「でも、いつかは折れてしまうこともあるはずよ」
「別にいいんです。疲れたなら、剣を置いてもいい。正義の味方なんか、やめていい。それでも、ヒーローだったことは変わらないんすよ」(320ページ)
といった述懐ややり取りなども、気が利いていて目をひきますが、典型的といえば典型的。

典型的な女探偵ハードボイルドも、それはそれでおもしろいのですが、この作品はもう一つ要素が加えられています。
それはバディ物。
主人公サチが望んだわけではないものの、組まされることになったデリヘル「プリズム」の店長久保寺のエピソードには没頭させられました。
サチも含め、主要人物の過去がストーリーに絡んでくるのですが、バディ形式にしたことで興味が倍増したように思います。

また注目の作家ができてしまいました。


<蛇足1>
「金遣いが荒くなって、贅沢が習慣になる頃には、段々とお茶を引くようになってくる。」(110ページ)
知っているはずの言い回しですが、意味がわからず、調べてしまいました。記憶力減退に注意ですね。暇という意味ですが、お茶を挽く(ひく) と書くのが普通な気もします。

<蛇足2>
「『最近の本は文字が小せえなあ』
 ー略ー
『そうは思わねえか、久保寺君?』
『……はい』
『はい、じゃねえよ。俺が歳取ったんだよ』」(128ページ)
軽妙なやりとりといったところですが、最近の本って逆で、昔と比べると文字が大きくなっていますよね(笑)。

<蛇足3>
「顔の青い鳥が、ひとりで歩いている私のことを睨み付けた。図鑑でしか見たことがなかったが、ヒクイドリだとわかった。」(339ページ)
この作品「擬傷の鳥はつかまらない」(新潮社)を読む少し前に、「火喰鳥を、喰う」 (角川ホラー文庫)を読んでいたのでおやっと思いました。





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オーパーツ 死を招く至宝 [日本の作家 あ行]


オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

オーパーツ 死を招く至宝 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 蒼井 碧
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/01/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
貧乏大学生・鳳水月(おおとりすいげつ)の前に現れた、自分に瓜二つの男・古城深夜(こじょうしんや)。鳳の同級生である彼は、オーパーツ―当時の技術や知識では制作不可能なはずの古代の工芸品―の、世界を股にかける鑑定士だと自称した。水晶髑髏に囲まれた考古学者の遺体に、密室から消えた黄金シャトルなど、謎だらけの遺産をめぐる難攻不落の大胆なトリックに、変人鑑定士・古城と鳳の “分身コンビ” の運命は?


2022年8月に読んだ12作目(13冊目)で最後の本です。

田村和大「筋読み」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
くろきすがや「感染領域」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
が優秀賞を受賞した第16回 『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作です。

「筋読み」「感染領域」が割と気になる(いい意味です、念のため)作品だったので、それを上回るはずの大賞受賞作この蒼井碧 「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)には期待するところ大。
オーパーツというのも題材として面白そうですしね。

第一章「十三髑髏」は、タイトル通りずばり十三個のクリスタル・スカルを扱っています。
十三個の髑髏が並ぶ密室の殺人現場。
トリックそのものは既存のものに一ひねりしたものなのですが、道具立てのおかげでとても楽しいものに仕上がっています。

第二章「浮遊」は黄金シャトル。プレ・インカ期に作成された、スペースシャトル型(!)の黄金細工。
こちらも密室状況ですが、登場人物の心理状況が納得できなかったのが残念。

第三章「恐竜に狙われた男」は恐竜土偶。
このトリックは既存のもの使っているのですが、ちょっと雑な印象。書かれている方法で実行できるか疑問があります。

第四章「ストーンヘンジの双子」はそのままストーンヘンジ。巨石遺構を模して作り上げた巨石庭園が舞台で、使われているトリックが爆笑もののバカバカしさ(誉め言葉です)。

とここまでだと普通の連作なのですが、おそらくこの作品の評価はエピローグにかかってくるのだと思います。
いかにもオーパーツらしいことがこのエピローグには書かれているのですが、上手くつながったというよりは、単に投げ出してしまった印象。
それらしく匂わしてはいるものの、匂わせは所詮匂わせにすぎないのではないかと思います。

と、こうしてみると、蒼井碧のこの「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)が大賞で、「筋読み」「感染領域」が優秀賞というのが一番の謎かもしれません。
そして大森望による解説で、受賞から出版に至る経緯が書かれているのですが、これが一番の驚き。『このミステリーがすごい!』大賞がそういう賞なのだ、ということは理解しておかなければならないのでしょうが、あまりフェアな賞とは思えないですね。
応募段階での原稿が少々気になります。



<蛇足1>
「居た堪れない話だな」(143ページ)
いたたまれない、を漢字で書いているのをはじめてみた気がします。こう書くのですね。

<蛇足2>
「いくら琥珀の中で保存されようと、遺伝子は時間の経過とともに劣化する。フィクションの世界では保存された恐竜の遺伝子からクローンを生み出す描写が往々にして見られるが、理論上は限りなく不可能に近い。」(216ページ)
なるほど、そうなんですね。



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小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 [日本の作家 あ行]


小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 綾見 洋介
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/07/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大学生の白木は、病死した母の友人・ハルに会うため、北海道の東羽帯駅を訪れる。しかしそこは人の住む集落さえ消えた、1日の利用者が0人の秘境駅。ハルは30年前に起きた殺人事件を機に行方不明になっており、唯一彼を知る老婆までもが白木の前から失踪してしまう。東羽帯に隠されていると噂の裏金を探す鉄道マニアたちにも巻き込まれ、旅情豊かな、ひと夏の冒険サスペンス劇が始まる!


2022年4月に読んだ4作目(5冊目)の本です。
2017年「このミス大賞」隠し玉。
第15回 『このミステリーがすごい!』大賞に応募された作品を改稿したもので、このときの応募作からはほかに
志駕晃「スマホを落としただけなのに」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
桐山徹也「愚者のスプーンは曲がる」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
が隠し玉として出版されています。

視点人物は母親を亡くしたばかりの大学生白木恭介と、鉄道マニアの吉井悠司。
母からの頼まれごとを成し遂げるために人探しに秘境駅・東羽帯へ向かう恭介と、趣味で向かう吉井。二人の行程は最初にすれ違った後なかなか交差しませんが、どうなるのかなと興味をひかれて読み進みます。

焦点となる東羽帯駅ですが、架空の駅のようです。
1日の利用者が0人で駅が存続しているのが不思議ですが、こういう駅、全国にあるのでしょうか?
人探しが、やがて国鉄の労働組合をめぐる狩勝の裏金を巡る(過去の)殺人事件とその裏金探しへとつながっていきます。

物語前半はゆっくり進みます。それこそ、秘境駅めぐりにふさわしい、と言いたくなるような。
廃村になったような集落での人探しなど難航するに決まっていますし、展開が遅いのは想定の範囲内ではあるのです。
恭介と吉井の動きかたも、そのスローさに似つかわしい感じがします。
ところが、その後畳みかけるように急展開し始めます。
そして明かされていく事実が、それまでの物語のトーンと落差が大きく、驚きというよりも戸惑いを感じてしまいました。
解説で村上貴史も指摘しているように、伏線回収の手際が心地よく、ミステリのセンスを感じさせてくれましたので、このあたりが改善されればすごく楽しみな作家になるだろうなと思いました。

タイトルの「小さいそれがいるところ」というのは、羽帯駅(こちらは実在の駅名です)を Wikipedia で調べれば載っているので、書いてしまってもネタばれには当たらないかもしれませんが、念のため肝心のところを色を変えておきますと、アイヌ語に由来し「それ」というのはヘビのことだそうです。

解説を読んで驚いたのですが、作者・綾見洋介は鉄道ファンではないらしいのです。
羽帯の名前の由来から、これだけのストーリーを作り上げたのでしょうか? すごいですね。
この点でも期待の作家といえるかもしれません。



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半七捕物帳〈1〉 [日本の作家 あ行]


半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

半七捕物帳〈1〉 (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 岡本 綺堂
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2001/11/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
岡っ引上がりの半七老人が、若い新聞記者を相手に昔話を語る。十九歳のとき、『石灯篭』事件で初手柄をあげ、以後、二十六年間の岡っ引稼業での数々の功名談を、江戸の世態・風俗を織りまぜて描く、捕物帳の元祖!


2022年4月に読んだ3作目(4冊目)の本です。
今は新装版が出ていまして上の書影も新装版のものです。手元にあるのは昭和60年11月に出た旧版の初版。カバーにはバーコードもなく、値段は480円。安かったのですね。
半七捕物帳は、著者岡本綺堂が江戸を背景にしたシャーロック・ホームズ物語を書こうとして始めたもの、とあちこちに書かれていますし、この本の都筑道夫の解説にもそうあります。
これが世の中に数多ある捕物帳の始祖。
今更感あるかもしれませんが「半七捕物帳〈1〉」 (光文社時代小説文庫)。まとめて読むのは初めてです。
本家?シャーロック・ホームズを大人もので読みだしたこともあり、いよいよこちらに取り掛かってみようか、という感じでした。

そもそもの
「捕物帳というのは与力や同心が岡っ引きらの報告を聞いて、更にこれを町奉行所に報告すると、御用部屋に当座帳のようなものがあって、書役が取りあえずこれに書き留めて置くんです。その帳面を捕物帳といっていました」(34ページ)
と半七が説明しています。
ここから来ていたのですね。

第一作である「お文の魂」は、いろいろなアンソロジーにも収録されている作品なので何度も読んだことがあります。
しかし今まで一度も感心したことはありませんでした。
一応色は変えておきますがネタバレします。
不思議な現象が起こる怪談話なのですが、その解明が「嘘でした」というのですから、ミステリ好きからしたら落胆しますよね。
今回も正直なんだかなぁと思ったのです。

ところが、そのあとの数作を読んで考えが変わりました。
「石燈籠」も一種の不可能犯罪なのですが、その解明も「プロの軽業師の仕業」というのですから、がっくりきます。

次の「勘平の死」は、極めて標準的な折り目正しいミステリになっています。

ここでふと立ち止まってしまいました。
最初の2作、ミステリでは禁じ手に近い真相となっています。
シャーロック・ホームズを日本に移し替えて日本に新しいタイプの読み物を作ろう、そういう意気込みのもと書かれた作品のはずです。
ミステリの手法を使いこなせることは第3作をみれば明らか。であれば、最初の2作は意図的なもの。わざと禁じ手に近い手法を導入したと考える必要があると思います。当時ミステリがあまり一般的ではなかったという背景もあるでしょう。

そういう目で見ると、ミステリとしては破格の「お文の魂」も「石燈籠」も、ミステリらしい「勘平の死」も、舞台となった江戸当時の常識と非常識、非合理と合理の対比が描かれていると言えます。
捕物帳は江戸の風物を描くものだという意見がありますが、その江戸はミステリの構文を通して描くものだということがわかります。

そのあとの諸作も、そう思いながら読んでいくと興趣が増したように思います。
怪異を合理的に解決する、という道筋を捕物帳に持ち込んだのも綺堂でした、というよりむしろ、捕物帳とは怪異を合理的に解体することによって江戸を照射するミステリである、ということなのでしょう。

なかでも印象深かったのはやはり「半鐘の怪」。
いやあ、堂々と「動物犯人」をやっているではありませんか。
岡本綺堂、「今度はどうやって読者を驚かせてやろう」と楽しみながら書いたのではないかな、と考えて楽しくなります。
(と、こう考えると、たくさんあるシリーズ中に、正真正銘の怪談-合理的な解決のつかない怪談-を岡本綺堂が忍ばせても、またニンマリしちゃいそうです)

じっくり、ゆっくり、シリーズを読み進んでいきたいです。


<蛇足1>
「それでも怖い物見たさ聞きたさに、いつもちいさい体を固くして一生懸命に怪談を聞くのが好きであった。」(9ページ)
「お文の魂」が発表されたのは大正六年(1917年)ということですが、もうそのころから「一生懸命」という言い方があったのですね......

<蛇足2>
「酉の市(まち)の今昔談が一と通り済んで、時節柄だけに火事の話が出た。」(142ページ)
てっきりこれは酉の市(いち)と読むもの、と思っていたので調べました。
古くは「酉のまち」といい、「お酉様」と称して親しまれている。 「まち」は祭りの意。
なるほど。「まち」というのも趣があっていいですね。

<蛇足3>
「それにしても、おみよの書置が偽筆でない以上、かれが自殺を企てたのは事実である。」(211ページ)
おみよは言うまでもなく女性ですので、ここの「かれ」は女性を指す言葉となります。
彼は男性、彼女は女性、というのが今の一般的な使い方ですが、昔は違ったのですね。
彼、彼女については岡本綺堂の例も含めおもしろいHPを見つけたのでリンクを貼っておきます。
綺堂事物(http://kidojibutsu.web.fc2.com/contents/kare.html







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Another エピソード S [日本の作家 あ行]


Another エピソード S

Another エピソード S

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/12/20
  • メディア: 単行本

<帯(裏表紙側)あらすじ>
「見えるの? きみには、僕が」
「見える……けど」
答えて、彼女は右の目をすっと細くする。
左の目には蒼い義眼の、冷ややかな光が。(本文より)
1998年夏休み――両親とともに海辺の別荘へやってきた見崎鳴、15歳。そこで出会ったのは、かつて鳴と同じ夜見山北中学の三年三組で不可思議な〈現象〉を経験した青年・賢木晃也の幽霊だった。謎めいた古い屋敷を舞台に――死の前後の記憶を失い、消えたみずからの死体を探しつづけている幽霊と鳴の、奇妙な秘密の冒険が始まるのだが……。


読了本落穂拾いです。
手元の記録によると2016年9月に読んでいます。
単行本で読みました。
上で Amazon から引用している書影とカバーのデザインが違います。
遠田志帆さんの装画になっていまして、こちらの方が好みですね。

「Another」(上)(下)(角川文庫)(感想ページはこちら)の続編というのか、スピンオフというのか。帯には「W映像化された未曽有の学園ホラー 満を持して続編登場!!」となるので、続編でいいのでしょうね。

前作の感想で、「ところでこの作品、シリーズ化が可能だと思うのですが、そのおつもりはないのでしょうか??」と書いていましたので、まさに待望の続巻。
本格ミステリも好きですが、綾辻行人のホラーも好きなんですよ。

同じ地続きの世界で、登場人物も共通して鳴が登場しますが、「Another」(上)(下)とはかなり手触りが違います。

物語の額縁として、鳴と榊原恒一が登場し、全編とのつなぎ役を果たしますが、主人公はこの二人というよりは、賢木晃也となりましょうか。
この賢木晃也という人物、死んでいまして幽霊(!)
幽霊と鳴の出会いと幽霊の回想がメインのストーリーです。

既に死んでいるから、というわけではないでしょうが、物語全体が静かな佇まい。
独特の雰囲気に溢れていますが、不穏な雰囲気(何かが起こるぞ、起こるぞ)という感じではなく、静謐。

「驚愕の結末!!」と帯に書いてあり、確かに綾辻行人らしく仕掛けてはあるのですが、そういう仕掛けが暴かれてもなお、静謐な印象が変わらない点がポイントだなと思いました。
こういうタイプの小説の場合、「驚愕の結末」を迎えると作品の印象が変わってしまうことが多いように思います。でも、この「Another エピソードS」 (角川文庫)の場合は、どんでん返しをしても印象が変わらない。
実はこれってすごいことなんじゃないかな、と思えます。

その仕掛けは、ちょっと無理が多いかな、という印象を受けました。
「アライ」さんのくだりは苦笑してやり過ごすとしても、メインの仕掛けは無理なんじゃないかな、と。
ぼかして書いておくと、違いを埋めることはできたのだろうか、と不思議に思うのです。それをにおわせるようなところもさほど見受けられませんでしたし(もっとも謎解きミステリではないので、手がかりをばらまいておいて回収、という手続きを踏む必要はないのですが)。
究極的には本人の意識の問題だから、という弁護も成立するとは思うのですが、ちょっと不思議です。

とはいえ、しっかりと作品世界に浸ることができたので、満足です。

当然文庫化されていまして、書影はこちら↓です。

Another エピソードS (角川文庫)

Another エピソードS (角川文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/06/18
  • メディア: 文庫


すでに続刊「Another 2001」(KADOKAWA)も出ていて楽しみです。


タグ:綾辻行人
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虹を待つ彼女 [日本の作家 あ行]


虹を待つ彼女

虹を待つ彼女

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/09/30
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
二〇二〇年、人工知能と恋愛ができる人気アプリに携わる有能な研究者の工藤は、優秀さゆえに予想できてしまう自らの限界に虚しさを覚えていた。そんな折、死者を人工知能化するプロジェクトに参加する。試作品のモデルに選ばれたのは、カルト的な人気を持つ美貌のゲームクリエイター、水科晴。彼女は六年前、自作した “ゾンビ を撃ち殺す”オンラインゲームとドローンを連携させて渋谷を混乱に陥れ、最後には自らを標的にして自殺を遂げていた。
晴について調べるうち、彼女の人格に共鳴し、次第に惹かれていく工藤。やがて彼女に “雨” と呼ばれる恋人がいたことを突き止めるが、何者からか「調査を止めなければ殺す」という脅迫を受ける。晴の遺した未発表のゲームの中に彼女へと迫るヒントを見つけ、人工知能は完成に近づいていくが――。


読了本落穂ひろいを続けます。
2017年10月に読んでいます。
単行本で読みました。第36回横溝正史ミステリ大賞受賞作。

プロローグが2014年となっていて水科晴の惹き起こした騒動が描かれるのですが、ここがとても印象的です。
ここをメインに据えて、すなわちエンディングをこの場面にして、長編を作ることも可能なんじゃないかなと素人ながら思えてしまうくらいのシーン。
この鮮烈なイメージを引きずったまま、すっと2020年に時は移り、主人公である工藤の視点となります。

死者を人工知能化するプロジェクトということで、その対象となった水科晴の人となりを探り、作成したゲームの意図を探り、そして謎めいている彼女の恋人を探す。
人工知能やゲームといった新しい衣をまとってはいますが、書かれている内容は伝統的なものです。
個人的に、作中人物の意図を探る、小説・映画といった創作物の意図を探る、というストーリーがあまり好きではないので、この作品に対しても点が辛くなってしまうのですが、それでもラストシーンの鮮やかさは好印象です。
プロローグで見えた景色とエピローグで見える景色。この二つは全く別物であるのに、共通したいわば透明感と言えるようなものを感じたのは、作者の狙い通りなのでしょう。

違うパターンの作品でこの作者の世界を味わってみたいと思いました。

ところで。
前回の「ジェリーフィッシュは凍らない」(創元推理文庫)と版元は違うのですが、この「虹を待つ彼女」にはカバーに英文タイトルが書かれています。
a girl waiting for a rainbow
いろいろ解釈は可能なのだとは思いますが、ここは the girl と定冠詞でなければならないように思いました。

既に文庫化されているので、そちらの書影も掲げておきます。
カバーのイラスト、単行本時と同じイラストをずらして使っているようですね。
非常に印象的できれいなイラストなのでいいことですね。

虹を待つ彼女 (角川文庫)

虹を待つ彼女 (角川文庫)

  • 作者: 逸木 裕
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/05/24
  • メディア: 文庫







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ジェリーフィッシュは凍らない [日本の作家 あ行]


ジェリーフィッシュは凍らない

ジェリーフィッシュは凍らない

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/10/09
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
特殊技術で開発され、航空機の歴史を変えた小型飛行船〈ジェリーフィッシュ〉。その発明者であるファイファー教授を中心とした技術開発メンバー六人は、新型ジェリーフィッシュの長距離航行性能の最終確認試験に臨んでいた。ところが航行試験中に、閉鎖状況の艇内でメンバーの一人が死体となって発見される。さらに、自動航行システムが暴走し、彼らは試験機ごと雪山に閉じ込められてしまう。脱出する術もない中、次々と犠牲者が……。
二十一世紀の『そして誰もいなくなった』登場!
選考委員絶賛、精緻に描かれた本格ミステリ。


読了本落穂ひろいです。
2017年11月に読んでいます。
第26回鮎川哲也賞受賞作。
「2017 本格ミステリ・ベスト10」第3位
2016年週刊文春ミステリーベスト10 第5位
「このミステリーがすごい! 2017年版」第10位

各種ランキングにも入っていることからも出来栄えが伺われますが、これは傑作です。
個人的には鮎川哲也賞の中では青崎有吾の「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)がダントツ一位なのですが、それに迫る傑作だと思っています。

上で引用したあらすじにも帯にも「21世紀の『そして誰もいなくなった』登場!」と書かれています。
限定された舞台で次々と殺されていく登場人物という意味でまったくその通りではあるのですが、「そして誰もいなくなった」そのものよりも、同じく「そして誰もいなくなった」にインスパイアされた日本の某有名作の方を強く連想しました(伏せる必要もないくらい明らかではありますが、念のため?書名は書かずにおいて amazon のリンクを貼るだけにしておきます)。

大胆な発想に支えられた本格ミステリで、選考委員の近藤史恵が指摘しているように「謎が解かれたときに、これまで見えていた光景がまるで違って見えるというのはミステリの醍醐味である」と感じます。

探偵役の決め台詞が
「あんた、誰?」(282ページ)
というのも素晴らしい。
そこから繰り出される解決偏は、ミステリを読む喜びにあふれています。

なにより素晴らしいなと思ったのは、この作品のメインアイデアが「そして誰もいなくなった」 + 別の某古典 だと思われるからです。
そしてそのことが、日本の某有名作への見事な返歌となっている。
ミステリの肥沃な土壌の上に、しっかりと伝統を受け継いで新しい美しい花を咲かせている。
こういうの、とてもいいですよね。
作者はこの後も優れた作品を出しておられるようで、楽しみな作家さんが増えました。


最後に、勘のいい方は読後にお願いしますと注書きが必要かもしれないので、未読の場合は<ここまで>というところまで飛ばしてください。

<ネタバレになってしまうかも>
創元推理文庫ですと日本人作家の作品でも英文タイトルがあって、それぞれおもしろいのですが、この「ジェリーフィッシュは凍らない」は単行本ながら英文タイトルがつけられています。
The Jellyfish never freezes
ジェリーフィッシュ(日本語だとくらげです)とは、作中に出てくる気嚢式浮遊艇「ジェリーフィッシュ」のことを指すのですが、であれば通例、英語では主語は複数形のはずです。
(The + 単数形 で「~というものは」と一般的なことを表す用法もありますが、複数形が普通の使い方だと思われます)
Jellyfish の複数形は、Jellyfish、Jellyfishes、2パターンあるようですが、動詞に s がついていますので単数形であることがわかります。
とするとこの意味は、一般的に「ジェリーフィッシュは凍らない」と述べたのではなく、特定のジェリーフィッシュを指して「凍らない」と言っていることになります。
犯人の動機を考えると、ここでいう「ジェリーフィッシュ」は......と考えて、とても含蓄深いいい英文タイトルだと思いました。
<ここまで>



既に文庫化されているので、そちらの書影も掲げておきます。

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

  • 作者: 市川 憂人
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: 文庫




<蛇足>
「事態が予想外の、極め付けに面倒な方向に転がり始めたのをマリアは感じた。」(56ページ)
語源からして「極め付け」ではなく「極め付き」が正しいらしいのですが、「極め付け」も相当広まっていますよね。



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神の値段 [日本の作家 あ行]


神の値段 (宝島社文庫)

神の値段 (宝島社文庫)

  • 作者: 一色 さゆり
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/01/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
マスコミはおろか関係者すら姿を知らない現代芸術家、川田無名。ある日、唯一無名の正体を知り、世界中で評価される彼の作品を発表してきた画廊経営者の唯子が何者かに殺されてしまう。犯人もわからず、無名の居所も知らない唯子のアシスタントの佐和子は、六億円を超えるとされる無名の傑作を守れるのか――。美術市場の光と影を描く、『このミス』大賞受賞のアート・サスペンスの新機軸。


2022年3月に読んだ6作目(7冊目)の本です。
第14回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作

典型的なお勉強ミステリ、お仕事ミステリの文法に則って書かれています。
作者は芸大出のかたで学芸員までされているということで、美術界、とくに現代アートのビジネスの様子が活写されていて勉強になります。
いやあ、すさまじい世界です。

「現代アート作品では、作家の手が全く入っていなくても問題ないのだと唯子は言っていた。」(110ページ)
なんて書かれていて驚愕。

タイトル「神の値段」は、大きく出たものだとも思いますが、直感的でよいと思いました。
「神」は
「美術品を集めるのは、究極の道楽です。金のかかるゲームであり、一種の宗教みたいなものだ。いえ、冗談ではありません。先生は私の神で、私は先生の信者だ。だとすれば先生の作品はさしずめ、信仰の商品化かな」
「ある宗教家は、幸福な人に宗教は分からないと言いますが、私もその通りだと思います。もとからすべての満足し幸福であれば、アートなんかに入れ込みません。アートを買う金持ちというのは、好奇心が強く柔軟で、車や宝石では満たされないんです。だからこのゲームに嵌まり込んでしまいます。上がりがあるかどうかも分からない、ただ神を求めるゲーム、悟りを求めるゲームが、長い歴史にわたって文化として営まれてきました。」(297ページ)
と説明されるまでもなく、作品を生み出す芸術家が神にたとえられているわけです。
一方の「値段」は
「価格というのは、需要と供給のバランスに基づいた客観的なルールから設定される。一方で値段というのは、本来価格をつけられないものの価値を表すためにの所詮比喩なんだ。作品の金額というのは売られる場所、買われる相手、売買されるタイミングによって、常に変動し続ける」(337ページ)
として価格と値段の違いが語られています。美術界ではこういう区別しているのでしょうか?
ちょっと素直にはうなずけない説明です。
うなずけないものの、このタイトルは、芸術品を対象とするマーケットについていろいろ考えるのによいきっかけとなる道しるべのように思えます。

ミステリとしてみた場合、残念ながら大きな不満が残ってしまいます。
ミステリ部分も、きわめて文法通りだからです。
ここまで型どおりだと、サプライズがまったくなくなってしまいます。

ところで、この作者、桐野夏生の乱歩賞受賞作「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)を読んだことあるのかな?
ふと気になりました。

専門知識を生かしつつ、今後はミステリとしての構図にも力を入れていただければと希望します。


<蛇足1>
「松井はよくこんな風に唐突な質問を遠慮なく投げかけてくるが、それは空気が読めないせいではない。おそらく長い海外生活のうちに身についた強みであり、怖いものなしの率直さである。」(22ページ)
なかなか議論を呼びそうな文章だなぁと思って読みました。

<蛇足2>
「だってこの業界では、むしろおネエであることがひとつのステータスじゃない。羨ましいくらいだよ。」(22ページ)
美術界というのは、そうなんでしょうか?

<蛇足3>
「佐和子さんはどうしてここで働くことになったんですか」
「どうしてだろうね」
 お茶を濁したあと頬杖をついて、人差し指で適当にパソコンのキーボードを叩いた。(23ページ)
とても紛らわしい表現ではありますが、ここは「お茶を濁す」ではなく「言葉を濁す」ではなかろうかと思いました。 

<蛇足4>
「無名先生のアートは唯子さんが育てて、唯子さんがすべて司っているって本当ですか。だから無名先生は売れているって」
「そんなわけないじゃない。無名が私を食べさせているのよ。私が無名をたべさせてるんじゃないわ」
 思いがけずロマンチックな話を聞かせてくれた唯子のことを、信頼し始めている自分がいた。(26ページ)
うーん、このやりとり、ロマンティックとは思えなかったのですが。
あるいは書かれていないだけでロマンティックな話が出ていたという含意なのでしょうか?

<蛇足5>
「唯子のギャラリーでは、オーナーの采配ひとつで給料を含めた全事項が決定される。」(31ページ)
「こういうのを、いわゆるブラック企業と呼ぶのだろうか。」(32ページ)
労働実態からしてブラックだと思いましたが、ここのギャラリー、企業だったのでしょうか?
このようなギャラリー、法人化しているケースが多いのでしょうか?
まあ、法人化していたほうがなにかと都合がいいのかもしれませんね。

<蛇足6>
「私たちは自分の死を見ることができないわけですよ。死んだら自分の物語は終わってしまうから、そのあとの世界を見ることはできない。だからいつも死ぬのは他人なんです。自分の死というのは観念でしかない。」(239ページ)
現代アートの創始者とされるマルセル・デュシャンの名言「されど死ぬのはいつも他人」を言い換えたものです。
こういう言葉があるんですね。

<蛇足7>
「過去の作品管理や回顧展を手伝う財団としての経営に切り替えるために、話を進めているようだった。」(336ページ)
財団でも「経営」というのでしょうか?




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天空の少年探偵団 [日本の作家 あ行]


天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

天空の少年探偵団 (創元推理文庫)

  • 作者: 秋梨 惟喬
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/08/11
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
君たち、夏休みの宿題は順調かい?──交番の鈴木さんが持ちかけてくれた天空館行き。僕らはねじり鉢巻で宿題を片づけ、噂の邸宅に意気揚々と乗り込んだ。ぜひ少年探偵団に会いたいと駆けつけたおじいさんおばあさんと合流し、賑やかな一夜を過ごしたところまではよかった。でも朝起きたら、あんなに愉快そうだった巨体のおじいさんが亡くなっていたんだ。しかも“不可能状況”で!


読了本落穂拾いを続けて、今回は2016年2月に読んだ、秋梨惟喬の「天空の少年探偵団」 (創元推理文庫)
前作「憧れの少年探偵団」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)を楽しんで読んだので期待して読みました。

今感想を書こうとしてパラパラめくってみて驚いたのが、語り口。
探偵団の一員(発起人?)で小学六年生という設定なのですが、まあ全体に爺臭い(笑)。
TKOの木下とか、はんにゃやフルポンといったお笑い芸人の名がたとえで出てくるのはよいとしても、成田亨、石ノ森章太郎は小学生には厳しいでしょう。これはまだ子供向けの特撮ヒーロー関連でOKと甘く見積もったとしても、柳生博とか柳生但馬守ときたら完全アウトですよね。

少年探偵団の縁起は冒頭25ページくらいからさらっと語られます。
笑ってしまったのは
「未菜美は名探偵は好きだけど、乱歩の少年探偵団物のことは馬鹿にしていたからね。」(26ページ)
という箇所。いや、子供の頃のぼくなら正直未菜美さんに激しく同意しますよ。
未菜美は別のところでも少年探偵団物を引き合いに出していまして
「秘密の地下道があるとか、壁が回転するとか、部屋自体がエレベーターになってるとか、天井が下りてきて人を押し潰すとか、そんなのありえないじゃん」
「怪人二十面相はよく使ってるよ」
「二十面相はいいのよ。もともと趣味でやってる人なんだから」(166ページ)
なんてところでは笑い出してしまいました。

前作「憧れの少年探偵団」の感想で、
「ミステリとしての趣向もなおざりにせず、凡庸な日常の謎に堕してしまわないようにお願いしたいです。」などと書いてしまいましたが、この「天空の少年探偵団」が扱うのは密室殺人!

と紹介するのはこのあたりにしないと、この企みに満ちた作品の鑑賞の妨げになるかもしれません。
それでもあえて書いておくとすると、少年探偵団物の弱点をうまく利用していることと、館もの、密室ものの難題の一つに豪快な解決を与えていること、でしょうか。

あとがきをみると、続編が期待できそうなのですが、その後刊行されていませんね。
読みたいので、ぜひ、ぜひお願いします。
もろこしシリーズも、ぜひ。




タグ:秋梨惟喬
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