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ロートケプシェン、こっちにおいで [日本の作家 あ行]


ロートケプシェン、こっちにおいで (創元推理文庫)

ロートケプシェン、こっちにおいで (創元推理文庫)

  • 作者: 相沢 沙呼
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/01/29
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
せっかくの冬休みなのに、酉乃初と会えずに悶々と過ごす僕を、クラスメイトの織田さんはカラオケへと誘う。当日、急に泣きながら立ち去ってしまった彼女にいったい何があったの? 学内では「赤ずきんは、狼に食べられた」と書き残して不登校となった少女を巡る謎が……。僕は酉乃に力を借りるべく『サンドリヨン』へと向かう。女子高生マジシャン・酉乃初の鮮やかな推理、第二集。


読了本落穂ひろい。なのですが、手元の記録から漏れていまして、いつ読んだのかわかりません......
相沢沙呼「ロートケプシェン、こっちにおいで」 (創元推理文庫)
鮎川哲也賞受賞作である「午前零時のサンドリヨン」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2作です。
タイトルのロートケプシェンというのは赤ずきんちゃんのこと(ちなみに前作のサンドリヨンはシンデレラ)。
文庫カバーのイラストにも赤ずきんが描かれています。
早い段階で出てくる単語なのですが、最初のうちは説明されず、「スペルバウンドに気をつけて」249ページで、ケーキの名前をきっかけとして説明されます。

プロローグ
アウトオブサイトじゃ伝わらない
ひとりよがりのデリュージョン
恋のおまじないのチンク・ア・チンク
スペルバウンドに気をつけて
ひびくリンキング・リング
帰り道のエピローグ

という構成になっていまして、連作短篇集に近い長編ですね。

冒頭に
一、奇術を演じる前に、現象を説明してはならない。
二、同じ奇術を二度繰り返してはならない。
三、トリックを説明してはならない。
というサーストンの三原則が掲げられています。
カッコいい。
なんですが、別に作中で使われるわけではないんですね......
前作にも掲げられていたでしょうか? 確認しなきゃ。

メインは酉乃初と僕の物語で、その部分は Blue Back と銘打たれています。
もう一つ、Red Back と銘打たれたパートが各話の冒頭に掲げられており、あたしの一人称で、トモという女子の視点で語られます。

各話はいわゆる日常の謎的な謎解きものになっています。
いずれも、謎解きの場面では酉乃初などがマジックを関係者に披露してみせることがアクセントになっています。

Blue Back と Red Back に直接的なつながりがないことから、全体を通して、トモの物語が浮かび上がる、という趣向であることが予測できます。
文芸部が発行している「十字路」という冊子が繰り返し出てくることも、そのことを裏付けてくれているようです(トモは文芸部に所属している模様)。
となると、まずなんらかの仕掛けが忍ばされているだろう、という推測が容易に立つわけで、この点の受け手にとっての成否で作品の印象は大きく変わるでしょう。
個人的には不発、というか、少々小手先のテクニックでかわそうとしている、というような印象を受けてしまいました。

すこしずつ僕が、そして酉乃初も成長していく、というのがミステリ部分を除いたメインとなっているシリーズですが、この二人の関係がどうも読んでいて落ち着かない。
青春時代特有の過剰な自意識がうまく描かれているからこそ、だとは思いますが、少々僕の感覚や行動になじめない点があることもその要因ですね。
このあたりは、読む人によって感じ方が変わってくるのでしょう。

ところで、各話のタイトルにカタカナが目につきますが、いずれもマジックの名称のようです。
作中で説明されているものもありますが、説明されていないものもあります。
チンク・ア・チンクやリンキング・リングは聞いたことがあったのですが、その他のものは知りませんでした。
アウトオブサイトやデリュージョンは普通の英語の語句として一般的に使われるので、マジックの名前と気づきませんでした。
スペルバウンドという語を知らなかったので、調べてみたら、”魔法のような力で(人)の心をとりこにする”というような意味の単語で、312ページあたりから、この単語を念頭においたかのようなくだりがあることに符合します。
でも、それだと全体としてちぐはぐだなと思って、もう少し調べてみたら、すべてマジックの名前と判明。
不親切といえば不親切なのでしょうが、こういう趣向は楽しいですよね。



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かがみのもり [日本の作家 大崎梢]


かがみのもり (光文社文庫)

かがみのもり (光文社文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/09/10
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
中学の新米教師・片野厚介は、クラスの少年たちからとある写真を見せられる。立入禁止の神社の森に、金色(こんじき)に輝く豪華絢爛なお宮と、狛犬に似た狼像があるというのだ。森の探索を始めた厚介たちに、謎に男、怪しい白装束の集団、そしてとびきりの美少女が近づく。彼らの目的はいったい何なのか? 謎に迫る厚介たちは、やがて森の奥に哀しい物語を見つけ出す……。


読了本落穂ひろいです。
2016年5月に読んだようです。大崎梢の「かがみのもり」 (光文社文庫)

大崎梢というと、「配達あかずきん ― 成風堂書店事件メモ」 (創元推理文庫)にはじまる成風堂書店シリーズや「平台がおまちかね」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)にはじまる井辻くんシリーズなどの印象が強いです。それらシリーズはおなじみの登場人物に会える楽しさにあふれていますが、ミステリ味がごく薄いのが個人的には残念に思っているところ。
この「かがみのもり」はシリーズ外で、傾向としては「片耳うさぎ」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)や「ねずみ石」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)に近いですね。
こちらの方が好みです──少年少女が主人公というのにこちらが弱いせいもありますが。

「片耳うさぎ」「ねずみ石」と違い今度の「かがみのもり」は主人公が新米教師=大人である点が少々不安材料ではあったのですが、”新米” というのがうまく効果を発揮したようです。
この設定、物語とうまくマッチしていますよ。

あらすじは末國義己の解説にくわしく書かれているのでそちらをぜひご参照いただきたいのですが、物語は「宝物を探す」という懐かしい感じのする王道の冒険もので、中学生の笹井と勝又が非常にいい味を出しています。
怪しい人物や団体が絡んで来るのも定石どおりながら、よい。

子供向けに書かれたものだと思いますが、楽しかったですね。
またこういう傾向の作品を書いてもらいたいです。



タグ:大崎梢
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モルフェウスの領域 [日本の作家 海堂尊]


モルフェウスの領域 (角川文庫)

モルフェウスの領域 (角川文庫)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
桜宮市に新設された未来医学探究センター。日比野涼子はこの施設で、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年の生命維持業務を担当している。少年・佐々木アツシは両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために5年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が発生することに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する。人間の尊厳と倫理を問う、最先端医療ミステリー!


<この投稿は、2023年8月13日に一旦間違えて編集途中で出してしまったものを編集中ステータスに戻した後、完記して再投稿しているものです>

読了本落穂ひろいです。
2018年2月に読んだようです。
海堂尊の「モルフェウスの領域」 (角川文庫)

最先端医療(?) と呼んでいいのでしょうか?
生体の冷凍保存(コールドスリープ)と治療を施すための施設が桜宮市にある設定です。
東京じゃないんだな、と思いましたが、こういうあり方の方がよいのかもしれませんね、なんでもかんでも東京、東京というのではなく。

タイトルのモルフェウスというのは「眠りを司る神」(10ページ)と書かれています。一般には夢の神、ということのようです。
コールドスリープで眠っている少年アツシのことを指しています。網膜芽種(レティノブラストーマ)に罹っているという設定です。

コールドスリープというのは、ロバート・A・ハインラインの「夏への扉」 (ハヤカワ文庫SF)(感想ページはこちら)もそうですが、SFでよく見る設定ですね。
この「モルフェウスの領域」では、特殊疾病に対し治療法が確立されるまでの間、疾病の進行を遅らせる目的で人口的に冬眠するという設定になっています。
海堂尊らしいのは、それに際し「凍眠八則(モルフェウス・プリンシパル)」というのが設定されていること。

コールドスリープに関する問題を、モルフェウス・プリンシパルで整理したうえで、更なる問題点を指摘し物語の駆動力とする、というわけで、モルフェウス・プリンシパル自体が海堂尊によるものなので、マッチポンプというか、自作自演ぶりが際立ちますが、もともとミステリなんて作者の自作自演を楽しむものですから、そこをあげつらうのはお門違いということでしょう。

本来難しい問題をわかりやすく整理し、癖のある登場人物たちを操りながら(あまりにも自己中心的な官僚をやりこめて溜飲を下げさせながら)、少年の行く末にハラハラドキドキできるよう物語を仕立てていることが最大の長所だと思います。

海堂尊の作品には奇矯な登場人物がわんさか登場しますが、この作品でいちばん目をひくのは、コールド・スリープのシステムを作り上げたエンジニアの西野昌孝という登場人物。
「僕は他人の幸福には興味はない。だからといって他人が不幸になることを望んでもいない。どうせシステムを作るなら、適正に稼働させたい。これはエンジニアの本能です。それを良心などという、綿菓子みたいな言葉で飾り立てたくないだけだ」(111ページ)
と言うセリフに彼のキャラクターの片鱗が特徴的に窺えると思います。
でも、いちばん変わっているのは、アツシの守り神である日比野涼子かもしれません。
アツシと涼子の将来が気になっています。

<蛇足>
「キーボードを叩き、ふたつの単語を大きなフォントで画面に映す。スリーパーとリーパー(死神)。
『ほら、並べて見ればよくわかる。スリーパーの中には、リーパーが身を潜めている』」(134ページ)
この部分、日本語を前提とした駄洒落ですね。英語だと sleeper と reaper ですから。


<2023.8.21追記>
書き忘れたことを思い出したので。
コールドスリープに、あるアイデアを絡ませてあって面白かったです。
そのアイデア自体の有効性は実証されていなかったのではないかと思うのですが、素人的にはありそうですし、そのことでコールドスリープの価値を作品世界内で高める役目を果たしているからです。
また、そのアイデアに関連することを冒頭から大胆に配しているのもポイント高いな、と。
こういうの好きです。

タグ:海堂尊
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映画:僕と幽霊が家族になった件 [映画]

僕と幽霊が家族になった件.jpg


さらに映画の感想を続けます。
台湾映画の「僕と幽霊が家族になった件」


シネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:中国などに古くから伝わる風習「冥婚」を題材にしたコメディー。若くして亡くなったゲイの青年との「結婚」を強いられた警察官が、ある事件の犯人を逮捕するため、幽霊の青年の助けを得て事件解決を試みる。監督・脚本は『目撃者 闇の中の瞳』などのチェン・ウェイハオ。キャストにはドラマ「時をかける愛」などのグレッグ・ハン、『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』などのリン・ボーホン、『返校 言葉が消えた日』などのワン・ジンらが名を連ねる。

あらすじ:捜査中に祝儀袋を拾ったさえない警察官ウー・ミンハン(グレッグ・ハン)は、古くから伝わる風習「冥婚」によって、若くして事故死したゲイの青年マオ・バンユー(リン・ボーホン)と「結婚」する羽目になってしまう。想定外の事態に困惑し、マオ・バンユーの幽霊に悩まされるウー・ミンハンだったが、あるひき逃げ事故の犯人を捕まえるため、彼の力を借りる。


映画のHPからIntroduction を引用します。
今年2月に公開され、台湾で爆発的ヒットとなった映画『僕と幽霊が家族になった件』がついに日本上陸!
 本作は『紅い服の少女』シリーズ(15・17)や『目撃者 闇の中の瞳』(17)を手掛けた台湾の大ヒットメーカー、チェン・ウェイハオ(程偉豪)監督の新作で、台湾で古くから伝わる習俗"冥婚"がユーモアたっぷりに、またそこから生まれる家族の絆が感動的に描かれています。

 冥婚(めいこん)とは、生者と死者が行う結婚のこと。習俗としての冥婚は、結婚と死生観に関わるものとして中国を始めとする東アジアや東南アジアに古くから見られる。『三国志・魏伝』では、13歳の若さで未婚のまま亡くなった曹操の八男・曹沖の葬儀にあわせ、同時期に亡くなった甄氏の娘の遺体をもらいうけて曹沖の妻として埋葬したという記述がある。
 台湾を含め一部地方の場合、未婚のまま亡くなると、道端に遺族が本来ご祝儀を入れる赤い封筒「紅包」を路上に置き、拾った者は死者と形式上の「結婚式」が強要される。もしそれを拒否すると、罰が当たり不幸になるという説もある。

 警察官ウー・ミンハンを、台湾で「新・国民的彼氏」と呼ばれているモデルでイケメン俳優のグレッグ・ハン(許光漢)(『ひとつの太陽』(19)ドラマ『時をかける愛』(19))が、ゲイの青年マオ・バンユーを実力派俳優のリン・ボーホン(林柏宏)(『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』(20)『青春弑恋』(21))が、ウー・ミンハンのバディで可愛らしい外見からは想像もつかないタフな警察官を、新世代を代表するワン・ジン(王淨)(『返校 言葉が消えた日』(19)『瀑布』(21))が演じ、大人気俳優陣の共演も話題になりました。

 台湾では旧正月映画として今年2月に公開され、初日には『THE FIRST SLAMDUNK』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を押さえて堂々の第1位を獲得、笑って泣けると評判になり、興行収入3.6億台湾ドル(約16億円)を突破した本作の、貴重な日本上映の機会をぜひお見逃しなく!


上に引用した見どころには、「コメディ」とあり、それはそれで正しいのですが、いろいろな要素を盛り込んだ映画になっています。
なので、見どころがとても盛りだくさん。
どの要素にどう反応するかは人それぞれかと思いますが、どの要素も楽しめました。

物語は、警官ウー・ミンハンが追う麻薬事件の捜査と、彼の冥婚の結婚相手であるマオ・バンユーが死ぬことになった轢き逃げ事件の追及、そしてゲイであるマオ・バンユー自身の物語の大きく3つの柱で構築されています。
この柱のバランスがとても心地よい映画でした。

個人的にはもうちょっと笑いの比重を上げてくれてもよかったように思いましたが、劇場内は笑いであふれていましたので、こちらの感性がずれているのかもしれません。

それにしても台湾はダイバーシティの観点が進んでいるのでしょうか? 同性婚が認められているということですが、伝統的な冥婚でも同性婚が行われるという設定の物語になっています。
とはいえ、BLドラマ的な展開を辿るわけではありません。
笑いの中にも、マオ・バンユー自身の物語として、ゲイをめぐる問題がしっかり扱われています。

麻薬捜査の方は、どうしてもミステリ的興味を持って観てしまうところで、するといろいろと言いたいことは出てくるのですが、ミステリ映画にしようとした作品ではないので、あれこれ言いたてるのは野暮というものでしょう。持ち駒の中で意外性に賭けた心意気を買いたいです。
途中香港映画「インファナル・アフェア」の名前が出てきて思わずニヤリとしました。

僕と幽霊が家族になった件 001.jpg

画面右側が警官ウー・ミンハンで、左側がマオ・バンユー。
台湾では人気のある方々のようです。

ところで、中国語がわからないので原題はさっぱりなのですが、気になったのは英語タイトル。
”MARRY MY DEAD BODY” となっていて直訳すると”私の死んだ体と結婚せよ”。とすると視点はマオ・バンユーの方ですね。
一方で邦題は、”僕と幽霊が家族になった件” ですから視点はウー・ミンハン。
英題と邦題で、視点が変わるというのは興味深いな、と。
物語の比重としてはマオ・バンユーが大きいのですが、映画としての視点人物はウー・ミンハンだと思われますので、ここは邦題に軍配を上げたいような気が。
でも ”家族になった” というのは少々腰が引けていますね。日本では冥婚が一般的にではないので、苦労されたのだと思います。とはいえ、原語は家人という文字が見えますので、原題に即した訳語かも。

とても楽しいいい映画でした!


原題:關於我和鬼變成家人的那件事
英題:MARRY MY DEAD BODY
製作年:2023年
製作国:台湾
監 督:チェン・ウェイハオ
時 間:130分



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映画:ヴァチカンのエクソシスト [映画]

ヴァチカンのエクソシスト.jpg


映画の感想を続けます。
今日は「ヴァチカンのエクソシスト」

シネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:カトリック教会の総本山ヴァチカンのチーフエクソシストとして、数多くの悪魔払いを行ったガブリエーレ・アモルト神父の回顧録を映画化。ローマ教皇からある少年の悪魔払いを依頼されたアモルト神父が、強大な悪魔に立ち向かう。監督は『オーヴァーロード』などのジュリアス・エイヴァリー。オスカー俳優のラッセル・クロウが主演を務め、『ドント・ブリーズ』などのダニエル・ゾヴァット、『セーラ 少女のめざめ』などのアレックス・エッソー、『続・荒野の用心棒』などのフランコ・ネロらが共演する。

あらすじ:1987年7月、サン・セバスチャン修道院。ガブリエーレ・アモルト神父(ラッセル・クロウ)はローマ教皇から依頼され、ある少年の悪魔払いに向かう。変わり果てた姿の少年が面識のない自分の過去を語る様子を見て、アモルトはこの変異が病気ではなく、悪魔の仕業だと確信する。相棒のトマース神父と共に本格的な調査を開始した彼は、やがて中世ヨーロッパで行われていた宗教裁判を巡る記録にたどり着く。


映画のHPからあらすじを引用します。
1987年7月──サン・セバスチャン修道院。
アモルト神父はローマ教皇から直接依頼を受け、憑依されたある少年の《悪魔祓い》(エクソシズム)に向かう──。変わり果てた姿。絶対に知りえないアモルト自身の過去を話す少年を見て、これは病気ではなく“悪魔”の仕業だと確信。若き相棒のトマース神父とともに本格的な調査に乗り出したアモルトは、ある古い記録に辿り着く。中世ヨーロッパでカトリック教会が異端者の摘発と処罰のために行っていた宗教裁判。その修道院の地下に眠る邪悪な魂──。
全てが一つに繋がった時、ヴァチカンの命運を握る、凄惨なエクソシズムが始まる──


主演はラッセル・クロウ。
演じるアモルト神父って、当たり役ではないでしょうか。「グラディエーター」と並ぶ代表作といっていいのでは? (これとの対比でいうと、ジョン・ナッシュを演じた「ビューティフル・マインド 」はミス・キャストだったと個人的には考えています)

これ、ジャンル分けするとホラーでしょうか?
でも、実話、というから驚きです。
ちょっと藤木稟の「バチカン奇跡調査官」シリーズを思い浮かべながら見ました──奇跡と悪魔憑きではベクトルが違いますが。

最初の悪魔祓いが、ちょっとトリッキーで、かつユーモラスな解決策だったのと、メインディッシュであるサン・セバスチャン修道院での闘いの対比が強く印象に残ります。
サン・セバスチャン修道院での出来事は、ユーモラスさのかけらもありません。
アモルト神父にどんどん余裕がなくなって追いつめられていくさまが迫力。

頼りなさそうだった現地のトマース神父(演じているのはダニエル・ゾヴァットという役者さん)とのバディもののような展開になっていくところが見どころかと思いました。
どんどん成長を遂げるトマース神父に注目!

信仰というものに対する絶対的な信頼感がベースになった物語で、日本人の宗教観からすると(というふうに主語を大きくするとご批判があろうかとは思いますが)、それ(基本的には祈り)だけでそんなうまくいくかな? と思えるところはあるのですが、苦しい時の神頼みは日本人としても得意とするところですので、心の中で、うまくいってくれ、と祈るような気持ちで観ていました。
トマス・F・モンテルオーニの「聖なる血」 (扶桑社ミステリー)「破滅の使徒」 (扶桑社ミステリー)のようなとんでもない展開にならないように、と。

アモルト神父とトマース神父が探り当てたことは、それこそヴァチカン、キリスト教世界を揺るがすような重大事項だと思うのですが、わりとあっさりと扱われていて驚きました。

ところで、邦題は「ヴァチカンのエクソシスト」で、原題は「THE POPE'S EXORCIST」。
内容的にも、”ヴァチカンの” というよりは、原題通りに、"法王の"(あるいは”教皇の” )の方が良かったのでは?と思いました(映画全体として扱いは短いのですが、ヴァチカン内部での権力争い的なシーンも挿入されていますので)。



英題:THE POPE'S EXORCIST
製作年:2023年
監 督:ジュリアス・エイヴァリー
時 間:103分



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映画:インディ・ジョーンズと運命のダイヤル [映画]

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル 1.jpg


映画を観ました。
「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」

失われたアーク《聖櫃》
魔宮の伝説
最後の聖戦
クリスタル・スカルの王国
と続いてきたシリーズの第5作ですね。

いつものようにシネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:
ハリソン・フォードが考古学者の冒険家を演じる『インディ・ジョーンズ』シリーズで、宇宙開発競争が盛んだった1969年を舞台に繰り広げられるアクションアドベンチャー。アメリカとロシアの間で陰謀を企てるナチスの残党を阻止すべく、インディ・ジョーンズが立ち上がる。これまで監督を務めてきたスティーヴン・スピルバーグはジョージ・ルーカスと共に製作総指揮、『フォードvsフェラーリ』などのジェームズ・マンゴールドが監督を担当。フィービー・ウォーラー=ブリッジやジョン・リス=デイヴィス、マッツ・ミケルセンなどが共演する。

あらすじ:第2次世界大戦末期。考古学者のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)らは手にした者が神になるほどの力を秘めるダイヤル“アンティキティラ”をめぐり、ナチス・ドイツの科学者ユルゲン・フォラー(マッツ・ミケルセン)と格闘する。そして1969年、インディの前にかつての仲間であるバジル・ショーの娘ヘレナ・ショー(フィービー・ウォーラー=ブリッジ)と、フォラーが現れる。


つい先日観た、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(感想ページはこちら)とつい比べてしまいますが、あちらと比べると、激しい場面はあっても、全体としておっとりした感じがする冒険活劇、という趣き。
劇場の入りがそれほどでもなかったので、こういうのは若い人には受けないのかなー、と思いました。

日常から荒唐無稽な部分に転じるところがこのシリーズならではの見せ場ではあるものの、少々雑な印象を受けました。
ナチからアルキメデスと来て ”時を操る” ダイヤルねぇ。

でもお約束のなんとなくのどかなカー・チェイスとか、洞窟探検とか、シリーズならではのアクションシーンは楽しかったですね。
懐かしい感じ。
インディ・ジョーンズのあのテーマ曲が流れてくれば、それで十分な気も(笑)。

個人的に気になったのは、テディ役の、イーサン・イシドールという俳優さん。
映画のHP(まったくの余談ですが、ディズニーによるこのHP、力が入っていないですね......売る気があまり感じられない。まあ、シリーズのファンが観ればいいや、という考えなのかもしれませんが)によると、フランス出身の現在16歳。少年役なのですが、子どもっぽい雰囲気のときもあれば、すごく大人びた表情を見せるときもあります。
もっと感情を見せるような役どころを演じているのを見てみたい気がしました。

インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル thumb_indianajonesjp_chara5_teddy_a98cc38c.jpeg

クライマックスのシーンは、今回の相棒役であるヘレンによる鉄拳(?) がさく裂、なかなか小気味よいシーンになっていまして、「ダイハード」のラストのマクレーン刑事の妻ホリーによる一撃を思い出しました(鉄拳の趣旨はまったく違いますが)。

なんとなくエンディングからするとシリーズ最終作のような雰囲気が漂ってきます。
まあ、ハリソン・フォードも御歳ですし、これで幕というのがよいのかもしれませんね。


<蛇足>
タイトルの”ダイヤル” が気になっています。
ダイヤル、ダイアル、日本語ではどちらの表記もよく見受けられますが、英語は dial ですし発音的にもヤの音はないと思われますので、ダイアルという表記が好みです。



英題:INDIANA JONES AND THE DIAL OF DESTINY
製作年:2023年
製作国:アメリカ
監 督:ジェームズ・マンゴールド
時 間:154分



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丑三つ時から夜明けまで [日本の作家 大倉崇裕]


丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
犯行現場は完全なる密室、容疑者には完璧なアリバイ──こんな事件、犯人は幽霊以外ありえない! 霊能力者ばかりを集めた静岡県警捜査五課は、そんな不可能犯罪に出動する特殊部隊だ。捜査一課の刑事である私と上司の米田は、今日も難事件の現場で五課の七種(しちぐさ)課長と丁々発止の推理合戦を繰り広げるのだが……。驚愕の設定と二転三転する真相。異色ユーモアミステリー。


読了本落穂ひろいです。
2018年3月に読んでいます。
大倉崇裕「丑三つ時から夜明けまで」 (光文社文庫)

「丑三つ時から夜明けまで」
「復讐」
「闇夜」
「幻の夏山」
「最後の事件」
の5編収録の連作短編集です。
巻頭に掲げられている登場人物表をみるとびっくりします。
登場人物の名前が、七種(しちぐさ)、怒木(いするぎ)、車(のり)、私市(きさいち)、入戸野(にっとの)、神服(はっとり)、座主坊(ざしゅぼう)そして目(さっか)。
珍名奇名というのか、難読苗字というのか、その集まり。
そして話の内容が一種の特殊設定ミステリ、ですね。
肉体から離脱した精神エネルギー「幽霊」の存在し、その力で殺人まで成し遂げられてしまう世界。
幽霊を取り締まる専門部隊として結成されたのが静岡県警捜査第五課。
「捜査五課のメンバーは、すべて特殊技能採用され、通常の刑事たちと区別される。霊視から浄化まで、選りすぐりの霊能力者が集められ、チームを組んで行動する。」(26ページ)と説明されています。
まるで西澤保彦(笑)。

冒頭の「丑三つ時から夜明けまで」は導入ということだと思いますが、捜査五課と(通常の事件を捜査する)一課との対立までうまく物語の溶け込んでいます。
霊感の強い、捜査一課の私が視点人物であることが非常に効果的です。

「復讐」でもその点はしっかり受け継がれています。
犯人は人間なのか、幽霊なのか。
さまざまな可能性が考えられ、読者(ならびに登場人物)から見た事件の様相もそれに合わせて変化していく、というかたちになっています。
捜査一課だけれども、霊感が強く五課にも近しいように思われる私が謎解き役をつとめるという構図がうまく決まっていますね。

「闇夜」はカラスが効果的に使われています。
幽霊の能力(何ができて、何ができないか)が事前に明らかになっているわけではないので(その物語によって、能力の限界も変化するようです)、このあたりでこの作品集は特殊設定ミステリとは少々違うかな、という気がしてきます。
いや特殊設定ミステリではあるのでしょうが、謎解きを主眼とするものもあれば、その世界の広がりを楽しむものもあり、幽霊という特殊設定を持ち込むことで作者が楽しく遊んでいるような気配を感じます(これだけ読みやすい作品に仕立て上げるのには相当苦労されているのだとは思いますが)。

「幻の夏山」は、山が舞台で、死んでしまった凶悪犯による復讐の矛先が私の上司である米田に向けられる、という話で、今回幽霊が使う能力は憑依。
緊迫した話なのですが、ユーモラスな雰囲気がどことなく漂っているのがポイントですね。

「最後の事件」はタイトルが思わせぶりです。
連作で「最後の事件」ときたら、どうやって幕引きするのだろうという興味で読み進めるわけですが、一方でミステリ読者としてはある一つのパターンがどうしても念頭にちらついてしまう。
さてさて、首尾はどうだったか、それは実際に読んで確かめていただきたいところですが、この「最後の事件」、集中では2番目に発表されているものを加筆修正のうえ最後にもってきたということを廣澤吉泰の解説で知り、びっくりしました。

いったんシリーズはここで終わったわけですが、私視点の物語はまだ続けられそうな気もします。
続編、書いてもらえないでしょうか?




タグ:大倉崇裕
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おわび

昨日8月13日に「モルフェウスの領域」としてアップしていたページは、編集中のものでした。
たいへん失礼しました。

一旦下書き状態に戻しました。




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ビッグデータ・コネクト [日本の作家 は行]


ビッグデータ・コネクト (文春文庫)

ビッグデータ・コネクト (文春文庫)

  • 作者: 藤井 太洋
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/04/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の捜査は進歩的市長の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計画の陰に何が? ITを知りつくした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。


2023年4月に読んだ本の感想が終わりましたので、読了本落穂ひろいを何冊か。
2015年12月に読んだ藤井太洋の「ビッグデータ・コネクト」 (文春文庫)

藤井太洋は、「オービタル・クラウド」(上) (下) (ハヤカワ文庫JA)で日本SF大賞を受賞している作家でSF畑の方という認識でした。
SFということならいつもはスルーなのですが、どことなく気になっていたところに、この「ビッグデータ・コネクト」はサイバー・ミステリということで興味を抱きました。

買ってよかった。とてもおもしろかったです。

警察官である万田と、ある事件の容疑者で万田が取り調べたこともあるが起訴取り下げとなった経歴を持ち、故あって協力者となったエンジニア武岱(ぶだい)という組み合わせがまずいいですね。
王道といえば王道の設定ですが、この物語にもっともふさわしい捜査コンビであると思えました。
捜査仲間となる捜査一課仕込みの綿貫のキャラクターもわかりやすいし、警察経験五ヶ月のセキュリティのプロ小山もいい感じでした。
武岱の弁護士として登場する赤瀬も、捜査の邪魔をする存在のような描かれ方が続くのですが、いい存在感を示しています。

あらすじに先走って書かれちゃっていますが、行政(大津市長という一地方自治体というのが驚きです)が作り上げようとしている情報システム《コンポジタ》をめぐる不正という、というのは、開発に携わっていたエンジニアの失踪(誘拐?)という事件からしてあからさまなので、(あらすじで)隠す必要がないのかもしれません。

陰謀の内容自体は想定の範囲内、というか、個人データというとそういう使い方くらいしか思いつかないのですが、さまざまな当事者の思惑が絡み合うところが醍醐味だと感じました。
素人のこちらにも楽しく読めて、かつ問題点も明らかになる、というエンターテイメント。
ITエンジニアの実態とか、知らないことが多く、でも実感として迫ってくる書き方がされていました。

マイナンバーカードをめぐっていろいろと議論がされている昨今、この作品が改めて耳目を集めるようになればよいのかもしれません。

おもしろかったので、「オービタル・クラウド」(上) (下) も買っちゃいました。
読むのはいつになるかわかりませんが......

<蛇足>
「防音壁だから言うたねん。」(283ページ)
京都府警サイバー犯罪対策課を扱っているだけに、作中に関西弁(と大くくりに言うことをお許しください)が飛び交っています。
自在に操る田辺聖子や黒川博行のような大御所がいますが、関西弁は小説中の文字にするのが難しいと常々感じております。
藤井太洋さんは、鹿児島出身とのことですが、非常にナチュラルに書き込まれていて感じ入りました。
そんな中で気になった表現。
「だから」は「やから」の方が雰囲気が出るでしょうね(ただし、「だから」を使わないということではありません)。
「ねん」に疑問を感じました。
「せやから間違いやねん」(286ページ)とすぐ後にも使われていますが、こちらには違和感を感じません。形容詞、形容動詞に「やねん」がつくのはナチュラルです。
「ねん」は念押し、強調で使われる語ですが、過去形につける用例を耳にしたことはありません(当然口にしたこともありません)。ここはいうとすれば、「言うたんや」でしょうか。






タグ:藤井太洋
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三世代探偵団 春風にめざめて [日本の作家 赤川次郎]


三世代探偵団 春風にめざめて

三世代探偵団 春風にめざめて

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/08/30
  • メディア: 単行本

<帯あらすじ>
天才画家の祖母・幸代、おっとりした母・文乃と暮らす女子高生・天本有里。
三人は突然の火事で両親を亡くし上京してきた少女・香を保護することになる。
しかし、香の信頼する高校時代の恩師の隠していた秘密が見つかり、天本家は事件に巻き込まれていく。指を切断された遺体が発見され、有里たちにも危険がせまる──!
「うちは、殺人事件に慣れてるの」


2023年4月に読んだ10冊目、最後の本です。
単行本。
赤川次郎「三世代探偵団 春風にめざめて」。

「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(感想ページはこちら
「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」(感想ページはこちら
「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」(感想ページはこちら
に続く、女三世代が大活躍の最新ユーモアミステリ、第4弾!
このシリーズ、刊行ペースが落ちてきている赤川次郎の中ではペースが本当に早いですね。
きっと作者が楽しんで書いているのでしょう。
主人公有里のキャラクターは、他のシリーズの主人公たちとそう変わりませんから、何が赤川次郎を駆り立てているのかというと、意外と祖母・幸代なのかもしれません。
作者も高齢になってこられているはずですから、こういう年配のキャラクターを書くのが楽しいのでしょうか?

巻き込まれるというよりは、有里が自ら積極的に事件の渦中に飛び込んでいくのは、赤川次郎作品のヒロインとしてはいつものこと、なのですが、この作品のような事件で、この作品のようなやり方では、高校生としていかにも無理。
いくら言っても聞かないとはいえ、周りの大人の対応ぶりも到底あり得ないレベル。有里のことを信頼している、というのが通用しない内容だと思います。
事件とシリーズの設定のミスマッチですね。
ファンとしては残念ですが、失敗作です。

「ところで、「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」に出てきた加賀和人はどうしたんだ!?
有里の恋人役じゃなかったのですか? 彼の活躍に期待していたのですが。」
と、前作「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」感想に書いたのですが、今回登場するものの、有里の恋人役には力不足のような気が。もっとも有里の恋人役には相当の力が必要とされそうですが(笑)




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