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遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? [日本の作家 や行]


遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? (光文社文庫)

遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? (光文社文庫)

  • 作者: 詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/02/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
佐藤誠。有能な書店員であったと共に、八十六件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただ一つの例外を除いては──。なぜ彼は遺体の首を切断するに至ったのか? 遠海市で起きた異常な事件の真相、そして伝説に彩られた佐藤誠の実像に緻密に迫る! 気鋭の著者が挑発的に放つ驚異の傑作!


2023年4月に読んだ9冊目の本です。
KAPPA-ONE 企画に応募した「リロ・グラ・シスタ: the little glass sister」 (光文社文庫)でデビューした詠坂雄二の第二作です。

「リロ・グラ・シスタ: the little glass sister」は、独特の作風でした。
非常に硬質なイメージの世界観を、硬質な筆致で描き出していました。
向き不向きでいうと、個人的には文章が肌に合わないというか、読みにくさを感じていました。
ということで、以降出版される作品はなかなか手に取らなかったのですが、ふと気になってこの「遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」 (光文社文庫)を読むことに。

副題に「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」と麗々しく掲げているからには、首切り死体を扱っており、その点がセールスポイントということになります。
なぜ首を切ったのか、はミステリでは定番のテーマです。
この作品で提示される理由そのものは先例もあり、それほど驚きませんでした。
しかし、この形、佐藤誠の造型に落とし込んだ威力はすごい、と感嘆。

佐藤誠って、変な人物なのですが(まあ、連続殺人鬼ですから)、その造型に妙な説得力があるのです。
「とにかく世界に用意されたルールなんて大したものではないというか、個人には護りきれないものだって思ったんだ。ルールは自分が持っているものと重なって初めて護れるようになる。 ー略ー 仕事は、好き嫌いじゃなく、憧れとかも忘れて、自分のルールと重なるところのあるものを選ぶべきだって考えたわけさ」(138ページ)
という考え方とか、含蓄深いではないですか?

そこに「首切り」をはめ込んだとき、立ち上がってくる事件の構図は迫力満点でした。

文章は変わらず馴染みにくかったのですが、このような独特の世界は魅力的だと感じました。
他の作品も読んでみたいと思います。


<蛇足1>
「……そんな趣味があるのか」
「みすてりまにあなんすよ俺」(80ページ)
ひらがな表記のミステリマニアには、傍点が振られています。
でも、こういう書き方をする理由がわかりませんでした。

<蛇足2>
「佐藤の言葉を聞きながら、新村は自分の気付きへと尋ねていた。俺はどうだろう。書店員は性に合っているのか。」(140ページ)
もともと最近氾濫するようになった「気付き」という単語自体が好きではないのですが、ここの「気付き」は通常の使われ方と違うようで興味深いです。

<蛇足3>
「俺は本格書きとしてデビューしたんです。ですけどね……今時は昔なじみの本格なんて流行んねえんですよ。つうか、デビューした時でもうギリギリだったんすけどね。定義がどうの、語義拡散がどうたら、頭のいい人たちは新しい言葉作って語っちゃいますが」(233ページ)
作中の詠坂雄二のセリフです。
作中のセリフですから架空の話ではありますが、作者ご自身の率直な感想なのでしょうか?

<蛇足4>
以下、佐藤誠の考えが書かれたところです。
直接的なネタバレではありませんが、勘のいい方だと手がかりにはなってしまうと思いますので、気になる方はとばしてください。
「人間でいたいなら、殺してはいけない。
 他人を殺すのも人間性のうちだという主張は、あくまで闘争に限った話だと佐藤は思っている。彼我が対等である必要はないが、最低限たがいに殺意があり、叶うなら同じ目的──金銭、名誉、生存、なんでもいいがそういったものがあり、さらに殺される可能性を同意し合ったうえでの戦闘と生死なら、それはそれで立派な人類文化だ。
 だが私利私欲が動機で、しかも不意打ちから始めるような殺人は、人間性を謳えるような殺しではない。昆虫の捕食活動と変わらない。」
 佐藤は自分の殺しがそういったものであることを自覚していた。
 だから殺した屍体を同じ人間と見なしたことはないし、その処理にためらったことはない。純粋な疲労から手間取ったりしたことはあったにせよ。それが、早くしないと傷み、処理が難しくなるだけではなしに、犯罪の発覚を招いてしまう厄介な生ゴミだという以上の想いを巡らせたことはなかった。」(235ページ)





タグ:詠坂雄二
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闇の喇叭 [日本の作家 有栖川有栖]


闇の喇叭 (講談社文庫)

闇の喇叭 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
私的探偵行為を禁止する法律が成立した平世21年の日本──。女子高校生の空閑純(そらしずじゅん)は、名探偵だった両親に育てられたが、母親はある事件を調査中、行方不明になる。母の故郷に父と移住し母の帰りを待つ純だったが、そこで発見された他殺死体が父娘を事件に巻き込む。探偵の存在意識を問う新シリーズ開幕!


2023年4月に読んだ8冊目の本です。
巻末の文庫版あとがきによると、2010年6月にヤングアダルト向けの叢書〈ミステリーYA!〉の一冊として理論社より上梓されたもので、その後講談社に移管(?)され、
「闇の喇叭」 (講談社文庫)
「真夜中の探偵」 (講談社文庫)
「論理爆弾」 (講談社文庫)
とシリーズ3作が書かれています。

序章 分断
というところに世界設定が書かれています。
昭和ならぬ召和二十年、アメリカによる原爆開発が遅れ、ソ連は正式に対日参戦し、結局原爆は3回目として京都にも落とされ、九月二十日に日本は降伏、北海道はソ連の統治下にはいり、その後〈日ノ本共和国〉として独立。
物語の舞台は、“南” 側の日本で、探偵行為が禁止されている。

主人公空閑純(ソラと呼ばれています)の両親は探偵で、母親が失踪。
友人の家族が巻き込まれた事件解決を通して、ソラは探偵になることを強く、強く決意する、という流れ。

重苦しい世界観の中で展開し、おそらく現在の日本の状況を念頭に置いた批判的な内容は少々うるさいのですが(ヤングアダルト向けということで意識されたのでしょうね)、事件は、島田荘司ばりの豪快なトリック(ネタバレとお叱りを受けるかな?)がはじける愉快なものでした。
このギャップが魅力のような気がします。

タイトルの「闇の喇叭」というのは、ソラが見る夢からとられており、母親の失踪の謎とともに、その意味はシリーズを通して明かされていくのでしょう。

買い揃えてあるので、極力続けて読んでいきます。




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連続自殺事件 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

連続自殺事件【新訳版】 (創元推理文庫 M カ 1-13 フェル博士シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
空襲が迫る1940年の英国。若き歴史学者のキャンベルは、遠縁の老人が亡くなったスコットランドの古城ヘ旅立った。その老人は、塔の最上階の窓から転落死していた。部屋は内側から鍵とかんぬきで閉ざされ、窓から侵入することも不可能。だが老人には自殺しない理由もあった。それでは、彼になにが起きたのか? 名探偵フェル博士が、不気味な事件に挑む! 『連続殺人事件』改題・新訳版。


4月に読んだ7作目の本です。
ジョン・ディクスン・カーの「連続自殺事件」【新訳版】 (創元推理文庫)
旧訳で読んでいます。
薄めの長編で、トリックも正直たいしたことなく、カーにしては....という感想を抱いたことを記憶しています。
新訳で読んで、その印象は一掃されました。

旧訳時のタイトルは「連続殺人事件」。
原題は "The Case of the Constant Suicides” ですから、新訳の方が原題に忠実です。
連続殺人と連続自殺ではずいぶん違いますね(笑)。

実際に読んでみると、どちらも含蓄深いタイトルと思える事件が創出されていて、カーの物語作者としての腕前を堪能しました。
軽めの作品なのですが、ここまで凝っているとは。

塔の密室トリックには傷があることは以前より指摘されていますが、「犬を旅行に連れていくときに入れるためのケースのようなもの」(70ページ)をめぐるやりとりはおもしろいですし、「自殺」「他殺」で揺れ動くプロットにうまくはめ込まれているなという印象で、とりたてて傷と言い募ることもないかな、という感想です。

ばかばかしいような恋愛(失礼な言い回しですが、ここでは褒め言葉として使っています)、ドタバタ劇、密室と、薄い中にも存分にカーらしさが発揮されている佳品だと思いました。
きちんと読み直すことができて、新訳に感謝です。


<蛇足1>
「ジョンソン博士のこの国についての見解を再読し、道中の暇を紛らわした。あんたたちもおなじみだろうが、結局のところ神がスコットランドを作ったんだから、スコットランドにそれほど厳しくしちゃいかんと言われたとき、ジョンソン博士がきっぱりと返事をしたな。“失礼ですが、そのたとえは不愉快ですね。神は地獄も作ったのですから” と」(126ページ)
ボズウェルの「サミュエル・ジョンソン伝」を読んだフェル博士のセリフです。
笑い話ではありますが、イギリス内部の国同士のありように思いをはせるとかなり興味深いです。

<蛇足2>
「いいかね、何の因果か、わしはドアや窓の細工についていささか詳しいんだ。そうした事件に──コッホン──取り憑かれたように出くわしてきたからな」(204ページ)
こういう楽屋落ち、いいですね。カーを読むの楽しみの一つです。

<蛇足3>
「『おや、悪魔があたしの墓の上を歩いたかね』と、彼女はぶるりと震えた。」(246ページ)
Someone is walking over my grave (だれかが私の墓の上を歩いている=身震いしたときにいう慣用表現)という言い回しがありますが、悪魔を使う言い方もあるんですね。



原題:The Case of the Constant Suicides
著者:John Dickson Carr
刊行:1941年
訳者:三角和代






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殺意の対談 [日本の作家 は行]


殺意の対談 (角川文庫)

殺意の対談 (角川文庫)

  • 作者: 藤崎 翔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/04/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人気作家・山中怜子と、若手女優・井出夏希。新作映画の原作者と主演女優の誌上対談は、表向きは和やかに行われたのだが、笑顔の裏には忌まわしい殺人の過去が……。同様に、ライバル同士のサッカー選手、男女混成の人気バンド、ホームドラマの出演俳優らが対談で「裏の顔」を暴露する時、恐るべき犯罪の全貌が明らかに!? ほぼ全編「対談記事+対談中の人物の心の声」という前代未聞の形式で送る、逆転連発の超絶変化球ミステリ!


2023年4月に読んだ6冊目の本です。
「神様の裏の顔」 (角川文庫)(感想ページはこちら)で横溝正史ミステリ大賞を受賞した藤崎翔の長編第二作。

目次を見ると
「月刊エンタメブーム」 9月号
「SPORTY」 ゴールデンウィーク特大号
「月刊ヒットメーカー」 10月号.....
というように、雑誌名が並んでいます。
ページをめくると
「 この小説は、ほぼ全編にわたり『雑誌の対談記事+対談中の登場人物たちの心の声』という、たいへん奇抜な形式で書かれています。
 慣れるまでは多少読みづらいかと思いますが、どうか最後までお付き合い頂けますと幸いです。」
という著者のことばが載っています。
この形式の成否やいかに、ということかと思います。

著者も書いているように、確かに読みにくい(笑)。
ただ、最初の「月刊エンタメブーム」の対談者である作家・山中怜子と女優・井出夏希が二人とも殺人経験者、というところでおやっと思います。

次の「SPORTY」では、がらりとかわって、日本代表の座を狙うサッカー選手の対談となり、あれ? と思うのですが、次第に登場人物につながりがあることがわかってきます。
とすると、その後も様々な人物が出てくるのですが、登場する人物たちのつながり具合、絡み具合を予想して楽しむ作品ということなのでしょう。

この点では、かなり入り組んで凝った人間関係が用意されていますし、途中サプライズもそこそこ仕掛けてあって、楽しんで読めました。
ただ、いかんせん、やはりこの形式は読みにくいですし、対談中にしては心の声が長すぎるのが興ざめ。こんなに長々と述懐していたら対談が成立しないですよ。
対談でなければできない仕掛けというのもなかったと思われますし、対談と心の声ということで、ホンネとタテマエ、あるいは表の顔と裏の顔の落差を楽しめるということはありましたが、別の形式にした方がインパクトがあったのではないかと思います。
しかし、こういう変なことを考える作家は大好きなので、いろんな作品を書いてみてほしいです。


<蛇足>
「登録された目的地や行き先の履歴を見ると、青山の『Paul Smith』とかいう服屋と、新宿の『BAR NEW COMER』とかいう飲み屋に、特によく行っているようだった。どっちも気取った名前で、俺は店にまで腹が立った。」(74ページ)
実在するブランド名が使われていますが、Paul Smith って気取った名前なんでしょうか?



タグ:藤崎翔
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殺生関白の蜘蛛 [日本の作家 は行]

殺生関白の蜘蛛 (ハヤカワ文庫JA)

殺生関白の蜘蛛 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 日野 真人
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/11/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「松永弾正が蔵した天下の名器・平蜘蛛の茶釜を探せ」豊臣家に仕える舞兵庫は、太閤秀吉と関白秀次から同じ密命を受ける。太閤への恐懼か、関白への忠義か……。二君の狭間で懊悩する男の周囲を、石田三成が暗躍し納屋助左衛門が跳梁する。吹き荒れるのは後嗣を巡る内紛の嵐。果たして権力者達が渇望する平蜘蛛の禁秘は何をもたらすのか? 茶器に潜む密謀と秀次事件の真相に迫る歴史ミステリ。第7回クリスティー賞優秀賞。


2023年4月に読んだ5冊目の本です。
第7回クリスティー賞優秀賞受賞作。
このときの受賞作は村木美涼「窓から見える最初のもの」(早川書房)でした。

冒頭から主人公舞兵庫が秀吉に呼びつけられるという緊迫した話で、タイトルにもある蜘蛛を探せ、と命じられ、そのあと秀次にも同じことを命じられる、という展開。
あれよあれよという間に窮地(と思われる状況)へ追い込まれていく主人公に、出だし好調と思いました。
ここでの蜘蛛は「蜘蛛の形をした釜」(32ページ)。どんな形なのかさっぱりわからないのですが、そんなことは読む上での支障にはなりません。形よりも、秀吉、秀次がなんとしても探し出したいという茶釜にどんな謂れがあるのかが気になるはずです。
ちなみに207ページにその姿がしっかり記述されます。

この茶釜探しから話がねじれ、広がっていくのがポイントの話だと思いました。
茶釜をめぐって、人の思惑が複雑に交差するところがおもしろい。
松永弾正、秀吉、秀次、石田三成に納屋助左衛門(=呂宋助左衛門)。いずれも一癖も二癖もある怪人物というのがいいですね。
物語の途中100ページにもならないうちに明らかとなるので(呂宋助左衛門も出てきますし)ここで書いてしまってもよいと思いますが、キリスト教が出てくるのも、時代背景を考えると非常に興味深い。

また秀次の家臣である大山伯耆(ほうき)と舞兵庫とのバディもの、のような色彩があるのも見どころかと思います。
最初は必ずしも信頼し合う仲ではなかったのに
「互いの命を預け合って修羅場を潜ってきたではないか。それで相手の人となりがわからぬのなら、仕方がない。騙されても本望というもの。違うか。」(194ページ)
などという会話を交わす仲へと変わっていきます。

ところで、タイトル「殺生関白の蜘蛛」 (ハヤカワ文庫JA)の蜘蛛、別に殺生関白(豊臣秀次)のものではないのです。秀吉のものでもない。
「殺生関白の蜘蛛」は、松永弾正が持っていた茶釜のそれぞれの思惑を秘めた争奪戦を描いているんですよね。

応募時のタイトルは「アラーネアの罠」だったらしく、
「アラーネアとはラテン語を語源とする言葉で、蜘蛛を意味するそうだ。そして蜘蛛は古くから神の使いとして尊ばれている。」(124ページ)
と説明されていますが、その方が内容にはふさわしいような気がします。
ただ、時代小説が盛んになっていることもあって、「アラーネアの罠」ではわかりづらく、はっきりと時代物であることがわかる「殺生関白の蜘蛛」というタイトルに改題されたのでしょうね。

平蜘蛛の正体(?) は物語の後段で明らかになるのですが、非常に興味深いものでした。
かなり強烈なアイデアで作者の想像力に敬服。
123ページで述べられる事項など、本当だとしたら相当強烈な内容です。
想像するしかないのですが、怪しい面々が蠢いてもおかしくない気がします。
一方で、どの程度力があるものなのか疑問に感じることも確かで、この点にしっかり対応したかのような物語の展開には納得感を覚えました。

謎解きミステリではありませんが、謀略小説風の冒険時代小説に伝奇もののテイストがつけられており、おもしろく読みました。
大賞受賞作の「窓から見える最初のもの」のミステリ色が極めて薄かったので、こちらが大賞でもよかったんじゃないかな? と思ってしまいました。



<蛇足1>
「着地するなり、右の賊に体当たりして転(こ)かす。」(97ページ)
「こかす」って、こう書くんだと思って調べてみたら、転かす/倒かす、と2通りあるようですね。

<蛇足2>
「茶の湯でキリストの心を伝えて頂けませんか。」(120ページ)
澳門(マカオ)にいるキリスト教の司祭のセリフです。
おもしろい考え方だと思いました。実際に日本でのキリスト教の布教に茶の湯は使われたのでしょうか? ヴァリニャーノの「日本巡察記」が引用されており、確かに茶の湯の記述もありますから、事実なんですね。とてもおもしろいと思います。

<蛇足3>
「死と背中合わせの戦場往来を続けると、生死を分けるのは武術や胆力ではなく、ただ神仏の思し召しに過ぎぬと思うことがある。」(195ページ)
武士の正直な述懐なのだろう、と思いますが、本書のラストシーンと重ね合わせると、なかなかの感慨を覚えます。

<蛇足4>
「昨夜からの雨は霧へと変わった。吶喊(とっかん)の声と銃声が各所でする。」(306ページ)
吶喊がわからず、調べてしまいました。
読み方ですが、振られているルビが「とっかん」ではなく「とつかん」に見えるんですよね......



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映画:ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE [映画]

ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE 1.jpg


映画を観ました。
トム・クルーズの「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」
──このシリーズ、ずっと見ているのですが、ミッションインポッシブルだったのですね。今まで注目していませんでしたが。日本語表記だけの問題ですけれど。

シネマ・トゥデイから引用します。

見どころ:
トム・クルーズ主演のスパイアクション『ミッション:インポッシブル』シリーズの第7弾。スパイ組織IMF所属の腕利きエージェントであるイーサン・ハントが、人類を脅かす新兵器を追う。『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』に続いてクリストファー・マッカリーが監督などを担当。サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソンらおなじみの面々が集結する。

あらすじ:イーサン・ハント(トム・クルーズ)率いるIMFチームは、新兵器を探すミッションを下され、悪の手に落ちる前にそれを見つけ出そうとする。そんな中、IMFに所属する前のイーサンの過去を知る男が現れる。仲間たちと世界各地で命懸けの戦いを繰り広げるイーサンにとって、今回のミッションは絶対に成功させなければならないものだった。


映画のHPからあらすじを引用します。
IMFエージェント、イーサン・ハントに課せられた究極のミッション—全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。
しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が迫るなか、世界各地でイーサンたちは命を懸けた攻防を繰り広げる。
やがて、今回のミッションはどんな犠牲を払っても絶対に達成させなければならないことを知る。
その時、守るのは、ミッションか、それとも仲間か。イーサンに、史上最大の決断が迫る—


前作「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」(感想ページはこちら)はイギリスの映画館で観たので、セリフがちゃんとは聞き取れず、あらすじがぼんやりわかっただけだったのですが、このデッドレコニングは日本で字幕付きで観ただけあって、あらすじがよくわかる(笑)。字幕のありがたみを強く感じました。

核兵器までたどり着いてしまったシリーズですが、今回はちょっと路線を変更してコンピューター、AIの世界へ。
(核爆弾も冒頭の空港のシーンで出ては来るのですが、だしに使われている感じです。余談ですが、空港のシーンでは、五條瑛のROMESシリーズを思い出しました。)

アクションに次ぐアクション、山場に次ぐ山場で、2時間以上ある映画の長さをまったく感じませんでした。
ところどころにわかりやすい笑い処も紛れ込まされていて、ずっと楽しんで観ていられます。
舞台も中東の空港、ローマ、ヴェネツィア、オリエント急行とかなり派手です。

このシリーズ、トム・クルーズが体当たりでするスタントシーンに注目がよく集まります。
そのこと自体ははすごいとは思っても映画としては特に何も感じないものの(なんでもかんでも主演俳優が自分でやらないといけないというものではない、と思っていることに加え、スタントも映画の重要な要素ですから、スタント俳優を排してメインの俳優が演じてしまうとスタントそのものの発展に寄与しないような気がしてちょっとネガティブな感覚を抱いてしまいます)、事前の宣伝や予告編でそのシーンがクローズアップされることで、映画の山場に観客の注意を一層強くひきつける効果があるんだな、と特にこの「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」で感じました。
さらに、このスタントシーン自体は、ミッション:インポッシブルというくらいですから、まさに不可能事な動きを見せるので、展開自体が現実感のないものになってしまうのですが、実際にトム・クルーズがスタントに挑んだ、というと、不思議な現実味が加わって上手に観客をだましているような気がします(まあその意味では、スタントマンがやっても人間がやったことに変わりはないので同じなのですが、スタントマンがやっていれば宣伝には使いにくいでしょう)。
スタントを実際にトム・クルーズがやった、ということと、映画の中のミッションとしてそれが成功する、というのはまったく別物なのですが(たとえば、崖から飛ぶというシーンを演じ、実際に飛んでみせたところで、飛ぶことは成功しても、狙い通りに狙った場所に飛んで行ったかというのは別ですよね)、なんとなくミッション自体がうまくいったように思えてしまいます。

ハラハラドキドキ、文字通り手に汗握る映画体験でとても楽しみました。

タイトルにもあるように、この作品には当然のごとくPART2 があるわけで、その後に物語は続きます。
PART1にネタバレにもなりそうですが、勝手な予想(たいした内容ではないですが)を書いておきたいと思います──自らの心覚えのために。
気になる方はこの後の部分は読まずにおいてください。一応色を変えておきます。
1) PART2は、米高官であるキトリッジがメインの敵役となり、ガブリエルや各国の思惑がこれに絡む
2) PART1ではイーサン・ハントの邪魔をすることになったエージェントが味方になる。
3) 黒人エージェントは、IMFのメンバーになるかも。
4) グレースは、PART2の途中でイーサン・ハントに敵対するキトリッジサイドにつく。
5)ただし、最後にはイーサン・ハント側となる。
6) PART1から物語の鍵であった、AIの”カギ”は、意外とショボい気がする──オリジナルのソースコード云々という話が出てくるけれど、おそらくがっかりさせられるようなものの気がする。



英題:MISSION: IMPOSSIBLE - DEAD RECKONING - PART ONE
製作年:2023年
製作国:アメリカ
監 督:クリストファー・マッカリー

時 間:133分



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フォックス家の殺人 [海外の作家 エラリー・クイーン]


フォックス家の殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

フォックス家の殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
故郷ライツヴィルに帰還した戦争の英雄デイヴィー・フォックス。激戦による心の傷で病んだ彼は、妻を手に掛ける寸前にまで至ってしまう。その心理には、過去に父ベイヤードが母を毒殺した事件が影響していると思われた。彼を救うには、父の無実を証明するほかない。相談を受けたエラリイは再調査を請け負うも、当時の状況はことごとくベイヤードを犯人だと指し示していた……名探偵エラリイが十二年前の事件に挑む。新訳決定版。


2023年4月に読んだ4冊目の本です。
「災厄の町」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら)に続くライツヴィルものの第2弾。新訳です。

例によって旧訳版で読んでいまして、メインのパートは覚えている──つもりだったのですが、読んでみてびっくり。
覚えていたのは途中まで。
そのあとの展開をまったく覚えていませんでした。
こういう話でしたか......
原題 "The Murderer is a Fox" が光輝いて見えます。
今の時点から見ればひとつのパターンとして確立しているような話の展開で、ひょっとしてこの「フォックス家の殺人」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)がこのパターンの作品の嚆矢なのか? と読後すぐ思ったのですが、さすがに違いますね。
本書の出版は1945年。このパターンの作品は数多くありますが、たとえばこのブログで感想を書いた中では某海外女流作家の初長編作品は(感想ページにリンクを貼っておきますが、ネタバレなのでご注意)1928年なのではるか前でした。

407ページに、二杯のぶどうジュースに関する原注があるのですが、これ、とても興味深いです。
初版の最初からついていた原注なのか、読者からの指摘を受けての注なのかわかりませんが、重要な指摘です。原注で E・Q が説明を加えていますが、あまり上手な説明とは思えない、正直苦しまぎれに思えますね(笑)。

とミステリ的には若干指摘したいところがある作品ではあるのですが、ぼくが覚えていなかった終盤の展開を含めて、フォックス家という狭い範囲の人間関係の中に、きわめて重層的な物語が構築されているのが素晴らしいと思いました。
そしてこれは、夫婦の物語であると同時に、父と子の物語でもある。
ラストの
「たぶん父親はそのためにいるんですよ、クイーンさん」(463ページ)
というある登場人物のセリフを、エラリーがどう聞いたのか。自分とクイーン警視との間柄の思いを巡らせたのかな、なんて考えながら読むのはなかなか乙なものです。


<蛇足1>
「まるで白馬に乗ったガラなんとか卿だ」(122ページ)
苦境にいるデイヴィー・フォックスを救おうとするエラリーにヴェリー部長刑事がいうセリフです。
ガラなんとか卿?
アーサー王伝説や聖杯伝説の円卓の騎士の1人であるガラハッド卿(英: Sir Galahad)のことでしょうか?
ちょっと謂れがわからないので、この発言のおもしろさが感じ取れませんでした。訳注が欲しかったです。

<蛇足2>
「上半身は寝室用のジャケットに包まれ、髪はリボンで結ばれ、顔は紫の厚いヴェールに覆われていて、」(249ページ)
寝室でジャケットを身につけるんですね。

<蛇足3>
「糸か何かが引っかかっているかと思ったんだがね。それがあれば、女の服か男の服かがわかった。」(270ページ)
糸からだけで、その出所の服の男女別がわかるんですね。

<蛇足4>
「荒らされたもうひとつのものは、壁際に置かれた回転テーブルだった。」(271ページ)
場所は居間なのですが、ここでいう回転テーブルというのは、どういうものでしょうか? 小さな抽斗もついているようです。
回転テーブルというと、つい中華料理店にあるものを連想してしまうのですが、もちろんそれではありませんよね。
天板が回るテーブルって、珍しい気がします。

<蛇足5>
「まさかパリンプセスト(もとの字句を消して別の字句を上書きした羊皮紙)の技を使ったとは!」(358ページ)
パリンプセストには訳注がついていますが、エラリーの発言に対して作中の誰も質問していません。
ということは、この単語、一般的にすっと理解されるほど広まっている単語なのでしょうか?
なんだかすごいですね。


<2024.3追記>
なにも気にせず、Ellery Queen の日本語表記を、エラリー・クイーンと書いてしまっていましたが、早川では、エラリイ・クイーンという表記です。
このブログではエラリー・クイーンと今後も書いていきます。


原題:The Murderer is a Fox
作者:Ellery Queen
刊行:1945年
訳者:越前敏弥






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葬儀を終えて [海外の作家 アガサ・クリスティー]


葬儀を終えて〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

葬儀を終えて〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/10/15
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
だって彼は殺されたんでしょ?──アバネシー家の当主リチャードの葬儀が終わり、その遺言公開の席上、末の妹のコーラが無邪気に口にした言葉。すべてはこの一言から始まった。翌日、コーラが死体で発見される。要請を受けて事件解決に乗り出したポアロが、一族の葛藤のなかに見たものとは。衝撃の傑作、新訳で登場。


2023年4月に読んだ3冊目の本です。
2020年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年。それを記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行、
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「メソポタミヤの殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「ポケットにライ麦を〔新訳版〕」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「ナイルに死す〔新訳版〕」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら
に続く第6弾で最後を飾る作品です。日本に帰国して間が空きましたが、ようやく読みました。

この「葬儀を終えて」(クリスティー文庫)を再読するのはとても楽しみだったんです。
というのも、「葬儀を終えて」は、「邪悪の家」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら)と並ぶ偏愛作でして、クリスティーのミス・ディレクションの腕前が存分に発揮された傑作だと思っているからです。
今回新訳で再読してもその印象は変わりません。
綺羅星のような傑作に埋もれがちかもしれませんが、まぎれもない傑作だと思います。

冒頭アバネシー家の系図が掲げられていて、ちょっと臆するのですが、見てみるとかなりの人数が故人で、残っている登場人物たちも夫婦セットになっていて、かつそれぞれ印象的な性格が意識的に与えられているので、そんなに混乱することはありません。
むしろ容疑者が少ないように思えるくらいです。

あらすじにも引用してある
「だって彼は殺されたんでしょ?」(29ページ)
というコーラによる爆弾発言は、やはりとても印象的で、そのあとコーラが殺害されるに至って、この発言が、爛々と光を放ちます。
なんという魅力的なオープニングでしょうか。

弁護士エントウィッスル氏の視点で物語は進み、ポワロが出てくるのは四分の一ほど過ぎたところなんですが、実際にポワロが屋敷を訪れるのは半分ほどのところで、なかなか出てこないという印象です。
いわゆる退屈な尋問シーンが続くように見えないのは、このおかげかもしれません。

この作品の手がかりはクリスティーお気に入りの技ともいえるものなのですが、昔読んだ時は少々不満に感じました。
読者にはわからない点だからです。
今回再読してもその点は変わりませんでしたが、しつこいくらいに「どこかがおかしかった」と強調されているので、フェアに行こうとしていたことが今回わかってよかったです。こんなにあからさまに「どこかがおかしかった」と強調されていたんですね。

個人的に注目したいと思ったのは、人物の出し入れのうまさ。
ポワロの出てくるタイミングもそうですが、ある登場人物が物語に絡むタイミングがやはり絶妙で、ごくごく自然な仕上がりです。

解説で折原一も「クリスティーの中期のみならず、全作品中でも上位にランクされるべき傑作」と推しています。
傑作を再読できてよかったです。
(この折原一の解説は、ちょっと明かしすぎのところがあるので、勘のいい人だと真相に気づいてしまうかもしれません。読後に読まれることをお勧めします)


<蛇足1>
「エッジウェア卿の殺害事件がありましてね。忘れもしない。危うく負けるところだった。ええ、このエルキュール・ポアロがね。何も考えない頭から生まれる単純極まりないずるさに負けそうになりました。ごく単純な頭脳の持ち主は、往々にして単純な犯罪をやってのけ、あとはほったらかしにしておくのです。あれも特殊な才能なのかもしれない」(222~223ページ)
さらっと「エッジウェア卿の死」 (クリスティー文庫)に触れられています。
「葬儀を終えて」が1953年、「エッジウェア卿の死」が1933年の出版で20年前の本がさらっと。クリスティ―自身にも印象的な作品なのでしょうね。

<蛇足2>
「ただ、老弁護士の情報と判断は有益ではあるものの、やはりポアロは自分の眼で確かめたかった。この人たちと会ってことばを交わせば、犯人の目星はつくと思っていたのだ──手口や日時はわからないにしろ(それはポアロにとってあまり興味のない問題だった。殺人が可能であったことさえわかればいい!)。」(298ページ)
ポワロの考えが披露されているのですが、いや大胆。
クリスティーにも手口(トリック)を効かせた作品はあるんですけどね(笑)。



原題:After the Funeral
著者:Agatha Christie
刊行:1953年
訳者:加賀山卓朗








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C.M.B.森羅博物館の事件目録(38) [コミック 加藤元浩]


C.M.B.森羅博物館の事件目録(38) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(38) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: コミック




この第38巻は、
「目撃証人」
「光の巨人」
の2話収録。

「目撃証人」はかなりぎりぎりのところを狙ったミステリ作品です。
小説でやればかなりの確率でアンフェアと言われそう(連城三紀彦あたりなら、さらっと書きそうな気もしますが)。この作品でもちょっと微妙に感じられるところがあります。

「光の巨人」はアイスランドが舞台。
現在のアイスランドと、800年前のアイスランドが交錯します。
扱っているのが聖杯とゲルマンの神々の神話「エッダ」。
クライマックスの洞窟の部屋については疑問が尽きないのですが、800年前のスノッリとノルウェー王ホーコン王の物語が印象に残りました。


タグ:CMB 加藤元浩
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Q.E.D. iff -証明終了-(10) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.iff -証明終了-(10) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.iff -証明終了-(10) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
「アウトローズ」
燈馬&可奈が挑むのは、腕利きの「ワル」達が秘密の得意技で互いを出し抜くゲーム! 舞台は豪華客船、賞金は1億ドル!! 主催者の密命を帯びた燈馬の作戦は?
「ダイイングメッセージ」
南の島にある廃墟ホテルの柱から白骨死体が発見された。このバブル期の遺物に絡みつく複雑な事情が徐々に明かされてきた頃、新たなる犠牲者が…


Q.E.D. iff のシリーズ第10巻。
奥付をみると2018年6月になっていますね。


「アウトローズ」は豪華客船を舞台に繰り広げられる悪党たちの騙し合いゲーム、という趣向。
そこに燈馬と可奈が加わっている、ということは燈馬は主催者と結託している(主催者からなにか面倒なことを頼まれている)というのは読者としては当然の前提として読み進めるわけで、それを突き止めるのが読者の読み方となります。
ゲームが進行しても動かずまったく動じない燈馬の姿も、それがゲームに勝つための燈馬の作戦だとしても、なにか企みがあることを裏打ちしてくれます。
このゲーム自体の複層構造に加え、燈馬による謎解きも二段構えになっているのが楽しい。
”QED” という文字が、可奈の書道で示されるのですが、こちらの二段構えもいいですね。

「ダイイングメッセージ」は、犯人の性格など、事件の建付けそのものに難があるように思われました。トリック自体もちょっと無理があるのですが、それでも視覚的なトリックは非常に印象的です。
途中密室状態で探偵が殴られるという事件が起こりますが、そこで助手が
「探偵としてプライドがなさすぎる!
 密室に閉じ込められ ダイイングメッセージも残さず あまつさえ死体にもなってない!」
というのには笑ってしまいました。


 
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