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死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12 [日本の作家 赤川次郎]


死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12

死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: 新書

<帯紹介文>
何が上映されるか分からない試写会〈スニークプレビュー〉に誘われた藍。
そこで流れた映画は、実際に過去に起きた殺人事件をモデルにしていて……
表題作「死者の試写会へようこそ」ほか、全6話。
人気シリーズ第12巻!


2023年11月に読んだ最後の本です。

シリーズ第12巻「死者の試写会へようこそ 怪異名所巡り 12」

「正義果つるところ」
「雪の中のツアーガイド」
「ジャンヌ・ダルクの白馬」
「KO牧場の決斗」
「死者の試写会へようこそ」
「月のウサギはお留守番」
の6編を収録。

快調に続いているシリーズで、赤川次郎お得意の怪異現象も好調です。
主人公である藍も
「変わった人には慣れてます」「幽霊に比べれば、どうということも……」(237ページ)
というくらいで、とても頼りがいあり。
レギュラーであるツアー客で高校生(で金持ちというのが赤川次郎らしい)の遠藤真由美もいい感じです。
「どうしたの、そのブレザー? よその学校の制服じゃない?」
「万一、何かまずいことになっても、他の高校の生徒だと思われたら大丈夫でしょ」(238ページ)
なんて、この物語に飛び込んでいくのにぴったりな性格をしていますね。

本のタイトルが「死者の試写会へようこそ」ということで、堂々のおやじギャグ。
脱力感満載なのですが、その表題作が個人的には注目作。
長い人類の歴史の中では、ないとは言い切れないような事態なのかもしれませんが、かなり荒唐無稽な事件の背景を採用しています。その荒唐無稽なプロットを、力技というのではなく、単にサラッと書いてまとめ上げているのがすごい。
赤川次郎の力はこういうところに(も)あるんだな、と感じ入りました。


<蛇足1>
「君原の言うことが間違っているとは言えない。しかし、あそこに建っていたマンションは幽霊ではなかった」(9ページ)
「君のいる所、必ず何かまともじゃないことが起るね」
という君原のセリフを受けての文章です。
一瞬「しかし」のつながりがわかりませんでした。

<蛇足2>
「少し早いですが、ここでお弁当を食べましょう」
と、藍は言った。
「この先、落ちついて食べられる場所はありませんから」(75ページ)
「雪の中のツアーガイド」の1シーンで、山登りをしています。
藍はこの山に行ったことはなかったように思ったのですが、手慣れた案内振りですね。
お客様を連れていく手前、事前に登っておいたのでしょうか?──ただ、霊感ガイドで藍が行くと何かが起こるという設定なので、事前に行く、というのはあまりこのシリーズにはふさわしくない気がしますが......

<蛇足3>
「社長令嬢の遠藤真由美は、〈すずめバス〉にとっては大切な『お得意様』だ。しかし、本来は幽霊や心霊現象が大好きという、ちょっと変わった女子高校生。」(228ページ)
ここは「本来は」という語を使うのにあまりふさわしくない箇所のように思えます。

<蛇足4>
「ジャンヌ・ダルクの声や画像を作るのは、もともとCGアニメの会社でアルバイトしてたので、得意でしたから」(136ページ)
画像はともかく、ジャンヌ・ダルクの声って......??

<蛇足5>
ネタバレ気味なので、気になる方はとばしてください
「〇〇はSNSに出た写真が多いに話題になったのと、今田を危うく殺しかけたことで、大学側から処分を受け、結局他の私立大学に移って行った。」(257ページ)
いやいや、この〇〇がやったことは、殺人未遂ですよ。内容的に殺人未遂とまではしなくても傷害罪とかには問えそうです。そういう教員が処分で済まされて、他の大学に移れるなんて、あるのでしょうか?






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聖なる怪物 [海外の作家 あ行]


聖なる怪物 (文春文庫 ウ 11-3)

聖なる怪物 (文春文庫 ウ 11-3)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/01/07
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
狂瀾。錯乱。哄笑。老優ジャックが語り出す。退廃と乱行の成功物語を。薬物に溺れ、酒に乱れた半生を。大邸宅のプールサイドにジャックの爆笑が轟きわたる。だが油断は禁物。ジャックの笑いの下にはヤバいものがかくされているのだ……巨匠が《狂気の喜劇》と名づけ、上によりをかけて紡いだ戦慄の長篇。笑ってられるのは途中までだ。


2023年11月に読んだ9冊目の本です。
ドナルド・E・ウェストレイクの
「聖なる怪物」 (文春文庫)
またもや古い本を積読から引っ張り出してきました。
奥付を見ると2005年1月10日。20年近く前ですね。

このブログを始めてからウェストレイクの感想を書くのは初めてですね。
タッカー・コウ名義の悪党パーカーシリーズは1冊しか読んでいませんが、ウェストレイク名義の作品はドートマンダーシリーズはじめ文庫はかなり読んできていますし、木村仁良による解説で楽屋落ちと呼べる ”ウェストレイキズム” として紹介されているリチャード・ホルト名義の「殺人シーンをもう一度」 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)も読んでいます。
ちょっと意外でした。

タイトルの「聖なる怪物」というのは、主人公(で、ある意味語り手)である俳優ジャックのことを一人の妻が評するセリフ(198ページ)からです。
「いろいろな面であなたは怪物、飽くことのない乳児期の表れよ。それと同時に、神聖な愚者、聖なる怪物、現実のきびしさに影響されない純真な人なの。あなたは英雄になれる。信じられないほどの強いものの、あなたがどれほど脆弱なのかは、わたしでさえもわからない」

物語は、ジャックの視点から、インタビューされているシーンと、その回答と思われる回想シーンで主につづられます。
それとは別に幕間というインダビュアーの視点のようなシーンがたまに挿入されます(最初に出てくるのが104ページ)。

狂騒に満ちた映画界の様子を、一人の薬に溺れた映画スターの目を通して回顧する、という枠組みの物語のように見受けられます。
幕間に至るまでもなく、この枠組みにそこはかとなく違和感を感じるようになっています。

引用したあらすじでは「笑ってられるのは途中まで」と書かれ、解説では ”衝撃的かもしれない結末” と書かれているその結末に、今回なぜか見当が早々についてしまいました。
別段結末を予想させるような狙いの作品ではないと思われますが、きちんと手がかりとなるようなエピソードがちりばめられているのがポイントで、そのせいでわかりやすくなっていると思われます。
ラストで意外だ、あるいは衝撃的だ、と思われる方も、ああ、あのシーンはこれを匂わせていたのだな、と思い当たるところがあると思います。

面白かったです。
この物語、ジャックとは別の人物の視点から綴るとどうなるのだろう、という興味もわきました。


原題:Sacred Monster
著者:Donald E. Westlake
刊行:1989年
訳者:木村二郎




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玉村警部補の災難 [日本の作家 海堂尊]


玉村警部補の災難 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

玉村警部補の災難 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/06/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「バチスタ」シリーズでおなじみ加納警視正&玉村警部補が活躍する珠玉のミステリー短編集、ついに文庫化! 出張で桜宮市から東京にやってきた田口医師。厚生労働省の技官・白鳥と呑んだ帰り道、二人は身元不明の死体を発見し、白鳥が謎の行動に出る。検視体制の盲点をついた「東京都二十三区内外殺人事件」、DNA鑑定を逆手にとった犯罪「四兆七千億分の一の憂鬱」など四編を収録。


2023年11月に読んだ8冊目の本です。
海堂尊の「玉村警部補の災難」 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)


4編収録の短編集ですが、帯にある紹介を引用しておきます。
検死体制の盲点をついた犯罪に遭遇した田口医師は……。「東京都二十三区内外殺人事件」
巨大迷路内でお笑い芸人が殺された──。加納の推理はなんと!? 「青空迷宮」
DNA鑑定を駆使しながら、加納&玉村の捜査が始まる 「四兆七千億分の一の憂鬱」
暴力団幹部連続死事件の裏で、闇の歯科医が暗躍する! 「エナメルの証言」


「東京都二十三区内外殺人事件」は、ある古典短編ミステリのネタを取り込んで、白鳥の行動に反映させ、海堂尊お得意の主張に絡めています。アイデアとしては流用でもあり取り立てて言うほどのこともないのですが、田口、白鳥、加納(、そして玉村)とそれぞれ登場人物の性格を反映した物語になっているのがおもしろい。

「青空迷宮」は、TV撮影という監視状況下で発生した屋根のない立体迷路での殺人事件で、一種の不可能犯罪になっていますが、設定上犯人があまりにあからさまなのが弱点ですね。細かな部分が面白いのでちょっと残念。

「四兆七千億分の一の憂鬱」は犯人があからさまなところから出発して、加納との対決、という流れになります。あまりにも特殊状況なのが弱いと思いましたが、犯人の主張が崩れるきっかけが面白いですね。

「エナメルの証言」はちょっと異色作ですね。
加納、玉村よりも、犯人サイドの一人に力点があるようです。
法医学、歯科分野における盲点(?) をついた犯罪を描いており、とてもおもしろい思いつき。
ニッチでなければならないのに、需要が多そうなのが難点ですね(笑)。ラストの一文にニヤリとしてしまいました。

加納といい、あるいは白鳥といい、海堂尊特有の奇矯な人物で、ロジカルモンスターだかなんだかで、論理を振りかざして暴れまわるのですが、これを殺人事件など事件の捜査に当てはめると、なんだか危なっかしく見えてしまいます。
そこは作者も心得ておられて
「一見危うげだが、加納警視正にとっては盤石の王道を進んでいるだけだったのか。」(130ページ)
とフォローの文があったりもしますが、それでも、加納警視正にとっての王道、にすぎず、無理を通そうとしても道理が引っ込まないように思えました──作中では通るのですが。


<蛇足1>
「これからは推理小説作家も困るだろうな。アリバイ崩しの最終兵器が素人にもこんなに簡単に手に入るようじゃ、旧来型の推理小説は成立しなくなる」
「今は推理小説なんて呼ばず、ミステリー小説と言うんです。」
ー略ー
「最先端の科学や社会情勢を書かずして、いったい何が楽しんだね、あの連中は?」
「そういう分野はSFとか社会派小説と言うんですよ、警視正」
(134ページ)
加納と玉村との会話で登場人物のセリフですから、作者の意見と解すべきではないのかもしれませんが、この部分は作者の意見も混じっているのでしょうね。
推理小説、ミステリーも定義はいろいろ、内容も千差万別で幅が広いので、いろんなご意見がありますね。

<蛇足2>
「ガイシャは白井加奈、三十五歳、専業主婦です。趣味はネイルアートです。」(145ページ)
被害者の説明箇所ですが、警察の報告で趣味を言うんでしょうか?(笑)
しかも特段事件と関係のない趣味です。







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完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 [日本の作家 は行]


完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 (ノン・ポシェット)

完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻 (ノン・ポシェット)

  • 作者: 半村 良
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 1998/10/01
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
歴史上、つねに退廃と戦乱の陰に暗躍してきた異能の集団、鬼道衆。彼らは今、徳川政権を混乱、腐敗させるため田沼意次の台頭に加担し始めた。折しも全国に蔓延する大飢饉と百姓一揆の数々。この世に地獄を見せるのが目的か、それらも彼らの陰謀だった。時が満ち、やがて復活した盟主外道皇帝こそ、人類の歪んだ進化を促した創造主か 伝奇文学の最高傑作第二弾!


2023年11月に読んだ7冊目の本です。
半村良の「完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻」 (ノン・ポシェット)
もともと全7巻の妖星伝を3巻に編集しなおして文庫化されたものの巻の二です。
前の「完本 妖星伝〈1〉鬼道の巻・外道の巻」 (ノン・ポシェット)(感想ページはこちら)を読んだのが2022年10月でもう1年以上になるので、話を覚えていなくて入り込めないのではと懸念していたのですが、杞憂でした。
物語世界が堅固なので、忘れていた箇所も、この「完本 妖星伝〈2〉神道の巻・黄道の巻」を読みだせば思い出しましたし、なんの違和感もなく世界へ入っていけました。

〈1〉に続き、とても楽しい。

その鬼道たちの話から宇宙人(補陀洛[ポータラカ]と呼んでいます)へ至った話が、さらにさらに進展。
田沼意次の出世とか、一揆の煽動とか、江戸時代を背景とした物語もしっかり語られます。

「神道と対立する鬼道は、本来漂泊をもって暮らしを保っている異民たちの宗教なのである。そのような人々は表の社会から迫害され締め出され、人知れぬ裏道を往還して生きるより方法がない。つまりこの世の裏側に棲むことをよぎなくされているのである。
 そのような立場に追い込まれている人々が、表の世界と変わらぬ仏を信じ、同じ神を敬えるわけもなかろう。彼らの仏は破戒仏であり、彼らの神は鬼の姿で現れざるを得ない。
 逆にいえば、彼らを追ったのはその時々の権力者によって公認された神であり、権力擁護を約束した仏たちなのである。それらの神仏はしだいに彼らの領域へ入りこみ、彼らの生活基盤をなし崩しに奪っていく。それでいて、彼らは鬼だ蛇だとそしられる。実際に鬼の役割を果たしているのは、表の社会で認められている神や仏たちなのであった。」(152ページ)
裏の勢力である鬼道衆の活躍(暗躍?)は続くのですが、このあたり、高田崇史の諸作を思わせますね。

同時に風呂敷はどんどん広がっていっていて、テーマとして、時(時間)が浮上しつつあるようです。

「白視。
 あるは昇月法とも謂う。それこそ鬼道において外道皇帝においてのみ許されるという最高術であった。伝えられるところによれば唐・天竺においては第三の眼とも称されるらしい。
 一種の時間透視術であろう。熟達すれば過去未来の双方を自在に見渡すことができるという。ただしいわゆる千里眼とはまったく別のものである。千里眼とは要するに遠隔三法のうちの遠視に類似し、同一時間における遠隔地の事象を能く視る術である。
 昇月法は時間を超えてしまう。術者は超常感覚の中で白視界を得るという。白視界とは黒白明暗のみの視界である。したがって過去未来の事象は月面の模様のごとく灰絵となって見えるので昇月法と呼ばれている。鬼道によれば、月こそは総ての魔力の源泉であり、鬼のみが住む世界とされている。しかも月ははじめこの世に無く、後に他からこの世に引き移されたものであるとされているのだ。」(194ページ)

こちらの面は日円と青円という二人の僧が読者の一次的な案内役を務めています。

「陽が東から昇り西に沈む。そのひとめぐりを一日ときめ、人の暮らしに都合よく、当分に割ったのがいわゆる時刻だな」
「だがそれはあくまで人の暮らしのためのものだ。時の実体はほかにあろう」
「時によって太陽の位置が変わる。月や星々もだ。そして二度とあとには戻らぬ。草の芽はその太陽の位置の変化のあいだに、それだけふくらんでしまう。人も僅かだが老いる。割れた茶碗は元に戻らない。つまり、これは儂の考えでは、物の変化のことではないか」
「かりに、物のまったくない場所を考えてみよう。そこで果たして時がうつろうであろうか。かりに時がうつろうたとしても、いったい何によってそれをたしかめるのだ」
「儂は思うのだが、星と星の間には、何の物もない空がひろがっているのではあるまいか。風もなく、音もなく、そして熱もない……そこでは物の変化がなく、したがって時は流れていないのだ。」
という日円を受けて
「物の濃い所では、時は早く流れ、物の薄い所では、時は遅く流れるというわけですか」(403ページ)
と答える青円。
作者からは
「たしかに、その議論は幼稚ではあった。しかし、時間の本質については、正しく見抜いているようであった。」(403ページ)
と ”幼稚” といなされてしまっていますが、同時に本質を見抜いている、とされているように、とても頼りになる!

「頌劫(じゅこう)とは」
「劫の偈(げ)である。劫は永遠の時の流れをいう言葉だ。人智の及ばざるもの、先ず劫なりという。劫こそはすべてのもとにして、万物みな劫の内に在る。その夢幻のときについて述べたのが頌劫であると同時に、頌劫は大いなる時そのものを指す場合にも用いられる。また、呪陋とは陋の呪である。陋は極小の時を指し、劫に比する場合卑小なるものをいう。この世のあらゆるものは陋の外にあり、したがってすべてのものは陋の中へよく入ること能わずとされる。すなわち、時には大いなる流れの劫と、飛翔にしてとざされた陋があるということだ。」
「沈時術は劫に支配されたこの世に、極小の時を作り出すわざである。儂の作り出した極小の時、すなわち陋において、時の流れがとまり、儂はそれを利用する。劫の中に、かりそめに時の流れのとまった陋を作り上げるのである。しかし、陋の内で時がとまったからといって、とじこめられた者の時が外界と食い違うということはない。儂の術が解ければ、とじこめられた者は一瞬の意識を失った者の如くに、元の劫の中で僅かに失われた時の経過を奇異に思うにすぎない。」(566ページ)
というのも、物語を理解するうえで重要ですよね。

時間以外の要素についても、日円の洞察力は重要です。
「鬼道は世の本質を不幸としておる。この世は否定さるべきものなのだ。その否定さるべき世において幸福を得ている者には実に大いなる不幸が到ると考えるのだ。」
「仏は欲心を去れと説いている。── 略 ── 心を肉から解脱させるためには、生きる欲すら棄てよと説いているのだ。生きながら生命を否定することは至難のわざだが、仏はその必要を教えている。恐らく仏はこの世の秘密を解明した人なのであろう。その大いなる秘密の扉の向こうにあったものは、たぶん、生命は悪、という原理なのではなかろうか」(692ページ)

この部分は第1巻からくりかえし表れているこの星(地球)のあり方とも関わってきます。
「この星に生を享けてしまった者の悲惨さを考えてみろ」
「殺さねば死ぬ」
「そうだ。この星に生まれたら、他を殺さねば一刻も生きられないのだ」
「だからこの星の者は神を作った」
「憐れだ。全宇宙でも、これほど悲しい命はないぞ」
「あり得ぬ神にすがりながら、なおかつ殺し続けて生きている」(230ページ)

しかし、
「ポータラカでは、この星のことをナラカと名づけているそうです」
 捺落迦。
 地獄の意である。那落迦、那羅柯、とも書き、苦具、苦器と訳している。捺落迦を受苦の処とし、那落迦をその人とする場合もある。(739ページ)
というのは少々ひどいですね。地獄ですか......

物語は加速しており、ワクワク感は維持どころか、拡大しています。
第三部・神道の巻のラストで
「その時すでに、広大な宇宙の一角で、そのような考えをまったく覆す、異常なものが発生していたのであった。
 それは、意志を持った時間、であった。」(403ページ)
なんて、とても気になる地の文があるのに、第四部・黄道の巻で触れられていないし、期待がどんどん膨らみます。


<蛇足1>
「不当に裁く者を儂は裁く。おのれに人を裁くほどの価値があると信じていれば、それは異常人だろう。価値がないことを知ってなお裁くのは、おのれの利益のために違いない。いずれにせよ、人を裁く者こそこの世で最もいかがわしい人間だ。」(98ページ)
”悟った” 蛇上人のセリフですが、印象的でした。

<蛇足2>
「だが、亜空間ならばとうに発見できている。世界線を追跡すれば簡単に割り出せる」(746ページ)
「世界線の解析は可能だ」(748ページ)
「世界線」というのは、現在パラレルワールドのような意味合いで使われていますが( Official髭男dism の「Pretender」にも使われていますね)、もともとは相対性理論から来ている語で、ここでは本来の意味で使われているようです。

<蛇足3>
「ここはその陋の中、薄伽梵(バガボン)と申します」
「薄伽梵。破浄地のことか」
 薄伽梵は婆伽婆とも記し、破浄地と訳すほかに、自在、熾盛、端厳、吉祥、尊貴などの意を与えられ、時には阿弥陀仏の異称とされることもある。また薄伽は徳、梵は成就を意味する。(739ページ)
一瞬 ”バカボン” と読んでしまって、!? となりました(笑)。
井上雅彦の「バガボンド」でも同じことになったなぁ、と思い出して苦笑しました。「



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一万両の長屋 [日本の作家 は行]


一万両の長屋ー大富豪同心 (3) (双葉文庫)

一万両の長屋ー大富豪同心 (3) (双葉文庫)

  • 作者: 幡 大介
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/08/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
五年前、一万両にものぼる大金を盗み、大坂に逃げた大盗賊の夜霧ノ治郎兵衛の一党が江戸に舞い戻った。南町奉行所あげて探索に奔走するが、見習い同心の八巻卯之吉だけは、吉原で放蕩三昧。そんなとき、卯之吉は貧乏長屋の大家殺しの探索を筆頭同心から命じられる。大好評シリーズ第三弾。書き下ろし長編時代小説。


2023年11月に読んだ6冊目の本です。
幡大介「一万両の長屋ー大富豪同心 (3) 」(双葉文庫)
シリーズ第3弾です。

主人公は、豪商三国屋の若旦那にして、見習い同心の卯之吉。
どう考えても同心として活躍できそうもないキャラクターなのに、そして本人はたいしたことをしないのに、周りが勝手に動いたり、勝手に勘違いしたりして、剣豪で腕利きだと思われてしまう、という設定のシリーズです。
どう考えてもだめだめなのに、周りが勘違いしてくれてなぜか大物感漂う、というおかしさが炸裂。

「うっかりとちょっかいをかけた黒雲の伝蔵一家は、八巻の逆鱗に触れて壊滅させられた。博徒の一家をたった一人で叩き潰したのである。想像を絶する剛腕だ。比肩しうるのは洛外下り松の宮本武蔵か。鍵やノ辻の荒木又右衛門か。高田馬場の堀部安兵衛か。」(127ページ)

なんてなかなか言われることではないですよね。
今回は、さらに、卯之吉の祖父徳右衛門(卯之吉を無理から同心にした張本人)まで加勢しますから、みなの勘違いにも拍車がかかります。

事件の方は、盗賊が盗んだ一万両を貧乏長屋に埋めて隠しているのをめぐる大騒動。
大坂からわざわざやってきた盗賊の頭をはじめ一味が、卯之吉のせいで──いや、卯之吉のせいではないと言うべきなのでしょうね。勝手に──きりきり舞いするさまがとてもおかしい。
ミステリとしての興味で読めるものではありませんが、事の次第が愉快ですし、最後の決着のつけ方も、卯之吉らしいというか、わりと洒落た着地になっているように思いました。
ミステリではないし、3冊読んだところでシリーズを読むのをやめようかとも思っていたのですが、楽しいので、やはり読み進んでいってみようと思いました。


<蛇足1>
「五年ぶりに江戸に下って参りましたんや。」(71ページ)
大坂から江戸に来た治郎兵衛のセリフです。
京都からならともかく、大坂からも江戸は ”下る” だったのだろうか? と思いましたが、あちらは上方、ですから、これでよいのですね。

<蛇足2>
「この屋敷にいる男たちは念友(同性愛者)ではない。艶冶な息づかいが感じられない。
 見た目が強面でも、実は念者という者はいる。そういう男たちはいざその場に臨むと、外見とは似ても似つかぬ艶かしい息づかいをするものだ。」(166ぺージ)
江戸時代には、念友とか念者と言ったのですね。知りませんでした。



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2024年になりました [折々の報告ほか]

あけましておめでとうございます。
2024年になりました。
よたよたしているブログですが、ご覧くださいまして本当にありがとうございます。

昨年2023年はだいぶたまっていた感想をアップすることができましたが、特に12月に入ってからペースダウンし、追いつくことはできませんでした。
それでも11月に読んだ本まで来ていますので、あと少し。
今年は早い段階で追いついていきたいです。

まだ感想をかけていない分も含めて、昨年読んだ本は115冊。月平均で10冊はクリアならず。この辺が今の実力ですね。

例年のようにアクセス数の多いページを調べました──といいつつ、昨年はブログにアップはしなかったんですが。
日本時間1月1日になって間もなくの段階でチェックした数値をもとにしています。
順位を書いてあるところのタイトルをクリックするとブログのページへ、ついている書影やそこについている書名をクリックすると amazon.co.jp の商品ページへ飛びます。

引き続きタイ・ドラマの感想が好調で、肝心の?読書報告はあまりふるいませんね(笑)。

1. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正
生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫

2. Until We Meet Again ~運命の赤い糸~ その2

3. 2gether [タイ・ドラマ]  追加の感想

4. 日本で免税の買い物

5. Love by chance / ラブ・バイ・チャンス その2

6. SOTUS S その1

7. 2gether [タイ・ドラマ] EP13

8. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究
QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫

9. 魔性の馬 (小学館) ジョセフィン・テイ
魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/01/01
  • メディア: 単行本

10. 「あるキング: 完全版」 (新潮文庫) 伊坂幸太郎
あるキング: 完全版 (新潮文庫)

あるキング: 完全版 (新潮文庫)

  • 作者: 幸太郎, 伊坂
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/04/30
  • メディア: 文庫



御覧の通り、タイBLドラマに席巻されております。

昨年1年間のアクセス数もいつも通り調べてみましたが、こちらもタイ・ドラマが圧倒的に優位になっているので今年は掲載をパスします。

ちなみに、いちばんたくさんnice!をいただいているのは、以前と変動なく、「月の落とし子」(早川書房)穂波了でした。


いつもありがとうございます!
タイ・ドラマの感想もまた書こうと思った新年でした。
今年も何卒よろしくお願いします。





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