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地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険 [日本の作家 さ行]


地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

  • 作者: そえだ 信
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/11/19
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
鈴木勢太、性別男、33歳。未婚だが小学5年生の子持ち。北海道札幌方面西方警察署刑事課勤務……のはずが、暴走車に撥ねられ、次に気づいたときには……「スマートスピーカー機能付きロボット掃除機」になっていた! しかもすぐ隣の部屋には何故か中年男性の死体が。どんなに信じられない状況でも、勢太には諦められない理由があった。亡き姉の忘れ形見として引き取った姪・朱麗のことだ。朱麗の義父だった賀治野は、姉と朱麗に暴力を働き接近禁止命令が出ていたが、勢太がそばを離れたとわかったら朱麗を取り戻しにやってくる。勢太の目覚めた札幌から朱麗のいる小樽まで約30キロ。掃除機の機能を駆使した勢太の大いなる旅が始まる。だが、行く手にたちはだかる壁、ドア、段差! 自転車、子ども、老人! そして見つけた死体と、賀治野と、姉の死の謎! 次々に襲い掛かる難問を解決して小樽に辿り着き、勢太は朱麗を守ることができるのか?


2022年5月に読んだ最後の本で、11作目(13冊目)です。
単行本で読みました。
第10回アガサ・クリスティ―賞受賞作。
既に文庫化されています。単行本時の副題をタイトルへと改題されています。


掃除機探偵の推理と冒険 (ハヤカワ文庫JA)

掃除機探偵の推理と冒険 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: そえだ 信
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/05/24
  • メディア: 文庫



掃除機探偵?
と思いますが、本当に掃除機。単行本のイラストではわかりにくいかもですが、文庫版の表紙イラストでは中央にドーンといるロボット掃除機です。
そこに主人公の意識が乗り込んでしまう。

いやあ、なんとも素っ頓狂なアイデアを思いついたものです。
なにしろ無生物。
自ら動き回るロボット掃除機というのがミソですが、それでもいろいろと困難が容易に予想されます。このあたりよく考えられていますね。

物語は最初なかなか話がすすまず、正直もたついている印象で、アイデアで驚かされたものの、いわゆるつかみだけなのかな、と思っていたら、ロードノベル風に展開する中盤以降は快調になりました。
この作品は、「掃除機探偵の推理と冒険」 (ハヤカワ文庫JA)ということですが、冒険に比重を置いて楽しむのがよいです。
人の善意に支えらえるという展開も、こういう小説の場合は心地よい。
ーーだって、どうしたって所詮はロボット掃除機。ネットに接続することで都合よくいろいろとわかるとはいっても限界があって、誰かに助けてもらわないければならないことは当初より自明ですから。

せっかくのクリスティー賞なのだから、推理の部分にもう一段も二段も工夫してほしいところではありますが、また驚かされるようなアイデアで楽しい物語を披露してほしいです。




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五色の殺人者 [日本の作家 さ行]


五色の殺人者

五色の殺人者

  • 作者: 千田 理緒
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/10/10
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
高齢者介護施設・あずき荘で働く、新米女性介護士のメイこと明治瑞希(めいじみずき)はある日、利用者の撲殺死体を発見する。逃走する犯人と思しき人物を目撃したのは五人。しかし、犯人の服の色についての証言は「赤」「緑」「白」「黒」「青」と、なぜかバラバラの五通りだった! ありえない証言に加え、見つからない凶器の謎もあり、捜査は難航する。そんな中、メイの同僚・ハルが片思いしている青年が、最有力容疑者として浮上したことが判明。メイはハルに泣きつかれ、ミステリ好きの素人探偵として、彼の無実を証明しようと奮闘するが……。
不可能犯罪の真相は、切れ味鋭いロジックで鮮やかに明かされる! 選考委員の満場一致で決定した、第30回鮎川哲也賞受賞作。


2022年3月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
鮎川哲也賞受賞作。

謎が魅力的ですね。
犯人が着ていた服の色について目撃者の証言が食い違う。しかも5通り!
どう処理するのかなぁ、とわくわくしながら読んだのですが、うーん、これではねぇ...苦笑。
5通りにしてみせた心意気は買いたいですが。

この1点に賭けた作品ではなく、選評で辻真先がいうところの「ヒロインの推理と恋が軌を一にして」いるところも大きなポイントですね。
こちら、わりと類例の多い仕掛けで、かつ、丁寧に書かれているので読者に見抜かれやすくなってしまっていますが、この舞台、この人物配置でこの仕掛けはかなり高難度だと思うんですよね。
きれいに着地しているので素晴らしいな、と思います。

あとなにより、介護施設を舞台としていながら、重苦しくなっていない点がいい。

ミステリとしてはかなり小粒なイメージですが、楽しめました。


<蛇足1>
「私はまだ入職から日が浅いので来客の対応をしたことがないのですが、」(15ページ)
入職っていうのですね。初めて出会った言い方です。

<蛇足2>
「メイが話す間、磯はボールペンを動かしっぱなしだった。」(20ページ)
「利用者の家族からは問い合わせの電話が入りっぱなしだし、」(50ページ)
「しっぱなし」というのは、何かを行為・行動をして、そのまま放っておくことを指すので、ここでは「動かしっぱなし」ではなく「動かしどうし」「入りどうし」でしょうね。
この間違い、自分でもよくしちゃうのですが。

<蛇足3>
「百歩譲って青に似ている緑を加えるのはまだ許せても、赤は色の系統が違いすぎる。」(40ページ)
これまたよく使われる表現ですが、百歩は譲りすぎだとどこかで目にしたことがあります。
普通の日本語としては「一歩譲って」で十分だと(笑)。

<蛇足4>
44ページに突然「閑話休題」という語が出てきます。
犯人の性別が男と思われることから、視点人物であるメイが、そのときいた男性を順に思い出すシーンで出てくるのですが、不要な尖った表現が急に出て来てびっくりしました。

<蛇足5>
「それから少しのあいだ、三人は殺人事件について話をした。主に澄子と詩織が質問をして、メイが答える形だった。
 数分後、澄子がお気に入りのミステリドラマの放送時間を新聞で調べ出したあたりで、メイは辞去することにした。」(86ページ)
少しのあいだ話をしたのに数分後? と思いましたが、これは話が終わってから数分後、と読むのですね......

<蛇足6>
メイが最近読んで面白かったミステリとして、ディック・フランシスの「横断」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)をあげるシーンがあって、おお、と思ったのですが、
「読み慣れていないと、古い翻訳ものは読みづらいかもしれませんよ。文章が古めかしいので。」(132ページ)
と続けていてびっくりしました。
そうか、もう菊池光さんの訳は古めかしくて読みづらいのか......
最近の本としてはエリー・アレグザンダーの「ビール職人の醸造と推理」 (創元推理文庫)があげられています。
こちらは「ミステリかどうかの以前に、ビールを飲みたくなること間違いなし」とのことです。

<蛇足7>
『「ダンディ警部シリーズ」の最新作、「誤認五色」を先日読み終えたばかりだった。』(139ページ)
本書「五色の殺人者」の鮎川賞応募時点のタイトルが「誤認五色」だったのですね。こういうのおもしろいです。

<蛇足8>
「あんみつとは、みつ豆にあんこを添えたもの。一方でみつ豆とは、赤えんどう豆、寒天、みかんや桃などのくだもの、白玉や求肥を器に盛り、黒蜜やシロップをかけた甘味である。」(156ページ)
和の甘味はあまり食べつけないので、この区別あまりちゃんと認識していませんでした。

<蛇足9>
巻末にある選評で、辻真先が「ジト目」という表現を使ったある応募作に対して、知られていない表現だとして「あなたの世界はそれほど狭い」と指摘しています。
「ジト目」というのはマンガやアニメでちょくちょく見られる表現なので、あれっ、辻真先知らないのかな? と思ったのですが、辻真先が知らないと言っているわけではなかったです。

<蛇足10>
本作の主人公の苗字が明治。
調べてみたら実在の苗字なんですね。びっくりしました。
当然ながら明治になってからつけられたものだと思いますが、元号、すなわち将来の天皇の諡と同じものを苗字にするなどという大胆な家があったとは......



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天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス [日本の作家 さ行]


天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 城山 真一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2017/02/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
石川県庁の金融調査部で相談員として働く百瀬良太は、会社の経営難に苦しむ兄が、株取引の天才、黒女神こと二礼茜に大金を依頼する場に同席した。金と引き換えに依頼人の“もっとも大切なもの”を要求する茜は、対価として良太を助手に指名する。依頼人に応える茜の活躍を見守る良太。彼女を追いかける者の影。やがて二人は、日本と中国の間で起こる、国家レベルの壮絶な経済バトルに巻き込まれていく。


2022年3月に読んだ7作目(8冊目)の本です。
第14回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
前回感想を書いた「神の値段」 (宝島社文庫)と同時受賞です。

タイトルにもなっている二礼茜が「黒女神(ブラック・ヴィ―ナス)」と呼ばれる存在で、依頼人の ”もっとも大切なもの” として茜が指定したものを渡せば、返済不要のお金を用立ててくれる、という設定になっています。
そして、依頼人の人情噺が百瀬良太という視点人物を通して語られます。

茜の原資はなにかというと、株取引。タイトル通り、株トレードで資金を得るのです。
必勝の天才トレーダー。
なんじゃそりゃ、と思わないでもないですが、物語の起爆剤としてそういう設定なのだと思えば受け入れ可能なラインでしょう。フィクションでこういう強引な設定は、ままあることです。

ところが後半、茜がスランプに落ち込みます。

どうやら吉野仁の解説によると、選考会ではこの茜の不敗神話ぶりが不評だったらしく、応募時の原稿が大幅に書き直されたらしいのです。
つまり、応募時点では黒女神は「連戦連勝のスーパーウーマン」だったようなのですが、それを「勝ちに見放され、どん底に堕ちることも経験した傷だらけのヒロイン」に修正されたわけです。
解説に曰く
「改稿によって、人物造形に深みが加わったばかりか、起伏に富んだ物語となったことで、より面白く、完成度の高い作品に仕上がったと思う。」
らしいのです。

応募時の原稿を読んでいないのでどうこう言うのはフェアではないと思いますが、ぼくの意見はまったく逆です。
この改稿は大失敗だったと思っています。

依頼人の人情噺が続く連作短編集であれば、その改稿もありだったと思います。
しかし、この作品は後半物語の幅が拡がって、ブラック・ヴィーナスの立ち位置(存在理由といってもよいかもしれません)含めて展開していくのです。
「連戦連勝のスーパーウーマン」のままであれば、フィクションにおけるお約束として受け入れ可能であったものが、なまじ失敗もするようになったがために、単なるご都合主義に思えてきます。(作者にとって)都合のいい時に勝って、都合の悪い時に負ける。
そしてこの「負ける」という側面は、ネタバレになるので詳しくは書けないのですが、本作品の根幹をなす設定(それがブラック・ヴィーナスの立ち位置です)のリアリティのなさを大幅に増幅してしまっています。負けるといっても、全体の勝率はすさまじいものではあるのですが、あの立ち位置は連戦連勝であるからこそ成立し、映えるものです。
改稿によって、物語の枠組みをぶち壊してしまったのではないか、と思えてなりません。

解説で
「徹底したリアリズムで現実の経済や株取引を描くというよりも、むしろ大胆な虚構性を導入するなど物語性を重視して出来上がっているのが本作品なのである。」
と書かれていますが、選考会の指摘を受け、なまじ中途半端なリアリティを意識して修正したがために、物語の基盤を破壊してしまったようです。
連戦連勝のヒロインという大嘘を基礎にそれ以外はリアルに構築してみせた物語だったはずのものが、肝心の土台が崩れて作品世界が傾いてしまった、というのが感想です。
もったいないですね。


<蛇足1>
「今、フェミニズム法案の国会への再提出で世論は二分されている。」(147ページ)
三年前に結局国会に提出されなかった法案が国会に出されるかどうか、というのは「再提出」ではないですよね......

<蛇足2>
「そういうお考えが、尊敬できるところでございますの。」(147ページ)
いかにもな女性のセリフとして描かれているのですが、いまどきこんな口調の人、いるのでしょうか?
ことが ”フェミニズム” 法案に関するだけに、余計気になりました。



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わたしが消える [日本の作家 さ行]


わたしが消える

わたしが消える

  • 作者: 佐野 広実
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本


<帯あらすじ>
元刑事の藤巻は、医師に軽度認知障碍を宣告され、愕然とする。離婚した妻はすでに亡くなっており、大学生の娘にも迷惑はかけられない。ところが、当の娘が藤巻の元を訪れ、実習先の施設にいる老人の身元を突き止めて欲しい、という相談を持ちかけてくる。その老人もまた、認知症で意思の疎通ができなくなっていた。これは、自分に課せられた最後の使命なのではないか。娘の依頼を引き受けた藤巻は、老人の過去に隠された恐るべき真実に近づいていく……。
「松本清張賞」と「江戸川乱歩賞」を受賞した著者が描く、人間の哀切極まる社会派ミステリー!


第66回江戸川乱歩賞受賞作。
2022年3月に読んだ5作目(冊数でいうと6冊目)の本です。
江戸川乱歩賞受賞作を積読するようになったのはいつからだろう、とふと気になりました。

さておき、選考委員の綾辻行人が選評で
序盤の地味な「謎」が、物語の進行とともに厚み・深みを増しながら読み手を引き込んでいく。
と書いている通り、地味な物語です。

タッチとしてはハードボイルド風。
「『最後の仕事』を中途半端なままで投げ出してしまえば、六十一年の人生をこの手で汚すことにもなる。」(187ページ)
命の危険にさらされても、
「多少理不尽なことがあっても目をつむるのが大人でしょ。プライドのために家族を犠牲にするなんて」
という今は亡き妻の言葉を反芻しながらも、こんな感慨で捜査を続行します。

介護施設の門の前に座り込んでいたのを見つかった謎の老人の正体をさぐる、という筋書きですが、非常に手堅い。
この手堅いトーンに、大掛かりな真相をぶち込んだのがミソだと思うのですが、残念ながら計算違いではないかな、と思えました。
大掛かりな真相というのは、とかく非現実的と受け止められやすいものなのに、この手堅い、落ちついたトーンでは、力で読者をねじ伏せるとはいかず、非現実的な印象が逆に強められてしまっています。
この真相はもっともっと劇画調のストーリーに塗りこめる必要があるのではないでしょうか。

また、軽度認知障碍を宣告された主人公という目を引く設定ですが、この設定がミステリ的に意味があるかというとそうでもないのも残念で、こちらの設定は、タイトル「わたしが消える」にこめられた含意を展開してみせる仕掛けに関連してきているのですが、この仕掛けは不発と言わざるを得ないと思っています。
最後の最後、最後の一文に至ってようやく作者の用意した周到なたくらみに気づいた鈍感な読者でして、この技巧にはすごいな、と思ったのですが、同時にこれだともう消えちゃってるよなぁ、と苦笑もしました。

いろいろ残念なところの多い受賞作でしたが、しっかりと安定した作品世界を作っていける作者だと思いますので、今後に期待です。
このところの乱歩賞は往年の輝きを失っているような気がして心配です。


<蛇足1>
「名央大学を出てふたたび中央・総武線に乗り、今度はお茶ノ水で降りた。」(135ページ)
名央大学というのは水道橋駅から5分くらいのところにある設定です。
だとすると、JRの水道橋-御茶ノ水駅は一駅なので、歩いたほうがよいような気がします......余計なお世話ですが。
あと非常に細かく、ある意味どうでもよいようなことなのですが、中央・総武線、という路線はなく、中央線と総武線が重なっている部分が多いのでそう呼ばれているだけですよね。
名央大学までは西国分寺から来たということなので、快速の中央線と各駅の総武線(水道橋駅は快速は止まりません)を乗り継いできたので、中央・総武線という表記でもよいのでしょうが、水道橋-御茶ノ水間は総武線と書くべきでしょうね。

<蛇足2>
「新幹線で福島駅に到着したときには午後九時を回っていて、そのまま駅近くのビジネスホテルに泊まった。ホテルの夕食は終わっているというので、助六寿司は正解だった。」(230ページ)
ビジネスホテルに夕食!? とふと思ったのですが、ビジネスホテルにレストランがついていてもおかしくないなと。
しかし最近はコンビニが発達しているので、この種のことを悩む必要はほとんどなくなりましたよね。





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准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき [日本の作家 さ行]


准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき (角川文庫)

准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき (角川文庫)

  • 作者: 澤村 御影
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
嘘を聞き分ける耳を持ち、それゆえ孤独になってしまった大学生・深町尚哉。幼い頃に迷い込んだ不思議な祭りについて書いたレポートがきっかけで、怪事件を収集する民俗学の准教授・高槻に気に入られ、助手をする事に。幽霊物件や呪いの藁人形を嬉々として調査する高槻もまた、過去に奇怪な体験をしていた――。「真実を、知りたいとは思わない?」凸凹コンビが怪異や都市伝説の謎を『解釈』する軽快な民俗学ミステリ、開講!


2021年9月に購入した際、ドラマ化もされるということで、書店でシリーズが山積みになっていました。
あらすじに民俗学ミステリとありますし、もともと民俗学はミステリと相性もいい。
民俗学を扱ったミステリも好みですし、この際、ということで購入したものです。

第一章 いないはずの隣人
第二章 針を吐く娘
第三章 神隠しの家
と章立てになっていますが、連作短編集のような感じで、それぞれ別のエピソードです。

いやあ、軽い。
キャラクターも設定も軽い。民俗学も軽い。
そしてなにより、扱われている謎が軽い、軽い。
というか、高槻准教授を除いて登場人物たちは不思議がっていますが、どこにも謎らしい謎はありません。
事件(?)の説明を聞く段階で、ほぼほぼ真相が見えてしまう。
正直、ミステリと名乗らないでほしくなるレベルです。

じゃあ、つまらなかったのか、というと、そうではないですね。
楽しく読みました。
これがキャラクター小説の楽しさというものでしょうか? 悪くないですね。
(個人的には、BLテイストが盛り込まれているように感じられてしまうところはやや難ありなのですが、世間受けはすると思われます)

それにしても、
主人公は不思議な能力(?)を持つ青年、
その能力に惹きつけられる大学の美形の先生、
この二人がバディとして謎を解く、
この構図、「死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る」 (中公文庫)(感想ページはこちら)に始まる喜多喜久の死香探偵シリーズとまったく同じです。びっくりしました。
どちらかがどちらかのパクリなのか!? とも思うところですが、「死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る」 が2018年1月、「准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき」 (角川文庫)が2018年11月ですから、偶然ですね、きっと。
人気を集めるような作家、作品はどうしても似たような発想になるということなのかな?



<蛇足1>
「選択肢はココアとコーヒーと紅茶とほうじ茶。紅茶とほうじ茶はティーバッグ使用。ちなみにココアはバンホーテンだ!」(49ページ)
バンホーテンが、なんだか高級そうに扱われていますが、そんなにありがたがるほど高級でしたっけ?
普通のスーパーに普通に売っている普通のブランドではなかったでしたか?

<蛇足2>
「提示された給料は決して悪い条件ではなく、己が懐事情を鑑みた結果、尚哉は高槻の提案を受け入れたのだった。」(65ページ)
毎度のことで申し訳ないですが、「鑑みた」が出てきたのでチェックしておきます。

<蛇足3>
「耳触りの良い声がスマホから流れてくる。」(123ページ)
ついに「耳障り」ではなく「耳触り」という語が創造されているのですね。
次は「目触りの良い」とか言い出すんでしょうね。

<蛇足4>
「鞄から取り出した Suica を改札に滑らせようとして――尚哉は思わず足を止めた。」(125ページ)
Suicaという関東・東北ローカルのものが説明なしに出てきているというのは少々驚きでしたが、じゃあ、他に何と書くのかと考えても思いつきません。ちょっと落ち着かないですが。
それより驚いたのが、「滑らせ」よう、という表現。
あれは滑らせるものですか?
交通機関による窃用では「タッチ」という語が使われますが、「滑らせる」というイメージはないですね。
なんとなく「滑らせる」というと、改札のところにある切符などを入れる穴(スロット)に Suica を入れる様子を連想してしまいました。「滑り込ませる」わけではないので、この想像も適切ではないのですが。








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箱根地獄谷殺人 [日本の作家 さ行]


箱根地獄谷殺人 (天山文庫 し 3-1)

箱根地獄谷殺人 (天山文庫 し 3-1)

  • 作者: 島田 一男
  • 出版社/メーカー: 大陸書房
  • 発売日: 2022/08/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
箱根・芦ノ湖に程近い山村で起きた硫化水素ガスによる殺人未遂事件。幸い狙われた資産家の未亡人が異常に気づくのが早く、犯人の企みは潰えたかにみえたが、その一週間後の夜、彼女は右眼に破魔矢を射込まれて殺された。犯行現場の離れ屋は完全な密室状態。しかも捜査線上にあがった容疑者には完璧なアリバイが… 温泉郷・箱根で次々に起こる殺人事件。真相を追う新聞記者・日下部の冷静な眼が巧妙なトリックを暴く本格推理の傑作。


2022年の読書、第1作目です。
島田一男の「箱根地獄谷殺人」 (天山文庫)
お正月に実家に帰省していまして、そこで大昔の積読本を読もうと思って手に取ったものです。
天山文庫自体が今はもうないですね。
奥付を見ると(といいつつカバーにかかれているだけですが)、1988年11月5日初版となっています。
古すぎるからか、amazon では書影がなく、上に引用してもしょうがないかなと思いつつ(笑)、いつものフォーマットということでそのままにしておきます。
巻末に、本書は『犯罪山脈』(光風社刊)を加筆し改題したもの、と書かれてあります。

島田一男は多作家で、初期の頃は本格ミステリを書かれていましたが、事件記者シリーズや捜査官シリーズのような作風に転じられたというイメージで、失礼ながら多作家の書き飛ばしなんじゃないかと思ったりもしたものです。

ところが、です。実際に読んでみたら、こんな失礼なイメージを持っていたことを猛烈に反省しました。
「魔弓」
「腐屍」
「毒唇」
「死火山」
「邪霊」
の5編収録の連作短編集なのですが、軽く書いているようでいて、それぞれにしっかりとしたミステリらしいトリックが盛り込まれています。

新聞記者を主人公に据えていまして、現在とはずいぶん違うセリフ回しや人間関係のあり方が、古びているといえば古びているのですが、今となってはむしろとても興味深い。
刑事ではなく新聞記者という設定も効果的に使われています。

主人公が強羅支局から本社へ転勤になることで連作が終わりを迎えるのですが、もっと続けばいいのにな、と思いました。

島田一男の本はいまやほとんど手に入りませんが、この「箱根地獄谷殺人」 のような作品は復刊していってほしいですね。



タグ:島田一男
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暗夜 [日本の作家 さ行]


暗夜 (新潮文庫)

暗夜 (新潮文庫)

  • 作者: 志水 辰夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/06/26
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
弟は三年前、本牧埠頭に沈んだ愛車の中で発見された。腹をえぐられて死んでいた。榊原俊孝はその死の謎を追う。知らぬ間に、中国古美術の商いに深入りしていた弟。彼から母が預かった唐三彩の水差しは、混迷を解く鍵となるのか――。様々な思惑を胸に秘め、大胆に動き始める兄。日中両国、幾人もの欲望が渦を巻く危険なゲームが、そして、始まる。志水辰夫の新境地たる漆黒の小説。


2021年11月に読んだ5冊目の本です。
またもやいつの本を引っ張り出してきたのだ、と言われそうですが、奥付を見ると平成十五年二月ですから2003年。20年近く前の文庫本ですね。
そういえば志水辰夫の本を読むのも久しぶりです。
いまでは時代小説作家のような感じもしますが、「飢えて狼」 (新潮文庫)でデビューした冒険小説の旗手でした。
第二作の「裂けて海峡」 (新潮文庫)などは感動して人に薦めまくったものです。

多彩な作風を誇る作家ですが、この「暗夜」 (新潮文庫)はハードボイルド調ですね。
主人公榊原は刑務所帰りという設定で、四年前の入所の際経営していた新華通商という貿易会社を弟に譲っていた。その弟が殺された謎を追う。

どことなく乾いた感じがする文章で、物語は唐三彩という陶磁を扱い、中国との貿易ですから、いかにもうさん臭い(失礼)。典型的なハードボイルドのように進んでいきます。

一読、なにより驚くのは中国の変わりようでしょうか。
「この作品は二〇〇〇年三月マガジンハウスより刊行された」
と書いてあるのですが、本書「暗夜」 (新潮文庫)が書かれた当時の中国はこんな感じだったのですね。
完全に発展途上国。未開の地、辺境です。
あれから20年ほど、(中国には行ったことはないのですが)変貌ぶりに驚きます。

典型的という語を使いましたが、そういう物語を退屈させずにしっかり読ませる。
絶対の安心印である志水辰夫のような作家の作品をどうしてこんなに長い間積読にしていたのかと呆れてしまうほどですが、現代ものから離れてしまって「暗夜」 は貴重な未読の現代ものだったんですよね。
あーあ、読んでしまった。
また現代ものも書いてくれないものでしょうか......


<蛇足1>
「関西の人間が考えている以上に、東京の人間にとって関西はローカルな存在なのである。」(49ページ)
これはまったくその通りだと思いますね。
関西の人、殊に大阪の人は東京に対抗心を持っているケースが多いように見受けられますが、東京の人からすると大阪など眼中にない。そもそも比較の対象として存在しえない。
実はこの点は、関西以外の地方の方も含めて一般的な認識なのではないかと思っています。
関西の人は、とかく東京(あるいは東京圏)の次は関西(あるいは大阪)と思いたがるのですが、他の地方の人から見れば、東京の次は自分たちの地方の主要都市が頭に浮かぶのではないでしょうか?

<蛇足2>
「どちらかというとええかっこしいの男だったから、よっぽど切羽詰まってのことだろう。」(135ページ)
ええかっこしい、という語が小説で使われているというのに驚きますが、すんなり意味がわかるのでしょうか? まあ、わかりやすい語ではありますが。




タグ:志水辰夫
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悪い夏 [日本の作家 さ行]


悪い夏

悪い夏

  • 作者: 染井 為人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 単行本

<カバー裏帯あらすじ>
26歳の守は地方都市の社会福祉事務所で、生活保護受給者(ケース)のもとを回るケースワーカーとして働いていた。曲者ぞろいのケースを相手に忙殺されていたその夏、守は同僚が生活保護の打ち切りをチラつかせ、ケースである22歳の女性に肉体関係を迫っていることを知る。真相を確かめるために守は女性のもとを訪ねるが、やがて脅迫事件は形を変え、社会のドン底で暮らす人々を巻き込んでいく。生活保護を不正受給する小悪党、貧困にあえぐシングルマザー、東京進出をもくろむ地方ヤクザ。負のスパイラルは加速し、ついには凄絶な悲劇へと突き進む――。
「いつか必ず、人生を取り返してやる」
生きづらい社会を克明に描く、迫真の犯罪小説。



第37回(2017年)横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。
積読にしている間に文庫本が出ています。


悪い夏 (角川文庫)

悪い夏 (角川文庫)

  • 作者: 染井 為人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 文庫



見事なまでに、ゲスな人間、クズしか出てこない通俗的犯罪小説。
読みやすいです。
「正義を掲げるというよりは、悪を叩き潰したい。この二つは同じようで微妙にちがう気がした。」(61ページ)
なんて、おやっと思わせてくれる表現もあり、筆力はお持ちのようでぐいぐい読めます。
ただ、いかんせん好みに合いません。
あまりにも救いがなさすぎる。
扱われている生活保護というテーマ自体が救いがないのだ、ということなのかもしれませんが......
ジメジメ、ジトジト、陰鬱な世界がお好きなかた、どうぞ。この作品は、あなたのためにあります。



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何様ですか? [日本の作家 さ行]


何様ですか? (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

何様ですか? (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 枝松 蛍
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中学時代に養父から性的暴行を受けた女子高生・平林美和は、義父に殴り殺された弟 “ユウちゃん” を内面化し、その囁きに従って “ファイナルプラン” と名づけられた大量殺人計画を遂行しようとする。一方、倉持穂乃果は意識が高く社交的で、自らの日常や読んだ本の感想をブログに書き続けていた。そんな倉持を嘲笑しながら着々と計画を進める平林であったが、その先には思いがけない事態が――。


2016年の『このミステリーがすごい! 』大賞・隠し玉作品です。
前回感想を書いた才羽楽の「カササギの計略」 (宝島社文庫)と同時刊行。
あちらがホワイトどんでん返し、こちらがブラックどんでん返し、というのが出版社の謳い文句です。

「カササギの計略」 (宝島社文庫)は到底ホワイトとは思えない(&受け入れがたい)という感想を抱きましたが、この枝松蛍の「何様ですか?」 (宝島社文庫)は、宣伝文句通りブラックですね。
ただ、ブラックとはいっても、登場人物がブラックというにとどまらず、作者がブラックです(笑)。

おそらくはほとんどの読者の想定を超えたラストを迎えると思うのですが、超え方がねぇ......
超えたというよりはむしろ、ずれた、と言いたくなるような感じです。
どんでん返しは確かにどんでん返しなのですが......

福井健太の解説で
「本作は三つの視点――平林の独白、男子が兄に宛てた手紙、倉持のブログで構成されている。平林のパートは辛辣な思考と言動に満ちており、とりわけ小説家・星村しおりの扱いは凄まじい。しかし人間の悪意は一様ではなく、あらゆる角度に増殖し、際限なく深化しうるものだ。その相克を通じてより強い悪意を描くドス黒い物語なのである。」
と書かれていて、見事な要約に感心しますが(だから引用しちゃったのですが)、いや、まさかねぇ。物語がそういう方向に向かうとはねぇ。

到底おすすめはできませんが、とにかく不快な話、強烈な話が読みたい方に(笑)。


<蛇足>
「特定の異性に入れ込んでいることを『夢中』と表現するのは最も気持ちの悪い言葉の使い方のうちのひとつだ。」(36ページ)
皮肉のきいた文章ではありますが「最も~のうちのひとつ」という気持ちの悪い表現が使われていて笑ってしまいました。




タグ:枝松蛍
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カササギの計略 [日本の作家 さ行]


カササギの計略 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

カササギの計略 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 才羽 楽
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/07/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
僕が講義とバイトを終えてアパートに帰ると、部屋の前に見知らぬ女がしゃがみこんでいた。彼女は華子と名乗り、かつて交わした約束のために会いに来たという。なし崩しに同棲生活を送ることになった僕は、次第に華子へ惹かれていくが、彼女は難病に侵されていて、あとわずかな命しかなかった……。ともに過ごす時間を大切にする二人。しかし、彼女にはまだ隠された秘密があった――。


2016年の『このミステリーがすごい! 』大賞・隠し玉作品です。
前年の第14回『このミステリーがすごい! 』大賞の応募作品を改稿したものです。
このときの隠し玉は2冊同時刊行で、もう一冊が枝松蛍の「何様ですか?」 (宝島社文庫)
出版社としてセットで売り出す意向が強く、この「カササギの計略」 (宝島社文庫)がホワイトどんでん返し、「何様ですか?」 (宝島社文庫)がブラックどんでん返し、二つで白と黒、らしいです。

この宣伝の仕方は作者のせいではないので、それについてあれこれ指摘しても作者にとって迷惑以外の何物でもないとは思うものの......

これのどこが白いのでしょうか? 恐縮ながら、真っ黒ではないかと。
これを「心温まるホワイトどんでん返し」だの「温かな気持ちで読後の余韻に浸ることができる」だの言う人がいるということ自体が信じられない。

ホワイトどころか、非常に気持ち悪いプロットを持った作品です。
この作品の仕掛け、タイトルにならっていうと計略がミステリとしてみた場合の肝だと思うのですが、あまりにも黒く、かつ(心理的に)非現実的なのが致命傷。
主人公である僕を取り巻く物語のほかに、ベビーさんというベビーカーに人形を乗せて歩き回っている女性のエピソードが出てくるのですが、こちらも無理筋。

突然押しかけて来た女が難病に侵されていて、といういかにもベタな設定をひねってみようと考えて思いつかれた物語なのかな、とも考えましたが、ちょっとこのパターンは拒否反応を示さざるを得ないですね。
登場人物の行動があまりにも受け入れがたい。

計略に触れたので、ついでにカササギにも触れておくと、こちらは
「七月七日にカササギの群れが天の川にやってきて、羽を広げて橋を作るんだって。そして織姫はその橋を渡り、牽牛に会いに行くんだ」(248ページ)
というセリフからとられています。
このタイトル自体が一種のミス・ディレクションとして働いているところはいいなと思えたのですが、いかんせん根幹をなすプロットの後味の悪さを払いのける力はありませんでしたね。
ラストはハッピーエンディングっぽい書き方がされていますが、これ、ハッピーエンディングではないと思います。


<蛇足1>
「エンジンをかけて、クーラーを全開にして」「それから助手席の窓以外、全部開けて」「運転席のドアも閉めて」助手疫のドアを開け、開けたと思ったらすぐに閉めた。それを十回ほど繰り返した。
(102~103ページ)
直射日光のあたるところに停めていて、社内の温度がサウナのように上昇しているクルマの社内温度を下げる方法のようです。すごいな。
機会があれば試してみようと思います。

<蛇足2>
「駅前のコインパーキングに車を停めて、英国風の時計台を横目に通り過ぎ」(233ページ)
英国風の時計台? おそらくビッグ・ベンのようなのをイメージすればよいのでしょうね。
あれを英国風というのかどうかは知りませんが。





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