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天狗小僧 [日本の作家 は行]


天狗小僧ー大富豪同心(2)(双葉文庫)

天狗小僧ー大富豪同心(2)(双葉文庫)

  • 作者: 幡 大介
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
盗賊・霞ノ小源太一味が江戸の町を震撼させていた。そんな折、油問屋・白滝屋の一人息子が高尾山の天狗にさらわれるという事件が起きた。見習い同心の八巻卯之吉は、筆頭同心の村田銕三郎から探索を命じられる。江戸一の札差の息子、卯之吉が八面六臂の活躍をする待望のシリーズ第二弾!


幡大介の「大富豪同心」 (双葉文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾。

主人公は、豪商三国屋の若旦那にして、見習い同心の卯之吉。
どう考えても同心として活躍できそうもないキャラクターなのに、そして本人はたいしたことをしないのに、周りが勝手に動いたり、勝手に勘違いしたりして、剣豪で腕利きだと思われてしまう、という設定のシリーズです。

今回も快調に勘違い(卯之吉自身の勘違いもあれば、周りの勘違いも。周りの勘違いのほうが盛大です)がさまざまな事件を解決します。

江戸を騒がす盗賊一味、高尾山で天狗にさらわれて帰ってきた油問屋の一人息子。
こうした事件に加えて、吉原に魅入られてしまった与力の沢田、なんていう難物もあります。
糸がどんどんもつれるにもかかわらず、馬鹿馬鹿しい笑いに包まれながら、するするとほどけていくさまを堪能できます。
おもしろい。

さらっと軽く書かれていますが、「善行を為すために、悪事を働いたことが、いけないのだ」(296ページ)というセリフ、個人的には考えさせられました。
「善行を為すために、悪事を働」くって、小説の中で割とよくあることですから。

このシリーズ、読み進んでいってみようと思いました。
次の「一万両の長屋ー大富豪同心 (3) 」(双葉文庫)も買ってきました!



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ネオ・ゼロ [日本の作家 な行]


ネオ・ゼロ (集英社文庫)

ネオ・ゼロ (集英社文庫)

  • 作者: 鳴海 章
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2017/11/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
北朝鮮の原子力施設を爆撃します。協力を願いたい――。米国からの重く困難な極秘要請をうけ、日本の技術者により最新鋭の戦闘機「新・零戦(ネオ・ゼロ)」が開発された。任務を遂行するのは、元自衛官のパイロット、「ソ連機を撃った男」那須野治朗。誰が敵で誰が味方? 各国の思惑が交錯する中、男は一人飛び立つ。陰謀渦巻くサスペンス、呼吸を忘れる空中戦闘、男と男の絆。名作は時代を越える。


8月に読んだ1冊目です。
鳴海章の「ネオ・ゼロ」 (集英社文庫)
復刊されたゼロ・シリーズ。「ゼロと呼ばれた男」 (集英社文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾、だと思うのですが、そして作中の時間軸も「ゼロと呼ばれた男」の後なんですが、もともとの単行本の出版までさかのぼると、「ゼロと呼ばれた男」は1993年4月、「ネオ・ゼロ」 は1992年3月でして、あれ?

ひょっとしたら、「ネオ・ゼロ」 を発表した後、那須野の人物像を掘り下げたくなって、シリーズ化して「ゼロと呼ばれた男」を発表したのでしょうか??

「ネオ・ゼロ」 は、あらすじにもある通り、日本の技術者による戦闘機、ネオ・ゼロ=新・零戦を飛ばします。
そしてそれを操るのが、「ジーク」(第二次世界大戦当時、連合国が零戦につけたコードネーム)と呼ばれる日本人パイロット。
いやあ、ロマンですよねぇ。

しかもそのネオ・ゼロには最新鋭の先端技術が盛り込まれる(当たり前か......)。
それがフェーズドアレイ・レーダーとVR(1992年に発表された作品なので、人工現実感と書かれていますが、今で言うVRですね)によってパイロットと一体化したシステム。
どこかで聞いたことのあるような武器?ですが、1992年で構想されていたんですね。すごいな。

この戦闘機で向かうのは、北朝鮮の原子力施設!

今回も謀略小説的な色彩を帯びつつ、ネオ・ゼロが空を舞います。
当然、一本槍とはいかず、様々な紆余曲折があります。那須野も翻弄されます。
とても熱くなれる作品で、またもや短いなと思ってしまいました。
シリーズの続きが気になります。


<蛇足>
「静かにホンダ・レジェンドが停まった。紺メタリックの塗装で、純正のアルミホィールを装着している」(125ページ)
「ホィール」って、どう発音すればよいのでしょうね?
英語では、wheel で、発音は「ウィール」というのが近そうですが。





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ミステリと言う勿れ (1) [コミック 田村由美]


ミステリと言う勿れ (1) (フラワーコミックスアルファ)

ミステリと言う勿れ (1) (フラワーコミックスアルファ)

  • 作者: 田村 由美
  • 出版社/メーカー: 小学館サービス
  • 発売日: 2018/01/10
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
冬のあるカレー日和。
大学生・整(ととのう)がタマネギをザク切りしていると警察官が「近隣で殺人があった」と訪ねてきた。
そのまま警察署に連れていかれた整にアパートの部屋で
突然任意同行された整に、次々に容疑を裏付ける証拠が突きつけられていくが・・・?
解読解決青年・久能整登場編の episode1 と episode2 [前編] を収録


菅田将暉主演でテレビドラマ化されて話題のコミックです。ドラマがスタートするより前に読んだのですが、今頃感想を。ドラマは観ていません。

冒頭、カレー日和、というところに惹かれてしまいました。雪の朝。
しかも、カレーに、コロッケかメンチを乗せて食べるという、かなり贅沢仕様のカレー。いいではないですか。
あ、いや、これは本筋と関係ないですね。
カレーを作っているところへ大家さんが来る。刑事を連れて。
この大家さん、匂いからチキンカレーってわかるんですよね。ビーフカレーやポークカレー、あるいはシーフードカレーと匂いで違いがわかるものでしょうか?
あ、だから、カレーは本筋ではありません。
刑事さんが殺人事件を告げ、整は容疑者となり、濡れ衣を晴らす、というストーリーです。

ポイントは、整の長話。
この episode1「容疑者は一人だけ」の場合は、刑事さんたちの事情を見抜いて語りだすところ、ですね。
おじさん刑事の娘との関係、若手女性刑事のペットの話、若手男性刑事の出産間近の妻との関係などなどなどなど
説教といえば説教なのでしょうが、この数々の大部分が、正直つまらない。
なにがつまらないかというと、ありふれているから。いずれもどこかで聞いたことのあるような話ばかりなのです。
大学生がこうやって垂れ流す、どこにでもあるようなきわめてありふれた説教じみた話に、周りの大人が(この作品の場合刑事たちが)やすやすと感銘を受けてしまう。

この作品を面白いと思ったのは、整の長広舌の先に犯人が無造作に(この種の作品の場合、無造作であるはずはないのですが、そう思えるような形で、そう見えるように)置いてあること。
犯人のエピソードが、数多のありきたりの説教の中に埋もれてしまっている(ように見える)。
物語の展開としてミスディレクションとまではいかないのですが、不思議な読後感になりました。
ただ、この手は一回限りのもののように思えます。
今後の展開が気になります。

印象に残った整のセリフ。
「真実は一つじゃない
 2つや3つでもない
 真実は人の数だけあるんですよ」
これもまあよく見受けられる意見ですが、こういう感じのストーリー展開になったらもっとおもしろかったですね。

この第1巻には episode 2 も収録されていますが、話が第2巻に続いていくので、感想は次の機会に。
(episode 1 はコミックの半分くらいの長さです)

ところで、気になるのがタイトル。
通常使われる「ミステリー」ではなくて、「ミステリ」。
この表記、早川書房や東京創元社など、海外ミステリの老舗が使う表現ですよね。
ひょっとして作者の田村由美さん、海外ミステリファン?


タグ:田村由美
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YOUniverse [タイ・ドラマ]

今回は、タイのドラマ「YOUniverse」の感想です。



いつもお世話になっているMyDramaListによると、2018年4月から5月に放映されたようで、LINE TV、GMM One となっていますが、下のポスターをみると Web公開だったような感じですね。
4話、各回10分ほどの短い作品です。
YouTube に英語字幕付きでアップされていますが、これ公式なのかな? 上にサムネを引用しちゃっていますけど。
一応リンクを貼っておきます。こちら

odooOf.jpg

ポスターからも明らかかと思いますが、初めに言っておくと、このドラマはボーイズラブではありません。
男女ペア2組の物語です。
初恋物語、でよいのかな?

片方のカップルは、「My Dear Loser:Edge of 17」「The Gifted」 に出ていた Chimon くんと、Apichaya Saejung(愛称 Ciize )という女優さん。この女優さんは、割といろいろな GMMのドラマに出ていますね。
印象的だったのは、「Kiss」 で主役の男子大学生 Thada(タダ)を陥れよう?とした親戚の娘役ですね。この作品では、屈託ない役どころを演じています。
タイ・ドラマの入り口がボーイズラブだったので、どうしても女優さんより俳優さんのほうに注目してしまいますが、Chimon くん、ボーイズラブを離れてのびのびと演技をしているように見えます。
役柄がそうだから、というのも当然ありますね。
女の子をからかいつつも、優しく見守っている感じがよく出ています。

もう一つのカップルは「The Gifted」 の Nanon くんと、Ployshompoo Supasap(愛称 Jan)という女優さん。
この女優さんは「SOTUS」に出ていましたね。「SOTUS」では脇役でしたが、メインを務めるこの作品、「SOTUS」より後の作品なのですが、若い(幼い?)感じをうまく出しています。
こちらの Nanon くんは、ここでも格段の演技力を披露しています。
一目惚れをする役どころなんですが、恋に落ちてしまうのをさまざまな表情や声で見せてくれます。また、終盤の水族館のシーンで「気づく」シーンは観ていて胸が詰まりました。すごく才能あふれる俳優さんですね。

タイトルの「YOUniverse」というのは、観た通り、You(あなた) と Universe(宇宙、世界)を掛けてあります。
共にとても初々しいカップルの様子が描かれていまして、かわいらしい恋愛模様です。
ポスターの背景は、水族館の水槽で、物語の終盤、2組のカップルがデートをする場所、です。
ひょっとしたらこの作品、タイに実際にある水族館の宣伝用だったのかもしれませんね。

長さ的にも内容的にも小品ですが、しっかり演技されていて、見応えありました。



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映画:レイジング・ファイア [映画]

レイジング・ファイア.jpg


映画「レイジング・ファイア」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
『イップ・マン』シリーズなどのドニー・イェン、『ファイアー・レスキュー』などのニコラス・ツェーが主演を務めたアクション。正義感にあふれた警部と、過去の事件が原因で彼に激しい恨みを抱く元エリート警官が激突する。メガホンを取るのは『コール・オブ・ヒーローズ/武勇伝』などのベニー・チャン。ドラマ「理性的な人生」などのチン・ランらが共演する。『るろうに剣心』シリーズなどのアクション監督を務めた谷垣健治がスタントコーディネーターを務めている。


あらすじは、長いですが映画のHPから引用しましょう。

---- あらすじ ----
今夜のデカいヤマを前に、東九龍警察本部のチョン警部(ドニー・イェン)は気を引き締めていた。何年も追ってきた凶悪犯のウォン・クワンが、ベトナムマフィアと大量の薬物を取引する現場に踏み込むのだ。出動まで待機するチョンに、上司から呼び出しの電話が入る。数日前に逮捕した若者が、有力者の息子で示談も成立したから調書を書き直せというのだ。どんな悪も許さないチョンは、断固としてはねのけるのだった。
本部に戻ったチョンは愕然とする。上からの嫌がらせで、チョンが率いるチームが出動から外されていた。チョンとは兄弟同然のイウ警部のチームが、取引場所へと向かう。ところが、不気味な仮面をつけた5人のグループが、ベトナムマフィアとウォンを殺して薬物を奪い、駆けつけた刑事たちも襲撃する。瀕死のイウに向かって男たちは仮面を取り、リーダーらしき男が「久しぶりだな」と不敵に笑う。彼の名前はンゴウ(ニコラス・ツェー)、チョンを慕っていた元エリート警官で、他の4人は当時の彼の部下だった。

情報課から場所を聞き出したチョンが到着した時には既に犯人の姿はなく、イウは無残な死体となって転がっていた。ウォンのブツがどこに流れたか、チョンのチームの執念の捜査が始まり、ンゴウから買い上げたマンクワイの所持が判明する。元受刑者で偽装移民を手下にするイカレた男だ。チョンはマンクワイのアジトに乗り込み、連行しようとするが拒絶され大乱闘となる。あと1歩のところまで追い詰めたチョンの目の前で、マンクワイはンゴウの部下が運転する車でひき殺される。

チョンとンゴウの間に、いったい何があったのか?
あれは4年前のことだった。大手銀行の会長フォック氏が誘拐され、機密の重要事件として副総監の指揮のもと、チョンとンゴウが捜査を担当する。容疑者としてウェンとホーが浮上、ンゴウは早々にホーの身柄を確保し、副総監から「どんな手を使ってもいい」と命じられ、部下と共にホーに激しい暴行を加え、人質の居場所を聞き出す。だが、反撃に出たホーを止めようとして殺してしまう。そこへチョンが駆けつけ、「俺たちは警官だぞ!」と止めるが、すでに手遅れだった。裁判が開かれるが、副総監はンゴウへの指示を否定し、罪は罪、たとえ仲間のためにも嘘のつけないチョンは暴行を目撃したと認める。ンゴウと部下たちはムショに入り、輝かしい未来も家族や婚約者さえも失ってしまったのだ。
自分を救ってくれた警官を見殺しにしたフォック会長、部下を切り捨てた副総監、そして仲間を見捨てたチョンへの復讐劇の壮大なクライマックスへと突入するンゴウ。何があっても正義を貫こうとするチョンとの闘いの行方は──?



この映画は、ベニー・チャン監督の遺作ということになるのでしょうか。
言わずと知れたアクション映画の巨匠が、ドニー・イェン、ニコラス・ツェーという二大スターをダブル主演に据えて制作した作品です。

ドニー・イェン率いる(?) 警察集団と、ニコラス・ツェー率いる集団の対決、という構図が配役のおかげもあって、最初からあからさまで、アクションに期待を高めて集中できます。

ミステリ好きの観点から見てしまうと、底が割れすぎですし、敵役(ダブル主演の場合は敵役というべきではないかもしれませんね)が元警官集団にしては犯行計画が杜撰です。
最後に起こす大事件も、凶悪ではありますが、正直しょぼい。
対する警察側も、杜撰です。
ドニー・イェンのチームが犯人側の狙いに気づき、指示に逆らって現場に駆け付けると、ちょうど車で現場から逃走するニコラス・ツェーのチームと遭遇し、銃撃戦などになる、というのですが、勘だけで犯人と決めつけ(画面上からはそうとしか思えません)銃撃戦に持ち込むのはいくらなんでもねぇ(笑)。

ついでにいうと、犯行には警察時代の遺恨が根っこにあるのですが、この理由でこの犯罪というのもいまいち説得力に欠けます。
だって、"The" 逆恨み、ですから。
なので、主役二人が対決し、「お互い立場が違えば」、と振り返るシーンがあるのですが、二人の性格からして同じことには絶対ならないので、少々虚しい感じ。
オープニングシーンがカットバック的なんですが、あまり効果は上げていない。

とはいえ、こういった些事は(ある意味、ストーリーの根幹なので些事ではないとお叱りを受けるかもしれませんが)放っておいてよいのです。
この映画はアクションシーンこそ命。
そしてこのアクションが、むちゃくちゃすごい。かっこいい。
語彙力がなく申し訳ないですが、スピード感といい、画面の派手さ加減といい、たっぷり楽しめます。
カーチェイス、バイクシーン、銃撃戦そして最後の 1対1 の肉弾戦。
これでもかと盛り込まれた見どころ満載のアクションシーンを堪能できます。
久しぶりにこういう映画観たな、と大満足できました。



製作年:2021年
製作国:香港・中国合作
原題:怒火・重案 Raging Fire
監督・製作:ベニー・チャン
時間:126分




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女王はかえらない [日本の作家 は行]



<カバー裏あらすじ>
小学三年生のぼくのクラスでは、マキが女王として君臨し、スクール・カーストの頂点に立っていた。しかし、東京からやってきた美しい転校生・エリカの出現で、教室内のパワーバランスは崩れ、クラスメイトたちを巻き込んだ激しい権力闘争が始まった。そして夏祭りの日、ぼくたちにとって忘れられないような事件が起こる――。伏線が張りめぐらされた、少女たちの残酷で切ない学園ミステリー。


読了本落穂拾いを5冊したので、通常の感想に戻るタイミングかなとも思いましたが、あと1冊続けます。
第13回 『このミステリーがすごい!』大賞の関連作の感想を続けましたので、いよいよ受賞作「女王はかえらない」 (宝島社文庫)です。

優秀賞である
辻堂ゆめ「いなくなった私へ」 (宝島社文庫)
神家正成「深山の桜」 (宝島社文庫)
を抑えての大賞受賞ですから、期待も高まるというものです。

予備知識なしで読むのがいいとはわかっているのですが、つい見てしまうのが、あらすじや帯。
スクール・カーストとか教室内のパワーバランスとか、なかなかおもしろそうだし。
この少女たちの争いを描いた第一部はとてもおもしろかった。
ページ数が半分くらいのところに来て、衝撃的な展開となり、第二部へ。

第二部は一転、教師の視点になります。
正直、あれれ、と思ってしまったんですよね。
せっかくの緊迫感も薄れてしまい、ちょっと脱力。
第一部のままの視点、トーンで行ってほしいな、と思いながら読みました。同時に、ちょっと嫌な予感を抱きつつ。

そして最終の第三部。
帯で「やがて予想もできない結末へ!」と煽っているのが、残念ながら逆効果。
嫌な予感的中です。

先に作者を弁護しておくと、非常によく考えられていて、細かい点まで気を使って書かれています。
解説で引用されている選評の中では、吉野仁の
「小学校でのいわゆるスクールカーストやいじめといった題材自体はなんら目新しくないし、すでにお馴染みのトリックが多用されている。しかしながら、ぐいぐいと読ませる文章力をそなえており、物語の行方を追わずにはいられなかった」
という評が非常に的確に思えます。

ただ、個人的には、題材が目新しくなく、お馴染みのトリックが多用されている、という点で、ほかの選考委員のようには絶賛することはできないな、と思ってしまいました。



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深山の桜 [日本の作家 か行]


深山の桜 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

深山の桜 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 神家 正成
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
日本から約一万二千キロ、アフリカ大陸。国際連合南スーダン派遣団の第五次派遣施設隊内では盗難が相次いでいた。定年間近の自衛官・亀尾准陸尉と部下の杉村陸士長が調査に乗り出すが、さらに不可解な事件が連続して発生する。果たして相次ぐ事件は何を意味するのか。日本から特別派遣されてきたオネエの警務官・植木一等陸尉も調査に加わり、事件の謎に挑む。『このミス』大賞優秀賞受賞作!


今回の読了本落穂拾いは、前回感想を書いた「いなくなった私へ」 (宝島社文庫)と同時に第13回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞に選ばれた「深山の桜」 (宝島社文庫)

「いなくなった私へ」と対照的に硬質。
硬質も硬質。国連平和維持活動として海外派遣された自衛隊の宿営地が舞台ですから!

本書のタイトル、「深山の桜」は「与えられた任務を黙々とこなる自衛隊員の姿を、だれも訪れない山奥で人知れずひっそりと咲く桜の花になぞらえたもの。」と解説で大森望が簡潔にまとめている通りで、自衛隊の徽章につかわれる桜星にちなんでいますね。
「忍耐の忍の字は、刃と心でできている。忍とは刃を持つ者に求められている心なの。自衛隊は日陰者でいいのよ。国を護るという日の当たらない仕事を続けるには、地道な努力を怠らず、迷いや苦しみを外に表さず、言い訳もせず、他人に理解されない戦いを最後まで続ける矜持を持たなきゃいけないの」(224ページ)と植木も語っていますが、同じ224ページに引用されている吉田茂の言葉は強烈ですね。
自衛隊のみなさまの日頃に敬意を表したくなります。

自衛隊の置かれている理不尽な環境(憲法や法律の制約)というのはよく言われていることですが、それが圧倒的なディテールに支えられて提示されるのがまずポイント。
非常に硬い印象で物語が進んでいき、”盗難事件” の緊迫感が伝わってきます。
すごくいい。
一転、後半になると、植木一等陸尉が日本から派遣されてきて、トーンが和らぎます。
一方で、宿営地をめぐる状況は一層緊迫化。植木が来なければ読者の息が詰まっちゃったかも、と思える。

犯人の行動を考えたとき、この事件は果たして効果的だったのか、もっと良い手はなかったのか、と考えてしまいましたが、読者がこういうことを考えるのも、作者の計算のうちかもしれません。
ミステリ的な仕掛けという点では注目を集めることはないかもしれませんが、満足しました。
神家正成、注目したくなりました。


<蛇足1>
本書冒頭、自衛隊に送られた脅迫状メールの末尾が
「懸命なるご判断をなされることを心より願っております。」(77ページ)
となっています。
"賢明なる" の誤植であろうと思いますが、自衛隊のおかれている境遇に鑑みると、"懸命なる" でもよいのかも、などと思ったりもしました。

<蛇足2>
「ケ・セラ・セラ」という語について登場人物が語るシーンがあります。
「なるようになる。けれどそれは、どうにでもなれ、などという、決して風任せの日和見的な言葉ではなく、こうなるはずのものは、こうなる--。自分の意志こそが物事に意味を与えるものなのであり、自分が信じるようになる--という意味と自分はとらえています。決して他人任せの見責任な言葉ではありません。」(195ページ)
「ケ・セラ・セラ」は、単純に「なるようになる」と解釈していましたが、セットの英語 Whatever will be, will be からすると、この登場人物のいうようにとらえるほうがニュアンスとしては近いのかな、と思えてきました。

<蛇足3>
「一九八九年に制式採用された八九式5.56ミリ小銃(ハチキュウ)」(184ページ)
「制式」に、ん?、と一瞬思いましたが、すぐに、そうだった、正式ではなくて制式だった、と思い出しました。

<蛇足4>
「油圧ショベル」という語が185ページに出てきます。
ショベルにも大小いろいろなものがありますが、ずっと子供のころから、シャベルだと思っていました。
ショベルのほうが一般的なようで、JISも表記はショベルらしいです。
wikipedia によると、どちらも使うようですね。
英語では shovel 。スペルからショベルが正しいと思われがちですが、発音はシャベル、なんですよね......




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C.M.B.森羅博物館の事件目録(28) [コミック 加藤元浩]

C.M.B.森羅博物館の事件目録(28) (講談社コミックス月刊マガジン)

C.M.B.森羅博物館の事件目録(28) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/02/17
  • メディア: コミック

<帯あらすじ>
ある時は沖縄で、「精霊・キジムナーが見える男性」の過去を追う。
またある時は国連で、アフリカの小国の紛争停止を求めて奔走する。
森羅博物館の館長にして名探偵・榊 森羅と、義理と人情の行動派女子高生・七瀬立樹が、世界中の難事件に挑む!


この第28巻は、
「キジムナー」
「空き家」
「ホリデー」
の3話収録。

「キムジナ―」は、幼いころに見た精霊の正体を突き止める話で、CMBの世界とは親和性が高いのですが、ちょっとこれは無理があるかなぁ、と。
人の記憶は謎が多いとはいえ、この作品で描かれているような出来事を小学校三年生が覚えていないということが果たしてあるのか、疑問に感じてしまいます。

「空き家」は、行政代執行で空き家が取り壊されるシーンをスタートに、身寄りのないお年寄り二人の物語がつづられます。
まあ、ハッピーエンディングにたどり着いてよかった、と思うべきところなんでしょうが、どうも釈然としません。

「ホリデー」は、国連の安保理事会でいかに決議を勝ち取るか、というお話。
非常に難しい題材を要領よく短い中に盛り込んだのは、さすが加藤元浩。
ではあるのですが、現実はもっと厳しいですよね......悲しいことに。"国益" の虚しさはもっともっと虚しい。
また、最後の最後に取る手段というのが、これまたまさに最後の手段というか、こんなことを手段とせねばならないのか、と嘆きたくなる事態で....
ちょっと後味がよろしくない。ラストシーンの Holiday が続きますように。


<蛇足>
「戦いを治めることこそが人類の辿り着くべき最上の英知であること信じています」
あれっと思って調べました。戦いを「おさめる」は「治める」ではなくて「収める」ではないかと思ったからです。
どちらも使うようですね。ちょっと落ち着かないのですが(笑)。


2022.1.22修正
改行がおかしくなっていたのを修正しました。
すご~く読みにくかったですね。
失礼しました。


タグ:加藤元浩 CMB
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Q.E.D.証明終了(50) [コミック 加藤元浩]


Q.E.D.証明終了(50) (講談社コミックス月刊マガジン)

Q.E.D.証明終了(50) (講談社コミックス月刊マガジン)

  • 作者: 加藤 元浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/02/17
  • メディア: コミック

<帯あらすじ>
MIT(マサチューセッツ工科大学)卒の天才美少女を救え!
宇宙の存在するとされるが目に見えない「暗黒物質(ダークマター)」
燈馬の元同級生の少女が手掛けたその観測施設が、何者かに次々と狙われ...!? 《描き下ろし「観測」》
謎の手紙により、パズルを解いて迷宮を出るゲームを運営する羽目になった可奈。5人の参加者が集まったが、それは過去のある密室事件につながっていた!《描き下ろし「脱出」》


映画に寄り道したついでに(?)、コミックの感想も。

Q.E.D. もいよいよ50巻。
このあとは、Q.E.D iff シリーズとしてリニューアルされたようなので、Q.E.D. としては最終巻です。
この第50巻には「観測」と「脱出」の2つの話が収録されています。
今回も第49巻に続いて2話とも描き下ろし。


「観測」は、スイス・フランス国境に位置する欧州原子核研究機構で起きた事件。
侵入者が衆人環視の密室状況下で消えてしまった、というもの。
(もうひとつハワイの天文台でも冷却器が止められるという事件が起きますが、こちらは事件の状況があまり詳しく書かれないので、読者に挑む謎としては使われていない感じです)
あまりにも古典的なトリックすぎて、笑ってしまった、というか、笑うしかないのですが、作品の眼目はこのトリック以あるのではなく、主人公のサリーの成長にあると思われますので、これでよいのでしょう。

「脱出」
勇者の物語を底流に、16年前に倉庫で起きた密室事件の関係者が集められて脱出ゲームに挑む、というもの。
その筋立てだけで、話の展開が読めてしまいますが、「脱出」をキーワードに構築された物語を楽しむ邪魔にはなりません。
密室トリックも、なかなかおもしろいです。
ただ、物語の冒頭に出てくる "少年" には、最初から犯人が分かっていたように思うのですが......


タグ:加藤元浩 QED
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映画:ハウス・オブ・グッチ [映画]

ハウス・オブ・グッチ.jpg


本の感想も全然かけていないのですが、映画の感想もかなりかけずにいます。
最近では「マリグナント」(感想ページはこちら)しか書けていませんね。
なので、ちょっと寄り道。
上映が始まったばかりの「ハウス・オブ・グッチ」から書いてみます。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
世界的ファッションブランド「グッチ」創業者の孫で3代目社長マウリツィオ・グッチの暗殺事件と、一族の確執を描いたサスペンス。サラ・ゲイ・フォーデンによるノンフィクションを、『ゲティ家の身代金』などのリドリー・スコット監督が映画化。グッチ家を崩壊に導く女性を『アリー/スター誕生』などのレディー・ガガ、その夫マウリツィオを『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライヴァーが演じるほか、アル・パチーノ、ジャレッド・レトー、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエックらが共演する。


あらすじは映画のHPから引用しましょう。

---- あらすじ ----
貧しい家庭出身だが野心的なパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、
イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチ
(アダム・ドライバー)をその知性と美貌で魅了し、やがて結婚する。
しかし、次第に彼女は一族の権力争いまで操り、
強大なファッションブランドを支配しようとする。
順風満帆だったふたりの結婚生活に陰りが見え始めた時、
パトリツィアは破滅的な結果を招く危険な道を歩み始める…。


ハイブランドのオーナー一族の中の確執。
殺し屋を使った殺害事件まで発生したことは、ニュースでも当時取り上げられていたので、おぼろげながら覚えています。
非常にセンセーショナルなストーリーで、まあ、覗き見趣味に応えるもの、ですね。
恐ろしくハイソな家族を舞台にしながら、驚くほど下世話な展開を見せます。

主演はレディ・ガガですが、迫力あります。
まるで彼女のための映画みたい。

彼女の演じるパトリツィアが、変わってしまったのかどうなのか。
もともとの彼女の本性だったのかもしれないし、周りによって彼女自身も変わってしまったのかもしれないし。
ここははっきりさせてほしかったように思います。
怪しげな占い師が登場してくるのも、事実なんだろうけど、ドラマ的にはどうなんだろう?
心が離れてしまった夫を殺してしまおうとするほどの心の軌跡はよくわかりませんでした。自暴自棄になっていたのかもしれませんが。

被害者となる夫マウリツィオの変化のほうも気になりました。
グッチ家から距離を置いてでもパトリツィアと一緒になりたかったのに。
最初はパトリツィアに煽られて、ということだったのかもしれませんが、いつしか、自ら差配するように、支配するように、変わっていったように思えます。模倣品を駆逐しブランドの価値を守るべきだというパトリツィアの最初の主張は説得力ありますし、マウリツィオも従いやすかったのかもしれませんね。それが次第、次第に、という感じ。
演じるアダム・ドライバー、スター・ウォーズに出ていた役者さんですが、いやあ、立ち居振る舞いが優雅、というか、いかにもセレブのぼんぼん、といった雰囲気が醸していてすごいです。

159分という長めの映画なのですが、印象的にはすごくあわただしい。
事実に基づく、というのが手枷、足枷になったのでしょうか?
主役陣の心情の変遷がわかりにくいのは、原作は、「ハウス・オブ・グッチ」 上
下 (ハヤカワ文庫NF)として早川書房から出ているところ、上下のボリュームをこの長さの映画にするのに、刈り込んじゃったからでしょうか?
ミステリではないので、原作本をわざわざ当たってみる気にはならないのですが......

とはいえ、興味深い題材でしたし、さすがはグッチを背景にしているだけあって画面が華やかで楽しめました。

気になった点がいくつか。

まず気になったのは、セリフが英語なのはいいとして(イタリアが舞台で登場人物がイタリア人だからといって、イタリア語ではハリウッド映画としては困ってしまうから)、みんながみんな訛った英語を話していたこと、でしょうか。
雰囲気ですが、イタリア人が英語を話すとこんな感じ、というような。
イタリアの雰囲気は出たのかもしれませんが、これでいいのかな、と。

2点目は、物語のラスト、パトリツィアによって亡き者にされちゃう夫・マウリツィオなのですが、彼の持っていた株はどうなったのでしょうか?
劇中では、売れと言われるシーンはあっても売ったシーンはなく、殺されてしまいます。
であれば、パトリツィア(と娘)が一旦は相続したはずで(のちに相続欠格になるとはいえ)、映画のエンディングでさらっと書かれているような事態になる前に、もう一波乱も二波乱もあっておかしくないと思ったのですが......??


製作年:2021年
製作国:アメリカ
監督・製作:リドリー・スコット




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