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いなくなった私へ [日本の作家 か行]


いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

いなくなった私へ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 辻堂 ゆめ
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/02/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
人気絶頂のシンガーソングライター・上条梨乃はある朝、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。昨夜からの記憶がなく、素顔をさらしているのに誰からも上条梨乃と認識されない状況に戸惑う。さらに街頭ビジョンには、上条梨乃が自殺したというニュースが流れており……。梨乃は自分を上条梨乃と認識できる青年・優斗らの力を借り、自らの死について調べだす。『このミス』大賞優秀賞受賞作!


読了本落穂拾い、続けます。
「殺し屋たちの町長選」 (宝島社文庫)が応募されたとき、第13回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞受賞作です。
一言でいうと、ウェルメイドな作品だったと思います。非常に丁寧に書かれている。

冒頭、南アジアのとある国を舞台にした手記が掲げられ、その後すぐに、現在の渋谷、主人公である上条梨乃の視点へ。
第一部から第四部、そしてエピローグという構成ですが、いずれもこのかたち。

自分のことが自分だと周りに認識されない、というのは時折ミステリでも見られる趣向で魅力的ですが、そこはこの「いなくなった私へ」 (宝島社文庫)の場合、ミステリ的には解かれません。
SFというかファンタジー的な設定ですね。選考委員の大森望の帯のコメントでいう超自然設定です。
この設定を軸に、物語世界がしっかりと丁寧に作られています。
おそらく数多くの読者があれっと思うであろういくつかのポイントも、しっかり回答が用意されている。
物語としても、主人公の成長物語になっていて、芸能界という派手な舞台を背景にきちんとボーイ・ミーツ・ガールでもある。
個々のパーツに不満はないこともないですが(たとえば主人公、いい人すぎませんか? また、犯人?の背景は、設定からくる要請とはいえ、少々安易かと思います)、作者の力を十分感じる作品でした。
これ、大賞じゃないんですね......



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殺し屋たちの町長選 [日本の作家 か行]


殺し屋たちの町長選 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

殺し屋たちの町長選 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 加藤 鉄児
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/07/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
失踪した姉探しの途中で、知らず知らずミツルがエントリーしたのは、殺人斡旋サイトだった! 強迫神経症の自称・斉藤は、その症状により仕事を干された殺し屋。再起をはかるべくサイトから選んだのは、愛知県仁宝町の町長立候補者。報酬額は格安の100万円。だが他にエントリー者がいることを知り、斉藤は焦る。元役人コンビ、殺し屋組合の経理担当者など、殺し屋たちのバトルが始まる!


読了本落穂拾い、続けます。
2015「このミス大賞」隠し玉。
第13回 『このミステリーがすごい!』大賞に応募された作品を改稿したものです。
このときは同時に、
山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
も隠し玉として刊行されました。
ちなみに、この年の大賞は、
降田天「女王はかえらない」 (宝島社文庫)
優秀賞が、
辻堂ゆめ「いなくなった私へ」 (宝島社文庫)
神家正成「深山の桜」 (宝島社文庫)
豊作の年だったようですね。

「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」がおもしろかったので、同時隠し玉の「殺し屋たちの町長選」 (宝島社文庫)にも期待してしまうところです。

殺し屋に”組合”がある、という設定は面白いです。その名も東日本特殊請負業組合。
そこが仕事を斡旋する、しかもネットで、というのも面白い。
よく考えたなぁ、と。
多彩な殺し屋が一つの殺しをめぐって競い合う。
人を食った設定にふさわしく、殺し屋たちのキャラクターも人を食っている。
いいではないですか。
ターゲットは町長選の候補者。
こちらも一筋縄ではいきません。

解説で古山裕樹が
「人物も事件もふざけた印象が強いけれど、物語のつくりはいたって丁寧。多数の登場人物が、それぞれの目的のために好き勝手に動き回りながらも、ラストは綺麗に着地を決めてみせる」
と書いていますが、そういう作品です。

設定などから伊坂幸太郎との類似が指摘されることもある作品のようですが、あまりその点は気になりませんでした。
であれば、いい作品でした。めでたし、めでたし、のはずなんですが、どうも物足りない。
そこそこサプライズになりそうな要素も仕掛けられているのですが、いずれも小粒で弾けない。
なんともじれったくなる作品でした。


<蛇足>
「だったら後腐れのないほうを、さわりだけでも試されることをお勧めします」(75ページ)
よくある誤解ではありますが、”さわり” の意味を勘違いされているのでは?
導入部、出だしという意味ではありませんよ。
同じように
「姑息な手段も正当な業務と言い切る小槍が頼もしい」(92ページ)
の "姑息" の意味も勘違いされているように思えてなりません。
卑怯な、ずるいという意味ではありません。



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カンナ 京都の霊前 [日本の作家 高田崇史]


カンナ 京都の霊前 (講談社文庫)

カンナ 京都の霊前 (講談社文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/01/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
偽書「蘇我大臣馬子傳暦」を、なぜ幾つもの集団が命懸けで奪い合うのか? 「乙巳の変(大化の改新)」は、中大兄皇子や中臣鎌足が起こした天皇へのクーデターだとする「玉兎」の真の狙いは? 聖徳太子は、藤原氏が捏造した架空の人物なのか? すべての謎を解くべく、甲斐と貴湖は決戦の地・京都へ。禁断の完結編!


読了本の落穂ひろいを続けます。2016年1月に読んだ本です。

ずっと読んできたカンナシリーズもいよいよ最終巻です。
シリーズを通して徐々に成長してきた(と言っていいのでしょう)甲斐の才能・能力は完全に開花していますし、貴湖にしろ、竜之介にしろ、立派に成長しています。(54ページあたりで貴湖が示す能力などは、このシリーズにまことに便利な能力です笑)
主人公格の若者たちそれぞれの成長物語というところでしょうか。(普通の、常人の成長とは違いますが)

そして物語の背後にあるのは、高田崇史ならではの、虐げられし者、敗れし者の歴史で、QEDシリーズ、カンナシリーズを通して展開されてきたものです。

余談ですが、その意味では「京都の霊前」の「京都」というのも一種のミス・ディレクションかもしれません。
目次と並ぶように、嵐山・太秦の地図が掲げられていますが、嵐山や太秦というのは厳密な意味での京都ではありませんから。

今回のテーマは、シリーズのきっかけともいえる物語の起爆剤、社伝「蘇我大臣馬子傳暦」が示すように蘇我氏です。
この社伝を巡って、さまざまな組織?が争いを繰り広げてきたわけで、それが(一応)決着します。

「千年以上も昔の物だと聞いたけど、そんな古い書物に、今を生きている人たちが命を賭けるほどのの価値があるとは思えない」(44ページ)
とある主要登場人物が語っていますが、全くその通り。
個人的には、このシリーズで語られたことが ”真実” として明るみに出たところで、何も変わりはしないと思いますが、そんなことを言うのは真実の重みや歴史のロマンに不感症になっているのでしょうね。

薬草師も重要なポイントで出てきて、にやりとできます。

高田崇史はこの後もいくつもシリーズを展開し、巻数もかなり重ねてきているので、さて、追いかけようかどうしようか......


<蛇足>
事件を捜査していた警察が手を引くところで、担当の若い刑事を捜査打ち切りとして説得?するシーンがあります。
「すると菱川は山野辺の耳元に口を寄せて、二言三言呟いた」(229ページ)
本筋とはあまり関係ないのですが、非常に気になりました。
わずか二言三言で、血気盛んな若手を黙らせてしまう、どんな言葉を吐いたのでしょう??





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アメリカ銃の謎 [海外の作家 エラリー・クイーン]


アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

アメリカ銃の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ニューヨークのスポーツの殿堂〈ザ・コロシアム〉に二万の大観衆を集め、西部劇の英雄バック・ホーンのショウが始まる。カウボーイたちの拳銃が火を噴いた次の瞬間、そこには射殺死体が転がっていた。だが不可解なことに、被害者のものを含む四十五挺の銃はいずれも凶器ではない。客席にいたエラリーは、大胆不敵な犯罪の解明に挑む! 〈国名シリーズ〉第六弾。


あまりに更新をさぼりすぎているので、なにをどこまでというのが分かりにくくなってしまっていますが、前回感想を書いた「焦茶色のナイトガウン 杉原爽香:47歳の冬」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)までが昨年7月に読んだ本でした。
今日は、読了本落穂拾い。
手元の記録によれば2017年11月に読んだようです。
エラリー・クイーンの「アメリカ銃の謎」 (創元推理文庫)。中村有希さんによる新訳シリーズです。

この作品、国名シリーズの中では軽く観られていまして、評価もさほど高くない。
旧訳版で昔読んだ時、あまりピンと来ず。あまりのピンと来なさに、しばらくたってから再読までしたという。それでもピンと来なかった。
今回新訳が出たので再再読して、果たしてどうか、というところだったのですが......

今まで気づかなかった自分をどつき回したくなりましたが、帯にも
「大観衆の前で消えた凶器 西部劇の英雄、凶弾に死す」
とあるように、謎が派手なのです。
衆人環視のロデオの最中に起こる殺人。しかも凶器が見つからない。

エラリー・クイーンの作品はこの作品まで、謎そのものは地味だったのです。
残された手がかりから論理で犯人を追い詰める名探偵クイーンの手腕が見どころなわけで、事件そのものは派手である必要はない。むしろ事件は地味なほうが、ロジックの美しさが際立ちやすいような。
ところが、この作品では一転して派手。
二万人もいる観客含めた関係者からどうやって容疑者を絞り込んでいくのか。
途方に暮れるような内容で、なかなか容疑者も絞り込めない、と思っていると、エラリーは鮮やかに特定していきます。素晴らしい。
実はこのロジックだけは昔読んだ時から覚えていまして、それだけ印象深かったということですが、これこそがこの作品の特徴であり特長なのだと思いました。
このロジックは、もっと地味な設定でも使えます。でも、ロデオ会場という大掛かりな舞台に映える!
派手な事件に似合うロジックというべきか、鋭利なロジックに似合う派手な事件というべきか、いつもの地味な設定を離れて輝く、そのことを十分意識した作品だったんですね。

新訳で再読できてよかったです。

<蛇足1>
「北西部ではいちばん古い家のひとつだった」(120ページ)
やはり気になってしまいますね、「いちばん〇〇なうちのひとつ」という表現。
英語の最上級を使った典型的な文章ではありますが...日本語にすると違和感が。

<蛇足2>
さて、この瞬間までエラリー・クイーン君は、びっくりしたタラのような顔でぽかんとしていた。(316ページ)
びっくりしたタラ。どんなタラなんでしょうね? タラって、びっくりするのかな?


原題:The American Gun Mystery
作者:Ellery Queen
刊行:1933年
訳者:中村有希





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2022年になりました [折々の報告ほか]

2022年になりました。
すっかり更新がおろそかになっているブログですが、ご覧くださいまして本当にありがとうございます。
昨年2021年は、ロンドンからの帰国発令、続いて退職・転職(性格としては再就職ですね)とおおきな変化の年となりました。
そんな中でもなんとか読書は続けていまして、昨年読んだ本は121冊。月平均で10冊をどうにかクリア。
ブログの感想をさぼってしまっておりまして、感想を書いていない本、映画、コミック、タイ・ドラマなどが溜まっています。

例年のようにアクセス数の多いページを調べました。
日本時間1月1日になって間もなくの段階でチェックした数値をもとにしています。
順位を書いてあるところのタイトルをクリックするとブログのページへ、ついている書影やそこについている書名をクリックすると amazon.co.jp の商品ページへ飛びます。

一昨年から始めたタイ・ドラマの感想が好調です。
さすがの1位は今年も不動でしたが、タイ・ドラマにかなり押されてきています。
タイ・ドラマの中の順位にも変動があり、「Until We Meet Again」がタイ・ドラマトップになっています。

1. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正
生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫

2. Until We Meet Again ~運命の赤い糸~ その2

3. 2gether [タイ・ドラマ] EP13

4. 2gether [タイ・ドラマ]  追加の感想

5. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究
QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫

6. Love by chance / ラブ・バイ・チャンス その2

7. 日本で免税の買い物

8. 魔性の馬 (小学館) ジョセフィン・テイ
魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/01/01
  • メディア: 単行本

9. SOTUS S その1

10. かばん屋の相続 (文春文庫) 池井戸潤
かばん屋の相続 (文春文庫)

かばん屋の相続 (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 文庫



昨年1年間のアクセス数もいつも通り調べてみましたが、こちらは一昨年に引き続きタイ・ドラマ一色......かろうじて「生存者ゼロ」がランクイン。

1. Until We Meet Again ~運命の赤い糸~ その2
2. 2gether [タイ・ドラマ]  追加の感想
3. Love by chance / ラブ・バイ・チャンス その2
4. SOTUS S その1
5. ’Cause You're My Boy
6. The Gifted Graduation EP1~3
7. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正
8. REMINDERS
9. SOTUS その2
10. Kiss me again その21
いや、ほぼほぼタイ・ドラマです......
タイ・ドラマ以外で、これに続くものは

11. 日本で免税の買い物
22. あるキング: 完全版(新潮文庫)伊坂幸太郎

ベスト30まで広げても、これら以外は全部タイ・ドラマです。

ちなみに、いちばんたくさんnice!をいただいたのは、一昨年と変動なく、「月の落とし子」(早川書房)穂波了でした。


いつもありがとうございます!
読書関連のブログというより、すっかりタイ・ドラマのブログになってしまった感がありますが、今年も何卒よろしくお願いします。




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