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ダンジョン飯(6) [コミック 九井諒子]


ダンジョン飯 6巻 (ハルタコミックス)

ダンジョン飯 6巻 (ハルタコミックス)

  • 作者: 九井 諒子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/04/13
  • メディア: コミック




イギリスにいる期間は読んでいなかったコミックスも復活させます。
前作「ダンジョン飯 5巻」 (ハルタコミックス)(感想ページはこちら)からずいぶん間が空きましたが、ダンジョン飯、シリーズ第6弾です。

今回は
第36話 みりん干し
第37話 ハーピー
第38話 キメラ
第39、40話 シェイプシフター1、2
第41話 山姥
第42話 夢魔(ナイトメア)
を収録しています。

それぞれ出てくる料理は
第36話 東のほうの飯(かわはぎのみりん干し、白米、海草、漬物、香辛料)
第38話 ハーピーの卵で作った卵焼き
第40話 5階層の思い出ピラフ、5階層丸ごとピカタ、スイートドライアド 
第41話 墓地でとった茸とオークからもらったチーズリゾット
第42話 夢魔の酒蒸し

明らかに料理の比重が下がっている!! 由々しき事態です。
79ページで、ライオスが
「1日3食しっかり食べて
 睡眠をとってる俺たちのほうがずっと本気だった」
というあたりは、いままでと変わっていないのかな、と思わせてくれる部分ですが、全体としてはどんどん違ってきていますね。

物語も、どうも混迷を深めているというか、今後の展開へ向けての間奏曲のようなものかもしれませんが。

ファリンは、恐ろしい魔物に姿を変えてしまっています。翼も、羽毛も、鱗も持ち、ライオスがすごくかっこいい、という姿に。(ライオスの言葉、感想だと思うんですよね、44、45ページ見開きは)

5巻から続いた間奏曲も、ここでいったん区切りとなったようなので、次巻から始まるであろう新たな展開に期待です。





タグ:九井諒子
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3 Will Be Free [タイ・ドラマ]

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「SOTUS」、「SOTUS S」(感想ページはこちらなど) に出ていた俳優 New が気になって、「Kiss」(感想ページはこちら)シリーズを見、そこで New の相手役を務めていた Tay が気になって他の出演作を探して観たのが、この「3 Will Be Free」です。

Youtube で日本語字幕で観たのですが、今チェックしてみると日本では観られないようになっているようです。残念。

いつもお世話になっているMyDramaListによると、2019年8月から10月に GMM One で放映されたようです。
全10話、各回50分ほどです。Youtube では各話4つのパートに分かれていました。

Tay 演じるのは Shin(シン)という青年。
ポスターを見てもらうと、冴えない眼鏡をかけています。彼は、ギャングのボスの一人息子。大事に大事に育てられているおぼっちゃまです。で、ゲイ。ただし、ゲイであることは隠しています。
「Kiss」シリーズで演じた Pete とは全然違う役どころ。
喧嘩っ早くて荒っぽい Pete を演じていた役者さんが、やわでナイーブで屈折した青年を演じる。
ご覧になるとわかりますが、本当にそう見えるのです。Tay の演技力に感服です。

その右側でピストルを構えている物騒な青年が、Neo(ネオ)。
こちらは享楽的な生活を過ごしています。バイトなのかバーでストリッパーをしています。そして、シンの父親の後妻と不倫関係にある。
演じているのは Way-ar Sangngern という俳優。愛称は Joss。役柄のせいか、(すくなくとも)上半身は裸でいるシーンが多くて笑ってしまいました。それにふさわしく(?) いい身体してます。

ふたりの上にいる女性が Miw(ミウ)。
ネオが働くバーでマネジャーをしています。
演じているのは 「Kiss」シリーズに出ていた Mild。こういう強気な女性の役、似合いますね。

この3人が主役で、タイトルの 3 です。

シンは、悪友に連れられ童貞を捨てるため、ネオとミウの働くバーへやってくる 。シンの相手をしたのがミウ。
ネオは不倫がばれ、シンの父親が放つ殺し屋に付け狙われる。バーで3人は遭遇し、殺し屋を返り討ちにしてしまった。
殺し屋の弟分による本格的な追跡を避け、3人の逃避行が始まる。
ここまでが第1話。
殺し屋の交際相手を含め、要領よく、テンポよく、物語全体の主要素、主要人物が盛り込まれています。

殺し屋の交際相手を演じているのは、「The Shipper」(感想ページはこちら)で死の天使を演じていた Jennie さん。ポスターではネオの下あたりで拳銃を構えています。
そして殺し屋の弟が 「2gether」(感想ページはこちら)や「SOTUS」、「SOTUS S」に出ていた Gunsmile。
お二人とも、このドラマではとてもシリアスな役をやっています。
特に、Gunsmile の変わりようは要注目です。直情径行なところはありますが、カッコいいんですよね。

ほかにも、あれれ、どこかで見たな、という役者さんがいっぱい出てくるのも、タイドラマを見る楽しみですね(笑)。
たとえば、早々に殺されてしまうシンの義母は、「He is coming to me」」(感想ページはこちら)のお母さんです。
また、「2gether」のタインのお兄さんとか、「The Gifted」(感想ページはこちら)でパンの友人役だった Pumipat Paiboon(愛称 Prame)という俳優さんとか、あるいは「Kiss」シリーズで喫茶店のマスター役だった Suphakorn Sriphothong(愛称 Pod)という俳優さんとか。

さて、主役3人に話を戻すと、なにしろ捕まれば殺されてしまうという状況なので緊迫感あふれる逃避行です。
逃亡先で触れ合う人々との交流なども描かれますし、ミウやネオの過去、家族などもかかわってきます。
かなり欲張りなプロットになっています。
そして、なんといっても敵対する追手がシンの父親。シンと親子という関係が、このドラマにどう影響を与えるのか。
どんどん困難な状況になっていって、全10話のうち9話が終わってもかなりとっちらかったまま。最終話に入ってもさらに混迷の度を深めるようなありさまで、すごいです。

と同時に、3人の関係性が見どころです。
ネオとミウが通じ合うのは自然のなりゆきとして、さらに、シンはミウが初体験の相手である一方で、ゲイなのでネオのことが好きになっている。ネオも一緒に時間を過ごすうち、シンを受け入れるようになっていく。
通常の三角関係を超えて、重層的な三角関係というのでしょうか? そういう状況になっていきます。

ネタバレ気味ですが、タイトル「3 Will Be Free」ということで、逃避行の行方はある程度最初から見えているわけですが、逃避行のことを指すだけではなく、3人が過去のしがらみなどから解き放たれて自由になることも暗示しているようです。

非常に見応えのある楽しい作品でした。




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映画:シルクロード.com 史上最大の闇サイト [映画]

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映画「シルクロード.com 史上最大の闇サイト」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
通常のインターネット検索ではアクセスできず、違法ドラッグから殺人依頼まで匿名で取引できる闇サイト「シルクロード」をめぐる実話に基づくクライムサスペンス。成長著しい闇取引サイトを立ち上げた青年を、デジタル技術に疎い捜査官が追い詰めていく。監督・脚本はドキュメンタリー「ナイト・ストーカー:シリアルキラー捜査録」などのティラー・ラッセル。シルクロード創設者を『Love, サイモン 17歳の告白』などのニック・ロビンソン、捜査官を『ナチス第三の男』などのジェイソン・クラークが演じる。

---- あらすじ ----
天才的な頭脳の持ち主であるロス・ウルブリヒト(ニック・ロビンソン)は、自由な世界を求め違法薬物や武器などを匿名で売買できる闇サイトを創設。「シルクロード」と名付けられたサイトは「闇のAmazon」とも呼ばれるほど急成長し、警察の捜査をかわすべく彼は絶対に身元が発覚しない強固なシステムを築く。一方、行動に問題があり麻薬捜査課からサイバー犯罪課へ追いやられた捜査官リック・ボーデン(ジェイソン・クラーク)はIT技術に疎かったが、独自の捜査方法でロスに接触する。


大々的にロードショーがうたれている映画ではないのですが、なにかで見つけて観たいなと思い、観に行きました。
サイバー犯罪を引退間近のアナログ捜査官が追及する、というのですから。

非常におもしろく観ました。観てよかった。
ネットの仕組みとか、サイトと商売の仕組みなど、わからないこといっぱいなんですが、それでも楽しく観ることができます。
ネタバレになってしまうので、あまり書いてはいけないのだと思いますが、ローテクがハイテクを追い詰める映画で、突き止めてめでたし、めでたしのハッピーエンドになるだろうと思っていたので、観る前の予想を大きく裏切る映画でした。
参りました。
物語が盛り上がってくる後半、本当にドキドキしながら観ました。
実話をもとにしているらしいので、もしもこの話を知っていたら、このような感想にならなかったでしょう。知らなくてよかったように思います。



製作年:2021年
製作国:アメリカ
原題:Silk Road
監督:ティラー・ラッセル
時間:117分




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ジークフリートの剣 [日本の作家 深水黎一郎]


ジークフリートの剣 (講談社文庫)

ジークフリートの剣 (講談社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
天賦の才能に恵まれ、華麗な私生活を送る世界的テノール歌手・藤枝和行。念願のジークフリート役を射止めた矢先、婚約者が列車事故で命を落とす。恐れを知らぬ英雄ジークフリートに主人公・和行の苦悩と成長が重ね合わされ、死んだ婚約者との愛がオペラ本番の舞台で結実する。驚嘆の「芸術ミステリ」、最高の感動作。


「エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ」 (講談社文庫) (ブログの感想ページへのリンクはこちら
「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「花窗玻璃 天使たちの殺意」 (河出文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾。

前作「花窗玻璃 天使たちの殺意」の感想で、この第4作「ジークフリートの剣」(講談社文庫) のことを
「日本に置いて来てしまったので、読めるのはいつになることやら......」
と書いていましたが、日本に帰って来たので読みました!

今度の題材は、ワグナー。
ワグナーの歌劇、観たことないのですが、それでも楽しめました。観ていたら、もっと楽しめたのでしょうね。
さすがは芸術探偵シリーズ、というところなのですが、実は芸術探偵である神泉寺瞬一郎は脇役なのです。
もちろん、探偵役ですから重要な役どころではあるのですが、圧倒的に主役・藤枝和行の物語です。

この藤枝和行が、まあ、嫌なやつなんです。
ザ・俺様。他人のことなんて、ちっとも構わない。
ドイツのバイロイト音楽祭での「ニーベルングの指環」のジークフリート役に抜擢されるくらいなので、実力十分なのですが、その実力に負けないくらい尊大な男。
もっとも
「日本人がここで主役を張るなんて、百年早いと思わないか」
というセリフも作中にあり、
「オペラが西洋文明の精華である以上、この分野における日本人の擡頭を、新たなる黄禍と見做す<ヨーロッパ人>がいたとしても何の不思議でもない」(120ページ)
とされる大役は、傲岸不遜なキャラクターでないと務まらないようにも思います。
こういうキャラクターがお気に召さない読者もいらっしゃると思いますが、楽しく読んでしまいました。
こういうキャラクターに憧れがあるのかも!?

彼の婚約者である遠山有希子がヒロインとして対峙するわけですが、尽くすタイプとなっていて、こちらはまさしく悲劇のヒロイン。
冒頭から「命を落とす」と予告され、その通りになってしまいます。
第一章の終わり、グルノーブルの列車事故で死んだと、和行のもとへ知らせが。

この後、和行視点でのバイロイト音楽祭の内幕が物語の中心となり、陰で神泉寺瞬一郎が有希子の死の真相を探るという展開となります。

ユーゴーの名作「ノートルダム・ド・パリ」を改変してしまう娯楽産業に対して、
「だが、芸術の目的は、やはりそれとは違うだろうと思うのだ。娯楽産業と違って芸術は、真実を示すものでなければならない。この世界では愛が必ず勝つとは限らないことを、努力した善人が報われて幸福になるとは限らないことを、示すものでなくてはならない。」(300ページ)
と和行が考えるシーンがあります。
とすればこの物語自体のラストシーンが不安になってくるわけですが、本書のクライマックスは「ニーベルングの指環」の舞台で、見事としかいいようのないエンディングを迎えます。

この後の、和行の物語を読んでみたいな、と思いました。


<蛇足1>
「オペラが西洋文明の精華である以上、この分野における日本人の擡頭を、新たなる黄禍と見做す<ヨーロッパ人>がいたとしても何の不思議でもない」(120ページ)
上の本文でも引用したところですが「黄禍」に「こうか」とルビが振られています。
「おうか」と読むと思い込んでいたので少々びっくりしましたが、読み方としては「こうか」「おうか」の順に書かれていることが多いので、「こうか」が一般的なんですね。
「黄色人種」は「おうしょく」なのだから、黄禍も「おうか」と読んだほうが自然と思わないでもないですが、違うのですね。
勉強になりました。

<蛇足2>
「何を言っているんだカズユキ。プライドが高くない女性なんて、仮にものにできたとしても、何の喜びもないだろうが。女性のプライドが高ければ高いほど、僕らの喜びもまた大きくなる。何故なら僕らが女性を抱くとき、そのプライドも一緒に抱くのだから」(166ページ)
うわぁ、和行も和行なら、友人(?)も友人ですね。

<蛇足3>
「いえ、猫舌なんです」
 犬のような格好で舌先を冷やし終えると、青年はおもむろに向き直って言った。(173ページ)
ここでいう「犬のような格好」とは、どういう格好なんでしょうね? 舌を出しているということかな?

<蛇足4>
いくら語学が堪能とは言え、生まれつきのバイリンガルではない和行は、朝から晩まで外国語で生活していると、自分の中の分水嶺のようなものから水があふれ出し、もうその日はそれ以上外国語で聞いたり話したりする集中力が、まるで働かなくなってしまう時がある。(289ページ)。
なるほどなぁ、と思った部分なのですが、ここの「分水嶺」は「ダム」のほうがわかりやすいな、と思いました。




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極北ラプソディ [日本の作家 海堂尊]


極北ラプソディ (朝日文庫)

極北ラプソディ (朝日文庫)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/10/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
財政破綻した極北市の市民病院。再建を図る新院長・世良は、人員削減や救急診療の委託を断行、非常勤医の今中に“将軍(ジェネラル)”速水が仕切る雪見市の救命救急センターへの出向を指示する。崩壊寸前の地域医療はドクターヘリで救えるか? 医療格差を描く問題作。


「極北クレイマー2008」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)の続編です。
(ぼくが読んだのは朝日文庫の「極北クレイマー 上」「極北クレイマー 下」と二分冊になったものでしたが、講談社文庫から改題の上、再文庫化されています。ちなみに本書も「極北ラプソディ2009」 (講談社文庫)として再文庫化されています。書影を最後に引用しておきます)

夕張市をモデルにした極北市を舞台とする作品で、ミステリーではありません。
前作は地域医療、医療過誤を扱っていましたが、今回はその後の極北市の医療、特に救急医療をめぐる問題が繰り広げられます。

途中、主人公の今中が
「東城大の血脈について思いを馳せる。医師として両極端に見える世良と速水。だがふたりの思想は、医師ならば常にその両者の狭間にいて、時に速水的に、時には世良的にふるまうのが実相だ。」(264ページ)
と思うところで苦笑してしまいました。
医療に限らず、たいていのことはそうですよね。
その意味では海堂尊は、わかりやすい極端な例(人物)を前面に出すことによって、諸問題をエンターテイメントとして料理してみている、ということですね。

それにしても、ミステリではないので気にする必要はないのだと思いますが、タイトルのネタバレ感がすごい(笑)。
この作品、さらなる続きが今後出るのでしょうか??

講談社文庫版の書影です。

極北ラプソディ2009 (講談社文庫)

極北ラプソディ2009 (講談社文庫)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/03/15
  • メディア: 文庫





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二つの密室 [海外の作家 F・W・クロフツ]


二つの密室 (創元推理文庫)

二つの密室 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/01/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
両親亡き後つましく身を立てていたアン・デイは、願ってもない職を得てグリンズミード家に入った。夫人の意向を尊重しつつ家政を切り回しながら、夫婦間の微妙な空気を感じるアン。やがてグリンズミード氏の裏切りを目撃して大いに動揺し、夫人の身を案じるが時すでに遅く……。アンの態度に不審を抱いた検死官がフレンチ警部の出馬を促すこととなり、事件は新たな展開を迎える。


創元推理文庫2016年の復刊フェアの1冊です。
毎年行われているこの復刊フェア、本当に楽しみ。
クロフツは毎年入っていまして、おかげでいろいろと発見があります。昔はあまり好きではなかったのに、よく読むようになったのはまさしくこの復刊フェアのおかげ。
東京創元社には、感謝、感謝です。

創元推理文庫でお馴染みの見開きのところにあるあらすじを今回も引用してみます。上で引用したカバー裏のあらすじと違っているのでおもしろいですね。
平和な家庭には陰があった。病弱な妻、愛人のいる夫、典型的な三角関係から醸し出される不気味な雰囲気。悲劇の進行は、若い家政婦アンの目を通して語られる。――アリバイ・トリックの巨匠クロフツが、こんどは趣向を変えて、密室のトリックを創案した。一つは心理的、もう一つは物理的ともいえるトリックで、この二つが有機的に関連する殺人事件の謎に、わがフレンチ警部が挑戦する。「英仏海峡の謎」につづく怪事件!

あからさまなあらすじに思わず笑ってしまいました。
タイトルも「二つの密室」ですから、その意気込みたるや、と思うところですが、これは邦題で、原題は "Sudden Death"(突然死)。
クロフツは別に密室を売りにしようとは思っていなかったということですね。

確かに密室は二つ出てくるのですが、正直トリックは大したことないのですよ(笑)。

”機械的” トリックのほうはトリックそのものには惹かれないものの、フレンチ警部が例によって丁寧にトリックに迫っていくところをとても楽しく読みました。
こういうのフレンチ警部に似合いますね。

一方で ”心理的” と書かれているほうは、あまりにも知られ渡ったトリックで拍子抜けします。このトリックを使った作品は、日本でも今でも書かれていますね。
乱歩の「類別トリック集成」(最近では「江戸川乱歩全集 第27巻 続・幻影城」 (光文社文庫)に収録されているようです)には、クレイトン・ロースンの作例(1938年)が挙げてありますが、本書は1932年ですからクロフツのほうが早いですね。
この「二つの密室」がこのトリックの最初の作品とは思えないのですが......
このトリックは今となっては陳腐すぎて、現在の視点で見てしまうとちょっと作者がかわいそうなのですが、この作品の場合、アンという視点人物から見た事件の様相に鑑みるに、うまく演出されているなぁ、と思いました。

その意味では、この作品に登場する二つの密室は、どちらもトリックに主眼があるのではなく、それをどう料理するか、どう活かすかという点が大事だということになるように思えます。
アンの目を通したのんびりした世界観(殺人が起こるのにこの表現はどうかと思われるかもしれませんが)と、アンの行く末にハラハラ、とまでは言えないですが、アンの行く末を気にしながら読み進んでいくのが楽しい作品だったと思います。


作品の本筋ではないのですが、フレンチ警部についておやっと思ったのが2点ありました。

フレンチ警部の捜査は、いつもながらの着実なものですが、高名なホームズのセリフが引用されているので、おやっと思いました。
「ここでまたフレンチは、消去法という正規の方法を試みることにした。事件関係者全部のリストをつくって、可能性のないものを除去していく。”不可能なものを消去せよ。そして最後に残ったものが、たとえ考えられそうにないことでも、真実と考えて間違いない”
 これはシャーロック・ホームズの言葉だった。そしてフレンチは、ホームズを称賛することにかけては、人後に落ちぬつもりだったが、その彼にしても、この金言には賛成しかねた。彼が不可能であるとわかっているものを消去していくと、いつもかならず、可能性のあるものがいく人も残ってしまうからであった。そこでフレンチは、いつもこういうことにきめていた。”不可能なものを消去せよ。そうすれば――なにが残るかがわかる”」(281~282ページ)
英語の原文にあたっていないので、なんとも言えないのではありますが、シャーロック・ホームズに対してこれは言いがかりに近いのでは、と苦笑しました。

また、
「この成功で、あの主席警部の椅子が欠員になったときは、同僚のだれよりもさきに自分に回ってくる……しかもマーカムはもう何年もやってきたし、あの海峡事件以来、モーチマー・エリソン卿はなにくれとなく目をかけてくれているし……」(319)
などという独白のくだりもあります。
フレンチ警部って、こういう出世を気にかけていたんだ。意外でした。




<蛇足1>
「シビルはシビルで、一生懸命つとめてきました。」(89ページ)
うーん、一生懸命ですか。
奥付を確認すると1961年が初版。
こんな昔からこの誤用ははびこっていたのですね......

<蛇足2>
「この申しいでのもう一つの面に思いおよばなかったのは、いかにもアンらしいことだった。」(92ページ)
「申しいで」と「出」がひらがなに開いてあるのですが、「いで」?と思ってしまいました。
申し出は、”もうしで” だと思い込んでいたのです。
"もうしで" とも言うのですが、そしてそちらばかりを個人的には使ってきたのですが、"もうしいで" がオリジナルのような気がしますね。
”もうしいで” を漢字で書くと「申し出で」。

<蛇足3>
「アッシュブリッジでそれを思い出させられることに出会った。」(144ページ)
ここでも立ち止まってしまいました。
正しい表現なのですが、「思い出させられる」に違和感を覚えてしまったのです。
「思い出さされる」という言い方もあるなぁ、と思いました。
「る」「らる」は難しいですよね。

<蛇足4>
「子供たちを、二、三週間どこかへつれていけとおっしゃるのよ。ブアンマスがいいだろうって」(231ページ)
ブアンマスって、どこでしょうね? 
ボーンマス(Bournemouth)かな?
舞台となるフレイル荘のあるアッシュブリッジという町は架空の町のようなので、ちょっと手がかりがないですね。アッシュリッジ(Ashridge)ならあるんですけど。

<蛇足5>
「近東向け定期船オラトリオ号の船長で」(291ページ)
近東(near East)という表現を久しぶりに見た気がします。
たいてい中近東となっていることが多いですよね。



原題:Sudden Death
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1932年
訳者:宇野利泰




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