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ホリデー・イン [日本の作家 坂木司]


ホリデー・イン (文春文庫)

ホリデー・イン (文春文庫)

  • 作者: 司, 坂木
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/04/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元ヤンキーの大和と小学生の息子・進の期間限定親子生活を描いた「ホリデー」シリーズ。彼らを取り巻く愉快な仕事仲間たち、それぞれの“事情”を紡ぐサイドストーリー。おかまのジャスミンが拾った謎の中年男の正体は? 完璧すぎるホスト・雪夜がムカつく相手って?? ハートウォーミングな6つの物語。


読了本落穂ひろいです。
2017年6月に読んだ坂木司「ホリデー・イン」 (文春文庫)

「ワーキング・ホリデー」 (文春文庫)(感想のページはこちら。)
「ウィンター・ホリデー」 (文春文庫)(感想のページはこちら。)
に続くシリーズ第3弾、というよりは、帯に書いてあるようにサイドストーリー集と呼びたくなるような短編集です。
あー、ミステリではありません。

01 ジャスミンの部屋 …… ジャスミンが拾った謎の中年男の正体は?
02 大東の彼女 …… お気楽フリーターの大東の家族には実は重い過去があった
03 雪夜の朝 …… 完璧すぎるホストの雪夜にだってムカつく相手はいるんだ!
04 ナナの好きなくちびる …… お嬢さまナナがクラブ・ジャスミンにはまった理由
05 前へ、進 …… まだ見ぬ父を探し当てた小学生の進むの目の前には──
06 ジャスミンの残像 …… ヤンキーだった大和とジャスミンの出逢いの瞬間

6編収録の短編集ですが、ジャスミンで始まり、ジャスミンで終わる、という構図が、このシリーズを象徴しているような配置になっています。
シリーズの愛読者にとっては、それぞれの登場人物それぞれの秘められた(?) エピソードを存分に楽しむことができます。
「文庫版のためのあとがき」の冒頭、作者が「なんだかもう、この人たちはわりと近所に住んでいるような気がしてきています。」と書いているのにうなづいてしまいそう。

そしてまた藤田香織の解説がよくできています──要領よく各登場人物が解説されていますし、
おそらくは、太和や進、ジャスミン、雪夜たちシリーズ・レギュラー陣と、作者坂木司、解説藤田香織、みんなファミリーなんでしょうね、という雰囲気です。

こういう(スピンオフ)作品が成立するのも、人気シリーズだからこそ、でしょうね。
ちなみに、購入した文庫本には「15th Anniversary 坂木司 特別便」という冊子が折り込まれていて、各社の担当編集者から坂木司宛に15周年のお祝いメッセージが寄せられています。
これも人気作家であることの証左ですよね。

このあとシリーズは出ていませんが、そろそろまた大和たちに会いたいかも。




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ゴールデン・パラシュート [海外の作家 は行]


ゴールデン・パラシュート (講談社文庫)

ゴールデン・パラシュート (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/02/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
コネティカット州ののどかな村で、ごみ拾いのピートが惨殺された。彼の意外な正体が発覚し、謎はさらに深まる。恋人の女性警官デズとともに、映画評論家ミッチが真相解明に乗り出した。そして、ミッチの手元には、少女売春をリアルに描いた小説が持ち込まれ……。MWA賞作家による人気シリーズ第5弾。


読了本落穂ひろいです。
手元の記録では、2017年6月に読んでいます。
デイヴィッド・ハンドラーのバーガー&ミトリー シリーズ第5弾。「ゴールデン・パラシュート」 (講談社文庫)

「ブルー・ブラッド」 (講談社文庫)
「芸術家の奇館」 (講談社文庫)
「シルバー・スター」 (講談社文庫)
「ダーク・サンライズ」 (講談社文庫)
と翻訳されてきたシリーズですが、この「ゴールデン・パラシュート」のあとは翻訳が途絶えています。
そして現在前作入手不可能な状況。
コネチカット州ドーセットを舞台にしたこんなに楽しいシリーズなのに、同じハンドラーのホーギー・シリーズとともに復刊してほしいですし、続刊の翻訳を熱望します。

地元で有名な不良兄弟が出所してくる、というタイミングで、名士中の名士であるプーチー・ヴィッカーズが保有する五六型のメルセデス・ガルウィングが盗まれた事件と、ドーセットのくず拾いのピートが森の中で殺害された事件が発生。続いてまたも死体が発見される。
盗難事件と二つの死体。関連は?
そして、ミッチのもとに持ち込まれた、まるで実話であるかのような体裁でつづられたスキャンダラスな暴露小説の原稿。

ハンドラーの小説のおもしろさは事件そのものというよりは、その見せ方、語り方にあるので、ロミオとジュリエットばりに対抗心を燃やす旧家の確執を背景にした事件そのものは平凡なものでも十分で、この「ゴールデン・パラシュート」でも奇を衒ったようなことは盛り込まれていませんが、特徴ある人間関係の中に動機をさりげなく溶け込ませているのがミステリとしてはポイントかと思います。

事件解決後、ミッチとデズの関係が一段と進展したところで、非常に不穏な終わり方をするので続きがとても気になっています。
なのに、続刊が翻訳されていない!
最後にもう一度書いておきます。
ホーギー・シリーズとともに復刊してほしいですし、続刊の翻訳を熱望します。


原題:The Sweet Golden Parachute
作者:David Handler
刊行:2006年
翻訳:北沢あかね



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鬼畜の家 [日本の作家 ま行]


鬼畜の家 (講談社文庫)

鬼畜の家 (講談社文庫)

  • 作者: 深木 章子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/04/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
我が家の鬼畜は、母でした──保険金目当てで次々と家族に手をかけた母親。巧妙な殺人計画、殺人教唆、資産収奪……唯一生き残った末娘の口から、信じがたい「鬼畜の家」の実態が明らかにされる。人間の恐るべき欲望、驚愕の真相! 第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞、衝撃のデビュー作。


読了本落穂ひろい。
深木章子の「鬼畜の家」 (講談社文庫)
第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作です。
この文学賞、島田荘司が選考委員をつとめ、受賞作もかなりおもしろそうなものがあるのですが、あまり文庫化されていないのでほとんど読めていません。

さておき、深木章子の作品では、「衣更月家の一族」 (講談社文庫)(感想ページはこちら)の感想を先に書いていますが、読んだのはこちらの「鬼畜の家」が先です。

「衣更月家の一族」もそうでしたが、非常に精緻に作りこまれており、選考委員を務めた島田荘司の言葉を解説から借りると「稀な完成度を誇る精密機械」「ここまで極限的に先鋭化、巧妙化、人工化したものはなかった」ということになります。

イヤミスというのとは少々味付けが異なるように思いましたが、読みながらイヤになることは間違いないような「鬼畜」である母・郁江の悪業が、私立探偵榊原による関係者宛のインタビューにより読者に明らかになっていきます。
この郁江が車の事故で同乗していた息子と一緒に死んでしまっている、というのがミソですね。

非常に精緻に組み立てられた物語を一転させるための手がかりが、あまりにも古典的なもので却っておもしろく感じましたが、マイナスに感じる人もいるのでは、と少々心配になりました。
この精緻さは珍重すべき特質だと思われ、作品を続けて読んでいきたいと強く感じました。






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真鍮の評決 リンカーン弁護士 [海外の作家 マイクル・コナリー]


<カバー裏あらすじ>
丸一年、わたしには一人の依頼人もいなかった。だが妻とその愛人の射殺容疑で逮捕されたハリウッド映画制作会社オーナーは弁護を引き受けてほしいという。証拠は十分、アリバイは不十分。しかも刑事がわたしをつけまわす。コナリー作品屈指の二人の人気者が豪華共演する傑作サスペンス、満を持して登場。<上巻>
有罪必至の容疑者はいまだに余裕の笑みを浮かべ続ける。陪審員、検察、容疑者。誰かが嘘をついているのだ。さらに同僚弁護士が遺した事件ファイルに鉄壁の容疑を突き崩す術を見つけたわたしまでもが命を狙われるはめになる──。ハラーとボッシュの意外な関係も明かされ、驚愕のどんでん返しにコナリーの技が光る!<下巻>


読了本落穂ひろい。
手元の記録によると2015年の10月から11月にかけて読んでいます。
マイクル・コナリーの「真鍮の評決 リンカーン弁護士」 (上) (下)
さきに
第3作「判決破棄 リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)(感想ページはこちら
第4作「証言拒否 リンカーン弁護士」(上) (下) (講談社文庫)(感想ページはこちら
の感想を書いています。

リンカーン弁護士:ミッキー・ハラーとハリー・ボッシュの共演が売りです。
上巻110ページあたりに、チラットダケデスガ、ジャック・マカヴォイも出てきます。

殺された弁護士ヴィンセントが担当していた事件を首尾よく(?) 引き継ぐことになったハラー。
そのなかでも飛び切りの大型案件が映画会社の社長エリオットが妻とその愛人を殺したというもの。
この映画会社、「あと五年もしたら<ビッグ・フォー>とはだれも言わなくなるぜ。<ビッグ・ファイブ>になるんだ。アーチウェイは、パラマウントやワーナーやほかの大手と肩を並べるようになるだろう」(173ページ)
社長自らのセリフですから割り引いて聞く必要があるでしょうが、それでも勢いのあるすごい会社だということがわかります。

ヴィンセントの事務所を調べているときに、ハラーはボッシュと遭遇します。
無難な第一遭遇で、特に激しく衝突したりもしません。
最後にハラーが
「以前なにかの事件で出くわしたことがないかな? あなたに見覚えがある気がするんだ」(上巻90ページ)
とボッシュに語り掛けるのも、意外と重要なポイントなのかも、と思えます。

ヴィンセントはこのエリオットの事件に関し、”魔法の銃弾”を持っていると話していたらしい。
”魔法の銃弾”とは「きみを監獄から出して家に帰してくれるカードのことだ。ドミノのようにすべての証拠を倒してしまうか、陪審団の陪審員全員の心にしっかりと、恒久的に合理的な疑いを刻みつける、ズボンの尻ポケットに隠しておく証人あるいは証拠だった」(上巻254ページ)と説明されています。
ところが、ハラーが調べてもそんな要素は見つからない......
なのに被告は余裕があり、調査の時間などかけずに裁判遅延を起こさず裁判を進めろと言う。

このあとは、法廷シーンも含めて、あれよあれよとコナリーのストーリーテリングに乗せられて結末まで一気に、という次第ですが、いやあ、面白かったですね。

タイトルの意味は、ストーリーをわってしまいかねないので色を変えておきますが、
何者かが正義を待てないと判断し、自分自身の評決を届けたんだ。おれがパトロール警官をしていたころ単純な路上の正義、つまり、自警行為が殺人にいたってしまったものをわれわれがなんと呼んでいたか知ってるかい?」(下巻363ページ)
ということで、「法廷ミステリというよりは、リーガルサスペンスである」と言いたくなるようなプロットに関係します。

コナリーも未読本が溜まっているので、がんばって読み進めたいです。


原題:The Brass Verdict
作者:Michael Connelly
刊行:2008年
訳者:古沢嘉通


<2024.1追記>
タイトルを、判決破棄としてしまっておりました。訂正しています。

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ミステリと言う勿れ (5) [コミック 田村由美]


ミステリと言う勿れ (5) (フラワーコミックスアルファ)

ミステリと言う勿れ (5) (フラワーコミックスアルファ)

  • 作者: 田村 由美
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2019/09/10
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
坂で転がり落ち、検査入院することになった整。
その病院で出会ったのは、なぜか書籍を介した暗号で、意思を伝えてくる美少女・ライカだった。
彼女の言葉に従って動くうちに、整は不穏な都市伝説に遭遇する。
子どもを救う"炎の天使"とは──!?


シリーズ第5巻となりました。
田村由美の「ミステリと言う勿れ (5)」 (フラワーコミックスアルファ)

「ミステリと言う勿れ」 (4) (フラワーコミックスアルファ)のラストあたりからちらちらと出てきていた謎の女性に導かれて、次の事件と出会います。

episode8 天使の言い分
episode8-2 遠火と近火
episode8-3 淡雪と消える
episode8-4 カエルの炎描
と全編にわたって一連の事件を扱っています。

ストーリー展開としては単純です。
子供を虐待する親を、子供が頼めば焼き殺してくれる "炎の天使"。
もうこれだけでストーリー展開は想像つきますし、登場人物も限られていることから犯人(?) もすぐにわかります。
途中、おお、となるようなトリックが仕掛けられていますが、アンフェアかフェアかぎりぎりのところで、それぞれのシーンがどの視点人物の観点に立ってのものなのか判然としないのはミステリとしてみたら困りものかとは思います。冒頭のシーンなどはかなり微妙かと思うもののフェアだとする説明はなんとかつけられそうですが、肝心の(?) 整が出てくるシーンは説明できないような......マンガは絵で示されるだけに、視点人物という概念があいまいになりやすいところを逆に突いたもの、と言えるかもしれませんが。

しかしながら、この物語の主眼はそこにはないと思われ(なにしろ「ミステリと言う勿れ」 (2) のあとがき的な ”おまけのたむたむたいむ” で、「ミステリじゃないです」「だからこのタイトル」と書かれておられるくらいですから、ミステリとして読まれるのはご迷惑でしょう)、そのトリックを超えたところで、整と登場人物が繰り広げる会話にこそポイントがあるのだと思います。
児童虐待というのは難しい問題で、整もいつもよりは饒舌さが減っているようにも思いました──その分、ほかの登場人物がよくしゃべります。

整は、小学校の先生になりたいんですね。
「久能さんは確かに悪い人じゃないけど
 気持ち悪い人ですよね」
なんて言われちゃう人物だけど(笑ってはいけないのでしょうが、笑ってしまいました)、大丈夫かな?




タグ:田村由美
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名探偵コナン (7) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (7) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (7) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1995/11/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
ナゾの招待状に招かれて、絶海の孤島に行ったはいいが、ピアノの調べにのせた連続殺人に巻き込まれ…なんとか解決できたけど、今度は俺の恋人出現 どんな難事件でも解いてみせるが、女心は分からない!蘭の怒りの解き方教えて!!


名探偵コナン第7巻です。

FILE.1 写真のワナ
FILE.2 月影島への招待状
FILE.3 ピアノの呪い
FILE.4 残された楽譜
FILE.5 業火の秘密
FILE.6 血染めのボタン
FILE.7 名前の秘密!!
FILE.8 新一の恋人!!
FILE.9 名探偵 蘭!?
FILE.10 命の時間切れ!?
の10話収録。

FILE1は、前巻 「名探偵コナン」 (6) (少年サンデーコミックス)の FILE9~10の続きで、いよいよ解決編。
天下一春祭りを背景に使い切りカメラを利用したアリバイトリックを解明します。
このトリック、思いつきはおもしろいのですが、ちょっと調べればバレてしまいそうな気がします。犯人が気をつけているシーンがありますが(そしてそのことがトリックを明らかにするのに役立つというミステリとしては優れもののシーンです)、それ以外にもいろいろと気をつけねばならないことが多いトリックかと思いました──犯人の努力ではどうしようもない部分で露見しそうです。

シリーズとしては、コナンが毛利探偵を眠らせてなり替わって推理を披露する、という定番シーンで、刑事が毛利の動きが不審なことに気づいたところへ
「目を閉じてうつむき加減にしゃべるのは最近の父のクセなんですよ!
 ああなると父はズバズバ推理を的中させてあっという間に事件を解決しちゃうんです!」
と蘭に言わせているのが素晴らしい。
こういう目配りが効いているのがこのシリーズの長所ですね。

あと蛇足的に、出てくる刑事さん見て、クレヨンしんちゃんのお父さんを思い出しました(笑)。


FILE2~7は、月影島という島を舞台に、呪われたピアノ(?)をめぐる、過去から続く連続殺人を描いています。
12年前の出来事と現在の事件とが絡み合う展開となり、登場人物もそれなりに多く、プロットがとても複雑です。
これだけの内容をこのページ数に押し込んでいるため、非常に展開が窮屈になっていますし、人物の出し入れもちょっとごたついています。
それでも、マンガという表現形式を活かしたと思われるトリックは面白かったです。ミステリでは定番のトリックですが、効果的に使われていると思いました。
ところでコナン(新一)、楽譜の暗号を耳で聞いてわかるくらい、音楽に秀でた人物という設定だったのですね。


FILE8~10は、新一の恋人と名乗る女性赤木量子が登場、という衝撃の展開。
もっともコナン(新一)には身に覚えがないということなので、読者にはウラがあることはわかっている、という形です。
赤木の家に、蘭が乗り込むというワクワクする(失礼)展開。
この家で、コナンは電話を使ってコナンと新一の一人二役を演じることになります。面白い。
ウラはわりと想像がつきやすいですが、一人二役の行方がとても気になりますね。
この第7巻のラストで首尾よくいったっぽく見えますので、次巻ではミステリ部分の謎解きが行われるのでしょう。


裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この7巻は刑事コロンボです。
青山さんのオススメは「別れのワイン」とのこと。



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三毛猫ホームズと炎の天使 [日本の作家 赤川次郎]


三毛猫ホームズと炎の天使 (KAPPA NOVELS)

三毛猫ホームズと炎の天使 (KAPPA NOVELS)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/02/22
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
命拾いした「洞窟仲間」七人を相次いで襲う危機──。
闇の中でよみがえった「過去」が新たな事件を生む!
崩落事故で洞窟に閉じ込められてしまった男女七人。全くの闇に包まれ薄まっていく酸素に全員が朦朧とするなか、何者かが過去に犯した殺人の告白を始めた……。間一髪、ある娘の機転により奇跡的に全員が無事救助されたが、あの告白が誰のものなのかは謎のままだった。やがて、命拾いした七人のうち、若くにぎやかだった仲間千枝が刺し殺される事件が発生。その直後、やはり洞窟から生還した会社員・小泉昭夫がひき逃げに遭い命を落とす。二つの “事件” の繋りに気付いた片山刑事と妹の晴美は、ホームズと共に事件の真相に迫っていく! 大人気シリーズ第55弾!


2022年5月に読んだ9作目(冊数でいうと11冊目)の本です。5月はここまで。
赤川次郎の「三毛猫ホームズと炎の天使」 (KAPPA NOVELS)
三毛猫ホームズシリーズ55冊目!

このところの、赤川次郎の力の衰えを見せつけられているファンとしては、こうやってシリーズが続いていることをまずは寿がなければいけませんね。

帯に
「闇に閉ざされた洞窟の中で殺人の『告白』を聞いた者たちが次々と命を狙われる──。」
とあり、こういう筋書きはミステリとしてとても興味深いですね。
それぞれのエピソードを紡いでいくのは赤川次郎お得意の手法で、すくなからぬ登場人物を上手にクロスさせていくのですが、ミステリとして期待すると肩すかし。アンフェアと呼んでしまってもよいかもしれません。

タイトルの「炎の天使」というのは登場人物である若手指揮者西田が主宰する〈MKオーケストラ〉が演奏することになるプロコフィエフのオペラのタイトルです。
この西田という男、とても身勝手で読んでいて腹が立ちます。安直と言えば安直な人物設定ですが、読者にそのことが伝わります。
こういう人物は赤川次郎作品によく登場するのですが、この西田の扱いは少々意外でした。

早くも第56作目を期待して待ちます。


<蛇足1>
「何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ」
 と、口には出さねど思っていることはひと目でわかった。(25ページ)
「出さねど」とは、えらく古めかしい言い回しをつかったものですね。

<蛇足2>
「これは警察猫です」
と、片山は言った。(168ページ)
警察犬がいるなら、警察猫だって、ということでしょうか?(笑)
記憶力がないのにこんなことをいうのはあれですが、ホームズが「警察猫」として紹介されたこと今までありましたでしょうか?
このフレーズ、定着させてほしいです。

<蛇足3>
「警察の取り調べは、ともすれば乱暴になりがちだ。片山の先輩刑事には、
『傷つけないように痛い目にあわせる手があるんだ』
 などと自慢げに言う人もある。
 しかし、片山は警官が暴力を振ったら、人を傷つけ、乱暴した犯人と同列の人間になってしまう、と思っている。自白は、動かぬ証拠を目の前に突きつけてやれば引き出せるのだ。 
 そのために、刑事は懸命に捜査活動をするのである。」(227ページ)
片山の性格を反映した意見なのですが、シリーズもこれだけ巻数を重ねているのですから、読者には不要な部分です。作者自身がどうしても述べておきたかったのでしょうね。



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トリックスターズD [日本の作家 か行]


トリックスターズD (メディアワークス文庫)

トリックスターズD (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住 四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界がひっくり返る驚きを味わう!
西洋文化史の異端の系譜「魔学」を説く、風変わりな青年教授。そして、不本意ながら先生の助手に収まったぼく。推理小説を象った魔術師の物語、待望の復刊第3弾。
学園祭という日常の非日常で起きる奇妙な監禁事件。それに二人が関わると展開はもう予測不可能!
ソリッドシチュエーションをあざ笑う奇抜な設定に幻惑され、めまいを起こすこと間違いなし。現実と虚構の境界が曖昧になり、読んでいる者も狐につままれる。衝撃のラストは必見!


2023年5月に読んだ10冊目の本です。
久住四季の「トリックスターズD」 (メディアワークス文庫)

「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら
「トリックスターズL」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)
に続くシリーズ第3作。

今回の舞台は城翠学園の学園祭、城翠祭。
巻頭にまえがきがあり、
「本作には、『トリックスターズ』『トリックスターズL』の二作を読了したあとにこそ真の面白みを味わえる、ある仕掛けが施されています。」
と書かれています。
続く目次は
「in the "D"aylight」 という章と、「in the "D"ark」という章に分かれています。
「in the "D"ark」が総合科学部A棟の闇に閉じ込められた周たちの物語で、「in the "D"aylight」はその前後の話となっています。
そして周と凛々子の友人で、推理小説研究会に所属する扇谷(おうぎがやつ)いみなが、「トリックスターズ」「トリックスターズL」と題するミステリをものにしていて、ミス研の批評会で取り上げられていた。その作品は、現実をモデルとした実名小説で、このシリーズの前作、前々作の内容のよう。
「in the "D"aylight」 「in the "D"ark」と章が分かれているのも、この「作中作」を反映したものなのだな、と推測できます。

シリーズ第3作で作中作を扱う、という建付けからして、すぐに綾辻行人の《館》シリーズを連想したのですが、《館》シリーズについてはあとがきでも触れられていました。
作中作って、難しいと思うんですよね、書くのも、読むのも。
実は読後すぐは「あまり感心できないな」という感想を抱いたのです。
というのも、作中作と分かった段階で、まえがきでいう「ある仕掛け」の凡その見当がついたと思ったからです。
そしてその部分はその通りだったからです。
非常に慎重に、そして細かいところまで作りこまれていますが、サプライズという点は甘いと考えたのです。

しかし、感想を書こうとして振り返ってみて、誤解していたことに気づきました。
話が進んでいくと、作中に展開する現実と、我々読者が認識している「トリックスターズ」の物語とに齟齬があることがわかってきます(いみなによる実名小説は、我々読者が認識している方のようです)。
とすると、「トリックスターズD」の構造は、「in the "D"aylight」 の世界と、魔術師によって封じ込められた「in the "D"ark」の世界と、既存の『トリックスターズ』『トリックスターズL』を作中作として取り込んだ3層構造になっているのを、単純な「作中作」ものだと誤読していたと思えてきました。
この3層がどのように重なり、あるいはずれ、どのように互いに影響を与えているかを読み解くべき物語だったのですね。
少々ネタバレ気味ですが、現実と作中作の位置づけの位相をずらしてみせた作品として印象に残りました。
「作中作」は、たしかに仕掛けの重要な一部なのですが、読者をだますための仕掛けではなく、読者(とある登場人物)に真相を気づかせるための仕掛けになっていた点も興味深いです。

前作「トリックスターズL」感想で、「前作をしっかりと踏襲しつつ、前作と対になるミステリ世界を構築している」と書きましたが、この「トリックスターズD」も同様で、「前作、前々作をしっかりと踏襲しつつ、前作、前々作と対になるミステリ世界を構築している」点が素晴らしいと思いました。

と褒めておいて、気になる点を。
真相が明かされてから読み返してみると、あれっと思うところがあります。たとえば233ページの、周と凛々子のシーンをどう解釈するか、というのは気になりますね。明かされた真相の通りだとするのなら、こういう展開になるかな?

とはいえ、とても楽しい作品でした! 続きが楽しみです。

最後に、
時無ゆたかの「明日の夜明け」 (角川スニーカー文庫)を久住四季は読んだことがあるのでしょうか?
「in the "D"ark」に似ているところが多々あり、気になりました。




<蛇足>
「店長な、見た目あんなで超ラテン系だけど、実は浅草出身で、すげー祭り好きなんだってさ。」(18ページ)
一瞬「ラテン系」はそもそも「祭り好き」なのに、なぜ「だけど」なのだろう? と思ったのですが、この「だけど」は「浅草出身」にかかるものだったのですね。





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インフェルノ [海外の作家 は行]

インフェルノ(上) (角川文庫)

インフェルノ(上) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

インフェルノ(中) (角川文庫)

インフェルノ(中) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫
インフェルノ(下) (角川文庫)

インフェルノ(下) (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「地獄」。そこは“影”──生と死の狭間にとらわれた肉体なき魂──が集まる世界。目覚めたラングドン教授は、自分がフィレンツェの病院の一室にいることを知り、愕然とした。ここ数日の記憶がない。動揺するラングドン、そこに何者かによる銃撃が。誰かが自分を殺そうとしている? 医師シエナ・ブルックスの手を借り、病院から逃げ出したラングドンは、ダンテの『神曲』の“地獄篇”に事件の手がかりがあると気付くが──。<上巻>
医師シエナとともにヴェッキオ宮殿に向かったラングドン教授は、ダンテのデスマスクを盗み出す不審人物の監視カメラ映像を見て、驚愕する。一方、デスマスクの所有者で大富豪のゾブリストは、壮大な野望の持ち主だった。彼は「人類は滅亡の危機に瀕している」と主張し、人口問題の過激な解決案を繰り広げ、WHO“世界保健機関”と対立していた。デスマスクに仕込まれた暗号には、恐ろしい野望が隠されていた──。<中巻>
人類の未来を永久に変えてしまう、恐るべきゾブリストの野望──。破壊的な「何か」は既に世界のどこかに仕掛けられた。WHO事務局長シンスキーと合流したラングドンは、目に見えぬ敵を追ってサン・マルコ大聖堂からイスタンブールへと飛ぶ。しかし輸送機の中でラングドンに告げられたのは、驚愕の事実だった! ダンテの“地獄篇”に込められた暗号を解読し、世界を破滅から救え!怒涛のクライマックス!<下巻>


2023年5月に読んだ7作目(7~9冊目)の本です。


「天使と悪魔」 (上) (中) (下) (角川文庫)
「ダ・ヴィンチ・コード」(上) (中) (下) (角川文庫)
「ロスト・シンボル」 (上) (中) (下) (角川文庫)(感想ページはこちら
に続く、ラングドン・シリーズ第4作です。

トム・ハンクス主演の映画を先に観ています(感想ページはこちら)。

今回原作を読んで、映画が原作に基本的に忠実に作られていることがわかって驚きました。
各巻薄いことは薄いのですが、それでも文庫で上中下巻あるものを、映画の長さに押し込めるとは......すごい手腕ですね。
逆に、原作がスカスカなのかというと、特段そういうわけでもなく、映画のほうの感想では「専門知識があまり活躍しない」と述べましたが、小説という形態だとそこが書き込まれています。

今回は、ダンテの「神曲」ということで、なじみがあまりにも......(こちらに教養がないだけですが)
積み重ねられる蘊蓄もただただ「ああ、そうですか」と受け止めるだけしかできないのですが、フィレンツェやベネツィアの観光名所を巡っていく目まぐるしくスピーディーな逃走・追跡劇の小休止として機能しているのかもしれません。

扱われているのは、いわゆる「人口論」で、いかにも古めかしく、ヨーロッパの古い街並みに合っているのかも。
「人類は、抑制されないかぎり、疫病のごとく、癌のごとくふるまう。」(258ページ)
と考える悪者、ちょくちょく出てきますよね。

映画とはラストが違う(映画の記憶があいまいで......)のですが、原作の方では前作「ロスト・シンボル」同様に、作者の想像の翼は現実からちょっと飛躍したところにまで伸ばされています。

それにしても、ラングドンは敵味方が入り乱れる中、手がかりをたどって一種の宝探し(到底宝とは言えませんが)を演じるわけですが、今回の敵がどうして手がかりをばらまいているのか、ちっとも理由がわかりません。
狙いは明らかであるし、それが正しいことと確信しているのだから、阻止されてしまうような手がかりをばらまいたりせず、黙って実行に移せばよいと思うのですが...自己顕示欲というのでは説明しきれない大きな問題のように思えました。


<蛇足1>
「難なく読めた── ”SALIGIA” と。
 ──略──
 『七つの大罪をキリスト教徒にそらんじさせる目的で、中世にヴァチカンが考え出したラテン語だよ。”サリギア(SALIGIA)” というのは頭字語で、スペルビア(superbia)、アワリティア、ルクスリア、インウィディア、グラ、イラ、アケディアの頭文字をそれぞれとっている』 
 ──略──『高慢、貪欲、邪淫、嫉妬、貪食、憤怒、怠惰』」(上巻104ページ) 

<蛇足2>
「いちばん上の濠に視線をもどし、十の濠に書かれた文字を上から下へ順に読んでいった。
  C……A……T……R……O……V……A……C……E……R」
『カトリヴァサー?』ラングドンは言った。『イタリア語だろうか?』」(上巻118ページ)
この段階では、CATROVERCER という語にラングドンはまったく心当たりはなさそうです。しかし、
「CATROVERCER。この十の文字は、美術界有数の謎──数世紀にわたって解明されていない謎──の中核をなしている。一五六三年、フィレンツェの名高いヴェッキオ宮殿で、壁の高い位置にこの十文字を用いたメッセージが記された。
 ──略──
 ラングドンにとって、その暗号は慣れ親しんだものだった」(上巻171ページ)
となっていて、あれ? となりました。意味はわからないにせよ、単語そのものは馴染みのあるものなのですから。
上巻118ページの段階では記憶喪失がまだ抜けきっていなかったということでしょうか?

<蛇足3>
「サンドロ・ボッティチェルリによるこの地図こそ、ダンテの描いた地獄を最も正確に再現しています。」(上巻154ページ)
このイタリアの画家は、ボッティチェリだと思っていましたが、この本ではボッティチェルリと表記されています。
ボッティチェリは、ボッティチェッリとも書かれることがあり、スペルを見ると "Sandro Botticelli" でうから、llの部分の発音がポイントですね。

<蛇足4>
「メディチ家。
 その名前はまさにフィレンツェの象徴になっている。三世紀に及ぶ統治時代に、計り知れない富と影響力を持ったメディチ家は、四人の教皇とふたりのフランス王妃、さらにはヨーロッパ最大の金融機関をも生み出した。今日に至っても、銀行はメディチ家が考案した会計方法を用いている──貸方と借方からなる複式簿記だ。」(上巻172ページ)
複式簿記はルカ・パチョーリにより考え出されたと思っていたのですが、違うのですね。
ルカ・パチョーリは複式簿記を学術的に説明した人だったようです。
ただ、wikipekia を見ただけですが、メディチ家が銀行に導入する以前より、複式簿記はあったようですね。

<蛇足5>
「フィレンツェ共和国の威厳ある政庁舎として建てられたこの宮殿を訪れる者は、雄々しい彫像の数々に圧倒される。アンマナーティの作である、四頭の海の馬を踏みしめるたくましいネプチューンの裸像は、フィレンツェによる海の支配の象徴だ。宮殿の入口では、ミケランジェロの<ダヴィデ像>──まちがいなく世界で最も称賛されている男性裸像──の複製が、栄光に満ちた立ち姿を披露している。<ダヴィデ像>の横には<ヘラクレスとカークス像>──さらにふたりの裸の大男を刻んだ像──があり、ネプチューンの噴水に配されたいくつものサテュロスの像と合わせて、総数一ダースを超える露出したペニスが観光客を出迎えることになる。」(上巻260ページ)
ヴェッキオ宮殿についての説明で、たしかにその通りなのでしょうが、言い方(笑)。

<蛇足6>
「昔からの習わしによると、ベアトリーチェへの祈りの手紙をこの籠に入れると、利益(りやく)があるという──相手にもっと愛されたり、真実の恋が見つかったり、死んだ恋人を忘れる強さが身についたりするらしい。」(中巻107ページ)
ダンテ教会として知られるサンタ・マルゲリータ・ディ・チェルキ教会の場面です。
御利益(ごりやく)という使い方しか触れたことがない気がしますが、ここでは利益(りやく)。

<蛇足7>
「さわやかな海風に、駅の外の露店で売られているホワイトピザの香りが混じっている。」(中巻247ページ)
ホワイトソースをかけたピザをホワイトピザというのですね。

<蛇足8>
サン・シメオーネ・ピッコロ教会の特徴的な緑青の丸屋根が高く見える。──略──勾配がとりわけ急なドームと円形の内陣はビザンチン様式であり、円柱が並ぶ大理石のプロナオスは明らかにローマのパンテオンの入口を模したギリシャ古典様式だ。」(下巻247ページ)
プロナオスがわからず調べました。



原題:Inferno
作者:Dan Brown
刊行:2013年
翻訳:越前敏弥





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