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ゼロの迎撃 [日本の作家 あ行]


ゼロの迎撃 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ゼロの迎撃 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/03/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
活発化した梅雨前線の影響で大雨が続く東京を、謎のテロ組織が襲った。自衛隊統合情報部所属の情報官・真下は、テロ組織を率いる人物の居場所を突き止めるべく奔走する。敵の目的もわからず明確な他国の侵略とも断定できない状態では、自衛隊の治安出動はできない。政府が大混乱に陥る中で首相がついに決断を下す――。敵が狙う東京都市機能の弱点とは!? 日本を守るための死闘が始まった。


読了本落穂拾いで、2017年10月に読んだ本です。

「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)の作者安生正の長編第二作です。
先に第三作「ゼロの激震」 (宝島社文庫)感想を先に書いてしまっています。
ちなみに、「生存者ゼロ」感想ページは、このブログのアクセス数ダントツ一位です。


正体不明のテロ組織に襲われる東京。
こういう設定好きなんですよ。
読者には、犯行側ともいうべき朝鮮人民軍のハン大佐の視点のストーリーも提供されるので、親切設計です。

この作品のメインの見どころは、幾重にも考えられたハン大佐の攻撃計画に対して、日本側自衛隊の情報官・真下がどう守るか、という部分にあるのですが、それ以外にも見どころはたくさんあります。

日本には強力な有事法制がないため苦闘する自衛隊、というのはよく言われることで、本書でも国家安全保障会議がかなり緊迫感もって描かれます。
ただ本書では、枚数の制限でもあったのか、あるいは物語が停滞してしまうのを防ぐためか、官僚的な動きであったり、保身的な動きであったりはみられるものの、梶塚首相がかなりの胆力を持つ人物として設定されておりまして、要所要所を切り抜けます。
「よりによってこんなときに」(85ページ)
と触れられているのですが、あと五日で梶塚内閣は総辞職し、総理の地位は後任の民政党総裁に引き継がれることが決まっているというタイミングも、逆に功を奏したのかもしれません。
いざというときに、こういうリーダーに恵まれればよいですねえ。
日本の歴代総理の顔を浮かべてみて、果たしてどういうことになるだろうか、と想像してみるのも......

やはり梶塚首相が出動する自衛隊員に向けてメッセージを発するところが、一つのクライマックスですね。(338ページあたりから)
「自衛官が持つ英雄的な心とは、死を恐れぬ心ではなく、弱きを守るために自らの恐怖心を克服できる心だ。」(344ページ)
このセリフ、作中に描かれたいくつかのエピソードと呼応する力強いメッセージの象徴かと思いました。

ややネタバレ気味になるのですが、ハン大佐の攻撃の重層構造も素晴らしいですし、最終的に推察される各国の思惑にも強く感心させられました。
(茶木則雄の解説は、かなり先のほうまでネタを割ってしまっており、謎解きミステリではないから、明かしてもよいと思われたのでしょうか? エチケット違反なのではないかと感じました。)


タグ:安生正
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ハナシはつきぬ! [日本の作家 田中啓文]


笑酔亭梅寿謎解噺 5 ハナシはつきぬ! (集英社文庫)

笑酔亭梅寿謎解噺 5 ハナシはつきぬ! (集英社文庫)

  • 作者: 田中 啓文
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
弟子入りして三年が過ぎても竜二は師匠の梅寿にいいように使い回され、落語の修業もままならない。そんなある日、テレビ番組で放った一発ギャグが大ヒット、たちまち売れっ子タレントになってしまった。とはいえギャグ嫌いの梅寿の目は怖いし、仕事をつめこむ事務所からは落語を封印されて、悶々とする毎日に。ついには自分の名前を冠した番組が決定するが――。青春落語ミステリ、感動の最終巻。


読了本落穂拾いで、2016年4月に読んだ本です。

「ハナシがちがう! 笑酔亭梅寿謎解噺」 (集英社文庫)
「ハナシにならん! 笑酔亭梅寿謎解噺2」 (集英社文庫)
「ハナシがはずむ! 笑酔亭梅寿謎解噺3」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
「ハナシがうごく! 笑酔亭梅寿謎解噺4」 (集英社文庫)(感想ページはこちら
につづく第5弾にして、シリーズ最終巻。

もうシリーズもここまでくると完全に若手落語家・梅駆の成長物語に特化しておりまして、謎解きの要素はなく、ミステリではなくなっています。

この「ハナシはつきぬ!  笑酔亭梅寿謎解噺 5」 (集英社文庫)、落語家の成長物語としては大きなうねりを見せます。
あらすじに書いてありますが、梅駆がたまたま出たテレビでやった一発ギャグが注目を集め、一躍売れっ子になってしまうのです。そして落語がしづらい、落語ができない状況になっていく。

シリーズを通してお馴染みになった面々にしっかりと支えられ、難局にどう沈み、どう浮き上がっていくのか、「アホやなぁ」と思いつつ、作者の手に乗せられて、どきどき、ハラハラさせられました。
こんな ”けったいな” 登場人物満載な話でも、クライマックスは感動します。

それにしても、師匠である梅寿が要所要所で締めますね。
揉め事の結果、落語を辞めるなどと賭けた梅駆に対していう
「おのれは……いつもいつも簡単に噺家辞めるとか抜かしよって。わしは、それが気にいらんのじゃ。負けたほうが引退や、ゆう条件でも、ほいほい引き受ける。ひょっと負けたら、二度と落語はでけんのやで。おのれにとって、落語ちゅうのはそんなに軽いもんやったんか。」(378ページ)
というセリフは、とてもいい。

ミステリではない、謎はないと言いましたが、このシリーズ通しての謎として、師匠・梅寿とはいかなる人物か、という大物の謎があります。もっともこれはミステリの謎ではありませんし、それに、こんな謎、いくら巻を重ねても解けるわけがない!

いつか、梅駆と梅寿たちが、帰ってきてくれるとよいのですが。




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化学探偵Mr.キュリー5 [日本の作家 喜多喜久]


化学探偵Mr.キュリー5 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー5 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
化学サークルによる「甘い物質」合成対決。サ行の発音がおかしくなった同級生の秘密。四宮大生を狙う奇妙な仮面の男の正体。協力して事件の解決に当たる沖野と舞衣は、ひょんなことから理学部の冷蔵室に閉じ込められてしまった。暗闇&低温の極限状態から脱出する術はあるのか!?


読了本落穂ひろいです。
シリーズ第5弾ですが、先に第6弾第7弾の感想を書いてしまっています(第6弾の感想はこちら第7弾の感想はこちら。)。

で、この「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)には
第一話 化学探偵と無上の甘味
第二話 化学探偵と痩躯の代償
第三話 化学探偵と襲い来る者
第四話 化学探偵と未来への対話
第五話 化学探偵と冷暗の密室
の五話が収録されています。


第一話の「化学探偵と無上の甘味」はサークル同士の甘味対決。古典的な展開の物語です。
ここに出てくる「ミラクルフルーツ」(ネタバレなので色を変えておきます)、知りませんでした。

第二話の「化学探偵と痩躯の代償」はタイトルにもある通り、ダイエットによる体調不良を扱っていますが、サ行が言いにくくなるって怖いですね。

第三話「化学探偵と襲い来る者」は、付き合いだしたばかりの梨奈と、二人の大学生に求愛されている千里、二人の女性の恋模様(?)を背景に、四宮大生を狙う通り魔(?)事件が解決されます。
しかし、ラストで七瀬がしようとするアドバイスにはちょっとびっくり。すごいな。

第四話の「化学探偵と未来への対話」は登校拒否、ひきこもりになった優秀な高校生の話ですが、ちょっと安直に物語が進みすぎるのが難かと。
まあ、七瀬の強引なまでの先方と沖野の話が功を奏した、ということですか......
ひきこもりや登校拒否に至る理由は人それぞれかと思いますが、こんな簡単に解消するとは限らない(簡単に解消するケースもあるとは思いますが)のでは、このやり方ではかえってこじれてしまうのでは、と不思議に思ってしまいます。

第五話「化学探偵と冷暗の密室」は冷蔵室に閉じ込められてしまった七瀬と沖野、なわけですが、うーん、この二人の仲はどうやったら進むのでしょうね?
この閉じ込められた状況って、いわゆる「吊り橋効果」抜群ではないですか。しかも、けしかけてくれる周りもいるというのに......
少しずつ、本当に少しずつ進展はしているのですが、あまりにも遅くて。うさぎとかめのかめどころか、カタツムリよりよほど遅いぞ。


<蛇足>
「七瀬はきっと、生まれつきのおせっかいなんだよ」(132ページ)
いや、まったくその通りなのですが、これ誉め言葉ではないですよね(苦笑)。





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猫入りチョコレート事件 [日本の作家 は行]


(P[ふ]3-1)猫入りチョコレート事件 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[ふ]3-1)猫入りチョコレート事件 (ポプラ文庫ピュアフル)

  • 作者: 藤野 恵美
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2015/07/03
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
横暴な編集長にこき使われている弱小タウン誌『え~すみか』のバイト編集者・真島は、取材先の猫カフェで、“密室”から従業猫の一匹が消えた事件に遭遇する。猫を捜す真島の前に現れたのはチャイナドレスに身を包んだ謎の美女。書道家の胡蝶と名乗る彼女は、中国の思想家・老子の言葉を引用し、どんな事件もたちどころに解決してしまう名探偵だった――!
ハルさん』の著者が贈る、ほのぼのユーモアミステリー。


読了本落穂拾いです。
手元の記録によると2017年7月に読んでいます。

藤野恵美という作者は、「ハルさん」 (創元推理文庫)が本屋さんでどーんと大きく展開されていて以前から気になっていましたが、ミステリ味が薄そうな気がしてなかなか手にとらずにいたところ、タイトルが「猫入りチョコレート事件」ときたら、レーベルがポプラ文庫ピュアフルでジュブナイルだろうとなんだろうと、手にとらずにはいられません。しかも、続巻のタイトルが「老子収集狂事件」 (ポプラ文庫ピュアフル)

で、その「猫入りチョコレート事件」ですが、タイトルのネタ元である「毒入りチョコレート事件」 (創元推理文庫)ばりの多重解決ものか、と思ったら、短編集(連作集)でした。
収録作品は
「店でいちばんかわいい猫」
「幻の特製蕎麦」
「オフ会で死んだ男」
「ヒーローの研究」
「猫入りチョコレート事件」
の5つ。

「店でいちばんかわいい猫」はリタ・メイ・ブラウン「町でいちばん賢い猫」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「幻の特製蕎麦」はジョン・ダニング「幻の特装本」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「オフ会で死んだ男」はクリスティの「教会で死んだ男」 (ハヤカワクリスティー文庫)
「ヒーローの研究」は「緋色の研究」 (光文社文庫)
をそれぞれ意識しているのでしょうね。
特にだからといって内容が元の作品にちなんでいるわけではなさそうですが。

作者もあとがきで「少しでも朗らかな気持ちになり、くすりと笑っていただけたなら幸いです」と書いておられますが、肩の凝らない軽ミステリを目指した作品です。
老子の言葉は引用されていますが、まあ強引というか無理筋というか、飛躍を楽しむんでしょうね。
謎解きは他愛もないといっても失礼には当たらないのではないかと思いますが、ちょっとした謎を解くと、逆に探偵役である胡蝶先生の謎が深まっていく、という構図が楽しいですね。
続巻の「老子収集狂事件」 で伏線が回収される仕組みです。

<蛇足1>
「好きな歌 乾いた大地。嫌いな歌 濡れた髪のLonely」(203ページ)
「乾いた大地」の方は知りませんが、「濡れた髪のLonely」は知っています。この後段で説明されますが池田聡の曲ですね。
嫌いな歌、かぁ。ぼくは割と好きです。

<蛇足2>
「胡蝶先生はメニューを受け取ると、ひややかな視線で僕を見た。
 それから、懐からすっと筆を取り出して、小皿に突っ込む。
 筆先に、ギョウザのタレが吸い込まれていく。」(209ページ)
謎解きのためとはいえ、食べ物を粗末にしてはいけません。老子に叱られますよ。




タグ:藤野恵美
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映画:オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体- [映画]

オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-.jpg


映画「オペレーション・ミンスミート -ナチを欺いた死体-」の感想です。

映画のHPから引用します。
第二次世界大戦時の英国のまさかの奇策を映画化!

ヒトラーを騙すという重大任務を実行し諜報部員は<死体>だった!?

あなたは、第二次世界大戦の行方を変えた奇想天外な欺瞞作戦を知っているだろうか?英国諜報部(MI5)は、ある奇策をチャーチル首相に提案する。高級将校に仕立てた“死体”にニセの機密文書を持たせ地中海に放出、ナチス、ヒトラーを騙そうというのだ。この極秘作戦は、各国間の駆け引き、策略、そして裏切り合戦へと発展していく——。
1943年、打倒ナチスに燃えるイギリス軍はドイツ軍の防備に固められたイタリア・シチリア島を攻略する計画を立てていた。そこで英国諜報部のモンタギュー少佐(コリン・ファース)、チャムリー大尉(マシュー・マクファディン)、イアン・フレミング少佐(ジョニー・フリン)らが練り上げたのが、欺瞞作戦“オペレーション・ミンスミート”だ。“イギリス軍のギリシャ上陸計画”を示す偽造文書を持たせた死体を地中海に流し、ヒトラーを騙そうとする奇策だ。彼らは秘かに入手した死体を名付け、100%嘘のプロフィールをでっち上げていく。こうしてヨーロッパ各国の二重三重スパイたちを巻き込む、一大騙し合い作戦が始まるが——。

戦後長らく極秘扱いされていた驚愕の作戦の全容がいま明らかに——。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
第2次世界大戦下にイギリス諜報(ちょうほう)部が行った作戦を題材にしたサスペンス。偽の機密文書を持たせた死体を地中海に放つという、イギリス諜報(ちょうほう)部の対ナチスかく乱作戦の行く末が描かれる。メガホンを取るのは『女神の見えざる手』などのジョン・マッデン。『スーパーノヴァ』などのコリン・ファース、ドラマシリーズ「リッパー・ストリート」などのマシュー・マクファディン、『アグネスと幸せのパズル』などのケリー・マクドナルドのほか、ペネロープ・ウィルトン、ジョニー・フリンらが出演する。

---- あらすじ ----
1943年。イギリスはナチス掃滅に不可欠なイタリア・シチリア攻略を進めるが、シチリア沿岸は固い防御が敷かれていた。そこでイギリス諜報(ちょうほう)部のモンタギュー少佐(コリン・ファース)らは、高級将校に見せかけた死体に「イギリス軍がギリシャ上陸を計画している」という偽造文書を持たせて地中海に流し、ヒトラーをだますという計画を立てる。作戦は進められていくが、ヨーロッパ各国のスパイたちを巻き込んだし烈な情報戦へと発展する。


第二次世界大戦秘話、という趣でしょうか。
どうやって真実に見せかけてヒトラーを騙すかというなかなか興味深い作戦で、おもしろいと思いました。
ただ、ミステリを読みなれてしまっているからか、あるいは最近の派手なスパイ映画を観なれてしまっているからか、「まさかの奇策」とも「奇想天外な欺瞞作戦」とも「驚愕の作戦」とも思えませんでしたが、こういうの好きです。
作戦チーム内に、あのイアン・フレミングがいるんですよ! あまり映画的には活躍しませんが、出ているだけで観ているこちらの注意を強くひきつけてくれます。
この作戦にゴーサインを出したチャーチルの内心に興味がわきましたが、そこが明かされることはないでしょうね。

この作戦の進展に合わせて、作戦チーム内の葛藤が描かれます。
コリン・ファース演じる主人公モンタギュー少佐と女性チーム員(演じているのはケリー・マクドナルド)との交流(控え目な描写ですが恋愛というべきでしょうか)、相棒ともいうべきマシュー・マクファディン演じるチャムリー空軍大尉との確執。
個人的には、ここが不満でして、こういうのいらないので、もっとオペレーションに焦点を当ててほしかった。
なんだか中途半端なんですよね、それぞれのエピソードが。
これもまた、実話に基づいているからでしょうか。
もちろん現実だと、何が起こっても暮らしていかないといけないわけですから、ドラマや映画のように派手にぶつかったりすることはないのかもしれませんし、行き違いや不満などもそれぞれが内に秘めてやり過ごしていくものなのでしょうが、食い足りないんですよね。
それなら、こういう部分は割愛して、それこそナチスとの駆け引きに絞ってほしかったかなぁ、と。

それでもこういう話は好きなので、観てよかったですね。
あと個人的にロンドンにいた際の住所がイギリス官庁街の近くだったので、見知った場所があちこちに映って楽しみました。



製作年:2021年
製作国:イギリス
原題:OPERATION MINCEMEAT
監督:ジョン・マッデン
時間:128分




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映画:スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム [映画]

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム.jpg


映画「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の感想です。
シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
ロンドンで別々の時代を生きる二人の女性の人生がシンクロするサイコスリラー。現代と1960年代のロンドンで暮らす女性たちが、夢を通して互いに共鳴し合う。監督と脚本を手掛けるのは『ベイビー・ドライバー』などのエドガー・ライト。『オールド』などのトーマシン・マッケンジー、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」などのアニャ・テイラー=ジョイ、ドラマシリーズ「ドクター・フー」などのマット・スミス、『コレクター』などのテレンス・スタンプらが出演する。

映画のHPから引用します。
全ては僕の責任だ、全員の命は救えない
ピーターがスパイダーマンだという記憶を世界から消す為に、危険な呪文を唱えたドクター・ストレンジ。
その結果、このユニバースに、ドック・オク、グリーン・ゴブリン、エレクトロ、サンドマン、リザードといった強敵たちを呼び寄せてしまう。マルチバースが現実のものとなってしまったのだ。
彼らがこのユニバースに同時に存在することだけでも既に危険な状況に。
ストレンジは、ピーター、MJ、ネッドに協力を求め、彼らを各々のユニバースに戻そうと試みるが、次々とスパイダーマンに襲い掛かるヴィラン達。その脅威は、恋人のMJ、親友のネッド、さらにはメイ叔母さんにまで。
最大の危機に晒された、ピーター。このユニバースを守り、愛する人達を守る為に、彼に突き付けられる<選択>とは――

スパイダーマンシリーズっていっぱいあって、あまりちゃんと見てきていません。
トビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」シリーズ(3作)
アンドリュー・ガーフィールド主演の「アメージング・スパイダーマン」シリーズ(2作)
トム・ホランド主演の「スパイダーマン:ホームカミング」、「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」
とあって、トビー・マグワイアの2作しか見ていません。
そのまま「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」もスキップしてしまうところだったのですが、非常に評判がよいので観に行きました。
とても面白かったですね! これはいい。
シリーズ、ちゃんと追いかけてくればよかったとも思いました。

映画のHPにもあるように、過去の敵役が集まっています。この点でも過去作を観ていたらよかったのでしょう。
また、過去作を彷彿させるシーンがちりばめられているようです(「ようで」としか言えないのが残念)。

この映画のポイントはこの点もひっくるめて、ネタバレになってしまう部分にあります。

********** ネタバレ ネタバレ ネタバレ **********
この映画の最大のポイントは、マルチバースを導入して過去の敵役を登場させたことに加えて、過去のスパイダーマンも登場させてしまったことにあります。
トム・ホランドだけではなく、トビー・マグワイアもアンドリュー・ガーフィールドも、スパイダーマンとして登場しているのです!
これがすごい。
3人のスパイダーマンが所狭しと駆け回る。これだけでワクワクしませんか?
このアイデアを使えば、スパイダーマンだけではなくて、いろんなヒーローシリーズに展開できてしまいますね。

そこでふと思ったのが、日本が誇るヒーロー、ウルトラマン。
こちらは、兄弟なのか親戚なのかわかりませんが、シリーズのヒーローはバトンタッチ(?)されていって、別のヒーローです。
なので、マルチバースなど導入しなくても、ヒーロー勢ぞろいが実現します。
いろんな特質、能力を持つ別々のヒーローの集合体、というのではなく、ある程度のつながりのあるヒーローの集合って、すごいことなのかも。かなり画期的な世界設定だったのは?
円谷プロ、すごいな。

そして迎えるエンディングなのですが、想定されていたこととはいえ、つらいラストです。
これはこたえますね。
ハリウッド映画だと、それでもハッピーに展示そうな暗示があったりもするのが通例ではないかと思うのですが、見落としかもしれませんがそういう気配もなく。

この点も含めて気に入っています。
********** ネタバレ ネタバレ ネタバレ **********

とても面白い映画でした。


製作年:2021年
製作国:アメリカ
原題:Spider-Man: No Way Home
監督:ジョン・ワッツ
時間:149分




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HIStory:ボクの悪魔 [台湾ドラマ]

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台湾ドラマ「HIStory」の続き(?)です。
(第1弾 HIStory :My Hero の感想ページはこちらです。)
「ボクの悪魔」という邦題がついていますが、原題は「Obsessed 」
上のポスター(?) では一番下です。

Obsessed はそのまま訳すと、~に取りつかれている、~に心を奪われている、ですね。
「ボクの悪魔」、違和感ある......

「HIStory:マイ・ヒーロー」の感想にあげたものと同じですが、劇場版の予告編をここでも。




あらすじを amazon の紹介欄から。
~オレ様な先輩×未来で先輩にフラれた後輩~
長年付き合った恋人のジアン・ジントンから、別の女性との結婚を突然告げられるシャオ・イーチェン。
イーチェンは失意のままやみくもに走り、車にはねられてしまう。
亡くなったはずのイーチェンが目覚めたのは9年前、かつてジントンに出会った日の朝だった。
未来を知るイーチェンは、今度こそジントンに振り回される人生は歩まないと決め、徹底的にジントンを避ける。
しかしジントンは執拗にイーチェンに付きまとい、イーチェンも無関心を装うことができなくなり…。

出演:セン・ジュン(森竣)/テディ・レン(任祐成)
監督:アダイアモンド・リー/脚本:リン・ペイユー「アニキに恋して」
原題:著魔/Obsessed

"生まれ変わり"もの、です。
生まれ変わって自分が手ひどく振られた相手ジントンと出会う前に戻った主人公イーチェン。
今度はジントンを好きになったりしないと、かたくなに距離をとろうとがんばる主人公イーチェン。
しかし運命のいたずら(?)でジントンはぐいぐいイーチェンに迫ってくることに。

なんというか定番中の定番なのではないでしょうか、この展開は。

個人的には、相手役であるジントン演じるセン・ジュンの顔が、いかにも韓流顔で、世界に入り込む邪魔となりました。
あと「肌色多め」というらしいですが、裸のシーンが物語の後半ですが割とあります。気になる人も多いでしょう。
それでも、主人公イーチェン役のテディ・レンがナチュラルな感じでよかったので、最後まで楽しく観れました。

《HIStory1-着魔》EP3 Obsession_Moment.jpg

BLにはつきもののお笑いパートは抑え気味ですが、イーチェンの友人がいい味出しています。

《HIStory1-着魔》EP1 遭到江劲腾背叛,邵逸辰重生回到学生时代 _ Caravan中文剧场_Moment.jpg

この右側の彼。どこかで見たような顔だなぁ、という気はするのですが。
彼、英語字幕だと、Bai Mu というのが名前みたいなんですが、サークルの先輩に狙われてます(笑)。本人には笑いごとではないでしょうが。
こちらのカップルで別のドラマでも作るのかな、と思ったりもしたのですが、違うようですね。




タグ:history
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愛しいひとの眠る間に [海外の作家 か行]


愛しいひとの眠る間に (新潮文庫)

愛しいひとの眠る間に (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
雪のニューヨーク、衝撃的な記事を書くことで著名な、女性ライターが姿を消した。ブティックを経営するニーヴは、その作家のコートがすべて残されていることからこの失踪に不審を抱き、元市警本部長の父に相談する。一方、彼に逮捕されたマフィアのボスが、復讐のため、ニーヴに対する殺人指令を出したらしい……。米ファッション業界が抱える様々な問題を扱ったサスペンス長編。


2021年8月に読んだ11冊目の本です。
またまた、どこから掘り出してきたんだと言われそうな本です。
奥付を見ると平成2年10月25日発行。30年以上積読にしていました......

さすがは”サスペンスの女王”。すっと世界に入っていけます。
華やかなファッション業界を背景にしたドラマです。
主人公ニーヴはブティックの経営者。ニーヴの母レナータも同じようにファッション業界に携わっていた。
ニーヴの父マイルズの旧友、サルおじさんはファッション・デザイナーとして業界で大成功を収めている。
ニーヴの父マイルズは連邦検事だった際マフィアのボスを投獄、その後市警本部長に就任。直後、妻レナータは惨殺されていた。
ニーヴの顧客でファッション・ライターのエセルが殺され、エセルの分かれた夫が怪しい動きを見せている。
折も折、マフィアのボスが、ニーヴへの殺人指令を出したという......
最近のどぎついサスペンスものに比べると、あっさりとしているようにも思えますが、しっかりと盛り上げてくれます。

作者のメアリー・ヒギンズ・クラークはベストセラー連発の作家で、その名を冠した賞もあるのですが、もう日本では新刊書店では手に入らないですね......
読み返してはいないものの、初期の
「子供たちはどこにいる」 (新潮文庫)
「誰かが見ている」 (新潮文庫)
「揺りかごが落ちる」 (新潮文庫)
あたりは復刊してもいいんじゃないでしょうか?

話はそれますが、創元推理文庫は毎年復刊フェアをやっていて、早川書房もたまに復刊フェアをやりますが、ほかの海外ミステリを出す出版社も復刊フェアをときどきはやってほしいですね。
新潮文庫、文春文庫、角川文庫あたりには特に期待したいです。
もちろん、未訳の作品も大歓迎ですよ。


<蛇足1>
「物慣れた手つきでレタスをちぎり、リーキを刻み、ピーマンを剃刀の刃ほどの薄い輪切りにした。」(43ページ)
リーキ? リーク(Leak)のことだろうな、と思って調べてみたら、日本ではリーキとも言うようですね。リークよりはリーキの方が優勢かもしれません。
ロンドンに行くまで料理をしませんでしたので、野菜を自分で買ったりもしませんでしたので、知りませんでした。
長ネギは、日本食材店あるいはアジア食材店に行かないと手に入りづらいので、日本人家庭ではリークで代用することはよくあることかと思いますが、味わいが違いますよね......

<蛇足2>
「もうそんな話はよして、さっさと小海老のスカンピ(訳注 ニンニクで風味をつけた小海老のフライ)でも注文してくれない?」(58ページ)
スカンピに、料理名(フライ)だという訳注がついていますが、スカンピは料理名ではありませんね。
イタリア料理が日本でもかなり広まっているので今では知っている人の方が多いと思いますが、スカンピとは手長海老のことですね。
本書が訳された当時はわかりやすくするためにこう書かれたのでしょう。

<蛇足3>
「小さな、形のいいくちびるは、キューピーのように両端のつりあがった弓形に描かれている。」(67ページ)
ここを読んで、我ながらバカバカしいことに、日本のマヨネーズがこの頃にはすでにアメリカにも広まっていたのか、なんて思ってしまって、その後自分の勘違いに気づき笑ってしまいました。
日本のマヨネーズ、おいしいですよね。少なくともロンドンで普通に手に入るあちらのもの(たとえばハインツとか)とは味わいが全く違いますね。


原題:While My Pretty One Sleeps
著者:Mary Higgins Clark
刊行:1989年
訳者:深町眞理子


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眠たい奴ら [日本の作家 あ行]


眠たい奴ら (角川文庫)

眠たい奴ら (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2022/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
組織に莫大な借金を負わせ、東京から地方の温泉街に逃げ込んだ経済ヤクザ・高見。一方、大阪から単独捜査のため、その街を訪れたはみ出し刑事・月岡。街で二人を待っていたのは、地元の政治家や観光業者をまきこんだ巨大新興宗教団体の跡目争いと、闇にうごめく寄生虫たち――。惚れた女のために、そして巨大な悪に立ち向かうため、奇妙な友情で結ばれた一匹狼たちの闘いが始まる! 
圧倒的なスケールで描く大沢ハードボイルドの巨編。


2021年8月に読んだ10冊目の本です。
長年積読にしていたのが、ふと読みたくなって手に取りました。
奥付を見ると2000年12月の再版。手元の記録では購入したのは2001年4月。20年以上も積読です。
その間に、2016年に新装版が出ています。

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

眠たい奴ら 新装版 (角川文庫)

  • 作者: 大沢 在昌
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: 文庫


あらすじを読んでもらうとわかりますが、極めて王道というか、ハードボイルドというと軽率にパッと浮かびそうなもののてんこ盛りです。
主人公は男前らしい、経済ヤクザ高見。
敵か味方か判然としませんが、どうも気になる大阪の刑事月岡がポイントですね。いや、ポイントというか、陰の主役といってもいいかも。
ヤクザからみた刑事だから仕方ないのかもしれませんが、かなりひどい書かれ方です。
『特に顔がひどい。ま四角の、雪駄の裏で「福笑い」をやったような面つきをしている。
 顎が張り出し、下唇もつきでている。まるで何にでも食いつくダボハゼといった造作だ。』(27ページ)
まあ、自覚もしているようで
「わいは『シラノ・ド・ベルジュラック』ちゅうとこか」(198ページ)
などというセリフも飛び出します。

もうひとり重要な人物は、亜由子。あらすじでいう「惚れた女」です。
「女とは、ある種、性欲を満たすための道具であって、行為に溺れることによって得られる安らぎ以上のものをこれまで求めたことはない。」
「高見は女といて、自分の要求以外のことを優先させた記憶がない。常に自分の今したいことを、最優先させてきた。結果、女には金をつかったが、それは ”代価” のようなものだった。」(285ページ)
こう述懐する高見が、変わっていくのが見どころ。
そして、高見はあまり気づいていなそうですが、月岡も亜由子に惚れている模様。ここがいいですね。

敵側の人間も癖のある人物が揃っていて、王道中の王道が展開されていきます。
たっぷり楽しめますよ。

タイトルの「眠たい」。本来「眠い」という意味ですが、「眠たい 俗語」で調べてみると、”とぼけている。状況判断が甘い” と出てきましたね。
本書では165ページに、高見とのやりとりで月岡のセリフの中に出てきます。
「東京の極道がこないとこで何しとるのや」
「実は今、休職中でしてね。ひょっとしたらこのまま、足を洗っちまうかもしれない」
「阿呆くさ。何眠たいこというとんねん」
カバーには、おそらく「眠たい奴ら」の英訳なのでしょう、Amazing Fellows と書いてあります。
Amazing(驚くような、すごい、すばらしい) と 眠たいではずいぶん違いますが(笑)。
これがラストのセリフに効いてきていますね。


<蛇足1>
「総刺青は、内臓をとことん痛めつける。刺青をしょった人間が、夏でも長袖を着るのは、人目につかないようにするためもあるが、実はひどく寒がりになるせいもある。刺青をしょうと寒さがこたえるようになるのだ」(282ページ)
知りませんでした。

<蛇足2>
「大阪弁を喋るっていってたね」
「大阪かどうかは知らないけれど関西弁。」(404ページ)
するどい!
テレビの影響もあり、かなり入り混じってきていますが、関西の言葉も地域によって違うようなので、大阪弁とひとくくりにしないのはただしいですね。


タグ:大沢在昌
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災厄の町 [海外の作家 エラリー・クイーン]


災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
結婚式直前に失踪したジムが、突如ライツヴィルの町に房ってきた。三年の間じっと彼の帰りを待っていた婚約者のノーラと無事に式を挙げ、ようやく幸福な日々が始まったかに見えた。ところがある日、ノーラは夫の持ち物から奇妙な手紙を見つける。そこには妻の死を知らせる文面が……旧家に起きた奇怪な毒殺事件の真相に、名探偵エラリイが見出した苦い結末とは? 本格ミステリの巨匠が新境地に挑んだ代表作を最新訳で贈る。


2021年8月に読んだ9冊目の本です。
エラリー・クイーンの国名シリーズは東京創元社の中村有希さんの新訳を読み進んでいますが、ライツヴィルものの新訳が越前敏弥さんの手でハヤカワ文庫から出ていますので、そちらも読み進めることにしました。

個人的にはエラリー・クイーンといえば、国名シリーズであり、悲劇四部作でして、それ以外は今一つという印象を持っていました。
この本も子供の頃に読んでいるはずで、解説によると「配達されない三通の手紙」として日本で映画化されたのは1979年で、日本で映画化されてから読んだはずなので、中学生くらいだったのでしょうか? さすがに小学生でこれは読んでいなかったのではなかったかと。
で、その時の印象は薄くて、裁判のシーンはよく覚えているのですが、全体としてあまり感心はしなかったように思います。

ところが、エラリー・クイーンは自身最高の作品と自負しているらしい。
新訳も出ているし、読みなおそうかと思うに十分です。
読み直した結果はというと、おもしろかったですね。
国名シリーズや悲劇四部作とは違うベクトルの作品ですが、十二分におもしろい。

タイトル「災厄の町」というのは、舞台となった町ライツヴィルのことで、この作品はライツヴィルを描くことに主眼があるのですね。
ライツヴィルのなりたちがしっかりと描かれ、そこへ事件が投げかけた波紋がしっかりと描かれる。
これまでの古き良き本格ミステリが外界から遮断された屋敷の中で展開する物語であるのに対して、この作品では屋敷の外に目が注がれます。
犯人探しの狙いを持つ本格ミステリですから、事件そのものは屋敷の中、一族の中で展開するのですが、事件を受けて町が変容していく。
もともと町の創設者的存在で、中心的役割を担い敬意も集めていたライト家に対する町の人々の態度がどんどん変わっていくのです。
ライツヴィルという架空の町の物語で、その町もさほど大きくないものの古くからの住民に新しい目の住民がいるという状況ではあるのですが、たとえばニューヨークや東京のような大都市でも似たようなものなのかもしれないなぁ、と思いながら読みました。

ライツヴィルを描くことに主眼があるとはいっても、ミステリ部分がおろそかになっているわけではありません。
映画のタイトルにもなった「配達されない三通の手紙」を中心に構築された謎は、美しく「配達されない三通の手紙」から解かれていきます。人間関係を背景にしたトリックも、きちんと手がかりによって導き出されます。
控え目な感じを受けますが、国名シリーズや悲劇四部作で展開された美点は、ここでもきちんと維持されているのです。

子どもの頃この作品に感銘を受けなかったのは、ポイントとなる人間関係の機微をちゃんと理解できていなかったからでしょう。
新訳で再読できてよかったです。

それにしても、この作品に登場するエラリー・クイーンにはびっくりです。
抑制的に振る舞っていますが、こいつ、プレイボーイですよ(笑)。
国名シリーズの新訳でもちょくちょくそんな一面が出ていたのを確認していましたが、いやはや......


<蛇足1>
「その段落には、薄赤い色のクレヨンで下線が引かれていた。」(98ページ)
エッジカムの「毒物学」という本に関する記述ですが、下線を引くのにクレヨンを使うのですね。
蛍光ペンは時代的になかったのでしょうが、クレヨンとは意外でした。

<蛇足2>
「これはまだ法律上の事件ではない。たしかに、もはや決定的だ。しかし事件ではない。」(205ページ)
すでにドリンクに毒が入れられ人が死んでいるというのに、事件ではない、とはどういうことでしょう?
意味がわかりませんでした。

<蛇足3>
「もちろん、名前が ”クイーン” だからと言って、殺人罪を免れるという理屈はないが、実際問題としては、名前が明らかになれば、それほどの有名人が犯罪にかかわったという疑念は陪審員の頭から消え去るだろう。」(376ページ)
偽名で活動していたエラリーが本名を明かさなければならなくなるシーンなんですが、いやあ、これこそミステリの真犯人にうってつけではないですか、と思って笑ってしまいました。


<2024.3追記>
なにも気にせず、Ellery Queen の日本語表記を、エラリー・クイーンと書いてしまっていましたが、早川では、エラリイ・クイーンという表記です。
このブログではエラリー・クイーンと今後も書いていきます。
ちなみに、この「災厄の町」の訳者である越前敏弥さんは、角川文庫から国名シリーズを訳されていますが、そちらの表記はエラリー・クイーンです。出版社によって違うのですね。


原題:Calamity Town
作者:Ellery Queen
刊行:1942年
訳者:越前敏弥




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