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イン・ザ・ブラッド [海外の作家 か行]


イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

イン・ザ・ブラッド (文春文庫)

  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
刑事カーソンが漂流するボートから救い出した赤ん坊は、謎の勢力に狙われていた。収容先の病院には怪しい男たちによる襲撃が相次いだ。一方で続発する怪事件――銛で腹を刺された男の死体、倒錯プレイの最中に変死した極右の説教師……。すべてをつなぐ衝撃の真相とは? 緻密な伏線とあざやかなドンデン返しを仕掛けたシリーズ第五弾。


2021年12月に読んだ5冊目の本です。
「百番目の男」 (文春文庫)
「デス・コレクターズ」 (文春文庫)(感想ページはこちら
「毒蛇の園」 (文春文庫)(感想ページはこちら
「ブラッド・ブラザー」 (文春文庫) (感想ページはこちら
に続くカーソン・ライダーシリーズ第4弾。

「このミステリーがすごい! 2014年版」第7位。
週刊文春ミステリーベスト10 第8位。
「2014本格ミステリ・ベスト10」第3位
と相変わらず好位置をキープしています。

これまでの兄ジェレミー・リッジクリフとの対決も一区切りで、リラックスモードの僕カーソンと相棒ハリーだったのがいきなり赤ん坊を保護することになり、するすると事件が大きくなっていきます。
絡むのは人種差別的な極右の説教師が倒錯プレイの最中死亡したように見える事件。
人種差別的でカルトチックな、となるとミステリ的にはある種単純な連想が働いてしまうのですが、ジャック・カーリイはそれより先、複雑で壮大な真相をちゃんと提示してくれます。さすが。

シリーズはこのあと
「髑髏の檻」 (文春文庫)
「キリング・ゲーム」 (文春文庫)
と出て、そのあと翻訳が出ていませんが、期待して待っています!
(↑ いや、その前に自分が積読を消化せよ)

<蛇足>
「丸々とした黒人男性で大きく眠たげな目、八角形の眼鏡、髪のない脳天と同じくらいに輝く笑みをいつでも浮かべている。」(191ページ)
八角形の眼鏡ってどんなのでしょうね?



原題:In the Blood
著者:Jack Kerley
刊行:2008
訳者:三角和代





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映画:ジュラシック・ワールド/新たなる支配者 [映画]

ジュラシック・ワールド 新たなる支配者.jpg


映画の感想を続けて。
「ジュラシック・ワールド」(感想ページはこちら
「ジュラシック・ワールド/炎の王国」(感想ページはこちら
に続く「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」です。
ポスターにもHPにも「シリーズの壮大なる終幕」と書かれていまして、シリーズ完結編?

シネマ・トゥデイから引用します。
見どころ:現代によみがえった恐竜たちを描く『ジュラシック』シリーズ完結編。人類と恐竜たちが混在する世界を舞台に、両者の行く末が描かれる。監督などを務めるのは『ジュラシック・ワールド』などのコリン・トレヴォロウ。前作にも出演したクリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワードをはじめ、『ジュラシック』シリーズ初期作品のキャストに名を連ねていたローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニールらが出演する。

あらすじ:メイジー・ロックウッド(イザベラ・サーモン)の決断により、イスラ・ヌブラル島からアメリカ本土へ送られた恐竜たちが世界各地に解き放たれて4年が経過する。恐竜の保護活動に力を注ぐオーウェン(クリス・プラット)とクレア(ブライス・ダラス・ハワード)は、ロックウッド邸で保護したメイジーを大事に育ててきたが、ある日、メイジーがヴェロキラプトルとともに連れ去られる。

ちょっと引用したあらすじはそっけないので、映画のHPからも引用します。

〈ジュラシック・ワールド〉のあった島、イスラ・ヌブラルが火山の大噴火で壊滅、救出された恐竜たちは、世界中へと放たれてしまった。
あれから4年、人類はいまだ恐竜との安全な共生の道を見出せずにいる。恐竜の保護活動を続けるオーウェン(クリス・プラット)とクレア(ブライス・ダラス・ハワード)は、人里離れた山小屋で暮らしていた。そこで二人が守っているのは、14歳になったメイジー(イザベラ・サーモン)、ジュラシック・パーク創設に協力したロックウッドの亡き娘から作られたクローンの少女だ。
ある日、オーウェンは子供を連れたブルーと再会する。ところが、何者かによって、ブルーの子供が誘拐される。オーウェンはブルーに「俺が取り戻してやる」と約束し、クレアと共に救出へ向かう。
一方、サトラー博士(ローラ・ダーン)は、世界各地から恐竜を集めて研究をしているバイオテクノロジー企業の巨人バイオシンをある目的から追っていた。そこへグラント博士(サム・ニール)も駆けつけ、マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)に協力を求める。
人類と恐竜の共存の前に立ちはだかる、バイオシンの恐るべき計画とはー?
オーウェンとクレア、そして3人の博士は大切な命とこの世界の未来を守ることが出来るのか?


いやあ、シリーズ第1作「ジュラシック・パーク」に登場したサトラー博士、グラント博士、マルコム博士が出てくるのがオールドファンには嬉しいですね。
シリーズ完結編にふさわしい、オールスターキャストぶり。
完結を寿ぎたいところですが、楽しく観たものの、個人的には不満があります。

というのも、前作「ジュラシック・ワールド/炎の王国」のラスト(というかおまけ映像かもしれませんが)で恐竜が解き放たれてしまって、世界中に活動領域が広がってしまった、というステージになっていたから、当然、次作となるこの「ジュラシック・ワールド/新たなる支配者」では、名だたる大都会を跋扈する恐竜がたっぷり描かれることを期待しちゃったんですよね。
それこそディザスター映画なみに、建造物があれこれ恐竜に壊されてしまうことを想像したりして。

ところがこの作品ではそういう方向に話は進みません。
最初の方にすこしそういう映像が見られますが、それはごくごく一部。
すぐに、巨大化したバッタ(イナゴ?)に蹂躙される穀物畑→それは遺伝子操作によるもの→背後にいる企業がある、という流れに。
で、その企業の本拠地? 研究所? に乗り込んで行く展開に。
恐竜との戦いシーンも、市街戦というわけではなく、その研究所の敷地内、すなわち恐竜保護区内に限定され、ジュラシック・パークと一緒の構造になっています。
これだと、個人的には大きく期待外れ、です。

とはいえ、この期待外れはこちらが勝手な期待をした故です。
そういう高望みを考慮外とすると、非常に楽しく観ました。
やはり大画面で恐竜を観るのは、大迫力ですし、シリーズでお馴染みになったブルーと名付けられたラプトル(ヴェロキラプトル)に子どもができていたり、クリス・プラット演じるオーウェンと引き続き交流したりしているのも楽しかったです。

ただ、恐竜と人類の関係ということでは、なんかいろいろとうやむやになったまま終わっていまして、人類と恐竜は共生していく、共生していかなければならない、みたいなラストになっていました。なので、これで完結編と言わずに、またシリーズを続けて恐竜を見せ続けてほしいな、と希望します。



製作年:2022年
原 題:JURASSIC WORLD: FALLEN KINGDOM
製作国:アメリカ
監 督:コリン・トレヴォロウ
時 間:147分


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映画:トップガン マーヴェリック [映画]

トップガン マーヴェリック.jpg


映画「トップガン マーヴェリック」の感想です。

シネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
トム・クルーズをスターダムにのし上げた出世作『トップガン』の続編。アメリカ軍のエースパイロットの主人公マーヴェリックを再びトムが演じる。『セッション』などのマイルズ・テラーをはじめ、『めぐりあう時間たち』などのエド・ハリス、『ビューティフル・マインド』などのジェニファー・コネリー、前作にも出演したヴァル・キルマーらが共演。監督は『トロン:レガシー』などのジョセフ・コシンスキー。

---- あらすじ ----
マーヴェリック(トム・クルーズ)は、かつて自身も厳しい訓練に挑んだアメリカ海軍パイロットのエリート養成学校、通称「トップガン」に教官として戻ってくる。父親と親友を空で失った過去を持つ彼の型破りな指導に、訓練生たちは反発する。彼らの中には、かつてマーヴェリックの相棒だったグースの息子ルースター(マイルズ・テラー)もいた。


この引用したあらすじはかなりの前半部分で終わっていまして、
映画のHPのあらすじがまるでこの続きみたいです(笑)。

アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”。
かつてない世界の危機を回避する、絶対不可能な【極秘ミッション】に直面していた。
ミッション達成のため、チームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら、
常識破りな性格で組織から追いやられた“マーヴェリック”(トム・クルーズ)だった。
なぜ彼は、新世代トップガンとともにこのミッションに命を懸けるのか?
タイムリミットは、すぐそこに迫っていた——。


前作「トップガン」は1986年。
続編であるこの「トップガン マーヴェリック」が2020年(日本公開は2年待ったのですね)ですから、34年ぶりの続編だったわけですね。
あの映画の続編を、トム・クルーズ本人主演で作る、というだけですごいロマンなわけですが、映画の内容そのものが、「トップガン」そのままといいますか、30年以上経過していることを感じさせない変わらなさぶり。ハリウッド建材、ということで、映像の迫力は向上しているのですが、全体的にノスタルジックな印象を受けました。
トム・クルーズのトム・クルーズによるトム・クルーズのための映画、でもありまして、そのことが短所ではなく長所として結実しているように思いました。

いちばん驚いたのは、トム・クルーズのファンには申し訳ないですが、トム・クルーズが演技している!
トム・クルーズって、アクション系の作品が多く、あまり演技力が問われるような映画には出ていないように思っています。
カッコいい兄ちゃんといった売り出し方をもともとされていて、そういう作品が続いたあと、演技力を見せようと挑んだ(と思っています)「7月4日に生まれて」だったかがあまりその点で評判を呼ばず、その後もいくつか演技力を見せる作品はあったものの、メインは圧倒的にかっこいいトム・クルーズを見せる映画であって、演技力のある俳優という印象を持っていなかったのです。

ところがこの「トップガン マーヴェリック」ではかつての相棒の息子との確執という部分でしっかり演技しています。おやっと思いましたね。
もっともこの部分の映画に占める割合は少なく、いつものカッコいいシーン連発となるのですが。

いや、本当に王道の娯楽映画でして、トム・クルーズの映画に観客が期待するものを100%出し切ってくれています。
ヴァル・キルマーにもまた会えたし、満足できた映画鑑賞でした。



製作年:2020年
製作国:アメリカ
原 題:TOP GUN MAVERICK
監 督:ジョセフ・コシンスキー
時 間:131分






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名探偵は嘘をつかない [日本の作家 あ行]


名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

名探偵は嘘をつかない (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/06/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
名探偵・阿久津透。数々の事件を解決してきた彼は、証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したという罪で、本邦初の探偵弾劾裁判にかけられることになった。兄を見殺しにされた彼の助手、火村つかさは、裁判の請求人六名に名を連ねたが、その中には思わぬ人物も入っていて―!新人発掘プロジェクトから現れた鬼才、審査員を唸らせた必読のデビュー作、待望の文庫化!


また更新をさぼってしまいました。ちょっと油断すると......
さておき、2021年12月に読んだ4冊目の本です。
阿津川辰海は2017年本書で光文社の新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の受賞作に選ばれてデビューした作家で、非常に評判いいですね。
文庫化(2020年6月)されて勇んで買いました。が、例によって積読に。
大量の積読を抱えていますので「あー、もっと早く読めばよかった」と思う本はいろいろあるのですが、この「名探偵は嘘をつかない」 (光文社文庫)はそんな中でも飛び切り後悔した一冊。
あー、どうしてもっともっと早く読まなかったのだろう。こんなにおもしろいのに!

本書成立の経緯は、あとがきと石持浅海による解説に書かれていて、これが感動してしまうくらいすごくて、もとの原稿を読んでみたくなるくらいです。
石持浅海は新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の選考委員だったわけですが、もう一人の選考委員東川篤哉の解説もお願いしたいところです。

死者が甦る「転生」、名探偵が国家機関として活躍する世界、そして名探偵弾劾裁判。
3つの大きな虚構をバックに、華麗なミステリ世界が展開します。
名探偵の弾劾裁判というのが大いにツボ。
名探偵阿久津透だけではなく、語り手を含めた登場人物たちがかなり理屈っぽい人が多く、法廷という形式はそれぞれが論理を戦わせるのに打ってつけですよね。
ましてや、名探偵が名探偵として不適であることを示す裁判となると、扱った事件と二重写しになる周到さ。

阿久津のセリフ
「名探偵は自分で見つけた真実に嘘なんてつかない。ついてはならないんだ。」(285ページ)
というのが結構効いています。

新人らしいということかもしれませんが、”名探偵”をめぐる議論も楽しいです。
「昔、阿久津に言われたことがあるの。名探偵には二つの能力が必要だ、ってね。事件の真相をイマジネーションにより見通す発想力と、それにより到達した真相に向けて論理を組み立てる説得力の二つが。」(485ページ)
とか何度か読み返してしまいました。
「謎を隠すのに最も賢いやり方はそれに解決を与えてしまうこった」(470ページ)
こちらは阿久津のセリフではありませんが、ミステリ作法としては面白いですよね。似たようなことは、赤川次郎が「ぼくのミステリ作法」 (角川文庫)の中で言ってしましたね、そういえば。

各章のタイトルがまたいいんですよ。
第一章 春にして君を離れ
第二章 幽霊はまだ眠れない
第三章 災厄の町
第四章 生ける屍の死
第五章 再会、そして逆転
第六章 トライアル&エラー
第七章 斜め屋敷の犯罪
第八章 鍵孔のない扉
第九章 法廷外裁判
第十章 死者はよみがえる
ですから!

ちなみに自分の備忘のために「幽霊はまだ眠れない」は「温情判事」に収録されている結城昌治の短編、「再会、そして逆転」は「逆転裁判」からです。



<蛇足>
<DL8号機事件>というのが出てきます。(471ページ)
阿津川辰海ほどの作家なので当然泡坂妻夫は読んでいますよね。これにはニヤリとしてしまいました。





タグ:阿津川辰海
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厨子家の悪霊 [日本の作家 や行]


厨子家の悪霊 (ハルキ文庫―山田風太郎奇想コレクション)

厨子家の悪霊 (ハルキ文庫―山田風太郎奇想コレクション)

  • 作者: 山田 風太郎
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2022/07/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
子家夫人惨殺さる! 現場には右眼から血を滴らせた犬と、短刀を握りしめて立ち尽くす厨子家の長男・弘吉の姿が......。果たしてこれは厨子家に伝わる「悪霊」の所業なのか? さらにそこへ真犯人を名乗る者からの挑戦状が──。どんでん返しの連続で、読者に息つく間も与えぬ表題作をはじめ、単行本未収録作品『殺人喜劇MW』『天誅』、探偵作家クラブ賞受賞の名作『眼中の悪魔』『虚像淫楽』等七篇を収録。


2021年12月に読んだ3冊目の本です。
日下三蔵さん編集の短編集で「山田風太郎奇想コレクション」という副題がついていますが、ミステリを集めたものです。

収録作は
「厨子家の悪霊」
「殺人喜劇MW」
「旅の獅子舞」
「天誅」
「眼中の悪魔」
「虚像淫楽」
「死者の呼び声」
の7作。

日本探偵作家クラブ賞受賞作である「眼中の悪魔」「虚像淫楽」が傑作であることは当然かもしれませんが、7編ともいずれも優れた作品で、山田風太郎のミステリ作家としての腕を改めて見せつけられた思いです。

特に冒頭の表題作「厨子家の悪霊」がすごい。
「目の廻るほどドンデン返しをブン廻すことこそ作者の本領ではあったが」と作者が書いていたそうですが、圧巻という言葉はこの作品のためにあるように思えるくらい、圧巻のドンデン返しです。
作者はあまり強調していませんが、その中に足跡トリックが仕込んであります。
作者自身は出来栄えに満足されていなかったようですが、これは傑作だと思います。

「殺人喜劇MW」はタイトル通りコメディ(喜劇)ですが、黒い笑い、歪んだ笑いですね。

「旅の獅子舞」も皮肉な事件ですね。ここで使われているトリックは普通の作家だと大失敗作になってしまいそうですが、山田風太郎の手にかかると皮肉な小品に仕上がります。

「天誅」はどうやってこんなの思いついたの? と聞きたくなるような仕掛けで、冒頭から大陰嚢(おおきんたま)ですよ。お下劣で失礼しましたが、そういう作品なんです。

「眼中の悪魔」と「虚像淫楽」は、いろいろなアンソロジーにも採られている名作で、いろんなところで何度も何度も読んでいるのですが、毎回新鮮な気持ちで読んでいます。恐ろしいことに、内容をほとんど覚えておらず、毎回初読のようです。
今回もまっさらな気持ちで読みました。
これほどにきれいさっぱり忘れてしまっているのは、おそらく、読後まるで悪い夢を見ているような気分になってしまうからなのでしょうか。(いや、単にこちらの記憶力の問題かと)

ミステリということで落ちついて考えると、「眼中の悪魔」に出てくるある秘密は、もっとしっかりとした伏線がほしいとも考えてしまうところですが、この作品の狙いはそこにあるのではなく、解題にある通り「三段階の悪人」なわけですから、瑕とはいえません。むしろ、この「眼中の悪魔」こそが物語を悪夢に転じさせるトリガーとして効果を上げているようです。

「虚像淫楽」はSMを扱っているのですが、ポイントは当事者である夫婦とそれに加えて夫の弟である十七、八の少年の物語に、視点人物で治療にあたる千明医学士が関わってくることでしょう。
サディストなのかマゾヒストなのかという謎が、くるくると様相を変えていく様はまさに悪夢です。

「死者の呼び声」は構成が凝っています。
現実-手紙-手紙の中の探偵小説風の物語、と三層構造になっています。この構造が、解題で明かされている作者の三段階の悪人という狙い(ネタバレなので色を変えておきます)と呼応しているのがすごいところですね。

いずれも書かれたのがずいぶん前で、文章やセリフが今からしてみると時代がかって少々読みにくいのですが、そこがかえって物語の奥行きを感じさせるというか、山田風太郎独特の作品世界への呼び水となっているようです。
山田風太郎の作品は最近もまた新刊として書店を賑わしているので、どんどん読んでいきたいです。


<蛇足1>
「その最初の見せかけをひっくり返す槓桿(こうかん)としてあの仮面を利用するのだ。」(76ページ)
文脈から梃子という意味だとわかるのですが、槓桿、知りませんでした。

<蛇足2>
「弘吉はあの小屋の肥桶に水を満たした奴を二つ、一生懸命に運んで、傍の池に注ぎ捨てて来たのだ。」(77ページ「厨子家の悪霊」)
「それにみんなが一生懸命見ているのァ、お獅子の顔ばかりにきまっているから」(154ページ「旅の獅子舞」)
以前は目の敵にして指摘していた「一生懸命」ですが、昭和二十四年発表のこれらの作品で山田風太郎が使っていることをみるとずいぶん前から広まっていたのですね。

<蛇足3>
「作家や評論家のかくもののなかに、庶民とか大衆とかいう言葉やいやにふえてきたら、きっとそのくらしが庶民とかけはなれて豪勢なものになってきた証拠だとみていいようだわね」(117ページ)
ちょっとニヤリとしてしまうセリフですね。
政治家のいう「国民」も一緒でしょうね。

<蛇足4>
「つまり僕は『誰の子であるかということを知っているのは、その母親だけである』というあのストリンドベルヒの深刻な言葉を利用したのだ。」(217ページ)
『誰の子であるかということを知っているのは、その母親だけである』──なかなか深淵な言葉ですが、出所は知りませんでした。ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ、スウェーデンの劇作家なのですね。

<蛇足5>
「とんでもございません……いえ、ただちょっと思い出しただけなんです」(250ページ「虚像淫楽」)
「とんでもございません」という表現も、かなり広まっているものの元々は間違いというのが通説のようですが、こちらも昭和二十三年のこの作品で使われているので、根強い表現ですね。





タグ:山田風太郎
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