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ドライブ [日本の作家 か行]

ドライブ (TO文庫)

ドライブ (TO文庫)

  • 作者: 黒田研二
  • 出版社/メーカー: ティー・オーエンタテインメント
  • 発売日: 2014/04/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
何者かに拉致された犬塚拓磨はワゴン車の中で目を覚ます。車内には互いに見知らぬ5人。放置されたタブレット型PCのモニターでは、仮面をつけた謎の人物〈夢鵺(ゆめぬえ)〉が語り出す。解放される条件は定められたルートを走行し、制限時間内に最終目的地へ辿り着くこと。脱出不可能な死のロング・ドライブはやがて、殺戮の渦へと加速してゆく。6人に秘められた意外な接点が明らかになる時、狂おしい情念が迸るノンストップ・スリラー。


2022年11月に読んだ5作目の本です。
黒田研二は、マンガやゲームのお仕事が多く、小説のお仕事が減ってきている印象です。
その意味で貴重な小説の新作ということで、2014年4月奥付のこの文庫本が出たときにはあまり聞きなれない版元でしたがすぐに購入しました。

積読にして早や幾年、この本、改題して新装版が2022年2月に出ました。
題して「ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 」(TO文庫)

改題新装版の書影も掲げておきます。

ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 (TO文庫)

ワゴンに乗ったら、みんな死にました。 (TO文庫)

  • 作者: 黒田研二
  • 出版社/メーカー: TOブックス
  • 発売日: 2022/02/01
  • メディア: 文庫



上に引用したあらすじをご覧になるとわかるかと思いますが、わりとよくあるパターンの話です。
こういう映画一時期多かったですよね。
オープニングから中盤にかけて、想定通りの、こういう物語の典型的な展開で進んでいきます。
次はだれが殺されるのか、果たして仕掛けた犯人はどういう人物で誰なのか?

このまま最後まで突っ切ってしまうというのもアリだとは思いますが、そこは黒田研二ですから、ひねりがあるのだろうと予想。
そして黒田研二ならこういう展開になるよね、という想定通りに進みます。
その意味では不満を抱いてもいいのかもしれませんが、こういう方向性は好きなので不満は感じませんでした。
また新作を書いてほしいです。

最後まで読んでちょっと気になったのは、視点人物である主人公犬塚琢磨の設定。
逆恨み、であってもよいのだとは思いますが、彼に対しては逆恨み以外の何物でもなく、設定に少々難ありかな、と。







タグ:黒田研二
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トリックスターズL [日本の作家 か行]


トリックスターズL (メディアワークス文庫)

トリックスターズL (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住 四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/01/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
不可思議な読後感にどっぷりとつかる!
名門城翠大学に着任した風変わりな青年教授。佐杏冴奈――彼の担当教科は普通ではない。西洋文化史の異端の系譜「魔学」である。そして、不本意ながら先生の助手に収まったぼく。推理小説を象った魔術師の物語、待望の第2弾が登場。
王道の「嵐の山荘」もこの二人にかかれば、一筋縄ではいかない。摩訶不思議な怪事件は現実と虚構が入り混じり、予想だにしない展開へ!
あっと驚く結末は、もう一度読み直したくなること必至。極上エンターテインメント!


2022年10月に読んだ5冊目の本です。
久住四季の「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作。
今手元にある本で引用したカバー裏あらすじのところ、佐杏冴奈(さきょうしいな)が佐冴奈になってしまっていました。主要人物の名前を間違えるって、なかなか大胆なミスです(笑)。

前作に引き続き魔術師のいる世界が舞台です。
魔術師が出てくる世界というのも深まっていまして、
「魔学という学問は、よく音楽に例えて語られる。『魔学は音楽である』という言葉もあるほどで、実は両者の学問体系は非常に似通っている。」
「そして『魔術』とは、つまり音楽の『曲』に当たる。
『曲』は作曲者が作り、実際に演奏者が演奏して、初めて完成される。
『魔術』も魔学者が作り、魔術師が演術して、初めて完成される」(113ページ)
というところなど、実におもしろい。

プロローグと書いてはありませんが、プロローグにあたる事件を振り返る冒頭で、この
「トリックスターズL 」(メディアワークス文庫)がミステリを非常に意識した作品であることが示されます。
本文中でも
「推理小説とは、すなわち『フーダニット』『ホワイダニット』『ハウダニット』の三要素を醍醐味とし、それに論理的解決を用意した小説、とするのが、まあそこそこ一般的な解釈なのだそうだ」(155ページ)
と解説?されています。
扱う事件は、”嵐の山荘”で起こる密室殺人。
いいではないですか!

主人公であるぼく天乃原周が、被疑者全員を集めて推理を披露するシーンもあります。
「”嵐の山荘”で登場人物全員を集合させる理由は一つ。解決偏を始める場合だけです」(247ページ)
って、カッコいい。

ミステリとして重層的な構造になっているのも素晴らしいのですが、なにより感心したのは、前作をしっかりと踏襲しつつ、前作と対になるミステリ世界を構築していることです。
この内容を言ってしまうとすなわちネタバレになるので感想として書けないのですが、ミステリとしての構造が対になっている点は、この作品の大きな長所として声を大に!
冒頭の
「今回の事件も、やはりどうしようもないほどに魔術師たち(トリックスターズ)の物語だったのだ」(11ページ)
と書かれている通りです。

「……魔術師は魔術を使っても、満足に空も飛べません。けれど、科学が造った鉄の鳥は大勢の人間を乗せてあんなに自由に空を飛ぶことができる。魔術師であることなど、きっとその程度のことなんだとわたしは思います。」(307ページ)
ラストで登場人物の一人がいうこのセリフが、魔術師たち(トリックスターズ)の物語であることを象徴しているのでしょう。

続きも読んでいきます!

<蛇足1>
ミステリを意識した記述の中に、
「ぼくもミステリなどホームズぐらいしかまともに読んだことがない初心者だったので、彼女の解説はなかなかおもしろかったのを覚えている(ホームズはあくまで探偵小説であるとのことだったが、何が違うのかぼくにはよくわからなかった)。」(156ページ)
というのがありました。
探偵小説とミステリをどう区別するのか作中で示されていないので想像するしかないですが、ホームズを取り上げて述べているということは、「探偵」を文字通り探偵と解して「探偵が出てくる」「探偵に焦点を当てた」作品を「探偵小説」と分類しているのでしょうか?
興味深いですね。

<蛇足2>
タイトルの「トリックスターズ」とは魔術師たちのことを指しています――とさらっと前作「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)感想で書いたのですが、文庫本の扉のところに
「詐欺師、手品師、魔術師など『人をだます者』というニュアンスの意味を持つ語。」
ときちんと説明されていました。



トリックスターズL (メディアワークス文庫)


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馬疫 [日本の作家 か行]


馬疫

馬疫

  • 作者: 茜 灯里
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/02/23
  • メディア: 単行本

<帯あらすじ>
「馬が凶暴になってるだけの問題じゃないの。馬インフルエンザが新しい、未知のタイプに変異している。つまり、種を超えて広がるかもしれない兆候があるってことなの」
2024年、欧州での新型コロナ感染拡大を受け、夏季五輪は再び東京で開催されることになった。だが、日本馬術連盟の登録獣医師・一ノ瀬駿美が参加した五輪提供馬の審査会で、突如、複数の候補馬が馬インフルエンザの症状を示し始める。ウイルスの正体は過去に例を見ない「新型馬インフルエンザ」。感染した馬を凶暴にさせてしまう「狂騒型」だった。五輪は無事に開催できるのか、そして新型馬インフルエンザの先に現れる、もう一つの恐ろしいウイルスとは──。獣医師で大学教員の著者にしか描けない、理系ミステリーの新境地!


2022年9月に読んだ10冊目の本です。
第24回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
単行本で読みました。
2023年3月に文庫化されています。

馬疫 (光文社文庫 あ 73-1)

馬疫 (光文社文庫 あ 73-1)

  • 作者: 茜灯里
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2023/03/14
  • メディア: 文庫

馬インフルを題材に、グイグイ読まされました。とてもおもしろかった。
こういう話、好きなんですよね。
新型コロナがあったせいで、この種の物語が余計リアルに感じられる、という点はあるかと思いますが、専門的な話も、素人にわかりやすく書いてあると思いました。
大きな話の割に読者に提示される世界が限られていて、もっともっと大きな話になりそうなのにならない点(パニック小説というほどの展開にはなりません)や、物語として事件の起こし方が雑に感じられるところがあったのは残念ですが、こういう作品、どんどん書いてほしい。


<蛇足>
「部外者の獣医師でも診察できるなら、私も是非、参加したいです。ー略ー」
「無理だ。俺は今、エクセレントに雇われている。ー略ー」
(一匹狼タイプの三宅先生が、エクセレントに就職ですって?)(116ページ)
獣医師が「雇われている」という場合、語感として「就職」というよりは「顧問」とか「専属」というイメージかと思うのですが、就職というのが一般的なのでしょうか。


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感染領域 [日本の作家 か行]


【2018年・第16回「このミステリーがすごい! 大賞」優秀賞受賞作】 感染領域 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

感染領域 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

  • 作者: くろき すがや
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/02/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
九州でトマトが枯死する病気が流行し、帝都大学の植物病理学者・安藤仁は農林水産省に請われ現地調査を開始した。安藤は、発見した謎のウイルスの分析を天才バイオハッカー「モモちゃん」の協力で進めるが、そんな折、トマト製品の製造販売会社の研究所に勤める旧友が変死。彼は熟さず腐りもしない新種のトマト“kagla(カグラ)”を研究していたが……。弩級のバイオサスペンス、登場!


2022年8月に読んだ3冊目の本です。
田村和大「筋読み」 (宝島社文庫)と同時に第16回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞しています。
ちなみに、このときの大賞受賞は蒼井碧の 「オーパーツ 死を招く至宝」 (宝島社文庫)

バイオサスペンスというのでしょうか。
九州で防虫剤の影響か、葉や茎が赤変したトマト。
日本の種苗メーカーのところに生まれた、いつまでも熟さない新品種のトマト・カグラ。
この2つのトマトをめぐって話は展開します。

こういう物語の常として、大企業が背後に、というのが容易に想像されるのですが、この作品には大企業が2つ登場します。
防虫剤メーカーで世界的大企業のピノート、そして、日本のクワバ。

対しますのは、主人公である学者安藤。
この安藤の造型が、ハードボイルド的な感じになっていまして、なかなかいい感じ。
脇を固めますのは、農水省の役人で元恋人の里中と天才バイオハッカーのモモちゃん。
この3人、いずれもあまりにも有能すぎるのが難点ですが、まあこのくらいのハンデがないと、大企業には立ち向かえないでしょうから、やむを得ないですね。

専門的なことがわかりやすく書かれていて、3人をはじめとする登場人物の掛け合いも楽しく、引き込まれて読むことができました。
なのに、最後の最後に躓いてしまいました。
理解が追いつかなくなりました。ついていけなくなりました。
事態の収拾策を主人公たちが立てるのですが、この策の仕組みの説明がわからない......
まあ、仕組みのところは専門的なのでわからなくてもいいとも言えますが、この収拾策自体が、仕組みを理解していないせいもあるとは思うのですが、非常に危なっかしいものに思えて仕方ありません。
まあ、毒を以て毒を制す、ということなのでしょうね。

あと気になったのは、この作品で巻き起こっているトマトをめぐる事象は、非常に深刻なもので、作中でもしきりに大変だとは言われているのですが、正直、ちっとも大変さが伝わってこないんですよね。
時折登場人物を捕まえて、本当に大変さわかっている? と聞きたくなるくらい。

いつものことで文句もつけてしまいましたが、こういう作品好きです。
さりげない箇所ですが、
「たかだかトマトの木一本のために、人を誘拐して暴力をふるったり、クワバ会長を拉致しようとしたりする種子メーカーが、本当にあると思っているのか?」(245ページ)
という部分なんかもとても共感できした。

なので、続編もぜひ読みたい、と思える作品、作家でした。



<蛇足>
「私の空手の腕前は初段だ。実力的には最大限贔屓目に見積もっても、全流派合わせて日本で千五百番手ぐらいだろう。つまりそう強くはない。」(149ページ)
空手の競技人口などは知らないのですが、千五百番手って強いんでしょうか? 強くないんでしょうか?
均すと都道府県でベスト30くらいになるので、なんとなく強そうなイメージ。







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新世界より [日本の作家 か行]

新世界より(上) (講談社文庫)

新世界より(上) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

新世界より(中) (講談社文庫)

新世界より(中) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

新世界より(下) (講談社文庫)

新世界より(下) (講談社文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/01/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。<上巻>
町の外に出てはならない―禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底なしの暗黒が暴れ狂いだそうとしていた。<中巻>
夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と鳴咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的傑作。<下巻>


2022年6月に読んだ4作目の本です。
上中下3巻となる貴志祐介のSF大作で、第29回日本SF大賞受賞作。
「このミステリーがすごい! 2009年版」第5位。
子どもを主人公にし、SF初心者にもやさしい冒険SF──やさしいとはいっても、中身はハード=激しいというか厳しいものですが。

安定した周囲、社会に護られていた人物が、その周囲、社会の矛盾や問題に直面し、探りながら成長し壁を越えていく、というストーリーはこの種の物語の王道です。
まさに王道を行く、堂々とした作品。
その過程で、エンターテイメントの様々な要素がふんだんに盛り込まれています。

舞台は千年後の地球。
今現在の文明は先史文明と呼ばれています。歴史になっちゃっていますね。
「サイコキネシスが、科学の曙光によって照らし出されたのは、キリスト教暦二〇一一年」(上巻229ページ)とされ、その後能力者とその他の者の対立が激化、能力者は核兵器をしのぐ力を得、すべての政府が崩壊し、戦乱と飢餓、疫病の発生で人口は最盛期の二パーセント以下になり、その後の変遷を経て物語の時点の、安定した社会が実現している、と説明されます。

結界で護られた人間社会と、その結界の外の世界。美しく秩序ある平安な人間社会を守るために、荒廃した結界の外がある。
人間社会のありようが、機械文明の進んだ未来像ではなく、現時点から見て古めの、戦後の昭和的雰囲気を醸しているのが特徴かと思います。
クライマックス的シーンが、なにしろ夏祭り──盆踊りですから。
──ほかの ”町” の様子を知りたくなりました。特に、(今でいう)諸外国の。

「こういう本を書いて改めて難しいなと思ったのは、世界の謎を追求するのと、個人が生き延びるために戦うことをどうやってシンクロさせるのか」というSFマガジンインタビューでの作者の発言が大森望の解説で引用されていますが、そこに主人公たちの成長も絡むわけで、上中下の3巻といえども、決して飽きることはありません。

壮大に組み上げられている世界観ですので、中には想定できてしまうものもあります。
想定できたとしても、そのことは決してマイナスではなく、物語の先を急ぐ推進力となりました。

主人公たちが最後にたどりつく境地は、幸せの新天地なのかどうか。
「けっして信じたくはないが、新しい秩序とは、夥しい流血によって塗り固めなければ、誕生しないものなのかもしれない。」(下巻536ページ)
という感慨を、どう受け止められるでしょうか?
個人的には、もとの世界も、主人公たちがたどりつく世界も、嫌ですね......
意外と今と変わらないのかもしれませんが。
やはり、希望をもって次のフレーズを。
「想像力こそが、すべてを変える。」




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京の縁結び 縁見屋の娘 [日本の作家 か行]



<カバー裏あらすじ>
「縁見屋の娘は祟りつき。男児を産まず二十六歳で死ぬ」――江戸時代、京で口入業を営む「縁見屋」の一人娘のお輪は、母、祖母、曾祖母がみな二十六歳で亡くなったという「悪縁」を知り、自らの行く末を案じる。謎めく修行者・帰燕は、秘術を用いて悪縁を祓えるというが……。縁見屋の歴史と四代にわたる呪縛、そして帰燕の正体。息を呑む真実がすべてを繋ぎ、やがて京全土を巻き込んでいく。

2022年4月に読んだ6作目(7冊目)の本です。
柏木伸介「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)と同時に第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を受賞しています。

解説で宇田川拓也が「京都が舞台の人情時代小説に伝奇スペクタクルを融合させた本作」と書いていますが、ミステリーというよりは伝奇時代小説と言った方がふさわしいような作品です。
ただ、たとえば主人公お輪をめぐる「二十六歳で死を迎える」という噂だったり、あるいは、愛宕山から来たという謎の美しい行者「帰燕」の正体であったりと、ミステリ的要素もふんだんにちりばめられています。

京都中を巻き込むような大火事の夢をお輪が見ていることから、クライマックスはこの大火事なのだろうな、と想定できます。
その意味では、人情味あふれる市井のエピソードを積み重ねながらも、じわりじわりと不穏な気配が積み重なってきて、平凡だけれど穏やかな日常が変わってしまうような不安と焦燥を感じながらの読書体験となります。

非常に筆力のある作家でして、人物像が妙に現代風なのは気になるものの、江戸時代の京都を舞台に、盛り沢山な要素を打ち込んで作り上げた一大絵巻です。
時代小説には詳しくないのですが、人情話に隣接する形でこういう一大スペクタクルを展開するのは珍しいのではないでしょうか?
とても楽しく読めました。
続編も書かれているようです。


<蛇足1>
「――嬢(とう)はん、ここにいてはったんやな――」(9ページ)
嬢はんというのは、そのままお嬢さんという意味ですが、京都でも使ったのですね。
こいさん(長女)、いとさん(末娘)同様大阪の言葉だと思っていました。

<蛇足2>
「ここで堀川の流れも二手に分かれ、西へと続く四条川が、三条台村と西院村の間を流れる紙屋川へと注いでいる」(17ページ)
京都にある地名の「西院」に「さい」とフリガナが振ってあります。
現在では「さいいん」と読むようですが(阪急電車の駅名は「さいいん」です)、京都の人たちは「さい」(少し伸ばして「さーい」)と言うと教えられてことがあり、ここのフリガナにニンマリしてしまいました。
ネットで調べてみると、京福電鉄のほうの駅名は「さい」と読むらしいです。

<蛇足3>
「天行者には、『四戒』と言うものがある」
「一つ目は『偽戒』や。嘘をつき、人を惑わすことや。二つ目は『俗戒』言うて、俗世と関わること、三つ目は女人を愛しみ、交わる『女戒』や」
「ただ四つ目に『過戒』と言うのがある。先の三つの戒律のどれかが過ぎれば、罰を受けねばならんのや」(311ページ)
メモ代わりに、写しておきます。




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県警外事課 クルス機関 [日本の作家 か行]



<カバー裏あらすじ>
“歩く一人諜報組織” = “クルス機関” の異名をとる神奈川県警外事課の来栖惟臣は、日本に潜入している北朝鮮の工作員が大規模テロを企てているという情報を得る。一方そのころ、北の関係者と目される者たちが口封じに次々と暗殺されていた。暗殺者の名は、呉宗秀。日本社会に溶け込み、冷酷に殺戮を重ねる宗秀であったが、彼のもとに謎の女子高生が現れてから、歯車が狂い始める――。


2022年4月に読んだ5作目(6冊目)の本です。

志駕晃「スマホを落としただけなのに」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
桐山徹也「愚者のスプーンは曲がる」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
綾見洋介「小さいそれがいるところ 根室本線・狩勝の事件録」 (宝島社文庫)
と第15回 『このミステリーがすごい!』大賞に応募された作品から選ばれた2017「このミス大賞」隠し玉を読んできましたが、この柏木伸介「県警外事課 クルス機関」 (宝島社文庫)は第15回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞。
三好昌子「縁見屋の娘」 (宝島社文庫)と2作が優秀賞でした。
ちなみに大賞は岩木一麻「がん消滅の罠 完全寛解の謎」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)。

この小説のポイントを帯が端的に表しています。
いわく
“一人諜報組織・クルス” VS. “北”の暗殺者
違法捜査もいとわない公安警察・来栖惟臣(くるすこれおみ)と、
祖国に忠誠を誓う冷酷な殺人鬼・呉宗秀(オ・ジョンス)。
大規模テロをめぐり、二つの“正義”が横浜の街で激突する!

勝手な公安のイメージとして、対する相手が強大なものであることが多いだけにより一層組織的な対応が必要なのではないかと考えてしまうので、一人なのに ”機関” とはなぁと思わないでもないですが、物語としてこういう主役設定は定番ともいえるのでこれでよいのでしょう。
全国都道府県警に所属する公安捜査員の中から選び抜かれた者だけが受講を許される《警察大学校警備専科教養講習》講習済の作業員でエース級(37ページ)ということになっています。

おもしろいのは
「今の東アジアは、一種の冷戦状態にあると言っていい。《東アジア冷戦》だな。そいつは言ってみれば世襲権力者同士のいがみ合いだ。奴等はそうやって非難し合うことで、互いの権力基盤を支え合っている。日本の政治家が靖國参拝をする。中韓が、それに反発。日本の政治家が、またそれに反論。そうやってやり合えばやり合うほど、国内での支持率が上がっていくって寸法だ」(282ページ)
と日本を含めた世襲国家の対立を捉えているところでしょう。
もっとも
「だが、所詮は口だけだ。今どき日本が侵略したり、中国が韓国が日本を占領したりすると思うか? そんな真似したら、世界中から袋叩きだ。その程度の知恵なら、世襲のバカ殿にもある。だが、そのバランスが崩れたら? ある国で、世襲権力者の足元が危うくなってきたとしたら?」(283ページ)
あたりの感覚は、ウクライナを受けて変容せざるを得ないかもしれませんけれども。

ストーリーは、二人の視点で進んでいき、北の侵入者が日本の右翼系組織に潜入するくだりとか、少ないながらも来栖が協力者と捜査を進めるところとか、おもしろく読めました。
こういうの好きなんですよね。

ただ、最後のテロのターゲットが明かされて、個人的にはずっこけてしまいました。
これは設定ミスではないでしょうか?
確かに派手で世間の耳目を引くとは思うのですが、このターゲットそのものがちょっと首をかしげたくなるような内容になっているからです。
もっともこの点を置いておくと、非常に緊迫感あるクライマックスになりますし、映像にすると格好いいのではないかと思います。

欠点はあるものの、非常に力のこもった力作だと思いました。
シリーズ化もされているので、読んでみようと思います。





<蛇足1>
「痩せた初老の男だった。背も高くはない。大きなトンボ眼鏡を掛けている。」(83ページ)
ぱっと童謡が思い浮かびましたが、トンボ眼鏡がイメージできませんでした。
ネットによると「ファッショングラスの一種で、大きな丸型のメガネを表す俗語として用いられる。
トンボの目のように大きいことに由来する」らしいです。

<蛇足2>
「有村幸正。パネラー。作家。小説『零式の風神』がベスト・セラー。映画も大ヒット。マスコミへの露出も増加。作品の評価は “歴史の真実を伝える名作”/ “戦争を美化した駄作” と二分。」(356ページ)
これは実在の作家をイメージしたもの、でしょうか?




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トリックスターズ [日本の作家 か行]


トリックスターズ (メディアワークス文庫)

トリックスターズ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2016/01/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
巧妙な “嘘” にきっと騙される!
名門城翠大学で起きたゲームと称する大胆な殺人予告。それが世間を大いに賑わす頃。
新入生のぼくは客員教授の青年、佐杏冴奈(さきょうしいな)と出会う。彼は本物の魔術師だという変わり者。どういうわけか、ぼくは先生に気に入られてしまう。
こうしてにわか探偵と助手は殺人予告ゲームに立ち向かう。事件すらも楽しむ先生の享楽的頭脳は冴え渡り、ぼくは振り回され、事件は二転三転、疾風怒濤の展開へとなだれ込む。
あっと驚く結末は、もう一度読み直したくなること必至。極上エンターテインメント!


読了本落穂ひろい、です。
久住四季のデビュー作です。
「推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ」 (メディアワークス文庫)(感想ページはこちら)の感想を先に書いてしまっていますが、この「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)の方を先に読んでいます。
手元の記録によると、2016年の4月に読んでいます。

引用したあらすじにもある通り、魔術師のいる世界となっています。
事件を振り返る冒頭に
「あの事件はただ、世界を転がし、運命すら弄ぶ、魔術師たち(トリックスターズ)の物語だったのだ、と――」(15ページ)
と書かれていて、タイトルの「トリックスターズ」とは魔術師たちのことを指しています。
舞台となるのは、魔術を研究する魔学部のある城翠大学。
キャンパスがあるのは「東京都を横断するJR中央総武線沿線のちょうど真ん中辺りに位置している」宮古。これ、架空の地名ですよね?
語り手はそこの新入生、天乃原周。

派手な舞台設定と登場人物が整っている一方で、普通の学生たちも多く登場して物語になじみやすくしてくれています。
このあたりのバランスがいいですね。

事件そのものは、真相含めて派手でいいのですが、振り返ってみると、動機と手段が釣り合わない気がしています。
それでも、魔術を前提とした謎解きは堂々としていますし、手がかりのバラまき方も好感度大。
そして最後の最後に繰り広げられる、周と佐杏冴奈のやりとりは、手垢にまみれたようなものではあっても、次々と繰り出される心地よさに浸れます。
これ、いいですよ!

登場する警部の名前が、須津黎人(すどれいと)と暮具総(くれぐそう)というのがお茶目でした。

実はこのあと、シリーズ続刊を読むのがすっかりご無沙汰になっているのですが、とりかかろうと思います。






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出口のない部屋 [日本の作家 か行]


出口のない部屋 (角川文庫)

出口のない部屋 (角川文庫)

  • 作者: 岸田 るり子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
赤いドアの小さな部屋に誘われるように入り込んだ3人の男女。自信あふれる免疫学専門の大学講師・夏木祐子、善良そうな開業医の妻・船出鏡子、そして若く傲慢な売れっ子作家・佐島響。見ず知らずの彼らは、なぜ一緒にこの部屋に閉じ込められたのか?それぞれが語りだした身の上話にちりばめられた謎。そして全ての物語が終わったとき浮かび上がる驚くべき真実――。鮎川哲也賞作家が鮮やかな手法で贈る、傑作ミステリー!


2022年3月に読んだ2作目(3冊目)の本です。
岸田るり子らしい、凝った作品です。
こういう凝った作品は好きなので、いいぞいいぞ、というところなのですが、ちょっと苦しいかな、と。

出版社の社員がホラー作家の家に訪れ原稿を受け取るシーンから幕を開けます。
なにやら因縁がありそうな二人。
「読ませていただいてよろしいですか?」
というセリフを受け、そのあと作中作が展開します。

引用したカバー裏のあらすじは、この作中作をメインにしていますね。
意図せず小さい部屋に閉じ込められた三人の男女、とホラー映画でよくある設定です。
そしてそれぞれの物語が交互に語られます。
それらを繋ぐのが、作中作の外の、(因縁があるらしい)編集者と作家。

非常に凝った意欲的なプロットではあるのですが、これ、破綻していませんでしょうか?
まず、作中作が実名で綴られている、というのが不自然です。
もちろん実在の人物が登場する小説というのもあり、なのですが、この作中作をそういう形で書く必然性が物語として感じられません。
そしてその中身は、編集者と作家の関係性にもかかわるもの、なのですが、この編集者が原稿を取りに行く段取りが偶然なのです。
担当でもないのに編集長に無理を言って取りに行くということなので、それは編集者サイドで作家との関係性をはっきりさせようという意図があったものではあるのですが、その時の原稿がたまたま実名入りの、二人の関係性にかかわる物語だった、というのは、ちょっといただけない。

千街晶之の解説によれば、本書の大前提として、サルトルの「出口なし」という戯曲の影響を受けたもの、ということで、この戯曲を読んでも観てもいないため、大きな読み違い、勘違いをしている可能性がありますが、この不自然さにはがっかりました。

一方で、紡ぎ出される物語は面白かったですね。
イヤミスにはなっていませんが、三者三様の物語は濃密だったと思います。
それを受けての、編集者と作家自身のエピソードも、薄々想像がついたので驚いた、というのとは違いますが、いざ明らかになると衝撃を受けました。
大学の実験室で発見される首だけの死体とか、焼身で死を遂げるシーンとか、むごたらしく美しい感じで、夢に出そうです。
トリックも、奇を衒ったものではないですが、納得感のあるものが使われていて、無理なく伏線が敷かれています。
もうちょっと繋ぎの部分がうまくいっていればなぁ、と残念です。
非常に期待が持てる作家さんなので、また別の作品を読みたいです。


<蛇足>
「牡蠣を白ワインで蒸して、水菜、チシャ、レタス、赤ピーマンの細切りをバルサミコ酢であえた前菜を皿に盛り、バジルを上にちらす。」(170ページ)
あれ? チシャってレタスのことではありませんでしたか?



タグ:岸田るり子
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赤い糸 [日本の作家 か行]


赤い糸 (幻冬舎文庫)

赤い糸 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 吉来 駿作
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大学生の修平は、心を寄せる同級生の美鈴に頼まれ、香港郊外での秘密の儀式に同行、言われるがまま赤い糸を体に巻く。死と契る行為とも知らずに……。帰国後、参加者たちは、切っても切れない赤い糸の幻覚に悩まされる。死から逃れるには自分の体を切断するしかない。ついに修平が、彼女に斧を振り下ろす。赤い糸の伝説が恐怖を生む青春ホラー。


2021年11月に読んだ8冊目の本です。
作者の吉来(きら)駿作は「キタイ」(幻冬舎)(文庫化にあたって「ラスト・セメタリー」 (幻冬舎文庫)と改題)で2005年に第六回ホラーサスペンス対象を受賞してデビューした作家です。
「キタイ」の作風が気に入っていたので気になる作家ではあったのですが、寡作なうえになかなか文庫にならず。
ようやく購入できたのがこの作品です。

ジャンルでいうとホラーです。

どんな難病でも癒してしまう儀式。
ただし、その儀式の参加者はその話を誰にもしてはならない。もしすると死んでしまう。

よくある設定といえばよくある設定なのですが、そこに赤い糸という小道具が加わって、強くイメージがわきます。
そしてこの設定を土台にして、ベースはホラーながら、ミステリらしい伏線やロジックがしっかりと仕込まれています。
軽いタッチで書かれていますが、こういうホラー、いいですね。
(理に落ちない方が純粋にホラーとしては怖くてよいかもしれませんので、ホラーファンの方には受けないかもしれませんね)

軽いタッチといいつつ、ラスト近くである主要登場人物が真情を吐露するのですが(282ページから)、この内容が強烈で、考えさせられました。
ここに焦点を当てると、まったく別の印象をもたらす作品になったことでしょう。
ネタバレになるので、色を変えて、自分への備忘のために以下に引用しておきます。
「健康なくせに、目的もなく、ふらふらと生きてる奴がな、おれは憎くてたまらないんだ。健康な体で生まれてきたのに、お前らは、何もしない。命を無駄にするだけだ。与えられた命の価値に気づかず、それを活かそうとしない。おれに言わせれば、お前らは、ゴミだ。それも、最悪のな。おれは、お前らみたいなゴミを、一人残らず殺したいんだ」「お前、おれを見て幸せを感じたろ?」
「誰も彼もが、おれを見て自分の幸せを嚙み締めやがる。あんな風に生まれなくて良かったと。あんなおかしな歩き方をしないで、自分は幸せだとな。おれに前に立った連中の顔に、見る見るうちに幸せが浮かんでくるのがわかるんだよ。おれを見て、可哀想だとか、がんばってと声をかけてくれるがな。そういう言葉の裏で、お前らは幸せを噛み締める。腹の底でおれを笑って、幸せの甘い香りを楽しむんだ」

現状吉来駿作の作品はあと2作出版されているようですが、文庫化されているのは1冊で時代小説のようですね......


タグ:吉来駿作
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