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くちびるに歌を [日本の作家 な行]

くちびるに歌を (小学館文庫)

くちびるに歌を (小学館文庫)

  • 作者: 中田 永一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2013/12/06
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
長崎県五島列島のある中学校に、産休に入る音楽教師の代理で「自称ニート」の美人ピアニスト柏木はやってきた。ほどなく合唱部の顧問を受け持つことになるが、彼女に魅せられ、男子生徒の入部が殺到。それまで女子部員しかいなかった合唱部は、練習にまじめに打ち込まない男子と女子の対立が激化する。一方で、柏木先生は、Nコン(NHK全国学校音楽コンクール)の課題曲「手紙~拝啓十五の君へ~」にちなみ、十五年後の自分に向けて手紙を書くよう、部員たちに宿題を課した。そこには、誰にもいえない、等身大の秘密が綴られていた。


「百瀬、こっちを向いて。 」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「吉祥寺の朝日奈くん」 (祥伝社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く中田永一名義の第3作。
NHK全国学校音楽コンクールを背景にした、長編小説です。

タイトルは、文中に早い段階で出てきます。
「松山先生の好きな詩の一部分です。たしかドイツ人の」
「【くちびるに歌を持て、勇気を失うな。心に太陽を持て。そうすりゃ、なんだってふっ飛んでしまう!】って、そんな感じの詩があるとです」(28ページ)

この田舎町の(なにしろ離島ですから)中学校を舞台にしていて、語り手をつとめるのは、私、仲村ナズナと、僕、桑原サトルのふたり。

サトルが、長谷川コトミのことを好きになるシーン(P35~38)なんか、いいなぁ、と思っていたら......
あらすじにあるように、「誰にもいえない、等身大の秘密」があるのですが、サトルの秘密、決して等身大ではありませんよね。
271ページから274ページにある、サトルの手紙。
いや、これ、つらいでしょう......

それでも、サトルたちは、ナズナたちは、毎日過ごしていく。
NHK全国学校音楽コンクールへ向けての練習という、物語の核はあるけれど、あくまで普通にすごしていく。
この「普通に」の部分が、とてもいい。
「男子の考えてることは理解不能ばい」(178ページ)なんてセリフもありますが、この、男子、女子という距離感もいい。

コンクールでの合唱シーンが本書のハイライトではあるのですが、それ以上に印象に残るのは、コンクールのあと、会場の外で繰り広げられるエピソードです。それがなにかはエチケットとしてここでは触れませんが、このシーン、とても美しいと思います。
そして、仲村ナズナと桑原サトル、ふたりの語りがつながる......
このあたり、中田永一=乙一の面目躍如といった感があります。さすが。

十五年後のみんなに会ってみたいな、と、そう思って本を閉じました。


<蛇足1>
「ぼっちの求道者(きゅうどうしゃ)である僕は」(113ページ)というフレーズがあります。
求道者。これ、「ぐどうしゃ」と読むのだと思っていたのですが、「ぐどうしゃ」というのは宗教的な意味の際の読み方なのですね。
ぼっちが対象だと「きゅうどうしゃ」なのですね。

<蛇足2>
「あんたたちは、ほんとうに、どうしようもなか。もう、しらん。死ね。そして地獄におちろ。生き返って、もう一回、死ね」(167ページ)
ここを読んで、思わず笑ってしまいました。
関西では、わりと普通にいう表現で、子供たちのいい争いや、ちょっとした喧嘩でよく使われるのですが、五島あたりでもいうのですね、「死ね」って。
「生き返って、もう一回、死ね」はケッサクです。
まあ、他地域の方からしたら、「死ね」だなんて、なんてこというんだと眉をひそめる場面なのでしょうけれども。

<蛇足3>
「合唱に、一生懸命なところとか……」(207ページ)
うわっ、一生懸命がでたっ、と思ったら、一方で、
「影響を受けないように、耳を手でおさえたり、耳元を手のひらでパタパタとやって聞こえないようにしたりする。」(267ページ)
と、長い文章でもきちんと「~たり、~たり」と呼応。




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フェイク・ボーダー 難民調査官 [日本の作家 下村敦史]


フェイク・ボーダー 難民調査官 (光文社文庫)

フェイク・ボーダー 難民調査官 (光文社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/07/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
東京入管の難民調査官・如月玲奈は、後輩の高杉純と共に、日本に難民申請したクルド人・ムスタファの調査を行うことに。聴取中、善良そうな彼の吐く不可解な嘘に玲奈らは困惑する。彼は本当に難民か? 真実を追ううち、玲奈たちはやがて、国境を越えた思いもよらぬ騙し合いの渦に巻き込まれていく――。若き調査官らの活躍をスリリングに描く、大注目のポリティカル・サスペンス! (『難民調査官』改題。)


下村敦史の長編第5作です。

これはまた難しい問題に挑んだな、と思いました。
難民。
さらに、クルド人。

それがとてもなだらかに、読みやすく書かれている点はとても素晴らしいと思いましたし、誠実に書かれているなと感心もしました。
若い難民調査官の、やや行き過ぎた調査も、現実にはあり得ないと思いつつ、むしろ好ましく感じました。行き過ぎてはいても、勢いや気負いだけで突っ走っているわけではない。このあたりのバランス感覚が長所ですね。

難民調査官というのは、馴染みのない職業でしたが、とても興味深く読みました。
主要登場人物である西嶋が
「意外だった。不法外国人摘発組織のようなイメージを持っていたが考えてみれば在留資格の取得や変更に留まらず、空港の入国審査ブースで外国人旅行者と対面する対処の日本人としての顔となったり、信念と誇りを胸に仕事をしている人々なのだ。」(245)ページ
という感想を抱きますが、たしかに、いろんな側面をもった職業のようです。
(余談ですが、この引用した部分に「たり」の単独使用があり、いつもならあげつらうところですが、このケースではそのあとの「信念と誇りを胸に仕事をしている」と並列関係にはないので、これでよいのだと思います)

この作品が出版された2016年から、難民をめぐる世界の情勢はどんどん変化していっており、より一層難しさを増していると思われます。
物語の最後に、変わりつつあるヨーロッパの様子が少しだけ、本当に少しだけ触れられていますが、その傾向は強まっています。
簡単に結論の出せる問題ではなく、また、簡単に結論を出していい問題でもない。
民族自立、民族自決、というのも、一筋縄ではいきません。
最後に難民調査官・如月玲奈がつきとめる真相(?) も、はたして悪と断じてしまってよいものか。
この作品で、明確な方向性を打ち出すわけではありませんが、誠実に取り組んでいかねば、と調査官は思いを新たにします。

ちょっと残念だったのは、ミステリとして意外性を仕掛けた部分が、このテーマに埋没してしまって意外性を感じにくくなってしまっていること、でしょうか。

シリーズ化されているので、次の「サイレント・マイノリティ: 難民調査官」 (光文社文庫)が楽しみです。


<蛇足1>
これは作者の問題ではなく、引用したあらすじ、編集の問題ですが、この作品、ポリティカル・サスペンスでしょうか? 
ポリティカルな題材を扱ってはいますが、ポリティカル・サスペンスというのとは違う手触りです。

<蛇足2>
冒頭近いところで、埼玉の港に入国したという回答を、若い方の難民調査官である高杉がスルーする場面があります。
そんなことありますか!?



タグ:下村敦史
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レッドベルベット・カップケーキが怯えている [海外の作家 ジョアン・フルーク]

レッドベルベット・カップケーキが怯えている (お菓子探偵)

レッドベルベット・カップケーキが怯えている (お菓子探偵)

  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2015/10/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
むしむしした暑さが続く6月。どこよりも熱いレイク・エデンのゴシップ・ホットラインにも驚きのニュースが飛びこんできた。なんと悪女ベヴが、資産家の婚約者として町に戻ってきたのだ!  美しく変身した彼女はノーマンにまだ未練があるようで、気が気じゃないハンナ。そんな折、ベヴたちの超高級コンドミニアムで謎の落下事件が発生する。さらに、ハンナとお手製カップケーキを巻きこむ第二の事件がーー。


この「レッドベルベット・カップケーキが怯えている」 (ヴィレッジブックス)から7月に読んだ本の感想です。
「シナモンロールは追跡する」 (ヴィレッジブックス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く、お菓子探偵シリーズ第16弾。

あらすじにもある、べヴがレイク・エデンにやってきて巻き起こす騒動(?) に加えて、前作「シナモンロールは追跡する」で積み残された、運転手が死んだ事件もちゃんと決着します。
なんですが、ちょっと理解が追いついていない部分があります.......

「クレイトンは薬のボトルを持ち歩かずに、ピルケースに薬を入れていた。ミネアポリス市警は、彼が出かけるまえに仕切りに薬を詰めたと結論づけ、バスルームの薬棚でボトルを見つけた。三十日ぶんの薬がはいるボトルが三本だ」
「あててみましょうか」ハンナはため息をついて言った。「心臓の薬のボトルの中身が二錠足りなかった。あとの二本のボトルはそれぞれ一錠ずつ多かった。それでミネアポリス市警はクレイトンの死を自殺だと断定したのね」
「そのとおり」(53ページ)

ここがわかりません。
三種類の薬はそれぞれ形も色もちがったので、間違うはずがないから、本人がわざと間違えた(故意に違う薬を飲んだ、ほかの薬を故意に飲まなかった)と判断した、ということでしょうか?

この自殺という判断のために保険金が下りず、遺された息子のためにこの判断をひっくり返そう、とするわけですが、290ページからの、この事件の謎解き、これでいいんでしょうか?
今一つ、すっきりしない決着なんですよね。

さておき、この「レッドベルベット・カップケーキが怯えている」では、あらすじにある落下事件に加えて(落下事件では被害者は入院するものの、死にません。)、殺人事件も発生します。
その被害者が、なんとベヴ!
やりましたね、ジョアン・フルーク。こんなかたちで、ハンナ、ノーマンの邪魔者を始末するとは!

ハンナが第一発見者で、容疑者になって取り調べを受ける、という流れは、王道中の王道ですが、わりとあっさり容疑は晴れますし(当たり前!)、今回はいつもよりも、ハンナが推理を働かせているように思いましたが、いつもどおり、するすると謎が解けてしまう段取りは、うまくいっているように思いました。

シリーズ的には、中盤で1つ、ラストで1つ、人間関係に転機が訪れるシーンがあって、次はいよいよハンナの番か!? と期待も膨らむところですが、さて、どうでしょうね?
シリーズはこのあとも快調に翻訳が進んでいます。
「ブラックベリー・パイは潜んでいる」 (ヴィレッジブックス)
「ダブルファッジ・ブラウニーが震えている」 (ヴィレッジブックス)
「ウェディングケーキは待っている」 (ヴィレッジブックス)
「バナナクリーム・パイが覚えていた」 (mirabooks)



<蛇足1>
ハンナが、携帯の新しい充電器を買ってしばらくはちゃんと充電するのに、すぐに充電し忘れるようになってしまうことに対して、マイクがアドバイスします。
「慣れのせいだよ。新しい場所に移動させてごらん。すると気づくようになる。そこでも効果がなくななったら、また移動させるんだ。何かを見るのに慣れると、もうそこになくなるまで、あるのが当然だと思うからね」(333ページ)
これ、どうでしょうかね? むしろ、どこに充電器を置いたのか忘れてしまうんじゃないでしょうか??

<蛇足2>
「わたしといっしょにシャンパンを飲んでくれないってこと?」ハンナの声には明らかに驚きがあった。(115ページ)
これ、視点人物はハンナなのに、ハンナの発言に対して「明らかに驚きがあった」と視点がぶれていますね。

<蛇足3>
「イタチです。オコジョと呼ぶ人もいますね。」(403ページ)
イタチとオコジョ、同じなんでしょうか? あれ??
「イタチですって!」ミシェルが叫んだ。「バーバラが怖がったのも無理はないわ。イタチって醜いもの」
「それにあの巨大な影。あれを見たときはわたしも怖かったわ。」(404ページ)
イタチのイメージが全然違う.....そんなに巨大で、醜い生き物でしたっけ?


原題:Red Velvet Cupcake Murder
著者:Joanne Fluke
刊行:2013年
訳者:上條ひろみ





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The Shipper EP12(最終回) [タイ・ドラマ]

ということで(どういうことで?)、タイのドラマ、「The Shipper」の最終回EP12の感想です。




3日連続で、The Shipper の感想になってしまいました。
日本語字幕はまだ出ていませんが、英語字幕で観ました。

この最終回、ちゃんと話は収まるところに収まりましたね。
望んでいた、完全ハッピーエンドではありませんでしたが、まあ、それは展開からして無理があるし、ここがこの物語ではベストの着地なんでしょうね。

「Khett と Kim の会話、Way と Kim の会話の両方のシーンにダーツのエピソードが出てくることから、ちょっと強引ですが、1つ、ハッピーエンディングへ無理やり持っていく解釈を思いついています。」と昨日書きましたが、当然思いついていた解釈の展開にはなりません。
よかったー、ばかげた解釈を書いてしまっていなくて。Kim も甦ることを願っておりました(笑)。
(とはいえ、Khett と Kim の会話のシーンでのダーツのエピソードがすべて運だったというのは、ちょっと考えにくいんですけれども......)
あっ、一昨日の感想で気にしていた、Kim の真実? については、追加の解釈とか説明はなかったですね......

さておき、タイドラマの常として、最終話の展開がとても窮屈ですが、EP11の終わりのほうで始まった、Way と Kim (中身は Pam)の会話の続きから、EP12はスタートします。

ここで、Kim (中身は Pam)は、中身が Pam であって、もう Kim は死んでしまったことを Way に告げます。同時に、Kim が生きていたときに考えていたことも、Kim の部屋で見つけたチケット を通して判明します。
Kim が生きていたときに考えていたことって、すごくいいなあ、と思いました。この Kim の考えには深く共感できました。Kim は本当に Way のことが好きだったんですね。(Way のチケットをどうして Kim が用意していたのか、少々疑問ですがーーかなり高いチケットでしょうし、Way 本人なり家族なりが買うのが普通ですよねーーそうでもしないと Way が受け入れないと Kim が考えた、ということなんでしょうね......)

そして、Pam は自分の身体に戻ろうとするのですが、ここで最後の試練が待っている。
死の天使が再登場し(久しぶりに出現の口上(?) を最後まで言わせてもらうのが笑えます。同時に、それを見ている Kim の表情がとてもいいです)、Kim の最後の「えっ!?」が出ます。ちょっとショートバージョンですが、最後のファンサービス?でしょうね。
自分の身体に戻る方法が、True Love Kiss。
本当の愛に満ちたキス、とでも訳すのでしょうか?
そのキスの相手、自明なんですが、Pam がすぐには気づかない、というのが、もう王道すぎて。その相手を、Way にほのめかされて、ようやく気づく(最後まで見ると、ひょっとしてこの段階で気づいてなかったのかいっ、と思えたりもしますが)。

キスの前に危機が訪れるのですが、それがどう解消されたかは、正直よくわかりません。
教会での Way のシーンで、示唆されていますが、それが正解なんでしょうか? 
EP1 の、Kim が Pam をバイクに乗っけるシーンを思い返すと、それもあり得るな、と思えます。

で、いよいよ、真打 Khett 登場

[Eng Sub] The Shipper จิ้นนายกลายเป็นฉัน _ EP.12 [3_4] _ ตอนจบ_Moment.jpg

ここがクライマックスシーンですね、このドラマの。
(このシーン、いろんなアングルで撮られていて、結構長いです笑。そのなかではかなり遠景になっているものを選びました)

このキスシーンの直前に、Kim (中身は Pam)のいうセリフ、
It is now.
タイ語ではどういうニュアンスで言っているのか、また、日本語字幕ではどう訳されるのか、気になります。

このあと、Kim のお葬式? のシーンを経て、これまたタイドラマでよくあるパターンで、登場人物たちの今(?) が、さっと綴られます。
最後の最後で、タイBLならではの?スペシャル・ゲスト(カップル?)が出てきますね。笑ってしまいました。こんなところにも出てくるのか、君たち。


この作品、ボーイズラブとしては、かなりの変化球だったのでは、と思いますが、ボーイズラブであろうと、なかろうと、とても楽しく観終わることができました。


<追記>
9月に入ってから、
「The Shipper 追加の感想」(リンクはこちら
を書いています。




タグ:The Shipper
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The Shipper EP10~EP11 [タイ・ドラマ]

今日は、タイのドラマ、「The Shipper」のEP10~EP11の感想です。



昨日EP9までの感想を書きましたが、日本時間の今日7日遅くに、タイで最終話EP12が放送されるので、待ちきれずに、すぐにEP11まで観てしまいました。


うーん、今回観た EP11 で、話が急展開しすぎです!!
まあ、EP12 が最終回なので、一気に、ということかもしれませんが......
EP12 で、ちゃんと話は収まるところに収まるんだろうか...... 不安だ......

EP10 で、Way と、Khett が話をして、Kim と Way の過去の結びつきの新たなエピソードが明かされて、Khett と Kim の過去のエピソードも明かされて、いい感じで EP11 に行くな、と思っていたら、なんですか、このEP11は!!!

さすがに、EP11は、ネタバレなしでは書けない...... なので、気になる方はこの後は読まないで、直接 YouTube へ。


EP10 の終わりで、Pam の身体が危篤状態になります。
そして EP11 で明かされるのは、Kim (の意識)はもう死んでしまっているということ。
死の天使の力をもってしても、どうしようもない、と。
Pam は、自分の身体に戻るか、このまま Kim の身体で生きていくか、を選ばなければならない。

えっと、こんな究極の選択を、いままでコメディタッチで来ていたドラマでさせるのか......

Pam 側の事情、Kim 側の事情、両方をもういちど Pam は確認し、決断を下す
死の天使が指をパチンと鳴らすシーンは、泣けますね。
そのあとの、Khett と Kim の会話が、またよくて、そして Way と Kim の会話へ続く。
Way と Kim の会話では、ついに Pam は Pam として Way と会話するんです。
そして EP12 へと続くわけですが、本当にEP12 で、ちゃんと話は収まるところに収まるんだろうか......  ハッピーエンディングにしてくれるのだろうか?

してしまった選択だし、取り返しがつかない気もするんですが、Khett と Kim の会話、Way と Kim の会話の両方のシーンにダーツのエピソードが出てくることから、ちょっと強引ですが、1つ、ハッピーエンディングへ無理やり持っていく解釈を思いついています。
死の天使が言ったことと矛盾するのですが、死の天使も完璧ではないので(なにしろ、Pam を Kim の身体に入れてしまったくらいですから)、ま、大丈夫でしょう(笑)。
そうだといいなぁ。もちろん、そうでなくてもハッピーエンディングになるならいいんですけど。

あと決断後、Kim の部屋で見つけたチケット(だと思います)がキーになることは間違いなさそうで、それも気になりますね。

さて、このあと、どうなるでしょうか??

タグ:The Shipper
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The Shipper EP1 ~ EP9 [タイ・ドラマ]

今日は、タイのドラマ、「The Shipper」のEP9までの感想です。



2gether」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)を観終わってから、既に感想を書いた
Love by chance / ラブ・バイ・チャンス」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
SOTUS 」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
を含めてあれこれタイのボーイズラブ・ドラマを観たのですが、現在進行中の番組は、全エピソードが終わってからまとめて観ようと思っていたのです。

この「The Shipper」は、「2gether」の後番組で、TV局は、GMM 25。
現在放映中でEP11まで放送済みで、残すところ最後のEP12のみとなっています。
なのに、つい観始めたら、これまた嵌ってしまいまして......我ながら、なんだかなぁ。
YouTube で観ていますが、英語字幕は即日、日本語字幕も少し待てばつきますので、観るのは簡単ですね。

これ、ジャンルでいうとボーイズラブ・ドラマ、ということになっていると思われるんですが、確かにボーイズラブの要素はあるけれど、ちょっと違う感じがしています。

タイトルにもなっている、Shipper というのは、英語の辞書を引くと荷主とかしか出てきませんが、スラングで、人と人をくっつけたがる人、(想像の中で)くっつけて喜んでいる人のことを指します。
特に、ボーイズラブが好きで、男を男をくっつけて楽しんでいる人、という意味合いでこのドラマでは使われています。

QX0k5f.jpg

画面中央右の女性とその上の眼鏡の女性二人が Shipper ですね。
画面中央右の女性は、Pan。Shipper 女子高生。演じているのは Sureeyaret Yakaret(愛称が Prigkhing)。
その上が、Soda。Pan のShipper 仲間です。演じているのは Ploy Kanyarat Ruangrung。

Pan と Soda の Ship 対象が、画面中央左 Kim と彼にキスしている画面左側 Way。
Kim 演じるのは、Kanaphan Puitrakul、愛称が First。
後でも書きますが、演技力に魅せられます。すごい、です。
Way 演じるのは、Pusit Ditaphisit、愛称が Fluke。
この人、悪くないと思うのですが、役柄設定的に、もうちょっと野性味のある顔の人、ワイルドな感じの人を選んだ方がよかったんじゃないかなあ、と思います。Fluke だと、ちょっと顔が甘すぎる気がします。
ところで、ポスターではキスしちゃってますが、ドラマの最初の方ではこの二人、別にボーイズラブの関係にあるわけではありません。
親密だし、相互に信頼しあっているのはよくわかるのですが、お互いよき理解者、よき親友、といったところだったのではないでしょうか。
もっとも、EP1の Win の退学処分をめぐるエピソードは、Kim かっこいい、と思うと同時に、ここまでやるか、と思ってニヤリとしましたが。

ついでに残りの人たちも紹介しておくと、Pan の横にいるのが、Khett。Pan と Soda のクラスメイトで、実は......というのがあるのですが、伏せておいた方がよいのでしょうか? 
EP2 というかなり早い段階で明かされてしまっているし、主要人物なので書いてしまうと、Kim の弟です。
演じているのは、Pawat Chittsawangdee、愛称 Ohm。この役者さん、いろんな作品に出ていまして、もうすっかりお馴染みで(笑)、結構気に入っています。いつかほかの作品の感想も書きますね。
上段左側の女性が、Phingphing。Way の彼女です。演じているのは Benyapa Jeenprasom、愛称 View。険のある整った顔で、役柄にピッタリ。嫌な役なのに、よくぞ引き受けたな。偉い。
上段中央は、なんと死の天使。演じているのは、Jennie Panhan。迫力あるし、それでいて、コミカルでもあるし。印象に残る女優さんですね。

あらすじ代わりに、予告編を。



冒頭、喧嘩シーンから始まるのですが、Pan と Soda の妄想炸裂で、ばかばかしくて、とてもよい。
ああ Shipper ががんばって、Kim と Way をくっつけるんだなぁ、と思っていると、EP1 の最後で驚きの展開になります。
Pan と Kim が事故で死んじゃうんですよね。
元の世界に戻れるとなったのに、死の天使の手違い発生。なんと、Pan の意識が Kim の身体に。Pan の身体は昏睡状態のまま......

入れ替わりドラマ、なのですが、片方の意識は戻らないまま、というパターン。
で、Kim になった Pam は、これで積極的に、Kim と Way をくっつけることができる!という次第です。

ところが、そうは問屋が卸さない......
入れ替わったことは、誰にも気づかれてはいけないし、いろいろと、思いもかけなかった事実が明らかになってくる......
男女が入れ替わると、いろいろと難しいことが多くなって、簡単にはいかないのですが(かなりの下ネタも披露されます。)、死の天使が、罪滅ぼしに?助けてくれる、というのが面白いポイントですね。

この流れだけでも、ボーイズラブというには、かなりの変化球のような気がします。
なにしろ、女性視点ですし。(見た目は男の Kim でも、中身は Pam ですから)

そんな中、だんだんと入れ替わりの事実がばれそうになってくる。
特に、Khett は、Kim の弟で一緒に住んでいるので、要注意。勘もするどいし。
コメディタッチで進むので、一緒にハラハラできます。

Khett が実は Pam のことが好きだった、とか(これもある意味ネタバレですけど、割と早くに匂わされていますし、上のポスター? で明らかだから明かしてもいいんですよね)、Pam の精神が入っている Kim のことを Soda が好きになってしまう、とかいい感じです。

一方で、割と重い題材もさらっと扱っていまして(Pam と義父の仲とか、Khett と Kim の仲とか)、安直といえば安直なのかもしれませんが、笑いの中に、折々ジーンとくるシーンが混じる、緩急が楽しいです。

この作品、すごいなぁ、と思うのは、やはり主演のKim(を演じる First)。
Kim は見た目は男ですが、宿っている精神は女性(Pam)なんですよね。
素のKim(というのか、入れ替わる前の Kim)のときと、Pam が移ってからの Kim のときで、しぐさも声のトーンも違うんですよ。Kim と Way のエピソードの回想シーンも結構あるので、見比べてみてください。
えーーっ、と叫ぶシーンは笑ってしまいますが。
Pam が移ってからの Kim のシーンでは、細かい所作がちゃんと女性に見える! 見た目は男ですけど。
かなり演技指導が細かくされているのでしょうね。大変だったのでは。

ストーリーも飛んだり跳ねたりしまして、飽きさせません。
ネタバレになるので、観ていない方は、以下は飛ばしていただいた方がよいですが、

EP6 の終わりに、Soda に入れ替わりのことを告げて、同時に、Khett にもその会話を聞かれてしまって、
EP7の終わりに、Pam が自分の身体に戻ることができて、なのに
EP9で、もとの Kim の身体に戻ってしまう。
さらにEP9 では、ついに(?) Way が Kim に告白する。あっ、ちゃんとボーイズラブになっているな。
そして、見た目は Kim だけど 中身は Pam だということで、Kim が好きだと思っている Way と、Pam が Kim の中にいることを知っていて Pam のことが好きな Khett が火花を散らす......
いったい、これからどうなってしまうのでしょうか!?

いつもの癖で、気になった点にも触れておきますと、
Pam があれこれと Kim のことを知ろうと探っていくのはOKで、いろいろと証拠(?) によって知っていくのはよいのですが、証拠からは推察できそうもない回想シーンが入るのは、ちょっと疑問ですね。
たとえば、EP5のシーン(YouTubeにリンクを貼っています)。Kim の行動、ここまでわかることはあり得ないですよね......
視聴者にわかりやすいようにしてある、ということだとは思うのですが。
まあ、ミステリというわけではないし、アンフェアという非難は意味がないですけど。

もうひとつ、明かされていく Kim の真実。
これも個人的には、なし、だなぁ、と。これは、よくないんじゃないでしょうか......
一応、物語的には解釈がなされてはいるのですが、その解釈をもってしても、ちょっと受け入れがたい。共感できない...... 視点人物が Kim ではなく、Pam だからまだましですけれども。
(もっとも、まだ物語は途中なので、この後、いまの解釈を覆すような、ステキな解釈が待っているかもしれませんが、なんとなくそうはならない気がしてなりません......)

でもまあ、こういうことが気になるくらい、入り込んで観てしまったということですね。
と、結局未だ完結しておらず途中なのに観てしまって、すっかり嵌っております。
残りを観るのが楽しみです。
(すぐ観ちゃうと思います......)


タグ:The Shipper
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夏の祈りは [日本の作家 さ行]


夏の祈りは (新潮文庫)

夏の祈りは (新潮文庫)

  • 作者: しのぶ, 須賀
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
文武両道の県立北園高校にとって、甲子園への道は遠かった。格下の相手に負けた主将香山が立ち尽くした昭和最後の夏。その十年後は、エース葛巻と豪腕宝迫を擁して戦 った。女子マネの仕事ぶりが光った年もあった。そして今年、期待されていないハズレ世代がグラウンドに立つ。果たして長年の悲願は叶うのか。先輩から後輩へ託されてきた夢と、それぞれの夏を鮮やかに切り取る青春小説の傑作。


「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」一位、と帯に書かれています。
ミステリではありません。
高校野球を題材にしたスポーツ小説、青春小説です。

第一話 敗れた君に届いたもの
第二話 二人のエース
第三話 マネージャー
第四話 はずれ
第五話 悲願

の五話収録の短編集--ではありますが、同時に、県立北園高校の野球部の変遷?を描いた連作になっています。
第一話、最初の一文が
「悲願である、と言われ続けた。」
であり、第五話のタイトルが、そのものずばり「悲願」ですから。
その悲願とは、甲子園に行くこと。

第一話の段階で、その30年前(昭和33年=1958年)の埼玉大会準優勝が最高成績で、あと一歩だった、と記されています。
つまり、第一話は、昭和63年=1988年。
最終話の設定が平成29年=2017年。
十年ごとの周年大会に照準を合わせつつ、30年にわたる北園高校野球部の歴史、思い?が描かれています。(昭和33年からカウントすると60年!)

さて、最後に甲子園に行けたのかどうか、はさすがにエチケットとしてここでは明かしません(ミステリではなくても、この種のネタバレは禁止だと思いますので)。

しかし、高校三年間という時間に限りのある高校野球という世界は、観ていても楽しいものですが、ドラマに満ち溢れているのですね。
この「夏の祈りは」は、当然ながら、野球の試合のシーンが面白いです。ゲームの進展も十分ワクワクできるのですが、それをめぐる登場人物たちの方に焦点が当たっているところもGOODです。
これがとても面白いんですよね。
と同時に、試合以外のシーンも充実しています。
第三話が、マネージャーの話であることでも、そのことはわかると思います。(ちなみに第三話は、逢坂剛が朝日新聞の文芸時評でお薦めしていることが、帯に引用されています)

ミステリ以外の小説はほとんど読まないので、この「夏の祈りは」の出来栄えが、スポーツ小説として、あるいは青春小説としてどうか、というのは正直自信がありませんが、少なくともとても面白く読みましたし、人にお薦めしたくなりました。実際、友人に薦めました。
軽い小説ではありますが、読めてよかったな、と思いました。


と、これで終わってもよいのですが、あえて気になる点に触れておきます。

第一話で対戦相手である溝口高校のすごさが、キャプテン香山始を通して語られます。
結果的に北園高校は、溝口高校に敗れてベスト4。
このとき、香山が抱く感慨
「やりきったから後悔はない? そんなはずがあるか。全身全霊でやったからこそ、苦しいのだ。」(56ページ)
がとても印象に残っています。

話がそれました、第一話では明かされませんが、後に第三話で、溝口高校は「逆転の溝口」と称えられ、甲子園に進出し、溝口旋風と呼ばれ甲子園ベスト4になったことが明かされます。
「常に笑顔で楽しんでプレーをする彼らの姿勢は、文字通り爽やかな風となって全国を駆け抜けた。」(139ページ)

第四話、第五話は続いていて(同じチームを扱っていて)、ハズレと呼ばれた世代が最高学年となる周年大会を描くのですが、そのとき、監督が香山始。
このハズレ率いるチームが、著しい成長を遂げる、という展開で、地方大会を勝ち進んでいくのですが、その際のチームの有り様が、往年の溝口高校のよう、なんですね。

これを、連作長編の構成の妙、と捉えるのか、あるいは、安直だ、と捉えるのか。

また、この作品は、高校野球賛歌でもあると思うのですが、この構成をとったことで、意図したことなのか意図していないことかわかりませんが、ある種のメッセージ(高校野球のあるべき姿?)を送る形になってしまっており、それを是ととるか非ととるか。

個人的には、この構成、この結構は大賛成ではありますが、ここが気になったポイントです。

爽やかな野球小説、青春小説として、お勧めです!







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黄緑のネームプレート: 杉原爽香〈46歳の秋〉 [日本の作家 赤川次郎]

黄緑のネームプレート: 杉原爽香〈46歳の秋〉 (光文社文庫)

黄緑のネームプレート: 杉原爽香〈46歳の秋〉 (光文社文庫)

  • 作者: 次郎, 赤川
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
家族旅行先で、入水自殺を図ろうとした〈AYA〉を助けた爽香と明男。その背景には〈官邸御用達〉と名高い大物作家・郡山の影が……。人気アナウンサーの降板、でっち上げられた不倫疑惑、現総理に反発する人々への圧力――すべてに郡山が関わっていると睨んだ爽香は、次第に事件の真相へ迫っていく! 登場人物が読者と共に年齢を重ねる大人気シリーズ!


帯に「今度の爽香は政治と権力に立ち向かう!」とありまして、まあそれはそれで結構なのですが、個人的には爽香の嫌な面が前面に出た作品だったなぁ、と思いました。
もっとも爽香の嫌な面、というのは、一般的にはいい面としてとらえられる気もしますが......
もうずいぶん前「菫色のハンドバッグ: 杉原爽香、三十八歳の冬」 (光文社文庫)感想に書いたことを繰り返してしまいますが、
「いい人だし、頼りになりますが、なんでもかんでも自分ひとりで背負い込んで、自分でやらないと気がすまない。こういう人が実際に近くにいたとしたらどうでしょうか? いい意味での「遊び」がなさすぎて、息が詰まりそうです。近頃では、わりと独善的に見える行動も目につきますし、長いファンとしては複雑なところです。」

象徴的なのが、<T芸能社五十周年>パーティで、今回のもっぱらの敵である〈官邸御用達〉と名高い作家・郡山に対して物申す場面でしょうか。(250ページ)
郡山の振る舞いも目に余るものではありますが、その対象である栗崎英子が相手にせず受け流そうとしているにもかかわらず、爽香はあえて口をはさみ、郡山をやりこめようとする。
正義を押し通しやりこめたので快哉を叫ぶべきところなのかもしれませんが、個人的にはむしろ、その強引さにうんざりしてしまいました。若い人のやることなら「言ってやった」ですむかもしれませんが、46歳にもなって職場でリーダーも務める人のすることとは到底思えません。
栗崎英子の登場するシーンはいつも楽しみなのに、今回はみそがついてしまいました。

郡山とその妻の造型も、あまりにも俗物のステレオタイプで、興ざめです。

ちょっと爽香の性格を中心に、物語が硬直的になってしまっているような気がします。
それへの対策も含めて、「肌色のポートレート: 杉原爽香〈41歳の秋〉」 (光文社文庫)感想に書いたことを繰り返しておきます。

「いつも厄介ごとに巻き込まれる爽香ですが、たまには、そう、これだけシリーズも巻を重ねてきたのですから1冊くらいは、爽香の子供世代(甥とか姪とかでも当然OK)の活躍を取り込む、明るいトーンのストーリーにしてあげてくださいね、赤川さん。
それじゃあ、物語になりにくい? でも赤川次郎の腕なら、十分読める話になると信じています。」









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