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賛美せよ、と成功は言った [日本の作家 石持浅海]


賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
十五年ぶりに再会した武田小春と碓氷優佳は、予備校時代の仲間が催す同窓会に参加した。ロボット開発事業で名誉ある賞を受賞した同期・湯村勝治を祝うためだった。和やかに進む宴の最中、出席者の一人、神山裕樹が突如ワインボトルで恩師の真鍋宏典を殴り殺してしまう。優佳は神山の蛮行に“ある人物”の意志を感じ取る。小春の前で、優佳と“黒幕”の緊迫の攻防が始まった――。


ここから、3月に読んだ本の感想とです。
ちんたらブログを更新していてすみません。

「扉は閉ざされたまま」 (祥伝社文庫)
「君の望む死に方」 (祥伝社文庫)
「彼女が追ってくる」 (祥伝社文庫)(感想ページはこちら
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 (祥伝社文庫)(感想ページはこちら
に続く、シリーズ第5弾で、前作「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 の15年後という設定。

「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 のラストは非常に印象的でしたが、そこで「優佳。じゃあね」というせりふで優佳と別れを告げた上杉小春(この「賛美せよ、と成功は言った」 (祥伝社文庫)では結婚していて武田小春と姓が変わっています)が、優佳と再会します。

碓井優佳が出席する同窓会というだけで不穏なものを感じるのはシリーズ読者の悪い癖ですが(笑)、想定通り事件は起きます。

視点人物というのは結構盲点になるのですが(だからこそ、そこを突いたミステリの名作が書かれているのですが)、武田小春という語り手も、なかなかのくせ者です。
「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 では、優佳を描くための語り手だと思っていて、そのため優佳の陰に隠れる格好だったと思うのですが、この「賛美せよ、と成功は言った」 で本領発揮ですね。
優佳を見抜くあたり、武田小春がただものではないことはわかっていたはずなのですが......

小春が優佳をどう捉えていたかは、ある意味「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 のネタバレになるので控えますが、37ページで簡潔にまとめられています。
ただ、15年経ったからか
「けれど、大人になった今ならわかる。人間は、大なり小なり優佳のような行動をとってしまうものだのだと。」(37ページ)
と語られています。

なので本書は犯人(と一応呼んでおきます)と優佳の対決というのに加えて、小春がそこにどう絡んでいくのか、というのところも読みどころです。
特に後半、狙いを定めて攻防が始まると、ほぼ会話のみという展開がむしろスリリング。
とても楽しめましたね。
今回もエンディングは衝撃的です。

わかりにくいタイトルの意味はラストで優佳によって明かされます。

最後に優佳の結婚相手が明かされて、優佳が小春をうちに招待します。
まさかそこで事件は起きないですよね!?
シリーズ続刊を強く、強く希望します。



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三世代探偵団 生命の旗がはためくとき [日本の作家 赤川次郎]


三世代探偵団 生命の旗がはためくとき

三世代探偵団 生命の旗がはためくとき

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: 単行本

<帯あらすじ>
「また殺人?」
「仕方ないよ。うちはそういう家なんだもの」
天才画家の祖母、マイペースな主婦の母と暮らす女子高生・天本有里。有里の同級生が殺人事件に遭遇したことをきっかけに、三世代は裏社会の抗争に巻き込まれていく。二つの裏組織が対立するなか、ボスの子供同士が恋に落ちて武力闘争の危機が訪れる。闘争阻止のカギを握るのは三世代!?コーヒー香る天本家の居間で、作戦会議が開かれる―。


単行本です。
「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(感想ページはこちら
「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾です。
「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」が出たのが2020年1月で、この「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」が2020年7月ですから、かなりハイペースで書かれていることになります。
このシリーズを書くの、楽しいのでしょうね、きっと。
もう、このシリーズならではの意義とか特長とかは考えずに、物語を楽しむことにします(笑)。

「好きで係わってるわけじゃないよ。事件の方から寄って来るんだもん」
「ミステリー小説の探偵みたいなこと言わないで」(45ページ)
と母娘で会話を交わしていますが、まあ、見事に飛び込んでいくこと(笑)。赤川次郎らしいですね。
今回は、裏社会の抗争に巻き込まれるという......

赤川次郎の作品は、ユーモアミステリとしてくくられることが多いですが、意外と後味の悪い作品も多いんですよね。
この「三世代探偵団 生命の旗がはためくとき」も、その例の一つといえるのではないでしょうか?
その後味の悪さを救いというか、緩和するのが、シリーズキャラクターたち、ということになるのでしょう。

ところで、「三世代探偵団 枯れた花のワルツ」に出てきた加賀和人はどうしたんだ!?
有里の恋人役じゃなかったのですか? 彼の活躍に期待していたのですが。


<蛇足>
「女ばかりの三世代家族。互いの自由は尊重しながら、隠しごとはしない、という方針である。
 人生経験豊富な祖母、幸代が、やはり適確な判断を下す場合が多いというのも事実なのだ。」(45ページ)
小中学校の国語の授業みたいな指摘で恐縮ですが、やはり的確と書いてもらいたいです。
特に赤川次郎は小中学生の読者も多いと想定されますから。





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私の命はあなたの命より軽い [日本の作家 近藤史恵]


私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

私の命はあなたの命より軽い (講談社文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/06/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
東京で初めての出産を間近に控えた遼子。だが突如、夫が海外に赴任することになったため、実家のある大阪で里帰り出産をすることに。帰ってみると、どこかおかしい。仲が良かったはずなのに誰も目を合わせようとしないし、初孫なのに、両親も妹も歓迎してくれていないような……。私の家族に何があったのか?


出産を控え、実家へ帰ろうとした主人公が、実家の様子に違和感を覚える、という物語です。
ミステリの読みすぎですね。
「私の家族に何があったのか?」の部分、相当早い段階で見当がついてしまいました。
それでも、この作品は、とてもサスペンスフルに感じました。
すごい。

あとがきで作者は
『この本が出たばかりのとき、何人かの男性にこんな感想を言われた。
「いやあ、女の人ってこわいですね」
 あれれ? と思った。わたしはそんな話を書いたっけ。』
と書いていますが、ぼくもここを読んで、あれれ? と思いました。
女の人がこわい、というストーリーではないから、です。

確かにこの「私の命はあなたの命より軽い」 (講談社文庫)は恐ろしい物語です。
でも、それは女の人の怖さを描いた物語なのではなく、常識とか思い込みとか体面とか、さまざまなことが絡み合った怖さです。
主人公の父や母の気持ちや行動も、はたして責めて良いものかどうか。
タイトルにもある通り、命の重さが、迫ってきます。

そんななか、ラストの怖さは、ちょっと質が違いますね。
このラスト、それまでの物語のトーンと違った手触りになっていて、ぎょっとします。







<蛇足>
さらっとインターネットバンキングで送金したというエピソードが書かれている(214ページ)のですが、高校生って、銀行口座、持っていますか?
持っていてもおかしくはないかもしれませんが、未成年ですので持っていない方が自然ではないかと思います......??




タグ:近藤史恵
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泥棒は世界を救う [日本の作家 赤川次郎]


泥棒は世界を救う (トクマノベルズ)

泥棒は世界を救う (トクマノベルズ)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: 新書

<カバー袖あらすじ>
「孫を助けてくれ!」泥棒の下見をしていた今野淳一のもとに、突然老人が現れた。その老人とは、かつての同業者・草野広吉だった。高校生の孫娘が来日中のN国大統領を狙撃した犯人として捕まってしまったのだという。妻であり刑事の真弓に確かめてもらうと、祖父が元泥棒で前科持ちということで、警察は充分な捜査をせず孫娘を逮捕したらしい。調べ始めた淳一と真弓は、裏社会に渦巻く黒い思惑に気付いて――!? 人気シリーズ「夫は泥棒、妻は刑事」最新刊は、政治・マスコミの悪を炙り出す!


突然私事ですが、今般日本へ帰れ、ということで、日本に帰ってきております。
ロンドンはほぼ3年、でした。
現在、コロナ対策ということで、政府指定の宿泊施設で絶賛隔離中です。
順調にいけば3日間で出られるので、そうなったらこの関連の記事も書いてみようと思います。
では、いつも通り。

「夫は泥棒、妻は刑事」シリーズ最新刊で、第22弾。
引用したあらすじにもあるのですが、「充分な捜査をせず孫娘を逮捕」にすっかり興ざめです。
赤川次郎に警察捜査の正確さを求める人はいないと思いますが、この小説の警察捜査のひどさは桁外れで、いくらなんでもなー、と思ってしまいます。
銃を使った事件で、硝煙反応も調べていないなんて、ありうると思いますか? しかもこの場合の容疑者は女子高生で、外国の大統領を撃つ動機などかけらもなさそうなのに。

正義のため仕方ない、ということかも、というのもあり得ますが、真弓もホテルの監視カメラの映像を、自分のパソコンに送ってしまいます。
この後の展開も、まあ、次から次へと......

「政治・マスコミの悪を炙り出す」ことに夢中になるあまり?、常識的な物事があまりにもおろそかになっているように思います。
N国のマドラス大統領という人物がおもしろい設定になっているのが、物語の救いですが......

それにしても淳一は泥棒でしょうに、泥棒業界?のみならず、”裏社会” にすごく顔がきくんですね。




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ナイルに死す [海外の作家 アガサ・クリスティー]


ナイルに死す〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 15)

ナイルに死す〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 15)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/09/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
美貌の資産家リネットと新婚の夫のエジプト旅行には暗雲が垂れ込めていた。夫の元婚約者が銃を手につけ回してくるのだ。不穏な空気のなか、ナイル川をさかのぼる豪華客船上でついに悲劇が起きる。しかし、死体となって発見されたのは意外な人物だった……ポアロが暴く衝撃の真相とは? 著者の代表作が新訳で登場。


去年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年。それを記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行、
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「メソポタミヤの殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「ポケットにライ麦を〔新訳版〕」(クリスティー文庫)(感想ページはこちら
に続く第5弾です。

この作品は旧訳版ではなくたしか新潮文庫版で昔読んでいます。
「ナイル殺人事件」として映画化もされた超有名作で、ケネス・ブラナーによって昨年(2020年)再映画化もされていますね。
ナイル河畔というエキゾチックな舞台、クルーズ船という豪華な舞台と、映画化にはうってつけ。
ミステリとしても、いかにもトリックらしいトリックは仕掛けられていないにもかかわらず、圧倒的に印象的な犯人像がすばらしい(この犯人像こそがトリックだということかもしれませんが)。

初読時は、小学生だったと思うのですが、あまりの衝撃にまわりの人に必死で「ナイルに死す」(クリスティー文庫)のすごさを喧伝しようとしたのですが、このすごさは、かいつまんでは伝わりません。登場人物をいきいきと描くクリスティーの筆があってこそ。
むしろネタバレになって、周りの迷惑だったと思います(苦笑)。

なかなか事件が起きません。250ページを過ぎたところで最初の事件が起きます。(全体は539ページなので、半ば近くになって起きるということになります)
でも、決して退屈することはないでしょう。
見たところ、事件の構図も単純そうです。
でも、クリスティーの術中にはまって、真相を見抜くことは容易ではないでしょう。

派手なトリックな用意されていませんが、とびきりのサプライズが仕掛けられた名作だと思います。



<蛇足1>
「わたしはミセス・ドイルの、あの派手で安っぽい感じのメイドが『おやすみなさいませ(ボンヌ・ニュイ)、マダム』と言う声で目がさめました。」(318ページ)
おやすみなさいのフランス語が、ボンヌ・ニュイ、となっていて、あれっと思いましたが、ぼくの勘違いで、これが正しいですね。
Bonne nuit は、実際に耳にすると、「ボン・ニュイ」とヌの音が聞こえないように思ったのですが、これはぼくの耳が悪いだけでした(笑)、


<蛇足2>
「なんという毒々しい女だ! ふう! 誰が殺人者か知らないが、殺すならあの女を殺せばよかったのに!」
「まだ諦めるのは早いですよ」とポアロは慰めた。(332~333ページ)
英国情報部員であるレイス大佐とポワロの会話なんですが、いやあ、別の女を殺せばよかったというのもすごいですが、それに対してポワロの回答が「諦めるのは早い」ということは、その可能性が残っているということですよね! すごいなぁ。



原題:Death on the Nile
著者:Agatha Christie
刊行:1937年
訳者:黒原敏行






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犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題 [日本の作家 な行]


犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (光文社文庫)

犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (光文社文庫)

  • 作者: 法月 綸太郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/01/08
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
十年前に解散した女性三人組アイドル・トライスター。彼女たちが所属していた事務所の元社長が他殺死体で見つかった。犯人は元ファンクラブ会長。彼は、自身のブログで元社長殺害をほのめかした直後、服毒自殺していたのだ。だが、トライスターのメンバー内に共犯者がいたことがわかり……(表題作)。名探偵・法月綸太郎が六つの難事件に挑む〈星座シリーズ〉後編。


あとがきで作者自身が〈星座〉シリーズと呼んでいる連作の後半6編を収めた短編集。
前半は「犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題」 (光文社文庫)(感想ページはこちら
法月綸太郎を読むの、「犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題」以来ですね......

収録作は
[天秤座] 宿命の交わる城で
[蠍 座] 三人の女神の問題
[射手座] オーキュロエの死
[山羊座] 錯乱のシランクス 
[水瓶座] ガニュメデスの骸
[魚 座] 引き裂かれた双魚
各編のタイトルが引き続き8文字に統一されていて、いい感じです。

本格ミステリとして非常に良くてできていまして、特に冒頭の「宿命の交わる城で」は、飛ばしています。
早い段階で明かされているので触れますが、交換殺人を扱っています。交換殺人はアイデアは面白くても、交換殺人であることがわかったとたん筋書きがさっと読めてしまうという欠点を内容していますが、それを逆手に取っているのがすごい! これ、長編にすればよかったのに。

ここまでの密度ではなくても、各話それぞれ、たっぷり本格ミステリとしての粋が味わえます。
お薦めです。


<蛇足>
「歩くジャンク債みたいな小物だから、大金をせしめたことはないんじゃないかな」(91ページ)
歩くジャンク債? ちょっと喩えようとしている内容がわかりませんね......



<2023.8.3追記>
「2014本格ミステリ・ベスト10」第5位です。

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探偵レミングの災難 [海外の作家 さ行]


探偵レミングの災難 (創元推理文庫)

探偵レミングの災難 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
レオポルト・ヴァリシュ、あだ名は“レミング”。刑事時代、犯人の逃走車輛の前に思わず飛び出したのを集団自殺するネズミのようだと言われ、以来その名前で呼ばれている。訳あって警察を辞め、現在は興信所の調査員だ。ある日、浮気調査で元教師を尾行中、目を離した一瞬の隙に彼が殺害されてしまい……。後先考えないお人よしの探偵が、事件の真相を求めてウィーンを駆ける!


あらすじを読んで思いました。
「お人よし探偵」
いいではないですか。こういう作品は、ユーモアにあふれていて、たぶん、ぬくもりに包まれたような読後感になれるんじゃないかな。
ドイツ推理作家協会賞受賞作、と帯にも書いてありますし。
ウィーンを舞台にしたというのも物珍しくていいかな、と。

実際に読んでみると、ユーモアというよりは、自虐、苦い笑い、いった感じで、あれれ?
軽やか、という感じではないですね。
笑いはあっても、ずっしり。
最近はやりの北欧ミステリもそうですが、どうも湿っぽい感じがしてなりません。






<蛇足>
「それにしても、ジャンニにグルメな喜びを味わうしたがないのは幸いだった。グルメであれば、自分の注文した料理すら思い出せなくなることだろう。おそらくスープだった。ミネストローネだったのかもしれない。」(220ページ)
この部分、意味が分かりませんでした。
グルメであれば、思い出せない?? どういうこと?


原題:Der Fall Des Lemming
作者:Stefan Slupetzku
刊行:2004年
訳者:北川和代






探偵レミングの災難 (創元推理文庫)


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殺竜事件 a case of dragonslayer [日本の作家 か行]


殺竜事件 a case of dragonslayer (講談社タイガ)

殺竜事件 a case of dragonslayer (講談社タイガ)

  • 作者: 上遠野 浩平
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/04/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
竜──人間の能力を凌駕し、絶大なる魔力を持った無敵の存在。その力を頼りに戦乱の講和を目論む戦地調停士・ED(エド)、風の騎士、そして女軍人。3人が洞窟で見たのは完全な閉鎖状況で刺殺された竜の姿だった。不死身であるはずの竜を誰が? 犯人捜しに名乗りをあげたEDに与えられた時間は1ヵ月。刻限を過ぎれば、生命は瞬く間に消え失せる。死の呪いをかけられた彼は仲間とともに謎解きの旅へ!


カバー袖の作者紹介にもありますが、上遠野浩平といえば、ライトノベルブームの礎を築いた作家ですね。
「ブギーポップは笑わない」 (電撃文庫)で始まった、メディアミックスの快進撃に目を見張った記憶があります。
ジャンル違いだとはわかっていても、気になって手に取りました。
正直乗り切れず、面白さを体得できず、消化不良に終わってしまい、その後手を出さなかったのですが、上遠野浩平はミステリ的手法も駆使される作家、という認識でしたし、さすがにライトノベルというジャンルにもある程度なじんできていますので、この「殺竜事件 a case of dragonslayer」 (講談社タイガ)から始まるシリーズが講談社ノベルスから出た際、とても気になっていました。
2018年4月から、講談社タイガで文庫化が始まったので、あらためて上遠野浩平を読んでみようと、手に取った次第です。

結論から言うと、面白かったですね。
竜が存在するファンタジーな世界を舞台にした冒険譚ですが、無敵な竜をいったいどうやって殺したか? 誰が殺したか? という謎を中心とした物語でもあります。

「事態が異常で不可解としか見えないからこそ、それを解決する道は論理的かつ実際的でなければならない。この世で起きていることなんだ。同じ世界で生きている我々と同じような立場に犯人も立っている。そいつもやっぱり、我々と同じ論理に従って生きているはずなんだ。それを忘れて安易な不条理に逃げては見えるものも見えなくなる」(224ページ)
途中、探偵役?のEDが言うのですが、このセリフ、いいではないですか。

殺された竜のところを訪れた人間を探して話を聞いて回る、という、ファンタジー版「舞踏会の手帖」とでもいった展開となります。
もともと、勇者がいて、怪物(この物語では竜)がいて、各地で冒険を繰り広げる、といったタイプのファンタジーは苦手なのですが、このミステリ的興味で最後まで引っ張ってもらえました。

そして注目の謎解き。
これ、平凡と言えば平凡な謎解きなんですよね。
でも、この特殊世界の設定、人物設定(人物には竜も含みます)にぴったり寄り添った謎解きで、個人的には〇です。

シリーズも続けて読んでいきたいですし、「ブギーポップは笑わない」も実家から発掘して読み返してみようかな、と思います。

<蛇足>
「功名心でも好奇心でも憧憬でもない。」(316ページ)
憧憬に「どうけい」とルビが振られています。
慣用読みとして認められている読み方で、辞書にも載っているようですが、この語は「しょうけい」と読んでほしいな、と思いました。




タグ:上遠野浩平
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謀略軌道 新幹線最終指令 [日本の作家 か行]


謀略軌道 新幹線最終指令 (角川文庫)

謀略軌道 新幹線最終指令 (角川文庫)

  • 作者: 北上 秋彦
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/09/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
盛岡始発「やまびこ」4号に爆弾を仕掛けたという脅迫電話が、JR東日本新幹線運行本部に入った。爆弾は時速100km以下になると作動するという。指令長は時間を稼ぐために、JR東海に協力を求め、鉄道史上例のない計画を提案する。一方、走り続ける同車両が何者かに走行妨害を受ける。車内には重病人の男が現れて――。爆破予告の裏で交錯する複数の思惑に事件は困難を極めていく! 疾走するクライシス・サスペンス!!


この「謀略軌道 新幹線最終指令」 (角川文庫)は2018年の角川文庫の新刊で出た作品です。
単行本は1998年12月に刊行されたようですので、実に20年ぶりの文庫化ですか......
著者の北上秋彦は長編デビュー作である「種の終焉(おわり)」 (祥伝社文庫)とその姉妹作?である「種の復活」 (祥伝社文庫)を読んでいます。
この両作は力任せの謀略小説で、そういうのが好きな身として、楽しく読んだ記憶があります。
「謀略軌道 新幹線最終指令」は著者の長編第4作のようで、著者名が懐かしかったこと、あらすじがおもしろそうだったこと、から購入しました。

いやあ、相変わらず力技、力任せで、荒い作品で、楽しめました。
巻末の参考文献のところで、著者自ら東映映画「新幹線大爆破」、東宝映画「動脈列島」(原作清水一行)を参考にした、と書いていますが、まさにそれらを彷彿させる内容で、こういう作品はこのノリでいいんですよね。

新幹線を舞台にしたテロ、というだけに飽き足らず、その新幹線に生物兵器まで持ち込んでしまうという大胆さ。盛り込みすぎでちょっと消化不良になったところもありますが、いやいや、暴走新幹線ならでは、というか、勢いで乗り切ろうとしている作品です。

あらすじにある「JR東海に協力を求め、鉄道史上例のない計画」というのがポイントとなる作品かと思うのですが、この計画、大方の読者が予想しちゃうんじゃないかと思うんですよね。
解説で交通ジャーナリストの方が
「この小説が書かれてから二十年後の今、同様の事件が発生したら同じように対処できるか考えてみた。結論は、残念ながらできないということになる。」
と書かれているので、非現実的なアイデアなのでしょうが、それこそ技術的な制約がわからない素人的には思いつきやすい。
そして、それは非常に夢のある計画です。
ひょっとしたら、この計画を紙上で実現するために、この作品は書かれたのではないかと、思ってしまいました。
そして、それが(紙上で)実現するのが読めて、とてもよかったと思います。
JR各社の社員の熱い思いも、伝わってきました。こういうのに、最近、弱いんですよね。

非常に荒い作品なので、突っ込みどころ満載ですし、ミステリとしてみた場合には、あまりにも犯人が分かりやすいとか、裏の陰謀があからさますぎるとか、米軍はこんなに甘くないだろうとか、難点が多すぎるのですが、それでも、夢に出会えてよかったな、と思える作品でした。









タグ:北上秋彦
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ニャン氏の事件簿 [日本の作家 ま行]


ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

ニャン氏の事件簿 (創元推理文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/02/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
アルバイトをしながら、自分を見つめ直している佐多くんは、あるお屋敷で、突然やってきた一匹の猫とその秘書だという男に出会う。実業家のA・ニャンと紹介されたその猫が、過去に屋敷で起こった変死事件を解き明かす?! って、ニャーニャー鳴くのを通訳しているようだが本当? 次々と不思議な出来事とニャン氏に出くわす青年の姿を描いた連作ミステリ。文庫オリジナルだニャ。


松尾由美の作品を読むのはずいぶん久しぶりになります。
2015年に読んだ「雨の日のきみに恋をして」 (双葉文庫)(実際に手に取ったのは、改題前の「雨恋」 (新潮文庫)でした。感想ページはこちら)以来ほぼ6年ぶり。
松尾由美といえば、ぶっ飛んだ設定の物語が多い作家さんです。
今回の設定は、猫が探偵。
猫が探偵というと、言わずと知れた赤川次郎の三毛猫ホームズが代表作かと思いますが、海外にも相応に作例はありますし、ミステリではわりとお馴染みの設定ですね。

これがなかなかの大人物、いや大猫物でして、なんと実業家。
フルネームがアロイシャス・ニャン。余暇には「ミーミ・ニャン吉」のペンネームで童話を執筆。
どんな猫だ!?

「ニャン氏登場」
「猫目の猫目院家」
「山荘の魔術師」
「ネコと和解せよ」
「海からの贈り物」
「真鱈の日」
の6編収録。

創元推理文庫は、日本のものでも英文タイトルがついていまして、本書は
The Mysterious Mr Nyan
これ、あからさまに、
The Mysterious Mr Quin(クリスティ「ハーリー・クィンの事件簿」 (創元推理文庫)
ですよね(笑)。
「ハーリー・クィンの事件簿」の第一話は「ミスター・クィン、登場」。確か旧訳では「クィン氏登場」だったはず。「ニャン氏登場」と平仄合ってる。

この短編集には狂言回しとして、佐多くんが各話に登場しますが、とすると、佐多くんは、サタスウェイトから取ったのかな? 佐多俊英(さたとしひで)。音読みするとサタシュンエイで、近いと言えば近いかな(笑)。

「猫目の猫目院家」や「真鱈の日」は明らかにもじりですしね。

といっても各作品はパロディになっているわけではありません。
軽く読めるようになっていますが、要所要所に、ミステリ的に気の利いた部分が忍ばせてあるのも好印象です。

「ニャン氏登場」で花瓶が凶器である理由とか、「猫目の猫目院家」でパソコンが消えた理由とか、「山荘の魔術師」で印象的に交わされる「人形はなぜ殺される」というセリフ!とか、「ネコと和解せよ」で一対の掛け軸の片方だけがなくなった理由とか、「海からの贈り物」の葉書のエピソードとか(しかし、この思いつき、よく作品に仕立てましたね笑)、「真鱈の日」のスーツケースの扱いとか。
こういうのが各話しっかり盛り込まれているので、読みごたえを感じます。

シリーズは、
「ニャン氏の童心」 (創元推理文庫)
「ニャン氏の憂鬱」 (創元推理文庫)
と続いているので、楽しみです。


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