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ドラマ:ふたつの裁き [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の、シーズン2 最後の作品「ふたつの裁き」(Mother Redcap)です。
前回観た「死人が犯した殺人」 (The Problem at Gallows Gate)(感想ページへのリンクはこちら)から2ヶ月ぶりです。

中国人ギャング団に命を狙われている判事。
警察が厳重に警護。
朝6時頃、物音がして寝室に入った警察は判事がなにか鋭いもので刺されて殺されているのを発見。
部屋は密室状態で、一緒に寝ていた夫人しか部屋にはいなかった。

ジョナサン・クリークの評判を聞きつけた警察は協力を要請。
ベッドサイドのデジタル時計をめぐる夫人の証言の謎は、まあ、おまけみたいなものですね。
目を覚ましてみた時計が05:10を指していた。しばらく寝て次に見たら04:06を指していた、というものです。

一方、マデリンはJason Tippet という不動産業者(だと思いました)から、Mother Redcap というパブで 1947年から1951年の間に6人の男が、特別室で死んでいるのが発見された事件(?) を調べてみてくれないかと頼まれる。Mother Redcap はいま廃屋となっていて、Jasonの管理下にある。

事件としては、判事の死と、Mother Redcap で起きた変死事件の2種類ということになります。
1947年から1951年という時代背景だとどうだったのかわかりませんが、判事の方は、現在(このドラマが放送されたのは1998年)の捜査鑑識技術で、この事件の謎が解明されないものなのかどうか、ちょっと疑問に思いました。これ、わかるんじゃないでしょうか?
判事の死は密室ミステリとしては極めて古典的なトリックが使われていまして、ニヤリとしてしまいました。

「ふたつの裁き」という日本語タイトルが何を意図しているのか、いまひとつわかりませんでした。
原題は「Mother Redcap」ですので、過去の事件の舞台となっているパブの名前ですね。
まあ、いろいろな意味合いを考えることができるとは思うのですが。
最後にある登場人物が死んでしまうのですが、なにも死なせてしまうことないのに、とも思いました。

ミステリとしてみた場合、数々の手がかりがちりばめられているのも注目かな、と。
いろんなエピソードのほとんどすべてが真相に結びついているように思えます。
(まあ、Jason がヌーディストというのは、このシリーズにありがちなお笑い要素ですけどね)
なかなかピリッとしあがった作品だな、と思いました。
おもしろかったです。

いつも参照している「The Jonathan Creek homepage」というHPにリンクをはっておきます。
「ふたつの裁き」(Mother Redcap)のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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三毛猫ホームズの裁きの日 [日本の作家 赤川次郎]


三毛猫ホームズの裁きの日 (カッパ・ノベルス)

三毛猫ホームズの裁きの日 (カッパ・ノベルス)

  • 作者: 赤川次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/19
  • メディア: 新書


<カバー裏あらすじ>
凶悪な詐欺事件の裏にひそむ哀しき秘密とは……?
運命を狂わせる難事件に片山&ホームズが挑戦する!
片山たちは目の前で起きた一家心中から浜中美咲という少女を助け出すも、美咲は姿をくらませてしまう。美咲の父は〈B食品〉に勤めていたが、会社の不正を告発した結果、裏切り者として報復を受けていた。その頃、美咲の父を追い込んだ元上司・室田雄作の不倫相手が死体となって発見され、雄作は逃亡を始める。さらに女優の刈谷京香は記憶を失ったという美咲と出会うのだが…。片山とホームズが辿り着く真実とは!?国民的シリーズ第53弾!


三毛猫ホームズシリーズも53冊目ですか...すごいですねぇ。
と前作「三毛猫ホームズの証言台」 (カッパ・ノベルス)(感想ページへのリンクはこちら
「三毛猫ホームズの復活祭」 (カッパノベルス)(感想ページへのリンクはこちら
と同じ書き出しで始めました。
これだけの長大シリーズですから、今後もずっとこの書き出しにしようかな。

今回取り上げられたのは〈偽装事件〉と「内部告発」。
これまた義憤にぴったりのテーマです。

前作「三毛猫ホームズの復活祭」 (カッパノベルス)もそうでしたが、プロットがかなり荒いです。
荒いというか、現実味が薄く感じられてしまいます。

あらすじにもある通り、「美咲の父は〈B食品〉に勤めていたが、会社の不正を告発した結果、裏切り者として報復を受けていた」という内部通報者が社内で虐げられるという事態が扱われています。
実際の世の中で内部告発者が不当な扱いを受ける例は、残念ながらあるのだろうと思います。
しかし、この作品で書かれているような扱いは、あり得ないのでは、と思ってしまいます。

B食品が上場企業なのかどうかは定かではありませんが、大企業のようです。
内部通報者である浜中は干され、子会社のH運送に社長として移されます。
ところがB食品は仕事をH運送に託すのをやめてしまう。浜中は必死に仕事をとってきて持ちこたえてきたが、B食品が仕掛けた罠で、H運送は脱税容疑で取り調べ。帳簿も改ざんされていた。
なんとか浜中は否認を続けたが一か月も留置され、釈放されたときには会社は倒産。
自宅も銀行からの借金の担保になったいたので、自宅も預金も差し押さえられた。(24~25ページ)

冒頭のこの部分だけで首をかしげざるを得ないところ満載です。
大企業が子会社を意図的に倒産させることはないとは言えませんが、内部告発者に復讐するためだけに倒産させるでしょうか? 
また、脱税を仕組むというのは考えられません。子会社の不祥事は、親会社の不祥事でもあるのですから。
B食品の配送を請け負っていたということですから、相当の仕事量が想定され、従業員数も相当数だったはずです(運送業ですから、かなり人手がいる業種です)。浜中に復讐するためだけに、数多くの従業員も巻き添えですか?
さらに、浜中は社長として自宅も銀行借り入れの担保に差し出していた、ということらしいですが、オーナー社長でもない、単なるサラリーマン社長の自宅を担保に取る銀行があるのでしょうか? 
H運送はB食品の仕事しかしていなかった、という設定なので、銀行だって、大企業であるB食品の子会社であるから取引するのであって、単なる被雇用者(社長といえどもこのケースでは被雇用者です)の資産をあてにすることはあり得ないでしょう。
過去の取引経緯もあるでしょうし、H運送から仕事を取り上げてしまったB食品の姿勢そのものを、銀行は問題にしていくはずです。
B食品には、株主責任もあります。
今後のB食品自体の取引関係にも支障が出かねませんので、子会社の倒産は事前に慎重に検討すべきことが多すぎます。
B食品が復讐としてとる選択肢としてあまりにも非現実すぎて白けてしまいます。

殺人事件も発生するのですが、ここも個人的には疑問なんですよね。
経済に端を発する事件で、人、殺しますか?
『××(ここに犯人の名前が入ります。伏字にしておきます)のように「会社の命令なら、人殺しもする」という人間はそう多くないだろう。しかし、××が、日本的な企業風土が生み出したものであるのは確かだ。
 平凡なサラリーマンで一生を終える者が幸せなのかもしれない。誰でも「会社が危くなる」と言われたら、不正に手を染めることはあり得る。
 その不正が、「領収書の偽造」か「殺人」かの違いだけだ。』(267ページ)
いやいや、その違いが大きいのですよ、実際には。
会社のために、人を殺しますか? 殺せますか?
犯人あてゲームのような作風のミステリであれば、ある程度現実味の薄い動機でも気になりませんが、この作風でこれでは困ると思うのです。

これらの部分に目をつぶると(あまりにも大きな部分に目をつぶるので、ほとんど何も見えないに等しいかもしれませんが)いつもながらの赤川次郎節です。
(もっとも指摘した問題点も含めて、最近の赤川次郎らしいといえば赤川次郎らしいのですが)

シリーズ的には、片山刑事の設定が、シリーズから逸脱しているように思えて、疑問を感じました。
女性を見て「可愛い」という感想を抱きます(44ページ)。
たしか、死体恐怖症で、女性恐怖症ではなかったですか、片山は。
女性恐怖症なのに、本人は望んでいないのに、女性に追いかけられてしまう、というのが定番だったと思うのですが。
だから最後に二人の女性に追いかけられるところで、晴美がホームズに
「珍しい光景ね、ホームズ」(269ページ)
と語りかえるシーンも、??? でした。
これこそが、このシリーズの ”常識” ではなかったか、と。(もっとも一人は保険屋さんですけれど)
今後に注目ですね。



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The Gifted Graduation EP10 [The Gifted [タイ・ドラマ]]

タイのドラマ「The Gifted Graduation」の感想の続きです。
今回はEP10です。
例によってストーリーを明かしてしまうので、ご注意ください。



EP9のエンディングで、なんとか教育省主導の記者会見を阻止できたと思ったのもつかの間、元校長による記者会見が行われてしまいました。
元校長は首尾よく(?) 校長に復帰します。
この校長 VS パンが、EP10 の内容です。

このEP10、再び過去に話が戻ったりもするのですが、いやあ、参りました。
ミステリファンなら喜んでいただけると思えるギミックが仕掛けられていたことが判明します。
なるほどー。

たしかに、そう思って振り返ると、現在と過去の落差(=校長の性格の違い ← さすがにこれは伏字にしておきます)が気になっていてしかるべきだったのですけれど、完璧に騙されていました。
(もっとも、揚げ足取りになりますが、ポテンシャルの能力について、「The Gifted」「The Gifted Graduation」通して平仄が取れているのか、さらにそこはOKとしてもそんな都合よく騙すことができるのか、気になるところです)
ああ、こういうことを仕掛けてくれるから、このドラマ好きなんですよ。

この回の注目点をもう一つ上げるとすると、ポム先生(とChanon 先輩)ですね。
ポム先生のキャラクターは「The Gifted」のころからの積み重ねでもあるので、ここに至ってああいう行動をとることに納得感あり、です。

このあと、なんとか難を逃れたパンと、仲間たちの反撃に期待したいところですが、超強大な敵とどう闘うの?
また、次回はどうやら、ようやくGrace のポテンシャルに焦点があたりそうですし、楽しみです。
ちょっと風呂敷の拡げ方に留保をずっとつけてきましたが、最後に急展開を見せるタイ・ドラマのこと、ここからまた大きく話が捻じれていくことを強く期待します!


いままでの感想をまとめておきます。
The Gifted EP1
The Gifted EP2~4
The Gifted EP5~7
The Gifted EP8~13

The Gifted Graduation EP1~3
The Gifted Graduation EP4~6
The Gifted Graduation EP7
The Gifted Graduation EP8
The Gifted Graduation EP9





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月の落とし子 [日本の作家 は行]


月の落とし子

月の落とし子

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本


<カバー袖あらすじ>
 それは人間の進歩を証明する、栄光に満ちたミッションのはずだった――。
 新しい時代の有人月探査「オリオン計画」で、月面のシャクルトン・クレーターに降り立った宇宙飛行士が吐血して急死する。死因は正体不明のウィルスへの感染……!?
 生き残ったクルーは地球への帰還を懸命に試みるが、残酷な運命に翻弄されて日本列島へ墜落する――致死性のウィルスと共に……。
 空前絶後の墜落事故! そして未曾有のバイオハザード! 極限状況の中で、人間は人間自身を救い希望を見出すことができるのか。
 クリスティー賞史上、最大のスケールで描かれる超災害ミステリ。


単行本です。
第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。
折輝真透の「それ以上でも、それ以下でもない」と同時受賞です。

「それ以上でも、それ以下でもない」を面白く読み終えたので、同時受賞のこの「月の落とし子」も期待して読みました。

結論をいうと、とてもおもしろかったです!
いままでのアガサ・クリスティー賞の中で一番おもしろかったのでは、と思います。

ただ、と但し書きをつけておくと、この作品は広義のミステリであって、たとえば本格ミステリに代表されるような狭義のミステリからは外れています。
でも、面白いんですよ。

ジャンル的に言うと、パニック小説でしょうか。
あらすじや帯には「超災害ミステリ」という聞きなれない惹句が使われていますが(笑)。
各選考委員が絶賛の前半、宇宙でのシーンはいうに及ばず、舞台を地球に、もっと詳しくいうと千葉県船橋市に移してからの後半部分も、とても面白かったです。

致死性のウイルスに見舞われる......
なんだか今のCOVID-19(コロナウイルス)の状況をだぶらせながら読んでしまいました。
実は今の状況に鑑みると、「月の落とし子」の対策、対応は甘いな、と思えるところがあるのですが、この作品を書かれたのはCOVID-19(コロナウイルス)が騒ぎになる前ですから、致し方ないですよね。
だいたい伝染病(感染症)で実際に外出規制などが世界中でこんなにも広範囲で行われるなんて、COVID-19(コロナウイルス)前には想像もつかなかったのですから。

宇宙船が船橋駅前のマンションに墜落する、というのが後半の幕開きですが、そのあとも次々と”不幸な出来事”が襲ってきまして、パニック小説の本領発揮、という感じです。
この作品、問題も多々あるのですが、もう、ほんとにドキドキ、ハラハラ読み進めました。

大きな問題だと思われるところを指摘しておきますと......
この作品の場合「科学的な題材を扱い、科学者を主人公にしているにもかかわらず、キャラクターの描き方が感情に寄りすぎているように感じた。」と清水直樹(ミステリマガジン編集長)が選評で書いているように、あまり科学的ではない行動、意見が散見されます(まず月面での行動が科学者としてはあり得ない......。それがなければ、この作品の事件そのものが発生しない)。
ここに引っかかってしまうと、この作品は楽しめないだろうな、と思います。
一方で、そこがかえって素人的にはわかりやすい行動、見解になっていまして、(大災害ではあるものの)娯楽小説として面白く思った次第です。
だからこその、この甘々なラストなんだろう、と。

この作者の穂波了さん、2006年に「削除ボーイズ0326」 (ポプラ文庫)で第1回ポプラ社小説大賞を受賞してデビューした方波見大志さんなんですね。
「削除ボーイズ0326」 、覚えていないのですが、読んでいます。面白く読んだはずだと思います。
ずいぶん作風の振れ幅が広い作者さんですね。
また楽しみな作者が増えました。





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それ以上でも、それ以下でもない [日本の作家 あ行]


それ以上でも、それ以下でもない

それ以上でも、それ以下でもない

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本


<カバー袖あらすじ>
 1944年、ナチス占領下のフランス。中南部の小さな村サン=トルワンで、ステファン神父は住民の告解を聞きながらも、集中できずにいた。昨夜、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男が、何者かによって殺されたのだ。
 祖国解放のために闘うレジスタンスの殺害が露見すれば、住民は疑心暗鬼に陥るだろう。戦時下で困窮する村がさらに混乱することを恐れたステフィン神父は、男の遺体をナチスに襲撃された隣町に隠し、事件の隠蔽をはかる。
 だが後日、ナチス親衛隊のベルトラム中佐がサン=トルワンを訪れる。レジスタンスが匿われていると信じる住民にも、目的が判然としないベルトラム中佐にも、ステファン神父は真実を告げることができない……。孤独に葛藤し、村を守るため祈り続けた神父が辿り着いた慟哭の結末とは。


単行本です。
第9回アガサ・クリスティー賞受賞作。
穂波了の「月の落とし子」と同時受賞です。

第8回の受賞作である「入れ子の水は月に轢かれ」(早川書房)感想に書いたことを繰り返します。
「毎度書いておりますが、アガサ・クリスティー賞は素直におもしろいと思える作品が少なく(少ないどころか、なく、かもしれません...)、おやおやと思っているところ、今回の作品はどうでしょうか?」

結論をいうと、素直におもしろいと思えました!
よかった、よかった。

終戦間近のドイツ支配下のフランスの小村を舞台にして、日本人は(当然ながら)登場しません。
さらに、主人公が神父。
もう、これだけでいかに大胆な設定に挑んでいるかがおわかりいただけれるのではないかと。
非常に重苦しい雰囲気ながら、文章は読みやすく、状況が状況という中での緊迫感、息苦しさに浸りました。

ただ、そのおもしろさがミステリ的なものだったかというと.......と読後思ってしまいました。
しかし、この言い方は公平さを欠いています。
振り返ってみると、この感想は間違っていた、と思います。
この作品はミステリとしても立派な作品だと、そう思っています。その理由を以下に書きます。

事件は、あらすじにも書いてある通り、基本的に、墓守の家で匿っていたレジスタンスの男を殺したのはだれか、という謎です。
戦争の行方によって、村がどうなってしまうのか、という不安が底流として流れていて、なかなか事件に集中できないということもありますが、疑心暗鬼の村の中、事件はなかなか解明の兆しすら見せません。

幾分ネタバレのきらいはありますが、事件の真相は「読み終えてみるとすごくシンプルな話であることがわかる」と選評で北上次郎が評している通りで、すっきりした真相です。
つまり、シンプルな話を、緊迫感ある設定の中で転がしてみせた、ということですね。
時代背景、設定自体が、事件を覆いつくすように仕組まれているのです。

だから、ミステリ的なおもしろさではなかったような気がしてしまったのです。
ミスディレクションとして非常に効果的だったのではないでしょうか。
非常に興味深い狙いを持ったミステリだと感じました。
こういう行き方はミステリとして、最近では珍しい気がします。
似たような例はあるはずだと思うのですが、思い浮かびません。

不満を書いておくと、この内容だと、もっともっと書き込んでおかないといけない気がしました。
特に登場人物たちの書き込みが必要だと思います。
アガサ・クリスティー賞への応募なので枚数に制約があるため、ないものねだり、なのですが。

ミステリとして薄味だと思う方もいらっしゃるとは思いますが、いえいえそんなことはありません。
不満として書いたように書き込みが必要だとは思いますが、非常にレアな狙いを秘めたミステリだ、ととても感心しました。
この後の作者の活躍が楽しみです。




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時空旅行者の砂時計 [日本の作家 は行]


時空旅行者の砂時計

時空旅行者の砂時計

  • 作者: 方丈 貴恵
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: 単行本


<カバー袖あらすじ>
瀕死の妻のために謎の声に従い、二〇一八年から一九六〇年にタイムトラベルした主人公・加茂。妻の先祖・竜泉家の人々が殺害され、後に起こった土砂崩れで一族のほとんどが亡くなった「死野の惨劇」の真相の解明が、彼女の命を救うことに繋がるという。タイムリミットは、土砂崩れがすべてを呑み込むまでの四日間。閉ざされた館の中で起こる不可能犯罪の真犯人を暴き、加茂は二〇一八年に戻ることができるのか!?
“令和のアルフレッド・ベスター”による、SF設定を本格ミステリに盛り込んだ、第二十九回鮎川哲也賞受賞作。


単行本です。
今回の鮎川哲也賞受賞作は、タイムトラベルを組み入れた本格ミステリです。
そう、あくまで本格ミステリ。SFを期待してはいけません、と言ってしまってよいのではないでしょうか。
「竜泉家の呪い」などという、カーか横溝正史か、というフレーズが盛り込まれています。
タイムトラベルには制約が多く、作中でも折に触れ説明されていますが、その前提で読者への挑戦が241ページに掲げられています。

①殺人者はだれか?
②その人物はどのように一連の不可能犯罪を生み出したのか?

この2つが挑戦の中身です。

不可能犯罪のトリックの方は、単純、と言っては叱られると思いますが、ミステリを読み慣れた方なら見当がついてしまうのではないかと思いました。
というのも、同じ原理を使った作品は多いとは言わないまでも、それなりの数の先例があるからです。
ではつまらないのかというと全くそんなことはなく、この作品ならではのアレンジが加えられていて、とてもおもしろい。
特に真相解明のため、トリック解明のための手がかりは、おもしろい使われ方だなぁと思いました。
「こういう頭の働きは、まさに本格の魅力に繋がる」と選評で北村薫が評していますが、その通りかと。

冒頭に家系図が掲げられていますが、それくらい登場人物は物故者も含めて多いため、最初とっつきにくいのですが、主要人物は絞られているので謎ときには支障ないと思います(とはいえ読んでいる途中何度も家系図を確認しましたが)。むしろ、読者への挑戦に応えようと考えると、登場人物が少なくて、犯人の見当がつきやすくなってしまっているかもしれません。
ミステリ的には、真犯人像がちょっと手垢のついた感じがして残念ではあったのですが(こういうのが受ける時代なのでしょうか?)、いろいろと細かいところにもおやっと思えるところ(いい意味です)があって、楽しい読書でした。

後味よくエンディングを迎えるのも(というと、ある意味ネタバレではあるのですが)高ポイントかと思います。(タイムトラベルもので気をつけないといけないタイムパラドックスについてはあまり深く考えずに読みました。)

この作品いかにも続編が構想されているかのようなラストシーンになっていまして、とても楽しみです。
なにしろ加納朋子の評する通り「何が飛び出すかわからないびっくり箱的な魅力がこの方にはある」のですから。

ちなみにこの作品、「2020 本格ミステリ・ベスト10」第7位です。

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The Gifted Graduation EP9 [The Gifted [タイ・ドラマ]]

タイのドラマ「The Gifted Graduation」の感想の続きです。
今回はEP9です。
例によってストーリーを明かしてしまうので、ご注意ください。



EP8のエンディングで、潜在能力を持つ生徒たちがいて特殊な教育を行っているという、The Gifted の存在が映像含めてテレビで広まったことを受けての対応がEP9の内容です。
話が拡散してしまって、どうも懸念が的中してきている気がしてなりません。
ポム先生や Chanon 先輩が引き続き出てくるのですが、どうも扱いが雑な感じです。

さておき、ストーリーは......
教育省、教育大臣は記者会見(Press Conference)を開いて The Gifted の存在を公式にオープンにしようとします。
世間の好奇の目、反発を懸念したパンたち M6 The Gifted のメンバーは会見を阻止しようとします。
M6 The Gifted の亀裂も広がっていて、特にプンとの対立が大きなテーマとなります。プンは、教育省サイドです。

次世代(M4、M5)の The Gifted の主要メンバーも活躍します。まだ Grace の能力は未開花です。
どこで才能を爆発させてくれるのでしょうね?
もうEP9 まで来てしまっているので、物語全体のクライマックスで発揮されるのでしょうか?

結果的に、教育省の記者会見は阻止でき、M6 The Gifted の仲間たちの亀裂も解消しそうな塩梅です。
プンとの関係も、相応に収まるところに収まりそうな予感。
ただ、今後(ドラマとして)どうするのかわかりませんが、パンの行動様式が原因で亀裂が生まれたのに、なんとなく自分たちの狙い通りになったので、根本原因への対応はうやむやなまま仲を取り戻す、みたいな感じになっていまして、非常におさまりが悪い。
こんなので、いいのかな? パン、ちゃんと考えなおせよ。

そしてEP9 のラストは、阻止したはずの記者会見が行われるシーンです。
ただし、その記者会見は教育省主導によるものではなく、元校長による記者会見だった......
びっくりするパンたち。
なんですけど、記者会見という手段かどうかはわからないものの、元校長が M6 The Gifted と同じことを考えているとはもともと信じられず、騙されちゃうパンたちはナイーブだなぁ、と思うことしきり。

不安を抱えたまま、EP10 を待ちます。


いままでの感想をまとめておきます。
The Gifted EP1
The Gifted EP2~4
The Gifted EP5~7
The Gifted EP8~13

The Gifted Graduation EP1~3
The Gifted Graduation EP4~6
The Gifted Graduation EP7
The Gifted Graduation EP8





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死への疾走 [海外の作家 パトリック・クェンティン]


死への疾走 (論創海外ミステリ)

死への疾走 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/10/12
  • メディア: 単行本



単行本です。
「迷走パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「俳優パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「人形パズル」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「悪女パズル」 (扶桑社ミステリー)(ブログへのリンクはこちら
「悪魔パズル」(論創海外ミステリ)(ブログへのリンクはこちら
「巡礼者パズル」 (論創海外ミステリ)(ブログへのリンクはこちら
に続くピーター・ダルースもの第6作で、ついに「パズル」とつかなくなりました。

「巡礼者パズル」で、なんとかアイリスとよりを戻せそうなピーターなのに、この「死への疾走」 (論創海外ミステリ)ではふらふらしています。
こらっ、ピーター、しっかりせんかいっ。そんなことでは、アイリスからまた愛想を尽かされるぞ!

今回の舞台は
第一部 ユカタン
第二部 メキシコシティ
第三部 ニューオリンズ
となっています。

ピーターが振り回される感じがよく出ていまして、おいおい、と思いつつも、ニタニタしてしまいました。
舞台を転々としつつ、にぎやかに物語が進んでいきますし、人物の出し入れも派手です。
メキシコのように喧騒に満ちたストーリーに乗せられて、あれよあれよという間に結末のニューオリンズへ。
主人公であるピーターが混乱したまま物語がどんどん進んでいくのも、読者を乗せるのに役立っていますね。

クレイグ・ライスの「大はずれ殺人事件」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)が重要な小道具として使われているのも楽しいですね。(単なる小道具でしかないですけど)
「目の前の砂糖入れに立てかけてあるのは、橙色の表紙が目を惹くメキシコ版ポケットミステリだ。メキシコではミステリを読むのがおしゃれなのだ。」(145ページ)
なんて記載もあります。
もっとも、解説にも書かれているように、「大はずれ殺人事件」を使う理由はわかりませんね。
当時、よく売れていて、メキシコでも売っている(あるいは売っていそうな)作品だった、ということなのでしょうね。

「巡礼者パズル」に続き、本書も飯城勇三の解説が素晴らしく、お勧めです。


<蛇足1>
「へっぴり腰で階段をのぼってきた黄色い犬は少し離れた場所で立ちどまると」(45ページ)
へっぴり腰の犬って、どんな感じなのでしょうか?
わからないなりにイメージして笑ってしまいました。

<蛇足2>
「だれもが遅かれ早かれべつの顔を見せるこの状況を鑑みれば」(243ページ)
鑑みれば、ねぇ...... 
気にしているのはぼくだけなのかもしれませんね。



原題:Run to Death
作者:Patrick Quentin
刊行:1948年
訳者:水野恵









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